兄と妹、それは家族である。 しかし、家族であるからといって心の距離が近いとは限らない。 これは川添孝一の妹、三枝あかりが学園に転入届を提出した日の出来事である。    『兄と妹』 川添孝一は生活委員会と怪異対策室三課の仕事を終えて帰路に着いた。 毎日忙しい日々を送っている彼にとって、帰りはいつも遅い。 ただ今日は運よく夕方に帰ることができた。 学生・教職員居住区に借りた自宅に向かって上機嫌に帰る川添。 そこに。 家の前にいたのは、三枝あかり―――――彼の実妹だった。 「お、おお……あかり、どうしてここに…」 戸惑う川添孝一。妹は、一家離散の際に親戚の家に引き取られていった。 会うのはそれ以来だ。 「手紙にあったけど、本当に常世に来てたんだな?」 必死に会話をしようと言葉を紡ぐ川添孝一。 「いや、久しぶりでなに話していいのかわかんねぇなァ?」 三枝あかりは兄を見ずに俯いている。 「ど……どうしたんだ、あかり………?」 不安げに川添が妹に聞く。 俯いていた三枝あかりがようやく言葉を口にした。 「お兄ちゃん、何その格好……まるっきり不良だよね」 「う………」 川添が自分の姿を見た。ボンタン。特攻服。どう見ても不良だ。 「今日……男の人たちに絡まれたよ…お兄ちゃんに痛い目見た人たちなんだって」 「!!」 川添孝一が絶句する。 三枝あかりが話を続ける。 「嶋野さんとか、公安委員会の人に守ってもらえたからいいけど……お兄ちゃん、常世島で何やってたの」 「そ、それは……だな……」 川添孝一は不良だった。 人々を虐げ、自分は異能者たちに撃退される側だった。 最低の男だった。 「……お兄ちゃん不良なんでしょ!? なんで人に迷惑かけるの!!」 「ち、違うんだあかり……今は元・不良でなァ…」 「それじゃ前は不良だったってことじゃない!!」 あかりの目元に涙が滲む。 川添孝一があかりに近寄る。 「泣くなよ、あかり……俺は今、罪滅ぼしのために」 「聞きたくない!!」 あかりが川添孝一の伸ばした手を振り払う。 「お兄ちゃんのせいだ!! お兄ちゃんのせいで私まで下を向いて生きなきゃいけないんだ!!」 「あ、あかり……」 「お母さんなんて嫌い! お父さんなんて嫌い! お兄ちゃんなんて…大っ嫌い!!」 そう言い捨てたまま三枝あかりは走り去っていく。 残された川添孝一は、ただ項垂れることしかできなかった。