2015/07/20 - 21:28~00:54 のログ
ご案内:「教室」に朽木 次善さんが現れました。<補足:生活委員会。いくつかの書類を持って、授業の終わった大教室の中央で額を押さえている。>
朽木 次善 > 大教室の授業が終わり、生徒は疎らに荷物を手に帰り始めている。
その中で、仕事用の書類を取り出して、一人、額を抑える景気の悪い顔の男がいた。
書類には、第八地区修繕案と書かれている。
それ自体は生活委員会、特に整備課としては見慣れた書類なのだが。
今回は、少しだけ頭が痛い事案に発展しかけていた。
それが表情にも、目の下の隈にも表れているのだが、それは「いつものこと」でもあった。
生活委員会の仕事を「適当」にこなすために、いつも彼はこんな顔をしている。
朽木 次善 > 『第八地区修繕案』。
簡単にいえば、危険が認められ、改修の要を認められた修繕案の書類だ。
例えば崩れそうな道。危険に出っ張った壁。壊れそうな橋桁。
そういったものを修繕し、保全するための「申請書」がこれに当たる。
これ自体は市民の要望を受けて現地の先遣隊から上がってきた報告を下に、
その作業に当たる朽木が計画し作ったものであり、特に珍しいものではない。
今回の作業は「無舗装道の取り壊しについて」の書類だ。
無舗装状態の獣道が第八地区、居住区の中に認められ、
メインに通る山道が存在しているにも関わらず通行が可能になってしまっているため、
それ自体を潰すために補修工事を行う必要があるという内容だった。
先遣隊の報告によれば人が迷い入るにはかなり険しい道であり、
自分から進んで入り込まない限りはそれを道として使用する人間はいないだろうという報告が上がってきていた。
実際現地に足を運んで自分も確認してみたのだが、
夕闇に紛れてはどれがそれかも分からないような、草木の生い茂る裸の道が確認出来ただけだった。
朽木 次善 > その山道は、山の頂上に存在する神社へと繋がっている。
神社といっても居住区の中央に鎮座するような大きな社があるわけではない。
山道の途中、ただひっそりと息づく程度の社が立てられているだけの神社だ。
その神社に向かうことでさえも、その獣道を通る理由など何も存在しておらず、
メインの山道を通ればいいだけなので、やはりそれも問題にならず、
『第八地区修繕案』は問題なく履行され、『獣道は道として封じられること』になった。
なった、はずだった。
朽木 次善 > 『その道を、取り壊さないでくれないかねえ』
作業に入ったときに俺にそんな言葉が掛けられた。
嗄れた声の主は老婆で、後ろに同年代の男女数名を引き連れていた。
手には修繕案の書類よりやや分厚いだけの書類を持っており、
大事に抱えていたそれを自分に向けて差し出してきた。
それは、署名だった。
『獣道を取り壊すこと』への『反対署名』だった。
何でも、その老婆の聞くにその道は、山道の続く神社に祀られる神にとって、
神がその社に降りてくる際に通り抜けるための『神道』であるということだった。
だから、そこは例え人が通り抜けることが出来なくとも、
その地区に暮らす人にとっては『必要』な道であるということを、
その信仰のあり方等を交えて、丁寧に、そして切迫した様子で説明された。
朽木 次善 > 俺は、困った。
「……困った、な」
声にも出てしまった。
それくらいには、困っているらしい。
その道をなくすという計画は、既に先遣隊の調査を終えて整備班に回ってきた時点で、
生徒会からの委託という形で正式な生活委員会の業務として収まっている。
故にそれを覆すということはけして容易ではないどころか、現場からの上申では不可能ではないかと思う。
老婆たちの言い分はわかる。自分には信仰する神がなく、この島に来たのも二年目だ。
彼女たちがその社にどんな思いを向けているのか、生活とどういう結びつきをしているのか、
はっきりと理解出来るわけではないが、それでも、想像することは出来る。
それを取り壊すことが彼女たちにとっては宜しくない結果であることは、重々承知している。
だが、その道が危険な山道であることは間違いない。
そのままにしておけば大人が意図的に使うことはないにしろ、
子供が迷い込んで怪我をした場合、責任の所在はその危険性を理解していながら指導をしなかった生徒会と、
その業務を行える立場であったにも関わらずに対策を怠った生活委員会にあると、自分も思う。
そうならないための生活委員会であり、それを誇りにやってきたはずだったが。
生活委員会を続けていると、往々にしてこういう問題には遭遇する。
三枝あかりに言っていた、「便利が他人の便利を侵害する場」に、今自分はいる。
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールブーツ>
ヨキ > (座学の授業を終え、別の教室を出たところだった。次の授業へ、休憩へ、帰宅へ、さまざまな行き先に向かって歩みゆく生徒たちのあいだを歩き、ときどき立ち止まっては言葉を交わした。
そうして廊下を行く最中、何気なく覗いた教室に、ひとりの姿を見つける――額を抑える彼の声を、人外の耳は言葉ともなく受け取った。
教室の入り口からしばしその姿を見遣り、やがて同じ室内へ足を踏み入れる)
「………………。
――やあ、お疲れ様。何事かあったかね?」
朽木 次善 > (ヨキに声を掛けられ、不景気な顔を上げる。
一人で懊悩していたことによって寄った皺で、座ったままヨキを見上げた朽木の眉間には、
インフラ整備が必要な谷が出来ていた)
「ああ。先生。
すいません、次ここの教室使い……あ、俺、ですか?
……あ、えっと。……そう、ですね。できれば、聞いてもらいたいかも、しれないです」
(ちょっと、自分一人では回答出せない状況にあって、と、付け加える。)
(………。
簡潔にだが、要点が伝わるように、先程まで『自分の中で言葉として整理していた内容』を、教師に対して伝えた。
不足はなかったので、きちんと伝わっていればいいのだが。
机の上で指を編み、嘆息とともに言う)
「……この件に関してままならないことに、生活委員会の先遣隊は既に、
山の権利者=社の所有者にも既にこの山道を潰すことへの同意を貰っているんです。
誰一人として「正式な立場でそれを拒否出来る」立場にはいなくて。
だけど、その気持ちを無碍に出来ないっていう俺のわがままだけで、今作業は2日の遅れを見せている。
今のところ……遅れは取り戻せそうなんですが、どうにもこのまま行けば……」
(そう、このまま行けば。
強制執行の対象となり、現場の自分たちはその道を『生活委員会』として迷わず取り壊さないといけない。
その言葉を、苦々しく教師に向けて吐露した。
ただその吐露だけで、どこか気が楽になったような心地がして、自分がいかに追い詰められているかだけが分かった)
「すいません。
授業と関係ない、生活委員の業務内での話で……」
(少しだけ、弱った人間の声が出る辺り、毅然としたこの教師の前で自分は情けないなと思ってしまった)
ヨキ > (長身から相手を見下ろす表情は穏やかだ。
その顔を見遣るに、彼が生活委員の一員であることは知っていた)
「いや。ここは確か、次は空いていたはずだ。
――ヨキも聞く者の少ない教科ゆえ、時間があるのでな。
いいだろう、ヨキは異邦人ゆえ、君ら生活委員には随分と世話になってきた」
(話し相手となることを言外に了承し、朽木の前の座席へゆったりと腰を下ろす。
その眼差しを真っ直ぐに見据えながら、彼の話へ丁寧に耳を傾ける。
相手とのあいだに挟んだ机に肘を突き、ふむ、と小さく声を漏らす。
彼の声音に、幾許かの弱みが滲み出たことにも笑いはせず、徐に頷いた)
「……『無碍には出来ない』。
人の声を丁寧に聞き入れるとき、避けては通れぬ壁であるな。
その道の謂れを、ヨキもあの辺りに住む者から聞いたことがある。
学園を作るときには、島を随分と切り開いたということだったから……。
その獣道は、彼らにとっても残り少ない、『生きた信仰』であったのだろう。
それを残してほしいという思いも、その声に応えたいという君の気持ちも、判る」
(そこで一度言葉を切る。
言葉を選ぶように、だが、と口を開いて)
「君ら生活委員には、島の暮らしを守らねばならぬという――務めがある。
例えば、今の作業の遅れが『撤回されるやも知れない』という彼らの期待を煽り……
それでいて、強制執行が行われたとして。
整備が既に決定した事項である以上、彼らはどんな形にせよ、傷を負うことが決まってしまったのだ。
……君の仕事は、彼らの傷をいかに浅く保ち業務を遂行するか、あるいは、癒してゆくか。
人の信仰のかたちに、代わりはない。……だが、変化してゆくことは、出来る」
(さながら問わず語りのように、ぽつぽつと言葉を紡ぐ)
朽木 次善 > (猫背の自分とは対称的に思えて、卑屈な苦笑が漏れそうになる。
堂々とした喋りも全て、自分にはないもので……。
たった一度言葉を交わしただけで惹きこまれそうになる自分に気づいて、心を整える)
「すみません。ありがとうございます」
(本来なら、他人の悩みを解決する立場にあるために、
自分は特に、他人に懊悩や弱味を相談することがあまり得手ではないことを自覚していた。
が、故に自分の中で咀嚼してくれるヨキに心の中で小さく感謝する)
「そう、です。
前提として、人々の暮らしのためという物があって。
それが今回、別の角度から見たときの人々の暮らしそのものを傷つけてしまう。
人々のための整備で、人々が傷を負う。
それが、俺には……少しばかり怖い、怖い、のかもしれません」
(息を吸い、吐く。
手の中には、少しだけ厚い署名の元本が収められていた。
自分はこれに触れているだけで、指先を火傷しそうな熱が襲うように思えた)
「変わり、ますか。そして、俺たちはそれを癒せるんですかね……。
この人たちが信じてきたものを一度傷つけ壊した上で、緩やかにでも変わっていけるんでしょうか。
そして、俺たちは、立場としてそれを……痛みを共に癒やすことを、彼女たちに望んでもいいのでしょうか。
俺は、信仰や神そのものが理解出来てないのだと思います。どれくらいそれが人に重きを持つのかも。
だから、容易にそれを傷つけることが、出来ないんだと、思います」
(理解できないものには触れるのが怖い。
知らない振り、見ない振りをする賢さのない青年はヨキにそんな言葉を吐露した)
ヨキ > (金色の視線は、朽木の唇を、言葉を、表情の変化を余さず拾い上げんとするように、半ば無神経なまでに注がれている。
机の上に置かれた手は、鉄の置物のように座して動かない。
首肯と瞬き、呼吸に上下する肩だけが、朽木とやわらかに向き合う)
「君は……たしか、二年だったか。
この常世学園は――生徒の年齢を定めぬとは言え、運営を君ら生徒に大きく負っているからな。
特に、歳若い生徒には……かつてない決断を強いることも多かろう」
(自分は朽木が手にしたファイルの温度を知らない。
反面、その手がたしかに『常世島に関わる仕事』をしているのだと――指先から手首、腕を辿って、相手の顔を見る)
「……変わるさ。
このヨキは現実に、人の信仰のかたちが変わってゆくのを見た。
残念ながら、人間の生にとってははるかに長い時間ではあるけれども――
君は、向き合わねばならんよ。
この日本にあって、定まった信心を持つ者は多くない。
だが――君の強みこそ、その『定まった信心を持たない』ことだと、ヨキは思う。
つまり君は、学園側にも、彼ら信仰する人間たちの気持ちにも、耳を傾ける『姿勢を取ることが出来る』。
話を聞き、話をすることだ。辛抱強く。明確な答えなどない。
ヨキとて、神仙のように君を教え導くことは出来んのでな。
……それがひどく歯痒い一方で、こうして君の隣で、君の話を聞いていられる理由にもなる。
傷つけたくない、傷つけられない――それを怖いと思う心に今は向き合い、自分で咀嚼してゆくべきだ。ゆっくりと」
朽木 次善 > (正面から顔を見られることにも慣れていない。
それが彫像のごとき均整の取れた顔立ちと慧眼に金の粒を落としたような瞳に見つめられれば、
自分でなくともそれを直視するのは憚られる。視線をヨキの首辺りに落として話を聞く)
「はい。二年目ですね。生活委員会としての仕事も、二年目になります」
(ヨキの、推測や推定からでは出てこない強さを含んだ言葉が、心のひび割れに染みこむ。
それはあまり、自分にとっては好ましい状況にないため、あくまで公平な目と耳としてそれを聞くことを心がけた)
「向き合わなければ、ですか。
分からない、なりに。いや、先生の言うとおり、分からないから、こそ、ですかね……。
俺も、そうですね。苦しまずに自分の言葉を吐ける立場よりは、
苦しみながら他人の言葉を聞ける立場にいたいと思って、生活委員を志したので」
(大きく息を吸い、少しだけ胸の中に溜めて懊悩とともに外側に吐き出した)
「出来れば、ヨキ先生が見てきた物や人と同じように、
俺も、俺が携わるこの件に関わった人も……何らかの落とし所に、少しずつ傷ついて、
そして現実に向き合ってカサブタを作っていくべきことなのかも、しれませんね。
きっと、物語の登場人物なら、もっと格好良く迷わず決めてしまえるんでしょうけど。
どうにも……そう簡単には行きません、ね」
(それは諦めではない。現実を飲み込み、考え悩むことを決めた物がする、苦渋の表情だった。
きっと、誰もが納得するような答えを自分は導く事はできない。
自分はそれこそ社に祀られる神でもなく、万能の異能を持つ超人でもない。
安易な救いは貰えない。向き合い、苦しめと彼は言う。
それは一種、外側から見れば冷たさを感じる言葉のように見えて、
真に相手を後ろから押すエールに……自分は聞こえた)
「ヨキ先生、ありがとうございます。もう少し、悩んでみます。
問題に悩まされるのではなくて、自分から問題に悩みに行ってみようと思えました」
(直視出来ないはずの相手の金色の瞳を、今度は歯を食いしばりながら見つめ返しながら。
まずは、それから逃げないように。
格好の悪いことに。それはかなり勇気が居ることだったが。
……それだけは、感謝とは違い伝わらなければいいなと心から朽木は思った)
ヨキ > 「二年目。仕事にも慣れて、後輩が出来て。上からは仕事を任されることも、判断を迫られることも増えよう。
……ヨキはただの教師だからな。君ら委員の仕事を、真には把握してやれないこともある。
そうして君のように……自らの心のうちを吐露してくれることは、ヨキにとって有難い。
その苦しみを、ひとりで抱え込むべきではないと……このヨキは君ら生徒から信頼され、君らを常に支えてやれるようにしていたいのだよ」
(わずかに眉を下げ、薄く笑う。
生徒にどこまでも決断を強いる教師という立場に対して、苦みを滲ませるように)
「傷は、癒えぬまま長く膿を残すこともある。
どんなに強力な治癒の異能の使い手とて……君がいま向き合っている人々の、傷を塞ぐことは敵わんだろう。
……人がみなひとりひとりが主人公などと、偉ぶって説くつもりはないがね。
君は、書かれた登場人物ではない。君を導く書き手はどこにも居ない……。
その代わり、君は人の声を聞き入れることも、あるいは人の心を動かすことだって――出来うる」
(彼の眼差しを受け取る。
凝った頬の奥で、歯がどれほどの力で噛み締められていることか、しかし気にした風もなく、優しく受け止め、見返す)
「君……名前は朽木君、と言ったか。
生活委員の中でまめに動いている者が居ると、聞き知ってはいたよ。
ヨキは君のような生徒の、いちばんの味方でありたいからな。
最終的に答えを出すのは、君と、君ら生活委員だ。
その代わり、答えを出すための手掛かりはいくらでも集めたほうがいい。
ヨキもまた、君の力となれるように……その件、覚えておこう。
信心はないにせよ……あの土地には、このヨキも思い入れが多い。
より良い方向へ進んでほしいと、そればかりだ」
朽木 次善 > (ヨキの言葉に耳を傾ける。
シン、と深く染み入るのは、もはや気のせいとは思えない。
親身になるという行為がどういう行為であるのか、言葉ではなく態度が何より教えてくれていた。
そういう意味では、この人はまさしく正しい教師の形をしている)
「……そう、ですね。
俺は登場人物ではなく、俺を導く書き手は、どこにもいない、ですか」
(ただその言葉だけは。何故か。
ヨキ自身が想定しているのよりもかなり深く、彼自身に突き刺さり、抜けない杭となる。
本人もまだ言葉に出来ていない感情が揺れ動き、それは一つの布石として彼の心の中に種を置いた。
それは恐らく、それを言葉にするときに芽吹き、花を咲かすだろう。今はまだ、音もなくそこにある。
――名前を呼ばれ、我に返る)
「嗚呼、じゃあ、っていうと、失礼になるかもしれませんが
また道に迷った時に、相談する相手の一人として、カウントしても――」
(そこで、苦笑を零した)
「いや、カウントさせてください。味方であってくれるなら、俺も嬉しいです。
そんなに、期待されるほどマメでも、優秀でもないですけど、
優秀じゃないからこそ、きっとヨキ先生の言葉が一番効くとは思うので。
きっと、俺は他人よりは迷いやすい人間だって思うので……。
例え問い自体が答えが出ないことであっても、そうですね……。
……話して楽になった状態で臨んだ方がいいような気がするので」
そして、もう一つだけ、気がつく。
この助けを求める道が。それこそが、彼女達の守りたい信仰の象徴としてのあの畦道なのだとしたら。
自分がヨキ先生の存在を希求するその追い詰められた気持ちが、もしかしたらそのまま老婆たちの苦悩なのかもしれない。
だったら。
「ありがとうございます。
俺も、出来るだけ良い回答を出せるように、班全員で考え、悩んでいきます。
失礼します。また、相談に乗ってください」
決意を胸に、ヨキに頭を下げ、教室を去る。
だったら。
この気持ちを失うことを想定すれば、きっと自分はこの件で誰よりも深く傷を作る事が出来る。
親身になり、共にその傷から立ち上がることが、出来るはずだ。
言葉に加えて、そのあり方で道を示してくれた教師に感謝を胸にしながら。
自分から苦悩し、苦しむために一歩目を踏み出していった。
ご案内:「教室」から朽木 次善さんが去りました。<補足:生活委員会。いくつかの書類を持って、授業の終わった大教室の中央で額を押さえている。乱入歓迎。>
ヨキ > (自分の言葉が、朽木にどれほどの影響を与えるか。当人は、気にもしていなかった。
傲慢なまでに暴き、踏み入り、投げ掛けること。その習性がただ――結果を齎すだけなのだと。
朽木が自らの言葉を復唱すると、ああ、とだけ、短く返す)
「もちろん、いつでも頼ってくれたまえ。ヨキはいつまでもここに居る。
君がこの島に残ろうと、残るまいと、教師のひとりとしてな。
だからヨキは、君が携わったあの獣道の行く末を――永く見守ることになるだろう。
この島で成長してゆく君と、君ら生徒が変えてゆく島の姿を……ヨキはいつまでも、心に留めておく」
(それは彼に対する、ひとつの約束だった。口約束でこそあれ、破るまいと。
頭を下げる朽木に向け、大らかに頷いてみせる)
「――この巨大な島を保ってゆくことは、個人ではとても出来ることではない。
だからこそ『委員会』という、集団のかたちを取っているのだ。
仲間とともに……人々との和を、築いてゆけるといいな。
ヨキはいつでも、君を待っているとも。
相談でも、出した答えでも――あるいはそれらのいずれとも関係のない、一人としての君とのお喋りであっても」
(最後にひとつ、にこりと笑う。
去る朽木を見送り、目を伏せ、彼が座っていた席を見やった。
――しばしののち、漸う席を立ち、来たときと同じ悠然とした足取りで教室を出る)
ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールブーツ>