2015/07/15 - 20:36~01:48 のログ
ご案内:「常世保険病院・サヤの病室」にサヤさんが現れました。<補足:黒髪の少女。薄緑色の病衣に、点滴チューブ。>
サヤ > 出入口を塞ぐ堅牢な扉に、鉄格子のはまった窓、幾つもの監視カメラが天井から伸びている。
病室というより監獄に近い印象をあたえる。
その部屋の真ん中に置かれたベッドに、サヤは腰掛けていた。
まだ食事は戻してしまうので、栄養剤の点滴は受けていたが、左手のギプスは外れた。
ピーピーうるさい機械もいつの間にかなくなっていた、寝る時うるさかったので嬉しい。
驚くべき早さで治っていると言われたが、サヤとしては別に普通のことだった。
サヤを含め、元の世界に居る、ある程度武術や魔術などに精通している人間は、どんな怪我でも6時間ほど寝るか休むかすれば大体治っていたので、てっきりこっちの世界でもそうだと思っていたのだ。
でもどうやら違うらしい、そんな怪我の治りが遅くて大丈夫だろうかと要らぬ心配をしてしまう。

サヤ > 「(いけない、余計な思考をしてしまった、瞑想瞑想……。)」
握った左手の中には、半分に割った錠剤、昼食後に出たものを飲まずにとっておいたのだ。
それを監視カメラに見つからないように、ベッドの枠を使って削り、刃のようにしてある。
そして、その即席の『剣』と共に瞑想を初めてそろそろ一時間になる。
人刃一刀流の使い手が、剣と絆を結ぶのに必要な手順、その剣をそばに置いて一時間瞑想すること。

サヤ > しばらく経って、左手の中の『剣』が、自分と繋がったのがわかる。
別に武器を使って脱走をしたいわけではない、入院中に鈍ってしまった感覚を取り戻したいのだ。
公安の使い捨ての駒になってしまった以上、強くならなければ死んでしまう可能性がある。
罪を償うために、まだ死ぬわけにはいかない、だから強くなる必要がある。

最初は鍛錬として鉄格子を使って懸垂をやっていたが、看護師がすっ飛んできてかなり怒られた。私の体は私が一番知っていて、傷が開かない加減はしていたのだが、怪我人はろくに運動をしないで寝ているのが一番いいと思っているらしかった。

石蒜は私より剣の絆を深めていた。手を触れずとも剣を自由に操っていたのだ。
その時の感覚を覚えている、だから練習すれば自分にも使えるはずだ。
左手の中の剣に意識を集中させる。右手は人差し指と中指を伸ばした、剣指の形。

サヤ > 剣指を天上に向かって振るり、上がれ、と念を込める。だが剣は動かない。
集中してもう一度、動くイメージを明確に。剣指を振る。
かすかに、動いたような気がする。
もう一度、回転しながら上昇するイメージ、剣指を振る。
一瞬、浮かんだ。
「……すぅ……はぁ……。」深呼吸して、目を閉じる。
もう一度、回転する剣、シルエットはどう変化する?どれぐらいの速度で上がる?
物にぶつかったらどうなる?全てを詳細にイメージしながら、剣指を振る。

サヤ > 剣が手の中で跳ねて、指を叩いた。
達成感に、口の端を上げて笑う。感覚を掴めてきた。
手の汗で錠剤が溶け始めた。もう剣ではなくなってしまいそうだ。
今日はここまでにしよう、水差しの水で、錠剤を見つからないように飲み込んだ。
「……ふぅ~~。」そのままベッドに横になる、精神力を結構使った。石蒜はどうやって剣を手足のように扱っていたのか……コツが聞ければいいのだが。

ご案内:「常世保険病院・サヤの病室」にアルフェッカさんが現れました。<補足:女/見た目17歳/171cm/79kg/銀髪紫目。しなやかな身体つき、巨乳。触られても分かりませんが、立派なロボ娘です。>
アルフェッカ > 病室の外から、小さな足音が聞こえる。
足音は徐々に近づき、扉の前で止まった。
少しして、金属音が扉から響く。
誰かが扉をノックしているようだ。

サヤ > 「おや」ノックの音。
検温や食事の時間ではない、かといって今日は取り調べも終わったはず。
まさか見舞いの人かな、だったら嬉しい。誰だろう。
「ええと、”かあどきい”を扉の横の機械に通せば開きますよー。」逃亡を防止するため、サヤには扉を開けることは出来ない。
開けるのは外側から受付でもらえるカードキーを使う必要がある、それを聞こえるように、少し大きな声で伝える。

アルフェッカ > 『あ、ありがとう。それじゃ失礼しまーす。』

扉の向こうから、扉の厚みでくぐもった返事が来る。
何かを操作する小さな音と、僅かに遅れて電子音。
その後に、がちゃ、と扉のロックが外れた音が響く。
一拍置いて、がちゃりと扉が開かれた。

開かれた扉の向こうから姿を見せたのは、白いワンピースにジーンズ、ローファーの、やや長身の少女。
肩口で揃えられた青みを帯びた銀の髪と、紫色の瞳が印象に残る。

「――や、こんにちわ。…久しぶり、でいいのかな。それとも、はじめまして、が正しい?」

穏やかな微笑みを浮かべながら、聞く者にとっては不思議に聞こえる挨拶を、ベッドに横になっている少女へと投げかける。

サヤ > 聞き覚えのある声。ええと……誰だっけ。思い出そうとしているうちに、扉が開かれる。

「あ……。」予想外だった、石蒜が出会った相手。
風間さんを襲った時に乱入して来て、怪我を負わせた相手。
驚きに目を見開く、どうやって私が入院していると?いやそれよりも謝らないと。

「あ、ええと……。石蒜としてお会いしてますよ、ね。あの時大変なご無礼を……すみませんちょっと今起き上がれなくて……頭を下げるべきなんですが……。」恐縮した様子で、謝罪の言葉を並べる。

アルフェッカ > 「あ、いいのいいの。アレは私が勝手にやった事だし、傷跡も全然残ってないから。」

気にしてない、と笑顔を浮かべながら軽く手を振る。

「――その口ぶりだと、「あの時」の事もしっかり覚えてるんだね。じゃ、久しぶり、だね、サヤちゃん。」

あの時、蒼介が口にしていた名前で、目の前の少女を呼ぶ。
今は、これが正しい呼び名なのだと信じて。

「名前、まだ言ってなかったね。私はアルフェッカ。よろしく。」

挨拶を交わすと、軽く周囲を見渡す。
立ち話も何だろう。椅子でもあれば、腰を下ろしてゆっくり話が出来るかもしれない。

サヤ > 「覚えています、ええと、説明が難しいんですが。あの時石蒜と私、サヤが同じ体に入ってて、表に出ていたのが石蒜だったので……ですから、ええと……お久しぶり、か、そうですね。」少々しどろもどろになりながら、説明と挨拶を返す。あの時はまだ明確に二人の意識が分かれていたわけでもないので説明に困る。

「あるふぇっかさんですね。よろしくおねがいします。あ、椅子どうぞ。」包帯の巻かれた左手で、ベッドの傍に固定された椅子を示す。

「どうやってこちらへ?誰かから聞いたんですか?」自分は相手の名前すら知らなかった、当然連絡が行っているはずもないので、不思議に思った。

アルフェッカ > 「ありがと。じゃ、失礼します。」

一言断ってから、示された椅子に腰を下ろす。

「――成程。大雑把にしか教えて貰えない訳だ。
随分、込み入った事態になってたんだね。学校での世間話で全部の事情を聴くのは、とても時間が足りないね。」

サヤのしどろもどろな説明から、事態の複雑さを僅かながらも感じ取る。
そして、その複雑化した事態を解決する為に、「彼」と「彼女」が、どれだけの苦難を乗り越えたのかに、僅かに思いを馳せた。

「…私が此処の事を知ったのは、畝傍ちゃんに教えてもらったから。
まさか、あの時キミと一緒にいた女の子が学園の生徒だったとは、あの時は想像もつかなくて。
偶然気分転換に屋上に出た時、ばったり会って結構驚いたんだ。」

畝傍と知り合った経緯と、サヤが入院中である事、彼女と蒼介が戦いの末、サヤを「助け出した」事を、詳細にとまではいかなかったが畝傍から教えて貰った事を打ち明ける。

「…面会に身分証提示がされるとは、流石に思ってなかったな。
畝傍ちゃんと会ったのもだけど、学園に入学してなかったらとてもここには来られなかったよ。」

サヤ > 「すみません、掻い摘んで話すには複雑過ぎますし、順を追って話すと少し長い話になってしまって。ええと、とにかく現状として、石蒜は私の刀に封じられていて、自由には動けないはずです。」とりあえず最低限これだけは伝えるべきだろうと思い、石蒜の現状を話した。病院がサヤの私物として保管しているはずだ。

「畝傍さんから、ですか。ええと、お元気そうでしたか?こちらにはまだ来られてないので、心配なんです。怪我もされていましたし……。」そして、彼女は、サヤを助けるために異能を全力で使っていた、その代償は正気。
話をしたらしいから大丈夫だとは思うが、さらなる狂気に陥っていないか不安になり、様子を聞いてみる。

「ああ、はい。私、指名手配犯ですから……逃亡防止とか、良くない仲間からの接触を断つとか、色々措置が必要らしくて……。」少し疲れたように笑う。油断ならない犯罪者として扱われるのが、堪えているようだ。

アルフェッカ > 「そっか…。でも、その刀を処分しない、って事は、彼女…石蒜の事も、受け止めるつもり、なんだね。」

ぽつ、と口にする。
普通であれば、自身の肉体を乗っ取ってしまう、危険な存在だ。
だが、石蒜を慕っている畝傍は兎も角、サヤも蒼介も刀を処分してはいない。
という事は、「石蒜」も含めて、「助ける」つもりだっただろう。

「うん。畝傍ちゃんは元気だったよ。特に、怪我とかも無いみたい。
近い内、お見舞いに行こうと思ってるって言ってた。いっぱいお話したいって、さ。」

畝傍の様子と、お見舞いに行こうという意志を伝えておく。
サヤも、喜んでくれるといいが。

「指名手配犯…か…。大変な事に、なっちゃったんだね。
本人にその意志はなかったとしても…起こってしまった事実はそうもいかない、か。
厳しいね…現実は。」

少し悲し気に、病室をぐるりと見渡す。
監視カメラに、鉄格子。
これは、病室と言う名の独房にも見える。

サヤ > 「恨みがないわけでは……でも、石蒜は私だったんです。砕けた私の魂の欠片から生まれた存在。だから、彼女を殺してしまうと、私も死んでしまうような気がして……。」いくら歪んだ存在でも、自分の一部のように感じられたし、根っこの部分ではそう悪い人間ではないような気がしていた。少し複雑な感情を抱く。

「そうですか、良かった。じゃあ、近々来てくれるかもしれませんね。私も、お話したいことが沢山あるので、楽しみです。」明るく、微笑む。

「石蒜が生まれたのは、私の責任なんです。私がもっと強かったら、逃げずに居たら、一連の事件は起きなかった。だから、多分これも当然の罰なんですよ。
これでも軽すぎるかもしれません……石蒜は、私は、命をいくつも奪ってしまいましたから……。」すべての責任は自分にあるのだと、サヤは考えていた。だから今の境遇も天罰のようなものだと考えているし、まだまだ足りていないとも感じている。

アルフェッカ > 「一つの魂が、割れて二つに、か。姉妹…っていうのとは何か違うな。
もう一人の自分自身…って言った方が近いかな?」

サヤの言葉に、サヤと石蒜の複雑な間柄が感じられる。
互いを嫌いながらも、どこか絆がある。
それはコインの裏と表…あるいは、どちらが欠けても存在出来ない、光と影の関係に近いのかも知れない。

「うん。いっぱい、お話するといいよ。退屈も、吹き飛ぶくらいにさ。」
サヤの微笑みに、アルフェッカも笑顔を返す。

「――――罰、か。確かに、罪には罰が与えられるもの。
…自分の意志でないにしろ、犯した罪には罰が下るもの。
でも、さ。」

一度言葉を切って、アルフェッカはサヤを真正面から見る。

「サヤちゃん、罰を受ける為に、自分の身を削ろうとか、必要以上の苦痛を望んだり、しないでね。
もしそんな事になって、サヤちゃんが押し潰されちゃったら、蒼介くんも、畝傍ちゃんも、きっと悲しむ。
キミは、ひとりじゃない。それだけは、絶対に忘れないで。」

サヤ > 「もう一人の私……。そうですね、それが近いと思います。絆に近いものを感じていました、今は石蒜の方が閉じてしまって、話とかは出来ないんですけど……。」石蒜が主人と仰ぐ鳴鳴が炎の中に消えたあの決戦以来、石蒜とは一言も話していない。自分としても、どういう態度で接すればいいのかわからないので、今はお互い距離を置くべき時間なのだろう。

「退屈……ええ、本当に退屈なんですよ。天上とか床にはめ込まれた板の数とか、もう数え終わってしまって……。だから、アルフェッカさんもいつでも来て下さい。あなたとも、お友達になりたいんです。」少しはにかむ。こういう時に来てくれる人間がありがたいのは、この数日で嫌というほど思い知った。この縁を逃したくない。


正面から見られて、目をそらすように、天井を見る。
「でも……どうすればいいんでしょう。私は、公平な裁きのもとふさわしい罰を受けるつもりでした。どんな罰でも甘んじて受ける覚悟でした。」しかし、その願いは叶えられなかった。
「ですが、石蒜が主に辻斬りをしていた落第街は、公式には存在しないそうです。だからそこで起きた事件は罪に問われませんでした。
多くの人を傷つけ、殺した罪は、罰を受けること無く消えてしまいました……。
どうすればいいんでしょう……。私はこのまま、少しの罰金刑で釈放されるらしいです。
私が傷つけた人たちにどう顔向けすればいいんでしょう、私が殺した人達に、その遺族に、何が出来るんでしょう……。この手についた血はどうすれば、洗い流せるのでしょう……。」天井の明かりに、両手をかざす。包帯の巻かれた白い両手は、その実真っ赤な血がこびりついている。

アルフェッカ > 「ん…人間って、色んな形に変わるモノ、だからさ。時間を置けば、お互いの感情とか、関係とか、変わっていくかもしれないね。」

サヤの言葉に、そう返す。先行きはまだ分からないが、これから関係が変わる可能性も無い訳ではないだろう。
ならば、それらが少しでも良い方向に向かう事をアルフェッカは願う。

「あはは、この病室、退屈凌ぎ出来るモノがまるでないからね。
畝傍ちゃんはさっき言ったように来てくれるって言ってたし、今度、蒼介くんを見かけたら顔を出してくれないか頼んでみるよ。
――私も、キミと友達になりたい。また、来るね。必ず。」

笑顔で、サヤに返事をする。同時に、次の見舞いの約束も。

「落第街…私も、ここの先生に話だけは聞いたよ。公には、歓楽街区画の扱いで、そんな場所は存在しない。とても危険だから、近寄るな。何かあっても、闇に消えるだけ…って。」

あの時、公園で教えられた事を思い出しながらぽつりぽつりと口にする。
存在しない場所で起こった事件は裁けない。
詭弁と言えばそれまでだ。しかし、この都市ではそれが罷り通る。
…だが、サヤはそれをなかった事に出来るほど傲慢ではなかった。
彼女が優しい子である事は、ここでの会話でアルフェッカもしっかりと理解している。
ならば、いま己が掛けるべき言葉は。

「……受ける罰の無い罪を裁くのは、とても難しい事だね。だから、私が口にするのはあくまでも一つの案。
こんな道もある、って位で聞いてくれるといいな。

――生きて。生きて生きて、自分が償いになると思う事を成し遂げ続けて。
誰に罵られようとも。誰に蔑まれようとも。
死ぬ事は何よりも簡単なこと。本当に大変なのは、罪を背負って尚生きる事。

辛い事かもしれない。でも、キミには、友達がいる。蒼介くんが、畝傍ちゃんが。
出来るなら、私も助けになりたい。」

照明に延ばされたサヤの手を、そっと握ろうとする。
まるで、何かを求めて伸ばしているようにも見える手を。

サヤ > 「そうですね、今はどうしたって話せませんから、退院するまで考えてみます。石蒜も、整理の時間が必要でしょうし。でもきっと、仲良くなれると思うんですよ。」拠り所だった主人を失って、ショックを受けているのは想像に難くない、乗り越えるには時間が要るだろう。

「ええ、お願いします、また来てくださいね。風間さん達には、早くしないと退院しちゃうぞって、脅しといてください。
ふふっ、私はこの世界の人より、随分傷の治りが早いようですから。いつもの以外の服を着ている私は、貴重ですよ。」冗談めかして、クスクスと笑う。実際もう傷はほとんど塞がっているのだ、必要なのは石蒜でいる間飲まず食わずだったために縮みきった胃を戻すのと、切断した部位の違和感をリハビリでなくすことぐらいである。

「ええ……でも、あそこには人が住んでいるんです。誰かの親や子供、誰かの兄弟姉妹、誰かの親友が……。それを斬って回った私が言うことでもないですが……まるで彼らの存在を、生きてきた全てを否定されたようで……。」被害者となることすら許されない、そんな境遇が、存在しうることが悲しかった。
「私は……生きて良いんですか……?無差別に命を傷付け、奪い、嘲笑って来た私が……。」手が握られる。包帯越しに感じる温もり。その手を両手で握り返す。
「本当に……いいんでしょうか……。」視界が滲む、公安に死ぬか手駒として生きるかを迫られたとき、生きると決めたのは自分だが、それが正しかったのか、ずっと疑問だった。
その選択を肯定され、思いがこみ上げてきた。

アルフェッカ > 「ん。急がなくたっていいよ。ゆっくりでも、前に進もうとするなら、前に進んでるって思ってさ。」

急がば回れ…とは少し違うだろうが、急ぎ過ぎて事故を起こしたら元も子もない。
少し悠長すぎないか、と思う位のんびりでも良いのではないか、ともアルフェッカは思う。

「ん、りょーかい。畝傍ちゃんは近い内来ると思うから、蒼介くん辺りを急がせよう!」
あはは、と笑う。同時に蒼介に何と言って急がせるか、くだらない悪巧みを始める。


「――本当に、酷い皮肉だね。そんな形で、此処の「陰」を知る事になっちゃうなんて。
確かにそこにいるのに、公的には、「いない」。
……私も、色々見てきたから、これが初めてじゃないけど…やるせない、ね。自分一人で出来る事の小ささを、思い知らされちゃって。
――せめて、そんな人達がいる事を忘れない。それが、今出来る事…なのかな。」

落第街のような、「存在しないモノ」と扱われる人々は、今までに世界を巡る間、幾つか目撃してきた。
「自分の意志」で世界を巡る時には、その扱いに義憤を感じたりもしたが…結局、最後に残ったのは、個人の力の、力ある組織…「政治」への無力さだったと記憶している。
その事を思い出し、アルフェッカの表情が曇る。


「勿論だよ。」
生きていていいのか、というサヤの問いに、間髪入れずに答える。
「サヤちゃんは、やった事を悪い事だって、罪だって認めて、償おうとしてる。それは、とっても勇気のいる事。
それだけの覚悟を、サヤちゃんはしているんだもの。
誰が、何と言おうと、私が何度だって言うよ。
サヤちゃんは、生きていいんだって。」

握られる両手に、静かに、しかししっかりと力を込める。
言葉に納まりきらない、思いを伝えるように。

サヤ > 「ありがとう、ありがとうございます…………。」手を握ったまま、挟み込むように指を組む、まるで祈るような手。

「ずっと、ずっと……怖かったんです、私……。昨日、公安の人が来て……、手駒になるか、死ぬか選べって……。それで……死にたくなかった。罪が、償えなくなるから……でも、本当にそのためだったのか、私は自分の命が惜しくて、罪から逃げたんじゃないかと……。ずっと、頭のなかで……。もう、自分がわからなくて……。」止めどなく涙を流しながら、握られた手を、額に押し付ける、そうすれば自分の恐怖が、苦悩が伝わるとでも言うように。
「すみません……私……すみません、ちゃんと……ちゃんとしようって……。思ってたのに……。すみません……、もうすぐ、泣き止みますから……。」

アルフェッカ > 「――いーんだよ。泣きたいときは、泣いても、さ。
泣いて泣いて、苦しい事、辛い事、思いっきり押し流しちゃおう。
泣く事は、恥ずかしい事じゃないから、さ。」

微笑みながら、サヤの言葉を…懺悔にも聞こえる言葉を受け止める。
サヤが押し当ててくる額から、もしかしたら震えを感じるかもしれない。

「誰だって、死ぬのは怖いよ。サヤちゃんが怖がるのも、無理はないよ。
――でも、サヤちゃんは罪を償う事を忘れてない。なら、生きて償う。それもきっと、一つの道。」

アルフェッカは、静かに言葉を紡ぐ。
道は示した。が、強制はしない。
選ぶのは、サヤだ。彼女が自分の意志で選んでこその、道なのだ。

サヤ > 「うっ……えぐっ…ひっく、ひっく……。」震える手を、握りしめながら、しばらくサヤは泣き続けた。溜め込んだ恐怖や後悔を吐き出すように。


しばらくして、身も世もなく泣き続け、落ち着いたようだ。
「ありがとうございます。すみません、お恥ずかしい姿を……。私、ええと……泣き虫なんです、すぐ泣いちゃって……よくそれでからかわれました……。」握りしめていた手を離し、頬を赤らめてうつむく。

「でも、泣いてすっきりしました。生きます、生きて……罪を償う手段を探します。」涙ですこし腫れた目に、決意が宿った。

アルフェッカ > 「――ん。分かった。
何かあったら、いつでも言ってね。
…畝傍ちゃんに、蒼介くんにも。きっと、真剣に話を聞いてくれると思うよ。」

穏やかな表情で、サヤを見る。
その瞳に、光が宿ったように感じた。

「――あ、そうだ。ちょっと失礼。…うーん、ナースコールってこの病室にあるかな?
看護師さんに連絡できる内線でもいいんだけど。」

何かを思いついたように、アルフェッカは席を立つときょろきょろとベッド周りを探す。

サヤ > 「はい、わかりました。相談します、人に頼ります。」グシグシと目をこする。それが出来なくて、サヤは一度壊れた。もう二の舞いはごめんだ。

「なあすこおる……ええと、押せば誰か来てくれる機械でしたらここに。」と、椅子がある側とは反対側のベッドの端に置いてあったスイッチを渡す。
「呼ぶんですか?別に私はなんともないですよ。」

アルフェッカ > 「うん。頼る事は恥ずかしい事じゃない。
頼れる人が居るっていうのは、とても素晴らしい事。
誰かを、それだけ信じてるって事だから。」

そっと頭を撫でる。

「お、ありがとね~。ちょっと、私が許可を貰いたくてね。」

そう言うとアルフェッカはスイッチを押す。

程なくして病室に看護師が現れ何事かと訊いて来る。
アルフェッカは一言二言話すと、看護師を連れて病室の外に出ていった。
それから2分程経って、再び病室のドアが開き、アルフェッカが姿を現す。
その手に、先程まで持っていなかった物を持って。

「お待たせ~。金属とか使って苦情を言われたら困るからね。これを作って、渡していいか、許可を貰ったんだ。」

言いながら、手にした物を差し出す。
一輪の花。しかし、手にすればプラスチックの硬質な感触がある。
菊のような花びらを持った、しかし菊の花ではない。ガーベラの、造花だった。

サヤ > 「そっか、そういう考え方もあるんですね。んっ」頭を撫でられれば、くすぐったそうに、恥ずかしそうに首をすくませる。
生まれてからずっと、頼るのは迷惑になるからと、ずっと我慢してきた。でも、どうやら実際は違うらしい。
この島に来て見つけた数少ない知り合いは、迷惑など気にせず私を助けてくれた。

「??」看護師と出て行くアルフェッカを、不思議そうに見る。何をするつもりなんだろう。

「わ、菊の花ですか?」上体を起こして花を受け取り、その植物ではない感触に首を傾げる。
「不思議な花ですね、感触が普通と違いますよ?」造花自体は知っていたが、サヤの居た世界では造花は紙などで作るものだ、プラスティック製のものは初めて触るので、造花だとは見抜けなかった。

アルフェッカ > 「菊の仲間だけど、ちょっと違うかな。ガーベラ、っていう花だよ。
本当は生花だったらよかったんだろうけど、何が持ち込み禁止に当たるか分からなくて、買って来れなかったんだ。
これは、私の能力で作った造花。」

プラスチック製の造花は初めてなのだろう。
サヤの反応を微笑ましく見守る。

「やっぱり、何もお見舞いの品がないのは寂しいかなって思ってね。
それに、今のキミには、この花を贈りたいと思って。
この花の、花言葉は――――」

ガーベラの花言葉…それは、「前に進む」。そして、「希望」。

サヤ > 「があべら……、初めて見ました。造花なんですね、そっかぁ、確かにこんな感触の植物はないですよね。やわらかーい。」くるくる回して色々な角度から眺めたり、ぐにぐにと押してみたりと興味津々だ。知らず、顔がほころんだ。

「希望、前進………。」教えてもらったら花言葉を繰り返しながら、改めて造花を眺める。希望と、前進……私に必要なものだ、忘れないようにしよう。
「来てくれただけでもありがたいですのに、わざわざありがとうございます。大切にします。」胸元に抱きしめるように持って、頭を下げる。

「あ、ええと……。」すっかり話し込んでしまったけど、時間は大丈夫だろうか、と壁に埋め込まれた時計を見る。随分経っている。
「お時間、大丈夫ですか?結構遅くなってしまいましたけど。」心配そうに、問いかける。

アルフェッカ > 「いえいえ、どういたしまして。」

にかっと笑うと、小さく手を振る。
少しでも、気が楽になってくれたなら、此処に来た甲斐があったというものだ。

「っと、確かに良い時間かも。さっきの看護師さんにも、そろそろ面会時間おしまいだって言われたしね。」

名残は惜しいが、お別れの時間だ。
だが、これが永遠の離別でもない。
また、お見舞いに来よう。

「それじゃ、私はそろそろ帰るね。畝傍ちゃんや蒼介くんも、早めに来るように言って置くから!
それじゃ――『またね』!」

明るい笑顔で、再会を願う言葉を残し、アルフェッカの姿は扉の向こうに消えた。別れを惜しむような少しの空白の後、小さな足音が扉の前から遠ざかっていく。

ご案内:「常世保険病院・サヤの病室」からアルフェッカさんが去りました。<補足:女/見た目17歳/171cm/79kg/銀髪紫目。しなやかな身体つき、巨乳。触られても分かりませんが、立派なロボ娘です。>
サヤ > 相手の笑顔に、こちらも笑って返す。随分気持ちが軽くなった。やっぱり人と話すのは楽しい、頼れる相手がいるというのは嬉しい。

「ええ、外は暗いですから、お気をつけてお帰り下さい。私がお見舞いに行くなんて嫌ですからね。」名残惜しいけれど、それを出さないように冗談めかして答える。

「期待してますから、きっと来てくださいね。それでは『また』。」ゆったりと手を振りながら、見送った。
遠ざかる足音に耳を傾けて、聞こえなくなると。
「ふぅ……。」ぱたりとベッドに背中を預ける。少し疲れた、でも楽しかった。

ガーベラの造花を枕の脇に置いて「前進と、希望……。」その花言葉を呟く。
しばらくして、消灯時間になって照明が消えた。目を閉じる。

サヤは久しぶりに、心からやすらぎながら、眠りに落ちていった。

ご案内:「常世保険病院・サヤの病室」からサヤさんが去りました。<補足:黒髪の少女。薄緑色の病衣に、点滴チューブ。【乱入歓迎】>