2015/06/22 - 22:12~00:04 のログ
ご案内:「男子寮/橿原眞人の部屋」に橿原眞人さんが現れました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/表向きは至って真面目な生徒>
橿原眞人 > 男子寮。橿原眞人の部屋。
眞人は久しぶりに寮へと帰ってきていた。
ここ連日電脳世界に没入し続け、現実に残される体の保護のため、セーフハウスを転々としていたためだ。
《大電脳図書館》への侵入により、師匠に関する情報を入手した眞人だが、逃走の際にサイバーデッキにダメージを受けてしまい、使用不可能に追い込まれる。
その後、落第街の違法部活群が立ち並ぶ九龍城めいた蓬山城に存在する電脳街の《瀛州山》にサイバーデッキ購入のために向かい、三千歳泪と会った。
彼女と共にサイバーデッキを選び、新しいものを購入したのである。壊れたジャンク品であったものの、泪の協力により新品同様に復元された。
その新しいサイバーデッキ『プロヴィデンス』が眞人の手の中にあった。
橿原眞人 > 「……いよいよか」
手元にあるサイバー=アーカムハウス社製のサイバーデッキ『プロヴィデンス』を見る。
四角い箱であるが、その中には精密な機器が詰まっている。箱の前面からはコードが伸びており、その先には平べったい皮膚電極がついている。
これを頭につけて、精神を電脳世界に送り込み、没入(ジャック・イン)するわけである。
眞人の師匠はこのような機器がなくとも電脳世界に没入することができた――今でもその仕組みはわからない。
そういう《異能》であったのだろうということぐらいしか眞人には想像がつかなかった。「これでサイバーデッキは戻った……後は電脳世界であのデータを閲覧するだけだ」
サイバーデッキのスロットに、一枚の薄いカードを差し込む。《大電脳図書館》から持ち出した、《電子魔術師事件》についてのデータだ。
これは普通の端末では見ることができない。閲覧者が電脳世界に没入する必要があった。眞人はそれを挿し込んだ後に、サイバーデッキを起動し、電極を頭に張り付けた。
「――よし、行くぞ」
橿原眞人 > サイバーデッキ『プロヴィデンス』がネットワークに接続される。
サイバーデッキの側面を緑色の光の線がいくつも走っていく。
そして、電流が走り、眞人の意識は電脳世界へと飛び込んでいく――
――I am Providence――
サイバーデッキ起動時のロゴが眞人の目の前に現れた後、世界は暗転した。
――没入する。
格子状に形作られた電脳の世界の中が視界の中に生み出されていく。
――没入する。
マトリクスが現れる。この常世島に張り巡らされたネットワーク。
その中に没入する。電脳世界へ、仮想でありながら一つの現実である疑似世界へとダイブする。
橿原眞人 > 眞人が目を開けば、そこは電子で構成された世界であった。
格子状に組み合わさった無数の線が無限に広がっている。
緑色やオレンジ色によって形作られた世界だ。
電脳世界の一部はこの常世島が電子的に再現されている。
だが、この領域は特にそう言ったものもなく、何もない非常に無機質な空間であった。
ここは眞人の私的な領域であるためである。電脳世界の一部に存在する眞人の領域。
眞人は黒を基調としたサイバースーツを纏っていた。《銀の鍵》としての姿だ。
幾重にもセキュリティと《氷》を張り巡らせた領域である。容易には入ってはこれない。
そこで眞人は、盗み出したデータを閲覧しようとしていた。
橿原眞人 > 「……データ閲覧。参照するデータは……。
――「《電子魔術師事件》について」だ」
腕を広げ、プログラムを呼び出す。
現実世界で挿し込んだスロットのデータを読み込むのだ。
眞人の目の前で、いくつもの格子状の線や数列、記号、ヘックスが現れては消えていく。
そして、一つの物が眞人の前に呼び出された。
「――門だと?」
眞人は怪訝な顔をした。
彼の前に現れたのは――門であった。どうやら疑似的に再現されたものらしい。
強固なセキュリティがかけられており、容易には見れそうにもないものだ。
アーチ状の門であり、扉は固く閉ざされている。
これがこのデータの容であるようだ。
「……どうなってるんだ。こんなものは初めて見るぞ」
普通、こういうデータは文書の形で再現されることが多い。
だが、現れたのは「門」だった。
橿原眞人 > 「……罠か?」
当然、何かしらのトラップを疑うのが普通だ。
とはいえ、このデータを抜き出すのにかなりの困難があった。
その上でさらにセキュリティなどをかけるか疑問であった。
だがどの道――
「行くしかない……この門の先に、師匠についてのデータがある。
《電子魔術師事件》……《ルルイエ領域》……この中に、師匠の居場所があるはずだ。 ……ロックなんて、俺の前では何の意味もない。師匠、待っていてくれ……!」
焦りがあったのだろうか。
師匠に近づける。その思いは心を逸らせる。
眞人は右手を伸ばした。すると、電子のヘックスがいくつも現れ、何かを形成していく。
それは、5インチほどの大きさをした、大きな銀色の鍵だった。
「――鍵が顕現した!?」
異能《銀の鍵》――あらゆる門を開く力だ。異能を使う際に、脳裏に銀の鍵のイメージが浮かび上がるために眞人はそう呼んでいた。
しかし、それが現実に顕現したことは初めてだった。確かに、眞人の手に握られている。
「……なんだかわからないが。困惑している暇はないんだ。
「――開錠!」
橿原眞人 > 門が開いていく。
固く閉ざされていたはずの門が、いとも簡単に開いていく。
鍵は、自ずから九回回されていた。眞人にも初めてのことだ。
息を呑みながら、扉が開くのを待つ。
そして、アーチ状の門は、音を立ててその扉を開いた――
「――ッ!?」
刹那、奇怪な光があった。
この宇宙のいかなるスペクトルにも当てはまらないような、奇怪な光が眞人を包んでいく。
門が、自らこちらに近づいてきているような感覚があった。
「なんだ、これ……!」
眩い光の中に眞人は飲まれていく。
そして、眞人は門を潜り抜けた。
橿原眞人 > 「――何だ!?」
眞人が目を開くと、そこは闇だった。
何もない闇だが、どこかぼんやりと光が漂っている。
刹那、人型をした何かが眞人の前に現れた。
それは顔をヴェールで覆っており、その顔を見ることができなかった。
よく周りを見れば、六角形の台座のようなものが並んでおり、その上に不定形の何かが並んでいた。
祈りをささげているのだろうか。何かを呟いているようにも思えるが、眞人には理解できない言語だ。
眞人にはもうここが電脳世界かどうかもわからなかった。
ただ、目の前のヴェールで覆われた何かが、導くように立っていた。
『――鍵』
それは声に発せられているものではなかった。眞人の脳に直接、ヴェールに覆われたものは話しかけてきた。
その声を表現することはできない。ただ、眞人には意味が理解できた。
橿原眞人 > 再び世界は暗転した。
眞人の体は中空に放りだされ、いくつのイメージが眞人の前を通り過ぎていく。
現在、過去、未来。時空連続体の彼方。それを見ているような光景であった。
目まぐるしく世界が変わった後に、気づけば眞人は海の上に浮かんでいた。
無限に広がる海。薔薇色の海。
酩酊の葡萄酒のような海、その中を眞人は揺蕩っていた。
そして、眞人は非常な恐怖に襲われた。言いようもない恐怖だ。
うねりの中に、物理的な音でも人工的な言葉でもない何かが、語りかけてきた。
――《真実の人》は善悪を超越せり――
――《真実の人》は《全にして一なるもの》の元に進みたり
――《真実の人》は《幻影》こそ《唯一無二の現実》にして――
――《物質》こそ《大いなる詐欺師》なることを学びたり――
巨大な門が眞人の頭上に現れていた。アーチ状の巨大な「門」だ。
その中を、流されるように眞人は潜り抜けて行った。
橿原眞人 > ――疑似《窮極の門》の発現を確認――
――《真実の人》へ彼のもののデータを送信せよ――
そして、眞人はまた別の場所にいた。
何かを俯瞰するように眞人は中空に浮いていた。
そこに、次々と様々なイメージが現れていく。
「これは……俺か?」
いくつものイメージが連続で交差していく。
何人もの眞人。眞人。眞人。
病院で産声を上げた眞人。
子供のころに父親と遊ぶ眞人。
眞人。眞人。眞人。眞人。
いくつものイメージが重なり合っていく。
あの三年前の事件により、家族を失って泣き叫ぶ眞人。
何人もの眞人が現れては消えていく。
「なんだ、なんなんだ……!」
橿原眞人 > そこで眞人は知った。
この宇宙だけではない、様々な宇宙、世界に様々な眞人がいることを。
地球、宇宙のあらゆる時代、あらゆる歴史に眞人はいた。
遠き過去、遥かな未来。あまねく世界に眞人はいた。
眞人は人間であり、非人間であり、脊椎動物であり、無脊椎動物であった。
植物であり亜人であり無機物であり意識を持つことも持たぬこともあった。
さらにイメージは連続していく。
眞人は様々な局面があることを知った。
いくつもの世界に眞人はおり、同時に存在していた。今いる眞人はその一つでしかない。
遥かなヤディス星の魔術師であり、遥かな遠祖であるセイレムの魔術師の姿。彼は銀の鍵を持っていた。
銀の鍵を以て夢の世界を渡り歩く者。レムリアにて生きる神官。
次々と情報が溢れていく。最早それは、眞人と関係があるのかどうかもわからなかった。
大いなるもの。混沌。盲目白痴のもの。宇宙の果てで踊り狂う何か。プロヴィデンスの小説家。
神々の嗤い。未知なるカダスの果てで待つもの。
――電脳の神々。
彼らは何かを欲していた。自らを解放するものを。
それは鍵である。銀色の鍵であった。
橿原眞人 > 強烈な吐き気と眩暈があった。脳が理解を拒んでいる。
しかし、眞人は見ることしかできない。目を閉じることもできない。
目の前に浮かんでくるイメージの次々は次第に収束を始めた。
「……師匠!?」
宇宙の何処かもわからない場所で、何かが踊り狂っていた。
名状し難いものが踊り狂う、中で、褐色の肌の少女が立っていた。
――それは、眞人の師匠の姿であった。
手を伸ばしても届かず、イメージは切り替わっていく。
遥かな宇宙から地球へ。地球から――常世島へ。
無数のイメージの海を潜り抜けた眞人は目にする。
それは、常世島、常世学園を俯瞰する形で現れた。
「……これは、常世学園? 師匠!?」
戦いが行われていた。
理解はうまくできない。非常にぼやけている。
ただ、何かの記録であるのは確からしかった。
何かの「門」が出現し、それに向かって褐色の少女、師匠が駆けていた。
よく見えないが、誰かと共に駆けているようであった。
橿原眞人 > どこかに現れた「門」に、師匠とその人物は向かっているように見えた。
非常に禍々しい気配があった。そして、どこかすまなそうな表情――
そこでイメージは途切れ、転換する。
『《疑似・究極の門》は《電子魔術師》により――
《箱》も奪取された! 《グレート・サイバー・ワン》の顕現は不可能……
星の位置が狂う……《ルルイエ領域》の封鎖を、直ちに……!
このままでは、制御が不可能になる!』
研究者らしい人間の叫びが聞こえていた。非常な焦りようである。
電脳世界に、何かが出現していた。
眞人が先程潜り抜けたのに近い「門」である。
その電脳世界では全てが狂っていた。ユークリッド幾何学に当てはまらないような形の曲線、建造物が並んでいた。
電脳の門。それは眞人がかつて家族を失った際に見た「門」ととても似ていた。
その「門」へと師匠が向かっていく――
橿原眞人 >
それは、遥か電脳の深淵に眠る大いなるもの
それは、電子の記号によって再現された神々
星が正しき巡りを行う時を待つものにして
未だ臥したる永久の死者
電脳の深海、全てが狂いし領域にそれらは眠る
「鍵」が解かれ、「門」が開かれるのを待ちながら――
橿原眞人 >
――《グレート・サイバー・ワン》――
橿原眞人 > そのようなイメージが眞人の目の前に浮かんでいった。
「グレート・サイバーワン……!?」
何の事かわからない。だが、理解できるものはあった。
師匠が、その《ルルイエ領域》に消えたこと。
そして、その領域がどこにあるのか――それが、眞人の頭の中に叩き込まれた。
これが《電子魔術師事件》なるものの概要のようだが、データが不完全なのか、それらは非常に断片的なものだった。
何かしらの「門」の向こう側にそれは隠されていた。そして、眞人はそれを潜り抜けて、この情報を見たのである。
橿原眞人 > 《門》にして《鍵》
《鍵》と《門》――
そのような言葉が脳裏に走った次の時、眞人は師匠が消えた場所と同じところに立っていた。
電脳の墓場。隠された領域。狂った城。溢れる文字列。未知の言語。-47.15, -126。
そこに眞人は立っていた。
目の前には、名状し難い何かがいた。電脳の神々がいた。
彼らは触腕を伸ばしてくる。何かを求めているように。
眞人を求めているように。
彼らは求めている。自らを解放する者を。
鍵
鍵鍵
鍵鍵鍵
鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵
鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵
鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵
鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵_
彼らは鍵を求めていた。
「――く、うっっ!? 来るな、来るなッ……!!」
鍵を求める声が響く。眞人は気が狂いそうな恐怖に見舞われた。
そして、手は自然と前に伸びていた。右手には銀の鍵が握られていた。
それを回す。そうすれば、今までのイメージが一気に遠ざかって行った。
その鍵こそは境界そのものへと時空の緊密な回廊を自由に進むのを妨げる、連綿と続く扉を開けるものであるために――
橿原眞人 > 「……はぁっ!?」
眞人の意識が覚醒した。気づけば、その精神は現実に戻ってきていた。
体中に嫌な汗をかいていた。
見れば、自然と、額から電極は外れていた。
「……わけがわからねえ」
眞人はそう呟いた。いくつも現れたイメージのほとんどは理解不能だった。
ただ、師匠がこの常世島で行っていた事の一部は理解が出来た。
師匠は何かを止めようとして、《ルルイエ領域》へと消えたのだ。
そして、それと同時に現実に現れた「門」――二年前に起きたそれにも向かっていた。
かろうじて、それは理解が出来た。
「……だが、わかったぞ。師匠のいる場所が」
橿原眞人 > 「……《ルルイエ領域》……あそこか」
眞人は立ち上がった。師匠のいる場所は既につかんだ。
問題はそこにアタックをかける方法だった。真っ当な手段や装備では敵わない。
すぐに向かうにはあまりに危険であった。だが、師匠はそこにいる。恐らくはそこで囚われているのだ。
「待ってていてくれ、師匠」
準備が必要だ。電脳世界の危険領域を潜り抜ける準備が。
《ルルイエ領域》は常世島の電脳世界の遥か深部にある。
――電脳世界の、転移荒野の中に。
「……そうなれば、こうしちゃいられねえ。
わけのわからないことだらけだが……師匠に会えばわかるはずだ。
あの場所にはあの化物どももいるかもしれない……よし」
眞人は鞄を掴み立ち上がった。強力なプログラムをくみ上げなければならない。電子魔術もだ。
あの《ルルイエ領域》にアタックをかけるために。師匠を救い出すために。
「……奴らは俺を求めていた。どういうことはわからねえ。
師匠が来るなと言っていたのもこういう事か? だが……。
師匠を、見捨てておけるか。まだあの中にいるんだ……!」:
気持ちは逸り、冷静さを失わせていく。
眞人はサイバーデッキを引っ掴んで鞄にいれ、外へと飛び出していった。
そして。
電脳世界の彼方で、何かが嗤い声を上げたのであった。
ご案内:「男子寮/橿原眞人の部屋」から橿原眞人さんが去りました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/表向きは至って真面目な生徒>