2024/12/19 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にセロさんが現れました。
セロ >  
人多いな。
私はその言葉を飲み下した。

夕方のセンターストリート。
人が多い。
それがこの常世渋谷という街だった。
まるで“暗澹たる森に猿の眼光”……
いや、さすがに獣呼ばわりはこの世界の人に失礼すぎる。

とにかく人でごった返す街並みを歩く。
どうでもいいけどみんな足に色んな布やクツと呼ばれるものを巻いている。

……ハレンチだ。
目のやり場に困る。


誰も彼もが足に何かを装備している。
そして一人たりともそのことに疑問を持たないのだ。
少し視線を上向かせて歩こう。目の毒だ。

セロ >  
生活委員会という組織のおかげで私はこの街の住民になった。
追々、常識を覚えたら常世学園に編入されるそうだ。
学園。こんなに大きな学校があるのか。

それに切り立った崖のような建物が並ぶ街並み。
進んで良い時に緑色に目を光らせる一本足の機械。
理路整然と、それでいて高速で行き交う鉄の箱。

文明が違いすぎる。
さすがに説明を受けても理解が追いつかない……

猿は私だ。
私は森からやってきた猿も同然だ。

そして猿の立場に甘んじているわけにもいかない。
ドイトゥーラにも穂先の誇り、だ。

しかし知り合いもいない、こんな大きな街に一人きりとは……
(みんなハレンチな足してるし)

セロ >  
そして佳き時代(ベル・エポック)と違うのは。
鎌を持っていると目立つ、ということらしい。

みんな刺すような視線を私と、私の大鎌に向けてくる。
落ち着かない。
みんなハレンチな足をしているのに、私の鎌は気になるのか。

深呼吸をした。
冷たい空気が肺に入って咳き込んだ。
慌てて呼吸をしたら、鉄の箱が出す不浄の空気を吸い込んで噎せた。


私、この世界でやっていけるかな……

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に泳夢さんが現れました。
泳夢 >  
何てことはない、いつも通りの放課後ではあった。
木製ので電動車椅子を走らせて、少女は一人、夕焼けに染まる道を駆けていく。
……まぁ、駆けるための脚はないのだが、それはそれ。

そんなこんなで、たどり着いたのが常世渋谷。
どう考えても普通に帰るだけなら通り過ぎる筈の無い地区だ。

「ん~……」

何故に車椅子の彼女がここに立ち寄ったかと言えば、主にファッションの為。
好んで着ているクラシカルロリィタ衣装のブランドはココにしかないのである。

とはいえ、賑やかな人混みの中で車椅子の歩みはどうしても遅くなる。
少々もどかしい思いをしながらも、ゆっくりと待ち並みの中、進んでいた。
だからこそ、その街中で目立つ姿を思わずまじまじと眺めてしまった。

セロ >  
ペタペタと歩けば、どこにもたどり着きはしない。
一人でいることはそういうことだ。
イカツの迷宮を漫ろ歩くような寄る辺なさ。

その時、視線が合った。
合ってしまった。
不思議な乗り物に乗った少女と。

蒼穹を司るエイクスのように美しい青を湛えた瞳。
初雪の白に染め上げてもこうはならないであろう白の髪。
……この世界の貴族か、不興を買ったら大変だぞ。

視線が合った以上、挨拶をしなければならない。
この世界での挨拶は……ええと…

ふと、視線を周囲に向けると男性が知己と会う時に言葉を発していた。
あのまま言えば問題ないだろう。

「チィーッス」

完璧だ。後は相手が挨拶を返したらそそくさと離れて雑踏に──

泳夢 >  
やってしまったと、最初にふっと浮かんだのはそんな感情。
ついついちょっと物珍しいブツと容姿の人がいたからって、まじまじと見つめすぎたのだ。
或いはこの脚がしっかり揃っていたのなら、顔を逸らして早歩きで退散できたのだろう。
しかして残念ながら、車椅子ではこの道なりでは人並みの速度でのろのろ進むしかない。

「ち、ちぃーす…?」

ぎこちのない生返事を返しつつ、こてりと小首をまずは傾け。
それから今一度、その姿を上から下まで蒼い視線をなぞらせた。

「んと…最近、此処に来たばっかりって感じのひと、かな?」

きっとこちらに話しかけたのには、なにかしら理由があるのだろう。
容姿からして(いわゆる種族的な方で)人外丸出し。
この島に来たばかりの異世界の人とか、もしかしたら天使っぽい人なのかなと。
そんなアタリをつけて言葉を返した。

セロ >  
それにしても彼女のなんてゆったりとした道行きなのだ。
ノーブルな何かを感じざるを得ない。
自分の足で歩かずに済む乗り物で、さらにドレスのように美しい衣で。

……この困惑混じりの返事はッ!?
しまった、今のは男性用の挨拶だったか!?
しかし、時は戻らない!!
油断を食べるためにガゴズズは現れる、という言葉もある!!

「あ、私こっちなんで……」

失礼します、と言って羽を広げて空を行こうとした。
しかし、電線が張り巡らされていた。
しまった、結界だ!?
私はあれに触れてはいけないと厳命されている!!

羽を広げたまま滝のような汗を流していると。

「え、あ、はい……」
「この世界に来てまだ1アークトです……」

ギギギと音を立てて振り返った。
わー、この貴族エッチな足してる!!
って……関節が?

思わず見てしまう。(えっちなのに)

泳夢 >  
羽根を広げてピタリと制止する姿を見ながら、きょとんと見つめる。
もしかして、飛ぼうとでもしていたのだろうか?
普通の人ならそんな事はしないだろうから、やっぱり来たばかりなのだろうか?

そんな思考を巡らせていると、それを肯定する言葉が返ってきて、くつくつと苦笑を携えた。

「1アークト…はよくわかんないけど。えっと、やっぱり来たばっかりなんだね」

どうやら本当に来たてらしい。地球の常識もまだまだ全然知らないのだろう。
(恐らくは)異世界の時間単位が出たのが何よりの証拠だ。

それに、こちらの姿を何やら物珍しそうに見ている。
やはり義肢とか車椅子が、地球の人よりも珍しいのだろう。
球体関節が丸出しの、如何にも作り物な手足なのだ。
そうなるのも当然だろうと、その視線は軽く受け流すことにしよう、と。

セロ >  
「は、はい。1アークトはサンジュウゴニチです!」

緊張で背筋をピンと立てて答えた。
そして貴族さんは私が異世界ジンだと気づいたようで。
……玩具にされないだろうか。

いやいや待てセロ。
相手が邪悪だと決めつけるのは猿よりも粗暴だ。
そしてこのタイプの関節の足を持っているということは。

「木人さん、ですか?」

時々、行商にこういう人を見た。
案外この世界も馴染み深い種族がいるのかも知れない。

「ご、ごめんなさい……あ、足をじっと見て…」

顔を赤くして逸らす。
扇情的にも布に包まれた足。
ああ、セロ!! お前は精神修行が全く足りていないぞ!!

泳夢 >  
なるほど、1アークト=だいたい一カ月。
世界が違うとその辺りの基準も違うんだなぁ、なんてことを思う。

「あ、この手足はその、作り物だから。
 身体がお人形さんの種族…とか、そういうわけじゃないよ?」

だから、目の前の彼女のそんな推察にも、なるほどなぁ…と素直に受け取れる。
ひと先ずは「普通の人間だよ」とそんな返答で誤解を解こう。

「慣れてるから、気にしなくていいよ。
 やっぱりこんなだと、ちょっと目立っちゃうからね」

がぽっ、と右の義手で左の義手を外してみたりして。
先のない丸みを帯びた根元しかない手を見せておけば、きっとどういうものかは分かるだろうと。

セロ >  
「作り……物?」

そして腕の部品が外されると。
私の脳裏に色んな感情が駆け巡った。

先天的にしろ、後天的にしろ。
その状況である人にやれ貴族だやれ玩具にされるだの。
邪推を。した。私。セロ。

「ふん!!」

気合と共に自分の額をぶん殴った。

「……ごめんなさい、私はあなたが怖くて逃げようとしました…」
「なのにあなたは自分自身の説明のためにそんなことまで……」

殴った額は赤い。けど、そんなことより。
涙が滲んできた。
どうしよう、泣きそうだ。

「私は死神失格です!!」

叫んだ声で、周りの人がちょっとビクっとしていた。

泳夢 >  
「ちょっ、ちょっと!? 落ち着いて~!?」

流石に目の前で、突然自分の額を殴る様子を見れば驚きの声を上げてしまう。
何故?なんか私やっちゃった?と、そんな思考が駆け巡る。

あわあわと慌てふためきながらも、そう落ち着くように声を掛けながら。

「ほら、ね? 落ち着いて。深呼吸して?別に義肢を外したりとかはいつもの事だし?
 えっと死神さん?の教義とか何か的にはダメかもだけど、私は気にしてないからね?」

ひとまずは、そんな風にフォローをする。
死神…と聞くと、何故だかドクンと胸が高鳴ったが、それに気を回す余裕はない。
あんまり目立つと周りにも迷惑をかけてしまう。
どうどうと、慎重に落ち着いていくようにと声を掛けた。

セロ >  
ぐすぐす言いながら慰められる。
私は最低だ。オーガのシムイトにも劣る畜生だ。


しばらくすると落ち着いて。

「すいません取り乱しました……」
「申し訳ありません、初対面の方に精神面のケアを任せるとは…」

「あ、私は死神のセロです」

赤くなった額のまま小さく頭を下げた。
この世界ではこれをエシャクというらしい。

「お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

泳夢 >  
「あはは…とにかく、落ち着いてくれたならよかった…かな?」

流石に笑って水に流せるほどに泳夢は聖人にはなれないが、それでも最初に来るのは安堵であった。
ほっと一息付くように胸を撫で下ろし、作り物の両手をひらひら、気にしないでと軽く返す。

周囲の人々も何事か?とちらほら見物客も居たが、しばらくすれば興味も薄れて去っていく。
結局人とはそう言うもので、本当に大ごとでも無ければ関わろうとまではしてこない。

今回に関しては、本当にそれでよかったという感じだ。
補導やら通報なんてされれば、それこそ面倒なのだから。

「私は泳夢、ただの人間で、普通の学生だよ」

小さくこちらも会釈を返し、まずは挨拶。
色々ちょっと大変だったが、コレも何かの縁だろう。
交友を深めておくのはきっと悪いことではないはずだ、と。

「セロちゃん…でいいかな?
 えっと…死神さんって、実在するんだね?」

セロ >  
「騒がせていましたか…」
「重ね重ね申し訳ない……」

申し訳無さに身を縮める。
私は鶏の冠より小さくなっているに違いない。

「エイムさんですね、よろしくお願いします」

鎌に視線を向けて。

「私の世界では魂の管理者、兼……治安維持部隊みたいな…?」
「どんな村にも一人はいるくらい、そんなに珍しい存在じゃないんですよ」

「さすがにカムヨーベイツ……じゃなかった」
「だだっ広い荒野にはいないと思いますが」

空からひとひらの雪が降ってきた。
わ、わ。
この世界で初めて見る……!

「降ってきましたね……エイムさんはどこか行きたい場所が?」

泳夢 >  
「へぇ~……治安維持部隊……」

中々に仰々しい単語も混じっているが、きっとファンタジーな世界から来ただろうと想像する。
とりあえず地球基準だと、(少なくとも泳夢の意識の中に)該当する職業はぱっと出てこないものだ。
傭兵をしている天使みたいなものなのかな?とか、そんな例えが浮かぶ程度だろう。

「私は初めて見た、かな。
 地球の死神さんとかは、会ったことないし」

そんな会話を交えていると、冷え込む冬の空に相応しい白が降ってきた。
ふわりと舞い落ちる白の細やかな塵が、淡く黒の衣服を彩っていた。

「あ…そっか、もう冬だもんねぇ。
 私はこれからお洋服を買いに行くとこ、セロちゃんは?」

セロ >  
「はい、オーガやベルマルトやゴブリンやカギットの相手なら慣れています」
「お困りならいつでも頼ってくださいね」

初めて見た、と言われれば。
改めて痛感するのは、異世界に一人だということ。
寂しくない寂しくないと自分に言い聞かせる。

寂しいとは生殖や自己防衛に適した環境にいない時に生理的に生じる本能的感情に過ぎない。
きっとこの世界でもそうなのだ。

首を左右に振って。

「ああ、それなら護衛いたします」
「ご迷惑をおかけしたことの絹端にもなりませんが、ええ」

そうして先導して歩いていく。

「どっちでしょう」

そして振り返った。


それからあれこれ話しながら、ヨーフクのお店に行って。
キレイなものばかりのそこは。
きっと素敵で溢れていたに違いないのだ。

泳夢 >  
「あはは…護衛がいるような場所ではないけど…」

実のところ、買い物でちょっと手伝ってくれる人が居るだけでありがたい。

「ありがと、そういうことならお願いしようかな」

それに断って遠慮してもらうよりは、こういう言葉には甘えてしまうほうが良いと知っていた。
二つ返事でそう返して、こくりと頷き……

「あ、そうだね、お店の場所はね……」

車椅子を彼女の前でゆっくりと走らせて、目的の服飾店へと向かうのだった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からセロさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から泳夢さんが去りました。