2015/06/26 - 23:04~03:28 のログ
ご案内:「浜辺」に桜井 雄二さんが現れました。<補足:不燃不凍のスーツに身を包んでいる。(待ち合わせ済み)>
ご案内:「浜辺」に三千歳 泪さんが現れました。<補足:金髪碧眼ダブルおさげの女子生徒。重たそうな巨大モンキーレンチつき。>
桜井 雄二 > 男が夕暮れの浜辺で、海を眺めている。
特に何かがあったわけではない。ただ三千歳泪と一緒に遊んだ帰りだ。
もうすぐ来る夏の匂いと今そこにある海の匂いが入り混じっている。
「……浜辺に来ると無性に掃除がしたくなるんだが」
三千歳 泪 > 「海開きの前にはゴミ拾い大作戦だよね!! やるんでしょ? いつ頃になりそう? スケジュールあけとくからさー」
なんだかんだでいつも仕事がある二人だから、時間をとるのも大変なはず。それなのに、遊ぶ回数は減るどころが増えていく一方だ。
けっこう気を使ってくれているのかなとも思う。意識していなくても、桜井くんはそういう人だから。潮風を感じながら横顔を見る。
桜井 雄二 > 「ああ、もちろんだ。海開きに来た人が気持ちよく帰れるように徹底的にやる…すまないな、泪」
「いや、違うな。ありがとう、泪……こうだ」
大きく伸びをすると、背筋がパキッと音を立てた。
なんだかちょっと年寄りくさい。
それから隣の三千歳泪と視線が合って。
「……そういえば、生活委員会としての俺は知っているのに、泪はあまり俺の怪異対策室三課としての姿は見ていないな」
今は無表情ではない、叱られる前の子供のような顔つきで彼女を見た。
三千歳 泪 > 「どういたしまして! 君と私は持ちつ持たれつ。困ったときはお互いさまだよ。それに、好きでやってるんだから全然平気」
「岡部先生の話。覚えてる? あの時の桜井くんは私の知らない顔をしてた。でも、君が話してくれるのも待ってみるのもいいかなーって」
「本当はあんまり考えないようにしてたのかも? 知ったらきっと心配になるから。何も知らずに過ごすのもそれはそれで」
さざなみが立つたびに髪の房がさらさらと暴れる。手をかざして風をさえぎり、瞳の奥までじっとのぞいてみる。
「話してくれるなら聞くつもり。私だってそう。何も知らない女の子じゃないしさ」
桜井 雄二 > 「ああ……そうだな…お前は良い後輩で、良い友達だ、泪」
「……ああ。岡部先生には話していたが、それ以外の人には話したことがなかった」
「でも……聞いてもらいたいんだ。泪には、俺のことを」
足元には白い砂浜が広がっている。
彼女を見たまま、話し始めた。
「……蟻人(ギジン)、というのを知っているだろうか。A級怪異災害で、時々本州でも被害が出ている」
「黒蟻の亜人で、文化も持っているはずなんだが…人類に敵対的で、凶暴だ」
「俺はそいつらとずっと戦ってきた………」
話は続く。胸が痛い。まだ治りきっていない傷口を開くからだろうか。
三千歳 泪 > 「えっ」
待って。そうだっけ?? そう言われると急に自信がなくなってくる。私の一方的な思い込みだったってこと?
「後……輩…? 桜井くん一年生じゃなかったっけ??? だって同い年でしょ? 今は友達以上のなにかだよ。たぶんそう」
言われてみれば落ち着いてる感じが年上っぽい。でも若いよね。もしかしてすごく年上だったりするのかなー。
意識しはじめるとあれもこれも恥ずかしくなってくる。今は大事な話がはじまりそう。今度ゆっくり聞いてみようと思います。
「ニュースで見てるかもね。人間同士で争ってるあいだにヘンなのが入ってきた、みたいな話ならすこしは」
「桜井くんはアリ人間と戦ってる。この学園にも来てるんだ。ほかには? だれも知らないの? そんなのがいたら気付かないはずがないのに」
桜井 雄二 > 「…………泪…俺は二年生だ……」
「別に今更敬語を使えとか先輩と呼べとか言う気もさらさらないが」
「そうだな……友達以上の何かなんだから、遠慮はしなくていい」
こほん、と咳払いをして会話を続行。
足元の小石を拾って海とは逆方向に投げる。
この小石を裸足で踏んだら痛いかも知れない。
「むしろ最近はこの学園で、この島で何度も蟻人は侵攻してきている」
「怪異対策室一課、二課、三課が総出で討伐に向かっているし」
「討伐した後の蟻人の死体は全部回収しているから一般人にはわからないかもな」
投げた小石が藪の中に飛び込んだ。
「……俺は昔、親の仕事の都合であちこち引っ越して回っていた」
「ある日、俺と兄が遊んでいると蟻人が街中に出現して大パニックさ」
「兄は俺を逃がして、蟻人に捕まって死んだ」
「あいつらに拷問され、殺されたんだ」
表情が歪む。憎悪が抑えきれない。
「第一発見者だった俺は……何かを求めるように伸ばしたままだった兄の遺体の手を、俺は掴んだ」
「その時、兄の異能だった炎熱系の力が右半身に宿ったんだ」
「俺は元々、氷雪系の異能持ちだったが、それからは半炎半凍の桜井雄二さ」
ふぅ、とため息をついた。
「……それからは蟻人を殺すために異能を磨き、異能を完全にコントロールするために常世学園に来た」
「怪異対策室三課が開設されたら飛びついたよ、復讐のチャンスが巡ってきたって」
「でも、どうしてだろうな……あいつらを殺しても、殺しても…何も終わってくれないんだ……」
三千歳 泪 > 「私16歳。君も16歳。たぶんおんなじ一年生」
指さして、指さして。笑いながら頬をかく。実際笑うしかないよねこれは。
「だと思ったんだけどなー! そっかー。君の方がお兄ちゃんだったかー。明日からお兄ちゃんって呼んじゃおっか?」
「別に同い年じゃないと駄目とかないから安心しなよ桜井くん。前にも言ったけど、私は君の特別になりたいのさ! 今はそれだけで十分」
おとーさんとおかーさんみたいに呼ぶならおにーさん? にーさんの方が自然な気がする。
世間的には彼氏と彼女みたいに見えてるはず。うまく言えないけど、それだけじゃない関係もあると信じてみたい。
「恐ろしい怪物を、闇から闇に葬るために戦ってる人がいる。バラ色の学園生活は針のうえのお皿みたいにたやすく崩れてしまうのに」
「《時間旅行機》のときもそう。君がいたから何とかなっただけ。私たちの大切なものはすごく壊れやすいみたい」
「その正義感だけで戦える人はいないはず」
つまり、彼には戦いに駆り立てられる理由があるということ。
彼の語る昔話に静かに耳を傾けた。さざなみの音。吹き渡る風の音。言葉は訥々と凄惨な過去を語る。
「桜井くんは強いんだね。私さ、血を見るとダメなんだ。怖くなっちゃって。震えがとまらなくなるの」
「吐きそうになって、自分がどうしようもなく弱くなっちゃったみたいな気分になって、収まるまで耐えるしかなくなるんだ」
「君が助けにきてくれた時もそう。限界なんかとっくに超えてたよ。でも君が抱いていてくれたから、何とか耐えられたんだと思う」
「はっきり言うとね、私には戦う理由がない。人を傷つけることが苦手。戦いに巻き込まれたとき、きっと私は足をひっぱる」
私は弱い? ちっぽけで無力な存在で、何もできない? まさか。そんなことを言うつもりは全くない。むしろ正反対だよ。
人の過去に知ったようなことを言うつもりもない。その代わり、すこし背中を丸めた彼に右手を伸ばす。
「ね、桜井くん」
「桜井くんはさ! どうして生きてるの? 君が明日を生きないといけない理由。ちゃんと聞いておきたいんだ」
「私にとってはすごく大切なことだから。復讐のためでもいい。お兄さんが生かしてくれたことも理由にはなる」
桜井 雄二 > 「お兄ちゃん!?」
なんだろう、この甘美な響きは。でもこれに甘えたら多分ダメになるやつだ。
「そうか………ま、まぁお兄ちゃんは保留にしておいてくれ」
ここでやめてくれと言えない自分の弱さを呪った。
「そうだな……本当に人が正義感だけで戦えるなら、世界はこんなに不安定なものではないはずだ」
空を仰ぐ。この夕焼け空にも光らない星がたくさんあって。
その中に、自分の兄もいるのだろうか。
もうなんて呼んでいたのか思い出せない、実の兄。
「強くなんかない……殺すことが少し得意なだけだ」
血がダメという彼女の言葉に、《時間旅行機》の時の泣いている姿がダブった。
もうそんな姿は見たくない。
彼女の前に続いている道を守りたいと思った。
……自分にそんな資格があるのか…?
そう考えていると彼女の右手が、肩に優しく触れる。
「俺が生きている理由……それは、自分に納得がしたいんだ…」
「誰かを助けるとか、街を綺麗にしたいとか、そういうのも同じ理由だ」
「蟻人と戦うのもそうだ。復讐じゃなく、結局自分が納得したいだけなのかも知れない」
顔をくしゃりと歪めた。
「何もかも忘れて、何もしないで生きていくよりも、そのほうが人間らしいって……思って」
三千歳 泪 > 「だめだめ! そういう事は嘘でも言わないで。アリ人間を殺すときの感じ、時々思い出したりしない?」
「この手の中でたくさんの生命が消えた。君はそのことをよく知ってる。ぜんぜん平気って顔しないの!」
「桜井くんが傷ついてるのに見て見ぬふりをしろって、そう言ってるのと同じだよ。わからない?」
「私はね、見なかったことにしない。聞こえなかったふりもしない。現実から目をそらさない」
「自分にできる精一杯のことをする。そう決めてるんだ。私が望んだ結末のためなら、捨石になっても構わない」
《時間旅行機》の事件では別れを告げた方の自分が残った。それが世界の選択。偶然が生んだ結果だ。
「それが私の戦いかた。桜井くんだけは知ってるはず。もちろん、ただじゃやられないよ!!」
「それしかできないからそうしてるだけ。君と私はだいたい同じ。ほんっと不器用だよね! えへへへへ」
「―――あ。泣きたい気分? いいよ。誰もいないし。ほらさー、私だけ泣き顔を見られてるのは不公平だと思うんだよね!!」
「気持ちが揺れたらわんわん泣いてすっきりするの。桜井くんもロボじゃないんだからさー、たまには泣いてみなよ!!」
襟元をぐいっとひっぱって、ほとんど無理やり抱きしめる。あばれても駄目だよ桜井くん!
泣き顔が見えないのはちょっと不満だけど、それはそれとして背中をさすってみた。
「私が心配してるのはひとつだけ。戦うなら目的を決めないと。目的のない戦いはただの暴力だよ」
「それじゃ君の仇とかわらなくなる。怪物になり下がって、何の救いもない終わりが待ってる。私は君がそうなることを許さない」
「ぜんぜんふつーじゃんさー。ふわふわしてるなら今決めちゃおう。桜井くんは何のために戦うんだっけ?」
桜井 雄二 > 「泪…………」
彼女は自分の精一杯の強がりも、見透かしてしまうんだ。
だから――――弱さが隠し切れない。
「………俺は…………」
抱きしめられると、ずっと忘れていたことを思い出した。
記憶の中の兄が、いつも笑っていたことを。
「ううっ……うっ……………ううう…」
泣いた。ただ、泣いた。
背中をさすられると、心の中に閉じ込めてきた感情が流れ出してきた。
この優しくて温かなものが、今の俺の全てだ。
「……この島には…大切な人がたくさんいるんだ…」
「その人たちを守るために戦うよ……」
「安室冥路とか、ウィリー・トムスンとか、湖城惣一とか、四十万静歌とか」
「泪……お前と、お前の前に続いている道を守るために、戦うよ」
三千歳 泪 > 「よしよし。これでおあいこだね!!」
「うん、かっこわるいね。桜井くんはダメダメだなぁ! でも大丈夫、私がついてるからさ」
どちらかといえば大満足。熱い涙が胸に落ちて、私の肌までしみていくたびむずむずしちゃってヘンな感じ!
かわいいなー。私よりお兄ちゃんなのに不思議だよね。
私もけっこう溜めこんじゃう方だから、自分を見てるみたいな気分にもなったりして。
「言えば隠さずにみせてくれる。強がりきれない君が好きだよ」
「桜井くんはいい子だなー。前に言ってたのと同じだね! 自分に手の届くものを守るって」
「目指してくものはこれでOK? あとはブレずに走り抜けるだけ。できるよ。君ならきっとやれる」
「私が言ったこと、ちゃんと覚えてといてよね!」
頭をなでる。私にも弟がいたらこんな感じだったのかなー。とか思いつつ。わっしゃわっしゃと。
「どう? 話してみてさ、すっきりした?」
桜井 雄二 > 「………バカ…………」
そう呟いて、泣き続ける。
姉がいたら、こんな感じなのだろうか?
年下の姉と考えるとすごく業が深い感じもする。
「ああ、わかってる。手の届く範囲のものを守るよ」
「俺の大切な人たちのためになら、戦える」
「ああ……わかってる。憎しみのために振るう暴力じゃなくて…」
「もっと真っ直ぐなものを」
頭を撫でられると、気恥ずかしそうに顔を逸らして。
「ああ、すっきりした。ありがとう、泪」
三千歳 泪 > 「迷子になっちゃったときには私を頼るといいよ! でも私もけっこう方向音痴だからなー」
「二人いっしょに迷ったらトムとか岡部先生もいるし。巻き込もう。巻き込んじゃおう。みんなで迷えば怖くないよ」
増え続ける被害者。雪だるま式に迷走するイメージを振り払いながら静かに頭を撫でる。
「君の泪は君だけのもの。君の悲しみに寄り添って、どんな深い傷も癒してくれる」
「―――そう考えると私の名前も悪くないよね。はじめてだよ。ちょっといいかもって思えたの」
「桜井くんのおかげだよ! あはははは、こちらこそ。どういたしまして」
大海原の彼方へと夕陽が沈んで。空には星が瞬きはじめる。今はもうすこしだけこのままで。
桜井 雄二 > 「岡部先生も、ウィリー・トムスンも……巻き込んで、いいのだろうか…」
茜と蒼黒が混じる空の境界だけが二人を見ている。
「俺は…泪の名前が好きだ」
「人の悲しみも、優しさも、喜びも知っている名前だ」
「だから―――――」
世界は不確かで、歪んでいて。
それでも、このナミダだけは偽りじゃない。
ご案内:「浜辺」から三千歳 泪さんが去りました。<補足:金髪碧眼ダブルおさげの女子生徒。重たそうな巨大モンキーレンチつき。>
ご案内:「浜辺」から桜井 雄二さんが去りました。<補足:不燃不凍のスーツに身を包んでいる。(待ち合わせ済み)>