2015/07/23 - 21:22~22:56 のログ
ご案内:「ヨキの美術準備室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールサンダル>
ヨキ > (朝。準備室の奥の机に、独り座っている。
入り口の扉から奥の窓まで真っ直ぐに開け放されて、涼やかな風がカーテンを揺らしていた。
長衣の首元を寛げて、両手の手袋は嵌められておらず机上に畳まれている。
幾多もの筆やペン、鉛筆、木炭を立て掛けた机の上で、手荷物を簡単にまとめ、日誌を開き、生徒や教師からの伝言に目を通す。
それらの作業を一通り終えると、)
「……さて」
(ひとたび目を伏せる。
その目尻には、いつもの紅がない。
――足元の引き出しを開き、ごく小ぶりな、白磁の皿をひとつ取り出す)
ヨキ > (白磁の皿には、鮮やかな赤が塗られている。
艶紅、と呼ばれるそれは、窓からの光を取り込んで金色に光り、まるで玉虫色をしていた。
眼鏡を外す。
左手の四指のうちの一本、中指とも薬指ともつかない指先を、水に浸す。
小皿の紅を、やわらかに溶かしつける。
右手に持った鏡を覗き込みながら、ほんの僅か紅色に染まった指先を――目尻に宛がう)
ヨキ > (窓の外に、明るい生徒たちの声が聞こえる。間もなく朝の練習を終えようとしている楽器たち。遠くに電車の音。
この部屋はそれらの賑わいから遠く隔てられて、しんと静かだ。
その死人のような肌の上、目尻を小さく丸く、華やぐような紅で装う。
僅かばかりでもかたちが狂えは最後、自分が丸ごと喪われてしまうかのように。
息の詰まるようなひとときが、自分をこの学び舎のうちに取り込むための儀式であるかのように)
ヨキ > (自らの指先と、垂れ落ちる髪の間から覗く金色の眼差しは、鏡に映る自分の眼球、その更に奥を透かし見るように真っ直ぐだ。
消えた劇団フェニーチェ、背を向ける日恵野ビアトリクス、惑う朽木次善、久しく人が触れることのなかった獣の背を撫でたトト――
日頃脳裏に浮かぶ名と顔は無数にありながら、今このときだけはいずれもその横顔からは消えうせていた。
左目を飾り、そして右目。
廊下からは、黙して動くことのないヨキの背中だけが見えている)
ヨキ > (目元から指を離し、一息ついて顔を上げる。
両の目尻に、小さく、それでいてくっきりとした紅。
指に残った紅を拭い取り、ふたたび時が流れ出したかのようにゆっくりと息を吸う。
眼鏡は机の上に置いたまま。
裸眼のまま首元へ手をやり、首輪を、金具を、ベルトを締める。
明るい日の下、獣の目にはよく見えもしないであろうに、手癖めいた手つきでひとつひとつ、自罰的なまでに)
ヨキ > (指の先まで布と金属に包み込み、眼鏡を掛け直す。
鏡を手に取って、今一度自分の顔を見た)
「…………」
(作り物めいて整い、蒼褪めた顔。
指先の尖った爪が、鏡に映る顔をゆっくりと撫でる。
薄く唇を開く。
か細い声)
「………………。
この化生が、おまえの顔を女のように化粧(けわ)うのは、どんな気分だ。
なあ。
汚らわしい――稚児めが」
(呼びかけの言葉は、遠く遠く。
誰に拾われることもなく、次の瞬間には掻き消えた。
吐息とともに、口にした事実すらも)
ご案内:「ヨキの美術準備室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた長衣、ハイヒールサンダル>