2015/07/08 - 22:28~02:43 のログ
ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。<補足:獣型/成人男性ほどの体高、金目、黒い毛並み、呪いの傷、焔と邪気>
ヨキ > (しとしとと降り注ぐ雨の中にあって、牙の覗く口の端から発する吐息は炎を孕んでいた。
岩山の上から動くもののない荒野を見下ろして、ただ佇んでいるだけ。
時折咳き込むように唸るたび、腹の傷から粘り気を帯びた血液が垂れ落ちる)
「(………………)」
(闇に覆われた空を見上げる。この身から絶えず溢れる瘴気を漱ぎ落とせるとも思えない、手緩い雨だ)
ヨキ > 「(寒い)」
(巨大な足が地を踏む)
「(……傷が痛む)」
(首を振る。頭が落ちるのではないかと錯覚するほどの痛み)
「(おのれ ヨキは既に人間ぞ……
……この姿 けして見られてなるものか……)」
(埃と乱れた毛並みと傷口とが、いやに臭う)
「(……だが)」
(それを認めてはならないと痛感しながらも、)
「(――この ヨキを捕えるこの心地よ……)」
ヨキ > (頭を垂れ、巨体をのそのそと揺らして歩く姿はいかにも惨めだ)
「(……律さねばならぬ
この身を、心を
ヨキは人間でなければならぬのだ)」
(人間でなければ、この島には居られないのだというそれは、半ば恐怖ですらあった)
「(柔らかな肉の誘惑から
血の気配から
ヨキは己を律さねばならぬ
よもや討伐などと目論まれては堪らんのだ……)」
(一歩ごと余韻のように垂れ流す邪気と裏腹に、その姿は憔悴して弱々しかった)
ヨキ > (岩の陰に身を寄せる。
脳裏に浮かぶものたちを、ぶるぶると振り払う)
「(…………ならぬ
それはならぬ
彼は・彼女らは ヨキの生徒ぞ……)」
(島の住人たちと同じものを飲み、食う。
人の姿であれば自覚的に従うことのできた習慣だった。
それが実際のところどれだけ禁欲的であったか、懊悩が鎌首をもたげる)
「(あとどれほど
どれほどの邪を漱げば、ヨキの身と心は払われるのだ……)」
ヨキ > (身を捩る。
首輪がなければ心もとない首を伸ばし、吼える)
(咆哮)
(怒声とも悲鳴ともつかない獣の遠吠え。
この広大な荒野にあって、どれだけ響くかは判らない。
拘束への依存が時どき窮屈さを滲ませるとき、そうして叫ぶ。
人気のない場所で)
ご案内:「転移荒野」にクオンさんが現れました。<補足:どなたでも乱入歓迎。全長20m以上 赤い鱗を持つオーソドックスな翼竜。>
クオン > 『オオォォ――――ン』
まるでその咆哮に答えるかのように、大気が鳴動した。
それはさながら世界を震わせるが如き、神秘を伴う聲。
空だ。雨雲の向こう。まるでその雨雲を押しやるかのような力ある響き。
それを伴いながら、雨雲の切れ目に赤い翼が踊る。
ヨキ > (――炎のようだ、と思った。
かつてこの身を灼いた熱を思い出す)
「(……違う、あれは)」
(泥濘に沈み掛けていた意識を引き摺り戻す。
夜空に閃く赤い翼を見た)
「(クオンだ)」
(その持ち主が、人より巨大なこの身をはるかに凌駕する、かの赤竜と気付く。
言葉を交わしたことがなくとも、その名と姿はよく知っていた。
人間相手ならばまだしも、上空を舞う彼のもとでは身を隠そうとも思わない。
観念して、がふん、と咳き込み、もう一度吼えた)
クオン > 咆哮。それに導かれるようにして巨体が舞い降りる。
雨を意にも介さず、ヨキの近くへと降り立つだろう。
地面に溜まった水溜まりがざばりと跳ねる。
それが足元の彼にかからぬよう気を払い。
まるで天蓋のように、ヨキを風雨を遮った。
「…………君は」
古き、赤竜は声を漏らす。
大気を震わせるような、重く、大きな響き。
喉奥からは、ヨキと同じく赤き燐光が舞っていた。
その声はまるでこちらの言葉でもありながら、
ヨキの故郷の言葉でもあるような、不思議な響きを伴っている。
ヨキ > (風が吹き抜ける。降り立った竜を、金色の瞳が見つめ返す。
大きな翼の下で、反射的に身を震わせて雨粒を払った)
「…………」
(刃に返す牙はあっても、理知に返す言葉がなかった。
クオンに倣って人語を発しようとして、無様に喉が鳴る。
この姿で自分を示すことの出来るものは、ただひとつ)
(四本の足元から、むくりと鉄の若葉が芽吹く)
(若葉が伸び、枝葉を伸ばし、黒色の花を咲かせる。
茨が緩やかな曲線を描き、ヨキの足元に延びる。
金属を操る異能は学園の他の者にもあるが、その造型はヨキだけが持ち得るものだった。
名乗る代わり、ふしゅる、と息を吐く)
クオン > 「なるほど」
威圧的で、しかし、穏やかであろうと努める声。
ヨキの作り出す鉄の花。それは実に見覚えのある形だった。
「無理に人の言葉を話そうとせずとも構わないよ。
私の魔術の基本は、世界とともに謳うこと。
君の声なき声の、その意を汲み取るぐらいはできるかもしれない」
言いながら、ゆっくりと身体を丸める。
そのスケールはあまりにも違いすぎた。
しかし、それでも竜は、彼に合わせるように視線を低く保つ。
彼の姿を見つめれば、腹部からは血が流れている。
この形態を取っているのは、その傷のせいだろうか?
ヨキ > (クオンの巨大な頭に向かい合い、その瞳を見据える。
相手に得心がいったと見るや、鉄の花はすぐにしな垂れてその形を歪める。
ある株はするすると傷の中へ吸い込まれ、別の株は地面にひしゃげ、溶け落ち、赤黒い血だまりに変じるといった具合に。
生き物の血液にしては随分と粘り気を帯びて、雨水に重たく溶ける)
「(――いかにも。
君の知るところのヨキだ
心遣いに感謝する、クオン)」
(獣の息遣いと低い鳴き声の奥で、人語に表された思念が表出する)
「(ヨキは……異邦で魔物と呼ばれていた
この傷は人間に討たれたときに付けられたものだ
毒に満ちた金気がヨキを蝕み――異能を得た
……そうしてヨキは、人の世に縛られることとなった)」
クオン > 意志が、伝わった。
「……なるほど」
彼の説明に、こちらも喉をうならせる。
かつて、彼もまた暴虐の竜であった。
ただ、一度の後悔。それだけが大きく彼を変貌させたのだ。
だからこそ、と、もう一度彼の傷を見た。
「それが君の物語か」
口の端から炎を漏らす。
しかし、それにしては彼の気配は痛苦にあえいでいるような気さえする。
「人に縛られ、それを善しとしたわけか。
……大丈夫かね?」
ヨキ > (クオンの声に頷き、自らの傷口を覗き込む)
「(……この傷は、人々の怨嗟の成したものよ。
人に化けて交じることは――ヨキが『生き延びる』という本能に従ったとき、取ることのできる方法がこれしかなかった。
身を縛り、傷を塞ぎ、人の定めに身を任せる。
そうすればヨキが償いに殉じていると見えて、傷も鳴りを潜める。
……ヨキとて、ここの暮らしは心地が好い。
だが時折こうして一たび、獣に戻る。
戻らずにはおれんよ、何と律しようと、これがヨキなのだから。
……かく言う君は、なぜ人に教えることを選んだ?)」
クオン > 「…………」
彼のたどってきた道は、己とは異なるものであった。
怨嗟。呪い。その道を選ぶことのできなかった狼。
しかし、ここの暮らしは好むという。
なるほど。そういう意味では、共通点を見出すことができる。
「私は、最古の竜の一人であった」
語り口。それはまるで詩のような響きだ。
「我々は、物語を"食む"。竜とは絶対者だ。
それが、意のままに力を振るうからこそ、
人は竜に畏れを抱き、挑み、散っていく」
詩を吟じるように高らかに。降りしきる雨の音がリズムを刻む。
「だが。――私はそれが無性に虚しくなった」
"竜殺し"に挑む英雄の物語は甘美なる食事となる。
己を殺すために挑む英雄。その戦いにその生涯すべてをかけた竜も居る。
赤竜もその例外ではなかった。英雄の憎しみを煽り、甘美な物語を作り上げた。
英雄と竜は殺しあう。その果てにどちらが倒れようと、甘美なものとなるはずだった。
しかし。
――究極至高とも言える物語を食らったあと、虚無感しか残らなかったのだと。
「私はあの時から――人に焦がれ始めたのだ」
ヨキ > 「(――ふ。
物語に勝ったが、人には負けたか、竜よ)」
(目を伏せる。耳に、腹の底に響く竜の声に身を委ね、地面に伏せて落ち着く)
「(ヨキは、君のように悪を煽ることも、装うこともしなかった。
ただ大きな緑のもとに生きていたに過ぎない。
変わったのは人の営みだけだった。
ヨキはいつの間にか崇められ、いつの間にか恨まれた……
……だから、流されるままのヨキには、君の心のような根がない。
『人として』『教師として』、声に舌触りのよい言葉を乗せているだけだ。
君の過ごした時間は、君をよい教師に仕立てたようだな、クオン)」
クオン > 「ありがとう」
相手の賞賛には眼を細めながら炎を漏らす。
「確かに私は、そういう意味で人に負けたのだろうよ」
今のこの務めはいわば贖罪に近い。
あの日、あの時奪ってしまった彼らの物語。
あの罪は贖えるものではない。
だが、だからこそ今もこうして物語を紡いでいる。
「そして、君もまた、流されるままに生きたとして、
それでも君の物語があるだろうさ」
だから、いずれ大きな物語となるだろう、と。
彼の選択が、どのような道をたどるのかは分からないが。
ヨキ > 「(……ヨキは、これから先も人とけだもののあわいをゆくだろう。
垣根の上の一踊りは、竜が食むに値するかね?
価値などない、……だが甲斐はある。人の子らが、このヨキを呼ぶ限り。
ヨキを見ているがよい。
君がヨキを吟ずるならば、ヨキは君にうまい物語を食わせてやれる)」
(語調は穏やかながら、どことなく不遜に満ちた。
地に臥したまま首を上げ、クオンを見上げる)
「(クオン。君の目指す先はどこだ?)」
クオン > 「明日と昨日の間に今日があるように。その物語は今を描くに足るものだろう。
君が君であり、そして今日を肯定する限り。
その物語は恐らく良きものさ。
――嗚呼、いい響きだ。忘れていたかもしれないな。
ここに君のような幻想を背負うものは少なかったから」
空だけが、ここと向こうで変わらぬものだと思っていた。
しかし、目の前の古き獣はどうだ。
かつてのあの場所の、古き友をも思わせる。
「誓おう。君の物語は私が見届けることを。
古く永きを生きる老いた竜だが、
君の詩を吟ずることはできるだろう。
対価は君の物語。――私の目指す場所は、きっとそこにある」
竜が、契約の詩を天に捧げた。それは古き力ある竜の詩。
かつての世界で忘れ去られた古の魔術。
彼はこのまま朽ちていくつもりであった。
死に場所を探していた、といってもいい。
人を教え導き、ただ物語を語り。衰退の一途を辿る竜。
だが、誰かの詩を吟ずることを心に秘める。
ヨキ > 「(君は……いい声をしているな。竜が竜たる所以を教わった。
竜よ。くれぐれも無為に朽ちて、岩山のひとつと成り果てるなよ。
君を慕う生徒は多い。君への敬いは、君にしか背負えぬものだ。
声の響くには空洞が要るが、心まで虚ろにするなど詮無きこと。
この約定が、君の力となればいい。
錆びた添え花のひとつでも、あって損はないだろう)」
(ゆるりと地を踏み、立ち上がる)
「(クオン。ヨキはそろそろ街へ戻る。
君のおかげで、今宵の眠りは穏やかなものとなろう)」
(礼を告げるように鼻を鳴らす。ひとたび顔を伏せてクオンの頬へ額を寄せ、離れる)
クオン > 「それは君にも言えることだろう。
君の物語は君が繰り紡ぐもの。
その花は添えるものではなく、君の物語に咲くものだ」
頬を寄せられて、こちらも心地よさそうに喉を鳴らす。
「ああ。行くといい。私もそろそろ、塒に帰るとするさ」
両の翼を広げ、巨大な威容が屹立する。
ゆるり、ゆるりと翼の力を込めて、飛翔する。
「では、また学園で。ヨキ先生」
空に、幻想の炎を吹き散らして空を行く。
竜の瞳が、眼下の教師を見やるだろう。
ヨキ > 「(……言葉を操るに、竜には敵わんな。
よくぞ心得ているものだ)」
(卑屈とも見えた獣の顔が、ふっと緩む。
地をしかと踏み締め、クオンが飛び立つ様を見上げる)
「(――ではな、クオン。
君の声を、このヨキにまた聴かせてくれ)」
(遠く吼えて別れを告げる。
視界に焼き付いた炎の残滓が消えるまで。
そうして残された獣の一匹が、荒野に佇む。
何事か浸るように目を閉じたのち、くるりと踵を返して歩き去る)
ご案内:「転移荒野」からヨキさんが去りました。<補足:獣型/成人男性ほどの体高、金目、黒い毛並み、呪いの傷、焔と邪気>
クオン > 悠然と、竜は空をゆく。
己の居るべき場所に帰るように。
ご案内:「転移荒野」からクオンさんが去りました。<補足:どなたでも乱入歓迎。全長20m以上 赤い鱗を持つオーソドックスな翼竜。>