2015/07/13 - 15:26~16:47 のログ
ご案内:「イカFree」にクラーケンさんが現れました。<補足:30m軟体動物>
クラーケン > イカ。

そのイカと言って良いかも分からない巨大な怪物。

イライラしている。
まるで、ジェット機の様な速さで水中を泳ぐ。

ああ、肉の匂いがする。
魔力をふんだんに含む、ウマイウマイ肉の匂い。

それも、一つ二つではない。

砂浜を蠢くソレも肉。
海を騒いで泳ぐソレも肉。

楽しい声が響いて回る、楽しい楽しい夏の海。

海を泳ぐものを弾き飛ばして、イカが砂浜に飛び乗り上がった。

イカが来た途端、その海は叫び声に包まれる。
或いは恐怖の叫び声。或いは、馬鹿な男気溢れる奴が
『こいよデカブツ。』
なんて叫ぶのも然り。
異能か、魔術か。どちらかに自信があるのだろうが、この体格差だ。
勝負にならない。1VS1の戦いではなく、食う者と、食い物だ。

我先にと姿を現したことを後悔せよ。

イカはイライラしている。
最早美食に拘ったりはせぬ。遠慮なく足を振るって捕食する。
それだけだ。この馬鹿は何を思ったのか?結局抵抗するもなくイカの餌になる。

ただ、食する時間だけは稼げて、他の者の避難に猶予を与えたのは、素晴らしい事だろう。
もっとも、このイカはそれを賞賛しないが。

チッ、ハズレの肉かよ。
魔力入ってないじゃないか。
それにちょいと筋が多い。あんまり美味くない。

イカはもっと不機嫌になった。
ぎょろりとあたりを見回す。3時のおやつの時間には丁度いい。

ご案内:「イカFree」に神宮司ちはやさんが現れました。<補足:巫女舞の少年。猫耳半袖パーカーにサーフパンツ姿>
クラーケン > 大分と逃げられてしまったが、まぁまだいる。

少なくとも、この砂浜でえっちらおっちら歩いている奴は全部肉だ。


余裕の笑みと銃を向けてくる者。

勇ましい表情で剣を差し向けこちらに立ち向かわんとする者。

目を閉じて魔法の詠唱を始める者。

異能によって尖った何かを撃ち飛ばしてくる者。


全部肉だ。

尖った何かだけは、多少効力もあったが、あくまでも多少。
刺される攻撃には弱く、5本目の足が弱ったが気にするところではない。

しゅるり。

ずるり。

4本の足は4人に向かう。

他愛もない。ガリバーと小人の大小関係よりも酷い。

これはただのイカではなく、怪異であり、バケモノであり、魔物であり、獣なのだから。

食うことばかりを考える獣に、皮肉も余裕も通じるものか。

さて、こいつは魔術を行使しようとしていたな。
こいつはご馳走だ。最後にとっておこう。

尖った何かを飛ばして来たヤツ、こいつは憎いな。
じゃあコイツから食うか。

神宮司ちはや > (そうそれは式典委員としてスイカ割り用のスイカと会場準備をしていた時だ。
 通りすがりの海水浴場が突如として悲鳴と怒号に溢れかえる。
 海の方を見ると人々が海面を指さして口々に叫ぶ。

 『イカだ!イカが襲ってきた!!!』)

ええええ?!なんでイカ!?

(見れば巨大な触腕がうねうねとうねり、それを倒そうと何人かの人間が立ち向かっている。
 逃げ惑う人々とは逆に居てもたってもいられずとりあえず海面に向かって駆けつける。
 とはいえ自分にできることはあまりに少ない。
 砂浜で動けない人々を助け起こすと、とりあえず安全な所へ誘導する。)

大丈夫ですか?!しっかりしてください!

クラーケン > 式典委員が用意した、スイカ、会場。
それらはイカにとってただの障害物でしかない。

まぁ、日除けのテントの支柱になっている鉄パイプも餌と言えば餌だ。
鉄は硬いからあまり好きではないのだが。

スイカ、あまり植物は好みではない。大凡このイカにとっては人間の遊び道具のボールと何ら変わりはない。
故にそれらに興味を示すこともない。

人々がわぁわぁと騒ぎ立てる。
誰かが避難を指示し始めたのか、海水浴場の客は減る一方だ。

ああ、こんなところにきてまで私の食事を邪魔するのか!
お前は三時のおやつを邪魔されたらどんな気分だッ!

勝手に煽られ益々怒りの色が差す。

だが、御苦労なことに、こうやって避難を指示されても格好つけて残って戦おうとするバカはいる。
本当に御苦労な事だ。

あ、さっきご馳走にとっておこうと思った人間《ニク》が逃げやがった。

イカは益々イライラする。よりにもよって…!

ぎょろぎょろとご馳走の代わりになる者がいないか、魔力を持つ人間《ニク》がいないか。
先の異能使いを鞭のように撓るその足で軽く一蹴した後、
水晶玉の様な単眼が辺りを舐める様にこの海水浴場を見まわした。

神宮司ちはや > ああー!折角用意したスイカがー!!

(スイカは軽く跳ね飛ばされるすぽぽぽーん。ぐしゃっ!
 赤い果肉が血肉かと勘違いした女性客がまた悲鳴を上げる。

 ぎょろぎょろと目をむいて見回すイカは果たして見つかるだろうか。
 なんか小さいけど魔力量だったらたぶん今この場で一番の人間がそこで他の人間を助けている所を。

 そんなことには気づかずとりあえず、避難を支持し続ける。)

み、みなさーん!慌てず騒がず落ち着いて行動してくださーい!
えーとえーとそこの人!風紀と警察に連絡お願いします!

(一応あわあわしながら精一杯声を出している。
 その間にも無力なモブ異能者達はイカの餌食となっているだろう!哀れ!)

ご案内:「イカFree」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。<補足:上下ジャージ スケッチブックを抱えている>
クラーケン > ぎょろり。

水晶のように煌めく瞳はそれを捉えた。
避難勧告などをしているが故に人一倍目立つのだろう。

見つけた。正にその少年を。
ただ、イカはそれを少年と認識することは無い。
如何に彼が美少年を思わせる風貌であったとしてそれはただの人間《ニク》だから。

しかし…最高じゃないか。
きっと、あれはウマイに違いない。それに、あれを食ってやったら場も乱せるか。
それに小柄だ。多分弱い。

そんな、愚かで短絡的な思考を完結させたイカは、美味しくモブ異能者を頂いた。
掴んで、握って、持ち上げて。ぱくりと一飲みだ。
ウマイ!だが足りない。何が足りないって?魔力《しょうゆ》だよ、魔力《しょうゆ》。…少し無理があるか。兎も角。

「ギュオオオオオーーーン!!!」

地面を割らんばかりの低音波による咆哮を上げれば、見つけた人間―――神宮司ちはやへと目を向けた。
間もなく、ひょいと太いその足が彼へと掬い取る様にして振るわれるだろう。

ま、こいつは今日のメインディッシュだ。片手間で拘束しといて最後に食うか。
そんな思考を馳せて。

日恵野ビアトリクス > 「暑い…………」
うだるような炎天下の中、ビアトリクスはスケッチ場所の探索を兼ねて
海岸沿いをウォーキングしていた。
人の来ない入江があったから、そこで休憩しつつ絵でも描こうかなと考えながら
浜辺を通りかかったらとんでもない騒ぎになっていた。
イカである。
「うわっ……」
遠巻きに観察。
すぐに風紀か公安が駆けつけてくるだろうし、
一般市民である自分の出る幕ではないだろう。
さっさとその場を去ったほうがよさそうだ――
と思ったら、明らかにイカの射程範囲内で、見覚えのある少年が避難指示をしていた。

「ばかッ! 何やってるんだ逃げろ!」

そう叫ぶのと、イカ足がちはやをターゲットするのはほとんど同時だろうか。

神宮司ちはや > みなさーん早く逃げてー!
はやくー……ってうわああああ!こっちに来たー!

(イカの咆哮に怯み、耳を塞いだ時には遅すぎた。
 一生懸命砂浜をけっても悲しいかなこのちはやの身体能力はお察しなのである。
 砂に足をとられて盛大にすっ転んだ所をイカの太い足が絡みつき救い上げる。
 ちはやの一本釣りだった!逆さに吊られ、情けない悲鳴をあげる。)

わあーー!やめてよー!ぼく美味しくないよー!

(いや、多分美味しい。魔力《醤油》的に。)

クラーケン > 誰かが、彼に向けて叫んだ。
だが、イカはそんなの知ったことではない。何故ならこのイカは言葉が理解できない低俗な脳ミソだから。
しかし。あれも一応魔力を持ってるのか?まぁメインディッシュはこっちだが。

ぶおん、と、豪快に振るった太い足は何とそのまま彼を捉えるのだった。
耳を防いでしまったのが命取りだったか。「逃げろ」の声も聞けずに捉えられるとは。
魔力を持っている割にこうも簡単に捕まえられるとは…拍子抜けだ。
うむ。触れて更に分かる。こいつはウマイ。ウマイに違いない。
"美味しくない"なんて言葉、イカは理解できない。理解できたとしてこのイカは食おうとするのを止めないだろうが。
魔力《しょうゆ》がかかっているのだから尚よし。
刺身にして食うも寿司にして食うも良いが残念ながらイカは料理を知らない。
彼がそのイカの足に抵抗しないのであれば気絶させてやろうと
悲鳴を上げる彼にトドメを刺さんが如く、締め付けを始めるだろう。

メインディッシュは手に入れた。ああ、良い気分だ。
ただ一つ惜しむべきは小さいと言う事だ。これでは足りないかもしれない。
いや、というか足りる訳がない。30m軟体動物の名は伊達ではないのだから。

日恵野ビアトリクス > 「げっ……」
マズすぎる。いやちはやは美味しいかもしれない。そういう話ではない。
ビアトリクスは古式ゆかしいメイジだ。
入念に準備を重ねた上での術の威力は大したものだが、
正面からの遭遇戦での実力など大したことはない。
かと言ってこのまま尻尾を巻いて逃げるわけにもいかない。

「やるしかないか……?」
浜辺を見下ろす高台から駆け下り、砂浜へと立ち、
スケッチブックを広げて状況に合った魔術を探す。

図書館の資料で読んだことがある。
火は効かない。先ほどまで海中にいたなら
電気はよく通るだろうが――捕らわれているちはやが巻き添えになりかねない。
(どうする……?)
イカは倒せなくてもいい。ちはやを助けられれば。

「こっちを見ろ!」
近づいてきたこのスケッチブックを持つ少年、
ちはや以上の魔力を保有することがわかるかもしれない。
小手調べとばかりに、即席で練った魔力の槍をイカめがけて投げつける。
大した威力ではない。

ご案内:「イカFree」に嶋野陽子さんが現れました。<補足:ワンピースの下に、水着を着て浜辺に到着>
嶋野陽子 > 海開きの話を聞いて、やっと自分が着れる水着を入手して
浜辺に着いたが、何やら様子がおかしい。
(陽子、あれはクラーケン。海の魔物よ。しかも人を食べようとしている!)
と言われても、生憎と私程度の怪力では、あいつとは勝負にならない。どうしよう・・・

神宮司ちはや > (太い足に絡め取られ、逆さ吊りにされている際
 大いに周辺の光景を眺められた。やっとそこでビアトリクスの姿に気づく。
 自分に向かってなにか叫んでいるような気がしたが、風切り音でよく聞こえない。)

あ、トリクシーくん!危ないから来ちゃ駄目だよー!

(必死にイカの足から逃れようともがくが所詮超巨大イカの力には敵うわけがないのだ。
 体の至る所に絡みついた触腕がその細い体を締め上げればあっさり気を失うだろう。)

く、るしっ……きゅう……。

(メインディッシュはぐったりとしたまま気を失った。)

嶋野陽子 > 辺りを見回すと、クラーケンに向かって魔法の槍らしき
物を投げている男の子がいるのを見つける。
とりあえず彼のところに行ってみる。

クラーケン > "こっちを見ろ"という言葉。それは、勿論イカが理解できるわけはない。
人間《ニク》が叫んでいるのでしかないのだから。

だが、魔力が練られたことを感じる。
こいつも魔力を持っている。大きさは…おお、何とこっちのより少しくらいデカイか。
といっても20cmくらい、このデカブツには誤差の範疇だが。
何にしても、美味そうだ。

ぐちゅり。

魔力の槍が一本足に刺さり、止まる。
突きには弱い。だが、大した威力がないことが幸いしたのか、刺さりはしたが、貫きはしなかった。
そして、このデカブツに"痛み"を与えるのには不十分だった。
元々、タコやイカなどの軟体動物は、足に痛覚がないとされるのだから、足を幾ら痛めたところで怯むことなどないのかもしれないが。

ぎょろりと、しっかりと神宮司ちはやを握ったまま目はそちらへと向けられる。

「ギュオオオオオーーーン!!!(肉が暴れるんじゃねぇ!!!)」

お返しとばかりに豪快に足を振るう。何と、先程槍で刺されたその足を。
神宮司の時のような掬い取る様な優しい振りではない。
殴りつける。そんな勢いを以ってする一撃が向かった。方向は、薙ぎ払い…横向きだ。
狙い?そんなものあるものか。あるとしたら彼の"全身"だ。この太い足。相手は小人。わざわざ狙うまでもない。

ぐぐぐぐ…。
力を込めていれば、シビレ毒を使うまでもなくメインディッシュは気絶した。
いや、今となってはメインディッシュはあちらだが。
まぁいい。気分が良い。とんとん拍子に上手くいく。
大方人間《ニク》共には逃げられたが、2つも魔力を持っている人間《ニク》を食えれば最高のおやつタイムだ。
さて、10の足の内一本は"元"メインディッシュを縛り付ける為に動かないが。
そんな事大した問題ではない。
30mと精々1.5~2mの戦い。それが例え1VS多数であっても、この数では足りない。
ざっと砂浜を見たとして残った人間《ニク》は20くらい。"たった"の20くらいだ。
今更足掻いた所でどうという事もあるまい。

嶋野陽子 > (クラーケンには電撃と銛が有効だけど、人間を
つかんでいるから電撃は無理ね、あ、危ない!)
クラーケンの脚が男の子に襲いかかる。
「真後ろに下がって!」飛ばされて来るだろう彼を受け止める体勢を取る。

日恵野ビアトリクス > 「効きはするみたいだが…………」
手応えは一応あった。しかしかえって怒らせてしまったらしい。
イカの脚が唸った。
「お……うおおッ! 《ヴァルナ》!」
叫ぶと、待機させていた風の精霊《ヴァルナ》の魔力が励起され――
ビアトリクスの華奢な躰が見えない手に掴まれたように浮かび上がり、横薙ぎの一撃をスレスレで避ける。
攻撃の風圧がビアトリクスを煽り、ばたばたとジャージの裾が揺れる。

「あぶな……」
ふわ、と浮かんだまま冷や汗を垂らす。
あんなものをまともに食らったら骨まで砕けていたかもしれない。

かなりヤバい状況だが、魔術師はいつでもクールでいなければならない。
《ヴァルナ》は用途が多く便利なのだが、
アイドリング状態にさせておくだけで魔力を消耗してしまうのが厳しい。
あまり長くは使えないだろう。
次の攻撃が来るまでに何か対策を考えなければ――
そこでようやく新たな人影が近くにいることに気づく。

「大したガタイだな……
 アレをどうにかするのを手伝ってくれるのか?」

と、陽子に向けて。

嶋野陽子 > 魔法の力でクラーケンの脚をかわした少年が、私の方を
見ると、『大したガタイだな……アレをどうにかするのを
手伝ってくれるのか?』と聞いてくる。
今の私に出来るのは、文字通り槍を投げること位だ。

「あなたがさっき投げた槍は、私でも投げられるの?
または、私が投げられる銛とか槍を用意できたりする?
私なら、ここからヤツの眼を狙えるわ。それで撃退で
きるかは、保証出来ないけれど。」
駆けつける間に覚えたクラーケンの弱点を口にする。

神宮司ちはや > (ちはやは振り回されているにも関わらずまだ気がつかない。
 メインディッシュからデザートに格下げである。
 とりあえず一回休みである。ぷらんぷらん両手足が揺れている。)

クラーケン > ドゴォン―――ッッッ!!!

浮かび上がり、すれ違う様にして流麗に回避される。
感じたのは…そう、風の魔力か。益々うまそうだ。欲を言えば水の魔力が欲しいが我儘はいけない。

空を切るイカの足は式典委員が用意した物品をぶち壊す。
それだけでは飽き足らず岩盤を叩き、日々を入れたところでようやっと止まった。

これだけの力を見せつけて尚、クールであろうとするビアトリクス。
しかしイカは賞賛することもなく。恐れることもなく。逆上することもない。
智慧に乏しいが故に。

そして、彼が大きな魔力を消耗しているのには気付く。
しかしそれは彼が"それだけ魔力を持っている"ことの裏返しだ。
食欲がそそられる。美味そうだ。いや、美味いだろう。美味いに違いない。
だが、やはり美味いものを簡単に食うのは難しいのだ。

ずるり、と迫る。何か二人になっているが気にしない。あくまでも狙いはその槍を投げた人物。

サイズの違いを見せつけてやろう。

「ギュオオオオオーーーン!!!」

割れんばかりの咆哮が走る。
二本の足が交差した。そこから形成されていく紫色の魔方陣。
それは毒や呪縛の魔方陣。明らかに妖しい色合いと模様。
その中でも、動きを鈍らせる系統の所謂痺れる魔術を行使しているのだと、気付けるかもしれない。


プロは怠らない。
とりあえず、メインディッシュから格下げはしたもののデザートを取られては気分が悪いのだ。
もう一本の足で、抵抗も妨害もされないならこちらは直接痺れ毒を注入しておこうか。
魔術に二本、彼を縛るので一本。それから痺れ毒の注入に一本。
あと忘れていたがさっき振りかざした足も戦線復帰に時間がかかるか?
今、イカが自由に動かせる足は5本。だがそれでも尚、イカは余裕をこいている。

それは、自信か慢心か。それとも、ただバカなのか。

日恵野ビアトリクス > 「眼か……」
頷く。あのわかりやすい水晶体、突ければひとたまりもあるまい。
ちはやを掴む足でもいいのだが、うかつに狙えば巻き添えになる可能性がある。

陽子の提案に、首を振る。
「いや……生憎とさっきのは魔術の素養がないと投げられないな。
 狙うのはぼくでもできる。
 ただ、あいつの攻撃をかわしつづけるのは無理だ。
 ぼくが攻めるから、あんたはあいつの攻撃を食い止めて……」

作戦会議している間にも、魔力の反応。
イカが小癪にも魔術を使ってきたらしい。
「器用だな、おい!」
スマートフォンを取り出し、そこに刻まれた防御魔術を拡大、行使する。
「《我等に》《護りの》《帳》――」
慣れない真言葉の詠唱。描画魔術はこの手の地味な防御は不得手だ。
不可視の薄いベールが周囲を包む。これで少しは抵抗できるはずだが――

嶋野陽子 > 「攻撃を食い止める?それは、盾になれということ?」
魔術の素養ゼロの私には投げられないか。
(ステラ、私があの脚を止められるようにできる?)
先ほどの攻撃の威力を見る限り、1本だけなら何とか止
められるが、止めなければいけないのは6本だ。

そうか!自分の肉体を改造すれば良いのだ!
(そうね、あと1分あれば、両手に発電器官を
つけられるわ)

申し訳ないが、彼には1分間の時間稼ぎをお願い
なければ・・・

「私に食い止めて欲しいならば、1分間時間稼ぎをお願いできる
かしら?今のままでは脚を1本しか食い止められないわ。
1分貰えれば、アイツに私を殴った事を後悔させてやれる。」
そう言っている間も、体内ナノマシンが私の両手に発電器官
を構築し始める。

クラーケン > 紫色の魔方陣から、毒素と思しき魔力的な紫色の物質が漏れ出した。

勿論だが、この毒がイカを痺れさせることは無い。
この毒素は、このイカの足の先端に乗っている毒物と性質がとても似通っている。

描画魔術、と呼ばれる魔術が展開されて、毒素を弾く。

「ギュグァアアア…?(おっと、これでは足りないか?)」

毒を阻む、それは不可視のベール。
きっと誰も目で見ることは出来ないのだろう。

しかしイカは魔力を見ることが出来る。野生の勘とも言うし、第六感的な何かでもある。
食うことだけを考えている人間が、鼻が利くようになったのと似ている。

成程足りないか。信じがたいが魔力で力負けしているのかもしれない。
いや、それでこそご馳走だ。それだけ魔力を持っていると証明するのだ。
イカにとっては、焼肉が良い匂いを匂わせているようにも感じる。

だが、このまま抵抗されてしまえばこっちだって適ったもんじゃない。
更に魔方陣を拡張してやろう。

三本目の足が付け足すように真ん中に添えられた。
増える魔力量と、溢れる毒物。

加えて、イカの足が自由が効くのは4本と―――

なった、様に思わせて。

先程振るった足を勢い任せにこちらに切り返した。

今度こそ殴りつけて―――いや、叶うなら絡め取ってやろうと。

魔法と物理の二重攻撃。正直、三本の足でもこの毒を無効に通せるかは、多分誰も分からない。
魔法に気を取られてしまうことが狙いなのだろう。

この叡智の無いイカにしてはよく考えている。

神宮司ちはや > う、うーん……

(なんだか禍々しい何かを感じる……。
 さすがにこれだけ傍で何かされれば否が応でも目が覚めたようだ。
 ぼんやりと目をあけると、遠くの浜辺に人が二人、イカと戦っている。
 片方はビアトリクス、片方は……逞しい肉体を持つ知らない人だ。

 そこで改めて自分の状況を思い出した。イカによって宙に釣り上げられている!
 しかもなんかもう一本、怪しい触腕がこっちに迫って来ている!ぬらぬらした表面から何か良くない汁が垂れている。


わ、わああー!ちょっと!離してよ!
やだぁ……!そんな太いの(痺れ毒の触手)……入らないよぉ!
(トリクシーくんに)ら、乱暴しないでー!

(とりあえず自分に絡みついている触手にぽかぽか叩いたり足をばたつかせたりありったけの邪魔をしてみる。
 気は逸らせないだろうか……)

クラーケン > ごめんねちはやくん…。こんなイカで本当にごめんなさい。
そう謝りたいがこれはイカだ。アホのイカだ。
言葉も理解できないカスのイカだ。
残念ながら彼の言葉は虚しく(物理的な意味で)彼に乱暴する。そして(物理的な意味で)彼を食べる。
(味覚的な意味で)ちはやくん美味しいと(物理的に)彼を貪り尽くす心算だ。
彼の可愛らしいそんな言葉にたじろぐ事も、精神を乱されることもない。
ごめんなさい。

ぬめぬめとした濡れてふにゃふにゃな感触が彼の手に伝わるだろう。
或いはぐにゃぐにゃと不定形が蠢く足の感触もまた然り。

しかしここで一つ残念なとこだが、
先述したとおりこのイカは槍が刺ささっても痛みを感じるそぶりさえ見せないのだから、
彼が殴る蹴るをしたところで気にも留めない。
どんどんとにじり寄るイカの足。
まるで、戦闘の序でとばかりに、不穏の影は、間もなくして彼の背にでも刺さり、痺れる毒を注入するだろうか―――?

日恵野ビアトリクス > 「なんだよあんたも時間稼ぎが必要なタイプか……」
ビアトリクスもまた時間をかければかけるほど強さを発揮するタイプである。
あまり相性のいい即席パーティではないらしい。
(そう都合よくことは運ばないか……)
「時間稼ぎ、時間稼ぎ……ね」
次の策を考えている間にも、さらにイカの魔法陣が強化されていく。
なるほど使う足の数で強くなるのか。
舌打ち。毒で鈍らされてはイカ足を回避する道理がない。

「低知能生物ごときが人間の魔術師にかなうと思うなよ……」
《帳》に注ぐ魔力を強める――しかしそれはイカの目論見通り。
毒の魔法に気を取られたビアトリクスはイカ足の切り返しに反応が遅れる。
「がっ!」
命中。跳ね飛ばされて砂浜を転がる。
「ぐぅ……」
よろめきながら、立ち上がる。絡め取られも、骨を砕かれもしなかったのは
避けられないととっさに判断して、《ヴァルナ》によって空気の盾を作らせたからだ。
しかしあまりよくないダメージを受けたことは確かである。
殴られた衝撃で頭がふらつく。

「眼と魔力でモノを見ているなら……!」
おぼつかない動きで《ヴァルナ》に指示を送る。
すると旋風が巻き起こる。外傷を与えるほどのものではないささやかなものだが、
砂浜の砂を巻き上げて、互いの視界を奪う!
さらに風に《ヴァルナ》の魔力を乗せて、チャフのように認識を阻害する。

「……こんなもんでいいか?」
“時間稼ぎ”は。

嶋野陽子 > 発電器官の構成は、体内エネルギーを猛烈に消費
するため、クラーケンの脚が男の子に襲いかかるの
が視野に入っても、声すら上げられなかった。

しかし、弾き飛ばされた男の子がふらつきながらも
立ち上がると、砂嵐を巻き起こし、辺りの視界が無
くなる。しかし、クラーケンに捕まっている男の子
らしき反応を拾ったので、敵のいる方向は判る。

ようやく発電器官が完成した。手始めに、手近で音を
立てている脚に、デンキウナギの20倍の、14キロ
ボルトの電撃をお見舞いする。
電撃を喰らった脚が、ぐたりと脱力する。そこで次の脚を探す。砂嵐が弱まってきたので、毒を持つ脚が視界に入る。触れた側からナノマシンが無害化してくれるので、麻痺毒なんか怖くない。

神宮司ちはや > ひ、ひぃいい気持ち悪いよぅぬめぬめするよぉ……!

(肌を這いまわる触手のおぞましさに身震いする。
 正直言ってきっと今後スーパーの鮮魚売り場でイカを目にしたらひっくり返る自信がある。
 お寿司屋さんですらいかのおすしを頼みたくなくなるだろう。

 とにかく殴る蹴るではこのイカをひるませることすら敵わないとわかるが、何かせねばビアトリクス達が危ない。
 そうこうしているうちにビアトリクスの体がイカの足に跳ね飛ばされてしまった。
 ああ!っと悲鳴を上げると大声で叫ぶ。)

トリクシーくん!逃げてー!危ないよ!怪我しちゃうよー!

(ビアトリクスの方に気を取られた結果、イカのぶっといお注射(痺れ毒)はあっさり背から注入された。)

あ、う……。

(かくり、ちはや再びぐったりと伏せる。
 今度は意識はあるものの体の自由が全く麻痺して動かない。
 ごめんね、トリクシーくん、楓先輩……ぼく(痺れ毒で)汚されちゃった……。)

ご案内:「イカFree」にミウさんが現れました。<補足:白いワンピースを着ている。白い翼が生えている神。>
ミウ > ミウは、自らが創りだした海竜に乗って深海で遊んでいた。
その海竜は、東洋竜のような海蛇の姿をしている。
海面が何やら騒がしい。
海竜は創造神を乗せて、海面へと上がった。

「神の遊戯を邪魔するとは、とんだ恐れ知らずがいるものね」
そこはなんと、巨大イカの背後だった。
クラーケン?
ミウはきょとんと首を傾げる。
どうやら、今は戦闘の真っ最中のようだ。
ちなみに、海竜は巨大であり、クラーケンよりやや小さいサイズ程度はある。
「でかいイカね」
そう言って、微笑んでみせる。

この海竜、クラーケンよりかは強くない……。
つまり、海竜を直接クラーケンとぶつけても敗北するだろう。

クラーケン > 吹っ飛ばした。様だ。
確かな感触はないが。転がったのを見れば自明の理。

しかし、これで絡め取れなかったのは残念。また魔力か。
いい加減鬱陶しい。もう食わせろ。腹が減った。

このやり取りの内に、殆どの人が避難を終えた。

もういい食わせろ。
痺れを切らしたバケモノの水晶玉が、またと彼を睨むように光る。

だが。

ああ、目が。目が。
思わず行使していた魔術を放棄する。
毒色の魔方陣が潰えて、辺りに残るのは痺れる毒のみ。これ以上は増えない。

立つ砂埃。ついでに毒物も吹き飛ばされた。

メインディッシュはしぶとい。しぶとすぎる。
だが、こんな事をして何になる?

先程振るった足を追撃とばかりに振るう。
そこにいるのは分かっている、と。

しかし、虚しく空を切る。
何故だ。何故そこにいない。

魔術を放棄したので、使える足は3本増えた。

ドゴォン―――ッッッ!!!
ドゴォン―――ッッッッ!!!!
ドゴォン―――ッッッッ!!!!!

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たらず。
何故って?狙いが最悪だからだ。そもそも、これは下手な鉄砲等ではなく、狙っているところが根本的に違う。

狙えない。狙いが逸らされる。当たらない。
だが、砂だけは、礫だけは巻き上がる。

そして、放たれる電撃。
流れる弱点属性。プスプスと音を立てて、先程振るった足の一本が黒焦げになった。

イライラする。
もう結構。全部全部、叩き落としてやる。

「ギュオオオオオーーーン!!!ギュオオオオオーーーン!!!ギュオオオオオーーーン!!!」
ブチ切れた。辺りに傍迷惑な叫び声を漏らせば、そのまま海へと踵を返し始めた。

砂埃は舞うわ、攻撃が当たらないわ、足は焼かれるわ散々だ。

だが、砂埃が舞うという事は即ち、彼らの視界も閉ざされるという事だ。
今日はデザートだけにしておこうか。

くくく、この少年の純潔(純潔って何ですかイカさん。)は私が頂いた。
と、でも笑いたいのだが、やはりというか、残念ながらイカはイカであるが故に笑わない。
砂埃にかまけて海に帰り出すのだ。黒焦げた足を引き摺って。

日恵野ビアトリクス > ちはやの悲鳴が聞こえてくる。
戦闘の騒音と距離のために内容はわからなかったが悲痛な響きだ。
(無事でいてくれ……!)
取り乱したくなる気持ちを歯噛みしてこらえる。
イカの攻撃が続いているからだ。
しかし、闇雲な大振りなど当たりはしない。
ラッキーヒットは《ヴァルナ》による浮遊で最小限の労力で回避する。

こっちが攻撃魔術を組む時間も得られた。
開かれずにいたスケッチブックを広げる。
すると風に舞うように鮮やかな色で塗られた頁が広がり、
ビアトリクスの頭上に環を成し、グラデーションを作る。――色相環だ。

《フラーウゥス》《ウィリディタース》《カエルラ》
《カエルラ・パッレーンス》《プルプラ》《ルボル》……

マンセル呪式によって強化された二十四色。最低限だがこれで十分だ。

「逃すかあッ!」
《ヴァルナ》の最後の魔力。
風で砂埃が払われ、その一瞬だけ視界が明瞭となる。

《色葬環》。
サークルの中央に収束した、ビアトリクスの全魔力が甲高い音とともに打ち出される。
鋼鉄をやすやすと貫く乾坤一擲の魔力の槍が、後退りするクラーケンの眼へと吸い込まれていく!

ミウ > なんと、クラーケンは一人の少年を持って海へと引き返そうとしているではないか。
クラーケンが逃げるのともかく、少年を助けるべきだろう。
「逃げる前に、とりあえずその少年を離したらどうかしら?」

海竜がクラーケンに捲きつこうとする。
いくら30m級とは言え、海竜も巨体。
巻きつけて足止めする程度ならできる。

嶋野陽子 > 男の子は・・・あそこだ!
まだクラーケンにしっかりと捕まれている男の子を
見つけたので、男の子をつかんでいる脚の付け根に
向かうと先ほどの少年の物と思われる魔力の槍が見
事にクラーケンの目を貫き、耐えかねたクラーケンが
男の子を放す。
落ちてくる男の子をキャッチする。
後はこの子を安全な所まで運べば・・・
まずい、体力が・・・

クラーケン > 感じる魔力。
―――大きな何かが、来る。

二本の足で妨害する。だが足りない。

易々と突き破られる。

更に二本。

だが、足りない。ぶちゅりぶちゅりと、穴を開ける。

更に二本。

それでも足りない。

更に二本。

よし、これでもう少しでいけるだろうか。

更に二―――本?

しまった、片や焼かれ、片や彼を縛っている。これでは防げない!

「ギュオオオオオーーーン!!!(うわぁ!目がぁ!目がぁあああぁぁぁぁあぁぁあ!!!)」

メインディッシュと称した彼の槍は、目ん玉を突く。
ダメージはある程度抑えたがかなりのものだ。潰れてはいないが、それでも。

分かった分かった。コイツが目当てなんだろうが、
とぶっきらぼうに投げおろすようにその少年を振りおろす。

目に傷を入れた海の悪魔は通りすがりのような海竜を軽く突き飛ばして水の中へ沈んだ。

クラーケン >     「コレデ…勝ッタト…思…ウ…ナ……ヨ…。」
神宮司ちはや > (ぽいっ!イカに乱雑に放り出されたちはやの体はくるくるーっと宙を舞い、途中嶋野にキャッチされる。
 幸い痺れ毒だけだったから体の自由はきかないが致死性の毒ではないようだ。
 腕や口を動かすことはないもののぐったりとしながら呼吸はある。

 途中イカがなにか言ったように聞こえたがきっと波間の幻聴だったのだろう……。)

ミウ > クラーケンにより、ミウの足元にいる海竜が軽く突き飛ばされてしまう。
『ぐわあっ!』
海竜は、そう叫びながら海へと投げ出された。
海竜の頭の上に佇んでいたミウは、吹き飛ばされる直前、飛行して回避する。
「危ないわね……」
少年は助かったようだ。
去って行くイカを見送る。
ミウは、眼下の三人を見おろした。
陽子ちゃんに、スラム街で出会った芸術家、そして捕まっていた少年。

突き飛ばされた海竜はすぐに陸上に戻ってくる。
ダメージはほどほどに受けていた。
ミウは、再び海竜の頭に乗っかる。

嶋野陽子 > クラーケンが逃げ出したので、浜辺に男の子を
下ろすと、何とか麻痺毒の解毒剤を合成し、
アンプルを折って男の子の口に解毒剤を注ぎ込む。
もう、限界・・・
体内組織の組み替えに放電までやったのだ、恐らく
体重の3分の1は消費しただろう。
放心状態で見上げた空に、昨夜住宅街で見かけた
『神様』と呼ばれる人物の姿を認める。

日恵野ビアトリクス > 「仕留め切れなかったか……」
なおも動き続けるイカ。致命の一撃とはならなかったらしい。
もう少し《色葬環》に色を集められていれば殺しきれたかもしれないが……
この場でのビアトリクスの目的はクラーケンの撃滅ではない。
ちはやを手放したイカを、それ以上追撃する余力もなかった。
大きく脱力しかけて……

「ちはや! 無事か!」
ふらつきながら、ちはや――をキャッチした陽子の元に駆け寄る。
彼の無事を確認するまではまだ安心はできない。

神宮司ちはや > (嶋野に飲まされた解毒薬によって、しばらくすれば体の自由は取り戻せる。
 はぁっと大きく息を吐くと、ずっと締め付けられていた肺に大きく息を吸い込み咽る。)

……トリクシーくん……うん、大丈夫。
助けてくれてありがとう……トリクシーくんは平気?怪我していない?
それから、えーとお姉さん?もどうもありがとうございます……。

(浜辺に横たわりながらビアトリクスと嶋野へと礼をする。
 まだミウと海竜の存在には気づいていないらしい。)

ミウ > 「少年は大丈夫そうね、よかったわ」
神を乗せた海竜の頭が少年にまで接近する。
食おうとしているわけではない。

「いきなりクラーケンが現れるなんて、ここも危ない場所ね……」
海中で遊んでいたら再びクラーケンに出くわす可能性もあるだろうか?
「あなた達二人も怪我はない?」
陽子とビアトリクスを交互に見る。

嶋野陽子 > 『・・・ございました』
男の子の声で我に帰る。
もう一人の少年が男の子のもとに駆けつけている。
二人は友人同士らしい。
「な、何とか助けられたけど、全ては彼のお陰。私は
役に立てなかったわ」
休息している間にも、ナノマシンが両手を元通りにし
て、さらに疲労快復のために全力で働いている。

『あなた達二人に怪我はない?』とミウさんの声がする。
「わ、私は無傷ですが、彼はクラーケンの一撃を受けて
いるので、治療が必要かも」
ようやく口がきけるまで快復したので答える。

日恵野ビアトリクス > なんかイカとは別に海竜がいる気がする。
新手の敵というわけでもなさそうだしいい海竜なのだろうか。
あまりそういうことを気にしている余裕もなかった。
疲労で変なものが見えることもある。

ちはやの様子は思ったより大丈夫そうだった。
陽子の投与したらしい薬のおかげだろうか?
疲れきった様子で頭を下げて礼をする。口を開く体力すら今は惜しい。

「…………」

ちはやの声を聞いて、張り詰めていた緊張が解ける。

「ちはや……!
 よかった、無事で!
 よかった! 本当に……!」

横たわるちはやを起こし、強く抱きしめて、万感の想いを込めて言う。
周囲の声や様子など完全に意識に入っていなかった。

クラーケン > 水に潜ったクラーケン。
興奮状態のそれがする事と言えばただ一つ。
大魔術の行使。

ああ、気分は最悪だ。
特に、上げて落とされるこの気分。最悪だ。
肉を食おうと思ったら逆に余計な運動をしただけでなく腹が減っただけじゃなく、肉に足を焼かれた?

ふ ッ ざ け ん な ッ !

人間《ニク》如きが調子に乗りやがって。

不完全燃焼も良い所だ。

そうだ、食えないくらいならいっそ八つ当たりにちゃぶ台返ししてやる。
多少汚れても良い。肉が調子に乗った罰だ。

水の大魔術。
或いは、禁術クラスと呼ばれるかもしれないくらいの魔術。

《魍魎様の水遊び》

置き土産が如く、海の中の不機嫌なクラーケンは魔方陣を構築する。
もう目は見えない。だが、目が見えないのが何だ?全て巻き込めばいい。
魍魎―境界や水の妖怪、神とされる、要は同じバケモノ―の力の一端の行使。

鳴り響く轟音。
砂浜と海辺の境界が破滅する。
毒素をふんだんに含んだ大津波が巻き起こる。砂浜を抉る。
水に潜ったクラーケンは、陸上とは比にならない程に強い。
それは周知の事実だろう。

スピードが物凄いことも言うまでもない。
魔力であってもそれは通じる。知能も、然り。
先程喋った言葉は、もしかしたらクラーケンのものなのかもしれないし、違うかもしれない。

これでもB-級の危険度合いを持っているバケモノ。
そして、水に沈んだ今なら、もしかしたらA-級くらいには跳ね上がるかもしれない。
そうやすやすと沈みはしないし、怒らせたのだから殺しに来るなど当然だ。

勝ったと思って油断するその隙が命取り。

死んで花実が咲くものか。

さぁ、彼らは逃げられるか?それとも愚かにも水中が本領の怪異と尚対峙するか?若しくは気付けないまま塵になるか?

嶋野陽子 > 意識を取り戻した男の子を抱きしめる少年を見て、
しばらくそっとしてやろうと反対方向に眼をやると、
先ほど黒焦げにしたクラーケンの脚の切れ端が
眼に入る。そうだ!
何とか立ち上がると、切れ端の所まで行き、がぶりと
一口喰いちぎって飲み込む。よし、これでアイツの遺
伝子情報は手に入れた。今度会ったら只じゃおかないわ。

ご案内:「イカFree」から嶋野陽子さんが去りました。<補足:ワンピースの下に、水着を着て浜辺に到着>
ご案内:「イカFree」に嶋野陽子さんが現れました。<補足:ワンピースの下に、水着を着て浜辺に到着>
神宮司ちはや > い、いえそんなことないです。
ぼくなんて何もできなかったし、トリクシーくんが無事だったのはあなたが助けてくださったからです。
……ほんとうにありがとうございました。

(嶋野へ、そう丁寧にお礼を述べると微笑んだ。
 頭の上に影がさして見上げると何故か竜と女の子がいる。
 とりあえず悪い人たちじゃなさそうだ。いつからいたのかはわからないがとりあえずそちらにも視線を向けて)

あ、あのあなた達もありがとうございます。

(急にビアトリクスに強く抱きしめられてびっくりする。
 おろおろとその声音にこもった感情に戸惑うが、
 相手が本当に自分を心配していたことが伝わると申し訳無さそうにその背を同じように抱きしめた。)

ごめんね……心配かけて……。ぼくもトリクシーくんが無事でよかった……。
ありがとう、トリクシーくんが来てくれて嬉しい。

(そこでぎゅうっと自分も抱き返そうとした所で、違和感を感じて海を見た。
 波がグッと引いている。静かすぎる。
 ……もしくは何か魔術的なものを感じたのか、じっと海を見つめ……)

た、大変!何か来るよ、なんか大きいのがドバーって!!
に、にげなきゃ…っ!

(慌ててトリクシーを立ち上がらせようとする。)

嶋野陽子 > 男の子の声に海を見ると、明らかに大津波の前兆だ。
ミウさんは空を飛べるから良いとしても、二人を高台
に運ばなくては!
最後の力を振り絞り、二人を一緒に抱き上げると、高台
目掛けて一目散に走る。
「津波よー!高台に逃げてー!」もう誰も浜辺には残っ
ていないとは思うが、一応叫んでおく。

ミウ > 陽子ちゃんは無傷。
芸術家の少女?は、ちかやなる少年の事で頭がいっぱいのようだ。
こちらに気づかないご様子。
「他人の心配に集中できるようなら、大丈夫そうね。
 無事でよかったわ」
そう解釈してしまう。

少年からお礼を言われるが、別にミウは何もやっていない。
いや、本当に。
「わたしは、ただ通りすがっただけよ」

その時、なんと大津波が迫ってこようとしているではないか。
千里眼で、まだ遠くの大津波がミウには見えた。
「あのクラーケンが引き起こしているのね」
海中でのクラーケンは、かなり強いと聞く。
浜辺を飲み込むぐらいの津波なんて容易に引き起こせるだろう。
「せめて、ここのいる人達を巻き込もうとしているのね」
神であるミウは、今の状況においても冷静だった。

日恵野ビアトリクス > 「なっ…………!!」
ちはやの叫びに、慌てて海へ視線を向ける。
そして一瞬で理解して、相貌から色を失う。

「くそ……!」
歯噛みする。
陽子に抱え上げられるが――津波から走って逃げるなど
よほど人間離れした脚力がないと無理だ。

――どうしようもない。
それほど、ビアトリクスの感じ取った魔力は強力にして強大だった。
対抗する手立ても逃げる手立てもない。《色葬環》に全ての力を費やしたのだ。
健常なビアトリクスであっても歯の立たぬ相手だ。

この場に神の如き力を持つものがいるなら、
話は違うのかもしれないが――

神宮司ちはや > わ、わわわ……!

(同じく嶋野に抱え上げられ高台に避難させられるも、これではきっと間に合わないだろう。
 何よりビアトリクスも嶋野もさっきのイカとの戦いでもう疲れが限界に達しているはずだ。

 それにこのままでは皆が楽しく過ごせるはずの海水浴場までめちゃくちゃだ。
 それではあまりに悲しすぎる……。
 抱え上げられながら、なんとなく目に映る狼狽えない少女、ミウを見て……
 何かを感じたのか、彼女に叫んだ。)

あ、あの!もしかしてあなた神様だったりしますか?!
神様だったらお願いします、僕が力を貸しますからどうかこの海水浴場を守って下さい!!

嶋野陽子 > 陽子がいつもの状態だったら、
人間離れした脚力で津波から逃げ切る事もできたが、
今は間が悪すぎる。それでも手ぶらの陸上選手並の
スピードは維持できているが、高台に逃げ切れそう
ではない。
すると、男の子が急に何かを言い始めたので思わず
足を止めると、男の子を地面に下ろす。

ミウ > ちはやの言葉に、ミウは頷く。
「いかにも、わたしは神よ。
 あなたはその神を使おうと言うのね」
そう言って、優雅に笑ってみせた。
ミウは、少々傲慢な神である。
「分かったわ。
 あなたの力を借りて、この海水浴場を守ってさしあげるわね」

海竜とミウは、海の方へと顔を向ける。
「あなた達は、今の内に高台に逃げる事ね。
 ここは、わたしが食い止めてみせるわ」
そう言って、掌を海の方へと……いや、その向こうにある大津波へと向ける。
「神の命令よ、止まりなさい、大津波!」
強力なサイコキネシスで、大津波を止めようとする。
さすがに、大津波を止めようとするのは中々に骨が折れる。
ミウの額から、汗がにじみ出る。

嶋野陽子 > ミウさんの口から津波を止めるという言葉を聞き、
再び二人を抱き上げると全力疾走を再開する。

もう後ろは振り返らず、ひたすら丘の頂上を目指す
のみ。帰りは救急車のお世話になるかも・・・

クラーケン > あの魍魎様がどんな存在か知らないのか。

相手は神力。されどこちらも神力。
境界と水を統べる神の力。少しくらい食い止められようがそれだけだ。
それに、遠くの津波の方が早い。
ジェット機以上のスピードを持っている。
範囲も広い。
その津波全域を防ぐなどまぁ不可能。

数千、時に万トンの艦を楽々弾き返す程の力量をもつ津波。
サイコキネシスだなんだと言うけれど、それで勢いを殺しきれるとは思わない。

が。

まぁ折角だしこいつはオマケだ。

《魍魎様の水遊び》

イカはイカ故笑わない。だが、もう一つおまけを付けて津波を放つ、そのイカに表情があるなら、きっと笑っている。

堰き止められて減速した故、二発の水の壁は間もなく迫り、より強力なものへと統合され、勢いを増す。

だから、水中のクラーケンは追ってはいけないと戒められている。
特に、今のように憤怒した状態のものは。

ご案内:「イカFree」に白崎玲刃さんが現れました。<補足:自由人な、なんでも屋。>
白崎玲刃 > 巨大なイカが出て、更に龍まで出たって話だったが…あれはデマか…?
…って、おいおい、どうなってるんだこれは…
【海水浴場から逃げ行く者たちとは逆に、波の迫る浜辺へと向けて歩いてくる人影があった
玲刃である。
講義が終わり、学生通りを歩いていた彼は、海水浴場から逃げてきた者たちの噂話を聞き
こうして、海水浴場へと来ていたのであった、
そして、迫ってくる波を見て驚いたように呟きながらも
それに対峙する人影を見ると、近づいてゆく】

……大変そうだな、ミウ。手を貸そうか?
【以前、自身が窮地に陥っていた時に2度も助けてくれた恩人である少女
その少女が今、大津波と対峙し苦戦している様子を見て、
呪符を取り出しながら近づき、声をかける。】

日恵野ビアトリクス > 疲弊に朦朧としはじめる意識の中、
落第街で出会った例の少女が神を名乗っていたことを思い出す。
これっぽっちもそんなことは信じてはいなかったが、
今はその可能性に駆けるしかない。

……確かに、ミウのサイコキネシスによって
津波は勢いを減じたように見えるが……
「待て待て、止まれ!」
自分たちを抱えて走る陽子に制止を求める。

「おい……そこの神! 何か手伝えはしないのか!」
背後から叫ぶ。
などとは言っても何の余力も残ってはいない。
残っているのは本当にこの身ぐらいだ。

嶋野陽子 > 今度は少年が止まれと言う。
まだ海抜で10m前後なので、安全圏には程遠いが、
ここでの10秒は彼女にとっても貴重な回復時間と
なるので、再び足を止めると、二人を地面に下ろして
自分も座る。
何っ?WiFi圏内!?
ステラ、早速救難要請と避難勧告を委員会に送って!

ミウ > 「どうやら、向こうも神の力が働いているようね」
神のサイコキネシスは強力である。
普通に、津波ぐらいなら止めてみせただろう。
だが今回の大津波は特別のようだ。
神のサイコキネシスでも、抑えきる事はできなさそうである。

その時、玲刃君が現れた。
「そうね玲刃君、助かるわ。
 相手も神の力……。
 お願いするわ、手を貸してほしい」
玲刃君の方に振り向いて、そう懇願するのだった。

芸術家の少女?からも、力を貸すという申し入れがきた。
「相手も神の力……。
 偉そうに言っておきながら申し訳ないけど、出来る限りでいいわ。
 あなた達の力も借りたいところね」

ミウは、『絶対零度』という現象を海に創造する。
これで、一瞬にして海は氷りき、津波を止めてしまおうと狙ってみる。
さらに、先程のサイコキネシスも継続。
「わたしも、やれる事はやってみるわ」

神宮司ちはや > (ビアトリクスの制止の声を皮切りに、嶋野の腕からするんと小動物のように抜け落ちる。
 まだ痺れがきいているが、なんとか小走りにミウの方に走りより、それからパーカーに忍ばせていた扇を取り出した。
 本当はもっと接触するぐらい近いほうが異能のちからを引き出せるが、ミウは手一杯のようだ。
 仕方がない。今の今までひと目のある場所で使ってこなかった異能の力だが躊躇っている暇はない。

 ばっ、と舞の構えをとるとその場でくるくると神に納める神楽を舞い始める。
 同時に自分の異能『人身供犠(じんしんくぎ)』を発動。
 対象はミウの神通力の強化、現世に施された彼女のくびきを1つずつ外す。
 捧げるのは自分の魂と体力。舞うたびに自分の手足から力が抜け、何もないのに体から血が滴り落ちる。
 神に捧げられるための供物としての自分だから、宗派は違えど神とは相性がいいはずだ。
 傲岸不遜な物言いで神様を動かしてしまった手前、果たして効果はあるだろうか。)

日恵野ビアトリクス > 「……悪いね!」

陽子の腕から降りる。
ちはやまで巻き込んだことは心苦しいが、
津波を止められないのであれば何の意味も無い。全滅だ。
もう一度。途切れてしまった冷静な思考をもう一度よみがえらせる。

「……」
肌身離さず抱えていた、魔道書を兼ねるスケッチブックを開く。
しかし魔力残量はゼロだ。このままでは何もできない。
絵の描かれた頁を数枚破き、それをバラバラに千切り
――口に放り込んで咀嚼し、壮絶な表情で嚥下する。
「うぇっ……」
ビアトリクスの描いた絵に使われている塗料には魔力が篭っている。
それを摂食することで……効率は非常に悪いが、少しだけ魔術を使う力が戻った。

ミウのやろうとしていることを察して、さらに頁をめくる。
残った数枚の頁に描かれているもの――『氷河』『雪原』『つらら』『凍湖』。
いずれもが氷雪と凍結のイメージ。
描画魔術は現象の再現をもっとも得手とする分野だ――
凍結の魔術を、ミウの神通力を利用して、津波全体に拡散を試みる。
彼女の力に比べれば微細なものだが――影響はあるはずだ!

ミウ > ちはや舞により、《神通力》の力が増幅される。
これにより、サイコキネスはさらに大きな力へと変わる。
「感謝するわ」

ちはやの舞により強まったサイコキネシス。
さらに、氷りつこうとする海。
ミウは、その両方で大津波を止めようとする。

白崎玲刃 > ああ、わかった。
これでやっと、助けてもらった恩を返せるな。
……すぅ……はぁ……っ!
【ミウの言葉に頷きながら
大津波に向き合い、深呼吸を深く1度行いながら、
身体強化を異能、魔術の両方で発動し重ね崖する。
そして、そのまま大津波の方向へと呪符を持ちながら駆けて行く】

とは言ったものの、ここまでのものとなると…
全部使っても上手くいくかどうか…
【自身が持っている呪符のうち治癒以外の全て取り出しながら、それらを見つめながら苦笑いと共に呟き
大津波のもとへとたどり着く瞬間跳躍し】

セット A B
【呪符の発動を宣言する
今回、発動する呪符はA(Accel)とB(Barrier)すなわち、加速と防護だ。
現在所持数はAが9枚、Bが10枚であった。
数日間に渡って貯めていたそれらを玲刃は躊躇いも無く使用したのであった。

呪符Aは1枚につき瞬間的に1マッハ加速させる呪符である、つまり、それが9枚更に、玲刃自身の身体強化による全力の速度を合わせればマッハ10である。
しかし、そのままでは空気抵抗により自壊するであろう、
そのためにBであった、防護の呪符により空気抵抗とその反動より守られながら
玲刃は、マッハ10に加速したまま拳を津波へとぶつける。
その運動エネルギーは戦艦の主砲にすら匹敵するものであった。】

嶋野陽子 > (陽子、あの子、自分の身を生け贄にしてるわ!)
男の子から滴る血に気付いたステラの声は悲鳴に近い。
つまり、彼は自分の生命を顧みずに、津波が止まるまで
舞い続けるつもりなのだ。
 もう走って逃げるには遅すぎる。ここは彼等の支援
に何かした方がいい。
 造血剤のアンプルを合成すると、ワンピースのポケ
ットから取り出した強壮剤のボトルにその中身を混ぜる。
 彼の動きが止まったらば、これを飲ませよう。
 更に反対側のポケットから未使用の注射器を
取り出す。最悪の場合、彼に私のナノマシンを
直接注射するのだ。

クラーケン > 残念それでも止まらない。
凍った水を弾き飛ばすながらもどんどん迫る。これもやはり、多少勢いと水量を削いだだけだ。

それでは皆さんこの辺で。
イカは水面下にいる故、水上の事など知る由もない。

《魍魎様の水遊び》

三発目。これがイカの水中で持つ魔力量の限界だ。
舞い散るふんだんな毒素と、水。

氷をやりこめ、神通力も破る。
三重の層を持つ波はそれでもそれでもと迫る。

神力を引っ提げてへし折る。
砕き、巻き込み、層を為し。

海へ帰れと波はかかる。
間もなく目で見える程に大きな水の壁が見えるだろうか。

リミットは僅か。

氷に舞に呪符に、それから拳と。
束ねられた力。

それはイカと、それの行使した水の神の力を止められるだろうか―――?

びきり。

海の前、浜辺。正しく境界にてようやく波が凍り、砕け散った。

申し訳程度に、余力で残った水しぶきがパシャリと降りかかった。


食えなかったと腹を立てたその傍迷惑な憤怒の主は、
この波を撃ち放った後何処へともなく泳いで消えるのだろう。

目が直った暁には、また肉を食ってやると。
その波がどうなるかなど、イカの知ったことではない。

海開き。海の悪魔は眼前にご馳走を並べられながらも、大したディナーを食うことも出来ず、この事件を境に暫く姿を消すという。

だが、これは魔物や怪異、忌憚、妖怪などの氷山の一角に過ぎない。

彼等―――怪異の生き物―――はいつまでも、いつまでも、食欲に突き動かされ、肉を求めて彷徨うのだから。

ご案内:「イカFree」からクラーケンさんが去りました。<補足:30m軟体動物>
嶋野陽子 >  一番最初に、津波が止まったことに気付
いたのは、もはや見ていることしか出来ない陽子だった。
 「止まった。津波が止まったわ!助かった!!」

ミウ > 「はぁ…はぁ……。
 ぎりぎり……なんとかなったわね」
海竜の頭に乗っていたミウは、津波に向けていた掌をおろす。
「ここにいるみんながいなかったら、津波は止まっていなかったわ。
 わたし達の勝利よ」
クラーケン……あれ程の大津波を引き起こすとは、大した魔物だ。
皆の力で大津波を止めるのは、さすがに大変だった。

「玲刃君、久しぶりね。
 駆け付けてくれてありがとう」
玲刃君に顔を向けて、優しげに笑う。
「今回は、相当危なかったわ……。
 あなたが来てくれなかったら、ここにいる全員、大津波に巻き込まれていたわね」

日恵野ビアトリクス > 「今度こそ……終わったのか?」
眼前で凍りついた波を見上げ、ようやく脱力を許されて膝を折る。
今度こそ魔力は尽きた。
凍結の魔術に使った絵はすべて燃え尽きて炭になってしまった。
《色葬環》に消費した分を含めて、結構な出費だ。

「神霊クラスの怪物がホイホイ海辺に出てくるなよ……
 こちとら一般市民なんだぞ」
毒づく。ミウがこの場にいなければどうなっていたことか。

「……ちはや!」
ハッと気づく。人身供犠の業を使った彼は無事なのか。
駆け寄る――体力はさすがになく、ゾンビのような足取りで近づこうとする。

白崎玲刃 > ………っぅ。
【空気抵抗や、大津波を高速で殴った事による反動は10層もの防護によって大方防いだものの
全て防ぐことはは適わず、腕に大きくひびが入り、全身に軽く裂傷を負うい、拳先も多少凍りついているものの、いつもの戦闘程の怪我では無かった】

………なんとか…止まったか……
【着地して膝をつきながらも、凍りつき止まり砕け散った波を間近で見ながら
荒く息をしつつ呟く。】

ははは、これは俺の助力はいらなかったかな。
【と、自分のやったことは少し波の進行を妨げた程度の事で
あとの波を止めたのはミウとビアトリクス2人の力だと、冗談めいた笑みを浮かべながら軽く言う。】

ああ、ミウ久しぶりだな。
あの公安との戦いの時に来てくれた礼をまだ言えてなかったな。ありがとう。
【ミウに、再開のあいさつをしながら。
かつてのお礼を告げる。】
いや、俺なんて多少波の進行速度を緩めただけだぞ
【そうして、苦笑いで自分は大したことなんかしてないと返す。】

神宮司ちはや > 「と……とまったの?」

(大津波が、ミウとビアトリクスの力で凍りつき、白崎の拳で押し返されようやく止まったのを見て舞を止める。
 大きくうねり、頂点で止まった波を見つめながらことの大きさにまだついていけずその場でぼんやりと突っ立っている。
 その両手両足から切り傷のように血がだらだらと流れ落ちている。
 砂浜に大きな染みを作りながら膝から崩れ落ち、そのままちはやは気を失った。
 幸い呼吸はあるものの、ミウに捧げた代償は存外大きかった。暫くは目を覚まさないだろう。)

嶋野陽子 > 舞を舞っていた男の子が気絶したのを
見ると、陽子は男の子の側に行き、用意してあった強壮剤
を取り出す。
「私は保健委員一年生の嶋野陽子です。これは、
造血剤を混ぜた強壮剤です。飲ませてもいいですか?」
と友人らしい少年に尋ねる。

ミウ > 玲刃君が痛みの声を上げている。
「玲刃君、大丈夫!?」
先程の反動だろう。
全く……今回は助けてもらった側とは言え、玲刃君は無茶をする。
痛みを堪えてまで助けてくれたのは感謝だ。

「どういたしまして。
 あの時、玲刃君達が無事に逃げられてよかったわ」
そう言って、満面の笑みを浮かべる。
あの戦いも、今みたいなピンチな状況だった。
「進行速度を弱めてくれなかったら、津波が凍りつく前に浜辺に到達していたわ……」
もし玲刃君が来てくれなくて、この辺が津波に飲み込まれるような状況を想像したくはない。

日恵野ビアトリクス > 「……! ああ……」
ちはやの痛々しい様子に悲痛な表情で息を呑む。
彼にこんな目に合わせてしまったという事実に目眩で倒れそうになる。
しかし意識を失って楽になるなど、許される話ではない。
食いしばって持ちこたえる。

「保健委員だったか。なるほど、さっきの薬も……
 飲ませてあげてくれ。頼む」
陽子にはそう応える。
命に別状はなく、実際に傷を作っているわけではなさそうだが、
失血させたままにするわけにもいかない。

残る二人に視線をやる。
ミウと……玲刃と呼ばれた知らない青年。
「神さまと……兄さん。
 その……なんだ。もう少し早く来てくれよな」
はあ、としかめ面で溜息を吐く。
素直に礼を言うことが難しい性格だった。

ミウ > 気絶した少年を見て、
「わたしに力を貸してくれた少年、ありがとう……。
 あなたの舞がなければ、わたし達はあの大津波に勝てなかったわ」
少年の方を心配そうに眺める。
なにせ、少年からは血がだらだらと流れ落ちているのだ。

「あなたの舞は、わたしと相性がよかったようね。
 神力の増幅……助かったわ」
そう言って、少年に静かに微笑む。

嶋野陽子 > 少年の許諾を得たので、気絶している
男の子に、強壮剤を慎重に飲ませる。
結局、最後の全力疾走を行わずに済んだので、
多少の余力は残っているが、他に何かできる
だろうか?

白崎玲刃 > ちと、防護の符が足りなかったみただいな。
まあ、あの時に比べるとこれくらい軽傷だろう?
【少しばつが悪そうに呟きながら次からは加速の符よりも2枚ほど多く使うかと呟く
そうして、治癒の符を取り出しながら、冗談めいた笑みとともに軽く言う。
あの時、害来腫の時に、毒に蝕まれ全身に虫に喰われた跡を負っていた時や、西園寺との時の四肢を全て損傷していた時と比べると、全然軽傷だろうと言う】

ああ、あの時は無事に逃げられてよかったよ。
そのお陰で今こうして、恩を返すことも出来たわけだしな。
【ミウに笑みを返しながら告げる。】

すまないな。こんな深刻な事態だとは思ってなくてな。
学生通りで噂を聞いた時は、てっきり怪獣大決戦でも起こってるものかとな。
【ビアトリクスの恨めしそうな言葉に、苦笑いで答える。
玲刃も最初はただ見ものに来ただけであり、こんな事態が起こってるとは思っても居なかった様であった。】

神宮司ちはや > (嶋野の強壮剤は気絶している手前、口の端からわずかにこぼしてしまうものの確かに喉を通ったようだ。
 先程より顔色は良くなってはいるが依然として目は覚まさない。
 これよりちはやは揺り動かしても叩いても反応は鈍く、数日はこんこんと眠ったまま意識は戻らないだろう。)

嶋野陽子 > (そう言えば、先ほどWiFiで救難要請を
出したはずなのに、誰も来ないのはなぜ・・・
って、やだ。電撃でエラー状態だわ。
再起動して・・・・もう一度、今度は救急車を
呼べばいいかな?)

ご案内:「イカFree」から神宮司ちはやさんが去りました。<補足:巫女舞の少年。猫耳半袖パーカーにサーフパンツ姿>
ミウ > ビアトリクスの方へと向く。
「悪いわね、わたしが駆け付けたのはクラーケンの戦いの後で。
 わたしは元々、この海竜に乗って深海で遊んでいた所を通りがかっただけだもの」
足元の海竜を指差す。
ビアトリクスが素直にお礼を言えない、とは気づかずにこちらの事情を話す。

「それはそうだけど……。
 なんか、傷ついている玲刃君を見る事が多い気がするわ。
 今回は本当に助かったけど、自分の身体は大切にしないとだめよ?」
今回は実のところ、他人の事は言えない。
神の力を相手にしたミウも、さっきから少々目眩がしている事を隠している。

「恩を返してくれて、感謝するわね。
 あの時は、本当に心配したのよ」
そう言って、微笑みから心配そうな表情へと変わる。

嶋野陽子 > そろそろみんな落ち着いてきたのを見て、
声をかける陽子。
「ミウさん。昨日は逃げ出すようにいなくなってしまい、
申し訳ありませんでした。その上今日は命を助けてもら
い、お礼の言いようもありません。」と頭を下げる。
次に少年の方に向き直ると、
「さて、私は名乗ったのであなたとお友達のお名前
を教えてもらえますか?もうすぐ救急車がこちらに
来るはずですので。」
とたずねる。

日恵野ビアトリクス > 「……ぼくは一年の日恵野ビアトリクス。
 こっちの彼は神宮司ちはやだ」
陽子の言葉にはそう返す。

「…………。
 まあ、そうだな」
ミウと玲刃の言葉に首筋を掻いて。
ビアトリクスもちはやさえこの場所にいなければ身体を張って戦うことはなかっただろう。
ただ駆けつけ、尽力してくれただけでも感謝するべきなのだ。
しかしビアトリクスに出来たのは、ふい、と顔を逸らすぐらいだった。

強壮剤を与えられて、少しだけ快復した様子のちはやを見つめ、
しゃがみこんで手を取る。
「…………」
深い後悔があった。
かつて彼が命の危機に瀕した時、その場所にいられなかったこと。
しかし今回は――
(……助けられたのだろうか?)
自分一人では成し得ないことではあったけれど。

「……」
ちはやの手を引っ張って起こそうと――
したところで、精神力ではカバーできない、体力の限界が訪れ……折り重なるようにして倒れこむ。
限度を越えた魔力の使い方をしていたのだ。いつ気絶してもおかしくないぐらいだった。


人の声がする。
しばらくすれば救急車や救急スタッフが来るだろう。

ご案内:「イカFree」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。<補足:上下ジャージ スケッチブックを抱えている>