2015/07/03 - 22:58~00:41 のログ
ご案内:「異能制御実習試験会場」に遠峯 生有子さんが現れました。<補足:長い黒髪をハーフアップにした、どことなくぼやーっとした女の子。>
遠峯 生有子 > 生有子は困惑していた。
遠峯 生有子 > 異能の発現すら不安定な学生にも受講可能な講座として、
学期始めの倫理討議からはじまり、
この月に入るまでの3月の間にいくつかのアプローチで
心と体の制御について実習する。

実習の成果を確認する場として、
この講師の試験は、時にユニークな設問が提示されるらしいと
一部の学生は噂していたのだが。

遠峯 生有子 > 試験会場として事前に指定されていたとある建物の一階ロビーには
いくつかの水槽が並べられ、

入り口近くの移動式黒板には次のような張り紙が掲示されていた。

遠峯 生有子 > ========= ========= ========= =========
能力制御実習講座(金曜午前クラス)試験会場

A試験:金魚掬い実技 X時05分~20分
B試験:座禅実習   X時30分~

A試験概要
 ・ポイは一人に1本配布する。
 ・15分間で5匹の金魚を掬うこと。
 ・5匹掬うまでにポイが破れた場合は試験を終了すること。
 ・5匹掬うまでに所定の時間が経過してしまった場合は試験を終了すること。
 ・終了の時間は試験官が合図をします。
 ・試験が終了したら後ろの水槽へお椀とポイを返してください。
 ・異能は使用してもかまわない。
 ただし、早く5匹掬い終わることが成績上位につながるわけではないので心すること。
 ・金魚は実験用に強化された特別品種ですが、やさしく扱ってください。
 ・なお、採点のために実技はビデオで撮影する。映像に映らないものは事前に申し出ること。
 ≪ヒント≫
  ・水の流れ、金魚の動きをよく観察し、ポイは静かに水槽に差し入れること。
  ・ナナメに一気に差し入れと破れにくい。
  ・心を静かに、よく観察し、機を見て素早く丁寧に掬うこと。

B試験概要
 ・A試験に引き続き座禅実習を行うので、開始5分前までに奥の和室へ集合してください。
========= ========= ========= =========

遠峯 生有子 > 試験開始まではまだ時間があった。
入り口でポイとお椀を受け取り、再度張り紙の前に戻る。

これはどういう意味なのだろうか。

遠峯 生有子 > 人数ごとに各水槽の縁へ集まるようにとの
試験官の指示に押されて、慌てて入り口で指定されていた番号の立て札へと移動する。

水槽には多数の金魚が群れを成していて、
テストだと考えなければ実に涼しげだ。

教師の意図は謎のままだったが、とにかくはじめなくてはならない。
異能の有無が成績に繋がらないらしいことが
救いと思える点であった。

遠峯 生有子 > 掲示には金魚は強化品種だと書いてあったが、
用具は普通のものだろう。
恐らく、すぐに破れてしまうと想像できた。

過去に何度か縁日で挑戦したことがあるが、
あまりうまくできたためしがない。
しかも今日はテストである。
若干緊張している。

こんな時に落ち着いて魚を追ってなどいられるのだろうか。

そして「早く5匹掬い終わること」が成績に繋がらないとすれば、
何に気をつければいいというのか。

ふと、考え込んでいる自分に気づき、生有子は一つ息を吐いた。

遠峯 生有子 >  はじめ、の合図と共に水槽脇にしゃがみ込む。
 一匹、すっと目の前を横切る赤い影があり、
 思わず手を伸ばしかけたが、
 タイミングを逃す。

「水の流れ、動きをよく観察…。」
 振り仰いで槽の脇にも掲示されていた試験の張り紙を確認する。
 そういえば、いつかの講義でそんなことを聞いたような気がする。

“落ち着いて、自分を知り、状況を知っていつでも動ける準備をしなさい”と。

遠峯 生有子 > そうこうしている間にロビーのあちこちから
軽い歓声と悲鳴が上がる。
誰かが成功したり失敗したりしたのだろう。

試験官はそれを特に咎めることなく、
学生たちの背後を通って会場を巡回している。

楽しそうだなあの子達と、生有子は思った。
テストではあるがこういうものに向きになる気持ちも少しはわかる。

黒い固体が少女の視界を静かに横切った。

遠峯 生有子 > “心を静かに、よく観察し、機を見て素早く丁寧に”
 掲示には注意書きがある。

 もしかして、これは金魚掬いのヒントなんじゃなくて、
 このテストのヒントなんじゃない?
 なんだ、このテスト実はけっこう簡単だ。

 魚の動きをゆっくり観察する。

 一つ一つに注意するのではなくて、全体をなんとなく見るように。
 しかし、個々への配慮も怠らないように。
 自らはリラックスして、出来ることをいつでも行えるように準備すること。

 設問の意味を理解することはそう難しくはないと思えた。
 ただ、いろいろいわれたことを思い出しはしたたが、それをすべて実行に移すのは難しい。

遠峯 生有子 >  じっとしていると、近い位置に少数からなる群れが寄ってきて、
 そのうち何匹かが水面近くまで上がってきた。

 今かもしれない。
 ヒントの通りに、水面にナナメにポイを差し入れると、
 スライスするように引き上げて、すぐに手元の椀に移し替える。

 椀には赤と黒の、2匹の金魚が入った。
「できた!」
 生有子はうれしかった。
 頬がふわりと上気した。

遠峯 生有子 >  何かがうまくいくととても嬉しい。
 もっとがんばろうという気持ちが自然とあとに続く。

 うまくいかなくてもがんばろうとは思うので、
 彼女のモチベーションはわりあい高く推移するのだが、
 その後の行動における心の軽さは歴然と違う。

 ポイは全面が水に塗れ、
 まだ破れてはいないようだった。

 先ほどの群れは散ってしまったが、新たな固体が近づくのを
 根気よく待った。

遠峯 生有子 >  心を落ち着けて、好き好きに動く金魚の群れを眺めていると、
  、、、、、、、、、、、、
 どうしてそう思うのだろうと、自分でも不思議になる感覚が、
 湧き上がってくることがある。

 それは地の奥深くからか、天の頂からか、

――この魚たちは水中の好きな深さを泳いでいるけれど、
 水の外でもそれは出来るんだよ。
 この星に受け入れるための力、拒むための力、
 それは等しくどこにでもあるのだから――

遠峯 生有子 >  その手に、誘われるようにして、水面近くにいた金魚が一匹
 するりと境界のこちら側に泳ぎ出る。

 それを追うようにして薄く儚い紙製の捕獲道具が水面をかすめ、
 椀に三匹目の固体を移したところで生有子は我に返った。

「あれ?」

遠峯 生有子 > 「やだ、また。」
 何かしてしまった。

 一瞬湧き上がる不思議な感覚は、
 その時は確信に近い気持ちだったと思うのだが、
 あとから考えると、夢が目覚めたあとにそうなるように、
 どういうことだったのかがいつもよくわからない。

 そして

「あああっ。」
 驚いた拍子に(たぶん)ぽいを破いてしまったようだった。
 または水面を掠めたときに何かに当たったのかもしれない。

遠峯 生有子 >  金魚はまだ3匹しか掬えていなかった。

 テストの概要には、異能を用いてもいいと書いてあったはずだ。
 先ほど自分のしたことを、もう一度起こせないかと思い立つ。
「でもどうしていいのかよくわからないよう。
 授業とかはちゃんと受けてたんだけどなぁ。」
 生有子は哀しくなった。

 多数の生徒向けの制御の実習が、
 しかも学園側が適正を見極めて彼女にそれを割り当てたのではなく、
 講義概要を見てこれなら出来そうだとこちらから選んだものが、
 必ずしも彼女の異能の助けに直結するとは限らない。

 そこであきらめないことは彼女の美点の一つではあるのだが…
 試験官が実技の終了を告げた。

遠峯 生有子 > 「あ。」
 残念だがここでやめなくてはならない。

 破れたポイと3匹の金魚の入った椀を指定の場所へと返しに行く。
 試験官はそれを受け取ってなにやら記録すると
(たぶん時間と金魚の数だと思った。)
 次の生徒にも同じようにしながら
「時間までに和室に行ってくださいねー。」と流れ作業で生有子に告げた。

遠峯 生有子 > 他の何人かの生徒と軽く結果を報告しあいながら、
彼女もその指示に従った。

ご案内:「異能制御実習試験会場」から遠峯 生有子さんが去りました。<補足:長い黒髪をハーフアップにした、どことなくぼやーっとした女の子。>