2024/06/17 のログ
ご案内:「常世渋谷 常夜街」にテンタクロウさんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 常夜街」に桜 緋彩さんが現れました。
テンタクロウ >  
星満ちる。空が落ちそうだ。

苦痛に仮面の下の表情を歪める。
まだだ。まだ終われない。
脳神経加速剤の副作用で体が死にかけていようと。
悪魔の心臓を使った代償に脊髄ガンを患っていようと。

私は私が思うままに悪でありたい。

痛みをペインキラーで強引に抑え込み、
常夜街に現れ、夜の蝶の前に降り立つ。

「ハァァ……どうも、お嬢さん…」

音もなく現れる怪人に、悲鳴が響いた。

桜 緋彩 >  
「待ちわびておりましたよ、テンタクロウどの」

突然の怪人の襲撃に逃げ惑う民衆。
しかしただ一人、逃げるどころか怪人に向かって歩みを進める武人が一人。
民衆を守るために正義を掲げるでもなく、治安を乱す彼に怒りを向けるわけでもなく。
待ち合わせに遅れた相手に嬉しそうに駆け寄る恋人のような、

「桜華刻閃流、桜緋彩と申します。
 こうして巡り合ったからには、私と立ち合っていただきます」

極上の餌を目の前にした猛獣のような笑みを浮かべる。

テンタクロウ >  
朱。そう感じた。
眼の前に立ちはだかった少女は。
朱塗りを思わせる髪に、意思を湛えた瞳。
腰には刀と長脇差。

以前戦った────燃ゆる月を思わせる女を想起させた。

「ハァァ……キミは」

大げさに嘆息した様子を見せる。

「余程、命が惜しくないと見えるな…」

そして肩を揺らして笑い。
星空の下で両手を広げた。

「今ならまだ間に合う……逃げて風紀委員を呼び給え」

桜 緋彩 >  
「勿論ただ死ぬのは御免被りますが」

肩をすくめてみせる。
死にたくはない。
まだ剣を極地を見ていないし、知らないことも沢山ある。

「とは言え立ち合いの結果として命を落とすのならば仕方ありません。
 所詮そこまでの才だったと言うことです」

それはそれとして、命の捨て所はそこと決めている。

「なるほど、そう言えばあなたはどうやら風紀委員に恨みがあるかのような言動を繰り返しておりましたね。
 報告書にそう書かれていましたっけ

左手で刀の鯉口を掴み、鍔に親指を掛ける。
右手はだらりと、完全な脱力。

「ご安心を、この場にはただ一介の剣士として参じておりますが、所属自体はお望み通り風紀委員ですよ」

いつでも剣を抜けるように。

テンタクロウ >  
そうか、この女は。
風紀委員というわけか。

「タイムオーバーだ」

マシンアームが二本、近くの電柱に絡みつく。

「死ね」

力任せにへし折れば、3000kgは優にあるその柱が。
彼女に向けて倒れていく。

連鎖的に街に停電が起き、暗闇と非常灯が。
異形の魔人の黒の外装甲を浮かび上がらせる。

桜 緋彩 >  
「っはは、なんたる膂力……!」

自身に向かって倒れてくる電柱。
それを歯をむき出しにした狂暴な笑みで迎え、

――僅かな光に反射する白刃が複数、闇を切り裂く。

自身が起こしたアクションは単純明快。
腰から刀を左手で鞘ごと前に引き抜き、右手で迎えて鞘を引く。
同時に頭上を薙ぐように刀を振り抜き、返す刀でもう一度。
ただそれだけで、倒れ込む電柱は自身の頭上だけがいくつもの輪切りにされ、二回目の切り払いで弾き飛ばされる。
刀を振ったのはたったの二度。
しかし放たれた斬撃は合わせて二十を超えている。

「その力だけがあなたの全てではないはずだ。
 速度も技も、その全てを見せて頂きましょう」

ぶん、と刀を振って、彼へ向けて歩みを進める。
獰猛な笑みをその顔に浮かべ、一歩一歩。

テンタクロウ >  
「!!」

そうか、この子は……
僕は分署にいることが多かったからわからなかったけど。
桜緋彩さんだ。三年の、あの刀を使わせたら相当な強さという。

電柱をバターのように斬り、瞬速の刃は視認が難しい。
単体での戦闘能力はあのサムライの子と並ぶだろう。
どうする? 脳神経加速剤を使うか?
今、この場で死ぬかも知れないけれど……!!

「私は」

溺れかけた深海魚(サカナ)のように息を深く、深く吐いて。

「腕試しがしたいわけではない……」

イオン臭が漂う。
リフター起動、空に浮き上がる。

「上方というアドバンテージを取って一方的にやらせてもらう」

頭上を取ってマシンアームの四連撃。
鞭打、打突、打突、鞭打のクアドラプルアタックだ。

僕自身の異能で加速しても追いつけはしない。
近づけてはダメだ。

桜 緋彩 >  
「そう仰らず……!」

上空へ逃げる怪人。
放たれる四連撃に向けて刀を振るう。
振るうは一度、しかし放たれる斬撃は四つ。
重さも威力も自分よりはるかに上のマシンアーム。
しかし四つの斬撃は、それらの一撃を僅かに鈍らせる。
四つそれぞれが四重の威力を持った斬撃で、マシンアームをほんの少しだけ遅らせることで、自身の回避する隙を作り、地面を駆け抜け回避した。

「距離さえ離せばどうとでもなるとお思いか!!」

彼の真下で刀を振る。
十六もの刃が自身の頭上を切り裂き、同時に同じ数だけ刃が飛ぶ。
自身の流派で飛閃と呼ばれる飛ぶ斬撃。
同時に地面を蹴ってビルの壁に着地し、

「貫け――神槍!!」

そこから彼に向って跳ぶ。
十六の剣閃を一本に束ねた、全てを貫く槍の名を関した技。

テンタクロウ >  
一本一本が骨を砕く威力の攻撃を、こうも容易く!!
強化被膜でなければマシンアームが膾に斬られてたか!

そして地面から壁へ、壁から僕へと。
刀身を束ね、凄まじい威力の刺突が来る。

咄嗟に加速異能(アクセラレイター)で身を捩って回避。
パルスフィールドを貫き、複合装甲の一部を切断される。
欠けた装甲が地面に落ち、人を傷つける言葉のように乾いた音を立てた。

この異常な切れ味は……違う、落ち着け…
仮面の下で呼吸が荒くなる。
落ち着け、藤井輝。
 

こいつはダスクスレイではない
 

口の中で爆発する悲鳴を飲み込み。
無言で空中を右手側に移動しながら。
上部メインアームから伝播ソリトン弾を撃ち込んだ。
幾重にも、幾重にも。執拗に。

桜 緋彩 >  
「ほう、避けますか!」

最大数の飛閃を隠れ蓑にした横からの最大威力の神槍。
それを避けられ、反対側のビルの壁に着地。
人間離れした機動力のタネは、蹴り脚で神槍だ。
地面を蹴ると言う動作を複数束ねて初速を稼いでいる。
勿論身体は生身なので、耐えられる加速度に限界はあるし、高いところから落ちれば怪我をしたり命を落としたりする。
なのでビルの壁面に刀を何度も突き刺し、落下速度を小刻みに殺しながら着地。

「力自慢の割に、小器用ですね!」

地面を跳ねる様に光弾を避ける。
神槍脚で右に左に跳ねまわりながら、こちらからも飛閃を飛ばして応戦。
避けられない光弾を撃ち落とし、それを放つアームの狙いを逸らすように弾き、時には本体へも斬撃を飛ばしていく。
もう一度直接斬りかかる機会を窺うように。

テンタクロウ >  
斬撃を飛ばすのか!?
メチャクチャだ……いや、そういうことができる人はいる…
芥子風くんや、ダスクスレイ(あの男)みたいに……

飛ぶ斬撃はパルスフィールドで弾き、
マシンアームは斬られないように慎重に動きながら。
恐怖の対象に向けて加速する。

二本の下部メインアームから業炎の剣を作り。
全てを溶断破砕する二刀流で一気に勝負を決めにかかる。

長丁場は不利だ!!
僕の体はガン細胞と薬毒に冒されているのだから!!

桜 緋彩 >  
「それは、まずいですね」

吹き出す炎で形作られる剣。
剣とは言え、その刀身は形の無い炎だ。
受けることは出来ないし、出来たとしても熱でやられる。
だから真っ直ぐに突っ込んだ。
振り回される炎剣の根元、それを振り回すアームならば。

「二刀はあまり得意ではないのですが……!」

走りながら腰の長脇差を抜く。
刀を持った両腕で自身の身体を抱くように刀を振りかぶり、

「神槍・十六閃 二連!!」

炎の剣を振り回す二本のアームに、すれ違いざま斬り付ける。
髪の先が焦げ、炎に若干焼かれた腕がひりつくが、動く分には問題ない。

テンタクロウ >  
下部メインアームが斬られる。
高まった恐怖が絶望を呼ぶ。

近距離、離れ、無駄、あいつは、速い!!

 
 
僕は…藤井輝はダスクスレイと向き合っている。
あの日の記憶。

『動きは速いようだが…無駄だ』
『このダスクスレイの恐怖の伝説の礎となるがいい』

すれ違い様の斬撃。
熱と痛み、僕の血……薄れる意識、嫌だ…

 
 
「うおおおおおおおおおおおおぉぉ!!」

恐慌に駆られ、叫ぶ。
周囲五方向からのオールレンジ攻撃。
絡みつく触腕だ。

触れた瞬間、その部位の骨を砕くだけの力を込めて。

桜 緋彩 >  
迫る触腕。
掠るだけでも致命傷となりうる剛腕だ。
一本だけでも十分な脅威となりうると言うのに、それが五本。
荒れ狂う化け物の群れのようなそれを前に、

「素晴らしい!
 これこそ私が求めていた立ち合い!!」

狂暴な笑みを浮かべ、歓喜に打ち震えている。
直接刀で受ければそれまでだ。
飛閃や嵐剣で触腕を僅かでも逸らし、それで生じた僅かな隙間に神槍脚でブーストした速度で潜り込む。
こちらを詰まさんと襲い来る苛烈な攻めの洪水を、本当にギリギリのところで潜り抜けていく。

「どうした!
 私はまだ動いているぞ!
 この程度ではないだろう、テンタクロウ(機界魔人)!」

今にも千切れそうな紐の上での綱渡り。
流石に反撃をする余裕はないが、しかし確実に千切れることなくわたっている。

テンタクロウ >  
野ウサギが手をすり抜けるように。
眼の前の敵はこちらの波状攻撃を紙一重で回避していく。

怖い。怖い。怖い。怖い。怖い!!

ダスクスレイに斬られた時の恐怖に怯えながら。
本能と獣性でマシンアームを操作する。

触腕鞭打、七連打。

既に拷問がどうこうのレベルを超えている攻撃だ。
常人が受ければ痛みで死ぬ。

桜 緋彩 >  
更に触腕が二本増える。
一手でも対応を間違えれば死が見える。
それでもなお。

「っははは!
 まだ増えるか!」

楽しそうに笑い、動き続ける。
弾き、逸らし、止める。
それぞれは本当に僅か、時間にすればコンマ一秒以下に満たない時間。
しかしその僅かな時間を稼ぐことで、逃げるスペースがほんの僅か生まれ、それを見逃すことなく迷わず飛び込む。
自身の周囲半径二メートルほどの空間は、両手で操る剣による三十二本の刃が乱れ飛ぶ剣閃の嵐と化しているだろう。
その球状の嵐が、荒れ狂う触腕の大海原を駆けまわっている。
外から見ればそうとしか見えない狂った光景。

テンタクロウ >  
しまった、攻撃に触腕を割きすぎたか!?
剣閃の暴風が荒れ狂うキリング・フィールド。
七本の触腕が切り裂かれて落ちる。

もう自分の体を支える分の触腕しか残っていない。

飛翔して逃げるか!?
いや、こいつの速度、逃げ切れるものではない!!

「ば…」

化け物め、という言葉が口をつきそうになる。
燃ゆる月の女と同じだ。
怪物……いや、剣鬼────!!

静かに地面に降りて、体を残った触腕で支え、項垂れる。

桜 緋彩 >  
「――流石に、今のは危うかったですよ」

時間を稼ぐために幾度も撃ちこみ続けた刃。
斬るためのものではないとは言え、それでも何度も撃ちこまれたのならば、いつかは斬れる。
積極的に狙ったわけではないが、それが通らなければ、いつか全身の骨がぐしゃぐしゃにへし折られていただろう。
長脇差を腰の鞘に納め、彼を見据える。

「さて。
 見たところもうあなたが打てる手はないように思いますが。
 どうしますか、まだ続けますか?」

ふう、と息を吐いて問いかける。
続けるならば良し、続けないならばそれもまた良し。

「もう手が無いと言うのならば無理にとは言いません。
 命は大事に使うべきだ」

自身の目的は彼の討伐ではなく、立ち合うと言う行為そのもの。
それが果たされないのならば、残念ではあるが今日はここまでだ、と。

テンタクロウ >  
どうやら目の前の風紀委員は。
桜緋彩は僕を倒す気はないらしい。
それがどれだけ───どれだけ僕の心を傷つけたか。

通り過ぎていく景色のように。
転がる路傍の石ころのように。
一瞥もくれない雑草のように。

ただ僕を下に見た言葉だ。
僕はそれを全生命を賭けて否定する必要がある。

「貴様……無礼(ナメ)ているのか」
「私はテンタクロウ……」

手でVRコンソールを叩く。
首の裏に注射針が刺さり、冷たい薬剤が体に浸透していく。

脳神経加速剤。口の中に血の味が広がる。
仮面の下で誰にも気付かれない血の涙を流して。

「機界魔人テンタクロウだ!!」

さぁ、悪魔と契約の時間だ。
システム:イブリースを起動。
歪んだ光が光背となって放出される。

ナノマシンが触腕を再生させ、
さらに強靭になった黒いマシンアームが蠢く。

動力となる悪魔の心臓(デモンハート)が僕の体の中にガン細胞を植え付けていく。
脊髄ガンのステージが上がったか…はは……
 

関係あるか。
 

こいつは強い。
ゆえに、僕を見下ろした。
いや……見下したんだ。

僕のかつての仲間と同じだ────!!

「こうなれば加減はできんぞ」

桜 緋彩 >  
「舐めてなどおりません。
 あなたは強い。
 だからこそ、ここで終わってしまうのはもったいないでしょう」

強いものが弱いものの命を奪う時代ではない。
命を懸けた立ち合いは素晴らしいものだからこそ、命を奪って終わり、などもったいなくて仕方ない。

「――そうですか」

空気が変わった。
彼が纏う雰囲気も、発する光も、黒く光る触腕も、何もかもがさっきと違う。
何より、これは命を削って振るう力だと、彼の覚悟がそう言っている。
何が彼をそうまでさせるのだろうか。

「であればここまでです。
 命の取り合いは趣味ではありませんので」

バックステップ。
彼と距離を離し、逃げ出す。
幸い周りにいた学生はみな避難が済んでいるようだし。
とは言えそれで彼が諦めるとも限らないので、警戒は解かずにバック走。

テンタクロウ >  
「相手の命が天秤に乗ったら逃げるのか」
「殺し技を使っても殺す覚悟はないのか」

「巫山戯るな」

触腕が地面に突き刺さりながら前に進む。

「強者はいつもそうだ」
「自分より弱い者を思うまま甚振り、都合が悪くなったら逃げる」

触腕が次々に生え変わる。
地面に刺さり、体を前に進めるという役目を終えたマシンアームから蒸発するように消えていく。

「それをなんと言うか知っているのか」

逃げ出す彼女の背から音の壁を破って触腕の連続打突。

「卑劣だよ、風紀委員」

桜 緋彩 >  
やはり彼は追いかけて来た。
さて、これからどうするか、と考える。
普通に考えれば風紀の方に誘導するのが一番だろう。
しかしこの状態の彼を風紀に相手させるのは流石に不味い。
相当の被害が出る。
恐らく彼が使ったのは、報告書に書いてあった何とかという薬。
時間制限があるのならそれまで逃げ切ればいいが、無かったらどうしよう。

「お、っと」

背後から殺気。
視認さえ困難な音速を超える打突だが、一足早く殺気を感じ取ったおかげでどうにか避けられる。
刀で弾き、進路を変え、身体を捻り、紙一重で避けていく。

「おや、これは面白いことをおっしゃる。
 あなたも同じようなことをなさっていたのでは?」

弱いものを甚振り、都合が悪くなったら逃げる。
それは彼がやっていたことと同じだ。
に、と小馬鹿にしたような笑顔を見せ、無人の通りを曲がる。
とりあえず時間制限があると仮定し、挑発ながら逃げ回ってみよう。

テンタクロウ >  
「そうだ、私は悪だ」
「卑劣で、不善で、唾棄されるべき存在だ」

逃げるな。

「何故」

「体制側の人間が私の真似をしている」

僕が命をかけた正義が。風紀委員が。
何故テンタクロウの真似事をしている。

視界が紅に染まる。

癌はともかく、脳神経加速剤の副作用は深刻か…

曲がりきれずにビルに衝突し、入口のシャッターを粉砕した。

「逃げるな」

その言葉が彼女の背中に届くことはないだろう。

桜 緋彩 >  
自身が曲がった角を、彼は曲がり切れず、建物に突っ込んでいく。
そこで足を止めた。

「ふむ」

彼が言った言葉。
正義の風紀が悪の真似をするな、と。
それはつまり。

「――風紀への憧れですか?
 それとも、風紀とはこうあるべきと言う正義感?」

彼に言葉が届いているかはわからない。
怪人が突っ込んだ建物に歩いて近付きながら。

「どちらにしても、風紀は正義の味方ではありませんよ。
 ただこの島の秩序を守るシステムに過ぎません」

粉砕されたシャッターの前に立つ。

テンタクロウ >  
その言葉は。見下されるより痛かった。

絶望は憤怒に。
憤怒は失望に変わった。

「は……はははは!! なぁんだそれは……その言葉を聞かせてやりたいものだ」
「落第街でリンチされた者に」
「拉致され、強姦された者に」

「私に骨を砕かれた者にな!!」

僕はこれにしがみついていたのか。
島の秩序を守るシステム。

その歯車のようなものとしてダスクスレイに立ち向かい。
多くの命と一緒に斬られた。

レイチェル!!
これが君が求めた成果物か!!

「もういい、行け」
「気は済んだだろう歯車」

「お前は剣客でも剣鬼でもなかった」

「ただの脳内麻薬(ドーパミン)の奴隷だ」

桜 緋彩 >  
「私にとっては、ですがね」

勿論中には正義感を持って働いているものも居るだろう。
弱いものの味方であれ、と信念を持っているものも居るはずだ。
けれど実情としてはそういうことになると思う。
何かが起こってからでないと動けなかったり、人を助けるためにケンカをしたものを追い回さないといけなかったり。
正義の味方ではなく、法の味方。

「これは、風紀ではなくただこの街で暮らす生徒としての言葉ではありますが」

急にやる気を失ったような彼。
刀を鞘に納め、くるりと背を向けて。

「風紀に不満があるのであれば、あなたが正義になればよかったのではないでしょうか」

歩き出す。
今の自分は風紀委員ではなく、ただ一介の剣術家だ。
彼を捕まえる権限はない。
途中、顔の汗を拭えば、胴着に赤い液体がべったりと付いていた。
打ち合いの最中か逃げる途中か、どこかでアームが掠っていたらしい。
腕の火傷もでっかい水膨れになっているし、とりあえず病院に向かうことにする――。

ご案内:「常世渋谷 常夜街」から桜 緋彩さんが去りました。
テンタクロウ >  
強大な力を持ち、闘争に酔い、その上でこの言葉。

「ハァァ……まさか、本気で言っているのか」
「大したものだよ、風紀委員」

「確かにお前は正義の味方じゃない」
「そしてお前は悪党でもない」

「一匹の悪魔だ……よく社会にいられるものだよ」

大凡、歪みというのはこういうものなのかも知れない。
強大な力を持っている一個人。

いや……それは僕も同じか。

立ち上がると外に出てフライトシステムを起動させて空に浮き上がる。

まずは肺の血を。いや……もう遅い。

長生きなんてものは無意味で、この世界にあって無価値だ。

 
爛々と輝く星の下で。
僕は確かに喪失した。

心にあった支えの一つを。

ご案内:「常世渋谷 常夜街」からテンタクロウさんが去りました。