2015/06/29 - 21:53~22:29 のログ
ご案内:「常世公園」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。<補足:シャツにスカート 泣き腫らしたあと>
日恵野ビアトリクス > 「………………」

呆けたような表情で人気の少ない公園のベンチに座る。
顔は涙のあとで腫れていて、泣き腫らしたことは誰の目にも明らかだった。

「…………言ってしまった……」

日恵野ビアトリクス > 病室で交わした会話のことを思い返すと、
恥ずかしくなって足をバタバタさせてしまう。
愛の語らいの真似事ならそれなりには慣れていた。
けどほんとうの心のうちをあそこまで露わにするのははじめてだった。

(これでよかったのだろうか)

それはわからない。
自分のなかで頑丈ななにかが粉々に砕ける感触がした。
まださらさらとした感触がある。
昨日までの自分とは決定的に変わってしまった。
それだけが確かだった。

「……ふう」

日恵野ビアトリクス > これからのことを考える。
淫売――もとい、楓が復調したなら、もう一度話しておかなければなるまい。
できるかどうかはわからないが、ちはやの願いは三人で仲良くすることだ。
彼女が信頼に値するかどうかは、まだ見極められていないことだし。

「…………」

まだ気の昂ぶりが残っている。
何か描いて気を紛らわせてもいいだろう。
最近、絵を描くためだけに筆を取っていなかった。

かばんからスケッチブックを取り出す。
大した画材は入っていない。
……練習を兼ねて、《踊るひとがた》を使おう。
そう考えて、開いたページに指を添わせる。

日恵野ビアトリクス > (何を描こう……?)

今ひとつ思いつかなくて、紙の上で指が右往左往する。
絵の基本に立ち返る。
自分の気持ちを画用紙に率直に。

「…………」

すると、

「わっ!」

《踊るひとがた》が発動――
たちまちのうちに、スケッチブックに色が広がる。
それも今まで暴走した時のような、抽象的な色彩の模様や広がりではない。
踊る色が明確な画を結ぶ。

数秒後、スケッチブックの上に完成したのは
黒い長髪、藍色の瞳を持った天使の画。
色鉛筆で描かれたような、優しく柔らかいイメージ――

「――――」

日恵野ビアトリクス > 「わっわっわっ」

誰も周囲に見るものなどいないが、慌てて頁を隠す。
あまりにも恥ずかしすぎるなんだこれは。

「…………」
ふたたびの嘆息。
そしてはたとひとつの事実に気づく。

自分の意思で使った《踊るひとがた》で
こんなにハッキリとした絵を出力できたことは
これがはじめてだということに。

日恵野ビアトリクス > 「成長……した。
 《踊るひとがた》が…………」

目を見開く。信じられない、という表情。
いままでどれだけ訓練しても『便利なペン』程度の使い方しかできなかった
《踊るひとがた》が、望むイメージを形にしたのだ。

「……ははっ」

日恵野ビアトリクス > 「……あははははっ」

(自分は無力で)
(世界はあいかわらず不愉快なままで)
(好きな人は別の人に夢中なままだというのに)
(どうしてだかとても愉快な気分だ)

ビアトリクスはスキップを踏んで、公園を後にする。
ほんの少しの勇気が、彼に宿っていた。

ご案内:「常世公園」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。<補足:シャツにスカート 泣き腫らしたあと>