2015/06/13 - 12:56~00:40 のログ
ご案内:「おすしやさん。」に『室長補佐代理』さんが現れました。<補足:No.38 汚らしい薄笑いとザンバラ髪の男。垂れ目。長身。制服にコート。>
『室長補佐代理』 > 路地裏の一角。そこの狭い暖簾をくぐり、狭い引き戸を開ける。
カウンターしかない小さな店の隅に徐に腰かけて、静かに頷く。
それだけで十分だった。
店主もまた静かに頷き返し、つけ場に立つ。
『室長補佐代理』 > 無言のまま、湯呑みがだされ、その後は僅かな調理音だけが響く。
当然ながらBGMなどはない。テレビもない。
照明もそれほど明るくない。
恐ろしく静かだ。
男は黙したまま、左手だけをテーブルの上に置いて佇んでいる。
ご案内:「おすしやさん。」に否支中 活路さんが現れました。<補足:公安委員会機密監視対象「破門の男」>
『室長補佐代理』 > 男は一瞥した。
一瞥しただけで、お互いに分かりあっていた。
ただ静かに頷いて、少し席をずらす。
それだけだった。
それだけできっと十分だった。
否支中 活路 > やや大柄な男が引き戸を開けた。
無言。
調理音が響く中を、何も言わずに一歩、二歩、先客の左に座る。
その瞬、視線が交錯する。
言葉はない。
椅子をひいてゆっくりと腰を下ろすと、顔を覆う包帯の向こう薄く長く息を吐いた。
『室長補佐代理』 > ほどなくして『先付』の前菜が並べられる。
それだけで十分だった。
何が並べられているのか、それだけで十分だった。
男はただ、包帯面の男を一瞥し、頷く。
それで十分だった。
否支中 活路 > 右手に座る男が自分を一瞥する。
その直後にまた自分が男を一瞥する。
それだけだ。
板前も、何も言わない。
目の前には小皿にのったきくらげとかにの和物。
行く。
『室長補佐代理』 > 咀嚼音だけが響く。
しかしそれは、己の内に響くのみ。
外に漏れることはない。
男たちの耳朶を骨反射で音が響き、さわやかな酸味と微かな味付けが風味を最大限に引き出す。
次の一品を期待させる。
そう、それでいいのだ。
男たちは黙したまま、箸を置く。
板前もまた、静かに頷くだけだった。
ご案内:「おすしやさん。」に五代 基一郎さんが現れました。<補足:夏用スーツ。>
否支中 活路 > 美味い。
すっと差し出された先付が、まず美味い。
しかしお互い口には出さない。わかっているからだ。
板前にもわかっている。
わかっているということがわかっている。
だから言わない。
言わずとも、美味い。
『室長補佐代理』 > 新たな来客がきても、男はただ一瞥するのみだった。
黙して頷き、また席をずらす。
それだけだ。
それだけでいいのだ。
ここでは、それだけでいい。
五代 基一郎 > 三人目。疲れた顔と目の男が引き戸を開ける。
店内を一瞥することもなく、無言でカウンター席に歩み寄り
椅子を引いて座る。
先客と視線すら交差することはない。
ただ小さく、店主におまかせで。と呟く。
出された湯呑に口を付けつつ。
調理音と無言の食事風景の中ぼんやりと待つ。
季節のものは何であろうか、と。
否支中 活路 > 三人目の来訪。
しかし変わらない。今ここで各々がなすべき事は一つの変化もない。
左手に座る男の、そのいささかの存在感を受け止め、
板前の背を薄く見つめる。
それでいい。
それだけでいい。
『室長補佐代理』 > そっと、蒸し物……茶碗蒸しが出てくる。
主張はない。
ただ、静かに出される。
徐に頷いてから、手に取る。
熱い。
だが、それがいい。
五代 基一郎 > 男は寿司を食いに来た。
いや、来ている。以前来たときの様に他のモノではなく握りが出された。
海の幸は鮮度が大事、取れたてがよいとは誰もが思う。
だがそれは刺身に限っての話である。ハッキリいえばそんなもの自分で裁ければ十分である。
寿司は違う。寿司とは技術である。故に今ここにいる。
まず出されたのは”とりがい”
食べやすく揃えられ、薄く切られた貝の切り身から飯の適度な温かさが伝わる。
酢飯に巨大な刺身を乗せただけのものなど無粋極まる。
煮切り醤油が塗られたその握り一貫を手にとり、口に運ぶ。
うまい。
崩れることのない、かつ固くもない握り加減。
季節のものを味わうに邪魔にもならず、かつあることを忘れさせない。
うまい。
『室長補佐代理』 > そっと、ゲタに出された”とりがい”に手を伸ばす。
当然ながら素手。
寿司は素手で食うモノ。
そう、寿司をくいにきた。
なら、それはかくして喰らうべきである。
徐に手に取り、一口。
思わず、瞑目する。
否支中 活路 > そこでようやく左手の男を一瞥した。
いきなり“握り”。
なるほど、この男は“常連”なのだ。
いい店だ。確かに通いたくもなる。
あるいはこの先の己の姿か。
手には心地よい熱。右手の男と同じ茶碗蒸し。三つ葉が繊細だ。
ゆっくりと箸がすくう。
ゆれる黄色。
美味い。
美味いと味わいながら、視線のさきには“とりがい”がある。
だが、急がない。
急いでは、この店に無礼だ。
五代 基一郎 > 黒塗り、漆のゲタと呼ばれるそれに置かれた”とりがい”を食い終えれば次に出てくるのは
”あおりいか”
先ほどの”とりがい”が出された時と同じく。
その黒塗りが鏡面のように写された姿は透き通る”とりがい”
煮切り醤油が塗られたそれをまた一つ手に取り口に運ぶ。
身の柔らかさ、そして酢飯の適度な握り。それは持った時に崩れるものではなく
かといって口にいれて咀嚼しようとして崩れるものではない。
口にいれて咀嚼しようという時に崩れていく握り加減。
これこそ寿司である。
”あおりいか”の柔らかい身を堪能しながら、味わっていく。
否支中 活路 > 茶碗蒸しを食べ終え、茶を一口。
次は、“握り”に行くのだ。
整え直す。仕切りなおす。
本懐へ向かう。指が“とりがい”をつまみあげた。
白から茶色っぽい紫へと向かうこのコントラスト。つるりと輝く。
吸い込まれていく。必然として。
運命の扉を開く英雄のように。
指を口元に残し、しばらく息もない瞬間が続く。
『室長補佐代理』 > ゆっくりと”とりがい”を咀嚼したのち、一度湯呑みで落ち着く。
続けて出された”あおりいか”
まずは、見る。
色。艶。形。
微かな光彩で照らし出される食の芸術を目の当たりにし、満足気に頷く。
そして、また、徐に、喰らう。
口中で解ける”あおりいか”の食感をゆっくりと楽しんでから、ようやく飲み込む。
思わず、笑みも浮かぶ。
ご案内:「おすしやさん。」にエアリアさんが現れました。<補足:白い少女>
五代 基一郎 > 次に出てくるのは”まこがれい”
この初夏の時期に仕入れられた季節のものだ。
そのなだらかな白さ。西洋的表現であるならヴェールのように見える。
それが黒塗りの鏡面に写るものだから、それだけでも十分だろう。
またそれを黙して手にとり、口に運び咀嚼する。
特有の身の舌触り。感触が舌を楽しませる。
身の切り方もそうだ。柔らかい。舌が喜んでいる。
季節のものは、やはりうまい。
エアリア > 【全身、上から下まで白い少女が入店する。
エアリアの場合、寿司はどこでもいいというわけにも行かない。
故に、店を選んで行きつけになっている
この店もそういうところだ。
ただ、エアリアの外見はドコへいっても嫌が応にも目立つ
こういった和風のところではなおさらだ
もし何かしら情報を得たいなら、格好の場だといえる
寿司屋はVIPルームがないし、カウンターに座るしかないというのが礼儀だからだ】
ご無沙汰しておりましたわ……はい、ええ
最近忙しいもので……少し遠のいてまして
はい、いつものでお願いします。
【寿司屋でいつもの、と頼む奇妙な頼み方だった】
五代 基一郎 > そして次の握りは、というタイミングで男は頼む。
たまごを。
卵焼きである。季節のネタではなく卵焼き。
何故か。それは最初にこの店を訪れた時、戯れでそれを頼み口にした時までに遡る。
それは出汁巻卵である。よく誰もが想像するおすしの甘い卵焼きではない。
出汁巻卵。だがただの出汁巻卵ではない。これは、と思うものがあった。
故にその場でもう一つ頼んだ程に心を打つものがあった。
よく寿司屋の良しあしは卵がどうのと巧拙を垂れる者はいる。
だが実際にその卵の良しあしを実感できる寿司屋などいくつあろう?
いくつ出会えるだろうか。
その出会える場所がここである。
出された出汁巻卵を口に運び思う。
やはりうまい。ここのは何度食ってもうまい。
一度の来店で3度、ペースでいえば前、中、そして閉めに頼むほど心を掴んでやまなかった。
否支中 活路 > “とりがい”に続くは“あおりいか”。
真珠の如き輝きと白さ。
口に運ぼうとして、同じぐらい白い新参者を一瞥した。
ただそれだけだ。
目を閉じ、口の中へ滑り込ませた純白が舌と遊ぶ。
歯で噛み切るような、そんな無粋を求められる食材ではない。
確かな歯ごたえとともに、しかしするりと溶けほぐれる柔さが優しい。
次は“まこがれい”なのか?
違う。
こちらに出されるのは深い鉢に入れられた汁物。
とろみのある液体の中央に抹茶の粉が浮いている。
無色に緑が映えている。
『室長補佐代理』 > 入店した少女をみて、そっとまた席をズラす。
店からみて目上の人間が来た以上、上座は譲る。
少女を奥の席に誘って、自分は下座に移動する。
この店では、自分はまだ常連とはいえない客である。
故に、そういった気遣いもここでは必要になる。
軽く頭をさげてから、移動して、自分も”まこがれい”を愉しむ。
エアリア > ……あら、いいのに、ありがとう。
【補佐代理の気遣いを受け取る
赤い目が否応にも印象的で目立つ
その瞳で会釈する。
会釈だというのにぞっとするような微笑みだったかもしれない】
ふふ、私が来れる寿司屋は本当に助かります
だからここに来るのはいつも楽しみなんですよ……?
【エアリアは席につくと、おしぼりで手をふき
お茶を飲みつつ板前と会話を始める
が、妙なことにネタの話をほとんどしない
今日はなにが、とかそう言う話がない
そういう意味では、常連にしてはちょっと妙な会話だった】
否支中 活路 > 柔らかく笑う少女。
沈黙の男たちの中ではあるいは異物とも言えるかもしれない。
いや、しかし相手にあるのは“余裕”。
恐らくは左手の男よりも慣れ親しんだ“上級者”。
だからこそ現れるリラックス。
己こそ無粋はしない。
今はただとろみのある液体を口に運ぶ。
甘みと塩気の絶妙さ。そこに抹茶がスッと爽やかに来る。
箸を深く刺せば、底の中心であたるのは貝柱。
なんと嬉しい驚き。包帯の下で、口角がわずかに上がる。
五代 基一郎 > 男は他に目もくれず寿司を食う。
ただ黙々と食う。この状況など我関せず、というように。
次に出てくるのは”こはだ”
銀色の光が黒の漆とのコントラストが美しい。
だがその外見の華美さだけではない。手が加えられたしめられたものだ。
戦いを生業とするものであれば、技巧の一つがそのしめである。
口に入れればわかるそのしめ方の、季節のものであるその身を殺さぬ程度に
しかし技を舌に伝えるその力。時の武芸者が手にすれば如何に口にするか。
何も語らず。
男もまた、何も語らずそれを口にし……しかと確かめた。
五代 基一郎 > そして”あかみ”である。
赤身、つまりマグロの赤身。トロではない……赤身が来る。
黒と赤。ゲタの上に並ぶ戦装束の色合い。
その姿を確かめつつ、口に運ぶ。
トロのような強い脂ではなく、だが濃厚なねっとりとした赤身の強さ。
質の良い赤身はいくら盛られたトロよりも勝る。
それを言外に確かめつつ、口に運ぶ。
マグロは赤身なのだと。
剣術の基本は全てここにあると素振りを見せつけるように。
ボクシングの基本はストレートであると習わせるように。
そこにある。
うまい。
『室長補佐代理』 > 少女の礼に対して、また一礼で返す。
ただ微かに笑っているだけにもかかわらず、少女の笑みにはどこか冷たいものが感じられる。
気安く板前を会話を始める少女をみて、男はわずかに眉をしかめた。
ネタの話ではない。
若干の奇妙な会話に齟齬を覚えつつも、自分も”こはだ”を食べる
続けて、”あかみ”
食事を楽しみながらも、新たに現れた少女の話には傍耳を立てていた。
五代 基一郎 > 最後に出された”あなご”を口にしながら、”たまご”を待つ。
”あなご”の焼き方。そして煮られたタレ。
この”あなご”の身の柔らかさ。ふんわりと感じるその口当たり。
やわらかさ、焼いたものであるが見た目のいかつさとは裏腹に
口の中で咀嚼するたびにほぐれていく優しさのような触感。
やはりここの技術は、通うに値するものである。
この”あなご”の焼きを味わい、また”たまご”を味わう。
これでよい、よきかなと。
手を拭いつつ……湯呑を傾ける。
寿司を食いに来て、寿司を食った。
満足である。
否支中 活路 > そしてきた。“たい”。
それも“あまだい”だ。
活路の育った関西圏では“ぐじ”と呼ぶところもある。
白いてかりに、赤っぽいピンクが色を添えている。
独特の食感。
ゆっくり、ゆっくりと口の中でほぐしていく。
飲み込む前に、頷いた。
余韻をたっぷりと味わったあと。茶が口を涼やかにする。
エアリア > 【常連ではあるが、最初は付出しに前菜から
コースである
握りから行くわけではない
先程から奇妙な違和感を出しているままにゆっくりと味わう
……椀物、お作り。
常連にしては妙な雰囲気がある
そして……魚が一品もでていない】
『室長補佐代理』 > 遅れてやってきた“たい”を口にしながら、少女の様子を伺う。
公安の男はわかる。常連なのだろう。
包帯の男もわかる。やはり彼も通なのだろう。
しかし、この少女は何か。
場慣れた雰囲気であるにもかかわらず、出されたものはまた趣が違う。
否支中 活路 > 違和感を、感じている。
いやわかっていた。最初から。
わかっていて、あえて伏せてきた。
食べないのか。
寿司を。
この店の寿司を。
この、寿司を食べないのか。
最後に海老を平らげた。そのままに、つい一瞥してしまう。
エアリア > 【そしてようやく……寿司。
茄子の素揚げ
椎茸
みょうが
芽ネギ
海ぶどう……
そう。
魚が一品もない。】
エアリア > 【そして、周りの視線を感じたのか、たまたま目が合うと、会釈する。
妙に見た目にそぐわないような、底知れぬ物を感じたかもしれない。】
『室長補佐代理』 > 思わず、目を細める。
変わり種。
しかし、それにしても常軌を逸している。
確かに、寿司において魚を食さないというネタは多くある。
河童巻きなどその代表だ。
全くありえないわけではない。
しかしそれでもこれは、目を引き、興味をそそらせ……何より疑問を感じさせるには十二分な圧があるネタ。
エアリア > 【……またか。
そう思わなくはない、寿司屋に来るといつもそうだ
目立つ容姿、目立つ料理……
しかたのないこととはいえ自分は乳製品と卵くらいしか動物性は摂れないのだ
あとはどうしても戻してしまう
だから、こうして丁寧にやってくれる寿司屋は貴重だった
そして寿司屋に対して礼儀を通すなら、自分から赴いてカウンターで食べるのが一番だ
別に呼びつけることは出来なくはないが、金の価値は絶対ではあるがそれゆえに届かない部分もある
となれば、やはり出向くしかない
そして出向くとなるとコレだ。
だいたいいつも対応は決まっている
もちろん……こちらの対応もだ】
……ふふ、何か珍しいものでも見たような感じですよ?
【笑顔で懐に言葉のナイフを突きつければいい】
否支中 活路 > 「いや、すんまへんな。根が下品なもんで」
白い少女へ会釈は返し、それ以上見る無粋は控える。
あるいは食べられない、ということもあるかもしれない。
多様な人間、人ならざる者がいるのだ。
それでもあえてここ。
魚は食べられないが、しかしそれをも受けてくれる、この店。
馴染みの高級店。
そういうことなのかもしれない。
深く頷き、茶をすすった。
ああ、食べた。
俺は、
俺たちは、寿司を食べた。
五代 基一郎 > 白い少女の不自然な注文。
寿司の技巧を確かめにきたのなら、有り得ない話ではない。
ここにいる誰もがその白い少女について何かしか思う所があるだろう。
誰もが違和感を抱え始めている。
その黒塗りのゲタにさえ映る白塗りの少女の伺うような言葉。
猜疑にかられ始める方が自然だ。寧ろこの中で何もないと、目を背けるほうがおかしい。
だからこそ思う。
「たまご」
また憑りつかれたように、たまごを頼んで食い始めた。
また食いたくなった。
『室長補佐代理』 > 少女からそう囁かれれば、男も苦笑を漏らしながら、頭を下げる。
確かに人の晩餐をじろじろと見ることは無粋である。
素直に謝辞の意を態度で述べ、再び前を向く。
男の食事も既に終わっていた。
湯呑に口をつけて、余韻を静かに楽しんでいる。
エアリア > 【……コレだから人間は。
いつも実験動物として扱われ、奇異の目にさらされ、弄ばれるように対応される
コレを解決するのは唯一、金だ。
他人が頭を下げることも、他人に言うことを聞かせることも、物を買うことも、得ることも、そうだ。
そしてこうして食事を出来るコトも
……やがて、エアリアが唯一絶対楽しみにしていた動物性が出てくる
今上がったばかりの厚焼き玉子だ……しかもコレは……特別製?
まるでプリンのようでもある
器からすると、どうもデザートらしいと思えるだろう
それを見た瞬間、顔が綻ぶのは止められなかった】
『室長補佐代理』 > 横目で一度だけ綻ぶその顔を確認してから、男は顔を前に向けて静かに笑う。
先ほど無礼を咎められたばかりである。
同じ轍は踏まない。
あくまで食後の余韻を楽しみつつ、少女の食事の邪魔はしない。
五代 基一郎 > 白い少女に、野菜のみのネタを食っていた少女。
食事をする人間は皆同じである。そしてまた、食を楽しむものは同じである。
食を楽しみたい、楽しい時間を過ごしたい。
そんな当たり前のことを求めている。
それが当然であるからこそ、ここに並ぶ男らも入ってきた少女に。
そのどう考えても違和感のある少女にも目もくれず寿司を食っていた。
しかし。
その少女の前に出された”それ”が出現した瞬間、男の目は見開かれ凝視した。
少女ではなく厚焼き玉子を。
美しい……今特にこの場所で”たまご”を食っていなかったらそう漏らしていただろう。
事実行儀が悪いことすら思考の外に”たまご”を味わっていたものの、咀嚼していた口は半ば開きかけていた。
技巧。
寿司のネタだけではない。わかっていたことだが卵の調理もそれを見ただけでわかる領域。
その黄金色の”たまご”が……目を奪う。
食ってみたい。いや、しかし寿司屋で一目でわかる”デザート”を
違う。これは甘味を食いたいのではない……その技術を、技を文字通り味わってみたい。
そんな欲求。だがそれは憚られる。寿司を食いに来たのだから。
俺は、寿司を食いに来た。
だから頼む。甘い、”それ”ではなく……出汁巻の”それ”を
「たまご」
エアリア > ふふ……最後にコレがいつも楽しみで。
だからつい通ってしまうんですよね
【実際、その厚焼き玉子は特別製で、言わば昔のプリンである
焼くだけで1時間ぐらいかかる代物のために普段なかなか作れないのだが
以前、わざわざ出してくれた際にひどく気に入って、それ以来、ずっとお約束になっている一品だった】
……ああ。
【思わず声が漏れる
食事は一瞬でも余計なことを全部忘れられるのが、良い】
『室長補佐代理』 > 嬌声にも似た少女の愉悦が口から洩れるが、向けるのは耳だけで目は向けない。
立派な厚焼き玉子にはさすがに一瞥をくれるが、それもじろじろと見るわけではない。
ただ、一瞥をくれて、それで終わりだ。
ガリをつまみながら、また湯呑みを啜る。
否支中 活路 > しばしの時間を満足とともに過ごす。
いい、時間だった。
いい、瞬間だった。
夢はしかしいつか終わる。
食事は終わりだ。
椅子をひいて立ち上がった。
そうして動いた視線が、偶然捉える。
たまご。
厚焼きのたまごである。ふわふわの、いやあるいはぷるぷるのというべきか。丁寧に焼き上げられた逸品。
そしてそれについ目を惹かれて、少女のほころんだ笑顔が視界に入る。
無粋はよそう。
あわてて視線を外し、そのまま人の後ろを通り過ぎる。
熱い吐息のような声が聞こえる。
頭のなかは黄金色の塊でいっぱいになっている。
だが今日はここまでだ。終わりだ。
いつか……いつか、アレに届く。その日を夢見て、今日は行こう。
現実へ還る時が来た。
エアリア > 【エアリアは小食故に、男たちの半分程度も食べれば十分だ
それもあって、あとから来たにもかかわらず食べ終わりがそれほど変わらなくなる】
……堪能しました♪
【その前も美味そうには食べていたが、明らかにもう一つ声が変わっているところから見ると
よほどお気に入りなのだろう
満足気にあがりをお願いする】
五代 基一郎 > 別に誰が何を食おうと文句など言わない。
食事とはそういうものだ。誰もがその時間を愛してる。
愛さないものは、ハッキリ言えば生きてなどいない。
生と直結したその楽しみに誰が文句を言おうか。
しかし
一度見てしまったそれは、それは遥か遠き理想郷。
未だ辿りつけぬ先の幻。いや、ないと思っていたものが出現した奇跡。
その黄金の登場に俺は問う。
卵よ、どこへ行かれるのですか。
厚焼き玉子は答える。
汝が食えないので、私は少女に食われるだろう。
俺はそれを食えない。
故に、椅子を引いて立ち上がり……それらを背にして歩く。
奇跡は起きない。
繰り返す。俺は食えない。
一種の敗北感を確かに感じながら……
寿司の世界を背にして現実の世界に帰って行った。
『室長補佐代理』 > 席を立つ包帯面の男に一瞥を送りつつ、少女の歓声を聞く。
先ほどの不機嫌はどこへやら、よほどお気に入りの様子である。
本来男たちがもつものと同じサイズの湯呑みのはずなのだが、少女が持てば体のサイズも相まって錯視めいた錯覚を生み出す。
少女は両手で。
男は片手で。
それぞれ、同じ湯呑を傾けている。
否支中 活路 > 勘定を先に済ませる。
後ろをつかえさせるわけにはいかない。
すばやく支払いを終えると、開いた。現実への扉。
帰ろう。
ご案内:「おすしやさん。」から否支中 活路さんが去りました。<補足:公安委員会機密監視対象「破門の男」>
『室長補佐代理』 > 包帯面の男を見送ってから、風紀の男のその背も見送る。
黒髪のこの男は、未だゆっくりと湯呑みを啜っている。
ときどきガリを齧りながら、ゆっくりと。
ご案内:「おすしやさん。」から五代 基一郎さんが去りました。<補足:夏用スーツ。>
エアリア > ……さて。
【締めを合図で示し、カードを預ける
そしてサイン。
食事は数少ない楽しみの一つだ、故にパーティでの食事は、実はそんなに好きではない
だいたいレゼルブのパーティでは食事より会話が目的だ
である以上、会話や良いつながりなどができればそれでいいのだ
あの場では食事は集まる名目でしかない。
ここでの食事は名目ではないから、だからわざわざ来ているというのも、ある
時間と自身の都合は、金で換算するとすごく贅沢なのだからそれを堪能できるこの場は好きだった
そしてカードのチェックが済めばエアリアも立ち上が……ろうとして】
ふふ……何か気になる様子ですか?
【そもそも席を譲るようなこの男……室長補佐代理……がこれだけ気配をこちらに寄せてくれば
礼儀とは何か別だと理解は出来る。探っておく必要がある
覗きこむように笑顔を向けた】
『室長補佐代理』 > 覗き込まれる片目の朱。
それに対して、男の両の伽藍洞が細まる。
先ほど一瞥を叱咤したその朱。
白の中に一点一際強く浮かび上がる血色に、ただ笑みを返す。
そして、随分と時間をかけてから、静かに一言だけ漏らす。
「いいえ、別に」
覗き込まれる朱にただ、そう一言だけ。
エアリア > 【……なるほど。
好奇の目でないのなら……おそらくは趣味か職業病だ。
そもそも特別なものを食べているようではないということは、経済状態は悪くない
ドコかの役付なり何なりかもしれないとすると、これからも関わりがあるかもしれない】
そうですか、ふふ……
これもご縁かもしれませんから、また何処か出会うことがあるかもしれませんね?
……では、お先に失礼します。
【一礼すると、席を立ち、優雅にその場を後にした】
『室長補佐代理』 > 少女の礼に対して目礼で返し、見送る。
そして、完全にその姿がきえてから……口元だけで苦笑を漏らす。
負けた。
三人揃って一度以上、『喋らされた』。
諦めたように湯呑みを最後まで啜って、溜息を吐く。
ご案内:「おすしやさん。」からエアリアさんが去りました。<補足:白い少女>
『室長補佐代理』 > 無論、男達はただ食事を此処に楽しみに来たわけではない。
極力無言であったのも、この『会合』の盗聴を防ぐためである。
三者三様の違う立場を持った男達が一堂に関し、することは限られている。
既に資料の交換は出されたゲタ越しに済んでいるとはいえ、いずれにせよこの『会合』を知られた。
『室長補佐代理』 > もう此処は使えないな。
そう、胸中で一人ごち、ガリガリと頭を掻く。
店側も少女と通じていた以上、此処はもう単純に食事に使うことも難しい。
少女の丁寧な『自己紹介』の数々を思い出せば、自然と口端も歪む。
眼帯付きのアルビノ。
高級寿司店で無理を通せる財力。
ベジタリアン。
全て揃えば、『察する』には余りある。
『室長補佐代理』 > 強かな鞘当てに対してただ苦笑だけを残し、男も支払いを済ませて立ち去る。
狭い暖簾と戸をまた窮屈そうにくぐって、夜の街へと消えていった。
ご案内:「おすしやさん。」から『室長補佐代理』さんが去りました。<補足:No.38 汚らしい薄笑いとザンバラ髪の男。垂れ目。長身。制服にコート。>