2015/06/24 - 21:24~20:58 のログ
ご案内:「回想 眞人と電子魔術師と」に橿原眞人さんが現れました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>
橿原眞人 > ――没入する。
――深く、深く、潜っていく。
――ここは何処か。ここは何処か。
――ワイヤーフレームで満たされた、電子の深海。
――ワイヤーフレームで再現された、神の墓所。
――ワイヤーフレームに封じられた、神の夢。
――ここは、《ルルイエ領域》
――大いなるものどもの、夢の在り処。
――久遠に臥したるもの死することなく
怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――
橿原眞人 > 記憶。かつての記憶。
情報の濁流の中で、現れた記憶。
《夢見人》の見る夢か。
《銀の鍵》によって開かれた夢か。
《大いなる電子のもの》の一柱が見る夢か。
《ルルイエ領域》、閉ざされた電子の深海の中で、あまねく怪異に侵されながら、それは夢を見る。
ノイズ。
少女の声。
『――深き闇に夢みし■■■■よ』
『――我は汝らの■■にして■■』
『――我は神意なり』
『――故に、我は命じる』
『夢見るままに――――――――』
橿原眞人 >
――3年前。《星の智慧派》の支配するネットワークの一領域での戦いの後。
――五つの炎の円の果て。コード・タタールによって導き出される世界。
七つなる太陽の領域、《アルソフォカス》がその存在をほのめかした《シャールノス》にて。
ワイヤーフレームで構成された電脳世界。その中に二つの影があった。
一人は14歳ぐらいの黒髪の少年だった。黒を基調としたサイバースーツに身を纏っている。
そのサイバースーツの上には、銀色の光で構成された光波外被があったが、衝撃によりほとんどが崩れ去っていた。
髪より下の顔には電子で構成された仮面のようなものがつけられていたが、それらはバラバラと、多くのヘックスとして分解され、消え去っていった。
顔を隠す意味がなくなったからだ。
二人の目の前の不揃いな多面の構造体は半壊していた。
電子で構成された、三つの眼を持つ《氷》との戦いは終わった。
頭上、無限のサイバースペースの天には七つの太陽の如き構造体が浮かんでいた。
橿原眞人 > 二人の目の前の不揃いな多面の構造体は半壊していた。
電子で構成された、三つの眼を持つ《氷》との戦いは終わった。
「師匠(マスター)……どうして」
少年は、自分の前に立つ影に向かって言った。影は答えず、振り向かない。
「なんでだよ、俺に、世界の真実を教えてくれるっていったじゃないか。一緒に、世界の真実を探してくれるって、いったじゃないか!」
黒いサイバースーツの少年は叫ぶ。子供の懇願のように。言外には、目の前の影を引き留めようとする意志が溢れていた。
「俺も、俺も一緒に行く! なんだかわからねえけど、俺は師匠と離れるのは嫌だ……!
教えてくれよ、さっきの力はなんなんだ。さっきの《氷》と師匠に、何の関係があるんだよ!」
少年の前に立つ影は、目の前の光景を見つめていた。
その視線の先には、巨大な構造体があった。不揃いな多面体で、殆んど球形に近い。その色は吸い込まれそうな漆黒であった。
構造体は損壊していた。先ほどの戦いで破壊されたのだ。その構造体の半分ほどが、ただのワイヤーフレームに成り果てていた。
少年の目の前の小さな影は、それを眺めて、何かを解析していたものの、ようやく少年の方を振り向く。
橿原眞人 > 『……マヒト。私を追ってきてはだめだ。これは、お前の師匠としての命令だ。今、言った通りに』
小さな影が振り向いた。それは、10歳ほどに見える幼い少女だった。
どこか緑色の混じったツインテールの白い髪に、赤い瞳、褐色の肌――黒いサイバースーツに銀色の光波外被は、マヒトと呼ばれた少年と同じだ。
少女は不思議な発光に包まれており、頭の周囲を回るように緑色の構造体が走っている。
http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/up2/img/toko081.png
橿原眞人 > 『私は行く。その判断は変わらない。――ついに、見付けたんだ。そして、知ってしまった。もう猶予はない。
“奴ら”のしようとしていることがわかった。この《窓》はおとりだったんだ。すぐに、行かなくてはならない』
少女は静かに微笑する。取り乱したようなマヒトをなだめるように。一歩、二歩と少年に近づいていき、背伸びをして少年の頬に触れる。
『……心配するな。少し、調査に行ってくるだけだ。用が済み次第戻ってくる。だから、お前を連れてはいかない』
少女は――一部で伝説のハッカーとして名をはせていた《電子魔術師(テクノマンサー)》は、優しげにマヒトに言う。
『お前は、連れていけない。そして、マヒトはもう十二分に育った。私がいなくても、自分の身を“守れる”はずだ』
そして、《電子魔術師》は静かに目を伏せる。
『……向こうでの私の姿は、お前に見せたくないんだ』
どこか、悲しげにつぶやく。
橿原眞人 > 「――なら、尚更だ。俺も行く。師匠の用事ってなんなんだよ! 常世学園なら俺も入学して師匠を手伝う!
今更師匠の何を見て俺が驚くって言うんだよ! だから、連れて行ってくれ……!
そして、世界の真実も、俺の家族を奪った事件のことも、一緒に……!」
『駄目だ』
まっすぐにマヒトの瞳を見据えて、《電子魔術師》は言う。断固たる意志がそこにはあった。
『お前のためだ。絶対に、来るな。来てはならない。私に何があってもだ。
あの島に行かない限り、“奴ら”はお前を捕捉できないようにした。どの道、奴らは「門」を開くことに集中しているはずだ。「鍵」がなくとも、星が正しければ開くことはできる。
だから、今なら、お前に気づかれる可能性は少ない。お前を“奴ら”に奪われるわけにはいかないんだ……わかってくれ』
「……何言ってるんだよ。ちゃんと説明してくれよ。何言ってるかわけわかんねえよ!」
『話す。全てを話す。お前の家族の事件についても、その時だ――だから』
橿原眞人 > 『待っていてくれ、マヒト。お前は、私の帰る場所なんだ』
「師匠ッ……!」
マヒトは電脳世界の中で崩れ落ちる。ワイヤーフレームの地面に膝が着く。
「……なんでだ。なんでなんだ。わかんないよ、俺は、俺は師匠といたいんだ。師匠は大事な家族なんだ。
もう、もう、皆が死んだときにみたいに、何もわからないのは嫌なんだよ! 何もわからないまま、家族を失うのは嫌なんだよ!
俺は、俺は知りたいんだ。何で俺の家族が死ななきゃならなかったのか! 師匠は、それを教えてくれるって、いったじゃないか……! 一緒に探すって!
さっき戦った《氷》みたいなのがいるんだろ!? かろうじて倒せたけど、あんなの、師匠一人じゃ無理だ……!
そんなところに行くのに、待ってるだけなんて無理だ!」
マヒトは、ボロボロと涙を流していた。涙は電子の記号に変わり、消えていく。
『……莫迦』
こつん、と。項垂れるマヒトの額を、《電子魔術師》が指で小突いた。
橿原眞人 > 『何を勝手に死ににいくような感じでいってるんだ。お前は私が誰か忘れたのか? 《電子魔術師》だぞ。
何を自惚れている。お前みたいな小童に心配されるような腕ではないわ。私を心配するのは数百年早い』
薄い胸を張って、《電子魔術師》は言う。
だが、その様子をマヒトは涙で溢れた瞳で見ていた。虚勢であることがわかっているかのように。
『……私は《電子魔術師》だ。この電脳空間では、まさに九万里に遊ぶ真人のようなものだ。
電子世界の理を、遥かなる星辰の刻印の中で自在に操り、駆けるのが《電子魔術師》だ。
心配するな。必ず帰ってくる』
《電子魔術師》は、溢れる少年の涙を、その唇で拭った。
橿原眞人 > 『……お前が来れば、「門」は開いてしまう。だからこそ“奴ら”はお前を求める。
電脳の神々をこの世に顕現させるわけにはいかない。あれは、別次元の《オリジナル》なんだ。
そして――これは、私がケリを付けなければならないことだ。……お前を守るとはいえ、巻き込んで悪かった。
全部、私の責任だ。家族であり友人であり弟子であるお前を想う故に、こうして共にいた。
だが――気づかれてしまった。私は感知された。星辰が正しい時に戻るまでに、全てを終わらせなければならない。
まだ、お前だけなら隠せる。だから頼む。ここにいてくれ。終わったら全て話す。
私を追うな。私に何かあれば忘れてくれ。きっと。
その方が、お前にとっても幸せだ――』
マヒトは黙ってその言葉を聞いていた。身を震わせて。
「……わかんねえよ。何もわかんねえよ! どうして俺のわからないことばっかり言うんだよ、師匠! 俺は、師匠と居たいんだ、師匠を知りたいんだ! 師匠の、力に……師匠?」
突如、《電子魔術師》の表情が変わった。サッと後ろを振り向き、再びマヒトを見る。
橿原眞人 > 『……すまん。マヒト。時間がない。しばらくのお別れだ・
いいか、今日行った通りだ。私を追ってくるな。お前は、ここにいてくれ。
そして、私が帰ってきたら、全てを――』
「師匠、まって、まってくれ……く、あ、なんだ、意識が……ま、さか……」
《電子魔術師》はマヒトの頭に手をかざした。彼の電脳にハッキングをかけていたのだ。
まるでおとぎ話の魔法のように、コードが自在に操られていく。
いくつもの文字列がマヒトの頭から《電子魔術師》の手の中に消えていく。
『……今日見たことは忘れてくれ。記憶も、一部変えておく。この領域のことも、燃え上がる瞳の事も。
お前は、「銀の鍵の門」の向こう側に行ってはならない。それこそ、奴らが求めるものだ。
私が、全てを終わらせる。電脳の神々の夢を。
……ありがとうマヒト。■■たる私も、良い夢が見られた。
最初はお前を守るためだったが、楽しかった。私も、人の真似が出来たということだ。
――さようなら。未知なるカダスを求めた者の末裔よ。もう二度と、お前を“私”の玩具にはさせない』
『――強制離脱!』
強制離脱のコードがこの領域に叩き込まれた。そうすれば、次々とマヒトの体が電子の構造体となり、バラバラになって消えていく。
この領域からの強制的な離脱(ジャック・アウト)。強制的に現実(リアル)に帰させるものだ。
「待って、待ってくれ師匠! 俺はまだ、俺はまだ何も、何も知らないのに――!」
その言葉も虚しく、マヒトはこの領域から消えていく。一部の記憶を、電脳から消去されながら。
《シャールノス》には、《電子魔術師》のみが残された。
否、もう一人――
橿原眞人 > 『……出てきたらどうだ。「鍵」は既にお前の手の届かないところに飛ばした。お前に「鍵」は渡さない』
『へえ、随分と入れ込んでるんだね。人の真似が上手だね。でも、僕の手に渡らせたくなければ、殺せばいいだけじゃないか』
『――黙れ』
《電子魔術師》は振り返る。その先には、《電子魔術師》とうり二つの少女がいた。
その気配はとても近い。だが、大きく違っていた。
《電子魔術師》に似た者の姿はその髪を除いて、闇色だった。
そして、冷笑を浮かべていた。嘲りの笑いを浮かべていた。
《電子魔術師》に対して、自分に対して、宇宙の全て、自らに主さえも冷笑していた。
『……お前の考えていることはわかる。だからこそ、私が直接、「門」を閉ざす』
『なるほど! それはそれは。僕たちの一柱であるのに、僕たちを裏切った君は違うね。いや、■■だからかもしれないけれど』
ヒャヒャヒャ、と嗤いながら、それは《電子魔術師》に近寄り、その頬を手で撫でる。
《電子魔術師》はそれを勢いよく跳ねのけた。
橿原眞人 > 『――我々は永遠に眠り続けるべきだった。死につづけるべきだった』
『でも、それだと君はあの「鍵」の少年には会えなかったよ?』
『……だからこそ、私の手で全ての決着をつける』
『なら、そうしてみると良いよ。「門」を開いている連中は、君を待っているはずさ!』
『「門」は開かせない――この世界を常夜往く世界にはさせない。“私”の好きにはさせない! 「門」が開けば、彼らは全ての世界に現れる!』
『なら、僕も“僕”の好きにはさせないさ。でもどうなんだろうね、それは君の意志なのかな? それとも、■■が、そうしたほうが面白いと考えているから……』
『――黙れ。これは、私の意志だ。たとえ私は、■■であろうとも!』
『わかった、わかった。なら続きは向こうでだ。常世の島で、僕は待っているよ』
《電子魔術師》を嘲笑うものが虚空に指を走らせば、一つの「門」が現れる。
『さあ、行こうじゃないか。僕は“僕”と戦えてうれしいよ。そして、この世界をより楽しくしようじゃないか』
『……《コード・ルーシュチャ》』
嘲笑うものが門の向こうに消えようとしたとき、《電子魔術師》は一言を呟いた。
そして、未知なる言語が彼女の体の周りを回りはじめ、そのまま、門へと飛び立っていく――
橿原眞人 > これは、夢である。
奇怪なる電子の海の果てで、侵され続ける者の夢である。
そして、「鍵」はその夢を開いた。
その夢を、垣間見たのだ。
橿原眞人 > ――現在。
「……ッ!? なんだ、今のは……! あんなの、俺は知らないぞ……!?」
《常夜電脳領域》の一領域にて、橿原眞人は《銀の鍵》として、《ルルイエ領域》に至るルートを調査していた。
場所は、サイバー・転移荒野。電脳空間に再現された転移荒野だ。
その一つの「門」を開こうと《銀の鍵》を手に取り、開いたときに、その記憶はなだれ込んできた。
「……夢? 莫迦な、電子領域で夢なんて……」
眞人は頭を振る。そして、再び目を開く。
「あれは、なんだ。黒い構造体……もう一人の師匠……?」
頭の中に何かが発現しようとしていた。失われたはずの記憶。
眞人はそれを振り切って、調査を続ける。
どこか遠くで、何かの嗤う声を聞いたような気がした。
ご案内:「回想 眞人と電子魔術師と」から橿原眞人さんが去りました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>