2015/07/11 - 23:03~23:47 のログ
ご案内:「落第街大通り」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールブーツ、目深に被ったフード>
ヨキ > (――きゃあっ、と、女の叫ぶ声がした)
「…………、」
(それは『死立屋』の幕引きから、ごく間もない後のことだった。
走り去る者があれば、それを遡上するのがこの犬の習性であった)
「……………………」
(かつ、かつ、とヒールを鳴らして、騒ぎから足早に逃げるもの、あるいは気付かず喧騒に浸るものたちの中を縫うように歩き、その嗅覚が公演の余韻を探って辿る)
ヨキ > 「……逃したか」
(小さく呟く。それはこの落第街にすら保たれるべき猥雑な賑わいを乱されたことに対する『義憤』と、ごく個人的な興味を逃してしまったという、ある種不謹慎な悔やみによるものだ)
(屋台の客として運悪く幕引きに遭遇してしまったらしい女を捕まえる。
落第街にしては繊細な感性を持っているらしい女が、がたがたと震えながらいくつかの単語を口走る)
(取り留めもなかったし、脈絡もなかった。その騒ぎの中にあっては、ひどく不似合いな単語の羅列だった。
が、)
「…………」
(この駄犬とて、長く籍を置いていることもたまには役に立つ)
「――『フェニーチェ』?」
ヨキ > (女は、知らない、知らない、と叫んでヨキの手を振り払い、雑踏の中へ掛け去った。
独り立ち尽くす。件の屋台へは未だ距離がある)
(フェニーチェという名を知っていたし、あまつさえ身分を隠して公演を何度か観たことがあった。
落第街という土地柄を警戒して、供された飲み物を口に含むことはなかったが、観客たちの据わった眼差しをよく覚えている)
「……まさかな。たかだか模倣犯といったところだろう」
(屋台から離れた場所においては、人々はすぐに興味をなくして各々の享楽に戻ってゆく。
人波の中を、再び歩き出す)
ヨキ > (考える。
もし本当に、かの劇団を名乗る模倣犯であったら?)
「……バカな。捨て置けるものか」
(フェニーチェの作り出した巷は、何にせよ『守られて然るべき』ものだった。人(あるいはそうでないもの)が作り出す演劇という世界は、人間の世界に入って間もないけだものを驚嘆させ、魅了するには十分すぎた)
(だがもしも模倣犯でなく――『本物』が、劇団の残党がこの落第街に在るのだとしたら)
「………………。
ヨキは、劇場の外の演者をも愛せるだろうか。
あるいはこの街が、――舞台に?」
ヨキ > 「……岡惚れだな」
(息をつく。その視線が雑踏をぐるりと見渡す。
当時の劇団員の顔などついぞ知らない。彼らと何の縁がある訳でもない。
覚えているのはただ、彼らの織り成す物語に、心の底を引っ掻き回されたということだけだ)
「――止そう。見逃した公演を追って何になる?
むやみに恋しくなるだけだ」
(渦中へ辿り着いたなら、何らかの手掛かりが得られるかも知れない、という一瞬の期待を拭って、踵を返す。
女の悲鳴が、口走った単語の羅列がフェニーチェに結び付いたこと、その事実ひとつを心に留め置くことにした)
ご案内:「落第街大通り」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールブーツ、目深に被ったフード>