2015/07/19 - 22:36~02:17 のログ
ご案内:「歓楽街街頭」にビアトリクスさんが現れました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 丈の短いメイド服 [乱入歓迎]>
ビアトリクス > 夕方ぐらいの時刻。
歓楽街の街角で、折りたたみ椅子に座る者がいる。
傍らのスタンドには『似顔絵描きます』と描かれた看板と、
画用紙に描かれたいくつかの似顔絵がサンプルとしてクリップで吊るされている。

芸術の都、パリのモンマルトルに住む無名の画家たちは
街頭で似顔絵を売って日銭を稼いでいるらしい。
それと同じことをこの人物はやろうとしていた。
少し奇異なことがあるとすればメイドの扮装をしていることぐらいだろうか。

「どうしてこんなことに……」

メイドのような何かがひどく不機嫌そうに折り畳み机に肘をついている。
客入りは良くないようだ。

ご案内:「歓楽街街頭」に嶋野陽子さんが現れました。<補足:淡いピンクのワンピースを着た、大きいけど優しい女の子。>
嶋野陽子 > 明日から海の家でバイトなので、
しばらく行けなくなる歓楽街を散策する陽子。

モンマルトルみたいに、芸術家の卵が似顔絵を描く一角
で、見覚えのある顔に遭遇する・・・が・・・

(日恵野君、なんでメイドコスなの!?)
声をかけて良いか一瞬迷う陽子だが、普通に似顔絵を
頼めば良いと気が付き、ゆっくりとビアトリクスに
近付くと、

「済みません。似顔絵お願いできますか?」
と、声をかける。

ビアトリクス > 元はといえば前やっていたバイトが終わってしまったので、
美術部の先輩部員に新しくバイトを斡旋してもらえないか頼んだのだ。
そうして出されたアイデアがこれだ。
修業しながら小銭が稼げる。それはいい。この衣装はなんだ。
呪詛を胸中で煮詰めていると声を掛けられる。
「…………」

あまり知り合いには見られたくない姿だったらしい。
「……なんでこんなところに」
思わずボヤキが漏れる。
露骨に顔をしかめる。
しかし客は客だ。蔑ろにしてはならない。

「…………、どっちがいい?」
仮にも客を相手にしているとは思えない不機嫌そうな声。
サンプルの吊るされたスタンドを指差す。
色鉛筆によって描かれる、よく特徴をとらえた写実的な似顔絵の無難なコースと、
マーカーによって描かれる、キュビズムを追随したと思われる鋭角的な抽象絵画のコース。
選べ、ということらしい。
料金はどちらも昼食一回分程度。

嶋野陽子 > 『なんでこんなところに』
というぼやきには、
「あら、私だって女の子ですから、歓楽街で美味しい物
を食べたりしますわよ」、と冗談めいて返す陽子。

『どっちがいい?』と聞かれると、
コスチュームについては一切触れずに、サンプルの
絵をしばらく見比べる陽子。
顔だけ見れば、丸顔につぶらな瞳、整った目鼻立ち
の女の子だ。巨大化する前から175cmあって、身体も
鍛えていたので、かわいい系ではなく、元気ハツラツ
系の印象だ。

しばらく見比べた後で、
「キュービズムはまたの機会にして、今日は色鉛筆の
方でお願いします。表情とかどうしますか?」
とたずねる陽子。
純粋に、ビアトリクスが自分をどう表現するか、興味
津々という感じの表情をしている。

ビアトリクス > 「そうか……、まあ、そうだな。そう」
そういう事が聴きたかったわけではない、が、詮無きことだ。
折りたたみ机に置いたスケッチブックを取り、色鉛筆を広げる。
コスチュームに一切ツッコミを入れられないのは優しさだろうか。
どう転んでも苦しい罰ゲームではあるのだが。

「了解した。
 表情は作らなくていい。あんたの楽な顔でいてくれ」

薄橙の色鉛筆を手に取り、くるくると指先で回す。
すぐには描き始めない。
座ったまま、陽子の顔を見上げ、じっくりと観察する。
静物を写実的に描くのは得意中の得意だが、
生物に関しては苦手中の苦手だ。
後者の抽象絵画のコースのほうが、ビアトリクスにとってはラクだった。

特に人間の顔ほど、ビアトリクスにとって不気味なものはない。
ずっと眺めていると、粘土のようにぐねぐねと踊り出してモーフィングしはじめる。
この感覚についてビアトリクスはあまり人に語らない。
言葉にするのが非常に難しく、また言って理解されたこともないからだ。

自分の中でスイッチを切り替える。
最近はようやく客観的情報として人の顔面を捉えることができるようになった。

「その体格じゃなかったらさぞかしモテただろうな」

観察の、率直な感想を告げる。
まだ描き始めない。

嶋野陽子 > 『あんたの楽な顔でいてくれ』
と言われたので、少しだけ顔を傾げて、じっとビアト
リクスの事を見つめると、少し視線を外す。やはり見
つめられては向こうもやりづらかろう。

こうして似顔絵を描いてもらうなんて、実は初体験だ
が、縁有って、画才のある人と知り合ったのだから、
こういう経験も良いだろう。

『その体格じゃなかったらさぞかしモテたろう』
という彼らしい素直じゃない言い回しには、
「でもこれが私が好きになった人の好みなんだもの、
仕方ないでしょ?」とさりげなく爆弾を投下する。

ビアトリクス > 観察を続ける。
陽子を見つめるというよりは――
その奥にあるものをどうにかして捉えようとする、そういう視線。

「彼にだけモテりゃいい、ってことか。なるほどね」
陽子の返答にはさほど驚いた様子もなく。
「まあ、そういうものだよね、美の価値ってのはさ」

しばらく眺めた後、スケッチブックを持ったまま椅子を横に向ける。脚を組む。
描いている様子が、陽子にもきちんと見えるように。

素早く橙の鉛筆を動かしてざかざかと顔部分を塗っていく。
ぼんやりとシルエットが浮かび始めたところで、橙を持ったまま
紺の鉛筆を取り――中指と薬指の間に挟む。
一つの手に二本の鉛筆を持ち、それを器用に素早く入れ替えながら
輪郭を紺で縁取り、その内側の肌を橙で塗り、髪を紺で塗り、髪飾りを橙で塗る。

早回しのような速度で、画用紙の上に陽子の顔の写実的な像が結ばれる。
ビアトリクスに向けているものとは微妙に違う、人好きのしそうな笑顔。
顔だけでは彼女を捉えきれていないと判断したか、首から下の
逞しい筋肉もきっちりと画用紙の中に収める。
奇妙なバランスが、紙上に忠実に再現された。

この間、陽子の顔をまったく見ていなかった。記憶だけで描いている。
手に滲んだ汗を、メイド衣装の前掛けで拭く。
ようやく陽子のほうを向いて、完成した似顔絵をぺりぺりとスケッチブックから切り取る。
そして差し出す。

「ほら」

お代を求めるように、もう片方の手も出す。

嶋野陽子 > 日恵野君がさほど驚かずに、
『まあ、そういうものだよね、美の価値ってのは』
と返してきたのには一瞬、驚いたが、考えてみれば
現在進行形で神宮司くんの事だけを見てる訳だから、
驚く方が間違いだ。

私の本質を掴もうとするかのような観察の後、手早く
スケッチを始めるビアトリクスが、その手の動きをわ
ざわざ見えやすくしてくれたのに気付く。

流石にプロの仕事は早く、しかも顔だけでなく筋肉が
見えるように、肖像画に近い範囲まで描いてくれた。

『ほら』
とぶっきらぼうな口調で作品を渡すビアトリクスに、
私は財布から、彼に言われたより1枚多く札を取り
出して渡す。

「ありがとう。顔以外まで描いてくれたから、その分
上乗せしたわ」と言って、札を多目に渡す陽子。

ビアトリクス > 「別にいいのに」
とは言っても差し出されるなら遠慮せず札を受け取り、
用意していた袋に乱雑にそれを突っ込む。
机に置いてあったペットボトルのキャップを回し、
口をつけて喉を潤す。
椅子の背もたれによりかかり、微かな疲れの滲んだ顔を向ける。

「あんたみたいに気前のいい客がどんどん来てくれれば
 こんなことすぐにやめられるんだけどね」

嶋野陽子 > ビアトリクスが
『・・・こんなことすぐにやめられるんだけどね』と
言うので、
「あら、その格好は無理矢理やらされてるの?だったら
日を改めて私の全身をあなたの好きな技法で描いてみ
る?物にもよるけど、今日の10倍は出せるわよ」

と持ち掛けてみる。彼の絵にはそれだけの価値がある
気がする。

ビアトリクス > 「まあ、半ば無理やりみたいなものだね。
 断れないぼくもぼくなんだが……」

言葉の途中で、紺の鉛筆の尻にがりと歯を立てた。

「……施しのつもりか?
 悪いけど、それほどあんたを信頼しているわけじゃない」
向けられる眼差しと声に、押さえつけられた警戒と嫌悪が浮かんだ。

嶋野陽子 > 『施しのつもりか?』
の質問には、
「この絵を見て、あなたの好きな技法で描いてもらった
ら、どんな絵になるかな?と思っただけよ。気を悪く
したのなら謝るわ」と答える。

『それほどあんたを信頼している訳じゃない』
という警戒心も顕な発言には、
「それは無理もないわね。いきなり同じ戦場に放り込
まれた即席パーティーのメンバー同士が、そのまま
勇者様の御一行になるのは、ゲームの中だけの話。
現実では、戦闘が終われば前の暮らしが待っている
訳だから。」と理解を示すも、

「でも、あなたも神宮司君も、あの戦いで心に傷を負
っていたのは私でも判るわ。今日見たところ、あなた
はもう大丈夫そうなので安心したけどね。」
ここで一呼吸入れ、

「神宮司くんはと会えたの?彼にも治癒の符を2枚、
白崎さんから託されていたけど、神宮司くんは使い
方を知らなかったみたいだから、あなたに使い方を
聞いてみると言ってたわよ。」
と、私と話した時の事を伝える。神宮司くんが、
治癒の符を忘れずに使ってくれたか、心配なのだ。

ビアトリクス > 「…………」
くるくると色鉛筆を指先で回して、少しの間沈黙。
「こちらこそ、無礼で済まないね。
 うまい話にはつい身構えてしまうんだ」

「会ったさ。……治癒符? 訊かれなかったぜ……忘れてたのかもな。
 そのうち教えておくよ。まあ、本人は元気だって言ってたし、
 使う必要もなかったんじゃないか?
 心配し過ぎも毒だぜ」
ぞんざいな口調でそう応える。
ちはやのことについて、あまり語りたくはなさそうだ。

嶋野陽子 > それもそうだ。
「そうね。いくら保健委員だからって、心配し過ぎな
いように気を付けるわ。でもあの時のあなた達二人は
まるで『走れメロス』のメロスとセリヌンティウスの
ようだったわよ。互いの為にためらわずに死地に赴く
気迫を、二人から感じたわ」

ここで辺りが薄暗くなっているのに気付く陽子。
「長話になってしまってごめんなさい。この絵は部屋
に飾らせてもらうわね。神宮司くんにもよろしく。」

そう言うと、手を降って歩み去る陽子。

ご案内:「歓楽街街頭」から嶋野陽子さんが去りました。<補足:淡いピンクのワンピースを着た、大きいけど優しい女の子。>
ビアトリクス > 「そんなに悲壮に見えたか。単にやるべきことをやっただけさ。
 ま、気をつけるよ。あんたに言われるまでもなく、命は大事だ。
 ……あんたは単に保健委員っていう立場だから心配しているんだろう。
 金を払われたから、絵を描くみたいにな。
 そんなもの、大してありがたくは感じないな」

自分と陽子は所詮は他人でしかない。
だから、ちはやとのことは、そっとしておいてほしい。
宝石は、触れるものが多くなるほど輝きが損なわれるのだ。

「……」

元の待ちの姿勢に戻る。

ビアトリクス > どうせ命以外に費やすものなどないつまらない人間だ。
その使い方ぐらい自由にさせてほしい。
ヨキにしても、陽子にしても。
なぜ静かな気持ちにさせてくれはしないのか。
それほど自分は生きづらく見えてるとでも言うのだろうか。
……きっとそうなのだろう。それは否定できない。
頭を抱える。

色々と考えたら小腹がすいた。
荷物からスナックバーを取り出して、かじる。

ビアトリクス > 売上を入れた袋を振る。軽い音。
客が来たと思ったらいかがわしい商売と勘違いした不貞の輩だったりもした。
やはりこの衣装は色々と逆効果としか思えない。
後で異議を申し立てよう。

今日は散々だ。
道具を片付け、歓楽街を後にする。

ご案内:「歓楽街街頭」からビアトリクスさんが去りました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 丈の短いメイド服 [乱入歓迎]>