2015/06/25 - 20:13~02:16 のログ
ご案内:「回想 眞人と電子魔術師と」に橿原眞人さんが現れました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>
橿原眞人 > ――没入する。

――深く、深く、潜っていく。

――ここは何処か。ここは何処か。

――ワイヤーフレームで満たされた、電子の深海。

――ワイヤーフレームで再現された、神の墓所。

――ワイヤーフレームに封じられた、神の夢。

――ここは、《ルルイエ領域》

――大いなるものどもの、夢の在り処。



――久遠に臥したるもの死することなく
      怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――

橿原眞人 > 記憶。かつての記憶。
情報の濁流の中で、現れた記憶。
《夢見人》の見る夢か。
《銀の鍵》によって開かれた夢か。
《大いなる電子のもの》の一柱が見る夢か。
《ルルイエ領域》、閉ざされた電子の深海の中で、あまねく怪異に侵されながら、それは夢を見る。


ノイズ。
少女の声。

『――深き闇に夢みし■■■■よ』

『――我は汝らの■■にして■■』

『――我は神意なり』

『――故に、我は命じる』

『夢見るままに――――――――』

橿原眞人 >  
――3年前。《星の智慧派》の支配するネットワークの一領域での戦いの後。
――五つの炎の円の果て。コード・タタールによって導き出される世界。
  七つなる太陽の領域、《アルソフォカス》がその存在をほのめかした《シャールノス》にて。

ワイヤーフレームで構成された電脳世界。その中に二つの影があった。
一人は14歳ぐらいの黒髪の少年だった。黒を基調としたサイバースーツに身を纏っている。
そのサイバースーツの上には、銀色の光で構成された光波外被があったが、衝撃によりほとんどが崩れ去っていた。
髪より下の顔には電子で構成された仮面のようなものがつけられていたが、それらはバラバラと、多くのヘックスとして分解され、消え去っていった。
顔を隠す意味がなくなったからだ。

二人の目の前の不揃いな多面の構造体は半壊していた。
電子で構成された、三つの眼を持つ《氷》との戦いは終わった。
頭上、無限のサイバースペースの天には七つの太陽の如き構造体が浮かんでいた。

橿原眞人 > 二人の目の前の不揃いな多面の構造体は半壊していた。
電子で構成された、三つの眼を持つ《氷》との戦いは終わった。

「師匠(マスター)……どうして」
少年は、自分の前に立つ影に向かって言った。影は答えず、振り向かない。
「なんでだよ、俺に、世界の真実を教えてくれるっていったじゃないか。一緒に、世界の真実を探してくれるって、いったじゃないか!」
黒いサイバースーツの少年は叫ぶ。子供の懇願のように。言外には、目の前の影を引き留めようとする意志が溢れていた。
「俺も、俺も一緒に行く! なんだかわからねえけど、俺は師匠と離れるのは嫌だ……!
 教えてくれよ、さっきの力はなんなんだ。さっきの《氷》と師匠に、何の関係があるんだよ!」

少年の前に立つ影は、目の前の光景を見つめていた。
その視線の先には、巨大な構造体があった。不揃いな多面体で、殆んど球形に近い。その色は吸い込まれそうな漆黒であった。
構造体は損壊していた。先ほどの戦いで破壊されたのだ。その構造体の半分ほどが、ただのワイヤーフレームに成り果てていた。
少年の目の前の小さな影は、それを眺めて、何かを解析していたものの、ようやく少年の方を振り向く。

橿原眞人 > 『……マヒト。私を追ってきてはだめだ。これは、お前の師匠としての命令だ。今、言った通りに』
小さな影が振り向いた。それは、10歳ほどに見える幼い少女だった。
どこか緑色の混じったツインテールの白い髪に、赤い瞳、褐色の肌――黒いサイバースーツに銀色の光波外被は、マヒトと呼ばれた少年と同じだ。
少女は不思議な発光に包まれており、頭の周囲を回るように緑色の構造体が走っている。
http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/up2/img/toko081.png

橿原眞人 > 『私は行く。その判断は変わらない。――ついに、見付けたんだ。そして、知ってしまった。もう猶予はない。
 “奴ら”のしようとしていることがわかった。この《窓》はおとりだったんだ。すぐに、行かなくてはならない』
少女は静かに微笑する。取り乱したようなマヒトをなだめるように。一歩、二歩と少年に近づいていき、背伸びをして少年の頬に触れる。
『……心配するな。少し、調査に行ってくるだけだ。用が済み次第戻ってくる。だから、お前を連れてはいかない』
少女は――一部で伝説のハッカーとして名をはせていた《電子魔術師(テクノマンサー)》は、優しげにマヒトに言う。
『お前は、連れていけない。そして、マヒトはもう十二分に育った。私がいなくても、自分の身を“守れる”はずだ』
そして、《電子魔術師》は静かに目を伏せる。
『……向こうでの私の姿は、お前に見せたくないんだ』
どこか、悲しげにつぶやく。

橿原眞人 > 「――なら、尚更だ。俺も行く。師匠の用事ってなんなんだよ! 常世学園なら俺も入学して師匠を手伝う!
 今更師匠の何を見て俺が驚くって言うんだよ! だから、連れて行ってくれ……!
 そして、世界の真実も、俺の家族を奪った事件のことも、一緒に……!」
『駄目だ』
まっすぐにマヒトの瞳を見据えて、《電子魔術師》は言う。断固たる意志がそこにはあった。
『お前のためだ。絶対に、来るな。来てはならない。私に何があってもだ。
 あの島に行かない限り、“奴ら”はお前を捕捉できないようにした。どの道、奴らは「門」を開くことに集中しているはずだ。「鍵」がなくとも、星が正しければ開くことはできる。
 だから、今なら、お前に気づかれる可能性は少ない。お前を“奴ら”に奪われるわけにはいかないんだ……わかってくれ』
「……何言ってるんだよ。ちゃんと説明してくれよ。何言ってるかわけわかんねえよ!」
『話す。全てを話す。お前の家族の事件についても、その時だ――だから』

橿原眞人 > 『待っていてくれ、マヒト。お前は、私の帰る場所なんだ』
「師匠ッ……!」
マヒトは電脳世界の中で崩れ落ちる。ワイヤーフレームの地面に膝が着く。
「……なんでだ。なんでなんだ。わかんないよ、俺は、俺は師匠といたいんだ。師匠は大事な家族なんだ。
 もう、もう、皆が死んだときにみたいに、何もわからないのは嫌なんだよ! 何もわからないまま、家族を失うのは嫌なんだよ!
 俺は、俺は知りたいんだ。何で俺の家族が死ななきゃならなかったのか! 師匠は、それを教えてくれるって、いったじゃないか……! 一緒に探すって!
 さっき戦った《氷》みたいなのがいるんだろ!? かろうじて倒せたけど、あんなの、師匠一人じゃ無理だ……!
 そんなところに行くのに、待ってるだけなんて無理だ!」
マヒトは、ボロボロと涙を流していた。涙は電子の記号に変わり、消えていく。
『……莫迦』
こつん、と。項垂れるマヒトの額を、《電子魔術師》が指で小突いた。

橿原眞人 > 『何を勝手に死ににいくような感じでいってるんだ。お前は私が誰か忘れたのか? 《電子魔術師》だぞ。
 何を自惚れている。お前みたいな小童に心配されるような腕ではないわ。私を心配するのは数百年早い』
薄い胸を張って、《電子魔術師》は言う。
だが、その様子をマヒトは涙で溢れた瞳で見ていた。虚勢であることがわかっているかのように。
『……私は《電子魔術師》だ。この電脳空間では、まさに九万里に遊ぶ真人のようなものだ。
 電子世界の理を、遥かなる星辰の刻印の中で自在に操り、駆けるのが《電子魔術師》だ。
 心配するな。必ず帰ってくる』
《電子魔術師》は、溢れる少年の涙を、その唇で拭った。

橿原眞人 > 『……お前が来れば、「門」は開いてしまう。だからこそ“奴ら”はお前を求める。
 電脳の神々をこの世に顕現させるわけにはいかない。あれは、別次元の《オリジナル》なんだ。
 そして――これは、私がケリを付けなければならないことだ。……お前を守るとはいえ、巻き込んで悪かった。
 全部、私の責任だ。家族であり友人であり弟子であるお前を想う故に、こうして共にいた。
 だが――気づかれてしまった。私は感知された。星辰が正しい時に戻るまでに、全てを終わらせなければならない。
 まだ、お前だけなら隠せる。だから頼む。ここにいてくれ。終わったら全て話す。
 私を追うな。私に何かあれば忘れてくれ。きっと。
 その方が、お前にとっても幸せだ――』
マヒトは黙ってその言葉を聞いていた。身を震わせて。
「……わかんねえよ。何もわかんねえよ! どうして俺のわからないことばっかり言うんだよ、師匠! 俺は、師匠と居たいんだ、師匠を知りたいんだ! 師匠の、力に……師匠?」
突如、《電子魔術師》の表情が変わった。サッと後ろを振り向き、再びマヒトを見る。

橿原眞人 > 『……すまん。マヒト。時間がない。しばらくのお別れだ・
 いいか、今日行った通りだ。私を追ってくるな。お前は、ここにいてくれ。
 そして、私が帰ってきたら、全てを――』
「師匠、まって、まってくれ……く、あ、なんだ、意識が……ま、さか……」
《電子魔術師》はマヒトの頭に手をかざした。彼の電脳にハッキングをかけていたのだ。
まるでおとぎ話の魔法のように、コードが自在に操られていく。
いくつもの文字列がマヒトの頭から《電子魔術師》の手の中に消えていく。
『……今日見たことは忘れてくれ。記憶も、一部変えておく。この領域のことも、燃え上がる瞳の事も。
 お前は、「銀の鍵の門」の向こう側に行ってはならない。それこそ、奴らが求めるものだ。
 私が、全てを終わらせる。電脳の神々の夢を。
 ……ありがとうマヒト。■■たる私も、良い夢が見られた。
 最初はお前を守るためだったが、楽しかった。私も、人の真似が出来たということだ。
 ――さようなら。未知なるカダスを求めた者の末裔よ。もう二度と、お前を“私”の玩具にはさせない』

『――強制離脱!』
強制離脱のコードがこの領域に叩き込まれた。そうすれば、次々とマヒトの体が電子の構造体となり、バラバラになって消えていく。
この領域からの強制的な離脱(ジャック・アウト)。強制的に現実(リアル)に帰させるものだ。
「待って、待ってくれ師匠! 俺はまだ、俺はまだ何も、何も知らないのに――!」
その言葉も虚しく、マヒトはこの領域から消えていく。一部の記憶を、電脳から消去されながら。
《シャールノス》には、《電子魔術師》のみが残された。
否、もう一人――

橿原眞人 > 『……出てきたらどうだ。「鍵」は既にお前の手の届かないところに飛ばした。お前に「鍵」は渡さない』
『へえ、随分と入れ込んでるんだね。人の真似が上手だね。でも、僕の手に渡らせたくなければ、殺せばいいだけじゃないか』
『――黙れ』
《電子魔術師》は振り返る。その先には、《電子魔術師》とうり二つの少女がいた。
その気配はとても近い。だが、大きく違っていた。
《電子魔術師》に似た者の姿はその髪を除いて、闇色だった。
そして、冷笑を浮かべていた。嘲りの笑いを浮かべていた。
《電子魔術師》に対して、自分に対して、宇宙の全て、自らに主さえも冷笑していた。
『……お前の考えていることはわかる。だからこそ、私が直接、「門」を閉ざす』
『なるほど! それはそれは。僕たちの一柱であるのに、僕たちを裏切った君は違うね。いや、■■だからかもしれないけれど』
ヒャヒャヒャ、と嗤いながら、それは《電子魔術師》に近寄り、その頬を手で撫でる。
《電子魔術師》はそれを勢いよく跳ねのけた。

橿原眞人 > 『――我々は永遠に眠り続けるべきだった。死につづけるべきだった』
『でも、それだと君はあの「鍵」の少年には会えなかったよ?』
『……だからこそ、私の手で全ての決着をつける』
『なら、そうしてみると良いよ。「門」を開いている連中は、君を待っているはずさ!』
『「門」は開かせない――この世界を常夜往く世界にはさせない。“私”の好きにはさせない! 「門」が開けば、彼らは全ての世界に現れる!』
『なら、僕も“僕”の好きにはさせないさ。でもどうなんだろうね、それは君の意志なのかな? それとも、■■が、そうしたほうが面白いと考えているから……』
『――黙れ。これは、私の意志だ。たとえ私は、■■であろうとも!』
『わかった、わかった。なら続きは向こうでだ。常世の島で、僕は待っているよ』
《電子魔術師》を嘲笑うものが虚空に指を走らせば、一つの「門」が現れる。
『さあ、行こうじゃないか。僕は“僕”と戦えてうれしいよ。そして、この世界をより楽しくしようじゃないか』
『……《コード・ルーシュチャ》』
嘲笑うものが門の向こうに消えようとしたとき、《電子魔術師》は一言を呟いた。
そして、未知なる言語が彼女の体の周りを回りはじめ、そのまま、門へと飛び立っていく――

橿原眞人 > これは、夢である。
奇怪なる電子の海の果てで、侵され続ける者の夢である。
そして、「鍵」はその夢を開いた。
その夢を、垣間見たのだ。

橿原眞人 > ――現在。
「……ッ!? なんだ、今のは……! あんなの、俺は知らないぞ……!?」
《常夜電脳領域》の一領域にて、橿原眞人は《銀の鍵》として、《ルルイエ領域》に至るルートを調査していた。
場所は、サイバー・転移荒野。電脳空間に再現された転移荒野だ。
その一つの「門」を開こうと《銀の鍵》を手に取り、開いたときに、その記憶はなだれ込んできた。
「……夢? 莫迦な、電子領域で夢なんて……」
眞人は頭を振る。そして、再び目を開く。
「あれは、なんだ。黒い構造体……もう一人の師匠……?」
頭の中に何かが発現しようとしていた。失われたはずの記憶。
眞人はそれを振り切って、調査を続ける。

どこか遠くで、何かの嗤う声を聞いたような気がした。

ご案内:「回想 眞人と電子魔術師と」から橿原眞人さんが去りました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>
ご案内:「和牛ステーキ店『Tokoyo』」にアリストロメリアさんが現れました。<補足:由緒正しい魔女のお嬢様。態度は尊大だが非常におおらかで善意的である>
アリストロメリア > 和牛ステーキ店『Tokoyo』

『最高の自然環境で育った健康で安全な和牛』を売りにしている
高級和牛ステーキ店だ
ここと契約している直営農業、常世ファームの出品店は
毎年のグランプリ牛候補として名高く
ほぼ毎年と言っていいほど、グランプリ牛に選ばれ
数多くの賞状やトロフィーを獲得しており
それらが入口のメニューサンプルの隣に飾られているほど
最高級の肉質を売りにしているお店である

そのお肉の美味しさは、誰しもが口を揃えて『美味しい』と称賛し
牛肉嫌いですら『ここのお肉なら食べられる』とか
『牛肉ってこんなに美味しいんだ!』と、驚かれる程に美味である

アリストロメリア > そして今回、その和牛ステーキ店『Tokoyo』にて
今年も行われた常世和牛JAグランプリ牛協会にて
今年も常世ファームの出品牛がグランプリ牛に選ばれ
牛肉の匠の味として、称賛を受けたのであった――……

その記念に、期間限定かつ数量限定で
グランプリ牛の料理を提供している――……という看板が立てられており

その前を通りかかったアリストロメアは、足を止めて看板を見る

「……最高級の和牛……美味しそうですわね」

彼女は現在、あまり贅沢の出来る身分では無い――……が
普段は極めて質素どころか、苦行レベルの食事を行い、毎月贈られる食費には殆ど手を付けずにいる
その為、たまの贅沢は良いだろうと言う事で、お店へと足を運ぶ事にした

「和牛は実に美味しいと聞きますし、グランプリ牛ともなれば期待が高まりますわね」

アリストロメリア > 店内へと足を踏み入れれば、明るくも木造の木の作りが温かで
テーブル席と、お座席と別れている和風の内装であった
落ち着いているにもかかわらず、そんな印象を与えないのは――……


「……す、凄い込み具合ですわね……!」

お店へと一歩足を踏み入れて、始めに出た感想はそれであった
元々高級和牛ステーキ店として、人気であったお店であるが
更にグランプリ牛が期間限定かつ数量限定で食べられるとあれば――……
当然、その込み具合は凄まじい

(当然、皆さん食べたいですわよね……と思いながらお店に入る)

アリストロメリア > 店内に入って、忙しそうな店員を眺めつつ他の客を横目で見つつ
(どのくらい待っているのでしょうね?)
と、思いながら待つ事数分――……

(…………?)

席が空き次の客が呼ばれた頃
彼女は違和感に気付いた

(……?
何故、他の人が先に呼ばれて私が先に呼ばれませんの……?)

首を傾げながらも、心の中では疑問が解けなかった
――……というのも、彼女は元々貴族であり
基本的には男性(それは父でも、その他の人でも)が基本的にエスコートし
女性を食事に連れて行く文化である為
基本的に本来は一人で店に入る事はおろか
『お店に入ったらすぐに案内されて当然』
という、常識というか認識を持っていた

自国の貴族令嬢であるならば当然だが
ここは地球、常世店だ
恐らく限り無く現代日本に近い文化にて、そんな常識が当然通用する訳は無い
すぐさま、忙しそうに働く店員へと声をかける

アリストロメリア > 「あの――……恐れ入りますが……」

忙しい最中であるが、店員の方は
初めての客なのだなと察すれば

店員「すみません、此方の方に名前を書いて順番までお待ちください」

と、笑顔で簡潔に説明し頭を下げれば
すぐに他の客の名前を呼び「お待たせしました」等と丁寧に頭を下げながら、店内へと案内する
が――……

(この凄まじい人数の中『待て』と言いますの…!?)

と、お店で待たされる経験なんてなければ
そんな文化が存在する事にも驚きを隠せないまま
(……どのくらい待つのかしら?)
と、思いながら名前と人数を記入すれば
先程の客の座っていた、お客様を待たせる為の椅子に腰かければ
鞄の中から本を取り出して、待つ事にした

……こんな時、読書が趣味で鞄の中には何かしらの本が1冊は入っているのに感謝する
時間潰しに暇を持て遊ばなくて済むのだから

アリストロメリア > 多分、きっと
この人数であれば相当待たされるであろう事は
初めて人を待つ彼女でも、流石に察する事が出来た

ので――……名前を呼ばれるまで、ゆっくりと読書を楽しむ事にする
読書と言いつつ鞄から取り出したのは、1種類のタロットデッキであるが

タロットというものは、それを知らない者から見れば只の占いカードであるが
使用する術者によって、それは深遠な知恵を与えてくれる書物であり
術者の知恵が問われる書物でもあるのだ

そして、其れを使いこなすためには日々タロットと触れあい、実際に占い
カードに馴染み、理解し実践する事が大切である

故に、傍から見たら最高級和牛ステーキ店で順番を待ちながら
突如タロットを取り出し眺めた奇妙な客にしか見えないのであるが
ぼんやりとカードを眺める彼女のそれは
彼女からすれば、大切な日々の日課その1であった
店内であるし、本当に目を通すだけであるが――……実に大事なことである

アリストロメリア > (……しかし、他の人ってよく待っていられますわね?)

ふと、カードから目を話して周囲を見渡せば
誰かと一緒に来ていて、話しながら待つ人はともかく
じーっと座って待っている人もちらほらと存在する
何かしら、自らの様に暇つぶしの道具がある人はともかくとして
一人で座って大人しく待つ人は、退屈であると同時に時間の無駄にならないのか?
と、不思議に思う

それは、お店で待たされる事が無い故に持つ疑問なのかもしれないけれど
そんな姿を見て、実に我慢強いというか、忍耐強いと言う印象は否めなかった

アリストロメリア > 長針がゆっくりと1週した頃だろうか?

店員「お待たせいたしました、アリストロメア様
こちらへご案内いたします」

――……と、ようやく声がかかり、鞄の中にタロットをすぐさましまえば
店員の案内される後へと付いて行く

店員「此方の御席へどうぞ」
と、案内されたテーブル席は、純白のテーブルクロスが美しく、清潔感が漂う
椅子に腰かければ、座り心地も良く 落ち着きやすい
店内はこれだけ人で賑わっており、他の客の話声も耳に入ると言うのに
落ち着いて居心地がいいのは、それだけ店内が客をもてなす工夫を
視えない所に隠しているからであろうか?

グラスを口に付けて、水を飲めば
少量のレモンとハーブが入っているのだろう
口当たりがよく、実に日差しの暑いこの時期にはさっぱりする

アリストロメリア > 店内のメニューに目を通せば
当然ではあるのだけれど、ステーキがメインで多くの種類があり
サーロインステーキだけでも

『Aサーロイン』
『Bサーロイン』
『Cサーロイン』

の三種類あり、グラムは変わらないのにどんどん値段が上がっている
きっと、上のランクに行くほど良い部位を使っているのであろう

『和牛ヒレステーキ』
『和牛サーロイン』

と、いかにも高級そうなメニューとお値段が並んでいる
これだけでも月の食費(1万)の半分以上は超えているのだが……

『グランプリ牛プレミアムステーキ』

ともなれば、それだけで月の食費が殆ど残らない
普段贅沢をしない分、前の月の持ち越し分含め、多少の余裕はあれど
流石にこれはちょっときつい

(どうしましょう…?)

非常に悩む

アリストロメリア > 本音で言えば、食べたいのはグランプリ牛を使用したステーキである
……というか、それを目的で店に足を運んだので当然ではあるのだが――……

現在の彼女の食費が、その選択を
出来なくはないのだけれど……赦さないに近い状況ではある

一応、今も何とかギリギリコッペパンと水(+実家から大量に持ってきた紅茶)で
何とかやり過ごせなくはないけど、非常に身体に悪い
その上、自分だけやり過ごすのであればともかくとして
今は、以前と違って友達も出来た
何かしらの拍子に一緒に外食へ行ったり
部屋に招く時に、おもてなしとして簡単にでもお茶菓子は最低でも用意したい

……そうなってくると、当然手元に多少の余裕が無いと厳しい
それに、自分だって時々は多少の贅沢はしたいし
何かしらきちんと食材を買って栄養を補わないといつか倒れる

――……と、言う訳で
今日は『和牛ヒレステーキ』を選択する事にした
プレミアム牛ステーキと比較すれば我慢したが、これだって相当贅沢だ
お米も『店内はコシヒカリを使用しております』等と書かれているし、只でさえ
和風の和牛ステーキ店なのだ
恐らく、パンよりはお米の方が美味しいだろうと思い、お米を選択する事にして

丁度いいタイミングで席に訪れた店員にメニューを伝えれば、ゆっくりと注文を待つ事にする

アリストロメリア > (そういえば、お米を食べるのは初めてですわね……?)

と、思いながらも初めて食べる食材にほんの少し期待と興味と好奇心が高鳴る
この学園に来て、おにぎり等をコンビニで見た事はあるが、購入して未だ食べた事は無い
存在は知っているが、調理法も炊飯器も知る由もない彼女は、それをどう調理していいか分からない
以前スーパー等で食材を買いに行った時に、売られているお米を見た事はあるが
あれをどう調理すればあんなふんわりとした、柔らかいお米になるのか見当もつかない

ちらり、と周囲へと目を配らせ
米を口にする客を観察する

カットしたステーキを口にした後に、お米を口に運ぶ姿
ご飯の上に、カットしたステーキを載せて お米と一緒に運ぶ人……等
食べ方が様々で統一していないのは、恐らく彼女の自国程
この辺りはテーブルマナーが浸透しても居無ければ、精通している人も少ないからだろう
……それに、ここは
『異脳学園都市』であり、殆どが学生だ
テーブルマナーに明るくなくても、仕方ないのかもしれない

アリストロメリア > (お米ってどういう食べ方をするのが、きちんとしたマナーなのかしら…?)

等と思いながら周囲を見るが、正解は得られないし
中には和風店だからか、箸を使う人まで居て、混乱するばかりであった
……あれは以前此方に来た時に、川添様につれて行って貰ったラーメン店で使用したが、正直難しい

お米が自分の国には、コースに無かったから分からないが
もしかしたら、お米は箸で食べるものらしいし、箸を使うのが正式な食べ方かもしれない
(……不作法ですけれど、箸は碌に持てませんし……フォークで食べるしかありませんわね)

等と思っているうちに、肉の焼ける 脂の良い匂いと
『ジュワァァァ……!』と、熱された鉄板の上で、音を立てるお肉が運ばれてくる

店員「お待たせいたしました」

――……そう言って、目の前に用意されたステーキは
とても分厚く、3センチは簡単に超えていそうだ……もしかしたら、一番分厚い
真ん中の、熱されて少しばかり膨らんでいる部分は、4センチ近くあるかもしれない

このお勧めのお勧めとして、焼き加減は『ミディアムレア』
ソースは『和風おろし醤油』ベースの味付けのもの
付け合わせはライスに、お味噌汁
……と、完全な和食スタイルの和牛ステーキである

お箸と、フォークとナイフが用意されれば
目の前で鉄板に熱されながら、熱の音の鳴るステーキが実に美味しそうだ
純白の布ナフキンを、膝の上にかけて
特製和風ソースをステーキにかけてから
フォークとナイフを手にして――……

「頂きますわ」

アリストロメリア > フォークでお肉を押さえ、ナイフで先ずは一口分をカットする
フォークで軽く押さえるだけでも、しっかりとした肉質である事はわかるのに
ナイフを入れるとお肉の繊維を縦に残しつつも、切りやすく
スッ……とナイフが綺麗に入り、肉が別れてくれる
非常に柔らかくて、良いお肉だということが、ナイフを入れるだけで伝わってくる

また、断面に見える芯は温かくも生肉に近く
濃い鮮やかなピンクに、肉汁がうっすらと溢れているのが見える――……

一口、口に運べば肉汁が口の中にジュワ――……と
静かに、けれど一杯に溢れて口の中を満たしてゆく
柔らかい肉質は実にジューシーなのに力強い風味を持っており
噛めば噛むほど、肉のうまみと肉汁を感じさせながらも
柔らかい肉質は、実に上質な味わいで――……

「……これは――……ワインが欲しいですわね……」

思わず、美味しさから感動して出る溜息と共に
一言漏らしてしまう

アリストロメリア > ゆっくりとお肉の味を堪能しながら、味わって噛みしめる
お肉だけでも、上質なミディアムレアは十二分に美味しいが

次に、ナイフとフォークを置いて、更にソースを全体に満遍なくステーキにかけて
特製おろし醤油ソースで味付けしたステーキを、一口分に切り分けて
再び口へと運べば――……

初めて食べる、大根おろしと醤油の風味は
実に、今まで味わった事の無い初めての味であると同時に
醤油と大根おろしのさっぱりとしながらも醤油の風味が美味しいソースが
お肉の旨みを更に引き立て、お肉の肉汁と共に混じりあわされれば
口の中で何とも言えない美味しさが、広がってくれる――……

「…………」

美味しすぎて、そして初めて食べる例える事の無い大根おろしと醤油の風味は
彼女の頬を緩ませて、小さく幸せな溜息をつかせるのであった
実に、贅沢な味と一時である

和牛ヒレステーキですら、これなのだ
もし、プレミアム牛ステーキを食べていたら、どんな味わいが口の中に広がっていたのでしょう――……

アリストロメリア > 和牛特有の柔らかい肉質、ジューシーな肉汁と舌触りは
旨みが濃厚に凝縮されて、力強い肉の味わいが楽しめると同時に
繊細な旨みの味わいが、噛めば噛むほどに引き出されて――……

脂も、こんなに肉汁から溢れていると言うのに
しつこさはなく、舌の上で肉の蕩けるかのような上質な舌触りと味わいは

「……和牛は美味しいと聞いておりましたけれど……本当に
こんなに美味しかったなんて……」

と、静かな口調で漏らしつつも
けれど、心の奥底では何とも言えない深い感動に心を魅了されながら
ゆっくりと高級和牛ステーキの味を堪能するのであった

――――……

そして。
ステーキが美味し過ぎたのがいけないのではあるのだけれど
お米の存在を完全に忘れていた

「あっ……いけませんわ。完全に忘れておりましたわね」
と、思いながら
(たしか、他のお客様はお米と一緒にお肉を食べておりましたわよね?)
……と、思いつつ 再び周囲を静かに見渡す

アリストロメリア > 店内に、当然ではあるが――……
パンの客と、ライスの客とで別れている
ただ、やはり和風の和牛ステーキ店である為に幸いライスを頼んでいる客は多い
使用しているお米がコシヒカリであれば、当然かもしれないのだけれど

ちらり、と見てみれば
やっぱりご飯とお肉を一緒に食べる様で、やり方は合っている様――……
確認して、安心すると同時に
お米を食べるのが初めての彼女は、お米の食べ方のマナーもわからなかったが、とりあえず
フォークで少しだけお米を掬って口に運ぶ事にした

「…………???」

真っ白いお米を噛みながら、疑問が浮かぶ

「……これ、味もそっけもないと言うか……
不味くは無い、のですけれど……なんていうか、何とも言えない不思議な味ですわね……?」

白米だけを味わうと、首を傾げた
(常世では基本的にお米が主食として主流らしいのですけれど――……
何故、このようなものが……?)

ぶっちゃけ、あまり美味しいとは言えない
……白米だけ味わうのだから当然と言えば当然なのだけれど
(此方の方の料理は随分と発展しているので
お米がどんなに美味しい主食かと期待していたのですけれど……)
と、心の中でがっかり感は、隠せない
(失敗しましたわね……ろくに知らないお米を選ぶよりは、パンにした方が美味しかったかもしれませんわ……)

はぁ……と、小さく溜息が洩れる
先程とは違って、落胆の色を混じらせながら――……

アリストロメリア > 若干がっかりするものの、既に注文してしまったものは仕方ない
少し……いや、時々の贅沢を抜くとしても
(こんなに美味しいステーキのお供が、こんな味気ない主食だなんて……
勿体ないとしか、思えませんわ……)

――……と、思いながら
お肉を一口分に切り分けて、口に運んだ後に
また、お米をフォークで掬って、口に運ぶ

「……………………ッ!!!」

ハッとして、彼女の表情が変化する
先程の落胆の色は消え失せて
代わりに驚きを隠せない表情と――……

(……お米って、こんなに美味しかったんですの……!?)

と、目を輝かせながら

アリストロメリア > 先程まで、十二分に堪能した
最高級和牛の、柔らかな肉質とジューシーさ
力強い肉の味わいであると言うのに繊細な旨みが口に広がる事に随分と驚いたのであるのだけれど――……

もっと驚くべきは、先程まで味もそっけもなく
『完全に失敗した』
と思っていたお米の風味が――……

お肉と一緒に食べると、実に豊かに
その味わいを何倍にも膨れ上がらせるのだろうか?

最高級和牛のミディアムレアの肉質から溢れる肉汁と
大根おろし醤油ソースの美味しさが、高級米のコシヒカリと合わされば――……
先程まで味もそっけもなかった筈の、米の風味なのに何故だろう?

肉汁やソースの旨みが米に絡み合い
その旨みが何とも言えない、実に良い味わいを引き立ててくれている

お米の正しい食べ方を密かに知り
味わいながら、思う
(失敗じゃありませんでしたわ……それに)

「なんて、お米というものは美味しいのでしょうか……?」

アリストロメリア > 驚きを隠せないままに。けれどナイフとフォークは止まることなく
ゆっくりとお肉とソース、お米の風味を口の中で味わっていきながら
瞬く間にステーキとライスが食べ終わる

……すっかりお味噌汁を忘れていたのだけれど
お味噌汁の蓋を開ければ、まだ温かく
カンピョウのお味噌汁が入っていた

乾燥されたウリ科の果実であるが、
水で戻され、お味噌汁の具にされれば
乾燥していたカンピョウに、お味噌汁の深い旨みが隅々まで沁み渡り――……
カンピョウを噛み締めれば、カンピョウとお味噌汁の旨みが舌の上に広がって
美味しいお口直しとなったのであった

アリストロメリア > 「おみそ汁も初めて口にしますけれど……この美味しさも何と言えばいいのでしょう……?
初めて食べる、不思議な風味ですが……何処か心がほっとして、落ち着きますわね……」

お味噌汁を全て飲み干せば
食べ終えたのを知り、店員がテーブルを綺麗に片づけ
食後のアイスティーと、爽やかなレモンシャーベットが
お肉を食べた後の口直しに、さっぱりと洗い流してくれるかのように

爽やかな初夏の訪れを思わせる、レモンの酸味と甘みが実に美味しくて
スプーンを入れれば『シャリッ』とした音を静かに鳴らしながら
口元に運べば、ひんやりとしたレモンの清涼感ある風味が広がる

アリストロメリア > アイスティーを、一人静かに飲みながら
シャーベットを味わって、食事が終わる

(こんなにも、和牛ヒレステーキだけでも美味しいのであれば……
いつかきっと、グランプリ牛のステーキも口にしたいですわね)

――……と、心の中で決めながら
お会計を済ませると、お店を静かに出ていく

自分が訪れた時も相当人の込み具合が凄まじいのであったけれど
店を出る時も変わらず人で混んでいて、出るのも少し一苦労であるくらい
繁盛している人気の高い和牛ステーキ店は

初めて口にする和牛ひれステーキ、おろし醤油ソースのハーモニー
そして、コシヒカリの風味を
彼女の心に深く感動を刻み、忘れられないものにした

ご案内:「和牛ステーキ店『Tokoyo』」からアリストロメリアさんが去りました。<補足:由緒正しい魔女のお嬢様。態度は尊大だが非常におおらかで善意的である>