2015/07/24 - 00:08~01:38 のログ
ご案内:「魔術教師の記憶」にコゼットさんが現れました。<補足:魔術師を目指す少女。>
コゼット > これは彼女が教師を目指す前の、とある一場面の記憶。
『魔術師養成機関マグノリア』
内陸部に建てられた巨大な城が魔術師を育成する為の施設として利用されている。
そこを中心に城下町があり、そして城壁に囲まれている。
勿論それは只の飾りではなく、あるものから住人を守る為に。
そんな街にコゼットも魔術師の見習いとして、毎日勉強生活を送っていた。
コゼット > 養成機関とはいえ、このマグノリア全体が一つの街としても機能している。
そしてその殆どが魔術師・或いは素養を持つ者である。
つまりほぼ全ての人間が魔力を持っていると言っていい。
しかし、それによってここマグノリアが半永久的に抱える問題がある。
それが、魔術師喰いの存在である。
巨大な魔力が集まるこの街は、彼らにとってはエサ箱に他ならない。何処からともなく集まってくるのだ。
とはいえ、基本的にこの街は城壁で堅牢に守られている為、外部から進入する事は無い。
しかし他国からの入学者や交易の関係上、完全に外部との接触を遮断する訳には行かない。
コゼット > そこで定期的に行われるのが『漆黒狩り』。つまり、魔術師喰いの駆逐である。
魔術師喰いは魔術師にとっては天敵である。その被害は例年から減る事は無く、深刻な問題となっている。
ここを卒業し、外の世界へと出る魔術師にとっても、将来的にその存在に悩まされるかもしれない。
それらへの戦い方を実際に見につける為、マグノリアから一定期間毎に学生達による狩りが行われる。
一般学生、教師、更には現役魔術師を含む混成部隊。その比率は学生の編入数が関わる為、時期によってその規模は変わる。
主に学生達にその存在を知って貰い、実際に対峙する事でそれに対する対処の仕方と理解を学ぶ実地訓練も兼ねている。
コゼット > そして、この日も狩りが行われていた。
城壁を潜り、予め調査済みの指定された場所へと向かう。
この日の狩りにはコゼットも参加していた。実戦はこれが始めてである。
彼らは陣形を組んで狩りに望む。全体を見れば円陣である。
円を描くように配置され、その尤も外周に位置するのがアタックライン。
その名の通り、迫り来る魔術師喰いへの迎撃が物な役割。
主に一般学生と狩り経験者が交互に配置され、いざという時にもフォローが出来るようになっている。
その内側に4人の魔術師が配置される。これがセカンドライン。
マナプールから魔力を引き出し、更に外側の魔術師へ魔力を受け渡すパイプのような役割。又、外側で戦う者達へのサポートを担う。
陣の中で一番やる事が多く、多重詠唱を余儀なくされる為、狩りの経験があったり極めて成績の良い生徒、教師などの熟練した魔術師が担当する。
そして中心に立つ二人がマナプールと呼ばれ、周辺の魔術師へ魔力を供給する役割。
また強くその力を発する事で、周囲の魔術師喰いを引き寄せる陽動の意味合いも持つ。
この位置には実力よりも、魔力の総量が物を言う。
コゼット > 今回そのマナプールの役割を、コゼットが担っていた。
彼女はコントロールや出力は平均ながら、その身体に内包する魔力はそれら教師達や上級魔術師のそれを凌駕していた。
故に、この位置は彼女が適任とされた。
『緊張している?訓練してたとはいえ、実物に対しては初めてだものね。』
「っ!…ええ、まぁ。」
同じ役割である女性の教師が声を掛けてきた。
実際心臓の強い鼓動が自分でも感じる程に緊張していた。他から見て、そんなに自分の顔が強張っていただろうか。
とはいえ、自分の位置は尤も安全だ。ただ、全員に魔力を供給するのだから負担は大きいかもしれないが。
勿論ぶっつけ本番ではなく、事前にそれらの予行練習は何度もやってきた。…但し、それは魔術師喰いという存在を除いての訓練だったが。
コゼット > 『大丈夫。周りの人が頑張ってくれるわ。貴女と同級生の子だって守ってくれる。
ただ、それを支えるのが私達の役目。しっかり力を分け与えて、それぞれの役割に集中出来るようにしないとね。』
「はい、判っています。…頑張ります。」
それでもやはり、これから何をするかというのは出発前に何度も講習を受けたし、それに対する訓練もした。
準備は万全と言っても、心の整理まで出来る程、コゼットは強く無かった。
『だーかーら、そんなに肩に力張らなくても大丈夫。先生や攻撃魔術の得意や人もいるんだから。ね?』
コゼットの肩をぽんぽんと叩く。それだけで緊張が少し解れていく。
そうだ、ただ自分のやるべき事をすればいい。出発した今、この役割は私にしか出来ないのだから。
コゼット > そんな事を話していると、間もなく予定のポイントに差し掛かる。つまり、周りは既に例の魔物で溢れている事になる。
肉眼でも所々に黒く蠢く物が見える。今の所、見えるだけではこちらの方が数は上である。
場の空気が変わったのを肌でひしひしと感じる。
それだけじゃない。所々、地面に何か自然ならざるものが落ちているのが目に入るようになる。
辺り一面に赤黒色と黒色のペンキをぶちまけたような風景。
そして酷く損傷しているが、それらの上には何か足のようなもの、あるいは下半身の無い胴体。あるいは恐怖に慄く表情をしている人の頭。
(う、わ……。)
散乱しているのは人間の部位だった。正にこの辺りで戦闘があったのだろう。
魔術師喰いは絶命するとその姿は塵となって消えてしまう。
コールタールのような黒い体液こそ蒸発はしないものの、物体として残るのは人の死骸だけ。
それが歩き進める度に密度が狭くなっていく。顔を背けたくなるような酷い臭い。
湧き上がる吐き気を押さえ込む。
コゼット > 一行は開けた平地に陣取る。
森の中では死角が多く、奇襲を受けやすい。
接近されては命取りだ。例えそれに対する対抗術を持っているとはいえ、接近されないに越した事はない。
セカンドラインに位置する隊の班長が口を開く。
『詠唱準備。』
全員が一斉に構えを取る。
いよいよとコゼットも集中を始め、魔力を高めていく。それが狩りの合図。
同時に、黒く蠢いていたものが一斉にこちらを向いたような気がする。
コゼット > こちらを見ている。いや、ヤツらに目は無い筈。
そうだ。こちらに気付いたのだ。私自身の魔力に。
(こっちに来る…!!)
次の瞬間、物凄い勢いで手足を動かし、不気味にこちらに近付いて来る黒い魔物。
それに対抗するように、魔術師達が一斉に魔力の球を放つ。
『漆黒狩り』の始まりである。
事前に受けた情報によれば、今回の狩りは残党狩りとも言うべきもので、魔術師喰いの数はそれ程多くは無い。
この人数であれば十分対応出来るだろうという見解だった。
確かに、向かってくるこの数であれば手が余る程に。
コゼット > ──その筈だった。
最初こそ順調だった。いや、今も迎撃は出来ている。
敵の数が一向に減らないのだ。それ所か、周囲をいつの間にか囲まれている。
後ろで待機していた魔術師達も今は休む暇も無く魔術を行使している。
そして、それを途切れさせないようにマナプールからは随時魔力が供給される。
今の所その役割に支障はない。ただ、攻撃に参加できないか…とは考えていた。
しかし魔術師喰いの性質上、他の事に力を使う余裕はない。魔力を弱める訳にもいかない。
コゼットがそれやったとしても、それらを同時に行える程卓越した技術も持ち合わせていない。
強い魔力の反応が消失すれば、奴らの目標が他に移る。
アタックラインに居る魔術師も、その出力を越える魔力は出せない。
バランスが崩れれば、それは一気に崩壊してしまう。
(大丈夫…なのかな…これ。)
この狩りは、どちらかが絶えるまで継続される。
いつ流れが変わってしまうか否か、コゼットの表情に不安の色は隠せなかった。
コゼット > やがて綻びは徐々に大きくなっていく。
人は完璧ではないし、ましてや全てが機械の様に与えられた事を忠実に遂行出来る訳ではない。
『ぅ…う、わぁあああああッ!』
「…っ!?」
コゼットは思わず振り向く。それが少なくとも良い事ではないというのは明らかだった。
アタックラインに居る魔術師の一人が叫ぶ。我慢比べに負けたのはこちらの方だった。
倒しても次々に押し寄せる黒い魔物に気が触れてしまったのか、纏めて殲滅しようと更に強い魔術を行使しようとして。
それに、魔物が一斉に群がった。ギリギリで保っていたバランスから流れ出てしまったものを止める事は出来ない。
その数はもはや回りがフォロー出来る限度を超えていた。
一斉に黒い魔物が喰らい付き、捕食する。
赤い血が飛散し、噛み付かれたと思わしき部分は跡形も無かった。みるみるその原型を留めなくなっていく。
「……っ!」
思わず息を呑んだ。失敗を犯した者の末路がああなるのだろう。
そこから崩れるのは、あっけないものだった。
陣形を突き破り、その亀裂を強引に広げようとする黒。それを押し出し、立て直そうとする魔術師。
その無理な矯正が仇となり、また一人、また一人と魔物の餌となっていった。
辛うじて息があった物も、後から襲来する黒にあっという間に喰い散らかされていく。
コゼット > 場は赤と黒に塗り潰されようとしていた。
既にアタックラインの半数は半壊。セカンドラインに居た教師も腕を失った物も居るが、術を行使し続ける。
また叫び声が響き渡る。正に修羅場とはこの事を言うのだろう。
もはや、陣形としての機能も失いつつある。殆どが目に付く魔物を遊撃という形で抑えていた。
(…なによ…これ…。)
食い千切られた腕が飛んでくる。見れば足だけが立っていて、そこから上が見当たらない。
悲鳴が聞こえたかと思えば、その魔物は頭を踏み抜く。そして、ゆっくりとそれを捕食する。
仇を取ろうと横から魔球を放とうとすればその死角から別の魔術師喰いが襲い掛かる。
正に地獄絵図だった。
コゼット > コゼットは、ただ自分の役割を真っ当するしか無かった。…というより、それしか出来なかった。
戦闘に入ってかなりの時間が経っている。普通にやっていたら、魔力切れを起こす者も出ているだろう。
ここで魔力供給をやめてしまったら、魔力を打ち切ってしまう物も出てきてしまう。そうなってはその魔術師はもはや無力だ。
まだ供給は行われている。ここで自分が勝手に動いてそれらの迎撃に参加すれば、それこそ更に彼らのみを危険に晒しかねない。
──のだけど。
(これじゃあまるで…私が呼び寄せて…皆を………。)
元より魔術師喰いを引き寄せる役割の筈なのに。この惨状を見ては冷静でも居られなくなる。
自我を保つ為に、ただ只管に自分に与えられた役割に縋り付くしかなかった。
そんな狼狽えるコゼットを、突然背後から何かによる衝撃が襲った。
突き飛ばされたような、そんな感じだった。
コゼット > 砂埃を立たせ、前のめりに倒れる所を思わず手を付いて。
何事かと振り返る。同じ役割を担っていた女性教師が手を伸ばしている。そして、その腕を黒い何かが貫通している。
『ぐ……っ、全く危ないわね…。』
その先にはやはり、魔術師喰い。もしその場所に居たら、自分はそれに代わって貫かれていただろう。
腕を伝い、血が滴り落ちる。地面もコゼットもその時に飛び散った血液で赤く濡らし。
貫いた黒い槍のようなものがそのまま変形し、その腕に巻き付く。
掛かった獲物を引っ張り挙げようとしていた。この際食べれれば"それ"でも良かったのだろう。
よく見ると後方も殆どが無残にもやられ喰われていた。
合間を縫って仕掛けてきたのだろう。一番強い魔力の元へと。
コゼット > 息を飲んだ。ああ、自分も遅かれ早かれあんな風になってしまうのか。私はここで──
歯を食いしばり、半ば諦めかけた。
そう思った瞬間、景色が歪む。地面を見れば魔法陣が展開し、光を発している。
『──転送ッ!』
教師の一人が、広範囲転移術を唱えていた。詠唱に多大な時間を要する高難度の術である。どのタイミングで唱えていたのか、全く気を向ける事が出来なかったが…。
恐らくそのせいで中核を危険に晒したのかもしれない。だが、それに見合う効果はあった。
結果として生きてマグノリアの転移拠点へと戻る事が出来たが、全体の1/3程の魔術師を失う事となってしまった。
転移に紛れて飛ばされてきた魔術師喰いはその場に健在だった魔術師がすぐさま退治した。
半ば怒りに任せたかのように乱暴に魔術が振るわれた。
コゼットにしても、あの中で五体満足で居られたのは運が良かった。勿論それだけじゃない、周りの人が、必死になって──。
そう思った所で、もうダメだった。
糸が切れたかのようにその場に倒れこみ、その視線の先…横向きになった空を見ていた。
コゼット > あの場に居た誰もを責める事など出来やしない。
自分がどれだけ力があったとしても、この役割であればどうする事も出来なかった。
──そうだろうか?
もっと強く魔力を発する事が出来たら、あの時崩す事無く自分に注意を向けられたのでは?
足りなかったのでは?
慢心していたのでは?
自分がただ、安全な位置で。
ただのうのうと、見ているだけで。
自分が戦う立場だったら、あの状況を変えれたか?
自分は、それ程に強いか?
そんな事はない。
私には力がある。でも、それは皆が持つものと同じ力。特別なものではない。
力があっても、守る事なんて出来なかった。
だから、私は教師に守られ、そして結果としてその教師に重い傷を負わせてしまった。
──それでも、心配を掛けまいとその教師は笑って見せた。
こんな傷、絶対に痛いに決まっているのに。
コゼット > 「……力があるのに、何も守れないなんて。」
そう小さく呟く。
なんでも抱えてしまうのは悪い癖だ。
そう自分で判っていても、全てが終わった後でも、そう考えずには居られなかった。
私の勉強に妥協なんてした事はない。でも、それでもきっと及ばなかった。足りなかったのだろう。
魔術の実技も、もっと熱心に打ち込んでいたら、また違ったかもしれない。
もっと気配を察知する事が出来たら、先生に怪我をさせずに済んだかもしれない。
私は───。
コゼット > それからだ。
ただ守られるのを、嫌だと感じるようになったのは。
必死に魔術の勉強をし、魔術の理解を深め、力を付けたのは。
やがて、私は教師になる事を望んだ。
私を守ってくれた教師のようになる為に。
そして、あんな風になってしまった教師にならない為に。
そして、因縁の魔術師喰いとの戦いは、場所を変えた今もその終わりは遠く、その兆しが見える事なく続いている。
ご案内:「魔術教師の記憶」からコゼットさんが去りました。<補足:魔術師を目指す少女。>