2015/05/31 - 22:28~00:07 のログ
ご案内:「異邦人街旧区第三複合住宅施設」に五代 基一郎さんが現れました。<補足:捜査中>
五代 基一郎 > 『異邦人街に入り、いくつかの交通機関を乗り継いで一時間ほど歩けばそれらは見えてきた。
いくつかの言語が入り混じった立て看板と封鎖を意味するチェーンを乗り越え、そこに踏み込んでいく』
五代 基一郎 > 『強くなりつつある日差しを避けるように手をかざし、それらを見上げるように望めば方々からワイヤーやら縄のようなものが垂れ落ち
天幕のように布がかけられては重機がそれらの前に鎮座されている姿が見える。工事前日というのに彼らの気風か、準備は既に済んでいたように見える』
五代 基一郎 > 『再開発局の現場事務所の戸を叩き2,3挨拶を済ませる。事務所の整った環境やちらとみた作業工程表から彼らの勤勉さが伺えた。しかしそれも上の方で交わされた、現場の上を通る役所的な手続きが介入すると崩れるのもまた事実であった。
些か不機嫌な彼らになるべく早く済ませることを告げて、事務所を後にしてゆっくりと目的の施設に足を踏み入れた。』
五代 基一郎 > 『異界の門が開いて数十年。常世島がモデルケースとして運用され始めて十数年。
混沌を混沌で流すような世界情勢が過ぎ、また生まれた子の島でもその混沌は健在だった。
多種多様な異邦人が訪れ、多くの異世界の文化が流れ、根付いてそして消えていく。』
五代 基一郎 > 『異世界との交流、自治、文化の拠り所……慰めとしても世の中そう簡単に済む話じゃない。
そういった理想とは裏腹にこの島の一区画で多様な文化、多くの世界のそれらを留めるには無理があった。
不和なく揃えられたガラス張りのケースに納められた理想のモデルとはならず
現実は押し込めたそれらがひしめき合い、肩を並べては擦り合い。いくつかの勃興があり没落があり、共存と呼ばれる政治がそれらを纏めて共和という落ち着いた姿に見せていた。』
五代 基一郎 > 『その中に実際に共存共和を……ここの世界をよりよくしたいと願うものもいたが、それらの多くはやはり淘汰されていった。
最もそれらは流動的なものであって、単純な力や経済的なものや何かが関係しているのであるからこの異邦人街の勢力というものこそ混濁した泥の中の世界の縮図のようなものだ。
明日や未来にどうなっているかすらわからないのだ。世界が滅びる瞬間の起点がここかもしれない。』
五代 基一郎 > 『ここも謂わばその渦の中で泡沫のように消えた者達の住居にして根城。
何処の世界でも発達した世界の効率的な住居建築というのは多層構造の高層建築に至るのか。中程度のそれらを彼らは作り拠り所にしていたらしい。
外観だけではなく内部からもわかるが、計画的に設計され住民の居住性を第一にされ、快適な生活を望んだいただろうことが見て取れた。
最も彼らが潰えた今、再開発計画の一つの中に押しのけられこうした消えゆく風景となっているのだが』
五代 基一郎 > 『今となってはこのレンガ作りの建物がどうやって作られたかなど知る術はない。所々草が生えて苔むした…日のあたらぬことが多くなったこの建物に根付いてたそれらは
誰からも省みられることもなく、誰が残すこともなく早ければ今日にでも消えゆくのだろう。エントランスホールの枯れぬ水場に火照った手を浸し、顔を洗うと目指す中層の部屋に向かって歩き始めた』
五代 基一郎 > 『中層へと階段を上っていく。この建物に昇降機というものはもちろんある。ただ今となってはその動かし方を知る者はいない。
誰がどのように動かしていたか、調べればわかるようなものだろうが自分の手でここをどうこうする気もないし
どうこうできるかとも思わなかった。階段の埃と苔や雑草が混ざる手すりを横目にやりつつ冷たいレンガの世界を進んでいく』
五代 基一郎 > 『目的の部屋に付けば、蔦に穿たれた木製のドアが出迎える。表札のあった場所は日焼けでそこの跡だけくっきりと残されていた。
昇降機やこの建築様式に似合わないそのドアを開けるのために2,3強く”ノック”をすればなんとか開き
役目を終えたドアを脇にどけて部屋の中をまず覗き見た』
五代 基一郎 > 『ドアの開かれていない、埃の混じった空気が引かれるように流れ出す。
部屋の中は薄暗く、通路からの灯りではうっすらとしかその中身を伺うことしかできない。
ハンカチで口を押えながら、ゆっくりと中身に踏み込みこのアパートの概略図でみたドアに向かう』
五代 基一郎 > 『また、ドア窓に向かえばそれもまた古めかしい木戸であり開けるのに難儀した。
難儀したが、玄関ドアと同じく2,3度強く”ノック”をすればドア窓の木窓は役目を終えて
そのまま外庭にまで旅立って行った。もう二度と戻る事のない旅を見届けると外の明かりが
部屋の中に差し込みこの部屋の内部を明らかにしていく。』
五代 基一郎 > 『家具の殆どが撤去された、または持ち出されたか。
まさしくもぬけのからだった。散乱する足跡、踏み荒らされた床板。破壊された特に価値が見えぬ家具。
動物の足跡……ただの廃屋にしか見えないのは、誰の目にも明らかであった。』
五代 基一郎 > 『しばらく部屋の中から外の景色を眺め、また収穫のないものかと持っていたPDAで景色を写し取り
部屋の内部も撮影した後に気付く。埃と苔が伸びたそこに何かが残されていることに。
部屋のレンガ壁に近づき、そこに手を這わせて苔と埃をこそぐように落としていく』
五代 基一郎 > 『それらはどこの文字だろうか。ここの文字だろうか。
だがそれらは確かに刻まれている。
朽ち果てるだろうこの部屋に楔のように打ち付けたそれは壁一面を中心に割り、書のように書き込まれた文字列。
なにかの本のページの開きを丸々書き写したかのようなものが、そこに刻まれていた。
そこだけではない。壁があるところ全てにそれらは書き込まれていた。』
五代 基一郎 > 『こんなものを見せられた廃墟荒らしはどんな気分だっただろうか。
そこの床に叩きつけられて壊された何かの収納箱がそれを感じさせた。
手にしていたPDAでそれら一通りを撮影し終えると、その収納箱を足で退けて部屋から退室した』
五代 基一郎 > 『レンガ作りの高層住宅を後に、再開発局の事務所を訪れまた2,3挨拶し捜査が終わったことを伝える。
そのまま事務所を出れば、現場監督が声をかけて解体工事が始まった』
五代 基一郎 > 『現場があるため、稼げると見込んだのか。屋台の氷売りに声をかけ
氷菓子を受け取ると一口二口にしつつ……解体現場を目で見て、耳で崩れていくのを見届けた。
ここもまた、消えゆく泡飛沫の世界の一つ』
ご案内:「異邦人街旧区第三複合住宅施設」から五代 基一郎さんが去りました。<補足:捜査中>