ご案内:「屋上」にコゼットさんが現れました。<補足:白い長袖のワイシャツと赤いネクタイ、そして大きな鍔の魔術師の帽子を被っている。>
コゼット > (昼。昼食を終えたコゼットは屋上にやってきた。
翌日が試験という事もあり、今日の講義は早めの時間に終わった。
なんせ彼らはこれから山のような試験と戦わなければならないのだ。最後の追い込み!と意気込む生徒も居た。
この一週間はきっと生徒、教師特に忙しくなるだろう。

──それにしても。)

「想像はしてたけど、いい景色…。」

(学園に着てもう直ぐ一ヶ月位になるだろうか。
この一ヶ月で本当に色々な事があったが、それもあってこの学園の全てをまだ回りきれて居ない。屋上もその一つだ。
寮に戻るのも少し速いので、息抜きにと訪れてみたのだ。)

コゼット > (遠くを眺めると学生街が一望出来る。
自分の利用している寮はあの辺だっただろうか。カフェテラスも探してみる。…そういえばまだレストランは行ってなかったな。

その顔は遠足を楽しむ子供のような笑顔だった。
暫し教師である事を忘れ、この島に住む一人の人間としてこの風景を楽しむ。)

ご案内:「屋上」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。<補足:上はシャツ、下はスカートの男子生徒>
日恵野ビアトリクス > 屋上にスケッチブックを抱えてやってくる生徒が一人。
試験前のこの時期に呑気にスケッチに興じるとでもいうのだろうか。

「こんにちは。帽子見つかったんですね。何よりです」
コゼットの姿を認めると、会釈して声をかける。
常どおり愛想のない表情と声。

コゼット > 「うん?…ああ、日恵野君。こんにちわ。
──ええ、実は先生が拾っていてくれていたみたいで助かったわ。
その人、普段は良くサボってるみたいで中々会えなかったのよね。」

(試験前に勉強だろうか…と思ったが。そのノートは輔氏大きい。所謂スケッチブックというものだろう。
…何か描いたりするのだろうか?)

「…それ、絵を描く為の?勉強の為……じゃない?」

日恵野ビアトリクス > 「そうでしたか。無駄に探す必要もなかった、ということですね」

スケッチブックに向けられた視線に気づき、
掲げて表紙を見せる。『F4』と細い字体で書かれている。

「巨視的に考えれば絵を描くことも勉強に入る……とも言えなくもないですが
 まあ、先生の考える意味での勉強、のためではないですね」
軽くあたりを見渡している。絵を描くに適した場所を探しているようだ。

コゼット > 「ええ、もうちょっと遅かったら無駄足になってたわね…。
私も探しに行くつもりだったから、あの時に返して貰えて助かったわ。」
(探しに行くという理由も無くなった、つまり生徒達がそれを理由に現場に行かなくても良くなった訳で。
誰かに手を煩わせる事もないし、本当に良かった。)

「そうねぇ、美術の勉強だってあるだろうし。
…でも明日試験だけど、大丈夫?筆記は勿論、実技もあるだろうし…。」
(実はこの生徒、凄い優秀だったりするのだろうか。
確かに何をするにしてもその試験にどう立ち向かうかは生徒の自由ではあるが…。

絵を描く場所を探し決めたのであれば、少ししてコゼットも付いて行こうとする。
勉強ではないならそれは別として、どんな絵を描くか気になるからだ。

ただ、この手のものは見られる事を嫌がる人も居る。その前に確認は取らなければ。)

「それ、私が見ても大丈夫?どんな絵を描くのかなって。」

日恵野ビアトリクス > 「ご心配は無用です。毎日予習と復習はやってますから。
 試験前日に焦って対策しても大して意味ありませんよ。
 一応、放課後におさらいと実技の練習はするつもりですが」
平然と応える。実際ビアトリクスは筆記試験に関しては嫌味なぐらいに優秀で、
ほとんどの科目の小テストで良い成績を記録している。

「……」
見ても良いか、と訊かれれば少しの間を置いて、
「構いませんよ」
と短く答え、場所を求めて歩き始める。
相変わらず無愛想なので歓迎しているのか鬱陶しがっているのか、
はたまた単に無関心なだけかは判別が難しい。

しばらくして、これは、という位置を見つけ、フェンスの前まで歩く。
「よいしょ、っと」
フェンスに手をつき、ひょい、と向こう側へ乗り越えた。
スカートの中身が見えたりはしない。

コゼット > 「ふぅん…やる事はしっかりやってるのね。」
(かなり余裕そうに見える。しかし彼女がそう言うのなら余計な心配をする事はないだろう。)

「そう?良かった。」
(許可が貰えて、その内容に少し楽しみになり。
しかしあまり表情を変えないものだから、どうゆう気持ちで了承したのかは判り辛い。
その絵を見れば、少しはどんな生徒だかが判るだろうか。)

「……あっ。」
(思わず声に出してしまい。
フェンスがあると言う事はそこからは行けないという事だ。
それを日恵野は躊躇い無く飛び越えてしまう。)

「むむ……。」
(大丈夫かなと思いつつ、しかしこのままでは折角許可を貰ったのにスケッチブックがフェンスに阻まれて見え辛い。
周りの様子を伺い、意を決して後を追う様にフェンスをぎこちなく登り、乗り越えた。
ロングスカートの中身はきっと見えない。)

日恵野ビアトリクス > 「となりにでも座っててください」
慣れない様子でフェンスを乗り越えるコゼットに、声を出さずに笑う。
屋上の縁に腰掛ける。ぶらり、とソックスに包まれた足が揺れる。

「もし期待されていたら悪いんですが、
 そう面白い絵を描くつもりはありませんよ。
 日課の……そう、筋トレみたいなものですから」
毎日やらないと腕が鈍る、とのこと。

スケッチブックをぱらぱらとめくり、白紙の頁を出す。
高みからの景色を見下ろしながら、神妙な表情で画用紙に指を添わせた。
ビアトリクスの異能を知らなければ奇妙に映ることだろう。
なにしろ、鉛筆や筆と言った描画材料を出す気配がないのだ。

(人に見られていては気が散るのは確かなんだけど……
 まあ、これも修行のうちだ)

指を添わせたまま、しばらくはただ眼下の風景を観察している。

コゼット > (着地の際にふわりと舞い上がるスカートを抑えて。
隣に座ってと言われれば大人しくそれに従う。
帽子が邪魔にならないように頭から外し、それを両手で抱えてその様子を伺う。)

「ん…。でも、私は絵を描かないものだから…きっと私よりは上手いと思うわ。
面白いかどうかは、見てみないと判らないじゃない。」

(やがて彼女が静かに景色とスケッチブックに向き合う。
極力邪魔にならないよう、思わず息をするのも忘れてしまう位の気持ちでその様子を見る。
──しかし。

彼女が持っているのはスケッチブックのみだ。それに指を当てているだけ。
…どう描くかまずはイメージをしている…という事なのだろうか?
この光景には首を傾げるが、絵を描く事をした事のない自分はそれを見守る事しか出来ない。
声を掛けるのも、集中の邪魔になりそうだったから。)

日恵野ビアトリクス > 心地よい風が金色の髪を揺らす。
屋上は風が強いため、うかつに色鉛筆をその辺に置いておいたら
転がされてしまったりもするので注意しないといけない。
今回はその心配もないけれど。

「……ああ、それと、CTFRA検定が控えてますからね。
 そのための練習でもあります」

そうして数分の集中を終え、よし、と頷く。
とん、とん、と指でスケッチブックをノックする。

すると、ただそれだけで――画用紙の上に波紋のように色彩が広がる。
みるみるうちにそれは像を結び――
画用紙一面に絵が完成する。
あたかも魔法でもかけたかのように。

精緻だが、どこか素朴さを感じさせるような
温かい色調の、色鉛筆で描かれたような学生街の風景画だ。

出来栄えを確認して、ふう、と安堵したように息をつく。

「どうです。見どころもない“お絵かき”だったでしょう」

ちらり、とコゼットの様子を伺う。
相変わらずのつまらなさそうな表情で。

コゼット > (練習…と言うが、一向に描き始める気配を感じない。
一体いつ描き始めるのだろう…そう思った矢先に、指が動く。

その瞬間、真っ白だった画用紙もそれに答えるように動き出す。)

「え…。……えっ!?」

(鉛筆や色鉛筆と言った画材を使う事は一切無く、遠方に佇むその景色が画用紙の上に完成されていく。
どうゆう原理なのかも判らない。スケッチブックに特殊な魔法が掛けられている…なんて事はないだろう。
それならば後は考えられるのが──)

「凄い……。これが日恵野さんの異能?」
(つまらなそうな表情の彼女とは対照的に、コゼットはとても驚き、興味深そうにその絵を見た。)

日恵野ビアトリクス > 「ええ。ぼくは《踊るひとがた(サイファ)》と呼んでいます。
 触った対象の二次元情報を操作する異能、ですね。
 もっぱら絵を描くことにしか使ってはいませんが」
興味津々といった様子に、少し目線を向こうに逸らす。

「一見すごく見えますけど、
 きちんとイメージを捉えられていないとうまく出力されないし
 ……結局は、絵に費やす時間と画材を節約してるだけにすぎません」

「美術部の先輩に見せたら、最初は感心されたんですが
 その後は“つまらない異能だ”って言われましたね。
 ……なにせ絵を描くという一番楽しい工程を省略しているわけですから
 そう言われても仕方ありません。
 慣れられてしまえばなんだって陳腐になるものです」
平坦にそう言うと、目を伏せる。

コゼット > 「二次元情報の操作…。
…という事は、実際には描いているというか、画用紙そのものを書いているように変化させている…という事?」
(だとするなら。
絵を描く…というのは実際には違うが、何処にでもそれが出来るという事になる。)

「という事は、もっと正確に捉える事が出来たら写真みたいな事も出来るのかしら。」
(画用紙にもっと彩度の高い、その風景を文字通り切り取ってしまうかのようなものが出来るとするなら、それはきっと感心してしまうだろう。)

「…いや、でも…凄いと思うよ、私は。
上手くやる為に訓練しているのでしょう?これはこれで"面白い"し。
…うーん、でもお絵かきというよりは写真を撮る感じ…なのかな。」

日恵野ビアトリクス > 「写真……」
明らかな軽侮の色が表情に浮かんだ。
コゼットを睨みつける。

「いいですかコゼット先生。
 ぼくは端くれでしかありませんが、絵描きです。決して写真機ではありません。
 絵描きとは風景を記録するためにあるのではない。
 そのような言い方は謹んでいただきたい!」
後半になると、つばを飛ばして叫んでいた。
自分の高揚にそのあと気づいて、こほん、と咳払いをする。
冷静な表情を取り戻す。

実際、時間さえかければ、写真と見紛うような写実的な風景画を描くことは可能だった。《踊るひとがた》でも、手でも。
しかし彼にとってただ“写実的なだけ”の絵というのは忌み嫌うべきものだった。
美術に携わる人間は斯様に気難しい。

また、ビアトリクス本人も
“これは絵を描いているわけではないのではないか”という気後れがあったため、
コゼットの言葉はそれを刺激してしまったのだった。

「……失礼しました。
 そう映ったのであれば、まだまだのようですね。
 ぼくも、この異能も」
嘆息する。

コゼット > (コゼットは突然怒りを露にするかのように叫ぶ彼女にきょとんと、驚いた様子で。
程無くして、しまった…と反省する。)
「ご。ごめんなさい。
悪く言うつもりは無くて、そんな風に見えてしまったから思わず…。」

(ただ純粋に凄くて、関心して、それを伝えたかったのだけれど。
それが気に触れてしまったとは思わなくて。
絵を描かないという無知さ故に怒らせてしまった。
帽子をぎゅっと掴み、とても申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落とす。

…気まずい。
こんな雰囲気で、ならばなぜ筆を執らないのか…なんて、そんな事はとても聞けはしなかった。)

「……いいえ、私が無神経だっただけで。
本当にごめんなさいね。」

日恵野ビアトリクス > 学生街の色鉛筆画の描かれた頁を指でぺりぺりと切り取る。

「ぼくは《踊るひとがた》を実際面白くない異能だ、と判断しています。
 ……それでもあえてぼくが《踊るひとがた》で“描いて”いるのは、
 いつかそうではない、と思えるような何かを
 見つけることが出来るかもしれないからです」

コゼットの内心の疑問には知ってか知らずか、そう答える。
うなだれて、切り取った頁をびりびりと破いてしまう。
それを風に舞わせた。

「異能者にとっての異能はアイデンティティに等しい。
 それがつまらない異能、だなんて……
 認めたくはありませんから」

(異能ではなくて、絵そのものに触れて欲しかった――)

とは言わず。
スケッチブックを抱えて立ち上がり、ふたたびフェンスを乗り越えて内側に戻った。
その時には既に、楽しいのか苛立っているのか無関心なのかも判別のつかない、
愛想のない表情に戻っていた。

コゼット > 「そうではない何か…。」
(美術部で言われたという言葉が浮かぶ。
つまらないと言われてしまったその異能。…それを気にしているのだろうか。
私にとっては新鮮で面白いと感じた異能。…それも、いつかはつまらないと感じるようになってしまうのだろうか。

そうではないものを見つける為に、いつも訓練をしているのか…。)

「あっ…。」
(描かれた絵を破いてしまい、それを空に流す光景に思わず手を伸ばそうと。
届く事は叶わず。彼女のその行為に、なんだか締め付けられるような思いだった。

褒めたつもりが怒らせてしまって。…難しいな。

絵だったその紙切れを見つめていると、フェンスを乗り越える音にはっとなって振り向き。
その時に見た表情に、どう声を掛けていいものかも判らなく。
きっとその時は、怒らせないようにと怯えているようにも見えたのかもしれないが。でも。)

「私は!……つまらないだなんて、思ってない。
だから、気が向いたらまた絵を描いて見せて欲しい。」
(そう伝えるのが精一杯だった。)

日恵野ビアトリクス > ビアトリクスの背に投げられたその言葉には――
是とも否とも返さず、ただ片手を上げるだけでそれに応える。
そして、無言のまま屋上を去った。

ご案内:「屋上」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。<補足:上はシャツ、下はスカートの男子生徒>
コゼット > 「…。」
(日恵野の姿が見えなくなるまで、フェンス越しに見守って。
自慢の帽子を抱き締めたままその場に立ち尽くし、少しして深く息を吐いた。

この生徒と判り合う為の壁は高くなりそうだと感じた。

ただ異能を理解し、褒めるだけでは判り合えない。
…いや、私の場合は異能以前の問題だったかもしれない。)

「難しいなぁ…。」

(それから暫くはこの事が頭から離れなかった。
既に遠方に流れたであろう"絵だったもの"の飛んで行った方を見つめ
コゼットは暫く考えに耽るのだった。)

ご案内:「屋上」からコゼットさんが去りました。<補足:白い長袖のワイシャツと赤いネクタイ、そして大きな鍔の魔術師の帽子を被っている。>