2024/06/22 のログ
ご案内:「The meaning of existence」にテンタクロウ(藤井輝)さんが現れました。
■テンタクロウ(藤井輝) >
満月が見下ろす真夜中。
学生通りへ続く道は封鎖されている。
もう魔人は仮面をつけていない。
マシンアームで動く異形の歩みの前に風紀委員が立ちはだかる。
「僕は藤井輝……テンタクロウだ」
誰もが思い思いの武器を前に表情を歪めている。
■大宮 遼佳 > 「どうして……テンタクロウが」
■神野 豊博 > 「藤井先輩………!?」
■テンタクロウ(藤井輝) >
「大宮さん、神野くん……多くの場合、敵はテーザーガンの有効射程まで待ってはくれないよ」
「この場合、撃つなら徹甲弾だ」
マシンアームで二人を後方に放り投げる。
■豊川 より >
「止まってぇ、藤井先輩!!」
電流の異能を放出する。
■柿本 門次 >
「撃て、撃て!!」
徹甲弾が入ったライフルを撃つ。
■テンタクロウ(藤井輝) >
「豊川さん……キミの電流の異能は強力だけど、減衰距離だよ…」
「近づいて流さなきゃ意味がない」
「柿本くん、判断はいいけど加速異能相手に真正面から撃ち合いをしても無意味だ」
それぞれの攻撃をいなし、回避しながら後方に放り捨てる。
それでも退かない風紀委員たち。
だが、異形の歩みは止まることはない。
「次はDチームか……」
手強いな。だってあのチームは。
レイチェルが手をかけているのだから。
ご案内:「The meaning of existence」に緋月さんが現れました。
■状況 > 異形の鉄腕の怪人――否、かつて風紀委員だった男と、風紀委員たちとの、月下の戦い。
その戦いは、明らかにマシンアームの男の、明らかな程の有利だった。
それでも尚、退かぬ風紀委員達。
その風紀委員達に通信が入る。
別方面の封鎖を担当している者達からの通信。
《正体不明者の封鎖網への侵入を確認――》
《高速で移動中、補足不可――》
《進路確認、交戦領域へ移動中――》
そのような通信が風紀委員達へ――もしも傍受していれば、マシンアームの男にも、通じるかもしれない。
そして、路地の一つから、暗赤色の風が――
■緋月 > ――飛び出して来たのは、暗赤色の外套を纏った影。
それが、マシンアームの男と風紀委員達の間を割るように跳躍し、地面を滑りながら停止する。
「――――――――」
ゆら、と立ち上がったのは、能面――翁面で顔を隠した、比較的小柄な人影。
その翁面が、す、と、マシンアームの男へと向き、
「――――見つけた。」
その声と同時に、するりと伸びた手が、翁面にかかり、その素顔を晒す。
「前に見かけた時より、随分と酷い有様になりましたな――。」
現れた素顔は、
かつて、鉄腕の怪人に「化け物」の印象、あるいは概念を刻み付けた少女の顔。
■テンタクロウ(藤井輝) >
地面を滑るように急制動をかけて立ちはだかる。
暗赤色の影。
「君は……」
あの時の女の子か。
あの距離で車両を爆発させたのにもう二本の足で立っているなんて。
「そうだね……でも、まだ生きてるよ」
静かに彼女に語りかける。
「僕を討伐しに来たのかい」
薄く微笑んでそう聞く。
■緋月 > 「討伐、ですか。
そう言われれば、そのようなものです。」
答えつつ、少女は翁面を懐へとしまい込む。
風紀委員達が展開している以上、素顔を晒さずに戦い続けるのは不可能といってもいい。
正直、此処に来るまで誰かに顔を見られなければ良かっただけだ。
「先日の戦いでは、結局貴殿が何の為に凶行に及んでいるのか、理解が及ばなかった――
否、私が理解する事を放棄した。
故にこそ、
今夜、この場で、
貴殿の「全て」、斬らせて頂く。」
すらり、と、腰に差した白い刀を抜き放つ。
白刃が、夜の闇を映し出す。
「虚飾に塗れた言葉など不要。
総ては、斬って、明らかとする――!」
■テンタクロウ(藤井輝) >
「そうか……」
空を見上げる。満月だ。
こんな日に彼女と戦うことも運命なのかも知れない。
少し咳き込んだ。
肺に血が入っているのかも知れない。
血をその場に吐き出して顔を上げる。
「真なる業火に燃える月よ、我が名は藤井輝」
両手を広げると、マシンアームが蠢いた。
「機界魔人テンタクロウだ」
そしてなんの表情も張り付かない顔を上げて。
「先手、どうぞ」
「前は僕が一方的に襲いかかってしまったからね」
月下終焉。
最後の戦いが始まる。
■緋月 > 「――――」
名乗りを受け、言葉を返そうとして、一瞬、思い留まる。
――これを行うのは、本来重大な掟破り。
懲罰の類がある訳ではないが、不遜極まる行為である。
だが、恐らくこの戦いには「己の全て」を振り絞らねばならない。
だからこそ、
「……本来名乗る事を許されぬ未熟者なれど、伝承者のお歴々にはご容赦願う。
九天無骸流魔剣術、緋月――」
――いざ、参る。
宣言の直後、その姿がぶれるように消え去る。
否、あまりの速度にまっとうな動体視力の主には捉えられなくなっただけ。
今まで此処まで走って来た縮地法を、全力で駆使しての移動。
直後、男が展開するマシンアーム…その右側を狙っての、斬撃が奔る――!
■テンタクロウ(藤井輝) >
「緋月さん」
「僕はついさっき大好きな女の子を殺してしまったよ」
「だからさっきの緋月さんの言葉に言うべきは……理解してみろ、かな」
斬撃、その速度と鋭さは超逸絶塵。
ゆえに。
マシンアームが二本斬られ、吹き飛ぶ。
即座に逆側のマシンアームで四回攻撃。
クアドラプルアタックを仕掛ける。
■緋月 > 「――それも、機界魔人が「為した」事、既に起こった「結果」!
今の貴殿を「形作る要素」ではあれど、根本にあるもの、機界魔人が生まれた「理由」には――程遠い!」
マシンアームが切れて飛ぶ。だが、少ない。
そして先の戦いで既に1度見た、四連撃。
躱すは簡単。だが、その合間に何かを仕掛けてもおかしくはない。
ならば、迎撃あるのみ。
「――斬月・醒!」
先日の、謎の女との戦いで体得した、新たなる「斬月」。
迫る四連撃を「斬る」という意志を以て振るわれる一閃は、その軌道を追うように多数の不可視の斬撃を生み出す――。
■テンタクロウ(藤井輝) >
「じゃあ斬りなよ」
バラバラに切り裂かれるマシンアーム。
そして直後にアスファルトを破って足元からマシンアームが突き出てくる。
「それで理解できるものならね」
不意を突く魔手、足首を狙う。
触れられれば即座に砕かれる。
それだけの悪意を秘めて。
■緋月 > 「――!」
地面を突き破り現れる、新たな鉄腕。
脚を狙うか、ならば。
「はっ――!」
縮地法と神速法の併せ技。
跳躍からの更なる跳躍によってその魔手を躱し、
ホォォォ、と、奇妙な響きの呼吸音。
「その悪意の奥にあるもの――暴かせて貰う。」
地面に向かう形で再度宙を蹴り、振り下ろしを放つ。
マシンアームには届けども、本体たる男には程遠い一太刀。
だが、それで充分。
『悪意ヲ払フ――!』
狙うは、マシンアームの男が宿す「悪意そのもの」。
放つは見えずを斬る魔剣。
■テンタクロウ(藤井輝) >
このタイミングでマシンアームを回避するか。
その時、相手が届かぬ距離で白刃を振るった。
何をされた。
心の中が。
空洞になっている。
「この……巫山戯ているのかぁぁぁぁ!!」
悪意無尽。ゆえに鴉。
「ハァァ……このテンタクロウ、弱気に群がっては羽を灼かれる虫どもとは違う!!」
再生する悪意、残った腕をフルに使ったオールレンジ攻撃を仕掛ける。
■緋月 > 「――常では斬れぬを斬るが故に、魔剣。
先程から撒かれる「悪意」を、斬らせて貰った。」
叫び声に、そう返す。
「その悪意は、さしずめ「鎧」か。
己の心を覆い隠して守るための――!」
直後、襲い来る全方向攻撃。
総てを捌き切るのは――不可能。
ならば、一点突破のみ。
「シィ――!」
再度放たれる、軌道に沿って走る斬撃の群。
だが、今度は刀の届く範囲に留まらず。
「飛ぶ斬撃」を追って奔る斬撃群。
それが、最も多くマシンアームが残っている個所を狙って飛翔する。
「っ、痛ぅ――!」
脇腹と、右の頬を掠めた。強い打撲か。
だが大丈夫。腕と足と、思考が働けばまだ戦える。
■テンタクロウ(藤井輝) >
見ていた風紀委員の一人から拳銃を向けられて。
「君たちは下がっていろ!!」
と一喝して戦いに向かう。
手応えはあった。
相手は化け物、だが攻撃して打ち破れない相手ではない!!
その時。
飛ぶ斬撃を防御しそびれて体を支えていた触腕が損傷する。
その場に尻餅を突くように座り込む。
「は、は……」
立ち上がれない。
どうあっても僕の足は動かない。
■緋月 > 「――――。」
ぐ、と、痛みを伝える頬を、乱暴に空き手の甲で擦る。
血が滲んでいる。皮が少し破れたか。
座り込んだ男を、ただ見つめる。
見下ろすでもなく、下に見るでもなく。
「――――立ちませい。」
一言。
「その足が動かなくとも。
鉄の腕がなかろうとも。
まだ、何かを隠しているのであろう。」
根拠のない問い掛け。
強いて挙げるとするなら。
「貴殿の目は、まだ死んでいない。」
同時に、ぐ、と刀を握る手に力を入れる。
(――もしも、「これ以上」を出されたら、
私も、命を賭けなくてはならない。)
今更だ。
既にその決意をして、飛び出して来たのだから。
■テンタクロウ(藤井輝) >
「お前に」
「何が理解る」
周囲にいる風紀委員にすら左手を向ける。
「お前らもだ!!」
「健常であるお前らに!! 何も理解りはしない!!」
「僕の体をこうしたダスクスレイに復讐する機会すら奪われた僕のことは!!」
「だから僕は復讐する……」
VRコンソールを操作する。
もう仮面をつけていないから自分にすら見えることはないが。
手慣れた操作で自分の命を削る。
「全てにだ……全ての健常なる者にッ!!」
「日常の中で安穏を貪っている者にッ!!」
「光を前線に出して殺した風紀委員に!!」
冷たい薬剤が静脈に入っていく。
脳神経加速剤。
歪んだ光が円形の光背となる。
悪魔の心臓。
リフターを稼働し、その場に浮き上がる。
満月を背に、魔人は摂理を否定する。
血の涙を流しながら、背中からナノマシン制御で無数に黒いマシンアームを生やす。
「人を恨むのは気持ちがいいものだよ…」
「得も言われぬ満足感があってね……」
「ただの逆恨みであろうとも……もうそれしか自分の心を騙すものがない!!」
「この憎悪以外に僕の存在意義を証明するものがない!!」
漆黒の触腕が上空から真っ直ぐに緋月に降り注ぐ!!
■緋月 > 「――それが、貴殿の「真」か。」
怨嗟の叫びを上げる魔人――否、ただ一人の男に、少女は静かに口を開く。
「五体満足な者に対する復讐。日常を生きる只人に対する復讐。
――大切な者を奪われた事に対する、復讐。
ダスクスレイとやらが何処の何者かは知らぬが、本来向くはずだった矛先を失った、怨嗟。」
何処か歪な、光背。
仏のそれには、程遠いと、少女は感じた。
同時に、恐らくこれが「命を磨り潰すもの」だろうと推測する。
「確かに、」
「貴殿には、復讐に足る理由があるのかも知れませぬ。
が、」
す、と、宙に浮く男に――否、その「背後」に、指を指す。
「貴殿が起こした怨嗟に巻き込まれた中から、現れる者――
第二、第三の機界魔人に、
貴殿は、責任を取れるのか? 」
「貴殿が築いた血の道から生まれ出でる憎悪と、其に巻き込まれるものに、其処から生まれる憎悪の連鎖に、
貴殿は如何に責任を取る!?」
叫びながら、漆黒のマシンアームに対し、素早く後退を図る。
――瓦礫が飛ぶ。眼の下を、切られたか。
構えを、取り直す。
■テンタクロウ(藤井輝) >
「第二第三の機界魔人が生まれた時!!」
「人は初めて知るのだ!!」
「この世界の歪みをなぁ!!」
撃ち込まれた黒のマシンアームは役目を終えて黒い靄になって消えていく。
「人は屍山血河の果てにしか真実を知れない!!」
「だからこれが……僕にとって!! 風紀を守るということだぁぁぁ!!」
痛みの中、初めて生きているとわかる。
ガンと薬毒に冒されて。
初めて存在の意義を証明できる!!
振り回すは黒の触腕、その鞭打連打!!
回避する空間のないように全方位を薙ぎ払う!!
■緋月 > 「大いなる矛盾! 大いなる破綻!
憎悪と復讐の連鎖の先に残る物は――殺戮の荒野!
誰一人残らず、総ての凶器が行き場を無くす、無明の世界!
それは風紀に非ず、混沌の極みの果て!」
ぐ、と頬を伝う血を拭いながら、少女は叫ぶ。
「失った物があるが故に――守れる物とて、生み出せるモノとてあった筈!
何故其処に至らなかった――!」
その叫びを圧し潰すように、黒の触腕が鞭の如く襲い掛かる。
圧倒的物量の暴力――!
(――このままでは避けられない!
今が、命を賭けるべき時か――。)
触腕の生み出す黒い嵐を前に、
――オン・アビラウンケンソワカ――
『――第一蓮華座、開花。』
しゃん、と、小さな音。
黒い嵐の中に、赤い光の蓮が咲き、
■緋月 > ざん、と、力強い斬撃。
黒い触腕を、先程までとは比べ物にならない、力強い斬撃が、斬り払う。
其処から、無数の細かい傷を負いながら、先程以上の速度で刀を構えた少女が飛び出してくる――。
■テンタクロウ(藤井輝) >
「僕を……いや」
「人間を無礼るな化け物がッ!!」
人間が!! 風紀委員が!!
僕に……テンタクロウや後に続く甲種不明犯に対抗できないわけがないだろうが!!
その時。
何かが咲いた。
赤光の蓮………!!
黒のマシンアームを切り裂き、刀を構えた“月”が襲いかかる!!
黒のマシンアームを全て防御に使い!!
パルスフィールドを展開!!
奇しくも前に緋月と戦った時と同じ、フルパワーでの防御!!
■緋月 > 飛び出してきた暗く赤い風は、パルスフィールドの直前でその足を止めると、
「破ァ――!!」
放つは、再び多数の「斬り裂く月」を伴う斬撃。
だが、総てはパルスフィールドに防がれて届くことはない!
それでも、少しの間、男の意識を防御に割かせ、時間を稼ぐことは出来る!
直線的、だが明らかに慣性を無視した高速移動で距離を取り、
『――第二、第三、第四蓮華座、開花。』
しゃん、と、鈴のような音が、少女の口から放たれる。
同時に3つの光の蓮――橙の、黄色の、緑の光の蓮が、少女の身体を中心として、音に合わせて開花する。
果たして、それを魔人を名乗る男は見ることが出来ただろうか。
気に関わる術を心得た風紀委員であれば、判別出来たかも知れない。
光の蓮が咲く度に、少女の身体――経絡を廻る気の流れは、色濃く、速く、力強くなってゆく――。
■テンタクロウ(藤井輝) >
切り裂く月ッ!?
パルスフィールドを削り取られた!!
もう防御には使えないか!?
馬鹿な、まだ速く!! まだ鋭くなるのか!!
このまま敵を強化されては勝てなくなる、しかし!!
「僕はテンタクロウだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
光!! 僕は地獄に行くよ!!
待ってて、決して一人にはさせないから!!
戦闘領域限定解除を行使。
残像を残しながら急制動。
「死ッ!! ねえええええええええぇぇ!!」
漆黒のマシンアームから伝播ソリトン砲を撃つ!!
その数、6発!!
既に人を戦闘不能にするためという前提は完全に崩れている!!
致命の攻撃を幾重にも浴びせてくる!!
■緋月 > 男の叫ぶ声がする。男が動く。早い。
だが、お陰で、もう少しの時間の猶予が出来上がった。
『――第五、第六蓮華座、開花。』
しゃん。音が響く。
開くは、青と藍色の光の蓮。
――第六までが、開いた。
男が、飛び道具を放ってくる。
視える。天眼法に頼らずとも、最早全身を、唸りすら聞こえそうな程に活性化し、経絡を廻る氣が。
動体視力を極限まで引き上げてくれている。
「――疾っ!」
六発の飛翔体に対し、その軌道という「流れ」諸共、斬り裂かんとする斬撃。
斬った際の衝撃で腕が少しいかれた。だが問題はない。
――これで、完成する。
「………私は、ただの人間です。
ただ、斬る事しか能の無い、人を理解しようとすればする程、
斬りたくなって止まらない、鬼子。
ですが、貴殿がそうあれと望むなら、
化け物らしく在ってみせましょう――」
『――第七蓮華座、開花。』
――――しゃん。
■緋月 > ―オン・マリシエイソワカ―
『禁じ手、宿命――!』
■緋月 > 瞬間。
少女の身体から、光の柱が――否、一挙に放出された氣が、立ち上る――。
■テンタクロウ(藤井輝) >
伝播ソリトン砲を斬られた、か。
満月を背に両手を広げる。
「鬼子が悪鬼を斬ろうというのか……」
「面白い、正面から粉砕してやる!!」
その時、空中に完全静止する。
そしてほんの一瞬だけ、目を瞑った。
集中しているのだ。
そしてテンタクロウは完成する。
轟炎、天を衝いて。
四本のマシンアームから全てを溶断破砕する炎の剣を作り出し。
四刀流にて斬りかかる。
振りかぶった直後に加速する。
縮地にも似た、視認の難しい速度で。
たった一人の少女の命脈を絶ちにかかる!!
■緋月 > 《■■よ、何故この業が禁じ手か、分かるか。》
宗主様の声が、脳裏に響く。
とおい時間に、聞いた言葉。
《思い描けぬ者には、使いこなせぬからだ。
明確に思い描けねば、今の己を強める事しか出来ぬ。
しかも、消耗が激しい。使い続ければ、死が近づく。》
《だが、もしも明確に「かくありたい」と願う己の姿を思い描けたならば。
「宿命」は、その高みへと、うぬを誘うだろう。忘れるな。》
今ならば、その言葉の意味が分かる。
これは言うなれば、「修練の末の可能性の先取り」。
――少し狡いが、これ位の命は賭けなくては、目の前の男に向き合うには割りが合わない。
《■■よ、太刀筋とは、即ち流れだ。
斬ろうとする、命を断とうとする、刃の流れ。
それを理解すれば、斬る事は決して難しくはない。》
別のときに聞いた声。
今なら理解できる。迫り来る4本の炎の剣は、己を屠らんとする、炎の「流れ」だ。
「――――流レヲ、断ツ。」
ほぼ同時に放たれたとしか思えぬ、4つの剣閃。
命を奪わんと振るわれる、炎の剣の「流れ」を断つ刃。
奇しくも、それは機界魔人を名乗る男が放つ四連撃に似る技。
気の柱が、ゆっくりと収束する。
その後に佇むのは、長く伸びたライトグレーのポニーテールが特徴的な、外套に書生服姿の人影。
背が伸び、齢を重ね、少女と呼ぶには成長した、一人の娘の姿。
■テンタクロウ(藤井輝) >
炎の刃が斬られた。
あり得ないことだ。
いや、あり得ないことなんてことはない。
あの少女……いや、今となってはあの女か!!
あの女ならやりかねないことだ!!
「ぐっ!!」
それだけでない、あの距離で振った剣が体の節々を斬っている。
痛み。血。ダスク、スレイ。
恐怖の記憶を振り切る。
いつまでも僕は逃げてはいないぞ。
そうだろう、光。
「ならば斬ってみろ!!」
改めて漆黒の触腕を生み出し、束ねて炎を噴出させる。
炎の柱が生み出される。
「ハァァ……斬れるものならなぁぁぁ!!」
主力戦車の均質圧延鋼装甲すら溶断するだけの熱量!!
上方から、振り下ろす!!
月を蹴散らすかのような、焔の光が夜を裂いた。
■緋月 > 「――――――。」
コォォォ、と、呼吸音が響く。
ゆらりと、手にした刀が持ち上がる。
取る構えは最も馴染んだ、八相の構え。
斬ってみろ、という叫びに、無言で答えるかのように。
ゆらり、とその刀身から光が立ち上る。
同時に、女の身体からも、湯気のように光が立ち上る。
光の正体は、剣気だ。
まるで、娘そのものが一振りの刃になったかと思わせるような、剣気。
「――――、」
何事かを、口にする。
同時に、手にした刀が放つ剣気が更に強まる。
まるで、光の刃のように。
上空から振り下ろされる炎の刃。直撃すれば、炭化は免れない、恐るべき熱量。
それに対し、構える娘は――
奇妙な、踏み込み。
穏やかな清流のようでありながら、暴風のそれよりも速い一歩。
その一歩で炎の刃を振り下ろす男に迫り、その正中線を真っ直ぐに捉える斬り上げを放つ。
炎の刃ごと、男を断つ――――否。
刃が通る感触はあっても、斬られ、傷を負う感触はないだろう。
《――藤井、殿。
これが、私があなたに「差し出す」、思い描く限りの、理想の刃――。》
それは、誰かを知る為に誰かを斬らずにはいられなかった娘が、それでも命を奪う事を良しとしなかった、
己の我儘を通す為の刃。
害ある物のみを断ち、命ある者には傷すら残さぬ――正真正銘の、今は名も無き、「魔剣」。
――もう、自分を赦しても良いでしょう。
憎悪と怨嗟は、己すら傷つける。今の貴殿の姿、そのままに。
貴殿は、もう充分苦しんだ。他者も己も傷つけるのは、もう、よいでしょう――
その一太刀は、ただ、手を差し伸べるが如くに。
■テンタクロウ(藤井輝) >
断ッ!!
炎の柱と、装備が斬れる。
これで最期か。
しかし痛みはなく。
僕はリフターを失って真っ逆さまに落ちていった。
地面に墜落し、呻いた。
「ふ、ふふ……僕を殺したか…」
誰も喋らない。
周りで見ていた風紀委員すらも。
静寂が訪れる。
「凶悪犯だ、後ろ手に手錠をかけるんだ」
そう周りに声をかけた。
その時、近づいてきた一人の風紀委員が。
寺崎弓人委員が僕に注射をした。
「何を……」
視野が蕩ける。加速が解除された……?
「脳神経加速剤の中和剤……か」
こんなもの、用意に一週間はかかるはず。
彼らは僕と戦い、僕と逮捕することの次に。
僕を救うことを考えていたらしい。
僕の正体を知るずっとずっと前から。
「完敗だよ、風紀委員。そして」
「緋月」
■緋月 > 「………悪因には、悪果在るべし。
私には、貴殿の憎悪と怨嗟を赦す事は出来ても、犯した罪までをなかった事にはできない。」
刀を下ろし、息を吐きながら、絞り出すようにそう声をかける。
これだけは、どうしようもない。
如何な理由があれ、犯した罪は償わなければならないのだ。
それは己の手の届く範囲を大きく超えている。
「月並みな言葉にしか、なりませんが。
世界はもう少し、優しい物だと信じてはいただけませんか。
何かを理解せずにはいられない、狂人であっても、
理解しようとしてくれた方が、おりましたから。」
懇願するように、男にそう声を掛ける。
静寂する風紀委員に目を向けると、深々と礼。
「――突然の闖入と、此処までの身勝手、申し訳ございませぬ。
風紀委員の皆様の面子を潰す形になる事は重々承知。
ですが、これは私の勝手で行った事です。
風紀委員会に所属し、私の身柄を預かる桜緋彩様は、一切関りの無き事。
処分がありましたら、この身一つで――。」
■テンタクロウ(藤井輝) >
「僕は君を殺そうとした」
「君は僕を許そうとした」
「既に勝負は決まっているんだよ……」
涙は流れなかった。
光を殺した時にもう全ての涙を流していたのかも知れない。
でも。
「すまなかった……」
その言葉を投げ渡すように口にした。
■寺崎 弓人 >
敬礼をして微笑んだ。
「犯人逮捕へのご協力、感謝します」
「いいんですよ……メンツよりも、大事なものがありますから」
■緋月 > 今や、ただ一人の男となった、かつての機界魔人の一言と、風紀委員の一人の言葉に、娘は静かに微笑みを浮かべる。
口を開き、謝礼を述べようとして、
「――――ご、ぼっ。」
その口から、大量の赤が漏れ落ちる。
赤い、赤い血。
あれ、どうして、こえじゃなくて、ちが。
――ああ、そうか。
急激に身体から力が抜けていく。
視界が赤く染まる。
立っていられない。
――これは、禁じ手と言われても、しかたがないなぁ……
膝を付き、アスファルトの地面に叩きつけられる間に、その背は縮み、姿も若返る。
髪の色も元の色へ戻っていく。
どしゃ、とうつ伏せに地面に倒れ伏した少女の手から、今まで共に戦ってくれた刀が転がり落ちる。
氣を感じる能力を持つ者か、それに等しい機具があれば、少女の身体に漲っていた氣が、
急速に衰え、萎んでいくのが分かるだろう。
■寺崎 弓人 >
俺たちを助けた少女は、血を吐いて倒れた。
「き、緊急搬送ー!!」
こうして戦いは終わりを告げる。
■テンタクロウ(藤井輝) >
凶悪犯、テンタクロウ逮捕のニュースは。
島中に速報として流れた。
そして────
ご案内:「The meaning of existence」からテンタクロウ(藤井輝)さんが去りました。
ご案内:「The meaning of existence」から緋月さんが去りました。