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ご案内:「《サイバーアレクサンドリア大図書館》 第六六階層」に
《銀の鍵》
さんが現れました。<補足:黒を基調としたサイバーウェア。多くの自作プログラムを積んでいる。>
《銀の鍵》
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――深き世界へと降りていく。
――電子の記号で構成された世界の深い所へと降りていく。
《サイバーアレクサンドリア大図書館》、学園内の情報の一部が眠る場所。
その深淵へと《銀の鍵》は降りていく。
自らの異能と技術で電子の結界を次々と突破し、危険な《氷》※をも打ち砕いて
降りていく。
落下するかの如く、黒きサイバースーツに身を包んだ《銀の鍵》は降りていく。
そのスーツにいくつものプログラムを仕込んで。
ステルスプログラムによって身を隠して。
降りていく。
※Intrusion Countermeasure Electronics 通称《氷》(アイス)。侵入対抗電子機器の略称。ここでは攻撃性のあるセキュリティシステムである。
《銀の鍵》
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第六六階層。
学園内で起こった事件の情報が集まる一領域。
ネットワーク関係の事件にまつわるデータが保管されている場所だ。
「――開錠」
《銀の鍵》はそこへと降り立った。その手に握った《銀の鍵》によって閉ざされた門を開いて。
目の前に広がるのは闇。深き闇だった。
格子状に広がる世界すらそこにはない。
真なる闇が広がっていた。
《銀の鍵》のサイバースーツの淡い光のみがそこを照らしていた。
「……第六六階層。ここに間違いない。
この中に、師匠の情報があるはずだ」
ステルスプログラムを展開している。今はまだ侵入には気づかれていないはずだ。
破壊した《氷》に関しては、偽装プログラムを仕掛けておいた。
やがて気づかれるには違いないが、時間稼ぎになる。
《銀の鍵》
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そこには何もない。何の情報もあるようには見えない。
電子の世界の図書館。一応は仮想現実として再現された世界のはずだ。
だがそこには何もなかった。
第六六階層には闇が広がるのみだ。
「……なるほど。こういうセキュリティか。
だが、そんなもので俺は欺けない。
――行くぞ。今日こそ、何としても師匠の居場所を突き止めてやる」
《銀の鍵》が両手を広げる。
鈍い電子音のようなものがあたりに響き始めた。
彼の前に突如無数のモニターのようなものが出現した。
それが彼の目の前に、整然と並び始める。
「クラッキング――開始だ!」
すると、一斉にプログラムが起動しはじめる。《銀の鍵》が準備してきた数多のプログラムだ。
それはこの領域全体を移動し、探り、改竄していく。蝕んでいく。
隠された部屋の真実を暴かんがために動き始めていく。
イメージは重要ではないものの、それは翼の生えた顔のないものだった。
《夜鬼》と呼ばれたプログラムが、この領域全体を侵していく。
《銀の鍵》はそれと同時に、自分の目の前に出現したいくつものウィンドウを叩き始めた。
凄まじいスピードでこの領域に展開されたステルスセキュリティにクラッキングをかけているのだ。
師匠から教わったハッキングの数々。電子の世界で生き残っていく術。
それらを駆使して、彼はこの領域の闇を暴いていく。
「……いける。問題ない。このままだ……!」
次第に、目の前の世界が歪み始める。
いくつものも文字列が現れては破壊されていく。
幾何学的な模様がこの部屋一体に広がっていき、淡く、赤く、輝き始める。
《銀の鍵》
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不可視の防壁が崩れていく。この領域全体を覆っていた闇が解かれていく。
バラバラと、ガラスがはじけるように崩れ去っていく。
現れたのは、赤い世界。
赤い線、赤い格子状の線で彩られた世界が明らかになっていく。
「――随分とあっけないな」
崩れていくステルスのセキュリティを見ながら《銀の鍵》は言った。
自身の放った《夜鬼》、自身の行ったクラッキング。それによって、この部屋の隠された姿が明らかになっていく。
《大電脳図書館》第六六階層。
通称――セラエノ。
いくつもの赤黒いブロックが積み上げられたようなイメージ。
いくつもの情報が石版のように折り重なったようなイメージ。
この学園都市で記録された事件。
この学園都市で封印された事件。
それが集まる場所であり、そして――
「――ッ!?」
反転。
脳髄を揺り動かす、吐き気を催すようなアラームが鳴り響きはじめ、《銀の鍵》はすぐさま脳髄へのダメージを軽減するための防御プログラムを展開する。
何かが来ようとしていた。
アラームが鳴り響き、赤い光が部屋に満ちていく。
いくつもの情報が記録されたと思われる石版状のデータパネルには理解不能の文字列が表記されていく。
何かが来ようとしていた。
「……簡単すぎるとは、思ったが……!」
《銀の鍵》
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禁忌の知識が眠る場所。
人が知るべきではない知識の眠る場所。
だが、彼はそんなことは知らない。知るはずもなかった。
瞳があった。
燃えるような瞳だ。
電子で構成されたそれが突如《銀の鍵》の前に現れた。
そして、その周囲を取り巻くように、歪んだ五芒星が描写されていく。
「何だ、これは……!!」
《銀の鍵》は身構える。異様な気配があった。
普通の《氷》ではない。
明らかに《銀の鍵》の経験したことのない何かの気配だ。
そして、五芒星がはじけ飛んだ。
封印を解かれたかのように、五芒星に取り囲まれていた瞳が燃え上がっていく。
鍵を解いたのだ。
《銀の鍵》は。
《銀の鍵》
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『――――――!!!』
何かの声にならない声があがった。
空間を引き裂くようにな叫びがあった。
電子で構成された恐怖。
電子で構成された怪異。
電子の空間を引き裂いて、燃え立つ瞳の中からそれが現れる。
「く、ううぅっ……!」
電子で構成された仮面越しに、思わず《銀の鍵》は口を押えた。
吐き気を催した。
それの叫びは脳髄にしみこんでくる。
それの姿は脳髄を侵してくる。
「なんなんだ、これはッ……!!」
《銀の鍵》はそれを正確に認識できなかった。
脳髄を守るための防御プログラムによって、目の前のものの真の姿は隠されていたからだ。
かろうじてわかるのは、黄色い衣服をまとった何か。冒涜的にもそれは人に近い姿をしていた。
服の中から毀れる無数の触手。電子で構成されていながら、有機物のような姿。
名状し難い叫びを持って、それは顕現した。
《銀の鍵》
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『The King in Yellow』
《銀の鍵》の視界に、歪んだそのような文字が見える。
「な、んだ、これ……!」
《銀の鍵》は立っていられない。
根源的な恐怖があった。
嗚咽。震え。後ずさり。
人では敵わないなにか。
それがそこにいた。
「クッ……! 駄目だ、これはヤバイ!」
必死で防御プログラムを起動し、自分の脳髄を守る。
このままでは完全に電脳死する。
《銀の鍵》
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声にならない叫びをあげてそれは近づいてきた。
この電脳の世界を犯しながら。
目の前の存在の前では、全てが歪んでいくのがわかった。
電脳世界が意味不明の文字列で歪み狂い、未知の言語が吐き出されていく。
《銀の鍵》は力を振り絞って逃げることしかできなかった。
理解はできない。だが、あれがとてつもなく危険なものだということはわかった。
今の自分では敵いそうにないものだ。
この領域自体が既に一つの罠であったのかもしれない。《銀の鍵》は逃げながらそう思った。
あの化物は、対ハッカー用の《氷》だ。
だが、今まで出会ったことのないようなものだ。とても人間が作り出せるとは思えないものだ。
それだけ、ここに危険な知識があるというのか。
「師匠、師匠は一体、何を追って……く、あああっ!?」
刹那、《銀の鍵》の眼前に、突如穴が現れ、名状し難い電子の触手がそこから飛び出してきた。それにより、《銀の鍵》は勢いよく殴られる。
「くぅ、あかあっ!?」
第六六階層の地面に強く体を打ち付けられる。
防御プログラムを幾重にも張ったものの、全く歯が立たない。
「……こ、こんな……」
こんなところでは死ねない。
まだ師匠も見つけていない。家族を失った事件のことも。世界の真実も。
まだなにも、成してはいないのに。
《銀の鍵》は電脳に受けたダメージを修復しようとしつつ、立ち上がる。
目の前の電子の怪物と対峙する。
《銀の鍵》
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目の前の黄衣の何かを直視しないようにしながら、《銀の鍵》は思案する。
次で必ず自分を殺しに来るはずだ。このような電子の化物が何のために必要なのかなど全く想像はつかない。
だが、このままでは確実に殺される。逃げることも叶わないだろう。
《銀の鍵》は、眞人は、3年前のような理不尽を終わらせるためにここにいる。
もうあの時のような思いを味わうわけにはいかなかった。
「……なんだか、知らないが……。
ここで、諦めるわけにはいかねえ。
お前が何なのか、ここがどういうものなのか。
そんなことは知らない。だが……!
わかるぜ、きっとここに師匠を探すための重要な機密がある。
お前を打ち倒して、それを手に入れてやる!」
直視すれば発狂してしまいそうなほどの重圧を受けながら、《銀の鍵》は叫ぶ。
当然、相手が理解するとも思えない。
だから、自分にそう言い聞かせたのだ。
「――行くぞ!」
《銀の鍵》
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右手を、伸ばす。
前へと伸ばす。
思い切って目を見開いた。
師匠はここに来るなと言っていた。自分に何かあってもこの島に来るなと言っていた。
きっと、来たことがばれればひどく怒られることだろう。
殴られもするかもしれない。
だが、眞人にとって師匠はそれだけ大切な物だった。
家族を失った眞人に出来た、唯一の家族。
それを取り戻すために、今日まで生きてきたのだ。
「――俺は《銀の鍵》だ。どんな「門」でも、こじ開けて見せる」
目を見開いた。目の前の電子の怪異を見据える。
《銀の鍵》の、眞人の精神は、脳髄は、そこで死んでいたはずだった。
人間の理解の超えたもの。それを直視した故に。
だが、彼は死んではいなかった。
そこに手を伸ばして立っていた。
右手に掴まれたのはアラベスク模様にも似た奇怪な形状の、銀色の鍵。
それを目の前の黄色い衣を纏った何かに向けていた。
「――師匠?」
正確に目の前の怪異を捉えながら、《銀の鍵》は呟いた。
自分の傍に、何かがいる気がする。
自分の傍に、褐色の肌の、白い髪の少女を幻視する。
電脳世界を舞飛ぶ魔術師。電脳の夢見人。
《電子魔術師》――電脳世界に消えたはずの彼女がそこにいるように感じられた。
そして、その手が、眞人の右手に重なる。
『コード・ルーシュチャ』
そこにいるはずのない存在。それに誘われるように。
眞人は自然と、そう呟いていた。
《銀の鍵》
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刹那、《銀の鍵》の周りに無数の文字列が現れ始めた。
それは数列であろうか。全く未知の数列、数式が人魂の如く現れ、《銀の鍵》の周囲を回る。
その数式を《銀の鍵》は演算していく。人知を超えた数式が次々と解かれていく。
《銀の鍵》は「門」を開く。果てない世界の何処かへの「門」を開く。
自らの体と脳髄を、遥か彼方にある何者かと一つにして。
瞳は目の前の怪異を見据えたままで。
《銀の鍵》が幻視した少女が電子の記号の塊となり、数式に紛れて《銀の鍵》の周囲を回っていく。
『――深き闇に夢みし電脳の神よ』
『――我は汝らの使者にして魂魄にして』
『――我は神意なり』
『――故に、我は命じる』
《銀の鍵》の姿が変容していく。電子の記号によって、作り変えられていく。
あの少女のように。
肌は浅黒く。髪は白く。
姿を変えていく。
無意識に言葉を紡ぐ。
自分の意志ではない。誰かの意志でそう《銀の鍵》は言わされているのだ。
誰かはわからない。
ただ、無意識のままに。
《銀の鍵》
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銀色の鍵が、電子の怪異へと向けられる。
その鍵の先が、電子の怪異に向けられる。
『――《黄衣の王》』
『――電脳の神々の秘密を守りし者よ』
『――我は汝に命ずる』
『――■■■■■■■■の名を以て』
『――夢見るままに、消え去れ!』
『――開錠!』
《銀の鍵》
>
鍵を回す。
銀の鍵を回す。
かつて、遥かな夢の世界に旅立った者が用いていた《銀の鍵》を。
電子によって再現された、大いなるもの。
《グレート・サイバー・ワン》の一柱へと向け、回す。
鍵は開かれた。
大いなる電子のものが夢見続ける、電脳への鍵が。
神々の心臓。電脳の神々を再現する根本のもの。
神々の電脳。神の夢へと、《銀の鍵》は入り込む。
刹那、彷徨があった。
《黄衣の王》の叫びがあった。
最強であるはずのものの姿が。人では敵わぬはずの大いなるものが。
電子の記号と成り果てて崩れ去っていく。
『――二度と再び千なる――の我に出会わぬことを宇宙に祈るが良い』
『――我こそは這い寄る――■■■■■■■■なれば』
《銀の鍵》は言った。
消えていく電脳の神に向けて。
《銀の鍵》
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『馬鹿者め。来るなと言っただろう。
お前は来てはならない。絶対にだ。
私の事は、もう諦め――』
最後に、眞人の耳にそんな言葉が残された。
意識が混濁し、目の前が白に染まっていき――
《銀の鍵》
>
「――は、ぁっ!?」
《銀の鍵》は、眞人は、気づけば第六六階層に一人立っていた。
自分を襲っていたあの電子の化物は既にいなかった。
「……あれは、どこへ? 師匠……?」
《銀の鍵》は何があったのかを覚えていなかった。
ただ、師匠が自分の傍にいたような、そんな記憶だけである。
「何だったんだ、クソッ……」
何が重大なことがあったはずだが、思い出せない。
電脳から記憶をすっぽりと抜き取られたかのようだった。
「……だが、もう大丈夫みたいだな」
《銀の鍵》の周りには無数のデータパネル。学園内での事件を記録した石版状のものがあるのみだった。
あの電子の怪異は、どこにもなかった。
ただ、師匠の声が聞こえたような気がしていた。
『来るな』と。
《銀の鍵》
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「……行かないわけ、ないだろ。
俺が何のためにここまで来たと思ってんだ」
一人呟く。最初から、この島には来るなと言われていた。
だから、その記憶が不意に蘇ったのだと、そう《銀の鍵》は思った。
「……もうそろそろ気づかれるころだな。ステルスプログラムも限界だ。
さっさと情報だけ探しておさらばだ」
そういうと、危険が去ったらしいこの領域に、《銀の鍵》はハッキングをかけていく。
無数の文字列が《銀の鍵》の前に現れていく。
キーボードを空で打つかのような動作を繰り返し、目まぐるしいスピードで指を動かしていく。
そうすれば、データの納められた石版状のプログラムが《銀の鍵》の前に一人でにやってきては、消えていく。
「違う、これも、違う――これだ!」
師匠に繋がる情報を取捨選択し、遂にそれらしきものを発見した。
秘匿された事件。消去されたはずのデータ。
「《電子魔術師》事件」
そう題名がつけられていた。《電子魔術師》とは眞人の師匠の名だ。
この事件のデータを眞人は自身の電脳にコピーしていく。
「……ルルイエ領域……グレート・サイバーワン……窮極の門……ロスト――』
そのデータを開き、中身を見て行く。謎の言葉がそこにはちりばめられていた。
「ルルイエ領域……間違いない、師匠が追ってたのはこれだ!」
だが、突如部屋にアラームが鳴り響き始めた。
侵入に気づかれたのだ。今は詳しく見ている暇はなくなった。
「チッ……もう限界だ! データは抜き出した。ならもう用はねえ!」
そう叫ぶと、再び何かのコードを空で叩きこんでいく。
すると、電子の回廊が《銀の鍵》の前に現れていく。
「……何があったのかちゃんと覚えてねえのが不安だが、目的は果たした。
後は逃げ切るだけだ!」
《銀の鍵》は自らプログラムで作りだした回廊の中へと飛び込んでいった――