2024/08/07 のログ
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ご案内:「エルフのVRライフ」にシュエットさんが現れました。
シュエット >  
月光の下。
淡い蒼の光を受けて輝く白の機体が、戦場の中心に立っていた。

その騎士を模した機体――ヴァイスヴェルト=ツヴァイは、
堂々たる姿で、巨大な鋼鉄のソードを手にしている。

風に揺れるマント型の防御兵装――パランディンヴェイル。
所々が破れているそれは、最早その機能を維持しているようには見えなかった。

対峙する漆黒の巨大な敵機――ギガント・ロウが動きを止め、
その冷笑がありありと浮かぶような声色で言葉を放つ。

『黙ってばっかりの陰キャ野郎が!
どう足掻いたってテメェらの負ける未来しか見えねぇだろ!』

――評価、B。

言葉とは裏腹に、緊張に震える男の声。

二者の間は、まさに剣抜弩張の様相を呈していた。

勝負は、一瞬で決まる。
それは、鋼の駆り手がお互いによく理解していたことであった。

そんな状況でも、
ヴァイスヴェルトのコクピットから聞こえてきたのは冷静な男の声だった。

対峙する男は、ここに来て初めて白の機体の駆り手の声を聞いた。

この世のものとは思えない、幽鬼の怨恨を音にしたかのような――

「……貴様には、見えまい」

――暗く、儚い響き。

『な、舐めやがっ……』

男が次の『台詞』を口にしようとした時には、
閃光は既に、鋼の腕によって振るわれていた。

同時に、静止した背景に、カットイン(文字)が浮かび上がる。

シュエット >  
天雷轟々天地鳴(天雷轟々として天地鳴る)

一閃光華万物散(一閃の光華万物を散らす)

剣鋒如電破雲霧(剣鋒電の如く雲霧を破り)

斬断邪魔正道行(邪魔を斬断して正道を行く)


「……此処に邪魔を、一刀――」

一刀で切り捨てられる黒の機体を前に、
男の静かな声が――

シュエット >  

――
―――
「――両っっ断~~~ッ!」

――否、少女の勢いの良い声が。
小さな一室に響いた。

VR端末が映し出す画面の向こうで表示される、
戦績(リザルト)を目にしながら、
シュエットは両手を一人、暗い室内でバンザイしていた。

「さっすがに味方チーム負け過ぎで、
 どうしようもないかなって思いましたけど……
 やっぱり一発逆転は最高ですねぇ……っと、ふわあああっ!?」

祭祀として野狗子を討伐してから数週間後。
特に討伐命令もなく、シュエットはオフの期間を謳歌していた。

「ポイントおいし~! っと、おや……?」

一人、元気にガッツポーズをするエルフであったが。
そんな彼女の視界の端、戦績画面の右下にポップする、広告。
シュエットは、そちらに目を奪われただった。

「キングオー! キングオー3じゃないですかぁっ!」

広告バナーでは、格好良く拳を振り上げているロボットの姿があった。
機械魔神キングオー3。
シュエットがこちらの世界へやって来てから初めて目にした
アニメ()であり、今の彼女を構成するに至った一番の要因である作品である。

「こ、ここここれは要チェックですよっ!
 えと、バーチャル……トコケット? バーケット?
 なるほど、トコケットのバーチャル会場ですね。
 じゃなくてっ!
 キングオー3最終決戦バージョンの……
 メタラグ機体を参加者に抽選でプレゼントッ……!?
 い、行くしかないですよっ! 常考!」

唾を飲み込むシュエットは手を伸ばし、おそるおそる広告をタッチする。
メタラグのプレイ画面は瞬時に切り替わり、バーチャルスペースへと移動する。

―――
――

シュエット >  
『ようこそ! 鋼鉄の世界メタルヘヴンへ!
 メタリックラグナロクコラボブースはこちらです!』

ローディングが完了すると同時に、自動音声が流れる。
そして漂ってくる、鉄と油の臭い――。
端末に付属している電極パッドの成せる技だ。

電脳空間に降り立ったシュエットは、黒髪の青年となっていた。
機械魔神キングオー3の主人公、炎城 猛を再現したアバターである。

「メタラグのランク上げばっかりしてて……
 久々にバーチャルスペース(こっち)に入りましたけど、
 そういえば猛様のアバターにしてましたっけね」

シュエットの発する声は、
熱血ロボットアニメによく起用されている男性声優の声になっていた。

シュエットはワールドの入口に鏡の前に立つと、
人差し指を突きつけて空いた手で髪を抑えるポーズを取った。
原作で、彼が好んでとるポーズである。

「……こほん。行くぜぇぇぇ、極・魔神合体ィィッ!」

勢いよく原作の台詞を叫ぶシュエット。

くすくす、と周囲から笑い声が漏れる。
思わず周囲をくるくる振り返る炎城 猛――シュエット。

「しまったっ! ここパブリックワールドじゃないですか!」

パブリックワールド。つまり、他のプレイヤーと繋がる公共空間である。
すっかり閉じたプライベートワールドに接続されていたと
勘違いしていたシュエットは、VR端末の下で白い顔を真っ赤にしていた。

「めちゃくちゃ皆に変な目で見られてる……!
 あっ、でもでもこれはこれで良いなぁ……! 皆の冷たい視線が……
 はぁはぁ……
 って! 猛様の声でこんなこと言っちゃ駄目ですよ、私……」

自分で自分を戒めつつ、手を伸ばしてメニュー画面を出す。
空中に浮かぶメニュー画面でアバターを変更。
デフォルトで選択できる、無味なロボットアバターへと姿が変わる。

「これでよし、ですね!」

同時に声も、女性的な電子音声へと変更されることとなった。

シュエット > メタルヘヴンは、壮観だった。
荒野を模した空間に、個々人が出展している様々なブースが置かれている。

ロボットアニメを製作しているアニメ研究部が主に展示をしているようで、
様々なロボットアバターや、
新作ロボットゲームの広告などが所狭しと並んでいる。

ブースで展示されている商品に浮かんでいる
カートボタンに手を翳して、指で丸を作ると、
その商品がインターネット上のカートに入る仕組みだ。

「えっと、機械魔神ブースは……最終決戦バージョンは……」

うろうろ歩き回りながら、周囲を見渡すシュエット。
ふと目に留まるのは、見覚えのある機体のアバターが鎮座しているブースで。

「おおおおっ! 鋼神のレイヴンのライザード・ツヴァイっ!
 再現度たっっっかい! これは買いですねっ!」

思わず叫んでしまった。
自らがメタラグで使用しているエース機体は、
ライザード・ツヴァイのオマージュである。
それくらいお気に入りの機体だった。

そっと、メニュー画面からマイクのミュート設定をONにするシュエット。
静かにブースを見たい同好の士も居るであろう、迷惑をかけたくはなかった。

さて、ミュートにさえしてしまえば。己を解放しても問題はないわけで。

「こっちは鋼鉄の勇者シグマの再現アバター! うわああ! このポーズ!
 第32話でシグマが復活した回!
 カタルシス抜群の勝利シーンを完全再現してるっ!
 って、こっちは銀河の剣士ダイナマイト!
 いやぁ、良いですよね、製作者は分かってらっしゃる!
 マイナマイトは、最高の相棒機でしたよ!
 もう……男同士の危険な友情が最高でぇ……
 ひゃああ~っ! 超機動戦士ゴッドロボッ!
 このフォルム! 最高です~~~っ!」

頬に手を当てながら、早口で言葉を並べ立てるシュエット。
電脳空間のロボットアバターも同じく、頬に手を当てている。

「素敵! 最高! 絶頂! 
 うわああ……もう言葉にできないですよ……てんごくぅぅ」

遂には電脳空間の中でへたり込んでしまった。
流石にメタルヘヴンの他の来訪者達も、
何だ何だと視線を向けて歩き去っていく。

「って、もうこんな時間……!?
 早くメタラグコラボブースに行かないと……」

頭を振って、走り出すシュエット(ロボット)

シュエット >  
『はい! こちらメタラグコラボブースです!
 こちらのブースで5000円以上お買い上げの皆様に、
 抽選用のシリアルコードをお配りしていまーす!』

メタラグコラボブースには、夢が広がっていた。
巨大な機械魔神キングオー3が、
広告のバナーと同じように拳を振り上げている。
その姿を目にしっかりと焼き付けるように見上げた後、
シュエットは意気込んでブースに入っていく。

「さて、5000円以上っと!
 あのアイテムもこのアイテムもほしいですし……
 ああ、キングオー3と同じカラー変更アイテムも!」

商品はどんどんカートに入っていき。

「よし、ぴったり5000円ですよっ」

ガッツポーズしてカートの中身を精算しようとするシュエット。

ビビッ。電子的なエラー音が響き渡る。

『決済エラーです。登録されているカード内容をお確かめください』

VR空間上に映る精算画面を見て、思わず声をあげるシュエット。

「そ、そんな筈は……」

端末を操作し、カードの詳細画面を開くシュエット。
そこには。

『カードの利用限度額を超えています』

無機質な表示に、思わず椅子の上で溶けるシュエット。
メタラグブースに到着する前に、あまりに多くのロボットアバターや
アイテムを買い込みすぎてしまったのだった。

「そ、そんなぁ……私のキカイオー3が……!」

この世界に来てから本末転倒、という言葉を教えて貰ったが、
まさにそれである。

「……ふ、ふふふ……もっと、仕事がんばりますか……」

シュエットは死んだ目で端末を取り外すと。

「ふふ、仕事仕事……」

ひとまず汗を流す為にシャワーに向かっていったのであった。

ご案内:「エルフのVRライフ」からシュエットさんが去りました。