2015/07/06 - 22:16~01:33 のログ
ご案内:「スラム」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、目深に被ったフード、ハイヒールブーツ(ウェッジソール)>
ヨキ > 「これ以上、ヨキについて来るでない」

(小声で背後へ言い遣る。彼の後ろ――ではなく、足元を歩いているのは、一匹の黒い子猫だ。
 痩せて貧相な毛並みをして、ヨキの隣をついて来る。
 顔見知りに会ってきたその帰り、どういう訳か懐かれた)

「早く逃げるがいい。
 ヨキのゆくところ常に剣呑ぞ、轢き潰されても知らんぞ」

(少なからず土地勘があるらしい。
 決して平坦とは言えない路地を、右へ左へ、縫うように歩く。
 目指すはスラムの出口だ)

ヨキ > (スラムへ入るためには、襤褸を被り、塵芥の臭いを浴びて化ける。
 真一文字に引き結んだ口で歩きながら、その目と肌とは絶えず天地左右へ向けられていた。
 子猫がにゃあんと鳴くのを、もはや止めもしない。
 自らの重みで踏み外すことのない道を、子猫を轢き潰す者のない道を――あるいは、自ずから回避できる限り危険の少ない道を、警戒に満ちた眼差しで選び取る)

ヨキ > (不恰好な足取りで歩く子猫が通りの隙間を跨ぎ損ねそうになるのを、片手で掬い上げる)

「親猫はどうした?
 その姿でよくぞ生き延びたものよ。人間の慰み者になろうところを」

(ひそひそ話に返る言葉は勿論、ない。
 壁から壁へ渡された低いアーチ上の鉄骨を潜りながら、言葉を続ける)

「今のヨキには、“真面目な”公安も通り魔も、等しく鬼の子よ。
 この不夜城とて必要悪ではないかね、なあ猫よ」

(にゃあん。)

ヨキ > (夜半の道を、明滅する裸電球がちらちらと照らし出す。小脇に抱えた子猫の痩せた腹に、人差し指が柔く食い込む)

「…………、修行僧の気分だ」

(毛並みの奥で、薄い肌が生温く脈打っている。
 か弱い身じろぎに、甘えた鳴き声に、じっとりとした半眼になる)

「お前は既にしてヨキに取られているのだ。
 あとは食われるだけだぞ」

(ぐびり。喉が鳴った)

ヨキ > 「……いいや。この島の人間は、ほとんど猫を食わん。
 ヨキもそれに従うだけだ」

(首を振る。
 猫の首筋に穿たれた、火傷の跡を見下ろす)

「そら。この道を真っ直ぐゆけば歓楽区だ。
 少なくとも遊びに捌かれる危険は幾分か減るだろう。
 どうするね、猫よ」

(遠くに見えるネオンの光は、未だスラムを照らすほどには至らない。
 子猫の身体をそっと降ろしてやると、猫は光から逃げるようにしてスラムの奥へ逃げ戻る)

「…………、何だ。やはりそちらがお前の里か。
 不物好きな奴よ」

(追い掛けることもせず、子猫が暗がりへ消えてゆくのを見ていた。
 警戒が緩み、些か無防備に立ち尽くす)

ご案内:「スラム」にオーロラさんが現れました。<補足:制服を着ている女子。うちまき気味の黒髪ロングで小柄。スカート短め。>
オーロラ > 「物好きついでに剣呑剣呑」

ケラケラと、それ見て笑う少女が一人。
路地裏の木箱に腰掛けて、スカートの中身が見えようとお構いなしに足をふらつかせる。
内巻き気味の黒髪を棚引かせて、隙間から覗く瞳もまた鮮やかな黒。
立ち尽くすヨキをみて、ケラケラ、ケラケラ、少女は笑う。

「危うくサスペンスって感じ?」

ヨキ > (響いた声に、ぐるりと獣めいて振り返る。
 少女の顔を、身体を、下着を、晒した足を順番に等しく見遣って、最後に顔をふたたび見る)

「宙ぶらりんに焦らされるのは、焦らすのも好かんよ」

(眉間の眼鏡のフレームを指で押し上げる)

「その制服は君のものか?それとも横流しか。
 女ならば、生憎と間に合っている」

オーロラ > 見える顔は人懐こい笑顔。
流れる肢体は細身で小柄。
晒した足は健康的で、チラり見えた下着はストライプ。
最後、二度面見た顔は、やはり変わらぬ無邪気な笑み。
 
「一応正規品で、私も焦らすのは苦手な性質なの。
だから、単刀直入にお誘いするわねお兄さん。
私をちょっとエスコートしてくれない?
スラムの外に出るまで、ちょっとの間でいいから」
 
確かにここはスラムの外縁には近いが、まだまだ一般生徒の通る道からは遠い。

ヨキ > 「エスコート?ふ。
 その語はまず、そこに投げ出している足を閉じてから使いたまえ」

(肌を切り裂いて作ったような大口が、笑みの形に吊り上がる)

「護衛を頼むような肝の持ち主には見えんな。
 ……妙な気を起こすでないぞ。金も血の気も持ち合わせておらなんだ」

(首肯の代わり、顎で出口の方角を示して促した。
 隣にひとり分のスペースを開け、元の足取りで歩き出す)

「君は生徒か。斯様な場所で何をしていた?」

オーロラ > 「あら、ごめんなさい。ついつい、好き勝手足を動かせることがいつも嬉しくて」
 
そういって、笑みに向けてオーロラも笑みを返し、木箱から飛び降りてヨキの隣に並ぶ。
ひどい身長差のせいか、お互いに目が合わない。
それでも、オーロラは気にせずヨキの隣をちょこちょこ歩く。
まるで、先ほどの黒猫のように。
 
「そういうお兄さんは先生かしら?
私は正に御察しの通り生徒で、名前はオーロラ。
ここには夜のお散歩にきてたの。
そしたら、迷っちゃって途方にくれてたってわけ。
ところで、妙な気の意味を図りかねているのだけど、手を握るくらいは許容範囲?」
 
下方から覗き込むように、ヨキの顔を見上げる。

ヨキ > 「……足?何だ、怪我でもしていたのか」

(隣に並んだ相手の頭を一瞥してから、正面へ顔を戻す。
 ぴりりとした警戒の空気が、白い肌に宿る)

「オーロラ。悪くない名をしている。
 ――ヨキだ。かつて教えた生徒が、あぶれて此処に暮らしているでな」

(横目でオーロラと視線を合わせる)

「妙、というのはおおよそ考え得る反社会的行為のことだ。
 ……手?」

(不思議そうに自らの両手を見分してから、)

「それはヨキの想定外であったな。ほれ」

(先ほどの猫の毛が付いていない、手袋越しの右手がオーロラの手を拾う。
 獣人の大きな手のひらと短い四本の指で、包み込むように掴む)

オーロラ > 「ん。昔ちょっとね。ベッドとは長い事縁のある生活してたからさ。
あ? 名前褒めてくれた? うれしぃー! 我ながら気に入ってる名前なんだよね。
ヨキせんせも、お洒落な名前だね。
まるで、神話に出てくる神様みたいな名前。
しかも生徒思いでこんなところまで来るなんて、イケメンだね」
 
上機嫌を微塵も隠しもせず、手を握られればさらに嬉しそうに相好を崩す。
 
「おっきくて素敵な手だね。先生、『異邦人』?」

ヨキ > 「なるほど、それでか。だが足を放る場所と時間は選ぶべきだな。
 もう一度ベッドから離れられない生活になろうと、不思議はない。
 ……ヨキというのは、斧のことだ。木を切り倒す斧。
 これでもイケメンで神のように思われるならば、次はもう少し身奇麗にしておこう」

(その言葉のとおり、被ったフードは埃っぽい、スラムの色をしている。
 表情を輝かせるオーロラに反して、こちらの横顔はぴくりとも動かず、無表情のまま)

「ああ、異邦人だ。学園が出来る少し前に、『門』を潜ってきた。
 だから、もともとヨキの手は娘の手を握るようには出来ていない。痛みはしないか?
 生徒を傷つける訳にはいかんでな」

オーロラ > 「流石教師。教訓も交えて色々教えてくれるなんてイケメン極まるね。
しかも、神様かとおもったらそれすら断ち切る鋭い斧刃の名前とは、いやはや、出来てるね」
 
イケメンは何着たってかっこいいよ、とかいいながら、無表情を気にもせずにまた手を握り返す。
小さな手だ。自らで握りしめれば、それだけで自壊するのではないかと思うほど。

「心配する事ないよ、ヨキせんせ。痛くないし、とってもあったかい。
それに私も結構遠くから来たから、余所者同士仲良し子良しだよ」
 
そういって、またケラケラと笑う。
 
「ねえ、先生はどんな世界からきたの?」

ヨキ > 「ヨキは“出来て”いなければこの学園に籍を置いてはいられんのでな。
 ……斧とは、人間の暮らしのシンボルだ。持った名は、きちんと体現せねばな」

(握った手のひらの中で、小さな手が動く。目を伏せる)

「……『遠く』とは、君も異邦人かね。それとも島の外から?
 ヨキの世界は、ひたすら野山と田畑が広がるばかりであったよ。
 ちょうど青垣山や……神社の辺りのような。
 だがヨキは、ずっと山の中に独りであったからな。
 この通りのように狭い獣道を住処にしていた」

(粗末な木箱が階段代わりに使われている、不親切な段差を乗り越える。
 左手に付いていた猫の毛を外套の裾で払い落としてから、オーロラを両手で引き上げんとする)

オーロラ > んしょ、っと声をかけながら引き揚げられて、とんとんと木箱を昇る。
そのたびにまた短いスカートがめくれるが、お構いなしだ。
動くことそのものを楽しむように、オーロラはヨキのあとをついていく。
 
「島の外。ずっと遠くのベッドの上からこっちにね。
ヨキせんせみたいな世界は、行ったことまだないな。
こっちの世界ですら、そういう場所にはあんまりいったことがない。
緑と土に囲まれる生活を送ると、やっぱり先生みたいな研ぎ澄まされた感じになるのかな?」

ヨキ > (オーロラが段差を越えるのを確かめて、片手を離す。
 はじめに握った片手は、離さずに繋いだまま)

「ほう。……見も知らぬ島でベッドの外となれば、さぞ楽しかろう。
 ヨキからすれば、今のヨキは随分となまくらに成り果てたものと思っていたよ。
 そうだな……学生が使う教科書の中にも、ヨキの世界に似た風景が載っていた。
 釦のない服を着た人々が、みなひっつめ頭をしていた。……」

(そうしていくつか例示したのは、ちょうど江戸時代に当たる頃の情景だ)

「君とて鈍くはないだろう?頭の回りは良いように見えるが。……ああ、」

(二人の横顔が、いよいよ色を増すネオンに照らされる。
 街区の雰囲気が、明確に様相を変えつつあった)

「その次の角から歓楽街だ。……娘には変わらず不安の尽きぬ場所であろう。
 家は居住区か?このままヨキが送ってやるぞ」

オーロラ > 「うん! 毎日楽しいよ。ご飯は美味しいし、ウィンドウショッピングは楽しいし、町は広いし。
ヨキせんせみたいな素敵な人とも出会えるしね」

教科書の歴史の件でまた少し笑う。
先生のいた世界は、それなら美しい世界だったんだろうなぁとかなんとか言いながら。
 
「私はどうかな、わからない。
でもね、今の私が楽しい事だけは、『全部きっと間違いなく』わかっていることで、それが大事。
だから、頭はどっちでもいいかな」
 
そして、歓楽街が近付いてくると、ヨキの手をするりと放して、一歩前に出る。 
 
「ん。ここまでで大丈夫。送ってもらうのも魅力的だけど、それはまたの機会ってことで。
それじゃ、またねヨキ先生。今日は一杯お喋りしてくれてありがとう!
それでは――良い学園生活を」
 
そういって、パタパタと走り出して、人ごみの中に消えていく。
笑みの残滓を残すように。するりと、溶け込むように。

ご案内:「スラム」からオーロラさんが去りました。<補足:制服を着ている女子。うちまき気味の黒髪ロングで小柄。スカート短め。>
ヨキ > 「良いことだ。毎日が楽しめているのなら。
 ……この島は土地柄、磐石に楽しめぬ者も少なくない」

(『全部きっと間違いなく』。朗らかに断定する口調に瞬きする。
 言葉を口にする前に、少女の手が離れる)

「……またの機会か。君の名前と共に、それも覚えておくとしよう。
 気を付けて帰るのだぞ、――オーロラ君」

(聞き知ったばかりの名で、相手を見送る。
 小さく笑い返し、相手へ背を向ける形で別れる。
 雑踏を歩きながら、顔を覆っていた襤褸切れをするりと外し、路肩のゴミ捨て場へ流し入れる。
 波打つ黒髪を、かぶりを振って揺らす。

 そうして寄ってくる客引きの男の前を、そ知らぬ顔で通り過ぎた)

「女ならば、間に合っているでな」

ご案内:「スラム」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、目深に被ったフード、ハイヒールブーツ(ウェッジソール)>