2015/06/20 - 20:46~01:37 のログ
ご案内:「夕暮れの第一大教室棟廊下」に桜井 雄二さんが現れました。<補足:不燃不凍のスーツに身を包んでいる。(乱入不可)>
桜井 雄二 > (生活委員会の男が廊下を一人で掃除している)
(ただ、ただいつ終わるともないモップがけ)
(男は気合で掃除することをモットーにしているが、何となく気の入らない――――こんな日もある)

ご案内:「夕暮れの第一大教室棟廊下」に三千歳 泪さんが現れました。<補足:金髪碧眼ダブルおさげの女子生徒。重たそうな巨大モンキーレンチつき。>
三千歳 泪 > 目に見えない何かがものすごい速さで飛び回っているような音がする。それは世界と世界のはざまに鳴りひびく音楽。
はじめはお尻が浮いちゃうような浮遊感があって、それから寄る辺なき漂流者の孤独を味わう。最後に吐きそうなほどのめまいに襲われた。
見当識の喪失。《タイムトラベラー》が書きとめた難しい言葉の意味が今ならとてもよくわかる。ここはどこ。わたしはだれ。

大人ふたり分くらいの大きなガラス玉がの空間に割り込んで、その内側に得体のしれない機械が現れる。
半透明のパラボラアンテナを二つ向かい合わせて、演算装置と革張りの椅子と、真鍮のパーツを押し込んでぎゅっと固めたみたいな何か。
ところかまわず火花が飛んですごくまぶしい。その操縦席の上で青い顔をしている女子生徒がいた。私だ。

「――あっ桜井くん!! おーい! いま何時!? 今日はいつ? 何月何日の何曜日かな! どこかで私を見なかった??」

桜井 雄二 > …………!?(さすがに目を疑う)

(空間の変化、そこに現れた謎の機械、そして中にいたのは)
三千歳泪……!? いや、今は6月20日の17時20分頃だ。土曜日。
………何を言っているんだ、三千歳泪。お前はそこにいるだろう?
今度は一体なんだ、テレポートでもアポートでも機械で再現したのか?

三千歳 泪 > 「今日なの? ビンゴ!! たいだい6時間前ってことになるかな。私は6時間後からきた私!」
「あっちはちょっと大変なことになっちゃっててさー! 私も厄介なことに巻き込まれちゃったみたいで」
「誰かの助けが要りそうなんだ。助けてくれる?」

運転席から飛び降りて、あやうく転びそうになる。まだ頭がくらくらしてる。でも平気。なんとか立ってる。

「まずはこの機械を隠さないと。倉庫とか、何かかぶせて隠しておけそうな場所。心当たりはある?」

桜井 雄二 > 6時間後から来た……?(沈思黙考)タイムリーパーか。
ちょっと待ってくれ、三千歳泪。(目頭を押さえて)理解が追いつかない。
それでも……助けが要るんだな?(モップでトン、と床を叩いて)
引き受けた。俺は手の届く範囲の人間を守る。6時間の誤差は愛嬌だ。

大丈夫か、三千歳泪。とりあえず掃除子さんを入れてある裏手の倉庫がある。
生活委員会以外近寄らないし、その生活委員会も月曜まで殆ど来ないだろう。
そこまで運ぼう。掃除子さん用の防塵ビニールシートもある。

……それと、急ぐようなら俺が通学に使ってる魔導バイクがあるが。

三千歳 泪 > 「ありがとう! 君は私を助けてくれる。頼っていいって言ってくれたから。さっそくで悪いんだけど、お願いするよ桜井くん!」

「いいね! 今だけ隠しておければ十分。研究会の人たちに見つからなければ、勝手に使われちゃうこともないはず」
「このマシンは《時間旅行研究会》の秘蔵っ子なんだ。19世紀の《タイムトラベラー》が使った正真正銘の本物だっていわれてた」
「でも回収された時からずっと壊れたままで、直す方法は誰も知らない。研究会そのものがこの子を復活させるための組織だったんだよ」

《時間旅行機》の羽根をたたんで大型バイクくらいのサイズに縮める。これなら二人で押せるかも。

「そこに私が登場するわけだよ。《直し屋》さんの評判通りなら、この子もきっと直せるはず。そう思って依頼がきたんだ」
「お話の結末からいえば、修理は成功。大成功だった。実際、うっかり作動しちゃってさ」

一度目のタイムトラベル。行き着いた先は赤く乾いた灼熱の砂漠。
文明の痕跡なんてどこにもない、荒涼とした未来。あるいは太古の世界だった。帰ってこれてほんとによかった。
荒廃した世界の印象を振り払って《時間旅行機》を運びこんでいく。

「君にはもう一人の私を見つけてほしいんだ。今日は一度も会ってないのがもともとの歴史。私たちの運命だった。変えられると思う?」

桜井 雄二 > ああ、任せろ。(はっきりと答えたが、モップ片手では締まるものも締まらない)

研究会……? 時間旅行研究会、だって…?
(時間を操作する異能や魔術、そして限定的な科学は存在すると聞いたが)
(過去に戻るほどの大規模なタイムリープを実現させるなんて)
宇宙がまだ隠し持った秩序のない理論、タイムマシンか…

(モップの入ったバケツを置いて二人でその機械を押しながら)
そういうことか……直し屋の力を使ってその機械を直そうと。

(機械を倉庫に運び込み、シートを被せて)
いいだろう、三千歳泪。どこにいたとしても、お前を見つけ出してやる。
……約束だ!(相手の目を見て、無表情に、だが―――力強く頷く)

三千歳 泪 > 「私が見たのは死の世界。君がいない時代。世界のすべてが幻みたいに思えるほど残酷な場所だった」
「あっという間に帰ってこれた。《時間旅行機》には漂流をふせぐ安全装置がついていたんだ。《タイムトラベラー》さまさまだね!」
「でも、研究会のラボは上を下への大騒ぎになってて…あんまり歓迎されなかったんだ。マシンの復活は大歓迎。でも私は邪魔者だった」
「それどころか、昨日までの仲間さえ世界の秘密を知るもの同士。すぐに撃ちあいがはじまって、どんどん人が倒れていった」

「私のせいでたくさんの人が死んじゃった。あの場所にいたらきっと私も。軽い気持ちで引き受けたから、私のこの手が未来を壊した」
「《時間旅行機》が壊れてた理由。手遅れになってやっと気付いた。でも遅すぎたんだよ。――それで逃げてきたんだ。あの結末から」

血を見ただけで気分が悪くなる。震えが止まらなくなる。惨事の現場は時の彼方へ置いてきたのに、私の脳裏に焼きついていた。
《タイムトラベラー》は知っていたんだ。時の流れに逆らうことの愚かしさを。
桜井くんの目はいつも通りで、特別な感傷なんかどこにも見えない。実直でまっすぐで、どんな慰めの言葉よりも雄弁だった。

「うん、約束だよ。運命は変えられるはず。私一人じゃ何もできないけど、君と二人ならできる気がする」
「今日は研究会の仕事が始まるまで、ひとりでお茶を飲みにいって時間を潰してたんだ。お店はここ!」

気を取りなおして。タブレットのマップ機能で座標とお店の情報を見せる。間に合うかどうかギリギリの距離だ。

「うーん、バイクがいるね!! 私を見つけたら引き止めて。絶対に行かせないで」
「私はきっと行こうとするはず。こう見えてけっこうマジメちゃんだからさ。少なくとも仕事にかけては…」
「時間がないし、手段を選んでる暇もない。君になら何をされてもいいから、絶対に止めないといけない! やってくれる?」

桜井 雄二 > 死の世界……(考えるだけで恐ろしい、それが過去なのか、未来なのかさえ見当がつかない)
それがなかったら、時間漂流者か。笑えないな、三千歳泪!
……人類の手に『時間』は大きすぎるんだ。
だから流されるしかない。それをわからないから!

そんな結末、認めない!(駐輪スペースに走り出して)
三千歳泪をただの人殺しになんか、絶対にさせない!!
(二人で走りながら会話をかわす、――――この不完全なる世界のために)
俺とお前で惨劇の未来を変えるんだ!

なんだ、近いじゃないか。(軽口で弱気を打ち消しながら)
(バイクに跨る)お前は……未来の三千歳泪は来ないのか?
(キーを差しこみ、術式を起動させる)
いや、待てよ……タイムリープした時に同一人物が会ったら、二人とも消滅するんだったかな?
うろ覚えだ……どうすればいい。

三千歳 泪 > 「そこだよ! 《タイムトラベラー》は結局、自分自身には会わなかった。どうなるかなんて誰も知らない」
「私は私にできることをする。そっちは君に任せるつもり。別働隊ってことになるかな」
「もし止められたら歴史が変わる。《時間旅行機》は壊れたまま、第二の《タイムトラベラー》が現れるまで復活をとげることはなくなる」

「だから、君とはここでお別れ。君ならできるよ。もっといい未来を作れるはず」

この介入が成功すれば、《時間旅行機》の再生は無かったことになる。それは私が消えるということ。
6時間分の記憶が消えるだけ? きっとそれだけでは終わらない。それはおそらく、言葉どおりに。
桜井くんは気付いてるのかな。気付かないふりをしてくれてる? どっちだろう。この際どっちでもいい。
君は優しい人だから。打ち明け話でもするみたいに唇、重ねて。

「報酬。先払いしとくから。がんばれ桜井くん!!」

桜井 雄二 > ………なるほど、未知の領域ってわけか。無茶はしないほうがよさそうだな。
わかった、二人で絶望の未来を打ち砕くってことだな。
(バイクに跨ったまま凶悪なエグゾーストを押さえつける)
(この魔導バイクは気分屋だ、最初に慣らしておかないと高速の世界へは連れていってくれない)

そういうことか……って待て、お別れって…
それじゃ6時間後の世界線のお前は―――――
(柔らかな感触が唇に触れた)

………っ!(表情を歪めた、これが未来を変えることの代償)
報酬、確かに受け取った……『また会おう』三千歳泪!!

(バイクは鋼鉄の咆哮を上げながら走り去っていく)
(かつてない速さで、今まで一度も到達したことのない領域へ)

三千歳 泪 > 「ばいばい、桜井くん。私には帰らないといけない場所があるから」

6時間後の世界に帰れば、硝煙弾雨の大惨劇が待っている。今ごろあの場にいた誰もが怒り狂っているはず。
桜井くんの端末に《時間旅行研究会》の場所と事件のあった時間だけを飛ばして、さっきの倉庫に戻っていく。

同じ空の下に同じ私がいるなんて、ものすごく不思議な気分。でもこの時代にはいられない。
私には清算しないといけない「未来」があるのだ。だからさよなら。お達者で。

桜井 雄二 > クソッ………(この世界線の三千歳泪を救えるかどうかもわからない、だが可能性はある)
(それはこれからの自分の頑張り次第だ、そう考えると勇気だって沸いてくる)

(だがさっきまで会っていた三千歳泪は救われない)
(待っているのは絶望の未来、残されているのは罪と罰)
クッソォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
(走りながら、涙が一滴だけ――――風に飛ばされて散っていった)

(時間旅行研究会、それがあの世界線の彼女を惨劇に導いた者たちの名前)


(いつもは法定速度を守って走っている公道が時速240kmの世界では貌を変える)
(それでももっとだ、もっと速度が要る)
(時間がない、時間時間時間時間時間時間時間時間時間)
(六時間後の世界の俺は三千歳泪と別れる運命にあるのだろうか?)
(感傷すら振り切るために、男はバイクを走らせる)

(景色が歪むほど、時間を置き去りにするほどに)

(荷物を満載にしたトラックをすり抜けていく)
(ドライバーがこちらを見て凄まじい形相で驚いている軽自動車を追い抜いていく)

(高速道路で事故が多発してまだ時間が経っていない――――ゆえに、あるいは運悪く検問がある、だが)
邪魔をするなああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
(左半身の氷雪の力を全開)
(氷の道路を作り、ジャンプ台のように角度をつけて検問を飛び越した)

(着地と同時に再び加速していく)

三千歳 泪 > 頭の中は同じ場所を行ったり来たり。今夜の仕事のことだけが、ぐるぐると渦巻いている。
今回の依頼は常世島に運び込まれたビックリアイテムの中でもダントツに素敵なサムシング。燃え落ちた世界から発見された奇跡の装置。
何と何と。あの《タイムトラベラー》が使った本物のタイムマシンだ! 実在したんだね。あの小説にはモデルがいたってことかな。
一体どんな形をしているんだろう? それもこれも《時間旅行研究会》のラボにいけば明らかになる。楽しみだなぁ!!

おしゃれなカフェのオープンテラスに爆音が響きわたる。
膨らんでいく一方だった想像のバブルがはじけて、顔をあげれば桜井くんがそこにいた。

「あれ、桜井くんだ。どーしたのさそんなに急いで? うっわー汗びっしょりだよ!! なにか飲んでく?」

桜井 雄二 > (一応、氷を張って光の屈折率を変えてナンバープレートの番号は変えてある)
(いざとなればしらばっくれれば一発免停は免れられるかも知れない)
(だが、今はそんな小さなことはどうでもよかった)

(カフェのオープンテラスにいた彼女は、これから起きる惨劇など知らない)
(バイクを止めて彼女の元へ歩いていく)
三千歳泪。(テーブルに両手をついて)今日の仕事はキャンセルしろ。
(表情が険しい、動悸が止まらない――――不器用な自分に言葉を選ぶことなんてできない)
時間旅行研究会には行くな。(荒い息を吐きながら、汗を拭った)

三千歳 泪 > 「え?」

仕事の内容は誰にも明かさない。どんな親しい友達にも言い触らしたりはしない約束。それが私のポリシーだった。
今夜の仕事のこと、桜井くんが知ってるはずがない。単純な事実のズレには底なしの不気味さがあって、たじろいでしまいそうになる。
何かが乾いていくような感じがして、まだ氷がとけずに残ったアイスコーヒーを口にしていた。

「なに、それ。ごめん。ごめんね! 今夜はちょっとダメなんだ。予定入っちゃっててさー」
「山のことなら調べたよ! 青垣山。珍獣みたいないきものの目撃例があるんだって! ツチノコを見たっていう噂もあるんだよ」

冷たい水とおしぼりをもらって桜井くんにすすめる。事情がわからないけど落ち着いたほうがいいと思う。

桜井 雄二 > 時間旅行研究会のことは聞いている。
(高鳴る心臓を止めなければならない、居心地の良い気温を作り出して胸いっぱい吸い込み、吐き出す)
はぁ………ダメだ、キャンセルしろ三千歳泪。
青垣山は楽しみだな、俺もそう思うよ。
だがこのままお前が時間旅行研究会に行けば絶望の未来が訪れる。
もうデートには行けなくなるんだ。信じてくれ、三千歳泪。
(ダメだ、こんな言葉しか出てこないのか)
(溺れかけた子犬のような表情が自分の顔に張り付いていることが鏡を見なくてもわかる)
(何か、何か手はないのか)

三千歳 泪 > 桜井くんはこれ以上ないくらいひどい顔をしていた。心が揺れる。君がそんな顔するなんて。見ていたくない。

「や、やだなー…そんなの知らないよ。前にも言わなかったっけ。私は私の仕事をするだけ!」
「《直し屋》さんの仕事は壊れたものを直すこと。だれが、どうやって、何のために壊したかなんて関係のないことだよ」
「信じるもなにも、ぜつぼーの未来って何さ? 心配しないで。いつも通りの仕事だよ。大げさだなー」
「大変なことになっても私が自分でどうにかする。万が一ダメそうなら君を頼る。忘れてないから、それでいいでしょ?」

タブレットが鳴動して次のスケジュールが近いことを告げる。そろそろ行かないと。
アイスコーヒーの残りを飲み干して、ウェイトレスさんに代金を渡して席を立つ。

「ごめん、桜井くん! 続きはまた今度ね!!」

桜井 雄二 > (席を立ち、去ろうとする三千歳泪の手を引いた)

(振り返らせて、俺は―――――笑えた、んだと思う)

(それから彼女の唇を奪った)

(力強く抱きしめて、言った)

行かないでくれ。お前の未来を愛しているんだ、三千歳泪。

(涙が滲んだ――――さっき、自分は笑っていたはずなのに、おかしな話だ)

三千歳 泪 > 何が起きたのか理解するまで、あとどれくらいいるだろう。まだわからない。わかってない。
桜井くんの腕が痛いほど強く私を引き止めていて、唇に残った感触で意識が真っ白に塗り替えられる。

言葉はそのまま流れていってしまいそうで、慌ててつかまえてその意味を考え直す。
行かないでくれ。お前の未来を愛している。意味がわからない。愛のささやきに聞こえなくもないけれど。
急がないといけない理由があったんだ。それは私がまだ知らない未来の出来事について。

タイムマシン。未来。絶望の未来。私の仕事をとめないといけない。
頭の中で白い火花が散ってはじける。おぼろげに浮かんだ仮説は状況と一致していた。
そっか。なるほど。君が必死になる理由、やっとわかった気がする。桜井くんは泣きそうな顔をしていた。

「――ヘンなの。やっぱりヘンだよ桜井くんは」

君が笑っていられるように、思いっきり笑って答えることにした。

「好きだよ。桜井くん。私も君が大好きだ! 今日はいけないって連絡入れるね。それでいい?」

桜井 雄二 > (伝わった想い、伝えきれなかった言葉の分まで伝わる温もり)
ああ、それでいい。(名残惜しそうに離れて、知らず流れていた自分の涙を拭う)
(周囲の視線がこちらに集中している、カフェのオープンテラスだからか)
失礼、お前たちの日常を続けてくれ。
(どこかズレた言葉と共にギャラリーに咳払いをして)

今日は寄り道しながらゆっくり帰れ、三千歳泪。
お前の未来は俺が守る。(ヘルメットを被りなおす)
(バイクに跨り)時間旅行研究会に行ってくる。
三千歳泪はあいつらからの電話に出るな。それと、これからあいつらに何が起きても黙っていてくれ。
それだけだ。あとは俺が『今』を愛するだけなんだ。
(バイクの中で表情が険しくなるのを、悟られたくなかった)
(時間旅行研究会を潰さなければ、結局三千歳泪の身に危険が及ぶ)
(6時間後の世界線の三千歳泪を絶望の淵に追いやった連中を許してもおけない)

……なぁ、三千歳涙。デート、絶対行こうな。

三千歳 泪 > なにか理由をつけて断ったほうがいいのかもしれない。でも今は一秒でも早く安心させた方がいい。
今日はいけなくなった。申し訳ない。そんな感じの文面を作って桜井くんに見せた。

「大丈夫だよ!! 絶望の未来はこれでなくなる。なに泣いてるのさ!」
「君が見たのは悪い夢だった。もう一人の私もよくやったと思う。褒めてあげてくれるかな」
「デート、楽しみにしてるね」

忙しいなあ。笑顔が苦笑に変わりながら、「送信」の表示をタップする。

―――――――

そんなこんなで、私はタイムマシンを修理しなかった。私は過去に飛ばなかった。私の介入は無かったことになった。
そして、世界は巻き戻る。たった一つの歴史へと収束していく。

それは大いなる時間の罠。私を捕える牢獄のようなもの。介入なんてはじめから無意味だったんだ。

介入は起きない。私はタイムマシンを修理しにいく。大惨事がおきる。そして6時間前の過去へと飛ぶだけ。
私/彼の運命は変えられない。時間も場所も、しかるべき場所まで引き戻される。
何もかも、なかったことになってしまった。

たった一人、彼の記憶を除いては。本当の《タイムトラベラー》は私ではなく彼の方。
たとえ全てが奪われても、魂に刻まれた記憶までは奪えない。
紙が自然に燃えだすディストピアで、そんな空元気みたいな希望の言葉を叫んだ人がいた。

桜井 雄二 > 待てよ……(端末を開く)あの三千歳泪から……?
(そこにあったのは時間旅行研究会の場所と特定の時間)
ひょっとしたら……(バイクを走らせる)

(魔導バイクの魔素はまだ余裕がある)
(その時間に間に合えば、あるいは)

(男がバイクを走らせる、その場所へ、その時間へ)

三千歳 泪 > 流血はさらなる流血を呼んだ。私が帰還をはたした時、ラボの血の海に横たわる犠牲者はさらに増えていた。
元は私がまいた種。立ち向かうのに遅すぎるということはないはず。この人たちを止めないと。

もう怖いものは何もない。心残りになりそうなことは済ませてきたから。
《時間旅行機》のクロノメーターには、ついさっきまで私がいた時刻が表示されている。
名残りを惜しむ暇もない。研究会のメンバーが気付く前に、モンキーレンチを思いっきり振り下ろした。

歯車が飛ぶ。フレームが歪む。キャノピーのガラスが割れる。アンテナの羽根がもげて宙を舞う。
断末魔みたいな絶叫が幾重にも重なって響きわたる。宿願がぶち壊しにされたのだから怒るのも無理はない。
怨嗟の声。底知れない憎悪が向けられて冷たい戦慄が走る。

「やめときなよ!! そんなもの向けてどうするのさ? 撃っちゃう? 殺しちゃうの?」

直せることは立証済み。私を殺せば直せる人はいなくなる。大声で叫ぶだけで私に向いた銃口が揺らいだ。
時間を稼いだだけ。生きて出られるとは思えない。ここでは誰もが狂ってしまっているから。手詰まりだ。

桜井 雄二 > (混迷を極めるその場に声が響く)

返してもらいに来た。

(ラボの入り口、ドアが溶解してぐにゃりと溶けて流れた)

俺たちの未来を――――――返してもらいに来た。

(右手を突き出したまま歩を進めるのは、右半身から炎が浮き上がり、左半身が凍結している魔人)
(そう、魔人―――――氷炎の支配者、桜井雄二)

その銃口……残さず俺に向けてもらおうか。
一発でも三千歳泪に掠らせてみろ。骨まで消し炭だ。
(左拳を握ると、極低温が周囲を凍てつかせる)
もっとも……この罪だけでお前らは冷凍刑確定だ!! 覚悟しろ!!

三千歳 泪 > いるはずのない人がいた。聞こえるはずのない声を聞いた。
―――運命は変えられる?

かもね。かもしれない。たぶん変えられるんだ。その気があれば。今なら信じられそうな気がする。
どこにいてもお前を見つけだしてやる。そう言ってくれた人がいたから。

「桜井くん!! また会っちゃった…さよならって、言ったはず、なのに」

ぐにゃりと歪んだ視界の向こうに紅蓮と白銀のきらめきを見た。
冷静でいられるはずがない。心はぐらぐらと揺れて、立っていられないほどの動揺が襲う。
だから、隙を与えてしまった。共通の敵を見つけた研究会メンバーのひとりが私を《時間旅行機》から引き剥がす。
髪をつかんで、頬に熱く焦げついた銃口を押し当てる。何を叫んでいるのかもよく聞き取れない。

それはたぶん、果てしない慟哭だった。

桜井 雄二 > 『またな』って言ったろう、三千歳泪。
この約束をなかったことにしてはいけない……だろ?

話を聞いていないのか。
(親指が弾かれて三千歳泪を人質にした研究会メンバーの腕に何かが当たる)
(次の瞬間、銃もろともその腕が凍りついた――――指弾により撃たれた、氷の銃弾)
その程度の脳で時間を遡行しようとは、笑える。
(爆発的加速と共に三千歳泪に銃口を押し当てた男の胴体に左手で優しく触れる)
(声を上げる暇もなく、男が顔を残して凍りついた)
まだ話が聞こえるなら、覚えておくといい……俺が桜井雄二だ。

(まだ研究会メンバーが残っているにも関わらず、魔王のようなゆったりとした歩みで三千歳泪に近づいた)
あとは……生活委員会らしく掃除するだけだ。
(それは、あの時見せられなかった笑顔)
待たせたな、三千歳泪。

三千歳 泪 > 異能使い。それも戦闘向きの異能を目にしてもなお動けるのは太刀打ちできる自身のある人だけだ。
場の空気が冷えていく。《時間旅行機》の奪いあいがもたらした惨状に誰もが目を向けはじめる。
かつて同じ夢を見た友人同士が殺しあいを演じた。力を合わせてここまで来たのに。同志と呼びあった親友を手にかけた。

誰かが凶器を取り落として、静かな嗚咽がさざなみのように広がっていく。
私も支えをなくして、立っていられずにへたり込みそうになって桜井くんの胸に手をつく。

「大丈夫だよ。ぜんぜん待ってない。ついさっき別れたばかりでしょ?」

本当にそう。さっき見送ってからほとんど時間が経っていない。頭はまだ混乱したままで、何があったのか整理が追いつかない。
でも君はここにいる。幻でもなんでもない。もう怖くない。なのに、泪が溢れて止まらなくなる。
大嫌いだった私の名前。泣き虫みたいで、絶対に泣かないようにしてたのに。止まらない。止められなくて。

「―――また会えたんだ。桜井くん――」

桜井 雄二 > ………戦闘する気をなくしたか。(周囲に溢れる血を見て悲しげに呟く)
どうしてこうなったんだ。
人と人はわかりあえる。友達だったんだろ。仲間だったんだろ。
全部、全部なかったことになった。こんな結果が来る前にわかるはずだろ……?

(直前で炎と氷を消して三千歳泪の肩を支える)
そうか……そうだったな…お互い、やるべきことをやったんだ…
(肩を震わせる彼女を抱きしめて)

もう大丈夫だ。お前は何も悪くない。

泣くな、三千歳泪。お前が泣くと俺まで悲しい。

な……笑ってくれ…お前が笑ってくれたら。

(きっと、俺も笑えるだろうから)

三千歳 泪 > 壊れたものがもっと酷く壊れただけ。私の仕事は何も生みださなかった。それどこか、空恐ろしい惨劇を招いた。
そのことがただただ悲しくて、心が押し潰されそうになる。
泣き顔を見られたくない。子供みたいにしゃくりあげて、ぼろぼろこぼれる泪を手のひらで拭いつづける。
無理だよ。泣くなって、そんなこと言われたってさ。泣きながら笑おうとしたけど、うまくできたかどうかわからない。

時間旅行の夢はこれでおしまい。明日は無理でも、明後日にはいつのも私。日常に戻れるはず。
だから、せめて今だけは許してほしい。もう二度と泣かないように。だれにも泪を見せないように。

ご案内:「夕暮れの第一大教室棟廊下」から三千歳 泪さんが去りました。<補足:金髪碧眼ダブルおさげの女子生徒。重たそうな巨大モンキーレンチつき。>
ご案内:「夕暮れの第一大教室棟廊下」から桜井 雄二さんが去りました。<補足:不燃不凍のスーツに身を包んでいる。(乱入不可)>