2015/07/04 - 17:48~18:47 のログ
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣>
ヨキ > (美術室。夕刻、人気のない部屋の隅に机を広げ、黙々と作業に耽る姿がある。
左手にヤスリ、右手に小さな銀。植物とも骨ともつかない抽象のモチーフとひたすら向き合う。
銀を削る小さな音だけが、止むことなく鳴っている)
(机上には、同じ形に削られた異なる素材が並べられている。
粘土、木、紙、石、真鍮。そのすべてにヤスリの、へらの、鏨の、指の跡を均した名残がある)
ヨキ > (それらを自宅兼作業場の研究区から持ち込んだのは、夕方の通りのよい風を求めてのことだった。
隙間を開けた窓からは雨上がりの風が吹き込み、カーテンが漂うように波打つ)
「…………、ふう」
(一息ついて腕を伸ばし、指先に摘んだ銀を、さまざまな角度から眺め回す。
授業とはまったく関係のない、いわば私的な作業だ)
ヨキ > (弧を描くモチーフは、二つ一組で指輪ほどの大きさの輪を描く。
鈍い金色の真鍮と銀とを重ね合わせると、ちょうど指に蔦が絡むような形になる)
(左手に仮組みの指輪を持ったまま、右手の指を握って広げる)
「……――――、」
(手ずから彫ったものと同じ形状の、それでいて留めてもいないのにぴたりとくっついたひとつの指輪が、手のひらの上に現れる)
ヨキ > (異能から産み出された指輪には、自分が力を込めて切り出し、折り曲げ、時間を掛けて彫り込んだ形跡が丸ごと写し取られている。
迷って削り取った節をふたたび生やすことも、さらに数時間を要する造型を一瞬で終えることも出来る。
頭に思い浮かぶだけの形と質感を、自在に表せる)
「……これは。
“にせもの”だろうか?」
(重く呟く。
先日この部屋の前である生徒が口にした単語)
ヨキ > 「――くだらん」
(目を伏せて、小さく首を振る。
その声を合図に、異能で形作られた指輪が突如として引き伸ばされる。
二つの金属が混ざり合い、ひとつになる。音もなく、まるで食虫植物のような形に変じる)
(空いた左手が、机上のモチーフを一撫でで掻き集める。
まとめて食虫植物もどきの口へ放り入れると、その口がぎゅるりと螺旋を描いて絞られる)
ヨキ > (金属はそのまま独りでに捩れ、縮こまる。
中で粘土が、木が、紙が、石が、真鍮が、そして銀が、轢かれ圧し潰される音がくぐもって響く。
ぎぎ、と最後に耳障りな金属音がひときわ大きく響くと、異質の素材を飲み込んだ金属は、金とも銀ともつかない、褪せた輝きの地金に変じた)
ヨキ > (石ころほどの地金を、左手に握り込む。
四本の短い指が舞いに似て順繰りに広がると、手のひらの上からは跡形もなく消え失せていた)
「それでも、やらねばならんことがある」
(ふたたび雨の降り出した音がする。緩く振り返り、徐に立ち上がる)
「同じだ。異能と生きることも、天候に従うことも。
……生きようは、ある」
(からからと窓を閉める。
しばらく静かな校舎を見下ろし、やがて美術室を去る)
ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣>