2015/07/20 - 21:52~01:55 のログ
ご案内:「産業区/重工業地帯」に三千歳 泪さんが現れました。<補足:【乱入不可】金髪碧眼ダブルおさげの女子生徒。重たそうな巨大モンキーレンチつき。>
三千歳 泪 > ――――常世島某所。

家電量販店の店先に並んだ最新鋭の大型ディスプレイ。
売れ線は学生にも何とか手が出るそこそこのハイグレード品だ。画面の鮮やかさは値段相応という感じ。
その画面に映る全ての番組が一斉に切り替わり、緊急のニュースを報じた。

『―――繰り返します。午前十一時すぎ、産業地帯北西部の工場で自律兵器の暴走事件が発生しました』
『――――――人工知能研究会は緊急の記者会見を―――禁輸措置に違反した疑いがあり、公安――――』

『きわめて危険な情勢です。くれぐれも現場付近には近づかないように―――』
『ここで現場から中継が入りました。映像切り替えます。大田さん? 聞こえますか?』

ヘリコプターからの中継映像。ピントが寄って逃走する軍用ロボットの姿が浮かび上がる。

『――――はい、こちら現場から中継します!』
『暴走兵器は女子生徒一名を人質に逃走している模様。現在、風紀の特殊対応班が必死の追跡を―――』

切断されたコードをひきずったまま、錆の浮いた重装甲をまとった巨人の腕には生身の生徒が抱えられている。私だ。

ご案内:「産業区/重工業地帯」に桜井 雄二さんが現れました。<補足:不燃不凍のスーツに身を包んでいる。(乱入不可)>
桜井 雄二 > 手ぶらで歩く道すがら。
ほんの暇つぶしに見ていた家電量販店の店頭ディスプレイ。

「……………へえ」

ぼんやりと見ていた事件。流れるニュース。
そこに見えるのは、人質に取られている大切なヒト。

「…………っ! 泪!!」

弾かれるようにその場を走り出していった。
足元に氷のスケートリンクを作り出し、その上を滑るように走りだす。
バイクに頼らない彼の最速の移動手段。

人の合間を縫って、弾丸のように地面を滑っていく。
後で怒られるかも知れないが、今は泪が優先だ。

走る。走る。走る。
産業地帯へ。事件の渦中へ!!

三千歳 泪 > 一昔前の自律歩行兵器よりは小さいけれど、生身の人間にとってはあまりにも大きな存在。
スタイルのいいモデルさんをそのまま大きくしたようなシルエット。
人間の手足を精巧に模したその姿は、巨人という呼び名がぴったりだった。

五本の指。関節の数も同じ。私の居場所は手のひらの上。人間そっくりなマニュピレータに包まれている。

「わ、わぁ!! いいから止まって!? 危ないってば!」

オフィスビルのド真ん中を弾丸みたいなスピードで突き抜けて、となりの工場へ。
飛び移ったときの衝撃があったはずなのに、前方への慣性がわずかにあっただけだった。
気を使ってくれてるのかな。

《 Negative. 脅威は健在と考えます。警戒を維持。安全圏まで退避します 》

ノイズにまみれたソプラノの合成音声が律儀に答える。本当はすごくきれいな声。この子は女の子なんだ。

化学工場の敷地を斜めに突っ切ってふたたび大通りに出る。
目の前には物々しい重火器に何台もの装甲車両をそろえた風紀の封鎖線が張られていた。
浮き足立った機関銃手が悲鳴をあげてこちらに狙いをつける。まずい。撃たれるの―――?

桜井 雄二 > 装甲車両の前に飛び出しながら右半身から炎を、左半身から氷を作り出す。魔人化。

「やめろ!! 彼女を殺す気か!!」

そう叫んで風紀の装甲車両を睨む。
以前に巨大女王蟻を討伐したけれど、暴走した軍用ロボットの相手は初めてだ。
もちろん、風紀を怒鳴りつけるのも。

「一発たりとも撃たなくていい! 俺が解決してくる!!」
「いいか、俺は忠告したからな! 一発でも撃ったらその車両、氷漬けにするぞ!!」

この後どうなろうが、知ったことではない。
今は泪を救うのが第一だ。

「泪………無事か…?」

できるだけ、相手の軍用ロボットを刺激しないように話しかける。
刺激に反応するのかすら、わからないけれど。

三千歳 泪 > 「待っ―――!!」

パニックに陥った人間が聞く耳をもつはずもなく、ほとんど同時に耳を聾するような音がした。
装甲車両に詰まれた機関銃から12.7x99mm弾が吐き出され、装甲板が重たい反射音を立てる。
全部を弾いてくれてる様には思えない。ずっとほったらかしにされて錆びだらけになっていたから。

ぐん、と下方への慣性を感じ、次の瞬間にはビルよりも高く跳んでいた。

――――え、桜井くん――?

警戒線にたどり着いて浮き足立った風紀を一喝している声。姿が見えた。
そっか。助けにきてくれたんだ。どうやってここに来たんだろう?

唖然として見上げる人たちの頭上を越えて、ぐるりと大回転して滑らかに着地。
道路に亀裂が走って波打ち、巨人はふたたび駆け出していく。


『――――突破されました!! このままでは市街地に接近される恐れがあります!』
『暴走兵器はどこへ向かうのでしょうか!?』
『―――続報が入りました。名前は《ゲレルト》。《ゲレルト》です!! 自律歩行兵器の専門家によれば―――』

桜井 雄二 > 頭に血が上る。一歩間違えれば、一番大切な人が死んでいたんだぞ。

「お前ら………泪を殺す気か!?」

見込みが甘かった。こいつらの武器を氷漬けにするべきだった。
自分の中にある、人を信じる心が罅割れていくのを感じる。

本当は心は熱く、頭はクールにいくべきだ。
だが今は逆だ。心が失望に冷えて、頭が怒りに熱されていく。

「泪!! 泪ー!!」

人々の頭上を軽々と飛び越えていく暴走兵器。

「クソッ………泪ー!!」

彼女を追って地面を滑っていく。
暴走ロボットを破壊するしかないのか?
あるいは、それ以外の解決法があるのか?
わからない。けど今は追いかけるしかない。
ただひたすらに速度を上げた。

三千歳 泪 > 現場指揮官の隊長さんがトリガーを引いた機関銃手を殴り倒している光景が見えた。
それもわずかな一瞬の出来事。
揃いの腕章をつけた学生たちが雷に打たれたように反応して、防衛ラインの建て直しに動きはじめる。
《ゲレルト》の手の中に守られながら、ぐんぐん加速していく。

「―――――――桜井くん!!!」

手を伸ばしても届かない距離。私の声も届かない? 本当にそうなのかな。

あ。そうだよ。ケータイならつながるんじゃない?
タブレット端末をたたいて桜井くんの番号を呼び出してみる。

「もしもーし、桜井くーん? How Low P.M.? 聞こえてますかー!!」

ごうごうと風が鳴る。風圧にかき消されないように声を張り上げた。

桜井 雄二 > 地面を滑る。靴が磨り減ろうと知ったことではない。

「………クソッ、どうすればいい…追いついたところで何をすれば…」

その時、かかってくる電話。携帯を探れば、泪からだ。

「もしもし! 泪か、大丈夫か!? どこか痛いところは!?」
「それより……どうすればいい? 俺は何をすれば!!」

精一杯、声を張り上げた。
電話がこの声を拾ってくれますように。

今も高速移動中。景色が溶けるほどに加速。

三千歳 泪 > 「平気だよ!! 怪我もしてないから!」

緑の乏しい重工業地帯にも都市計画の一環で公園めいたものが整備されている。
街中の公園とは違って昼間でも人が少ない場所だから、被害を出さずに幕引きを図れるかもしれない。

目の回るような逃走劇の中で浮かんだ、一縷の希望のようなもの。
ケータイを通話状態のままにして巨人の顔を見上げた。

「あのさ、ゲレゲレ!! この近くに公園があるのは知ってるかな」
「けっこう立派な噴水があるんだ。そこまで連れてってくれる? お願い!!」

《 優先命令でしょうか? 》
《 Yes, mom. 経路変更。はまかぜ公園中央噴水広場へ急行します 》

「桜井くんはさきに行って待っててくれる?」

水があるところなら君の異能が輝けるはず。この子を止めて。
《ゲレルト》。
完全なる自律活動、自己増殖、自己進化の実現に限りなく近づいたと言われる傑作ウォーマシン。
あらゆる経験を取り込んで進化する夢の軍用AI。闇から闇へと葬られた禁忌の蛭子。


『《ゲレルト》、方向を変えました! 産業区の中心に戻っていきます!! 生徒の無事は確認できたのでしょうか?』

桜井 雄二 > 「そうか、よかった………!!」

通話状態で聞こえてきた、彼女とロボットとの会話。
ゲレゲレ? それがあのロボットの名前なのだろうか。
行き先はこの近くの公園。ならば、先回りはできるはず。

「わかった、任せろ!」

はまかぜ公演中央噴水広場までの道を端末で開く。
ルート指示は無視。直線距離でいく。

「うおおおおおおぉぉ!!」

氷の道でアーチを作り、空中を渡る。
そして直線距離で公園に辿り着く。

「……まだだ、まだ氷は作れるな…」

余力を確認してから、ロボットを待ち構える。

三千歳 泪 > 包囲網を迂回して、突破して。鋼鉄の巨人は大地を揺るがしながら突き進む。
今となっては型落ちした旧式で、忘れ去られた時代の徒花。
ピカピカの専用武装も取り外されて、やられるがままで反撃する手段さえない。
ゲレゲレはお願いを聞いてくれたけど、こういう状況に追いやられていることをどう思っているんだろう。

産業区から避難しようとしていた車列の隙間を器用に跳躍して、一路公園まで突き進んだ。

「おーーーーーーーーーーーーーーい!!」

はるか遠くに水色の髪。視認性抜群の彼氏をみつけて大きく手を振る。
身を乗り出しそうになってやんわりと押しもどされた。

追跡者はテレビ局の報道ヘリだけ。他は車列に阻まれているに違いない。

「ゲレゲレ!! ここまで来ればもう大丈夫。噴水のとこで一旦ストップね!」

《 Negative. 退避経路の再設定を具申します 》

「ダメダメ、怒るよゲレゲレ! 止まってっていってるじゃんさー!!」

噴水まであと30メートル。止まる気配は一向になし。
なら仕方ない。やっちゃってくれるかな桜井くん。

桜井 雄二 > 「………おーい」

無表情に手を振り返す。なんとも緊張感のない彼女だ。
しかしここで何とかしなければならない。

噴水。そこには水がある。ベタ踏みの左で水気を凍気に変換しながら、頭の上に氷の槍を作り出す。

水のある状況でしか作れないもう一つの奥の手、アイススピア。

「いくぞ……この硬度まで練りこめば…!!」

一直線に氷の槍を放つ。
それはゲレゲレと呼ばれたロボットの足元に着弾し、濃密で凄まじい硬度を持つ氷を生成。
これで止まらなかったら……?

もしものことは、考えないことにした。

「泪を返せー!!」

相手ロボの脚部を最硬の氷で覆おうとする力の流れ。
決して、三千歳泪に影響を与えてはならない。その一心でコントロール。

三千歳 泪 > 思いっきり前にのめって、スレートグレイの塗装が剥げた大きな手のひらに身体が押し付けられた。
錆だらけの脚部間接が泣き声にも似た悲鳴をあげて、右の脚が膝から砕けて外れた。
朽ちかけた装甲板の下、人工筋肉の金属繊維が千切れて血のようなどす黒いオイルがぼたぼたと落ちた。

驚異的なアビオニクスが崩壊して、操り人形のようなぎこちない動きに変わっていた。
ばらばらに解れたコードがショートを起こして駆動系を損傷させたのかも。
何もかも壊れる寸前の状態で動いていたんだ。
私の修理が間に合っていれば違ったのかもしれない。もっとしなやかに動けていたはず。
持ち前の力を発揮するチャンスも与えられず、もがく姿はあまりに無惨で物悲しくて。

「……ありがと。もういいよゲレゲレ。私には守ってくれる人がいるから」
「君の仕事はここでおしまい。桜井くんのこと、信じてあげて?」

巨人はわずかに身じろぎして、氷塊に深い亀裂が走る。けれど、そこまでだった。
動きをとめた手のひらから地上までは二、三メートルくらい。桜井くん、ちゃんと受け止めてくれるかな。
レンチを先に落として、思いきって飛び降りた。

『異能使いの登場です! 《ゲレルト》が動きを止めました!! 女子生徒が…救出されました!』
『繰り返します!! 暴走兵器は沈黙。生徒は救出されました!』

桜井 雄二 > 氷に深い亀裂が走った時、ダメかと思った。
アイススピアは自分が使う氷雪系能力の中で最強の技。
しかし水場がないと使えないため、行使は年単位で久しぶりだった。

しかし、どうやら動きを止めたようだ。
ほっと安堵するのもつかの間、三千歳泪が飛び降りる。
魔人化を解除して駆け寄る。

「泪!!」

今日はこの名前を呼んでばかり。
両腕で彼女を抱きとめて、そのまま抱きしめる。

「バカ……心配させるなよ、泪…」

抱きしめながら、ゲレゲレと呼ばれたロボットを見る。
きっとこのロボットは、守りたかったんだ。
三千歳泪だけじゃない。
色んなものを、守りきれなかったものを。
そのために動いていた。

「………悲しいことだな、人類が作っておいて、人類が見捨てたんだ」

三千歳 泪 > 想像以上にしっかり受け止めてくれた。さすがだよね。やるじゃん桜井くん。

「桜井くん!!! 桜井くんだ。えへへへへ」

勢い余ったぶん、そのままぐるりと回って足をぱたぱたさせた。

「ごめん。ごめんね。いろいろあってさ―――」


―――ふと見上げた刹那、銃声が轟いて巨人の頭がばらばらに爆ぜる。
特大口径の対自律歩行兵器用アンチテリアルライフル。パワーアシスト必須の人外の銃器。
劣化した何十年も前の素材なら射抜けて当然。だけど。

「―――? えっ…ぁ……ゲレゲレ!! 桜井くんっ!?」

狙撃手の姿が見えないまま、ダメ押しの第二射、第三射がつづいて原型すらわからなくなっていく。
見ていることしかできなくて、人工知能の中枢を織り成す部品が細かい破片になって降りそそいだ。

まもなく風紀の追跡班が到着して《ゲレルト》の確保と現場の保全が始まった。
人工知能研究会のメンバーも遅ればせながら現れて、巨人の死とその惨状に苦悶の叫びをあげていた。

桜井 雄二 > 抱きしめたままぐるりと一回転。
彼女の無事を確かめて、目を瞑った。

「どれだけ色々あったら、ロボットに捕まって街中を爆走できるんだ?」

その後、響く銃声に目を開く。
人類のための暴力が、目の前のロボットを破砕していった。

「ダメだ、泪。近づいたら危ない………」

抱きとめたままロボットの最期を見守る。
対物の銃弾が全てを壊してしまう。

「……あいつら、壊す時はせっかちだ」
「これが結末なら……とても悲しいことだ」

俺は本当に人を信じていいのだろうか?
泪ごとロボットを撃とうとした人。
今、こうやって動けなくなったロボットを破壊する人。
人。人。人。
人に嫌気がさした。けれど。

腕の中の彼女のぬくもりは、どこまでも温かい。

「……何が正解かなんて、わからないもんだな」

三千歳 泪 > 『風紀の部隊が《ゲレルト》を制圧しました。もう危険はないのでしょうか?』
『―――中継は以上です。一旦スタジオに返しましょう。北原さん? 聞こえてます?』
『スタジオ――――――失礼しました。映像が乱れて………切り替えが…―――』

中継映像は一斉に監視カメラの映像に変わる。そこは人工知能研究会の秘密研究所のひとつ。
20世紀以降の動乱で崩壊したとある軍事国家から、《ゲレルト》が運び込まれて眠っていた場所。

そこには《ゲレルト》を修理していた私と研究会メンバー、そして私に銃を向ける男の姿が映っている。
人工知能研究会に失われたプロジェクトの遺産をもたらしたミスターX。
ゲレゲレの故郷を破滅に導いた人々の生き残りだった。

―――私が目覚めさせてしまったんだ。二度と目覚めない様に壊されていたのに。

計画は成った。究極の人工知能が目覚めのときを迎えた。
今はまだ幼くとも、我らはついに手に入れたのだ。世界を焼き尽くすに余りある力を。

―――男は自分の言葉に酔いしれながら歌うように語った。高笑いをあげて引き金を引いた。
死のさだめを遮ったのは鋼鉄の腕。その一薙ぎで私に仇なすものを磨り潰し、建物ごと崩壊させた。
監視カメラの映像はそこで途切れる。後のことは知ってのとおり。

中継を見ていた風紀のメンバーが顔を見合わせ、研究会メンバーの拘束に動いた。


「……わかってる。ありがと、桜井くん」
「人は機械を信じられない。機械を怖がっちゃうのが人の性。でも、そうじゃなくて」
「あの子は私を助けてくれたんだ。命の恩人だったんだよ。なのに私は」

何もできなかった? 認めたくないけれど、事実は動かしようもなくて。
桜井くんの腕の中、タブレットが震えてメールの着信を知らせてくれる。

《 You've got mail. 未開封のメッセージが四件溜まっています。お仕事の依頼でしょうか 》

きれいなソプラノのシステム音声。私の端末から聞こえた? これって。これって―――!!

桜井 雄二 > 風紀のメンバーが研究会メンバーを拘束する頃。
厭世的な気分でその様を見ていた。
人の醜さを一日で何年か分まとめて見たような気分だった。

彼女が人間でなければ、世捨て人になろうかと考えるレベルだった。

「いや、いいんだ……」
「機械を作ったのも人間なら、壊すのも人間というのがなんともいえないな」
「そうか……それは、申し訳ないことをしたな…」

自分の中の憎悪が萎れていく。
一体、何をイライラしていたのだろう。

その時、聞こえてきたシステム音声は、確かに。

「……ははっ、こういう奇跡なら大歓迎だな?」

そう言って彼女に向けて、笑顔を見せた。


人は時として、機械を利用し、機械を裏切り、機械に裏切られる。
でも、それだけじゃない。
人と機械の在り方は――――――それだけじゃない。

ご案内:「産業区/重工業地帯」から桜井 雄二さんが去りました。<補足:不燃不凍のスーツに身を包んでいる。(乱入不可)>
ご案内:「産業区/重工業地帯」から三千歳 泪さんが去りました。<補足:【乱入不可】金髪碧眼ダブルおさげの女子生徒。重たそうな巨大モンキーレンチつき。>