2015/07/14 - 16:47~00:47 のログ
ご案内:「常世保険病院の一室」にサヤさんが現れました。<補足:黒髪の少女。薄緑色の病衣に、何本ものチューブが体から伸びている。>
サヤ > 随分調子が良くなってきて、体から伸びる管の数もいくらか減った(あの屈辱的な、股間から伸びる管もなくなったのは嬉しかった。)
風紀委員が取り調べをしたがっているが受けるかどうか聞かれて、受けられると答えたのが数十分前。
そして聞かれたことを覚えている限り話していたら、何やら相手が慌ただしく出ていき、部屋を突然移されたのが数分前。
サヤは何がなんだかわからず、不安になりながら、無機質な部屋に座って、何かを待っている。
「(私はどうすればいいんでしょう……。うう、不安だ……。)」

ご案内:「常世保険病院の一室」に『アリアンロッド』さんが現れました。<補足:修道服じみた祓魔戦闘スーツを着た公安委員>
『アリアンロッド』 > しばらくして幾人かが扉から現れる。
先頭で入ってきたのは修道服のような格好をした『誰か』。
サヤが石蒜だった頃の記憶を保持しているなら覚えているはずだ。
打ち捨てられた祠で遭遇した公安委員。

ただし『そう』という認識はできても、そしてその相手が修道服のような格好をしていることは認識できても、
それを例えば学園で会った誰かと結びつけることは、非常に難しい。
認識した『個人』を記憶と照合することを阻害する、印象迷彩の魔術効果を受けているからだ。
それらは入ってきた全員がエンチャントしている。
勿論それを看破する手段はいくらでもあるだろう。ただしそうしようとした場合……

「まず前もって警告いたしますが、認識阻害を解除あるいは看破した場合、公安機密への明確な攻撃とみなしますので、ご了承くださいませ」

開口一番そう言って、先頭の修道女のみが軽く会釈をした。
同時に自己紹介も完了する。
入ってきた数人は全て公安委員会の所属員だ。

サヤ > 確かにサヤは覚えている。あの、楽しそうに石蒜の顔面に拳を叩き込んできた人間。石蒜と同類の人間、膝の上に置かれた拳を、ぎゅっと握る。
まさか、あの『続き』を?あれは石蒜の趣味で私のじゃない。
恐怖に顔がこわばる。

さらに、有無をいわさぬ警告。幸いそういったものに対する対処法は知らなかった。匂いを嗅いでも、誰か分からない。多分大丈夫だ。きっと大丈夫。
「わ、わかりました。」会釈を帰してから、返事。声が震えないように気をつける必要があった。

何があったのか聞こうかと思ったが、無言の圧力のようなものを感じ、口を開くのも憚られた。きっとこの状況、私は求められない限り何も出来ない。

『アリアンロッド』 > 連続テレビドラマ『刑事x探偵』のセカンドシーズン10話にこういうセリフがある。
『くそっ、公安のやつら後からやってきて』
多分、サヤが元いた部屋の近くで風紀委員の誰かが同じようなセリフを零していたかもしれない。

つまりは、それだ。
公安委員会は風紀委員会に対して『特殊案件により参考人の引き渡し』を要求した。
主な理由としては『サヤが公安機密に抵触した恐れが有るため』。

「……私のことを覚えていらっしゃいますか?」

一人だけ前に出ている『アリアンロッド』が小首を傾げて座っているサヤに視線を落とす。

サヤ > 聞き覚えのある声。確か石蒜があの祠で戦った相手。
そして……そのあと教会に呼び出されて……。
思い出して、頬が微かに赤くなった。
「あ、えと……二度ほど……お会い、しましたよね……。一回目はベールでしたけど、二回目は、素顔で……ええと、覚えてます。名前はお聞きしてなかったと思いますけど……。」
躊躇いながら答える。
何があったかは聞かれてない、まさか聞きはしないだろう、あんな……あんなこと……。

『アリアンロッド』 > サヤの返答を聞いて、『アリアンロッド』がニコッと口だけで笑った。
そして

「申し訳ありません」

謝罪は、サヤにではない。背後の公安委員たちにだ。

「なるほど、確かに報告通りだな。彼女は“公安機密に偶発的に触れてしまった”。
 である以上、“彼女の取り調べは我々が行わなければならない”」

後ろの公安委員の一人が言った言葉もまた、サヤに向けられているわけではない。
実際には、『アリアンロッド』が完全に個人的な因縁で相手を呼び出して素顔を晒している。
だがそんなことは関係ない。
サヤが理解しているかどうかにかかわらず、ただ必要とされた手順が踏まれたのだ。
カチリと何かのボタンを押す音がした。
風紀委員会に提出を義務付けられる音声データはここまでだ。

「さて」

サヤの返答内容には一切触れずに、『アリアンロッド』が話を切った。

「貴女は重要参考人でいらっしゃいますわ。それはご理解なさっているでしょうか?」

サヤ > 何が起きているのかわからない。
サヤは授業をほとんど受けぬうちに石蒜に体を奪われた。
風紀と公安が警察機構に近い動きをしているのは知っていたが、それぞれの性質といったものはほとんど知らなかった。

恐らく自分に向けられたのではない言葉、その意味がわからない、これから自分はどうなるのか。
どんな罰でも甘んじて受ける覚悟はある、だが、自分の知らないところで何かわけのわからないものが進んでいるのには困惑した。
困惑が恐怖を生み、手が震え、呼吸が浅く早くなる。怖い、怖くてたまらない。

「じゅ、重要参考人……。つまり、それはええと……そ、そうですよね、罪を犯したのは……実質、私ですから。」事件に深く関与したとされる人物、まさに自分だ。実行犯は石蒜だが、石蒜が生まれた責任は自分にあると考えていた。

『アリアンロッド』 > ヴェールから口元だけ晒した顔がまた小首を傾げる。

「つ、み」

唇がゆっくり動いて二つの音を吐く。
背後に立った公安委員の一人が一歩前に出ると、きっちり揃えた数枚の紙をサヤに手渡した。
そこには石蒜と名乗っていた存在が起こした、校則法における違反内容とその詳細が並べられている。
『アリアンロッド』が少し中空へ顔を上げた。

「ええと、傷害事件がいくつかと、器物破損、あと風紀取締違反……いわゆる公務執行妨害ですわね」

ややとぼけたような声。

サヤ > 「えっ……。」渡された紙、ひらがなしか読めないサヤに全てを理解はできなかったが、明らかに少ないように感じた。そして相手が並べた罪状も、少なすぎる。
「そ、そんな……そんなはず……もっと沢山、辻斬りを日常的にしてましたし…!さ、殺人だって何人か……!」分からない、どうして?見知った相手への温情なのか?だがそんな空気は感じられない。
包帯の巻かれた右手で、こめかみを押さえる。頭痛がする、わけのわからないことだらけだ。一体何が起きているんだろう。
「ど、どういうことなんですか、一体何が……。」呻くように、問いかける。きっとまともな答えは帰ってこないだろうと思ったが、それでも聞かずにはいられなかった。

『アリアンロッド』 > 「あら、あらあらあら」

狼狽するサヤに目の前の相手は気のなさそうにそう応じた。

「学園区、居住区、異邦人街、歓楽区……貴女が引き起こした事件はそれで全てでいらっしゃいますね」

抜けている。
一応は歓楽区に含まれているはずの……落第街における殺人がバッサリとない。
一件も。
だから、差し出された資料には殺人事件がない。

「それと先ほど重要参考人と申し上げましたが」

何が、というサヤの言葉に、それが答えと言わんばかりに。

「それは貴女の犯罪に対してではありませんわ。
 “腐条理(アクトオブゴッド)”――――元ロストサインのマスター『鳴鳴』の行動についてです」

サヤ > 落第街、石蒜が主に活動していたエリアがそこだった。
しかしそこは挙げられなかった。そして相手の言葉、問いかけではなく、断定だった。
落第街を意図的に無視している、なぜかはわからないが……。落第街での行動を罪に問うつもりはないらしい。
理不尽だ、あそこにも人は暮らしているのに……。
そこで辻斬りしていた自分に言えたことはないが、あそこに住んでいる人々全てが否定されたようで、暗澹たる気持ちになった。

そして、鳴鳴の名前が出れば、またギュッと拳を握る。
「その話、ですか。はい、私は……あの頃は石蒜でしたが、それなりの時間を、共に過ごしていた記憶が……あります。」

『アリアンロッド』 > 落第街は、二級学生は、公式には存在しない。
学園もその存在を認めていない。
だから、『数多くの住民を殺傷した』か『何もなかった』かは時と場合による。
どうあるべきかに、よるのだ。

「ええ。それでは鳴鳴について、貴女との出会いから、転移荒野での最期まで全てを聞かせていただきましょう」

後ろの公安委員の一人の手に録音機械が見える。先ほど止めたものとは別だ。
録音されている。
しかしそれが風紀委員に提出され、学園裁判によって使われることは、ない。

サヤ > この治安機構の正義に、恣意的なものを感じた。少なくとも島民全てに平等ではない。
不信感が首をもたげる。今は従おう、だが信用はすまい。
知らず知らず、険しい目つきになっていたのに気付き、一瞬目を閉じて表情を消す。

「わかりました。長くなりますが、覚えている限りを……。」
話し始める。精神の均衡を失い、壊れかけていたところに鳴鳴と出会ったことを。石蒜として、鳴鳴の意に沿うように生きていたことを。
仙窟で幾度も肌を重ねたことなど、知っている限りの鳴鳴の行動を、出来る限り中立的な立場で、脚色せず事実だけを話した。
そして最後に、友人達の助けもあって、鳴鳴を焼き尽くしたところで、話は終わる。
「もう、あの人の存在を感じることはありません。恐らく、もう何処にも居ないのだと思います。」鳴鳴に対する感情は、まだ整理がついていない、恩人ではあるし、同時に敵でもある。だから努めて無表情に、感情を乗せないように話した。

『アリアンロッド』 > 『アリアンロッド』も含めて、公安委員は全員微動だにしなかった。
サヤの供述は全て録音機に吸い込まれていく。
その凶行も、睦言も、関わった人々のことも、全て。

「我々の方でも、痕跡の調査を行っていますわ。
 ええ、確かに鳴鳴は消滅したと言っていいいのではないか……と考えられております、が」

言いながら『アリアンロッド』が一歩近づいた。
座るサヤに対して低い背を少しだけかがめ、その瞳を黒いヴェール越しに覗きこむ。
至近距離で、赤橙の瞳が大きく開かれた。

「どこにもいない?
 ここに居らっしゃるではないですか?
 貴女が仰ったように鳴鳴を受け入れ、鳴鳴と同じになっていたモノが」

サヤ > 「…………。」その目を、正面から見つめ返す。怖い、何をされるのかわからないし、相手は石蒜と同類。他者を征服するのを楽しむような人間だ。目をそらしたかった。
けどもう、怯えるのは嫌だ。罪を不当に軽んじるような組織の人間に、負けてしまうのは嫌だ。

確かに言うとおり、私はあの人と同種の存在になっていた。私の中に残っていることを疑うのは当然だろう。
「もう、残っていません。証明出来る手段は……思い当たりませんが、わかるんです。もう、あの人はどの世界にも、何処にも居ない、もう二度と会うことは出来ないのだと。」どこか、感傷的な響きが声に混じったかもしれない。

『アリアンロッド』 > サヤの決意ある視線と感傷を、嘲笑ったのか、微笑んだのか。
『アリアンロッド』の口角が薄く上がる。

背後で男の一人が口を開いた。

「勿論君の体は治療中にも調査されているよ。君が同意すればこの先もいくらかの検査はしてもらうことになる。
 だがそういう話ではないのだ。
 一度は君がそうであったということがな。
 『因縁』という思想がある……」

そこで突然男が話を変えた。

「その紙にある君の罪状は、“現在確定している”起訴内容だ。
 君には公安機密に触れた問題もある。
 言いたいことがわかるなら、これ以上の説明はしない。」

鳴鳴と……混沌と関わったものとして。そして生き延びた者として。
『未だ終わっていない事態』のために、彼らは求めている。
切れる道具を。

「君の返答によっては、それもいいだろう。『鳴鳴の遺した因果』は終わりということになる」

サヤ > 「…………。」罪はいくらでも上乗せできる、ということか。
断れば、私は終わる。謂れのない罪に対する罰を受けて。
なんてことだ、なんて恣意的な正義。あの人に比べても、こちらのほうが、よっぽど"腐条理"だ。
下唇を噛みながら、書面に目を落とす。
どちらがいいのだろうか、この歪んだ正義の駒の1つとなって生きるのか、いっそ死んでしまうか。

結局どちらを選んでも、ふさわしい罰は与えられないだろう。

大きく息を吸って、吐く。「わかりました、あなた方のお好きにどうぞ。この体、差し出しましょう。」
なら……生きて、自らに課すしかない。ここで死ぬのは、卑怯にも思えた。

『アリアンロッド』 > 「恐らく貴女には数十万円の罰金刑が課されるでしょう。
 罰金はすぐに支払われますけれど」

すっ、と。
『アリアンロッド』の手袋に包まれた細い指がサヤの頬を掴もうとする。

その間も男の言葉は続いた。

「では、君には公安委員会直轄第九特別教室の外部協力者として働いてもらう。
 そのために、これから君には二つのギアスをかける。
 一つはそこの『アリアンロッド』の個人情報漏洩を防ぐためのギアス。
 一つは教室に対して不利な行動を禁じるギアスだ」

後ろから一歩踏み出した、一番口数の多かった男が左の眼帯をとった。
サヤ > 「…………ッ」頬を掴まれる。
ギアス、誓約。対象の行動を永続的に制限する魔術、あるいは異能か?どちらにせよ、抵抗は無駄だろう。

あの人ですらしなかった、魂を縛る外法に。無意味だとわかっていても、精一杯その男を睨みつける。

『アリアンロッド』 > 『アリアンロッド』がサヤの顔を後ろの男に向けさせる。
眼帯の下の瞳が紫に輝いた。

公安委員会の男がサヤにギアスを打ち込む間、『アリアンロッド』は薄く笑ったままだった。

「そう怖がることはありませんわ。
 ただ切っ先として働いていただくだけですから。前のように落第街などに足を運んでいただくのもよろしいのではないでしょうか?
 わたくしたちが指定することも当然ございますけれど。
 ロストサインにしろ、他の危険人物にしろ、貴女が出遭った情報をわたくしたちは手に入れるというだけですから」

鞘から走る刀であれと。

紫光が消えた。

サヤ > 自身の根源に楔を打ち込まれたような不快感に、顔をしかめる。
おめでとうサヤ、玩具を卒業して道具に成り果てましたね。そんな皮肉に満ちた思考が頭をよぎった。
これも罰だろうか、これも甘んじて受けるべきなのだろうか。


「……入院患者に言う台詞じゃありませんね。」何とか言い返そうとして、そんな言葉が出てきた。

『アリアンロッド』 > 薄いヴェールの向こうで、瞳に一瞬映ったのは同情だろうか。

「誰もが誰かに使われる。ただそれだけのことですわ。
 ……勿論まだ先の話ですわよ」

口元に微笑を残したまま両手がするりと外れた。

「とりあえず必須の聴取は以上で終わりですわ。
 大変協力的でいらしてありがたく思っております」

「後日またいくつか聴取することがあるだろう」
「あなたの犯罪にたいしては風紀委員からも聴取があるわ。
 我々に触れない部分……あなたが起訴される部分については正直に答えなさい」
「全ては貴様が釈放されてからのことになる」

言って、公安委員たち病室を出て行く。

サヤ > 「…………。」言葉は返さない。ただ、睨みつけるように退室する様を見ている。さっさと出て行け、とでも言うように。

全員が出て行った後、閉まったドアを向かって。
「……こうするのか……ここの正義は。」小さく呟いた。

ご案内:「常世保険病院の一室」から『アリアンロッド』さんが去りました。<補足:修道服じみた祓魔戦闘スーツを着た公安委員>
ご案内:「常世保険病院の一室」からサヤさんが去りました。<補足:黒髪の少女。薄緑色の病衣に、何本ものチューブが体から伸びている。>