2024/06/13 - 19:39~00:05 のログ
ご案内:「学生通り」にテンタクロウさんが現れました。
ご案内:「学生通り」に橘壱さんが現れました。
テンタクロウ >  
雨がくる。虹はまだ立たない。

夕暮れ時。
雨が降りしきる中、一人の女生徒が歩いている。
その前に、音もなく異形が立ちはだかる。

屋根から屋根へ伝う彼独自の移動手段を使って。
土砂降りの雨に濡れながら、平然と。

「ハァァ……御嬢様(フロイライン)、少し時間をいただけますか」

悲鳴が学生通りに響く。
以前は夜、そして今回は……夕方だ。

堂々とした様子で喋る怪人。
逃げ出す彼女の傘が水たまりに落ちた。

橘壱 >  
悲鳴も恐怖も、降りしきる雨に消えていく。
不運にも人気の少ないその瞬間、怪物の女子生徒を遮るものは何も無い。
彼女にとってはとびっきりの不運(アンラッキー)なのだろう。
だが、ある者にとってはとびっきりの幸運(ラッキー)だった。

怪人と女子生徒の間、空を切って飛んでくる小型円盤。
間に入った途端更に大型に展開し、二人の間を遮る光の盾として展開される。
携帯用のエネルギーシールド。科学の結晶。怪物の一撃位は防ぐ程度の耐久力はある。
降りしきる雨のせいで周囲の液体が蒸発するのか、白煙が二人の間に立ち込めた。

「────最近の学生通り(ストリート)っていうのは、そういう出し物が流行ってるのか。」

女子生徒の背後。雨の中傘を差す男子生徒。白衣の袖には、風紀の腕章を付けた少年だ。
嬉々とした笑みを浮かべたまま、片手に下げたトランクを自身の目の前へと放り投げた。
重々しい音を立て、周囲に雨水を撒き散らす。

「アンタに会いたかったよ、触手怪人(テンタクロウ)
 ……おい、何ぼーっとしてるんだ。僕の邪魔になるからとっとと逃げろ。」

女子生徒を露骨に邪険に扱いつつ逃げるように促した。
風紀としての仕事ではない。今少年は、自ら楽しむために此の場にいる。

テンタクロウ >  
邪悪なる振る舞いに割り込む者。
それは正義か、あるいは。

「ハァァ……風紀委員か…今ならまだ見逃してやるが…」
「逃げるのが遅れれば……道化の出し物(カルナバル)の生贄はお前になる…」

触腕を蠢かせる。
接続は良好。神経が通っているかのような錯覚すら覚える。

手足よりずっと自由に動かせる

「それを功名心で言っているのであれば……」
「先の風紀委員の少年と同じ末路を迎えるだろう……」

逃げていく女生徒に肩を竦めて。

「傘の忘れ物だよ」

と遠くなる影に声をかけた。

橘壱 >  
「見逃す?面白いな。あれだけ被害者(ガイシャ)を痛めつけておいた、えり好みするのか。
 冷徹冷酷な怪物(ジャバウォック)って言うのは、もっと無差別に人を襲うものだと思っていたんだが……優しいんだな?」

傘の向こうで笑う少年の言葉はどれも挑発的。
ゲーム出身、煽りは大戦の十八番だ。随分と芝居がかった口調に方を竦ませて一歩前に出る。

「……成る程な。資料で見た通りだな、思ったよりも。
 僕が生贄になるかはさておき、"負け犬"に興味はない。」

戦えば何方かが勝者で敗者となるのは必然。
弔い合戦でも、功名心でもない。これはもっと、純粋な動機だ。
かけていた眼鏡を外せば、地に落としたトランクに足をかける。

「────僕は、お前と戦いに来た。」

真っ直ぐな視線が怪人を見据え、足に力を入れてトランクを踏み潰す。
機械が煎餅のようにひしゃげたと思えばそれが少年の全身と融和するように包みこんでいく。
鋼鉄が少年の姿を包み込み、そこに残るのは蒼白の鉄人。
青白いモノアイが光り、鉄仮面の奥で少年が怪人を睨みつけた。

「安心しろ、忘れ物は風紀として届けてやる。
 お前と一緒にな。テンタクロウ。」

「────お前を拘束する。」

全身の装甲から吹き出る白煙が女子生徒の傘を淀んだ雨空へと舞い上げた。
どんな轟音も雨がかき消してくれる。怪人と鉄人が今、相対する。


Main system activating combat mode.(メインシステム、戦闘モード起動します。)


AIの音声が開戦の合図だ。
手に持っていた傘がひしゃげるように変形すれば、先が"銃口"となり青白い光が雨を裂く。
携行性の傘型のEMP(でんじ)ライフル。人体に対しては無害であり、機械の動きを麻痺させる拘束兵器だ。
通常兵器の動きを麻痺させる事ができるが、見る限りあれは独自開発(オーダーメイド)。効果は未知数。
此処は天下の往来、学生通り。"使用する兵装にはいつも以上に制限がある"。
それでも怪人相手に最適な武装を選んできた。コイツは挨拶代わりだ。
雨を蒸発させて走りコレを、どうする────。

テンタクロウ >  
「そういうお前は随分と被害者の少女に手厳しい……」
「もっと手厚く保護してやらなくていいのか?」

「ああ……お前たち風紀は平和を守る存在でありながら」
「守るべき民に背中を刺されているからな」

「視線に、噂に、何があったのかという不安の声に……な」

オーバーなアクションで両手を広げて嗤う。

「これは驚いた、同僚にまで冷たいじゃあないか」
「そう言ってやるな、隣のベッドに寝ることになるかも知れないんだからなぁ?」

既にターゲットは眼の前の少年に切り替わっている、と端的に告げて。
雨が降る。雨が降る。雨が───

少年は蒼白の鋼に身を包む。
それを黙ってみていた。
なるほど、風紀のとっておきか。

例の企業も味な真似をするものだ。

「やれるものならやってみろと言う場面だろう」
「このテンタクロウに対して、な……ハァァ」

傘から撃たれた青白い光を無造作に細い触腕で防ぐ。
すぐにその腕はオフラインになった。
だらりと弛緩した、死体のように垂れ下がるマシンアーム。

「なるほど……」

四本の触腕が一斉に蒼白の鋼人に襲いかかる。

「面白い趣向だ」

それぞれのマシンアームが時間差で強打するクアドラプルアタックだ。
真っ直ぐに伸びる線の攻撃。これでどう出る、風紀委員。

橘壱 >  
EMPライフル(コイツ)の効果はありだ。着弾したマシンアームが停止した。
だが、相手は文字通りの触手怪人。一本二本停止した所で────。

『来たな……。』

他のアームが幾らでもある。
モニターに<Alert(危険信号)>が四方から表示されるも、慌てる事はない。
思考による瞬間的な操作。背面と脚部のバーニアが青白い炎を拭き上げる。
高熱が雨を蒸発させ、白煙を軌道に迫りくる触手へと回避運動。
装甲の隙間のサブバーニアが休息な加速で体を締め付けるも、そんな痛みすら感じさせない程の高揚感(アドレナリン)
僅かにアームが胸部を掠めるとジジッ、と表面に電流が走る。
鋼鉄の装甲の上には更に薄い電磁バリアが装甲をより強靭にしている。
そう、怪人と同じような技術力の防御兵装を搭載しているのだ

『生憎、僕はAF(コイツ)さえ動かせればどうでもいい。
 被害者は戦いの邪魔だ。さっさと逃げればいいのさ。』

スピーカー越しに放つ言葉は、とてもじゃないが風紀委員とは思えない台詞だ。
被害者の保護は最低限。偶然の出会いであったとは言え"単独行動"。
彼の風紀委員へのスタンスがありありと出ている。
バーニアを全開にし、降りしきる雨粒を蒼白の装甲が弾き飛ばして急接近。
過程で連射されるEMPライフルは牽制だ。当たらなくてもどうでもいい。

『怪人のクセに、風紀委員に随分と詳しそうじゃないか。』

『そんなに喋る余裕があるのかよ────!』

目前、右腕の上部から飛び出したのは警棒型の電磁特殊警棒(スタンロッド)
本来は暴徒鎮圧、対象を気絶させる兵装だが出力を上げ、マシンの機能にダメージを与えるようにしてある。
雨中で展開されたせいかバチバチと雨水を弾け飛ばし、周囲の空気をプラズマ化させ青く染める。
素早く電磁特殊警棒(スタンロッド)を振り抜き、怪物の胸部めがけて突き上げる────!

テンタクロウ >  
「!!」

攻撃を磁界で弾くのか!
私と同じ機構、だが!!

「敵として嘆かわしい、と言いたいところだが」
「ハァァ……私はお前のことが少し好きになってきたよ」

エゴイスティックな感情のままに戦い、闘争を楽しむ心。
面白い男だ。何故か、初めての事件で出会った灰の男を思い出した。

連射されるEMPライフルを塀から屋根へと逃げる大仰な位置取りで回避する。
至近弾すら受けてはならない、アレは腕を戦闘不能にして余りある威力がある。

それを追ってくる、敵の機動力ッ!!

「やれやれ、気骨(きぼね)が折れる相手だ」

スタンロッドを受ける直前にパルスでフィールドを生成し、攻撃を弾く。
至近距離、触腕を五本、相手に向けて全方位から絡みつきにいく。

当然ながら生身の人間の四肢をねじ切る程度は容易な力がある。
如何に鋼の人であろうとも絡みつかれてダメージは避けられまい。

橘壱 >  
『!』

電磁特殊警棒(スタンロッド)はパルスフィールドで弾かれた。
資料で見た通りの防御力だ。恐らくだが、鎮圧用兵器(スタンアーム)だけでは貫けない。
弾かれた衝撃で僅かに後退した隙に、触碗が5本────!

『チッ……!』

その反射神経はゲームの世界で生きてきた。フレーム単位での反応速度を求められる世界だ。
迫りくる一本を電磁特殊警棒(スタンロッド)弾き、二本…反応しきれない。
鋼鉄の手足を触腕が拘束し、圧倒的な圧力がかかってくる。思わず、EMPライフルを手放してしまった。
装甲表面に巡っているパルスシールドが接触により激しくスパークし、装甲が軋む。
生身と違って即ねじ切れる事はないが、確実に体を、装甲をきしませて、ひしゃげさせてくる。
間もなくすればねじ切れるだろうが…この拘束までは、此方のシナリオ通りだ

『────僕も、お前のことが気になっていた。だから、"確かめてやる"。』

『"ちょっと痛いぞ"、お互いな。』

資料を見た時からずっと、その動きが気になっていた。
それを確かめるための行いだ。この姿は普通の人間とは違う。
四肢を拘束されていようと、"問題なく動ける"。
背中のバックパックから上空に射出される傘状の兵器。
勢いが収まるどころか徐々に豪雨と成っていくそれは複数展開され、互いの雨を遮った瞬間だ。

怪人と鋼人。二人の体が瞬く間に稲光に包まれる。
落雷ではない。射出した傘状の兵器が連動して周囲に特殊な電流を放ったのだ。
対軍用電磁捕縛網。機械の機能を協力な電流で一時的にショートさせる兵器だ。
強烈すぎる電気が装甲越しに一瞬全身を貫通したが、声を上げる事なく歯を食いしばって少年は耐えた。
自由に動き回る怪人に適当に使った所で効果はない。
だが、コイツは相手を殺すのではなく"骨を折る事に執着"している。

生身とは違い、そこにタイムラグが生まれるこの瞬間。
この瞬間を狙っていた。互いのマシンが機能停止(オフライン)になったとき、触手から解放される瞬間重すぎる腕を持ち上げて怪人をどついて距離を取った。
機械補助のないAF(パワードスーツ)はただの重しだ。
何百キロの塊を来ても耐えれるように体を鍛えた成果が出ている。
モニターも真っ暗で何も見えないが、その僅かな手応えで理解した。"予想通り"だ。

橘壱 >  
 
         『──────……なんだ、やっぱり動けないのか
 
 

橘壱 >  
資料を見た時からおかしいと思っていた。
自在に操られる触手に本体の万全な防御態勢。
だが、"本体が一切と動かない疑問"。医学も専攻している少年は、一つの可能性にたどり着いた。
動かないのではなく、動かせないのではないか、と。
恐らく、そこに怪人が生まれた根底があるのだろうが、少年の目論見は違う。

『自分が楽しむための手加減(なめプ)だと思っていたんだけどな。違うのか。
 随分と高い"車椅子"を買ったんだな。ああ、わかる。せっかく乗りたいならカッコいい方が良い。』

『だが、乗り手のセンスはないらしい。動かせない体で、機能を余らすなんてナンセンスだな。体が悪いんじゃしょうがないか。』

『病院位までは送ってやるぞ、その体じゃ向かえないだろ?半端ヤロー。』

サディスティックな余裕持ちのこの怪人の余裕を剥がし、"本気を見るためだ"。
煽りはゲームの十八番。実際に思っているかはともかく、此方の予想通りであれば恐らく…。
互いのマシンが機能回復(オンライン)となり、少年もモニター越しに相手を"見下ろす"。
豪雨の中、打ち弾ける雨の中、再びモノアイが青白く光り輝いた。

哀れなマシン頼りの、ひ弱な"障害者"を────。

テンタクロウ >  
降雨。瞬間。交錯。防御。電流。激痛。

そして、怪人はその場に蹲る。
重い。この装備は。
マシンアームや強化バイオニクス抜きでは。

動かせない。

 
そして雨粒と共に背に浴びせられる言葉は。
魔人を激昂させるに十分なものだった。

「お前は」

機能復元、再起動する駆動系。
マシンアームを頼りに体を起こす。

「殺すぞ……」

テンタクロウ。
触手であるテンタクルとクロウ、そう鴉の名前を持つ存在。

鴉は一度憎悪を抱くと、その対象が際限なく拡大していく。
一度憎悪を抱いた鴉は全ての人間を憎むようになるまで然程、時間はかからない。

ここに宿った。
真なる憎悪は。
ここに。

イオン臭が周囲に立ち込める。
雨の流れが彼を避けるように歪曲していく。
その体がふわりと浮き上がる。
超然と。そうであることが摂理であるかのように。

既に彼の体はマシンアームによって支えられてはいない。

橘壱 >  
マシン越しにもわかるほどにどす黒い憎悪(プレッシャー)
実践経験こそ少なけれど、戦場特有の押し殺されるほど弱いものではない。
寧ろ、そうこなくちゃと少年の口元は既に笑みを浮かべていた。

『今更になって"殺す"かよ。
 今まで甚振る程度が限界の殻被り(ハンプティ・ダンプティ)だったのにな。』

口数は減らない。
その威圧感とともに周囲に雨を湾曲、蒸発させるほどの高エネルギー反応。
どうやら、あのマシンの本来の機能が見れるらしい。
そうこなくちゃな。少年の意思に感応するように、全身のバーニアに火が灯る。
湾曲するイオンを包むかのように、蒸発した雨の白煙が互いを包みこんだ。

橘 壱(たちばな いち)。やってみろよ、この名前をお前が消せるならな……!』

敢えて名乗ることにより、よりその憎悪を先鋭化させるつもりだ。
既にマシンアームに支えられていない体は、恐らく"もっと自由に動く"。
何方がより自由か、勝負と行こう。腰部ハンガーに備え付けていた角張った大型ライフルを握り込んだ。
そのまま上空からバックパックから二対の光が放たれる。
電磁エネルギーの集合体、便宜上パルスミサイルと呼ぶべき二対の光だ。
鎮圧用に出力を抑えてあるため、広範囲のマシンの機械を停止させる程度の出力にとどまっている。
こんなものは小手調べだ。見せてみろ、お前(テンタクロウ)の力を────!

テンタクロウ >  
後方に弾かれるように離れた。
パルスミサイルの範囲から遥か後方、上空に。

「橘ァァァァァァ!!」

メインのマシンアームから伝播ソリトン弾を連続砲撃した。
今までの人を戦闘不能にする程度の生温い威力ではない。

テンタクロウが(よろ)うアーマー、その開発中の仮想敵は戦闘機。
ドッグファイトでそれらに勝てるようにシミュレーションを重ねてきた。

より精緻に、より拷問向けに動くようになり。
忘れていた。

限界の機動というものを。

橘壱 >  
やぶ蛇、虎の尾。それくらい踏まなければやっていけない。
それていくパルスミサイルは建物にぶつかり灯りが飛散。
建物破損へは繋がらない。飽くまで制圧用の兵器だ。

『大声を出すなよ……!』

マシンアームから放たれる光弾(ソリトンアーム)
此方の制圧用の電磁兵器とは一線を画すには充分な威力を持った兵装だ。
橘壱、ひいてはこのAFの武装は目的、用途、作戦地域により決められた武装以外使えない。
内部兵装以外、外付けの武器は全て鎮圧用だ。"もう役には立たない"。
咄嗟にバックアップを、腕部に付けられた電磁特殊警棒(スタンロッド)をパージ。
空中で後退して全て光弾(ソリトン)への盾にする。
伝搬するエネルギーにより爆発し、空中でプラズマと破片が雨水に迸る。
一瞬互いを遮る爆炎による目眩まし。だが此方は、レーダーで位置はわかっている。

『思ったより煽り耐性が無いな。せっかくの兵器(オモチャ)が泣いてるぞ。喜べよ!!』

力を手にしたこと、新たな兵器(あし)を手に入れた事を。
全バーニアを一瞬だけ爆発させるオーバーブースト。
全身の圧力を掛けながら一気に急接近。恐らく有効打になるであろう武装。
左腕の手の甲から飛び出す青白いレーザーブレードを展開し、その胸部めがけて突き立てる────!

テンタクロウ >  
藤井輝の異能は。
身体加速α型類似異能。
アクセラレイターである。

風紀委員にも同種の異能が複数いるそれは。

意識の加速を伴う────

異能発動。レーザーブレードを紙一重で回避。
相手にはただの超反応と映るだろう。

そして殺意は限界を超える。
自身の異能への嫌悪が、こういう形で使う羽目になったことで。
感情を押さえることさえ。

四本あるメインアームの下部二本に仕込まれているのは
伝播ソリトン砲ではない。

全てを溶断破砕する業炎の噴出。
炎の刃、二刀流。それが鋼の闘士に向けられた。

橘壱 >  
ブレードは紙一重で回避された。
超反応。やはり資料で見ていた通り戦い馴れている。
いや、違う。ただ反応がいいだけか?此れは────。

『……!』

幾度も目まぐるしい勢いで状況と思考は変わる。
レーザーブレードの反撃と言わんばかりに伸び切る高熱。
雨どころか空気すら歪ませるような豪炎の刃。
一本目の回避には成功するが二本目は避けきれない。
バックブーストによる回避運動直前により直撃。
電磁フィールドを貫通し、腹部の装甲を大きく焼き切った────!

『ぐっ……!』

届いた
致命傷ではないが、腹まで貫通した。
文字通り傷口が焼けるように熱い。痛みが思考を妨げる。
その一瞬のダメージで姿勢を崩し、屋根の上から落下し大通りへと着地する。
アスファルトの破片を巻き上げ、地面が赤熱化するほどに滑り落ち、膝をついた。

『はっ……!なんだよ、ちゃんと使えるモノがあるじゃないか……!』

兵器としての本分。破壊のための力。
ただのサディスティックな本性を舐めるだけのものとは違う。
この程度のダメージでは当然止まらない。減らず口も減らない。
モニターに映るダメージ状況、エネルギー残量。内蔵武装の状況を確認しながら怪人を見上げる。
安定しない装着者のバイタルサイン<Alert>に思わず舌打ちだ。

『(さっきのは奴の反応速度、凄かったな……機械による超反応……違うな。あれはマシンじゃない、装着者の方だ。マシンに変化はなかった。)』

『(レーザーブレード以外……腕部砲じゃフィールドを貫けない。大型パルスライフルはアームの停止には使えるがそれっきり。それ以外だと……確実にダメージを入れられるのは……"アレ"か。)』

巡らせろ、思考を。初めから負けることなど考えていない。
全ては"勝つ"ためだ。何処まで餓えている故に、撤退の選択肢も無い。

テンタクロウ >  
過熱。しかし一切構造が歪むこともなく。
下部メインアームは雨粒を蒸発させながらそこにある。

「ここで近づいたらまたお前の得体のしれない兵装にしてやられるかも知れないなぁ、橘ァ…」
「私はいいんだぞ、ここから両隣の建造物ごとお前を圧し殺してやっても」

「ハァァ……違うな…これからは人を殺してもいい」
橘壱(オマエ)の名前を出してからな」

「地獄にいくお前へのプレゼントだ、毎日仲間を送ってやる」

上空から火炎放射を広範囲モードにして放った。
アスファルトが融解するほどの熱が少年を、鋼人を襲う!!

「逃げろ、這いつくばれ、私に赦しを請え!!」
「命乞いをするんだよォォォォ!!!」

橘壱 >  
エネルギー残量、残り45%。腹部破損。バーニア機器、電子機器オールグリン。
装着者のバイタル不安定。撤退提案。目線に流れるノイズは全て無視だ。

『……随分と警戒心が高いな。そんなに怖がる(ビビる)なよ。
 まぁ、そんなマシンも十全に使えないような体じゃ仕方ないか。』

キレてはいるが頭は回るらしい。
このブレードの出力なら間違いないし、何より"アレ"は近距離じゃなければ意味がない。
勝負は近接戦だが、アームはともかくあの反応速度をなんとかしなければいけない。


────ああ、楽しいな。


追い詰められる感覚。身を削り対峙するこの高揚感。
求めていたものだ。AF(ツバサ)を自在に動かせる、此の瞬間を。

『……それだけの腕に兵装を以て煩いな。そんなにあっても不安なのか?

手足の代わりにしては充分すぎる。
視界を曇らせる豪炎と蒸発する白煙。力任せに嬲り殺す気か。

────丁度いい。試すか。

どれだけ高揚感に包まれようと、アドレナリンを沸騰させても、飽くまで少年は勝利に貪欲だ。
背部に搭載された医療用のサブアームを展開すると全面にパルスシールドを集中させる。
豪炎の衝撃を真正面から受け止め、シールド越しにも感じる熱波がジリジリと機体の表面温度を上げていく。
焼けていく、溶けていく鉄の匂い。だが、真正面から受けたことにより反り立つ炎の壁と成って互いの視界を遮る
レーダーで位置は見えている。まずは超反応(カラクリ)を解く。

炎の壁越しに腕に持った大型パルスライフルを構え、発射。
レーザーではなく、炸裂式の光弾が放たれる。アームを停止させる為のパルス弾だ。
だが、此れは"囮"。それらに思考を、視線を誘導させるもの。
炎の壁とパルスライフルの弾。それらに紛れて、腕部に装着したレーザーブレードを"射出した"。

正確にはブレードの発生装置だ。炎の壁を貫通し、街頭にぶつかり"跳弾"。
怪人の背後、死角から一直線に跳ね上がるように射出した計算だ。
レーザーブレードが発振し、気づくのが遅れれば背中から串刺しだが、果たして────。

テンタクロウ >  
「死ぬ間際の虫にしては甲高い声で喚くじゃないか橘ァ!!」
「お前は幸運だ、拷問される前に死ねるんだからな!!」

大型パルスライフルの光弾を、伝播ソリトン弾で反応射撃。
空中で衝突し、衝撃で球形に“雨”がえぐり取られた。

その時、アラートが鳴った。
しかし、速い。間に合わない、異能がなければ。

「!!」

再びアクセラレイターで加速すると、
紙一重で射出されたレーザーブレードを回避した。

「ハァァ……惜しかったな…」
「だが私を怒らせただけだ……!!」

上部メインアームの伝播ソリトン砲を構える。
装備は破損、橘壱は負傷、そして機動力で勝っている!!

「死ッ!!」

私の勝ちだ────!!

「ねえええええええぇぇぇ!!」

伝播ソリトン弾をフルチャージで撃った。
鋼人を致死の光弾が襲う!!

橘壱 >  
放つ光弾は相殺され、死角から放った不意打ちは回避した。
此方の予測通りの動きをしてくれて、助かった

『────やっぱり、避けたな。』

勝利を確信し、ソリトン弾をチャージと同時に全バーニアを駆動させる
超反応ではない。全て予測、憶測。お前なら此れくらいやってくれるという判断の元動いた動作だ
どれだけ反応速度が早くても、エネルギーチャージ中は動けない。但し、発射は止められない。

『受けてやるさ────!』

全面にパルスシールドを集中。フルチャージのソリトン弾が爆発し、轟音と爆炎が学生通りを支配する。
爆風に周辺の窓ガラスは悲鳴を上げて砕けていき、アスファルトの破片が雨風に攫われる。
"ほぼ同時に、蒼白い閃光が爆炎を突き抜けた"。

サブアームは崩壊し、衝撃により肩部、胸部装甲は剥げてスパークしている。
最早全身の装甲をパルスシールドが覆う余裕もなく、文字通りの満身創痍。
発射直後の隙、殺意の慢心を突いて全力で組み付き、バーニアを限界燃焼(オーバーヒート)
轟音とともに雨を突き破り、曇天の空へと飛び上がる。

全身に掛かるGの影響で、体は軋み、血を吐き捨てる苦悶が怪人には聞こえる。
同時に、愉快そうに笑う少年の声も。

身体加速α型類似異能(アクセラレイター)。文字通り加速する異能だ。
 身体だけでなく、"思考"や"反応速度"に至るまでの加速も出来る。』

『今の回避運動に、機械の補正は無い。そういう動きだ。』

非異能者でありながら異能者に食らいつくために研鑽した知識の賜物。
積み上げたものが、一瞬の動作で異能の正体を見破り、故に捨て身で食らいついた。
掛かるGに全身が軋もうが、少年は話すことをやめない。

『なんでお前が此処まで暴れたがりなのか、その体のせいかなんてどうでもいい。
 此の時代、幾らでも足の代わりはあるっていうのに、たかが一つ失っただけで非行に走るなんて贅沢だな。』

全て憶測の範疇だ。
怪人の心底など、知ったことではない。
口元から吐き捨てる、とめどなく溢れる血のように、この感情は止められない。

非異能者(ボク)からすれば、羨ましい事この上ない。』

非異能者(もたざるもの)が漸くAF(ツバサ)を得てたどり着いた力。
だが、異能者(もちえしもの)が同じ条件ならどうだ。単純な答えなら小学生でもわかる。
元から才能があるくせに、ちょっと体に障害(キズ)が出来たからなんだ。
今の御時世、幾らでも代わりだってあるだろう。此方からすれば、"贅沢"以外の感想はない。
非異能者故の苦悩、妬み。だからこそ、同条件であろうと、それらを凌駕する感情が少年にはある。


執念


モニター越しに目を見開き、ニヤリと笑う。
遙か上空、曇天の雲の目前で一瞬の停止。同時に、背部のコアが展開されて二対のアンテナめいた機器が出現する。

『だけど、関係ない。僕はお前に"勝ちに来た"。決着(ケリ)をつけよう。』

『コイツは、キく。』

AFの全身がコアを中心に高エネルギーが渦巻いていく。
全身のエネルギーをパルスシールドに変換し、周囲の空気を焼き、湾曲させるほどのエネルギー。
フルMAXの状態でなくても、威力は十二分だ。

橘壱 >  
 
            『Reject Armor(リジェクトアーマー)、展開──────!』
 
 

橘壱 >  
その瞬間、学生通りに"緑の太陽が一瞬だけ輝いた"。
本来防御に使うパルスシールドを攻撃方向に転換し、周囲に大爆発を起こす事により大破壊を狙う必殺の一撃
陽電子化による全てを分解する科学的破壊エネルギーを周囲に撒き散らす無差別兵装だ。
その破壊力はクレーターだって簡単に作る。故に、(ここ)じゃなければ使えない。
鎮圧、捕獲を目指す風紀の仕事に似つかわしくない武装だが、関係ない。


今此の瞬間は、テンタクロウ(コイツ)に勝つことが全てだ──────!

テンタクロウ >  
伝播ソリトン弾を受けてなお、前に出る少年。

「お前は」

たかが一つの喪失と言うこいつには。

「何も失っていない」

私の───僕の罪業は永遠に理解できない。

 
眼の前に来たこいつを捻り潰せば終わりだ。
あとはこの男の首を風紀の詰め所に放り投げてやる。

 
その時、緑の太陽が。
煌めきを放出した。

 
 
 
「─────!!」

ホワイトアウト。
自分の喋っている声が聞こえない。
爆発か!? 耳をやられたか!!

「──橘──てやる!!」

ようやく視力と聴力が回復した時。
目に写ったのは。

触腕の半数が落ち、パルスフィールド発生装置は全損。
辛うじてリフターで空に浮いているだけの。

それどころか、複合装甲が欠けて血が流れている。
血……僕の…ダスク、スレイ。

「うわああああああああああああぁぁ!!」

少年のような声音で叫ぶと。

フラフラと飛行しながらその場を後にした。

 
後に。
風紀委員が初めてテンタクロウに勝利したとも。
テンタクロウが風紀を打ち破ったとも言われるこの戦いで。

私はフリューゲルキラーと呼ばれ、奴は白夜の太陽とも呼ばれ始めていた。
 

何もかも茶番に思えた。

橘壱 >  
豪雨とともに力なく機体が落下する。
推進用のエネルギーも何もかも使い果たした。
モニターが切れる直前で見えてしまった、まだアイツは飛んでいる

『──────!』

まだだ、まだ終わっていない。
空中で無理矢理思い体ごと身を捩り、建物の上に落下した。
轟音と共に瓦礫を撒き散らし、鋼人の体を無理矢理引き落とし立ち上がる。
大型パルスライフルのエネルギー、残り滓みたいなものだが全てAFに回す。
再び青白いモノアイが輝き、モニター回復。破損状況も多いが、まだ動ける。
内蔵も、体も、機体もダメージを受けている。だからどうした

『まだだ、テンタクロウ……!』

瓦礫を踏みしめ、空を見上げる。
バーニアに火が灯り、一歩踏みしめる。

『まだ、終わってない。』

一歩。瓦礫を砕いて更に一歩。

『決着を付けよう────!』

まだ、お互い戦える。狂気めいた執念だが、非異能者(もたざるもの)の自分には、執念(これ)しかない。
再び空へ舞い上がろうとした瞬間、機体が膝をついた。
モニターに映るバーニアのエラー表示。爆心地であった機体自体も、使えば無事なはずもない。
それでも、と立ち上がる頃には──────。


奴はもう、逃げていた。


『……逃げるなら、仕方ない、か……チッ……。』

激しい音を立てて、再び膝をついた。
装着者も、機体も限界だ。白黒付かなかったことが何よりも悔しい。
そう思った瞬間、視界が赤く染まる(レッドアウト)
高付加のGの押収。舌打ち直後に、迫り上がる血液を思い切り吐き出した。

『ゲホッ!ゲホッ!……かっ、クソ……此の程度のGに、体がついてこない、か……。』

高揚感(アドレナリン)が切れる頃には現実(いたみ)が戻ってきた。
余裕も何もかもが全身を這い回り、剥ぎ取っていく。
何が、何も失っていない、だ。何も持っていない事が、問題なんだ


それこそ、異能者(おまえら)にわかるものかよ。


息が荒くなってきた。意識も、呼吸も……。

『クソ……まずったな……。』

モニターが切れる。意識も切れる。

『さく、ら……せんぱ……こんしんか…ゲホッ…いけそうに、ない…な……──────。』

遠くから聞こえるヘリの音。それを最後に少年の意識が途切れた。
事後の賞賛やら批判の声などは少年にはどうでもよかった。
決着もつかなかったこともそうだが、約束した懇親会には出られない入院コース。


本人たっての希望もあり、この入院が知らされたのは懇親会が終わった後だったとか…。

ご案内:「学生通り」から橘壱さんが去りました。
ご案内:「学生通り」からテンタクロウさんが去りました。