2015/07/17 - 21:21~02:42 のログ
ご案内:「画材店」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。<補足:[乱入歓迎] 女装中 褪せた長い金髪 青い瞳 ベレー帽 フリルブラウス フレアスカート>
日恵野ビアトリクス > ある晴れた日。
長い金髪にベレー帽、フレアスカートの少女が
こころなしか軽やかな足取りで、学生通りに並ぶビルのひとつ
画材店へと踏み入れる。

ビアトリクスは少しばかり浮かれていた。
《クラーケン》撃退のさいにおりた報奨金。
常世学園では、敵対的怪異の退治に成功した場合
いくばくかの報奨金が支払われることもある。

はじめはフーンとしか思っていなかったビアトリクスだが、
いろいろ落ち着いて冷静に金額を見て気づく。
あれも買える、これも新調できる……。

そんなわけで品揃えのいい学生通りの画材店へと足を運んだのだ。
普段めったにしないおしゃれなどして。

「~♪」
鼻歌まで歌って。

日恵野ビアトリクス > 空調の利いた店内。
鉛筆、筆、絵具、支持体、製図用品、造形材料、
名画の複製、参考書籍……
さまざまな画材がみっしりと並んでいる。
金がないときにウィンドウショッピングするのも一興ではあるが、
臨時収入を得た今はもっと楽しい。

さて何を買おうか? 足りないものは結構多い。

日恵野ビアトリクス > 「筆にデッサン用の鉛筆、ポスターカラー……
 このへんはいくら合っても足りないな」
箱でセットになっている鉛筆などを大胆にゴロゴロと
買い物カゴに入れていく。
筆も消耗品だ。特に毎日のように描いていると消耗が激しい。

「あ、セーブル筆だ……」
普段は手を出さない高級な絵筆である。
値段がかさむが、水彩に適した筆のコシと水含みの良さがある。
「……買っちゃうか」
それもカゴに。

ご案内:「画材店」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールブーツ>
ヨキ > (メモを片手に、ビアトリクスと同じくカゴに商品を入れてゆく姿がある。
 ペーパーパレットに鉛筆、海綿……細々とした消耗品。
 専門としている金工とは少々趣を異にする、篆刻用の印材。それから少しの贅沢、岩絵の具。
 勝手知ったる店内らしく、買うものさえ決まればあとはスムーズだった。

 画材店然とした狭い通路を縫うように歩いて、各種の筆が置かれた棚を覗き込む。
 先客の少女――それが顔見知りとは気付かなかった――の姿を認めると、ビアトリクスの頭上へにゅっと手を伸ばす)

「ちょっと失敬」

(ベレー帽を避けるように伸ばした手で、太筆の一本を取った。つやつやの水彩筆。
 そこで何気なく見遣った少女の顔に、はたと気付いて)

「…………、む」

(ごく小さな声。名は口にしなかった。どうやら、自信がないらしい)

日恵野ビアトリクス > 新しい筆。新しい道具。
慣れた道具もいいが、一段階上のモノを揃えると気分が弾む。
使い心地を試すのが楽しみだ。
思わず頬が緩んだ。
(次はスケッチブックかな)
別のコーナーに移動しかけて――長身の男と目が合う。

「…………」
表情が固くなる。
さまざまな人種の集う常世学園、
その中でも特に浮いた色彩で描かれた彼。

しばしの沈黙の後、観念したように。
「……どうも、日恵野です」
聞き覚えのあるであろう、しゃがれた低い声。
別にやましい格好をしているわけではない。
それとは関係なく、この男につかまると面倒なことになりそうな気がする。
かと言って退散してしまうわけにもいかない。買い物はまだ途中なのである。

ヨキ > (あまり知らぬ女性の顔をまじまじ見るものでないと憚ったか、目を逸らし掛けて、彼女――もとい、彼の声に気付く)

「ああ、日恵野君……君だったか。……」

(びっくりした、と珍しく小声で漏らす。
 今しがた手に取った筆と同じ毛質の、大きな平筆をもう一本、カゴへ入れた)

「めかし込むと判らんものだな。いい器量だ」

(あんまりにも素直に感想を零して、自分のメモへ目を落とす。
 年寄り臭い筆跡で、水彩紙の名前が記されている)

「……美術といえば、精を出すものもそう多くないからな。
 こんな場所で生徒に会えると……、うれしい」

(メモに視線を落としたまま、ビアトリクスの顔こそ見てはいなかったが、その口元は小さく微笑んでいた)

日恵野ビアトリクス > しまった気づかれていなかったのか。
普通にやりすごせていたかもしれない。迂闊さを呪う。
外向きのエネルギーに溢れた装いとは反する、いつものような不機嫌そうな顔に。

「そりゃあ、ありがとうございます」
言葉ばかりの礼を述べる。
別に誰かに見せるためにこの格好をしているわけではない。

「……ぼくもここで美術部部員以外の知り合いに
 会うとは思っていませんでした」
製図用品や通常の文房具の扱いもあるが、
それは一般的な文具店で事足りるため、
ここにわざわざ足を運ぶようなものはある程度限られる。

ヨキ > (顔を向け、もはや見慣れてしまった仏頂面を見下ろす。
 ぱちぱちと瞬きして)

「せっかくの買い物ならば、気付かぬふりでもしておくべきだったか。
 いかんな、気のひとつも使えんでは」

(指先で側頭部を掻く。
 悪い意味で飾ることのない、いつもの口調)

「この間の――屋上で。
 君には、すっかり嫌われたろうと思っていた」

(思って『いた』。言葉こそ過去形であるものの、声のうちには、今もまだ、というニュアンスが含まれている)

「ヨキは勝手に、仲間を見つけたような気分で居るのだが。
 ここでの君の買い物に、話がてら付き合っても?」

(どうかね、と、首を傾げて尋ねる)

日恵野ビアトリクス > (嫌われた、ねえ)
目を伏せる。
この男は今まで話したどんな人物とも違う。
どこか距離感を図れない。それが警戒を消せない理由だ。
しかし、嫌悪によって隔てるという域にもいかないのも事実である。

「……別に、構いませんよ。急いでるわけじゃありませんし。
 面白い話はできませんけど」
そう告げて、スケッチブックが並ぶ一角に足を向ける。

ヨキ > (相手から了承を得られると、安心したという風よりは、純粋に嬉しさから目を細めて笑む)

「有難う。
 独りで黙々と買い物を済ませるのは、手早くはあるが時に退屈でな。
 話など構うものか、君が連れ立ってさえくれるなら」

(相手の後ろをついて歩く。
 ヨキが歩み寄るのは、ビアトリクスが向かったスケッチブック――の、すぐ隣。
 リング綴じではなく、平たく板のように包装された水彩紙の棚だ。
 ほんの10枚ほどで安価なスケッチブックがいくつも買えてしまうような大きな紙束を、棚から引き抜いて小脇に抱える。
 嫌味でもなく、平然とした顔で)

日恵野ビアトリクス > 自分の普段買うものとは桁数がひとつかふたつは違うそれを抱えるのを見て、
少しだけ戦くが、まあ、そういうものなのだろうとすぐに納得。

いつも使っている安価な画用紙タイプのスケッチブック……は無視。
やや値の張る水彩紙タイプのスケッチブック……これも無視。
通販で一度に大量に注文したほうが安くつく。

そのかわりに、《呪印画用紙》のスケッチブックを手に取る。
10枚組。水彩紙ブックよりも高値だが、術目的ならこれが良い。
数冊手に取って、カゴに。

「……筆や塗料は、ぼくの異能で多少は節約できなくもありませんけど
 紙やキャンバス、支持体はごまかせませんね。
 毎日やってると、いくらあっても足りない……」
やれやれ、と嘆息。

ヨキ > (ビアトリクスがどのような画材選びをするのか、およそ同好の士といった顔で眺めている。
 その手が取った呪印画用紙にほう、と感心したような声)

「さすがに良いものを使う。……とは言っても、ヨキは絵を異能や魔術には使わぬからな。
 どのような描き味か、想像もつかん」

(呪印画用紙の、ビアトリクスが取ったものより小さなサイズを手に取って、しげしげと眺める。
 が、自分では買わずに間もなく棚へ戻してしまう)

「単に『絵を描く』というだけで金が掛かると言うのに、術者とあっては余程のことだろう。
 このヨキも、おいそれと高いものを買ってはいられんよ。

 ……ただ、たまの贅沢というのはやはり気持ちのよいものだからな。例えばこの……水彩紙。

 来月にはもう、夏休みだろう。
 年少の生徒たちに、こいつで絵を描かせてみようと思ってな」

(仕立ての良い水彩紙の大きな表紙を、人差し指でタテタテヨコ、となぞる。
 程よい大きさに裁断して、特別に子どもらに使わせてみよう、という魂胆らしい)

日恵野ビアトリクス > 呪印画紙のスケッチブックのうちひとつを広げる。
つぶさに観察すれば、ページの端に微細かつ精緻な呪印が全体を包み込むように
刻み込まれているのがわかる。
魔術を補佐するものであるらしい。

「描き味は一般的な画用紙と大差ない……そうです。
 まあ、多分もったいなくて手を付けられないでしょうね。
 “切り札”として、欲しかったんです」
こんなもので毎日絵を描いていたらきっと破産してしまうだろう。

水彩紙の用途について聞かされれば、意外そうに目を丸くする。
てっきり自分用のものだと思っていたからだ。
教材費として落ちるのかな、と下世話なことを考えてしまう。
案外いい教師なのかもしれない、と警戒が下がり、表情から緊張が解ける。

ヨキ > (ビアトリクスが広げた紙の表面を見遣る。
 水彩紙の見慣れたウォーターマークとも異なる、細やかな紋様に目を凝らす)

「切り札……とっておきか。中途半端な絵は載せられないな。
 お目に掛かってみたいものだな、君の“切り札”が、どれほどの描写になるのかを」

(水彩紙の用途に目を丸くするビアトリクスに、悪戯めかして小さく笑う。
 問わず語りとばかりに、ぽつぽつと言葉を続ける)

「まあ……ここまで来ると、ヨキの趣味であるな。経費で落ちるのは、」

(カゴに入った安価な消耗品を、上から指でぐるりと囲む)

「――ここまでだ」

(相手がその表情から緊張を緩ませるのを、穏やかな顔で見つめる)

「人間の中に、長じて美術から遠ざかる者は多い。
 理屈を知り、巧みな手合いを知り、自分の限界を知って……大半の者は、離れてゆく。

 子どもたちが、ヨキの愛した美術を嫌いになる前に、……描くことのただ気持ちよさを感じているうちに、描かせてやりたい。
 あとで結果的に、絵から離れることになったとしても――自分はやるだけのことをやって、その道を選んだのだと。

 …………。ヨキの考えを、甘いと思うかね?」

日恵野ビアトリクス > 「……甘いかどうかはぼくにはわかりませんね。
 贅沢な話だな、とは思いますが」
スケッチブックの棚から、踵を返し、しかし目的があるわけでもなく、角から角へ。

「……けれど、世界の広さを触らせることは、
 教育としてはまあまあいいんじゃないでしょうか」

『自分は絵筆を持った労働者だ』。
ある絵描きがそう言った。
立ち返る。
《描画魔術師》、《具象者》、《具現召喚師》。
いくつか呼び名のある、自分の目指そうとしているもの。
予め定められた行き先。世界の果て。
魔術師の子として生まれた自分は、その時点で美術に臨む純粋さに欠けている。

少し俯く。落ちそうになったベレー帽を手で支える。

「……ぼくは、離れるタイミングを逃してしまいました」

垂れたウィッグの陰で、陰気に笑う。

ヨキ > (再び、ビアトリクスのあとを行く。
 何かを探すでもなしに陳列された画材を見ながら、ただ歩く。
 目を伏せて、微かに頷いた)

「――そうだな。贅沢だ。
 あるときは、子どもにアルシュの良さが分かるものか、と言われた。
 またあるときは、他に金の使い道などいくらでもあるだろう、とも。

 ……その反面、このアイディアを手放しで褒めてもらえたことも、君のように冷静に認めてもらえたことも、ある。
 何が本当に正しいのかは、分からない。
 所詮は人の在りようを知らぬけだものの、紙の無駄遣いに過ぎないのやも知れん。
 だがヨキは……ヨキなりに考えた上で、続けている。この“趣味”を」

(相手の、ほんの小さく覗く口元を見る。じっと見定めて、言葉を選ぶ。
 低い声音で、ビアトリクスの耳へだけ届くように)

「――君が絵から離れられなくなったのは、なぜだ。
 周りがそうさせたのか?……それとも、君自身がそうは出来ないと、判断したのか」

日恵野ビアトリクス > ……卓越した写実的なデッサン力。
歳に似合わない鋭い観察眼と色彩感覚。
かつては神童と謳われたこともある。けれどそれも遠い話。
今は跳躍も逸脱もできずにくすぶり続けるのみ。

「そもそも芸術というのは贅沢なものですよ。ちがいますか」

芸術が世界のありようを切り取る記念碑であるならば、
芸術は、その一瞬だけでも、世界が子供に対してそうであるように、
手足をどれだけ広げさせてもぶつかることのないようなものであるべきだ、
ビアトリクスはそう考える。

耳に届く、ささやくような言葉に。

「……ぼくは、絵が、好きでも、嫌いでもありません。
 ただ、生存するだけ、そのための手段として描いています」

絵筆を銃刀の代わりとして使っている。

「……ぼくは芸能の冒涜者です」

吐き捨てるように。

ヨキ > 「芸術が、贅沢かどうか。
 それには美術教師として、人間として、ではなく……かつて一匹の獣だったものとして、思ったことを答えよう。

 贅沢だ。
 飢えを満たさず、喉を潤さず、直截に報われるものもなければ、人が生きるに必要なはずの金を際限なく吸い取ってゆく。
 はっきり言って――こんなに無駄なことは、ない」

(ビアトリクスを見据えたまま、結んだ口で深く笑う。携えた水彩紙の表面を、白々しくも愛撫してみせる)

「『生存するためだけの手段』が冒涜と言うならば、この世、乃至はこの常世島に、どれだけの冒涜者が居ることか。
 人が生きてゆく金を得るために、好きでもない労働をこなすのと何が違う?

 人間が働いて金を得続けることも、獣が天敵から逃れることも、……そして、君が好きでも嫌いでもない絵を描き続けることも。

 生きてゆく上で、好ましくはないが避けられもしないこと、というのは、必ずある。
 君の場合は、それが絵だった、というだけではないのか。

 ……ヨキは、君を冒涜者とは呼ばん。
 だがヨキの不躾さが、本当の君を知らぬままに、ヨキの言葉のみによって語ったことは――謝らねばならないと思う」

日恵野ビアトリクス > 「そう。
 芸術は飢えや乾きを癒やすものであってはならない。
 徒に水を奪い花を枯らす砂のようなものでなければならない……」

無駄で、何の役にも立たない。
それが芸術だ。ビアトリクスはそうかたく信じている。

それを自分は。
卑しくも現世にしがみつくために。

身体ごと顔を背ける。

「謝る必要はありません。
 知ってもらう必要もありません。
 ……強い言葉を使ってしまいましたね。
 ぼくはこのあたりで失礼します。会計を済ませないと」

泥を食むような無表情のまま、カゴを抱えてその場を離れる。

ご案内:「画材店」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。<補足:[乱入歓迎] 女装中 褪せた長い金髪 青い瞳 ベレー帽 フリルブラウス フレアスカート>
ヨキ > (何も言わず、背けられたビアトリクスの横顔を見る。
 視線がその輪郭をなぞり、背けることだけはしない)

「……それでもヨキは、芸術を愛して止まんのだ。山師のように、人心を煽り、ときに逆撫でしながらも。
 君とて何も憚らず、思ったことを口にすればよい。……何故ならヨキが、君に対してそうしているのだから」

(別れも告げず、ビアトリクスを見送る。流れるように目を伏せ、踵を返す)

「砂――あるいは酸か」

(奪い、枯らし、溶かすもの。
 それまでの平和な買い物客の姿に引き戻し、呟く)

「ヨキとてそう在りたいものだ」

(芸術の毒性に。美の怪物性に。
 真にそれらのけだものとなるためには、人間で在らねばならない)

ご案内:「画材店」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールブーツ>