2015/06/27 - 08:01~09:36 のログ
ご案内:「朱堂宅」に朱堂 緑さんが現れました。<補足:No.38 汚らしい薄笑いとザンバラ髪の男。垂れ目。長身。制服にコート。>
朱堂 緑 > 一部始終を終わらせて、なんとか家にまでたどり着いたその男。
日常にただ戻ったことだけをかみしめて、家に戻ると……手紙が一通。
 
「あ?」
 
訝しげな声をだして、それを手に取る。

朱堂 緑 > 非常に簡素な封筒。
その宛名にはこれまた簡単に一言だけこう書かれていた。
 
『公安委員会調査部 より』
 
無論、男は一瞬訝しんだが……その、捺印をみれば、疑いようもない。
かつて自分も頻繁に使ったそれと同じものである。
 
審美眼があるわけではないが、それだって日ごろ使っているものはよくわかる。
偽造の線は薄い。
そもそもこんな悪戯する理由がわからない。 

朱堂 緑 > まだまだ訝し気に視線を落としながら、封をきれば、そこにはまた偉く簡単に、誤読のしようもない文章が簡潔に書かれていた。
朱堂 緑 >  
 
 
 
『朱堂 緑』
『本日付で、上述の生徒の「休職」を解き、公安委員会直轄第二特別教室 室長補佐代理への復職を命ずる』
 
『公安委員会調査部』
 
 
 
 

朱堂 緑 > 「こいつは……」
 
ぞくりと、背筋が震える。
つい、口端が吊り上る。
そう、そこに書いてある書類をみて、全ての疑問が一瞬で符号する。
 
 
「ははは、なるほど、休職、か」
 
そうだ。最初から疑うべきだった。
公安委員会の幹部たちが、なぜ自分のようなただの中間管理職を呼び出す?
ホログラム越しとはいえ、なぜわざわざ言葉を交わす?
会話などという『情報』を与えすぎることを自分にする?
調査部の人間が? それも、海千山千のバケモノどもが?
 
答えは簡単だ。
 
 

 
『担がれて』いたのだ、今の今まで。 

 
 

朱堂 緑 > 自分は騙す側と思う人間は騙されることを疑わない。
自分が試す側と思う人間は試されることを疑わない。
 
自分で答えに辿りついたと思う人間は……自分の『答え』を疑わない。
 

口頭での除籍処分という時点で、もはや疑うべきだったのだ。
最初から、つまりこれは試されていたわけである。
 
自分が期待通りに動く『コマ』であるのかどうか。 
 
 

朱堂 緑 > 「だからこその……否支中 活路か」
 
アイツがあんなタイミングでくる事自体が可笑しかった。
完全、本来なら絶無のタイミング。
そこで奴は来た。
公安執行部からの妨害にもあわず、調査部の目も潜り抜け、『泳がされていたはず』の俺の目前に颯爽と、『招かれざる客』として現れた。
 
違う。現れたんじゃない。
 
 
『配置』されたんだ。
 
 
『招かれざる客』という『役』を与えられて。
 

朱堂 緑 > 「俺が休職中なんじゃあ、俺と薄野だけが現場にいたら『内々』に処理したことになっちまうからな」
 
それでは、意味がない。
今回の筋書きはあくまで『外部』の人間によって『暴走した公安職員』が誅されなければならない。

少なくとも、傍目から見た時にそうなるような筋書きがなければならない。

最初から可笑しいとは思っていた。
足りない役柄が一つだけあったのだ。
そう、一つだけ絶対的に足りていない役柄。
 
 
唐突な『市民の暴走を止められる執行者』
 
だからこそ、執行部の介入を予測していたのだが、結局執行部はこなかった。
なぜか?

朱堂 緑 >  
簡単な話だ。
最初から、『配役』が違ったのだ。
 
 
男は、『正義の味方』を結局名乗った。
そう、活路のように『正義』を否定しなかった。
ただ、『正義の味方』としてその場に現れた。
 
『制裁』を加える『執行者』として。
 
 
 

朱堂 緑 > 「『公安委員会』は―――ここまで、ここまで出来るんだから――『公安委員会』なんだな」
 
今わの際の、クロノスの言葉が脳裏を過り、口先に上る。
そう、人の心を弄ぶなど、なんでもない。
男もしてきたことだ。公安委員の誰もがしてきたことだ。
 
俺達は同類だ。
貶めるのが『心』か『命』か、『その両方か』の差しかない。
 
それだけの、ことだったのだ。

朱堂 緑 > 渇いた笑いを漏らして、その場にへたり込む。
玄関先ではあるが、抗う事すらできない。
完全に、完全に、手の平の上だった。
踊らされることには慣れているつもりだった。
抵抗もないつもりだった。

だが、自分が選んだつもりであった『汚濁』までそれであったという事実は、最早苦笑を漏らす以外に何もない。
 
これは、本当に、たったそれだけのことで……それ以上でも、それ以下でもないのだ。

朱堂 緑 > つまり、公安の筋書きはこうだ。
  
まず、暴走した公安委員であるクロノスを逮捕し、裁判にかけると表向きには発表し、幽閉する。
そこで、散々訊問や現実で心を疲弊させてから、『わざと』脱獄させる。
 
心が弱った人間の行動なんて、簡単に読める。
男だって前そうだった。同じことなのだ。
 
簡単に読めるのなら、その先にあとはコマを配置するだけでいい。

即ち、『暴走した市民』、『現役の公安委員』、そして……『休職中の執行官』だ。
 
あとはどうなろうが構わない。
結果はどうあれ、どう転んでも公安にとって都合がいい話になる。
 
出来レースもいいところだ。

朱堂 緑 > 「今回の発表は、表向きには……
クロノスの脱獄は設備への投資不足であり、委員会全体の予算不足による教育の不足も原因となっている。
その上、本来裁判を受けられるはずの公安委員の身柄を裁判を待たずに市民の『介入』によって私刑を許し、結果的に判決前に死亡させたことは司法権力として本来は絶対にあってはならないことである。
被害や暴走した市民による暴動の拡大は即座に自己判断で対応した『現役公安職員』と……偶然居合わせた『休職中の執行官』の活躍よって抑えられたが……人員と予算の不足は否めない。
早急な対策を……ってところか」
 
西園寺の一件から続いた問題は、これで一応ケリがつく。
教育の名の元に『粛清』も今後はやり放題なのだ。
クロノスの二の舞を恐れる半端な西園寺シンパは、風見鶏の如く己の『正義』をかえることであろう。

朱堂 緑 > 「全て世は事も無し。曲がらねば世は渡れず。正しきものに……安らかな眠りを、か」
 
執行部の警句を思い出す。
冗談交じりの筈のそれは、今となってはどうしてもそうは聞こえない。
この島には真実なんて一つもない。
 
あるのは、趣味の悪い現実と、どうしようもなかった結末だけだ。

朱堂 緑 > 「まぁ……嘆いてもはじまらないな」
 
誤魔化すようにそう嘯いて、書類をポケットに放り込む。
すると、ちくっと指先に痛みが走る。
 
そこにあったのは……ピン止めが外れたままの、『室長補佐代理』の腕章。

朱堂 緑 > 「……次は、誰なんだろうってか」
 
苦笑交じりにその腕章を右腕につけて、男は頭を振る。
 
 
これで、振り出しにもどった。
 
 
何もかも、自分の『正義』すら、振りだしに。

朱堂 緑 >  
「まぁ、心機一転とでもいえば、聞こえはいいかね」
 
聞こえがいいだけだろうが。
それでも、気持ちは大事だ。
 
そう、気持ちは。
 
「……気持ちか」
 
逃げ続けていた何かを脳裏に巡らせて、溜息を吐く。
もう、最大の言い訳であった求職中という問題は解消された。
色々な意味で逃げは打てない。
 

朱堂 緑 >  
 
 
「祭りの前には、ケリつけとくか」
 
 

朱堂 緑 > 何も揃っていないかもしれない。
何もまだできないかもしれない。
何もまだするべきではないかもしれない。
 
それでも、今回の事でわかったことがある。
 
『時間』(χρόνος)は待ってはくれないし、すぐになくなる。
 
もたついている暇は、残念ながら恐らくない。

朱堂 緑 >  
 
深い深いため息を一つ吐いて、男は普段はあまり使わない電話をかける。
 
コールした相手が出てくれるまで、恐ろしく長く感じたのは『時間』(χρόνος)の呪いか。
 
笑えもしないジョークに辟易とする前には、幸いにもコールは終わった。

朱堂 緑 >  
 

 
「あ、俺だ……えーと、その、なんだ――」
 
 
 

ご案内:「朱堂宅」から朱堂 緑さんが去りました。<補足:No.38 汚らしい薄笑いとザンバラ髪の男。垂れ目。長身。制服にコート。>