2015/07/11 - 21:01~05:16 のログ
ご案内:「転移荒野」に石蒜さんが現れました。<補足:黒髪に漆黒の巫女装束の少女、肌は褐色。【乱入不可】>
石蒜 > 転移荒野、異世界からの漂流物が数多くたどり着く地。それが良きものでも、悪しきものでも。
そこに、紛れも無い悪しきもの、漆黒に染まった白衣と、血のように赤い緋袴に身を包んだ少女、石蒜が居た。


石蒜は笑う。今日は、今日こそは決戦だ。既に風間と畝傍の二人は呼び出してある。
ご主人様も、もうすぐ来るだろう。二人を排除すれば、もう大丈夫。私はもう揺れることなくご主人様と一緒に居られるだろう。
もし、もし負けたら……。私は消えるだろう、サヤが私を許すとは思えない。それならそれでいい、もう何にも苦しまないで済む。

右手の刀を握り直す、意識が高揚している。決して助けへの期待ではないはずだ。きっと更に堕ちることの予感。そのはずだ。
そして、待っている。そろそろのはずだ。

ご案内:「転移荒野」に畝傍さんが現れました。<補足:短いブロンドの髪と赤い瞳、オレンジ色のボディスーツ姿。決戦用フル装備>
ご案内:「転移荒野」に風間蒼介さんが現れました。<補足:忍者/赤いスカーフ/忍び装束 【待ち合わせ】>
ご案内:「転移荒野」に鳴鳴さんが現れました。<補足:道服の童女、悪い仙人/元ロストサイン>
畝傍 > しばし後。橙色に身を包んだ少女――畝傍・クリスタ・ステンデルは、そこに現れた。
普段から彼女が身に纏っているそのボディスーツの上には、深緑色のコマンドベストが羽織られている。
各所に手榴弾とアーミーナイフ、両脚にはオートマチック拳銃の入ったホルスター、右手には上下二連式ショットガン、そして左手に箱型のロケットランチャー。
石蒜を混沌に堕とした黒幕――鳴鳴との決戦に備え、畝傍が未開拓地区において拠点としているロッジから調達していた武器類だ。
畝傍は石蒜のもとへ、ゆっくりと近寄ると。
「……きたよ。シーシュアン」
静かに、低い声で、囁くように。

風間蒼介 > (枯れた荒野を流れる風がスカーフをたなびかせ、ゆらり、と染み出すように気配を自ら放ち、ここに居ると言葉もなく高らかに宣言する
 着込んだ忍び装束はいつもの通り、一見無手に見せながら今までにないほど多数の武器を内に潜め
 呼吸を一つ、砂塵を避け細められていた瞳がゆるりと開かれ)

仕舞いに来たでござるよ、サヤ殿、石蒜
(胸のうちを押さえ、湖面のように静かな声で、二人の名を呼ぶ)

鳴鳴 > 「――さあ、いよいよだ」

虚空に声が響く。
この世と異界の境界が曖昧になるこの荒野に、声が響く。
ゆったりとした道服、黒い髪、褐色の肌。赤く輝く瞳。胸元の五芒星。
この世界の全てを嘲笑し、この世界の全てを否定し、この世界の全てを肯定し、この世界の全てを内包する混沌を自称するもの。
星々の彼方から来るもの、仙人を自称し九万里を翔けるものだと嘯くもの。
原初の混沌。陰陽の混ざり合った原初のもの。
うねり這い寄る混沌が、荒野に現れた。虚空を切り裂き、嗤いを携えて悠然と。

「この時を待っていた。全てに終止符を打ち、始まりを告げるこのときを。そうだろう?」
石蒜の後ろに現れた褐色の少女は、彼女を後ろから抱きしめようとしつつ言う。
その赤い瞳は目の前の少女と少年を見つめていた。

石蒜 > 「来ましたね、来ましたね。今日こそ決着ですね、ご主人様。石蒜は全力を尽くします。」自分を抱きしめる腕に、愛おしそうに、左手を重ねる。
ご主人様が居る、だから私は大丈夫、きっと勝つ。

「先に言っておきましょう。私は助けなんて、これっぽっちも望んでいません。もし、ご主人様が倒れたら……ありえないことですが、そのときは私を殺しなさい、それが慈悲というものです。」刀の切っ先を向ける。敵対と、殺意を示す。
ご主人様が居ないのに自分だけ生きているなんて、考えるのすら恐ろしい。だからその時は自害しよう、そう心に決めている。

畝傍 > 「……それはできないよ。ボクはぜったい、シーシュアンをころしたりなんかしない。やくそくしたから。シーシュアンが望んでなくても……ボクは、シーシュアンをたすけるって、決めたんだ」
一度は折れかけていた畝傍の決意は、側にいる協力者――蒼介や多くの人々の支えによって、再び確固たるものとなっていた。
畝傍は大きな声で、その決意を石蒜にぶつける。
そして――這い寄る混沌、鳴鳴の出現に呼応するように、その肉体は炎と化していく。
ブロンドの髪は色彩を変転させ、輝きながらなびき始める。さらに眼帯の裏の左目と、両の手首・足首からも、炎が溢れだしていた。
畝傍の異能――『炎鬼変化』<ファイアヴァンパイア>。その力を行使する代償は、彼女の『正気』である――

風間蒼介 > お初にお目にかかる、仙人殿
我が流派を遡れば仙道に行き着く、なかなか感慨深いでござるな
敵でなければ、でござるが
(ゆっくりと、深く長い呼吸を繰り返し体の中で力を練る
 彼女ならば判るだろう、蒼介の体内には彼らが丹術で整えるような経絡の流れが歪なほどの整然さで構築されていると
 武器は抜かない、術も練らない、動きの起こりを見せぬよう、ただ無色の力と意思を練り上げ、溜め込み
 構えは取らず自然に、意識のスイッチと脱力だけで即応出来るよう)

ああ、終わらせるでござるよ
さっさと終わらせて、テストでいい点取っただ補習だとつまらぬ日常に戻り……思い出話になるよう
(キリキリと弓の弦を引き絞るように目付きと意識を引き絞り、備える
 畝傍に一瞬視線を送れば、こくり、と一つ頷いて見せ)

鳴鳴 > 「……アハ、アハハ。大丈夫だよ、石蒜。全ては流れのままに、だ。
 僕たちはただ、全てを楽しめばいい。全てに享楽を見出せばいいだけだ。
 たとえどのような結果になろうとも、僕たちはそれを楽しむだけだ」
石蒜のうなじを舐めながら、石蒜に、そして畝傍と蒼介に語りかける。
「炎の君は久しぶり。そして、忍びの君は初めまして。僕は鳴鳴。ロストサインの元マスターの《腐条理(アクト・オブ・ゴッド)》さ。
 僕の仙術なんてほんとは大したものじゃない。僕が仙術と言っているだけでね。
 そしてそう、僕も仙人を自称しているだけ。陰と陽の二気を同じように保つ混沌が仙人、真人なのだとすれば、僕はまさに仙人ということになるという論理だね」
石蒜を抱きしめていた体を離し、石蒜の隣に立つ。

「――ああ、今日は良い日だ。とても楽しくなりそうだ。
 さあ、共に楽しもうじゃないか! この世の全ては享楽だ!
 君達の怒りも悲しみも、慈愛も友情も、大いなる「道」の前では全て無意味で無価値となる!
 だが、それでもなお君達の信じるものを、君達の求めるものを手に入れようとするのならば。
 僕を――殺してくれ」
狂った笑みを浮かべ、目の前の二人に話しかける。
刹那、転移荒野に異変が起こる。

「――開け! 鳴羅門! いや……!」
鳴鳴の口が吊り上る。
「全にして一なるものよ!」

鳴鳴が叫ぶ。狂った笑いと共に。
すると、鳴鳴の背後の空間が大きく歪み始める。
何かが出現しようとしていた。それはとても巨大な、アーチ状の門だった。

「我が身に喰らいしダゴンを贄として、混沌の力を、今こそ!!」
鳴鳴の体の半分が突如はじけ、弾けた部分から闇が、混沌が溢れ出していく。
そこから、何か巨大な名状しがたい巨大な魚人のようなものの一部が溢れ出して、門の中へと吸い込まれていく。
鳴鳴が悪魔の岩礁で喰らったダゴンなる神が「門」の中へと吸い込まれ、「門」が開き始める。
疑似的な窮極の門の一時的な解放。そして、その扉の向こう側から、混沌が溢れだし、鳴鳴と一つになっていく。
胸元の赤い五芒星が強く輝くも――それもまたはじけて消えていく。

「さあ! 今日は星辰が上古のものに戻る時だ! 星の彼方から来るというのなら、来てみるといい!」
混沌を溢れさせながら、鳴鳴は笑う。

石蒜 > 「アハ、アハハハハハ!」ご主人様の力があふれるほどに高まるのがわかる。私の中のご主人様が大きくなっていく。
ああ、これで安心だ。もうあとはいつもどおり、享楽を楽しもう。それが私の唯一の道。

「さぁ、私を痛めつけて下さい、私も精一杯お返しします!!楽しみましょう!それが私の全て!私を楽しませて、悦ばせて、そして無惨に死んでください!!」その顔に浮かぶのは狂った笑み、狂人の笑み。腐った条理に従おうと精一杯それを受け入れる笑み。

その言葉が合図だったかのように、刀を構え、走る。
目標はまず畝傍、あの炎はご主人様の脅威になる、足に斥力を発生させて、一気に飛び込んで距離を詰める!銃は距離を詰めれば使えないと踏んでのことだった。飛び込みながら、大上段から刀を振り下ろす!

風間蒼介 > なに、拙者らも似たようなもの…外法を用いて偽りの太極に自分を置こうとする増長慢の末裔にござる
…が、意外とこれ便利でござってな
少なくとも、力が無いと嘆く必要が無いゆえ…
(こぅ……と細く長い息を吐く
 内にうずまき篭る熱を吐き出すエキゾーストのように鋭く)

なるほど、確かに視点をそこまで挙げれば拙者達の機微など無価値に等しいでござろうな
人の好悪に関わらず雨は降る…ああ、そう、ここで拙者達がどうあがこうとも天地の運行に影響など及ぼせるはずもござらん

ただまあ……拙者達、人にござるし…な?
そこんとこ忘れられては困るでござるよ
(変転した気配に風間の血がざわめく
 あれは良くないものだと
 あれはあってはいけない物だと
 外法の外にあり、外道を外れた窮極の異物であると)

煉精化気…起風発雷!
(その声をトリガーに全身に風雷の異能を纏い、弾けるように地を駆ける
 相手は圧倒的格上、様子見などして対応できるとは限らない
 鳴鳴を中心に円運動を行いながら緩急を付け、狙いを散らし、袖の中から手裏剣を滑り落とし両手に構えると電磁レールを生成
 電磁加速された手裏剣が亜音速で緩やかなカーブを描き鳴鳴へと放たれる)

畝傍 > 開かれた巨大な門、そしてそこから溢れ出し鳴鳴と同化してゆく混沌。
眼前で起こった事態を目の当たりにしても、炎と化した畝傍は動じない。
むしろ、より強大なものとなった混沌の力に対し、彼女の炎もまた、より激しく燃え上がっていた。
まずは迫りくる石蒜に対し、決断的戦闘態勢をとる!
今はまだロケットランチャーは温存すべき時だ。そう判断しロケットランチャーを肩に掛け、背負ったフライトパックを脳波操作で機動。
円形の中心ユニットから板状の羽が伸び、その先端に備わった卵型の噴射装置がエンジン音を響かせ、畝傍の体は徐々に空へ飛び出さんとする。
しかし、そこに石蒜の刀が振り下ろされる!畝傍はショットガンの銃身に自らの炎を纏わせることで、これを咄嗟に防御せんとした!
「ぐ…………っ!」
どうにか刀身をそらすことには成功するも、切先で胴体をわずかに負傷。そこから流れる鮮血もまた炎と化し、燃えていた。
飛行姿勢がふらつくも、すぐさま立て直して距離を置くように後退、ショットガンを構え発砲!BRAKKA!銃撃音が響き、炎を纏った散弾が撃ち出される!

鳴鳴 > 「ハハ、アハハ、アハハハハハハハ!!!」

声が何重にも反響する。門の向こう側ははっきりとはしていないものの、明らかによくない何かが蠢いているようであった。
「さあ、僕を止めてみてくれ! 僕を殺してみてくれ!
 「道」の前にあまりにはかなく無意味な君達が! 僕達をどうしてくれるのか!
 それが、僕は、僕はとても楽しみなのさ!」
混沌を纏いながら鳴鳴は言う。そして一つの構えを取った。
大極を描くようにして腕を回す。
蒼介の放った高速の手裏剣が鳴鳴に迫る。
鳴鳴はその手裏剣目がけて駆けると、その手裏剣が身に突き刺さる刹那、手裏剣に手を添え、身を削られながら、流れを変えるかのように身を回転させ、その勢いのまま、蒼介のほうに手裏剣を弾き返した。

「人間であるとかそうでないとか、そんなことは意味がないんだよ。無意味なんだよ。
 「道」の前には万物斉同、絶対無差別なのだから! 僕は君であり、君は僕だ!」
鳴鳴は手裏剣を追うように走りだし、その混沌を纏った腕で、蒼介に殴りかからんとする。

石蒜 > 散弾、という言葉を石蒜は知らなかったが、あの銃から放たれた弾が散らばるのは知っていた。
散らばりきった弾は防げない、だから、左手を前に突き出して、拡散しきる前の弾を受ける!
運動エネルギーの全てを受け止めて、左手の肉はえぐられ、全身の骨に衝撃が走る。そして、超常の炎が左手を燃やす。
「くふッ……♥」熱と衝撃は即座に快感へと変わる。ああ、気持ち良い、これこそが私の享楽。

さらに後退しようとする相手に合わせて、斥力を使って飛び込み、至近距離を保とうとする。
「逃げないでくださいよ畝傍!私と一緒に居て下さい!アハ、アハハハ!!」
嘲るように笑いながら、上半身をひねって、刀による渾身の突き、狙いは胴体、急所を狙っては面白く無い、もっと引き延ばしたい。

風間蒼介 > くっ……ふざけた規模の力のクセに緻密な技とか反則にござるなあ!
(享楽を歌うようになるほど、これは遊びなのだろう
 自分の放った技を返されればそれに自信があればあるほど心に受ける衝撃は大きい
 しかし、今の投擲は所詮相手の反応を見るための牽制
 返されようとも揺らぐはずもない
 風圧を感じるほどのギリギリをすり抜け、交差しながら回避し…左右三本、計六本のクナイを袖の下から滑り落とし、指で挟むようにして構える
 バヂリと紫電が刃に走り…)

無意味であろうがなんであろうが、そこに意味を見出すモノが居る以上は…
たとえ誰が嗤おうと、そこに価値はあるでござる!命を賭けるに値するほどに!
(六本のクナイが放射状に電磁投射され……
 その付け根には鋼線が結び付けられており…そこを雷撃が伝い、グン、と軌道を有機的に変化させる
 二本がまっすぐに鳴鳴へと向かい、二本が軌道を細かく変えながら刺客を狙い、二本が複雑な動きでかく乱に徹する
 風間神伝流、有線誘導電磁投射手裏剣・群狼陣)

畝傍 > 斥力を用い高速で迫りくる石蒜に対して、畝傍はすかさず左方向への移動による回避を試みた。
狙いが逸れ致命傷は免れるも、脇腹を刃が抉り、出血!血飛沫は火の粉へと変わり、やがて大気中に消える。
「ボクだって、シーシュアンといっしょにいたい……けれど。それは……」
あの世でではない。畝傍の目的は石蒜を、サヤを救い――何より大切なのは、生きて戻ることだ。
そして急加速で石蒜の真横へ移動すると、ショットガンを一旦右肩に下げ、先程まで左肩に下がっていたロケットランチャーを構えた!
なるべくなら温存していたかったが、相手も本気である以上形振り構ってはいられない。
まずは一発、ロケット弾を発射する!BOOOOM!

鳴鳴 > 「すぐに壊しちゃったら面白くないじゃないか。僕はね、君達と遊びに来たんだ。
 己の存在を賭けて、遊ぶんだ! これほど面白いことはない!」
自分の胸に手を突き刺し、何かを抜き出していく。
鳴鳴の胸から、一振りの刀が抜き出されていく。九つの小さな灯籠のついた刀。
九蓮宝刀である。

「ほう、じゃあその君のやろうとしていることは本当に望まれていることなのかな?
 君達は、僕が彼女を、サヤを歪めたと思っているらしい。確かに、間違ってはいない。
 だけど、僕は彼女の望むままに、彼女の命を繋いであげたのさ!
 君達はできるのかい? 彼女を幸せに、普通の生活に戻すことなんて。
 君達の世界の価値観にある限り、彼女は人殺しだ。永遠にね。
 全てが無意味で無価値であるとする僕は彼女を赦した。そもそも僕の世界には善悪なんて存在しないんだ。だから。
 彼女は僕と居たほうが幸せだと思わないかい?」

クナイが電磁投射される。二本のクナイが鳴鳴に向かう。それを刀で弾きながら、そのまま蒼介に向かう。
「あ、は、アハハ……! 九蓮宝刀ォッ……!」
鳴鳴の体が不意に宙に舞いあがる。そしてそのまま、重力に任せて蒼介に向かって落ちていく。
刀が振り上げられる。混沌のまとわりついた刀だ。
恐らくまともに喰らえばただでは済まない。

石蒜 > 「そうですか、そうですか、私と一緒に。でも、駄目なんですよ、それは出来ない。私はもう誰も受け入れないし、誰も私を受け入れない。ただ一人ご主人様を除いて!」
「認めましょうよ!私なんか本当はどうでもいいんでしょう?私じゃなくて、自分が助けられるのなら誰でもいいんでしょう!?あなたはただ恩を着せたいだけ!!きっとそうだ!」
相手の想いを否定する、違うとわかっているのに。誰からも疎まれていると思い込む、その方が楽だから、そうじゃないと辛いから。だがそれに石蒜自身は気付いていない。

何か、四角い箱を構えた、それから発射された何かは、大きくて遅い。だがこれを受けるのはまずい気がした、畝傍の目がこれは切り札だと言っている。
素早く足を振り上げて、回し蹴り。ロケット弾には触れず、斥力を使って軌道をずらした。
ずれたロケット弾は地面にぶつかって爆発を起こす。
「アハ、ハハハ。なんですかそれは、殺すつもりじゃないですか、そんなもの持ちだして。」炎を背負って、笑う。やっぱり、本当は私なんか助けたくないんだ。
「わかりましたよ、あなたの本心がね!!」怒りに、殺意が膨らんだ。
追うのをやめ、力場を右腕にうつす、そして大きく振りかぶり、斥力で加速させながら刀を投げつけた。猛烈な勢いで、回転させながら畝傍に向かう、狙いは首。

畝傍 > 「……ちがうよ。シーシュアンが、受け入れなくても……シーシュアンのことを受け入れてくれるヒトは……いるんだよ。いるんだ」
誰も私を受け入れない――その石蒜の言葉を、畝傍は否定せんとした。
しかし――畝傍がロケットランチャーを用いたことで、石蒜を刺激してしまった。相手の本気に本気で答えようとした行為が、かえって裏目に出てしまった。
以前の畝傍ならば、その選択を後悔し、悩み、苦しんでいたことだろう。
だが、もはや迷いはない。石蒜にどれだけ嫌われようと、怒りや殺意まで向けられようと――最終的に彼女を救えるのであれば、それでいい。
投げられた刀は畝傍の首を狩らんと向かってくる。ならば――
畝傍はまだ残弾の残っているロケットランチャーを、躊躇なく投擲!そしてショットガンを構え直しつつ、斜め右下方向へ逃れるように急加速飛行!
もし刀がロケット弾の信管に突き刺されば、爆発は免れない。
たとえ信管に突き刺さらなかったり刀の軌道が逸れても、畝傍の異能によってロケットランチャーは残弾ごと爆破されるであろう。

風間蒼介 > 自分の力を存分に振るい試すのが楽しいのは判るでござるが…ね…!
(電磁投射手裏剣は速度と柔軟性をかねそろえた必殺の技である
 が、しかし三次元空間上では線の攻撃でしかない
 するりとその間をすり抜ける鳴鳴に舌打ちしたい気分で鋼線を開放し無手に戻り)

助けて…と言ったんでござるよ、サヤ殿は
それに心得たと応えた、それ以上の理由など知った事ないでござるなあ!
(あれはヤバい…と、鳴鳴の取り出した宝刀とそれの纏う力に血が悲鳴に近い最大級の警告を放つ
 それに従い、腰の後ろから刃渡り60cmほどの飾り気の無い直刀…霊刀風切り羽を抜く
 刀としての格では劣ろうが霊性を帯び、風間の異能に馴染んだこれ以上の武器は持ち合わせていない)

彼女に罪は無いとは言わんでござるよ
サヤ殿は人を傷つけた、それは紛れもない事実
それを開き直るならばそれは彼女の選んだ道でござろう
しかし罪の意識を覚えながらそれを押し込めるのは歪みに他ならぬ
そこに救いは無く歪みを得た刃金はいずれは折れ砕ける…
それに、一つ勘違いしてござるな?
(自分の防護を捨て、風雷の力を刀身に集め、圧縮
 打ち込まれる宝刀に刃を合わせ…ぐるり、と内臓の裏返るような不快感が全身を駆け巡る
 凝縮された異能の力は一瞬混沌の力と拮抗し、犯し侵され…霊刀の神性を帯びた刃がぎちりと軋みをあげる
 受け止めるのは不可能、受け流すには技量が底知れぬ
 ゆえに刃は添えるだけ…そこを支点に自分の体を押し流し、殺傷圏内から滑るように体を投げ出し、抜け出す
 即座に足裏に電界を生み出し、電磁レールを生み出しスラロームしながら間合いを外し)

彼女が望もうが、望むまいが…知った事ではござらぬ!
現に石蒜には拒絶されてござるからな!
だがそれがどうした!元より武力を用いての説得など強引な押し付けでしかござらぬ
傲慢勝手は承知の上、あえていうならば…拙者らはやりたいと思った事をやっている!
善悪?正しさ?そんな大義名分、知った事か!
(そのまま電磁反発に風の勢いを乗せて跳躍、宙に電磁レールを走らせムーンサルトを切りながら上昇し
 無数ともいえる大量の棒手裏剣…それも表面に細かく術式を刻み雷力を乗りやすくした物を雨のように、放射状に降らし、面の攻撃力を生む
 風間神伝流 電磁投射手裏剣・鳳仙花の陣)

石蒜 > 「いいえ、もうどうでもいい。ただ今を楽しみましょう、それだけが真実です、それだけが本物です。他は何もかもが紛い物、言葉も想いも、何もかも。」そうだ、私は九万里の空を行かなくちゃならない、そこには誰も居ない、地上から誰がどれほど叫ぼうと、声も光も届かない。全てが漆黒に染まっている、それが私の生きる道だ。それだけしかない。

刀はロケットランチャーに突き刺さり、残弾が爆発。
右手を人差し指と中指だけ立てた剣指の形に、それを振るって吹き飛んだ刀の軌道を操り、畝傍の背後から襲わせる。
同時に自分も駆け出す、力場は左手にまとわせているので、少し遅くなっているが、それでも俊足だ。背後からの刀を避けられれば、そのまま刀をキャッチして斬りかかる、そういう算段で、駆ける。

畝傍 > 首を狙う刀はどうにか回避できた。爆発に紛れ、刀は畝傍の眼前から消えていた――が。
「…………!」
背後か――そう確信するまで、一寸遅かった。軌道が読めなかった。
回避しようとするが、先程まで急加速していたために飛行の制御が難しい。
「かは…………っ」
刀の直撃こそ免れるも、刃によって脇腹をさらに負傷した上、地面に叩きつけられ吐血。
まだ武器はある。立ち上がらんとするが――叩きつけられた衝撃のためか、うまく身体を動かせない。絶体絶命の状況であった。

鳴鳴 > 「僕も彼女を救ってあげたのさ。まあ、玩具でもあったけどね。
 一度は君達に絆されて僕を裏切りに来たんだけどね。僕がもう一度救ってあげたんだ!
 彼女を本当に救ってあげられるのは僕だけだ。この世界の価値観に絶対性なんてない。
 別に彼女が罪に思う必要なんて何もないのさ! 僕がそう教えてあげたんだ!
 罪を押し込めてなんていないさ。僕が彼女を赦し、罪から解放してあげた! アハ、アハハ! 石蒜は僕のものなんだ!
 だって、僕が名づけてあげたんだからね!」
刀を蒼介に打ち込む。火花が散る。
混沌がしみこむようにして、蒼介の直刀に、黒々とした混沌が迫る。
鳴鳴はかなりの勢いで彼に切りかかっていた。彼が流れるようにして自分の体を押し流したため、鳴鳴は勢いよくその場を駆け抜けていく。

「――素晴らしい!!」
眼を見開いて、蒼介の言葉を賞賛する。
「そう、そうだ、そのとおりだ!!! 君は僕と同じなんだ!
 君は真理に近づいている! そう、全ての価値は無意味だ。何故ならば絶対的ではないからだ!
 君はそう、自分の享楽のために、欲望のために、やりたいことをやっているんだ!
 アハ、アハハ、アハハハハハハ!!!!
 なあんだ、わかっているじゃないか! ならば君は僕と同じだ!
 君は僕なんだ!」
降り注ぐ大量の手裏剣を前に、狂ったように嗤い、拍手までして見せる。
雷を纏った手裏剣が面で迫ってくる。鳴鳴は刀を器用に回転させ、一部は防ぐものの、全てを防げるわけではない。

「あひ、あ、は、ひゃああ!!」
嗤いながら、棒手裏剣が次々と鳴鳴の体に突き刺さっていく。
ぐさり、ぐさりと何本も。しかし鳴鳴の体から溢れるのは血ではなく、混沌である。

石蒜 > 「アハ、アハハハハハ。」かかった、笑いながら、倒れた畝傍に歩み寄る。刀はまた軌道を変えて、石蒜の右手に収まった。
「ねぇ畝傍、私もあなたにはそれなりに思い入れがあるんです。出来れば殺したくない、あなたも死にたくないでしょう?」勝ち誇った笑み、生殺与奪権を握って、圧倒的優位に立っている。それが楽しい。

「だから、あなたも私と同じになりましょうよ。ご主人様に歪めてもらいましょう、どうです?そうしたら私の仲間です、ずっと一緒ですよ?」
きっと断られるだろう、わかっている。畝傍は私の現状をよく思っていない、ご主人様も憎んでいる。受けるはずがない。
それでも石蒜は聞かずには居られなかった、何も聞かなければ殺さなくてはならないから。時間稼ぎのようなものだが、それに気づいていない。親切心から聞いていると思っている。

「一緒に、なりましょう?」屈みこんで、その頬に優しく手を伸ばす。散弾でボロボロになった左手を。

畝傍 > 頬に添えられる、ボロボロになった石蒜の左手。
それでもなお、畝傍の炎は衰えることはない。その右目からは、わずかに炎の涙が溢れていた。
「……いや、だよ。ボクは……混沌に染まるわけにはいかないんだ。シーシュアンをたすけるって、きめたんだから。ボクはきらわれてもいい……だけど。シーシュアンがどれだけ、ゆがめられたって。かならずたすけるって、やくそくしたから。だって、シーシュアンはボクのいちばんだもの」
畝傍を今もなお突き動かし続けている、ただ一つの約束。
最初に出会ったとき、彼女と交わしたその約束を守り通すためであった。
「ねえ、シーシュアン。きいてほしいことがあるんだ」
体勢はそのままに、畝傍は石蒜へ話を切り出す。
「ボクも……ボクもね。ひとごろしなんだよ。ボクは、ボクのうまれた国で……銃を持って、いっぱいヒトを撃った。撃って、ころしたんだ。だから、おんなじだよ。ボクもシーシュアンとおなじ、ひとごろしだ。だから……ひとりじゃ、ないんだよ」

風間蒼介 > (鳴鳴の言葉を噛み締める、痛いほどに噛み締める
 ああなるほど、自分勝手な理屈を以ってして彼女を自分の理想へと引っ張り込みたいという点においては同じだ
 善悪倫理を放り投げ、彼女が真に望むかどうかという願望を横に置けばその通りだ
 認めよう、その言葉を
 認めよう、これは祝福されるべき正義などではない)

そう、すべてに置いて絶対はござらん
善も悪も時と場合による、見る者、聞く者、決める者によってそれはうつろい揺らぐ
拙者の行動も人によっては余計な事をと唾棄される行動でござろうな
(駆ける、駆ける、空を翔る
 足裏に生み出した雷球を蹴りつけ、炸裂した反動で弾かれるように加速
 鳴鳴を中心にした円運動は代わらず、しかし螺旋の軌道で空へと駆け上がり)

そう、価値など人それぞれ…ゆえにその全てに価値など無く
だがそれでもと自分の全てを賭けられる熱を持てるからこそ…森羅万象一切合財!全てに意味はあり価値はあるんでござろうが!
(熱い、熱い、熱が渦を巻く、グルグルと冷えた激情が荒れ狂う
 それに指向性を与えるのは理想、自分はこうしたい、こうありたいという理想が淡い像を結ぶ
 深奥に眠る心が像を結び…形を得た異能が力を生む)

蒼炎鈞昊玄 変幽朱陽 以って九天と為す
(印を結び、地面に刺さった棒手裏剣に刻まれた術式が光を放ち、大地より気脈を引き出し紫電を放ち)

九天応元!雷声よ響け!煉気化神・大周天 雷哮爆華陣
(棒手裏剣の一つ一つが紫電の線で結ばれ、鳴鳴を中心とし陣を描き、逆さのイカズチを天へと放つ)

石蒜 > 「……あなたも、頑固ですね。言ったでしょう、私にとってあなたは二番目だって……一番はご主人様だって……。」あの時の約束、気まぐれにした、とてもわがままで一方的な約束。畝傍に献身を求めるが、自分は何もしない。子どもじみた約束。

「…………。」何も言わずに話を聞く、時間を稼いでいる。畝傍を殺すことも、仲間に引き入れることも出来ずに、ただ先延ばしにしている。だがそれにも石蒜は気付かない、気づこうとしない。

「でも、違いますよ。やっぱり違う……。」顔を振る、理解されるのが、歩み寄られるのが嫌で嫌でたまらない。早く立ち上がって、撃って欲しい、そうすれば楽しめるのに。
「私は罪を悔いていない、罪とも思っていませんよ。享楽に必要だから斬っただけ、食事のために生き物を殺すのと一緒です。だから、違うんですよ。私とあなたは、もう同じ種族ですら無い。私は人間を辞めたんです。」
これ以上話すのは危険だ、そう感じた。もう時間を稼ぐタネもないし、また心が揺れる。もう決めたはずなのに、会話は苦手だ。だから、終わらせよう。

「さようなら、畝傍……。初めて会った時から、ずっと愛してましたよ。」刀を振り上げる。せめて苦しませずに、一撃で殺してあげよう。

鳴鳴 > 「――そうだ!」
高らかに言う。
「そうだ、そうだ、そうだそうだそうだそうだとも!」
賞賛する。感激する。棒手裏剣に身を封じながら、空に舞い上がった蒼介に手をかかげて。
「君の言うとおりだ! 君はまさに今こそ、九万里を翔ける真人にも等しくなったんだ! 絶対の価値なんてない。絶対の善悪などない。全ては相対的な差別のもとにあるものさ!
 全てに意味はなく、そして故にこそ全てに意味があるんだ!
 君がただそれを認めるというそれだけのこと――それで全ては成り立つんだ!
 善悪を語るなんてことよりも、その方がよほどいい!
 君は素晴らしいよ! そうだ、それでいい。それでいいんだ!
 僕を破壊するんだ! 僕を殺すんだ! ただそれだけでいい!」

蒼介が印を結び始める。すると地面に突き刺さった棒手裏剣が光を放ち始める。
大地の脈が引き出され、紫電がバチバチと跳ねていく。

「おお、九天より雷が来るか!」

天に向かって放たれる雷を見る。こちらに雷が迫ってくる。

「ならば僕も応えよう! 君は既に真理に到達した!
 ならば既に答えは決まっている! 君のなしたいことを成すために、僕を殺すといい!」

鳴鳴の九蓮宝刀が黒く輝き始める。
そして、鳴鳴の顔が黒く、染まっていく。それは無貌。
その無貌に、三つの燃える目が浮かび上がっていく。

「――《無為自然》」
混沌たる自然、全てをありのままに、作為を加えずに「道」に至る。
鳴鳴の真実の姿の一端が、「門」の向こう側と一つになる。
そして、一気に剣を掲げたまま、雷へと自ら向かっていく。
「――《万物斉同》」
鳴鳴が現れる。いくつものいくつものいくつものいくつもの鳴鳴が周囲のものと同化して、無数に出現していく。
それらは嘲笑いながら、放たれた強烈な雷へとぶつかっていく。

――強烈な迸りが周囲を埋め尽くす。

畝傍 > 石蒜が刀を振り上げた――その瞬間であった!畝傍の全身から溢れだす炎が、より一層激しさを増したのである!
眼帯が弾け飛び、その左目からは灼熱の炎が、これまでにない勢いで噴き上がる!左目全体が炎に隠され、恐らくこの場の誰にも視認することはできないであろう。
そして右目は、さながら南の魚座の一等星フォーマルハウトが如き輝きを放つ。
今の畝傍に行える最大級の炎化。これ以上の規模となれば、自身への精神的な影響も計り知れないであろう。
石蒜によって今まさに刀が振り下ろされんとする刹那、畝傍は爆発のごとき勢いで背後へ跳躍、間一髪刀を回避した!そして――
「……シーシュアンにとって、ボクがにばんめでも……ううん。なんばんめだっていい。それでも!ボクのいちばんはシーシュアンなんだ!」
語りかける。畝傍はショットガンを構えず、ナイフも抜かず、石蒜に対して一切の攻撃行動をとらないまま、言葉を続ける。
「シーシュアンは……ちゃんと、じぶんの罪を……悔やんでるよ。ほんとうに、罪を……罪だって、おもってなかったら……そんなこと、いわないはずなんだよ!」
何度でも、何度でも――叫ぶ。叫び続ける!

石蒜 > 突如輝きだした畝傍に、咄嗟に左腕をかざす。刀が地面に刺さり「なっ…」驚きの声。
「違う、私は悔いてなど……!」言い返そうとして、思い出す。あの炎は畝傍の正気を代償に燃えているはずだ。
「やめなさい、畝傍。その炎を、消しなさい、すぐ!あなたの正気が燃えてしまう!!」こんな火力で燃え続けたら、燃え尽きてしまう。畝傍が畝傍でなくなってしまう。

止めなくては、早く!焦燥感に駆られて、刀を構え飛びかかる。刃を返して峰打ち、それで首筋を狙う、気絶させれば炎も止まると見込んで。

風間蒼介 > 拙者は刃にござるからな…護国のためには善だの悪だの言ってはおられぬ
しかしそれも後ろに誰かが居るからにござる
風間の名は護国を任ずる、我ら牙無き民の刃にて切っ先
血に塗れるもぶつかり欠けるも誉なれば…
貴様が全てに意味が無いと嘲笑うならば、拙者は全てに意味があると謡おう
(熱い鉄が槌に打たれ火花を散らすように
 鳴鳴という共鳴しながらも相容れぬ存在に打たれ心が純化されていく
 余計な理由は要らない、思うがあるがままに
 驕らず恥じず、己の奥に秘める自覚すら出来ない深層の意識に、言葉にすら出来ないもどかしい何かへと同調していく)

絶対の善がなかろうとも拙者は拙者を誇れるよう善くあろうとするでござる
この世に真理などない、至ろうと手を伸ばし届かぬからこそその先へその先へと歩みを止める事無く進めるのでござるよ
真理に到達したと!至ったと嘯きそこに留まる貴様が、知った風な口を利くな!
(ぞぐりと、泥で出来た釘を背骨に打ち込まれたような吐き気をもよおすような悪寒が全身を駆け抜ける
 虚空を穿つような虚無的で無貌の三眼が意識を、魂を見通し吸い込むような甘美で蠱惑的で、怖気の走る引力を放射する
 それを振り切るように手は緩めず、意を込めた言葉を打ち放ち、雷を蹴りつけ、風を帯び、空を切り裂き加速し続ける
 圧縮された大気が白く爆ぜ、長く尾を引く飛行機雲を引きつれて)

畝傍 > 刀を構え迫る石蒜に対して、畝傍はその場を動かず構えをとり――
寸でのところで、刀の峰を炎を纏った右手で受け止める。
衝撃で地面を抉りながら後ずさりするも、体勢は崩れない。
そして、そこから反撃に――移らない。輝きを放つ瞳で、畝傍は石蒜の顔をまっすぐに、じっと見据え、微笑む。
「シーシュアンは……やっぱり、やさしいんだね。そう……シーシュアンは、やさしいヒトだよ。どんなにゆがめられてても……こうして、かたなをむけていても……そうやって、ボクのこと……しんぱいしてくれるんだもの」
その炎の激しさとは裏腹な、まるで母のように優しく、囁くような声で、語りかける。

石蒜 > 「畝傍!炎を止めて!お願いだから!」懇願する。全てを無意味無価値と断じ、享楽のみに生きると豪語した少女が、倒すべき敵に懇願している、もう狂わないでくれと。

刀を引こうとして、止める。畝傍の指が斬れてしまうから。もう、石蒜は自分が何を考えているのか、何がしたいのかわからなくなっていた。ただ今は畝傍を止めたかった、さっきまで殺すつもりだったというのに。
代わりに、右足の回し蹴り。狙いは顎、脳を揺らして気絶させる狙いだ。

畝傍 > 顎へ向かう右足を、白刃取りのように両手で受け止める。反撃しようと思えば、この体勢から蹴りを叩き込むこともできただろう。
だが、畝傍にはなおも反撃に移る様子はない。しばし言葉がなかったが、やがて口を開き。
「…………わかった。シーシュアンが、そういうなら……」
石蒜の右足を受け止めた両手から、徐々に炎の勢いが退いていく。
両手首、足首の炎が消え、左目に燃えていた炎の勢いも衰えてゆき、髪の色は元のブロンドに戻りはじめた。
炎を止めた上、畝傍が本来なら苦手としている至近距離。彼女を傷つけることは、石蒜には容易いであろう。
しかし畝傍はそれさえも恐れず、石蒜の右足を受け止めたままの状態で、再び微笑んだ。

鳴鳴 > 「ひひ、あは、あは、あははははは……」

閃光の後に、鳴鳴は天に居なかった。無数に現れた混沌は消えていた。
地に堕ち、倒れ伏していた。
体の半分が混沌となり爆ぜていた。道服も大部分は破れ、褐色の肌が見えている。
傷ついた肌の奥から見えるのは血や臓腑ではない、無数の貌――混沌であった。

「生に意味などなく、答えなどどこにもないと知ったとしても、それでもなお全てに意味があるというのなら――
 僕は君を愛そう。僕は全てを愛そう。
 僕は全てが大好きで大嫌いで。信仰していて嘲笑していて。全てが面白く、そしてつまらない。
 僕は全てを希望し、全てを諦めている。
 僕は混沌そのものだ。全てを内包するゆえに。
 「道」という大きなものの前では、君達の行為も何もかもは塵のようなものだ。君達の行動なんて、意味もなく消えてしまう。
 僕がいる場所は真理の頂点にして、糞便の中――「道」は糞便の中にあると『荘子』はいっている。
 それでもなお、全てに価値があるというのなら――僕も、全身全霊を以て、君達と遊ぼう。
 僕の享楽のために!」

立ち上がり、燃える三つ目で蒼介を見る。
そして、石蒜と畝傍の方を見て、口の端を吊り上げる。

「――さあ、君達はどうなるかな。僕はとても楽しみにしているんだ。
 全てを裏切られることを」

鳴鳴はその身の半分以上を混沌にし、かろうじて人型を保っている。
残った右手を前に出す。

『南海之帝為=A北海之帝為忽、中央之帝為渾沌。
 @^忽、時相与遇於渾沌之地。渾沌待之甚善。
 @^忽諜報渾沌之徳曰、人皆有七竅、以視聴食息。此独無有。嘗試鑿之。
 日鑿一竅、七日而渾沌死』

『荘子』の一節を引用する。

「だが、触らなければ、何もしなければ、よかったということもある。
 自然のままにしておけば、人為など及ぼさなければ、何も起こらなかったかもしれない。
 君の行動ゆえに、悲劇が訪れることを、僕は切望する。
 ――腐条理、腐った条理を見せてあげよう!」

「――九蓮宝刀、太極剣!」

渾沌にまみれた剣がいくつもいくつも現れる。
いくつもの刀が鳴鳴の周りに現れ、地面に突き刺さっていく。
そして、その九蓮宝方から強烈な光が溢れていく。
それは光であり闇であった。混沌の力。
それらが一斉に溢れだし、強烈なエネルギー体のとなる。
原初の混沌が分かれることにより、光と闇が生まれた。
鳴鳴の貌が無貌に戻り、嘲笑うかのように、その顔に七つの孔が空く。七孔をあけられて死んだ渾沌のように。蝨ー
そのエネルギーが鳴鳴の右手に集まり、剣となり、そして蒼介に照射された。

石蒜 > 力なく、足を下ろす。「どうして、どうして……。」
「どうしてそこまで……私のことなんか、ろくに知りもしないくせに!!
サヤがどれほど苦しんで、人を捨てたのか知らないくせに……!!
もっと早く、来てくれれば……私は、私は……石蒜に堕ちることも無かったのに!!」衝動のままに、怒鳴る。それは駄々をこねる子供にも似ていた。

「もうどうしようもない!手遅れだ!!万一助けられても、私は消える!サヤは私の存在を許さない!サヤだって、一生罪を抱えて生きることになる!!だから!だから!!もう私はご主人様と生きるしかないんだ!!私の罪を許してくれるのは、ご主人様だけなんだ!!」髪を振り乱して叫ぶ。
それがジレンマだった。助けられたい、だが石蒜は消えたくないし、サヤの今後を考えてもいた。だから狂人として、悪として振る舞い、鳴鳴こそが唯一の人だと必死で思い込んで、付き従ってきたのだった。
だがそれも畝傍の前では取り繕えなかった、本心と嘘の間で、石蒜は苦しんでいた。

風間蒼介 > 生に意味などなく…この世のどこにも答えなど無い
ゆえに白紙、そこに意味を持たすも、価値を与えるも自分自身にござる
なればこそ筆を取るべきは自身の手!その手を奪おうとする貴様の所業…許せぬとか、悪だとか言うつもりはござぬ
ただただ気に食わぬ!
ああ、そうだ気に食わぬでござるよ!おぬしの言う事は判る、理解出来てしまう、何かを一つ掛け違え得れば隣に居れそうだというのがなによりも!
(逆さ雷で空へと打ち上げられた大地の気脈を、それにより増幅された雷気を螺旋の動きで絡め、掻き集める
 高空に流れる風気を手繰り、取り込み、練り上げる)

たとえ意味が無かろうとも、いずれ消えてしまおうとも今を諦める気はござらぬ!
それでもなお全てに価値が無いというのならば……その目に、焼き付けろ!
(魂の深奥を揺さぶるような殺気…鳴鳴の意識が今自分に収束したのを確信する
 それはつまり)

畝傍殿!
(預かった鞘を電磁投射、離れた戦場で石蒜と向かい合う畝傍のすぐそばの地面へと突き刺さり)

触れていれば、何かをしていれば…何かが変わっていたかもしれない
自分に出来る事があるのに、なにもせずに居ればもっと悪い事になるのかも知れない
悲劇が訪れ自分の過去を後悔する事が拙者は何よりも怖い…

常夜の果て 嘆く唄は聞こえず 晴藍の空は遥か彼方 伸ばせ伸ばせその手を伸ばせ
(だから自分の言葉をつむぐ、故事に、過去の人物が紡いだ偉業の力を借りず)

常世の夢 希望の詩は誰が為  星嵐の灯りは雲間の向こう 手繰れ手繰れ希望の糸を
(自分だけの言葉をコマンドとして意識誘導
 おぼろげに見え始めた自分の力のビジョンに重ね合わせ、先ほどの術で練り上げられた天の気を束ね)

太秦は 神とも神と 聞こえくる 常世の神を 打ち懲ますも 
(遥か昔、常世の神を下したとされる豪族を謡う言葉で、風間の血に受け継がれる力を引き出し)

煉気化神・大周天 飛翔天墜!
(螺旋に束ねた風雷の力、いつか破壊の神にぶつけたそれを遥かに拡大化した巨大な力の本流を足に纏い、光に向けて流星の如き蹴りを放つ
 理を持って束ね、獣の如き闘争心でそれをぶつける
 自分の中に眠るもう一人の自分、深層心理と呼ばれる知覚不能の意識の海に眠る形と同じ方向性を力に与え光の本流にぶつかる
 勝てるはずが無い、打ち抜けるはずが無い、だがそれでいい、それだけでもいい
 ここで稼いだ数秒は畝傍と石蒜が鳴鳴の意識から外れる数秒だ
 薄紙を重ね焔を食い止めるような競り合いを重ね)

っせい……やぁぁぁぁぁ!
(搾り出すような咆哮をあげ、束ねた力を解放し、混沌の光にそれを叩き付ける
 至近での炸裂に霊糸で編まれた装束はかぎ裂きに裂け目を増やし、放出される太極の奔流が肌を焼く
 喉も裂けよ力よ枯れよとばかりに力を振り絞り…鳴鳴の剣を捌いたのと同じ、自分の体を力と力のぶつかり合いの余波にのせ、軸線上からはずし、しのぎきる
 その真横を天を貫かんと伸び行く混沌の柱が伸びていって)

畝傍 > 「……ごめんね」
石蒜の足が下りると、畝傍はショットガンをその場に置き、石蒜の小さな体を両腕で抱き寄せようとする。両目からは、再び涙が溢れ出していた。
「そうだね……ボクには、シーシュアンのことも、サヤのことも……しらないこと、いっぱいある。もっとはやく会えてたら、何かちがったのかもしれない。でも……ておくれなんかじゃ、ないよ」
さながら、自らの娘をその手に抱きなだめる聖母のように。石蒜に語りかける。
「ボクが、シーシュアンを……ゆるすよ。それがどんな罪だって。もし、せかいじゅうのヒトが、ゆるさなくたって。ボクは……ゆるすから。だから。シーシュアンがひとりでくるしまなくて、いいんだ」
言い終えると、蒼介の声とともにすぐ近くの地面へ飛来してきた『鞘』に気付き。
「……ありがと、ソースケ」
右手でそれを抜くと、石蒜が持っている刀を、その鞘に納めんとした。

石蒜 > 抵抗せず、抱き寄せられる。
負けた、という実感があった。私は負けた、人の想いや、優しさに。
全てを無意味と笑っても、無価値と諦めても、心の何処かでそれは違うと思っていた。それを必死にねじ伏せて、狂ったふりをしていた。まるで拗ねた子供のように。

どこか人事のように、鞘に収められていく刀を見る。刀の中に自分が押し込められていくのがわかる、サヤがそうしているのだ。完全に収まれば、石蒜は刀に封じられるだろう。その後、刀を破壊すれば私は死ぬ。
刀から手を離し、畝傍の抱き返す。
「さようなら、畝傍。サヤによろしく、とても臆病な子です。優しくしてあげてください……。」鞘に完全に収まる直前に、一言だけ言えた。

そして、カチンと音を立てて鯉口と鍔が接すると、くたりと石蒜の体から力が抜け、倒れた。

鳴鳴 > 「はは、あは、あはははは!
 当り前さ! 僕は渾沌なんだから! 僕は光も闇も内包している!
 もし、何かが違えば、僕がそっちを面白いと思えば! 君達の隣にいたかもしれないな!
 ひゃ、あは、あはひあ、あああああ!!」

げらげら、げらげらげら。
嗤う、嗤う。この世全てが無意味で無価値であるのに、それらにすがる人々を、世界を嗤う。
自分の言葉を理解しながら、決して同じ道を歩むことのない人間を見て嗤う。

「見せてくれ!!! 君の、力を!!! 君がまだ本当に諦めていないのなら!
 僕の腐条理を!! 否定してくれええええええ!!!」

鳴鳴の享楽は今高みに達している。
そして、今鳴鳴はその瞳を全て蒼介に向けていた。鞘が飛んだことに対して、何かをすることはない。

蒼介の言葉が紡がれていく。
自らのことばで、自らの思いのままに。

「ハハ、アハハハ!!! おお、常世神を討った太秦の歌か!!
 いい、いいね、いいよ!! この常世国の名を冠した島で!!
 不老不死を人々に与えると謳われた邪教の神を討つ言葉を用いるか!!」

蹴りが放たれる。鳴鳴という不老不死の不条理、天災が放つ光に向けて。
けたたましい笑いが響き渡る。狂った笑いが響き渡る。
最高だ、最高だとの声が響く。
流星の如き光が蹴りに衝突し、さらに眩い光が放たれる。
陰と陽を内包する混沌に向けて、一人の人間の力と意志が、そこにぶつかる。

さらに鳴鳴は力を籠め、その光がいや増しに増していく。

――そして、再び光が爆ぜ、鳴鳴の体が後方に吹き飛ぶ。

風間蒼介 > 拙者の詠唱はただの意識誘導にござってな…
神の名を出そうともそこに神威は降りぬ
故事を持ち出そうとも神秘の積み重ねは味方をせぬ
ただ思う、そうありたいと、そうであれと思い描く…
お主が嗤うただの人の技にござるよ
(許容量以上の力を取り込み放った事で内臓を傷つけたのか
 はたまた混沌の余波が体を侵したのか、こぷりと血を吐きスカーフに染み出し風に散る
 霊糸で編まれた装束はその力を半ば失いただの頑丈な服と成り下がり
 蹴りを打ち込んだ右脚の膝から下の感覚がほとんどない
 ゆらりと体を風に舞わせ、落下しながらも五指を伸ばし
 指の一本一本から電磁レールを発生させ落下速度を殺す方向へと力を生み、空に爪を立て引き裂くような軌跡を残しながら、畝傍のすぐ近くへと降り立つ)

そちらはやったようでござるな?畝傍殿
(ぜいぜいとあぶくの様な音を呼気に混ぜながら膝を付き、噛み締めるような笑みを浮かべ視線をやる)

畝傍 > 「…………さよならじゃ、ないよ」
倒れた石蒜/サヤに向け、そう呟いた。刀を破壊すれば石蒜は死ぬ――だが当然、畝傍はそうしなかった。
彼女が救うべき相手、それは――サヤと石蒜、その両方であったからだ。
この後も続くであろう戦闘の衝撃で刀が破壊されてしまえば、畝傍の努力は無に帰してしまう。
畝傍は、サヤが目覚めるにはまだ時間がかかるだろうと推察すると、ヘッドギアを操作して頭上に円形の収納ポータルを開き、納められた刀を収納した。
それが仕舞われると、ポータルはすぐに閉じていく。
その後、自身のすぐ近くに降りてきた蒼介に。
「うん……ソースケ。ボク、やったよ……。だから、サヤのこと……おねがい。あとは、ボクがなんとかするから」
そう、頼んでみる。
そして、畝傍の体は再び炎へと変じていった。

風間蒼介 > お断りにござるな
(その頼みを舌下一刀に切り伏せ、萎えそうな脚に電流を流し、無理矢理に筋繊維を収縮させるぎこちない動きで立ち上がる)

後をなんとかして…どうするつもりにござるか?
その炎は尋常な物ではござらぬ、今も以前口にした「代償」を消費し続けているのでござろう?
ならば……ここで拙者が引けば残りの負担は畝傍殿にすべて降りかかろう
それは看過できぬ…言ったでござろう?この戦いの勝利目標ではサヤ殿の救出ではござらぬ
一切合財なにもかもハッピーエンドにダンクするためには、欠けは認められんでござるよ
(混沌に侵され、刃を曇らせた霊刀風切り羽を取り出し、逆手に構え、視線は前に向け、隣に立つ)

畝傍 > 「……えへへ。そうだね……ありがと、ソースケ。やっぱり……ソースケはすごいや」
戦いの中で傷つき、ぼろぼろになりながらなおも立ち上がる蒼介に、畝傍は笑顔を向けた。
そして地面に置いていたショットガンを拾うと再び抱え、前を向いて構える。
橙色に身を包む少女は、再び戦闘態勢に入った。
「……ここから……だね」
隣に立つ蒼介に聞こえるか聞こえないかの声で、そう漏らす。

風間蒼介 > 拙者ほら…忍者でござるし…な?
一応プロにござれば…畝傍殿にだけ任せて見てるなど出来んでござるよ
それに戦力的な意味で見るならば畝傍殿は切り札…無駄な消耗を拙者が引き受け確実に、全力で送り届けるのが勝利のカギにござるよ
(ぐっぐっと地面を踏みしめ、脚の調子を確かめる
 さっきまでの戦闘で渦巻いていた体内の熱は、意思の鋭さは失われてはいない
 ただ、それを実行する肉体の負荷がそろそろ限界に近い
 死ぬつもりは無い、命を使うつもりは無い…しかし、目減りしないギリギリは、痛いや苦しいで済むレベルならば躊躇はしない)

これからにござるな
(戦いも、そして自分達も)

鳴鳴 > 「――なるほど、人の力か。そのために、僕は負けてしまったわけだ。
 アハ、アハ、アハハハ!! 自分が無意味で無力だとした存在に敗北する!!
 嗚呼、何と最高なんだろう! 何と享楽の極みなんだろう!」

混沌の声が響く。
数多の化身を持つ混沌の神の笑い声が響く。
全ては無意味だと嗤い、全ては無価値だと断じる神。
腐った条理、天の災い。
それは理不尽。
それは絶望。
混沌の神はそれを振りまく使者である。

崩れ去った鳴鳴の体が再び凝固していく。
混沌が這い寄り、童女の姿を成していく。

「ク、クク、アハ、アハハ……予想外だ。だけど、これこそ、これこそを僕は望んでいた!
 神たる僕が人に敗れ去る! 何と甘美で栄光に満ちているんだろう!
 だけど、その希望さえも僕が打ち砕こう。僕は腐った条理、天災だから1
 石蒜とサヤは気に入っていたんだ。愛していたんだ。あんなに面白い子だったから。
 でも君達に取られてしまった! 僕も玩具が! 愛していたのに!
 アハ、アハアハ――さあ、呼ぶんだろ? あいつを、呼ぶんだろ?
 なら僕も、そうしよう! あいつが来るならさア!!
 君達で呼べるのかな? あいつを狂わずに呼べるのかな?
 楽しみだ!! 君達の人の力というものを、僕に見せてくれ!!」

「――《窮極の門》よ! 《全にして一》なるものよ! 僕の願いを聞き入れてくれ!
 僕は君達の魂魄にして使者だ! そして君達を嘲笑う者だ!」

「外なる虚空の闇に住まいしものよ、今ひとたび大地にあらわれることを、我は汝に願い奉る。
 時空の彼方にとどまりしものよ、我が嘆願を聞き入れたまえ。
 門にして道なるものよ、現れいでたまえ。汝の僕が呼びたれば。
 
 ベナティル、カラルカウ、デドス、ヨグ=ソトース、
 あらわれよ、あらわれいでよ。
 聞きたまえ、我は汝の縛めを破り、印を投げ捨てたり。
 我が汝の強力な印を結ぶ世界へと、関門を抜けて入りたまえ。

 ザイウェソ、うぇかと・けおそ、クスネウェ=ルロム・クセウェラトル。
 メンハトイ、 ザイウェトロスト・ずい、ズルロゴス、ヨグ=ソトース。
 オラリ・イスゲウォト、 ほもる・あたなとす・ないうぇ・ずむくろす、
 イセキロロセト、クソネオゼベトオス、アザトース。
 クソノ、ズウェゼト、クイヘト・けそす・いすげぼと・ナイアーラトテップ。
 ずい・るもい・くあの・どぅずい・クセイエラトル、イシェト、ティイム、
 くぁおうぇ・くせえらとる・ふぉえ・なごお、ハスター。
 ハガトウォス・やきろす・ガバ・シュブ=ニグラス。
 めうぇと、くそそい・ウゼウォス。

 ダルブシ、アドゥラ、ウル、バアクル。
 あらわれたまえ、ヨグ=ソトースよ。あらわれいでたまえ」

「そして今こそ! 僕の力を解放してくれ! 既に僕の印は解かれた!
 遥かな世界の僕を! 数多の世界の僕を! 偏在する僕を! 唯一の僕を!
 この僕の印を解き放ち、時空連続体の彼方の僕を今こそ!!」

高らかにうたうように呪文を詠唱する。
すると、鳴鳴の背後の「門」が強烈な光を放ち始める。
門の向こう側には虹色の球体が見え隠れしている。
それが鳴鳴に放射し、鳴鳴の体の五芒星が再び現れたかと思うと、それは砕け散って行った。
時空が歪む。転移荒野の周囲で異常が起こる。
空の雲が張れ、星々が禍々しいほどに光り輝いていく。
地平線上に、本来この時期にあるべきではない星が瞬いている。

そして、鳴鳴は変化した。
胸元から不揃いな多面体が現れたかと思えば、それが闇に閉ざされる。

「教えてあげよう! 君達が相手にしているものがなんであるかを!」

鳴鳴の体が変化していく。混沌が溢れ、人型から離れていく。
それは巨大な何か。それは円錐状の頭をもつ貌の無い何か。
三本の足をもつ巨大なもの。

それは闇に光る三つの燃える瞳。
闇に彷徨う何か。

それは古代のエジプトで信仰されていた闇の無貌の神。
暗黒のファラオ。貌の無いスフィンクス。

それはいくつものコードに繋がれた機械の男。

それは人間では理解できない神の方程式。

いくつもの化身、いくつもの姿、千の異形。

這い寄る混沌、無貌の神、闇をさまようもの、大いなる使者、カルネテルの黒き使者、ナイ神父、顔のないスフィンクス、百万の愛でられしものの父、月に吠えるもの、ユゴスに奇異なるよろこびをもたらすもの、膨れ女、チクタクマン、ルーシュチャ方程式、千の異形――


「二度と再び千なる異形の我に宇宙に祈るが良い! 我こそは這い寄る混沌、ナイアルラトホテップなれば!」

異形の、月に吼える者が、そう叫んだ。

ご案内:「転移荒野」から石蒜さんが去りました。<補足:黒髪に漆黒の巫女装束の少女、肌は褐色。【乱入不可】>
ご案内:「転移荒野」にサヤさんが現れました。<補足:黒髪に漆黒の巫女装束の少女、肌は褐色。【乱入不可】>
サヤ > 「う……うぅ。」うめき声をあげながら、目を開ける。
「あ……私……石蒜を……。」立ち上がろうと地面に腕をつくが、体に力が入らない。
「痛っ」見れば、左腕はひどい有様だった、皮が裂け肉がえぐられている。そして思い出したかのように傷口が血を流し出した。

「ああ……。」首を動かし、戦場を見る。戦っている、あの人達が。私のために。
私、私ってナンダッケ…?

サヤ > 体に残った混沌が、制御を失って暴れまわる。ワタシ、ワタシハ

赤のア女王 悪心影  暗黒の男 ウ暗ィッカーマン 大いなる使者 ナクルーシ月るュチャ方程式
黒いト雄牛 ココペリ 鳴ナジャック黒・オー・ランタン チルクタクイマン 嘆にもきだえるもの ロイヤル・パント
バロゥン・サムディ 緑のイ男 鳴羅門火手恐 闇にの棲みつロくもの 暗黒のフ吼のァラオ ハーレイ・パッテン サター・ケイン
無貌の神 顔持たぬスフィアンクス 魔物大いなる使者 燃えグる三眼父 膨れ女えカルネテルの黒き使者

無数の名前、無数の姿が頭に浮かぶ。でもチガウ、これらはワタシじゃナい!!

  アトゥ エル・ドラド    暗フ  闇に棲みつくもの サター・ケイン
 ナイ神父 石 チクタクマン  黒ァ 蒜 クルーシュチャ方程式
 ウィッカーマン 鳴羅門火手恐 のラオ    嘲笑する神性   顔のないスフィンクス

チガウ、どれも違う。


  悪心陰   燃える三眼         赤   もだえるもの
 バロン・サムディ    月に吼えるもの  の     膨れ女
   ルログ    サター・ケイン  石蒜 女王  鳴羅門火手恐

私は、ワタシハ

サヤ > 「私は、サヤ!!」暴れまわる混沌をねじ伏せ、叫ぶ。
横になったまま、這い寄る混沌へと右手をかざす。
石蒜は私から生まれた、石蒜はあれを操っていた、だから。私に従え!!
混沌の漆黒の触手の一部が、這い寄る混沌を抑えようと巻き付き始める。
「ぐ、うぅっ……!!」歯を食いしばり、わずかでも動きを止めようと、全力を尽くす。

畝傍 > 「……ナイアルラトホテップ」
現れた異形。月に吼える者。畝傍はそれを見据える。
常人ならばその姿を見ただけでも精神に何らかの異常をきたしていることだろう。
だが既に、彼女は狂っていた。ゆえに、眼前に聳え立つ巨大な異形に恐れをなさず、その炎をさらに激しく燃やす!
「呼ぶよ……呼んでやる、望み通り!そして……お前だけは!」
畝傍の左目に再び炎が灯った。そして両の手首足首から噴き出す炎もまた、今の畝傍に出せる最大の火力で燃え盛る。
そして畝傍は――詠唱を開始した。否!畝傍の口が、精神が、魂が――自然に、それを詠唱していたのだ!

――Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!――

『炎』を呼び出すため必要な詠唱は三回。
あと二回分の時間を稼ぐことができれば――可能性は、ある!

風間蒼介 > ……先ほどの鳴鳴殿の方がまだ恐ろしかったでござるよ
理解できるがゆえに理解できぬ境地へと達した御仁が
今のおぬしは何者でもない…何者でもあって何者でもないが故、閉じてござる
人の生は白紙と言ったでござるが…今のおぬしは言うなれば墨染めの紙
ならば恐れる理由など、最早無い
(それはただの強がり、口にしていなければ心が…魂魄がもろともに砕けそうな重圧
 それに対し、軽口を叩き、奥歯を噛み締め、唇の端を吊り上げ笑みを形作る
 自分の中の獣を肯定する、暴れ敵を討ちたいと意地を張ろうとする自分を肯定する
 迸る稲妻を、渦巻く風を鎧のように全身に纏わせ、獣のように低い姿勢を取り…)

……
(前に飛び出す、詠唱に入った畝傍と、鳴鳴…いや、混沌の間に割り込み、盾となるべく)

鳴鳴 > 「……はは、あは、あはははははあひあはあはアハアハハ!!!」
いくつもの化身に変化しながら、鳴鳴は、ナイアルラトホテップは哄笑を響かせる。
巨大な異形が、不定形の異形が、いくつもの形を取りながら三人に迫る。
そのときであった。混沌の触手の一部が混沌の化身に巻き付き始めたのだ。
それはサヤ、石蒜の意志か。サヤが這い寄る混沌の化身の一つとなった石蒜を制御しているのか。
その事実に、鳴鳴は言葉通り、狂って笑う。
それは歓喜の響きだった。それは狂喜だった。

「おお、おお――! 素晴らしい!! そうだ、君ならば、僕の呪縛を離れて!!
 そうしてくれるんじゃないかと――ああ、素晴らしい、素晴らしい、絶頂してしまいそうだ!
 君なら、僕を裏切って、僕の予想を裏切って!! そうしてくれるのだと!!
 ああ、ああ、素晴らしい――!!」

歓喜にむせび泣くように狂いながら、混沌はもがく。

そして、畝傍が詠唱を始めた。これこそ、この混沌の神のひとつを滅ぼすための手段だ。
本来、この時期には見えないはずの星も時空の歪み、星辰のゆがみによって地平線上にある。
全ての呪文が唱え終ったときこそ、それは、来る!

「ハハ、アハハア!!
 そう、僕は何ものでもあって何ものでもない! 僕は混沌なんだ!
 君達には理解の及ばない原初の混沌! 僕たちは原初の混沌の表れなんだ!
 だから、君達もその混沌の一つに飲まれて!
 全てを尽くした上で、悲劇に泣き、世界の真実を!
 知るがいい!!」

風と稲妻を纏った蒼介が混沌へと割り込み、立てにならんとする。
それを見て、混沌は笑い声を上げながら蒼介に向けていくつもの触手を伸ばす。
空にはいくつもの光景が浮かんでいる。それは太古の昔、この宇宙にいたとされる古き神々の姿だった。異形の神々、常人には耐えられないような恐怖的な姿。
それらが狂った時系列のままにいくつもいくつも移り変わり、空に浮かんでいく。
混沌がいくつもの形を取り、コードとなり、牙となり、翼となり、あまねくすべてに姿を変えて、蒼介を潰さんと襲い掛かる。

畝傍 > すでに、畝傍の精神は完全に詠唱のみに集中している。
その瞼は閉じられ、肉体は無防備。それでもなお、詠唱は続く。
体から溢れだす炎はさまざまな色で輝き、揺らめきながら。

――Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!――

二度目の詠唱。畝傍と『混沌』の間、そのはるか上空にわずかに裂け目が生じ、徐々に広がっていった。
裂け目からはごく小さないくつもの光球が、出入りしはじめている。
しかし恐らく、この場の誰もまだそれに気付かないだろう。
そして三度目の詠唱が完全なものとなれば、この裂け目は――――

サヤ > 「私は、あなたの玩具じゃない……っ!」どろどろと、傷口から血に混じって漆黒の液体が流れる。混沌が体の中から追い出されている、完全になくなったらもう這い寄る混沌の邪魔は出来ないだろう。だからもう少しの間だけ、混沌よ、私の中に居続けて。

「ふんっ……くっ……。」食いしばった歯の間から息が漏れる。風間さんに襲いかかる混沌の動きを鈍らせようと干渉する。
まるで暴れ狂う巨大な馬を、子供が止めるような力関係だ。ぶちぶちと右腕の血管が切れていくのがわかる、人の身には過ぎた力が、反動を送ってきている。でも止めないと、少しでも動きを鈍らせねば、誰かが死ぬ!

風間蒼介 > 貴様の思惑など知った事か!
混沌であるならばそこに内包されるのは全てでござろう
悪意を煮詰めたような闇しか持たぬ身で全てを名乗るな!
(触手を払う、焼く、切り捨てる
 怒涛のように押し寄せる末端に対し霊刀を振るい、腕に纏った雷撃を飛ばし、脚に纏わせた風を刃に換えて踊るように、あがくように
 しかしそれはあくまで末端、無尽蔵に攻め寄せる物量は徐々に均衡を崩していく
 時系列を越えて忍び寄る不意の一撃を予知することは適わず、纏った異能の結界に触れる瞬間を狙い反射的に対処するしかない
 たまった疲労とダメージは動きに遅滞を生み、遅滞はミスを呼び、そのリカバリのために余計な手筋を要し遅滞を生む悪循環)

っぐ……あぁぁぁぁぁぁぁ!
(声を張り上げ、体力の限界を振り絞り、変幻する混沌に呑まれんとした瞬間
 それを、内から沸き起こる風が食いとどめた、深く深く海の底の底からくみ上げたような黒く重い風が
 風間の血は退魔を担う
 積み重ねた血の奥底からほんの一瞬湧き出た力が印を組む手にまとわりつき…陽炎のような虚像を浮かべる
 無数にぶれた指の影がそれぞれ別の印を切る多重起動
 蜂の羽が一度空を打つにも満たない一瞬だけそれを行い…)

そこに遮るものは無く 青く青くどこまでも青く 高く高くどこまでも高く 紫電清霜 迅雷風烈
その道を…開けろ! 届け、北落師門へ!
(風の渦が錐の如く伸び異形の群れに風穴を開ける
 それはあくまでも末端を吹き散らしたに過ぎない、本体である混沌には未だ届かず…しかしかまわない、それで十分
 木気は火気を生み、風は火を煽る、これは道だ
 長く細いバレルだ
 その反対側は畝傍の方へと伸びていて)

畝傍殿!
(後は、任せたと)

畝傍 > 畝傍は瞼を閉じたまま両腕を広げ、詠唱を続けていく。

――Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!――

やがて、三度目の詠唱が完全なものとなった――その時である!
先程まで上空に生じていた裂け目が開いてゆき、鳴鳴が作り出したモノとは異なる、巨大な円形の『門』として展開し――そこから何かが、ゆっくりと這い出してきた。
『それ』が放つ高熱により、周囲の空は次第に橙色へ染まってゆく。
その形は、まるで太陽のようだが――その実、異なる存在。形状と色彩を自在に変転させ続ける巨大な火球。
かつて、畝傍が探し求めていた『生きている炎』。あらゆる物を焼き払わんとする炎の神性にして、『混沌』がただひとつ恐れるもの。
それが今、畝傍の召喚に応じ、確かにこの場へ顕現したのだ!

「……来たんだ。『炎』が……!『生きている炎』が……!来た……ん……だ」

詠唱によって力を使い果たしてしまった畝傍は、膝から地面へ崩れ落ちた。
霞む視界で、どうにか自身の呼びだした『それ』の姿を捉えんとする。
『門』からは『炎』の本体のみならず、小さな光球が次々に溢れ出てきた。
それら光球が放つ熱はたちまち地上に広がってゆき、周囲を焼き払ってゆく。
そして――現れた『炎』は、畝傍の眼前に聳え立つ『混沌』へと迫る!

鳴鳴 > 理不尽。不条理。それらが襲い掛かる。
蒼介の一撃一撃に、混沌の化身の末端は払われ、焼かれ、切り裂かれる。
サヤの、傷つきながらの必死の抵抗により、蒼介への攻撃が阻害されていく。
それでも、理不尽なる神の天災は続く。混沌がさらなる力を出せば、彼らに一気に襲い掛かるだろう。
一気に蒼介へと混沌が襲いかかろうとしたときである。
風が舞い起こった。風の渦が舞い起こり、異形の混沌達が打ち砕かれていく。
五行の相生。風は火を煽っていく。それは混沌の本体を狙ったものではない。
それは、遥か宇宙の彼方に輝く星への道――

畝傍の呪文が終わる。三度目の詠唱。
そして、空から何かが現れる。空の裂け目が開いていく。それは「門」だ。
鳴鳴が呼び出したものではないそれが、今こそ開いていく。
『それ』は生ける炎、遥かフォーマルハウトより来たるもの。北落師門より来たるもの。
『それ』はまさしく炎であった。あまりの高熱により、空が焦げたかのように橙色に染まっていく。

「――来たか」

太陽のような火球。しかしそれは不定形であり、自在に色彩を変えていく。
かつて一度この地上に現れ、混沌の住処を焼いた神性。
混沌の天敵。大いなるもの。全てを焼き尽くすもの。
それがついぞ、この空に現れたのだ。

「――来たか! クトゥゥゥゥゥグアアアアア!!!」

混沌へと迫る『炎』を見上げ、混沌は叫ぶ。
ついぞこの時が来た。再び彼の神性と相見えたのだ。
本体だけではなく、いくつもの炎が混沌へと迫る。

「アハ、アハハア、アハハハハ!!! さあ、行くぞ! 僕を焼いてみろ!!」

混沌は一気に空へと飛びだった。
何度も姿を変えながら、神々の使者が飛翔する。
生ける炎目がけて、おぞましい叫びと、おぞましい何かが迫る。
神の戦いが始まったのだ。
近づくだけで、混沌の一部が燃え盛っていく。
それでもなお、混沌は生ける炎――クトゥグアに迫る。
そしてその炎の化身でさえも取り込もうと混沌を広げていく。

「ああああアアアああああアアアアあああああ!!!!」

燃える。燃えていく。
いくつもの化身が。いくつもの異形が。
炎に飲まれて燃え盛り、消え去っていく。
かつて混沌の住処を焼いた大いなる神が、混沌を焼いていく!

サヤ > 混沌を使役するということは混沌と接続しているということだ。
『生きる炎』が這い寄る混沌を燃やすと、サヤの右腕も炎に包まれた。
「う、うぅ……」叫ぶこともできず、小さなうめき声をあげる。それでも右手を必死にのばし、かの混沌の動きを、阻害する。ここで負ければ、全てが無駄になる。右腕ぐらい、くれてやる!

風間蒼介 > …………っぐ…
(混沌が炎に飲み込まれるのを見届け
 風の回廊を維持していた右手から力が抜け、一瞬遅れズタズタに切り裂かれた右袖が舞い散り、無数の裂傷を得た右腕から鮮血が飛び散る

 煉気化神…人体のエネルギーたる気、精、神のうち最も根源的であり随意にならない神へとアクセスを果たし結び付ける風間神伝流の奥義の入り口
 確固たる意思により己の力に一つの像を結び強い方向性を得る段階
 それは本来長い修行の後に行き着く境地であり十代半ばの少年が手を出せる領域ではない
 この異常事態とも呼べる戦場に引き出された結果至った力ではあるが、器の方それに追随し切れなかった
 経絡はズタズタに乱され、血管はあちこちで破裂している)

あと…少しだけ…
(散っていく回廊の残滓を手繰り、サヤと畝傍へと纏わせる
 少しでも炎の神性の影響を和らげようと
 それは吹けば散るような弱々しい風だったが)

畝傍 > 畝傍はその場に倒れ伏し、瞼も閉じられている。だが、まだ命はある。
炎と化していた体は呼び出された『炎』の影響にも耐えることができていたが、
力を使い果たし倒れてしまったことで、肉体の炎化は再び、徐々に解除されていく。手首と足首の炎が弱まり、髪の色は元に戻っていく。
しかし、『炎』はまだこの場にいる。このまま完全に炎化が解除されてしまうと、いかに畝傍といえど危険だ。
そこに、蒼介が起こした風が吹いてくる。風は畝傍の体を守るように包み込んでいた。

鳴鳴 > 燃えながら混沌は火球を飲み込まんとしていく。
いくつもの化身が燃え盛りながら、皆、嗤いながら消えていくのだ。
千の異形。この多くの化身ですら、そのわずかでしかない。
混沌の表象。原初のもの。それらが大いなる神の炎に焼かれていく。
確実に、確実に。

「ああ、アア、アアアアアア!!」
サヤの動きにより混沌に僅かな隙が出来る。
その瞬間、一気に混沌は燃え上がっていく。
一気に混沌の全てが燃えたち、名状しがたい色彩や臭いとともに消えていく。

いくつもの混沌の化身が消えていき――やがてそれは、一人の童女の姿になっていく。
鳴鳴だ。

「かは、あは、あははは……!!」

鳴鳴は笑っていた。心底楽しそうな表情だ。
混沌に身を変えながらも、鳴鳴としての「個」となった童女が嗤っていた。

「ああ、嗚呼。こうなってしまったか。アハ、アハ、アハハハ!!
 僕の、負けか! ああ、素晴らしい、とても、素晴らしい。
 これもまた、享楽の一つ、僕は全て、を、楽しむ、ままに……」

左の眼窩から炎が溢れ出す。右手もはじけ、そこから炎が吹きだしていく。
鳴鳴はわずかに顔を向ける。サヤを見ていた。

「あははは、あは、あはははは!!! そうだ、全てに価値はない、この僕にさえも!
 大いなる「道」の前では、君達も僕も、同じなのさ! これこそ、まさに僕のいう万物斉同だ!!」
嗤う、とてもとても楽しそうに。これもまた結末の一つ、享楽の一つだというように。
期待通りだった。サヤは混沌に打ち勝ち、その友はついにクトゥグアさえも呼び出した。
本来自分が導くはずだった悲劇は起きず、鳴鳴は焼かれている。
これこそ、鳴鳴の最も望むもの。自分が否定されること。自分の予想が覆されることだった。

しかし。

「……あア、サヤ、石、蒜……君達のことは、ああ、好きだった。
 とても愛していた、よ……結局君達には理解できないだろうし、理解できないだろうけど。
 僕は君と会えて本当に面白かったよ。僕にとって、君を弄ぶことも、愛することも、皆同じ、だった。
 だけど、残念、だな……残念だ。
 君と、一緒に、この炎の中に、いれなかった、こと、が……。
 さよなら、君/僕……生と死は同じだ。いずれ、また会おう。
 ありがとう、大好きだ。僕の玩具にして、可愛い可愛いサヤ/石蒜。
 僕の享楽は、ついにここに、成就した――!
 これが僕の結末というわけだ……グランドマスター!」

「アハ、アハ、アハハハハハハ!!!!」

「ありがとう! やはり人間は、大好きだ!」

――少女への呼びかけの後、狂気の嗤い声が響いて。

童女の姿の混沌は、狂った笑いと共に、炎の中に飲まれ、消えて行った。
鳴鳴が呼び出した「門」も同時にこの空間から消えていく。

風間蒼介 > 道は巡る、環は廻る……万物は流転し姿かたちを変えながらあり続ける
そういうものでござろう?おぬしの掲げる道の思想は
ならばまたいずれ、今度は違う形で…この道が交わらん事を願うでござるよ
鳴鳴殿
(閉じる門へと言葉を投げかけ
 終わったという実感に浸りながら空を見上げ
 ほ…と、溜めていた息を吐いた)

畝傍 > 童女の姿をとっていた『混沌』が『炎』の中へと飲まれ、門が消えた後。
『混沌』を焼いた『炎』とその眷属たちもまた、召喚に応じて現れ出たときと同じようにゆっくりと上空へ昇り、畝傍が開いた門の向こうへと消えてゆく。
だが、その様子を畝傍が自らの目で見ることはなかった。
『炎』が完全に門の向こうへと消えると、門はひとりでに閉じてゆき、空の色も次第に戻っていった。

サヤ > 燃えていく、かつて私を助けたものが、弄び、歪めた存在が。
それでもあれは鳴鳴は笑っている。
石蒜の陰で、私もずっと見てきたからわかる。死ですら鳴鳴にとっては享楽なのだ。

私と石蒜は確かに愛されていた、普通とは違った形だったし、理不尽な責めを受けるときもあったが、それも鳴鳴なりの表現だったのかもしれない。
そして、私はあの時鳴鳴に出会わなければ死んでいたのだ。恨みもするが、同時に……。
「さようなら、鳴鳴……。あなたの願望が満たされて、何よりです。」傷の痛みに耐えながら、なんとかそれだけ言えた。
様々な思いが混じった、混沌とした感情が浮かび上がる。
本当に最後まで弄ばれたような気分だ。あの人らしい。

「はぁ……。」終わった。左腕の傷口から流れるのは赤い血だけ。もう私の中に混沌は残っていないようだ。右腕の炎も止まった。

風間蒼介 > ところで拙者の術って魔力と生命力のハイブリッドにござってな?
ゆえに意思どおり柔軟に運用出来るんでござるが…消耗しきった場合、意識支えるラインが二本同時に遮断されるようなものでござってな?
(ずり…と体を引きずり、戦いの余波で真っ二つに割れた巨岩の間に体を割り込ませ、保護色の迷彩を施されたシートでカモフラージュをはじめ…)

端的に言って限界にござる…
(どしゃりと地面にへばりついて、ゆっくりと深く浅い呼吸へと変わっていく)

ご案内:「転移荒野」から風間蒼介さんが去りました。<補足:忍者/赤いスカーフ/忍び装束 【待ち合わせ】>
畝傍 > 「…………ん」
やがて、畝傍は意識を取り戻し、瞼を開く。
周囲を見渡すと、すでに混沌と炎の姿は消え、空の色も元に戻っていた。
「……おわった、の……?」

サヤ > 「う、うぅ……うぐっ。」助けを、呼ばないといけない、このまま全員気絶したら、死ぬ。なんとか体を転がして、仰向けになる。それだけで全身が裂けるように傷んだ。

「はぁー……はぁー……。」右腕は駄目だ、動かない。左腕は……動く。
のろのろと、左腕を懐に入れる。けいたいたんまつを、取り出す。
緊急時に押すように、買うときに説明された。赤に白い十字のボタン。救難信号とアイコンには書かれていたが、サヤは読めなかった。それを押すと、どこかに通信しているらしい。
もう動けない、どうか助けが来ますようにと、祈る。

サヤ > 「終わり……多分、終わりました……。勝ち、ですよ……私達の、勝ちだ……。」傷の痛みと、疲労にあえぎながら、何とか伝える。そうだ、私達は勝ったんだ。
畝傍 > 「そっか……ボクたち……」
勝ったんだ――。そう、実感した。
しかし、畝傍には勝利の余韻に浸っている暇はない。
「…………サヤ!だいじょうぶ……!?」
仰向けになり動けずにいるサヤのもとに駆け寄り、声をかける。
そして彼女の右腕と、左手に握られた携帯端末を見て、畝傍は起こった状況を察した。
じきに保健課の生徒が駆け付けるだろうか。せめて、それまでは自分がサヤに付き添っていなければならないと思った。

サヤ > 「そう……サヤです、私は……サヤ。」そう自信をもって言えるのはどれくらいぶりだろう。もう随分長いこと、意識の深層に眠っていたように感じる。

「ようやく、挨拶出来ましたね……畝傍さん…。私は、サヤです……。どうぞ、よろしく……。」ずっとずっと待っていた、この時を。一度は諦めもしたが、今こうやって、助けてくれた。
自分にそんな相手がいることに、涙が溢れて止まらない。
「ありがとう……ありがとう……。本当に……。」

畝傍 > 「うん。よろしくね……サヤ」
そう言って、微笑んだ後。
「ううん……ボクは……あのヒトのことばでいうなら……ボクのしたいことを、しただけだから」
畝傍が倒れている間に『炎』に焼かれ、消えていった『混沌』の黒い童女。
彼女がかつて畝傍に言い放った言葉を思い出しながら述べた後。
畝傍は収納ポータルを開き、そこに仕舞い込んで守っていた、鞘に収められた刀――石蒜を、再び取り出し。
「……そういえば、これ……シーシュアン、なんだけど……どうすれば、いいのかな」
問いかける。

サヤ > 「ぐすっ……では、私も……感謝したいから、そうすることに……します。」石蒜が何度跳ね除けても、決して諦めずに手を差し伸べてくれた。彼女たちにはどれほど感謝してもしたりないだろう。

「石蒜は……私が、持っていますよ……。」受け取るために手をのばそうとして、動かせなかった。
「ああ……胸の上にでも置いておいてください、裁きを受けるときに、重要な証拠に……なりますからね。」いくら鳴鳴に歪められたとはいえ、サヤと石蒜は罪を犯した、それは変わらない。今石蒜を殺せば実行犯の証言が取れなくなる。それでは公平な裁きではない。不当に罪を軽くしようとするつもりはなかった。

畝傍 > 「わかった……じゃあ、かえすよ」
石蒜の魂が込められた刀をサヤの胸の上にそっと置くと、彼女の側に座り込み、救助が訪れるのを待つ。
やがて、転移荒野に複数の救急車が駆けつけてくると、畝傍は立ち上がり、手を振って知らせる。

サヤ > 「石蒜、終わり……ましたよ。私は……穏やかな気分です、もう……苦しまなくていい……。」静かに、胸の上に置かれた自らの片割れに声をかける。
石蒜が助けを拒んだ理由を知っている、私のためだ。私が罪に怯えているのを知って、石蒜は一人苦しんでいた。
恨みが無いわけではない、取り返しのつかないことをされたし、罪のほとんどは彼女が実行した。いくら歪んでしまっても自分の分身のようなものだ、殺したくはなかった。


到着した救急隊員の手で担架に乗せられる。
「畝傍さん、風間さん、ありがとう……本当に感謝しています。本当に……。」言い終わると、安心感したせいか、意識が遠くなっていくのがわかる。
とても着かれた、少し眠ろう。大丈夫、目が覚めても私は私だ。
安らかな顔で、サヤは意識を手放した。

ご案内:「転移荒野」から鳴鳴さんが去りました。<補足:道服の童女、悪い仙人/元ロストサイン>
畝傍 > 担架に乗せられ、搬送されていくサヤを、そっと見送る。
畝傍と石蒜。狂った二人の出会いから始まった、畝傍にとっての一つの戦いは、今ここに幕を閉じた。
これから畝傍は、再び日常へと回帰してゆくのだろう。だが同時に、自らの異能を行使する対価として『正気』を支払ったことにより陥るであろう狂気とも闘い続けねばならない。
日常にひとまずの平穏が戻ろうとも、彼女の精神に安寧が訪れることはないのだ――

ご案内:「転移荒野」からサヤさんが去りました。<補足:黒髪に漆黒の巫女装束の少女、肌は褐色。【乱入不可】>
ご案内:「転移荒野」から畝傍さんが去りました。<補足:短いブロンドの髪と赤い瞳、オレンジ色のボディスーツ姿。決戦用フル装備>