2015/07/15 - 23:32~01:00 のログ
ご案内:「第二演習場」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 上下ジャージ [乱入歓迎]>
日恵野ビアトリクス > アルバート・ヘンリー・マンセル。
およそ三世紀前に活躍した偉大なひとりの魔術師。
《色》を分類し、体系立て、《マンセル呪式》を提唱した。
《フラーウゥス》《ウィリディタース》《ウィリディタース・マリス》
《カエルラ》《カエルラ・マリス》《カエルラ・パッレーンス》
《プルプラ》《ルフス》《ルボル》――――エトセトラ、エトセトラ。
――48色。
甲高い音。
スケッチブックから旅立った色が、サークルを創り、
魔力を集積させ、そして撃ちだされる――
コンクリート壁が熱を持つ魔力光線によって穿たれる。
日恵野ビアトリクス > 「はぁ、はぁ……」
ジャージ姿で肩で息をするビアトリクス。
物理的な防御を貫き、あらゆる目標にも一定の効果を示す攻撃魔術、《色葬環》。
ビアトリクスの必殺技だ。
しかし、
「こんなもの――奥義でもなんでもない」
《マンセル呪式》の歴史は浅いが――描画魔術師の間では広く採用されているシステムである。
しかし、その体系に属する《色葬環》は――比較的扱いやすいだけの、ただの攻撃魔術だ。
ただの表層のひとつ。描画魔術の深奥には程遠い。
けれども、これがビアトリクスの最強の攻撃手段だった。
日恵野ビアトリクス > 《ギルウゥス》《アウレウス》《ウィオラ》《ロサ》――
意識を集中する。色をさらに増やす。
黄橙緑青藍紫赤。心理四原色。二十四相。
サークルを成した色が蠢く。
互いの色の魔力が干渉して、生き物のように呼吸し、絶えず変わり続ける。
すべてを正しい順番に並べ、調節し、グラデーションを維持しなければならない。
その難易度は当然ながら、色の数に比例して上昇する。
《色葬環》はすべての属性を持つ攻撃魔法。すべての敵を貫く万能の槍。
しかし構築に長い時間と集中がかかる――
眼前、数十メートル先に何重ものコンクリート壁が目標物として設置されている。
ビアトリクスは魔術をトリガーすることなく……サークルを維持する。
維持するだけで、魔力が消耗し、足元がふらついていく。
現在の色数は――九十六。
日恵野ビアトリクス > 「おおぉぉ…………!」
指揮者のように、両腕を振り上げる。
十指が、老いた蛇のように踊る。
さらに色を増やす。九十六。百二十八。百九十二。
バタバタと、けたたましく傍らのスケッチブックが音を立てて、
水彩紙を排出し続ける。
もちろん一冊のスケッチブックに収まるページ数ではない。
スケッチブックがページを召喚し続けているのだ。
百九十二色がそろえば、もはやビアトリクスは
指を一本動かすだけでも苦渋の汗を垂らす。
魔術の環を支えているのではない。
魔術の環に吊り上げられている、さながら操り人形のように
ビアトリクスの腕は動かない……
一九二色。それはビアトリクスという魔術師の
キャパシティを越えた色数だった。
「ぐ、ぐ、ぐ……!」
絞り上げられるような、うめき声。
日恵野ビアトリクス > ――もう限界だ。
吊り上げられたビアトリクスの右手人差し指が、くい、と何かを引くように動く。
その瞬間。
耳を潰すような轟音と、目を潰すような光の奔流。
圧縮された万象のレプリカが、太い光の柱となって、射出される。
威力は色の数に比例する。
《クラーケン》の目玉を抉ったそれの――八倍。
厚さ数十センチのコンクリート壁を、一つ、二つ――十つ。
予め用意されていたすべてを撃ちぬく。
大穴を穿たれたそれらは、数秒遅れてがらがらと崩れ去っていく。
「ぜぇ、ぜぇ……」
《色葬環》構成に使われていた色がベタ塗りされていた
スケッチブックの水彩紙……その八割近くが
負荷に耐え切れず燃え尽き、炭となってはらはらとあたりを舞う。
ビアトリクスはへたりこんでいる。
魔力と体力を著しく消耗した。暫くの間は動けないだろう。
日恵野ビアトリクス > 「この威力を…………」
右手が演習場の地面をひっかく。
「この威力を、あの時出せていれば」
日恵野ビアトリクス > ガン、と右拳が地面を叩く。
表情が屈辱と悔恨に歪む。
一生懸命戦った?
自分のおかげで撃退できた?
ふざけるな。
嫌味か。
自分は何もできていない。
何も守れていない。
何も為せていない。
何も……。
日恵野ビアトリクス > 「…………」
使えそうなページを回収する。
そうして、演習場を後にした――
ご案内:「第二演習場」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 上下ジャージ [乱入歓迎]>