2015/06/29 - 16:52~20:21 のログ
ご案内:「常世保健病院」に神宮司ちはやさんが現れました。<補足:巫女舞の少年。寝巻き姿でベッドに寝ている。>
神宮司ちはや > (落第街の大通りで”よくないもの”に楓と襲われた後
意識を失ったちはやは常世保健病院に運ばれた。
すぐに科学的、霊的な治療処置が施され幸いなことにそれほど重症にはならずにすんだ。
とはいえ、元々体調を崩して熱を出していたしそんな状態で異能を使ってしまった。
3日は目も覚まさずこんこんと眠り続けていた。
目が覚めたのは3日後の朝だった。)
神宮司ちはや > (目覚めてすぐちはやは楓の無事を確かめようと傍に居た看護師に尋ねたり病室を抜けだそうとしたりしたが、
まだ体力が回復しきらないうちは絶対安静と言いつけられて彼女の様子もはっきりとはわかっていなかった。
恐らく無事であるとは思うがあの時のことはよく思い出せない。
もしも彼女の身に何かあったのならばちはやはずっと後悔に苛まれるだろう。
楓の話をきちんと聞かずカフェテラスでの場を飛び出して挙句落第街に逃げ込んだのだ。
追いかけてきた彼女が自分のせいで危ない目にあったのは事実で
それをどうやって詫びたらいいのかわからない。
ベッドの上でシーツを握りしめじっと白い天井を見つめる。)
神宮司ちはや > (学園はもうじき試験期間に入る。その後は確か海開きなどの行事がスケジュールにあったはずだ。
試験を受けられないと成績がつかないし単位認定だってされない。
そんな大事な時期に楓が倒れてしまったのでは尚更申し訳ない。
聞けば噂で楓の成績はやはり優秀らしい。さすが副委員長を務める人である。
自分のせいで彼女の成績に傷がつくのは悲しかった。
それに式典委員として大事な海開きの準備だってあっただろうに……。)
ご案内:「常世保健病院」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。<補足:シャツにスカートの少年>
日恵野ビアトリクス > 病室に小さなノックの音が転がる。
「日恵野ビアトリクスだ」
静かな硬い声。
「見舞いに来た。入っていいだろうか」
神宮司ちはや > (突然の訪問者にびっくりして慌てて上半身を起こす。
身繕いをして力の入らない声で返事をした。)
はい、どうぞ。
(彼が入ってきたのなら薄い微笑で出迎えるだろう)
日恵野ビアトリクス > ノブを回して音を立てずにドアを開き、静かに入室する。
スカートにシャツの代わり映えしない服装。
緊張に固く結ばれていた唇は、ちはやの様子を見てゆるやかに解かれた。
「生きていたか。しぶといな」
そっけなく言って、ベッドの脇の丸椅子に座る。
持っていた小さい鉢をテーブルに置く。
黄のバラやカスミソウのプリザーブドフラワーだ。
座ったまま何も言わず、少し間を置いてから再び口を開く。
「……いったいなにがあったんだ。
落第街で倒れた、って言うのは聞いたけど」
神宮司ちはや > 日恵野さん、わざわざ来てくださったんですね。
ありがとうございます。
(嘘偽り無く嬉しそうに笑ってそう言った。
置かれたプリザーブドフラワーを見て綺麗、と目を細めた。
自分から切り出しはせず手元を見つめながらどう答えようかと少し悩んで)
えっと、うーんとちょっと散歩に出たら迷っちゃって……
それでえーと出口探していたらまた体調を崩しちゃって、それで……
(すごくわかりやすく誤魔化そうとしている)
日恵野ビアトリクス > 冷たい目線を向ける。
「…………お前、ぼくのことをバカにするのも大概にしろよ。
言いたくないならいいけどよ」
苛立った表情を浮かべたが、ハッとしてすぐに消す。
目線を上にやり、ちはやの倒れた日の出来事を思い返す。
「……楓さんと何かあったんだろ」
神宮司ちはや > ご……ごめんなさい……
(冷たい視線を向けられればすぐに俯いて目に涙を浮かべる。
やっぱり嘘をつくのはよくないなと思い直したのか
ぽつりぽつりと言いにくそうに話しだした。)
何かあった、っていうほどじゃないんですけど……
あの日、ちょっと体調戻ったからカフェテラスにご飯食べに行こうと思ったんです。「橘」っていうところの……
そこで、楓さんと男の人が一人、女の人が二人で相席してるのを見て、
それでなんかすごく仲良さそうに話していて、
途中で楓さんが男の人にくっついて腕を……腕を絡めてて
それですごく笑ってて……
ぼく、気づいたらショックだったみたいですぐその場からにげちゃったんです……
日恵野ビアトリクス > 「へえ」
思わず口の端が上がる。慌てて指で頬を押さえて押し戻す。
そんなようなことだろうとは薄々は思っていたが。淫売め。
なあちはや。女性の権力者って言うのはな昔から、
得意顔で説教に入りかけて、やめる。
これ以上弱らせるのはいけない。かぶりを振る。
「……そうか。それは心中察するよ」
重々しい表情を作り、気遣いの言葉をかける。
「それで……どうなったんだ。
単に体調を崩しただけ、なんて言うなよ」
静かに続きを促す。
――そうだったなら、その楓も同時に入院しているはずがないのだ。
神宮司ちはや > (その先を言うべきか言わざるべきか迷うように落ち着きなく視線を彷徨わせる。
が、ちはやは自分の過ちを認めるように恥ずかしく苦い語り口で続けた。)
楓さんもぼくに気づいて追いかけてきたんですけど、ぼく、その場でうまく話せる自信がなくて
それでいっぱい逃げてたら何故か落第街に行っちゃって……
すぐ帰ろうって思ったんですけど……、その……
”よくないもの”に囲まれちゃって……
わ、わかりますか?なんか黒くて霧みたいで怖くて口とか目とかいっぱいつているお化けみたいなそういうの……
(再びそれを思い出したのかぶるりと恐怖で身震いした。)
それで行き止まりに逃げちゃって、そしたら楓さんが助けに来てくれて、だけど襲われちゃって
一生懸命頑張ったんだけど、楓さんが倒れちゃって……
(そこまで言い切ると後悔のため息とともに悔しそうに泣き出した。
うっうっと握りしめたシーツに涙がこぼれ落ちる。)
日恵野ビアトリクス > 「……悪霊、怪異の類か。だいたいはわかる」
供犠。
罪や穢れを知らないちはやの立ち振舞を眺めていて、想起されるいくつかの概念のうちひとつ。
多くの人身御供伝説では生贄は女子ではあるが、
古来の供犠まで遡ると男子が捧げられることも多い。
ともあれ人ならざるものが好みそうな存在だろうということは、
ビアトリクスにもわかった。
「…………おいおい」
目の前で泣きだしたちはやをどうすればいいかわからず、ただ狼狽える。
どうにかしてやりたいとは思ったが、とっさに取るべき行動がわからない、そんな様子。
「……ええと、泣くな。落ち着け。
楓さんは無事だ。ここに来る前に確認した」
と言っても生きていることしか確認できてはいないので、
どれぐらい“無事”なのかは知らない。気休めだ。
そして冷静なもうひとりの自分がちはやの言葉を分析し始める。
それはつまり、楓によってちはやの命の危機が救われたかもしれないということではないのか。
その可能性に行き当たり、ビアトリクスの白い顔からわかりやすく血の気が引いた。
「…………」
神宮司ちはや > (明らかに狼狽えているビアトリクスを前に、一生懸命涙をこらえようとするが
くしゃくしゃになった顔はすぐには元に戻りそうにない。)
も、もし楓先輩に何かあったら、全部、ぜんぶぼくのせいです……
ちゃんとあの人の話も聞かないで危ない所にいっちゃって、
それで危ない目にあわせてしまったのに助けてもらっちゃって……
あ、謝らなきゃダメなのに……
(楓の無事を改めて聞かされて、うんうんと頷いた。
もし会って話せるのならすぐに話して謝りたい。
そう思いながら見上げたビアトリクスの表情がこわばるのにふと気づいて)
日恵野さん……?
日恵野ビアトリクス > (――)
(――ぼくは)
(――ぼくは何をしていた)
(ちはやが苦しんでいる時に……)
本当は。
ちはやが倒れたと聞いてから面会謝絶だった三日間、
いてもたってもいられなかった。何も手につかなかった。
どうしてその場にいられなかったのかと悔やんだ。
冷たい汗が膝に置いた手の上に落ちる。その手が震えている。
(あの淫売は身を呈してちはやを助けようとしていた)
(ぼくは…………)
日恵野さん、とちはやの呼びかけが耳に届く。
ぎこちない笑みを貼り付ける。
「なあ、ちはや……」
「きみは、そんなに楓さんのことが大切かい」
努めて優しく問いかける。声の震えを止めることはできなかった。
神宮司ちはや > (ビアトリクスの震える様子に気づいて思わずその手に自分の手を重ねようとする。
どこか調子でも悪いのだろうかと心配そうに見つめるも
彼の言いようのない苦しそうな様子になんと声をかけていいのかわからない。
いつになく優しい、だが何かがこもった問いかけにちはやは透明な眼差しでビアトリクスを見つめ――
そっと視線を逸らすと恥ずかしそうに、頬を染めて問いかけに頷いた。
その横顔からは彼女のことを想うと愛おしさがこみ上げてくるような、そんなものが感じられるだろうか。)
日恵野ビアトリクス >
「――あぁ」
漏れた声は紛れも無い悲嘆。
(わかっていた)
(わかっていたことさすべて最初から)
(ぼくが淫売の足をどう引っ張ってやろうか考えている間に淫売はちはやを助けた)
(それがすべてだ)
笑みは崩れかかっている。小刻みな呼吸。
自分のかばんを漁り何かを取り出してそれを後ろ手に握る。ちはやには見えない角度。
しばらくちはやを見つめたあとに、表情を消す。静かな灰色の笑顔。
「……なあ、一つ問題に答えてくれないか。
なに、大した話じゃない」
「Aさん、Bさん、Cさん、三人の男女がいる」
「AさんはBさんに懸想していて、それを言い出せずにいた」
「しかし、彼が気づかぬあいだにBさんとCさんは固い絆で結ばれていた」
「Aさんは苦しんだ」
「このままではずっと、BさんとCさんが仲睦まじくする様を見せられることになるだろう」
「Aさんは孤独のままに」
「もしきみがAさんだったら」
「――どうする?」
どこか懇願するような瞳を向けて。
神宮司ちはや > 日恵野さん?大丈夫ですか?どこかお加減でも悪いのですか?
(いつの間にか泣き止んでいたちはやは心配そうにビアトリクスに声をかける。
何か彼の機嫌を損ねるような受け答えをしてしまったのだろうか?
それともこの病室の空気がよくなかったのだろうか?
ちはやはビアトリクスが後ろ手に握ったものに微塵も気づく様子はない。
全く疑いなく、信じきっている。
突然出された問題にきょとんとした顔を向けるが、
内容の複雑さに一生懸命考えこみ、困ったような表情で眉根を寄せる。
けそう、ってなんだろう?ええとたぶん親しみを持っているっていう感じかな。
一生懸命うんうん悩んだ末にちはやはそろそろとおっかなびっくりで答えを出した。)
ぼ、ぼくがAさんだったらとても悲しいし苦しいし、辛いですけど……
きっとBさんはAさんが好きになるぐらい素敵な人だし
そのBさんが親しくなったCさんだってきっととてもよい人だろうし……
こう、うまく言えないけれどAさんにだって素敵なところはあるんだと思うんです。
だ、だからAさんは勇気を出してBさんともCさんとも仲良くしたらいいのになって思います……。
そうしたら皆三人一緒で仲良くなれるかなって。
絆は、一人とだけ結ぶものじゃないんじゃないかな……。
(ぼく、頭良くないし勇気もないから実際に起こったら
全然そんなことできないかもしれないですけど、と言い訳のように言って)
日恵野ビアトリクス > 小さな金属音。
ビアトリクスが後ろ手に握っていたもの
――刃まで真っ黒に染まりきったペインティングナイフが床に落ちた。
静かにちはやの答えに耳を傾けていたビアトリクスの表情が
ふっ、と安堵したように緩んだ。
「ちはやなら、そう言ってくれると思ってたよ」
ひどく穏やかな笑み。
「きっと、そういうところが好きになったんだ」
床を《踏んで》身体を前に突き出す。
ちはやの肩に手をかける。
ぽかんとして見上げる顔――その唇に、自らの唇を合わせた。
神宮司ちはや > (カラン、と甲高い音が床に響いてなんだろうと見てみたら見慣れないものが転がっている。
日恵野さんのものかな?落としましたよ、なんてひろおうとする前に
見上げた彼の顔に穏やかな笑みが浮かぶのを見る。
今まで一度としてみたことがないビアトリクスの鮮やかな笑みだ。
きれいだな、いつもの不機嫌そうな顔よりずっといいなと思って見つめていたらふいに肩を掴まれた。
かけられた言葉を飲み込めないまま相手の顔が近づく。
唇に熱。
押し付けられたものがわからないかのようにマヌケな顔でちはやは抵抗をしなかった。
今、日恵野さんぼくを好きになったっていった?
好き?そうなの?えっ?ほんとう?
混乱したまま体を硬直させる。突き飛ばしも身じろぎもしない。)
日恵野ビアトリクス > 唇が合わさったまま、どれぐらいそうしていただろうか。
数秒間か、あるいは数分間か。
浮かせた腰を、椅子に戻す。元通りの体勢。
愛おしげに、目を細めて戸惑った様子のちはやを見つめている。
「本当さ」
(ずっと仕舞いこんでおこうと思っていた)
(ちはやの幸せを願うなら)
(だけど)
(ずっと押さえつけているうちに、黒い感情で息ができなくなって)
「いきなり、わけのわからないことを言ってごめん。
黙っていようと思ったけど、できなかった。
本当に好きなのかどうか、自分でもわからなかったし」
「でも、本当に好きなんだ。
今言えなかったら、きっと、一生言えない」
「気持ち悪いことを言っていることはわかっている」
「だけど」
「ぼくは」
「ひとりにされるかと思って、怖かったんだ――」
双眸から涙が溢れだし、頬に輝く筋を作って落ちた。
神宮司ちはや > (離れた相手を呆然と見つめる。
無意識に己の唇を指先で確かめるように触れながら
わけがわからないという顔でビアトリクスを見つめた。
彼になんと答えたらいいのだろう。
何を言っても傷つけそうな気がして息を呑む。
だけれど独白の後流された涙を見れば、居てもたっても居られず思わず身を乗り出して相手の頬に伝う涙を拭った。)
あ、謝らないで下さい!
ぼくも、好きってよくわからないけど……
日恵野さんの言う好きと違うかもしれないけれど……
ぼ、ぼくも日恵野さ……ビアトリクスさんのこと、好きですし
だから泣かないで欲しいし、できればこれからも仲良くして欲しいし……
ひとりになんてしないから、お願い泣かないでください……
(上ずった声でそう言うと思わずまた自分も涙をこぼす。)
日恵野ビアトリクス > 「う……う……」
「うああぁあぁあぁぁ」
とうとう耐え切れなくなって、ちはやの寝そべるベッドに突っ伏して
声を上げて泣き始める。
『感情をぶつけろ』――美人退魔士が言った。
『憎むのは何故か。思いの根源を探り当てろ』――和装の剣士が言った。
(これが答えなんだろうか)
(――ぼくが強くなりたかったのは、たぶん――)
顔を上げる。丹精な顔立ちが見る影もない、泣き腫らした相貌。
ひどく情けなく映るかもしれない。
ひっく、ひっくと肩を震わせてしゃくりあげている。
「ほんとうに?」
「迷惑じゃない?」
「きらいにならない?」
「まだ、きみのこと、すきでいていい?」
神宮司ちはや > (思わず相手の体を支えるように抱きしめる。
必死に泣く相手の背をさする。
こんなに感情を現したビアトリクスは初めて見た。
いつもきっと噛みしめるように押し殺すようにこのどこにもやり場のない気持ちを押さえつけていたのだろうか。
そう思うと、それはとても苦しく飢え渇くような日々だったのだろうか。
ビアトリクスの言葉にひとつひとつ頷き返し)
ほんとうにほんとうです。
だって、ビアトリクスさんはいつも優しいもん……
不機嫌そうだけれど、お風呂でぼくのこと助けてくれたし、勉強だって教えてくださったし……
ひとから好かれて嬉しくない人はいないし
ぼくはビアトリクスさんがぼくのこと好きだって言ってくれたこと
うれしいです……。
(そうっと言い聞かせるように囁いた)
日恵野ビアトリクス > 「…………!」
囁きに、それまでとは別の感情で身を震わせた。
その身体をそっと抱き返す。
「…………」
しばらくして、ビアトリクスは泣き止む。
ゆっくりと身体を離す。
しゃっくりは続いているし、顔は無様なままだが、
落ち着きは取り戻したように見える。
つきものの落ちたような表情。
「……ありがとう」
立ち上がる。
「名前を呼んでくれるのはうれしいけど……“ビアトリクスさん”は長い。
そうだな……“ビーチェ”とか“トリクシー”って呼んでほしい。」
別に“日恵野”でもいいが、と付け足して。
「それじゃあ、早く元気な姿を見せて戻ってきてくれ。
……またね、ちはや」
手を振って、ビアトリクスは病室を後にする。
後には黒いペインティングナイフが残された。
さながら彼の抱えたものが、そこにすべて吐き出されたように。
ご案内:「常世保健病院」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。<補足:上はシャツ、下はスカートの男子生徒>
神宮司ちはや > (泣きはらした顔のビアトリクスを見て、少しだけくすりと笑う。)
ううん、ぼくこそありがとうございます。
ええと、……トリクシーさん。
来てくださってありがとう。嬉しかったです……
(手を振る相手に同じように微笑を浮かべ手を振り返す。
名残惜しいような、もう少しだけ長く居たかったようなそんな気持ちを抱えて見送った。
彼が退出した後に床に残ったペインティングナイフに気づくと
ベッドから抜けだしてそっと拾い上げる。
真っ黒に塗られ鈍く光るそれを大事そうに胸の前で握ったあと
プリザーブドフラワーが置かれた机の上にそっと置いた。)
ご案内:「常世保健病院」から神宮司ちはやさんが去りました。<補足:巫女舞の少年。寝巻き姿でベッドに寝ている。>