2015/07/27 - 21:08~01:09 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に朽木 次善さんが現れました。<補足:生活委員会。私服。軽食代わりのスコーンを前に。>
朽木 次善 > あんまり難しいことばかりを考えていても疲れる。
だから、たまには何も考えずに遊んでみたらどうか。
保健課・鈴成静佳の助言である。
カフェテラスの外席。
スコーンを目の前にして、眉間にシワを寄せていた。
遊び方について、難しく考えながら。
朽木 次善 > 主だって、特にこの島に来てからはそういったことには無頓着だった。
日本本島よりも『そこに暮らす人達がアトラクション』である以上、
それに触れる毎日がもはやエンターテイメントであり、
何よりただの人間としてその『種族の海』であり『異能の坩堝』である常世島で、
そんなことを考えている余裕がなかったとも言える。
この島に来てから今日まで、一日足りとも生活委員会でなかったことはなかったし、
自分のパーソナリティはそういう環境の上に根ざすものだと思っていたから、
尚更自分の趣味や娯楽に関しては疎かったとも言える。
……何より、性差が交じる交友は、自分は我が多く乗る。
公平な目で相手を見れなくなることが、どうにも心を不安定にする。
きっとそういうのが上手い人間こそが、人付き合いが本当に上手な人間であるのだろうとも思うが。
朽木 次善 > 相手について考慮に入れないといけない項目が多ければ多い程、
口にすべき言葉やすべきではない言葉は多くなる。
ある程度自分の心象がマイナスから開始することを自覚しているので、
そこについては逆に気を使わずいるつもりだったが、
一度気にしてしまえばもう気になって仕方がなくなるのも自分という人間だ。
出来るだけ考慮の外側にあってほしいと思うのは、
単純にそうしなければ自分の言葉の正当性を自分に証明出来ないからであり、
何より……円滑に言葉が出てこなくなるからである。
「……って、いうのは。言い訳かもしれないですね」
一人、背もたれに背中を預けて独りごちた。
往く人は、誰も彼に気も留めない。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に蓋盛 椎月さんが現れました。<補足:養護教諭。亜麻色の髪 茶の瞳 白衣 蜥蜴のヘアピン>
蓋盛 椎月 > いるさっ、ここにひとりな!
などと叫んだわけでもないが、夏の屋外でも気にせず白衣を纏う養護教諭が通りすがった。
朽木の姿を外席に認めると、ニヤと笑ってまっすぐに近づいて、向かいの席に座った。
他にもいくらでも空いている席などあるだろうにお構いなしだ。
「よう、悩める青少年。
どうした、今度は梅干し味のスコーンでも注文しちゃったかい?」
愉快そうに言葉をかける。
明らかに距離感というものに気を使っているように見えない立ち振舞であった。
朽木 次善 > ――目の前に、性差が白衣を着てやってきた。
周囲の席を見やると、その視線が泳ぐ様すら楽しいのか
ニヤニヤと笑ってこっちを見てくる蓋盛教諭に、蛇に見つめられた蛙のような心境になる。
分かっててやってることが、分かってない自分にも分かるという。
「いや、流石にスコーンにまで入ってきたら、
もはやこの島の大きな何かが俺を排除しに来たんじゃないかと疑いますけど……」
スコーンを避けて、とりあえず歓迎はしていますというポーズを見せる。
「……お暇なんですか、蓋盛先生」
蓋盛 椎月 > 「梅干しを引き寄せる異能とかに目覚めてたりしてね!
異能ってどう役に立てていいのかわからないのがあるからさ~
それともなんか排除される心当たりでもある?」
チェシャ猫のように笑ってふざけた口調でそう言う。
「あ、わかる? めっちゃ暇で、からかい相手……
じゃなくて、仕事を探してたんだよ。
ほら、養護教諭って生徒の心身の健康を守るのが仕事だし?
うろついてたら苦悩に満ちた様子の少年がいたからさ。
これはぜひ話し相手になってやらないと、と思って……」
べらべらとまくし立てる。
養護教諭がそんなにヒマを持て余す職業なのかは謎である。
朽木 次善 > 「辞めてくださいよ怖いじゃないすか……。
一人一つの異能だけじゃない例もあるんで、
全く違う異能として目覚めたらと思うと、
いくらでも情報出すのでいち早く誰よりも研究進めてほしいと思いますよそれ」
水を一口、口に含む。
「俺が排除されたら、この島から人は一人も居なくなるんじゃないですかね……。
排除されるとしても最後の一人ですよ俺は。
苦悩、まあ……そうですね……。
ちょっと友人に……もう少し楽に生きたらどうかとか、
もっと女の子と遊んだらどうかとか、勝手なこと言われて。
それについて悩んでたっていうか……そんな感じです」
何故か、いつもよりも喉が乾く。
養護教諭にこんな相談をしてもいいのかという点についても悩ましい。
蓋盛 椎月 > 「そうねー異能発現メカニズムの解明は人類がなんかするべき最優先の課題よね。
なんかあたしが生きている間には無理な気もするけど」
話の合間に注文していたアイスカフェオレが蓋盛の前に届く。
「それは、自分が普通や平均だからそう思うってこと?
いやーわからないよーそれって主観に過ぎないからねー。
どんだけ慎ましく暮らしているつもりでも天運によっちゃどうなることか」
ストローで氷を鳴らしながらもっともらしいことを言うが、
その声の響きは真面目とは程遠い。
「ラクに、かあ。結構難しいよね、それ。
女の子に興味がない、ってわけじゃあないだろうけど。
そればっかりが楽しい生き方、ってわけでもないだろうしね。
……どう楽しんだらいいか、わからない感じ?」
朽木 次善 > 「……初回の発動で、命を落とす人もいるとか聞くと。
やっぱり未然に防げないかなと思うのもありますね、実際……」
異能自体が外的なエフェクトで自己を傷つけるというのも勿論あるだろうし、
それ以上に今までなかった力に目覚めることで、
それまで『居た世界』が崩れるという意味もある。
「……天運、すか。
それは、なんかめぐり合わせとか、そういうのも含まれているんだとしたら、
あんまり大きなこと言えなくて怖いです、ね……。
ああ、えっと、蓋盛先生とか、なんか相談しやすい人に恵まれてて、
自分運ないとか言うのもアレかなという、世辞みたいな、世辞ではない、何かです」
触れるべきことと触れないほうがいいことの間でフラつき、
どういうバランスで発言すればいいのかあやふやになったので、あやふやな発言が出た。
「いや、楽しいのは、楽しいんですけどね。毎日キツいとは思ってないですけど。
なんか、楽しさが外に伝わりにくいのか……人相のせいもあるかもしれないですけど。
蓋盛先生とか、良く悩みがなくて幸せそうとか勝手なこと言われません?」
実際自分も、勝手にそう思っている人間の一人なので、素直に尋ねる。
もしそれが分かるなら、自分が言われている「ラクに」ということにも少し理解が得られるかもと思いながら。
蓋盛 椎月 > 『世辞みたいな世辞ではない何か』に機嫌良さそうに肩を揺らした。
「あっはは、照れるねえ。
あたしは人の話聞いたり相談乗ったりするのが好きだからさ。
……あんまり話聞くの上手じゃないんだけどね。お喋りすぎて」
続く言葉に、んん~、と軽く唸って首を傾げる。
「あー、そういう感じか。なるほどね。
無理に楽しそうな様子を見せる必要もないと思うけどねえ……
笑顔の練習でもしてみる? だいたい笑っときゃごまかせるよ人間なんて」
カフェオレを、ズ、と啜る。
「はは、よく言われる、言われる」
何が楽しいのか、ぺちぺち、と手を叩く。肯定も否定もせず。
「いやああたしは仕事が仕事ってのもあるけどね。
養護教諭が不景気なツラ見せてたら、誰も保健室に入りたがらないでしょ」
朽木 次善 > 「ああ、それは、なんとなく分かります。
視点が違うと、見えてくる物もあったりして……。
案外簡単に解決したりするのは、相談受けた側としても楽しいですしね……」
その裏側として、解けなかった場合相談した相手にも問題を共有させるのだということを
誰よりも知っているがゆえに、簡単に相談が出来ずにいる。
特に、きっとそういう話に慣れている人の方が、抱えているものは多いだろうとも思った。
「笑顔……苦手な分野ですね……。
下手くそに笑って、現場で良く舐めてんのかって怒られましたよ。
……顔の造りの問題じゃないかなとかも、ちょっと思いますし」
水を、一口含んだ。
「先生、一個相談に乗ってもらっていいですか。
抽象的な話になるんですけど……。上手く伝わらなかったらすいません。
……例えば。俺達は物を食べるのが普通じゃないですか、スコーンやカフェオレを食べて生きてる。
でも、そういうのが必要ない相手に……物を食べるっていうことを。
説明して……理解してもらって……もっと言うなら尊重してもらうことって出来ると思いますか……?」
蓋盛 椎月 > 「ふむ」
白衣のポケットにある煙草の箱に手をかけ、
……カフェテラスの壁にあった禁煙マークを目にして、戻す。
表情を消して、しばらく、黙考し。
「穴居人にスクラブルを教えるぐらいには困難な話だな。
『社会通念を持たない相手にどうそれを教えるか』って話、だよね。
……それが物心ついて間もない幼子とかならまあ簡単だ。
しかしきみが相手にしようとしているのは、
おそらく、野生の獣か、社会不適合者のいずれかだ。違うかね」
「社会通念は、基本的に守ったほうがいろいろと得だ。
あえてそれを守らない、ということは、なにかしらの守らない理由、があるわけ。
獣でなければ、独自の強固な正義を築いている、ということである」
「不可能ではない、と思う。
だが、きみのやろうとしていることが社会的に正しいかどうかはさておいて、
その相手にとっては著しく暴力的で破壊的な行いといえるね」
朽木 次善 > 「ああ、そう、それです」
わかりやすく言い直してくれた蓋盛に、やはり話を聞き慣れているという感想が出た。
こちらが言語化出来ないものの無駄を削ぎ落としてを単純化するのは、話し上手の証拠だ。
「んぐ……。
そ、そうですね。
……例えば異能を持たない人に、異能者の存在を認めてもらうためには。
もしくは、異能を持たない人が「出来ない」ことを……。
異能者に理解してもらうにはどうすればいいのかっていうのは……ずっと悩んでて」
半分が嘘で、半分が真実の言葉を紡いだ。
もちろん、悩みはフェニーチェの『脚本家』についての悩みが主だったものだ。
罪の概念のない者に罪を理解させる方法。それを模索していた。
「……暴力的で、破壊的な行い、ですか」
それは、薄々気づいてはいた。
彼女に対して、優しいと言われた時に自分が否定した理由でもあった。
自分のこの行為は、正しさをさておくとしたら、酷く残酷な行為であるだろうから。
「……相互の理解のためには、互いに傷を負う必要があって。
その傷を、互いに治せる程度まで見極めて分け合うのが……理解だと、ヨキ先生は言っていました。
俺はだから……その暴力的で破壊的な行いで、もしかしたら、相手を必要以上に傷つけるか。
中途半端に傷つけるかもしれないことが、少し怖いとは、思います……」
スコーンから、顔を上げる。
「社会的通念からではなく、蓋盛先生から見ても、それは行わない方がいい行為だと思いますか……?」
蓋盛 椎月 > 行わないほうがいいか? と訊かれれば、首を横に振り。
「いや、そうとは言い切れないな。
たとえば人里を荒らす熊がいたとしてさ、
そいつが人里を荒らすことをやめないなら、射殺して処分するしかない。
熊は山に戻っていただいたほうが、人にとっても、熊にとってもいいでしょ」
「あくまできみと『そいつ』との問題は個人間のものだ。
それを正しいとか正しくないとか、部外者のあたしじゃ判断はできないな」
思い出したように、薄い微笑みを作る。
「……心配しているのは、むしろきみのほうだよ」
「ヨキ先生のおっしゃるとおり、相互理解は生半可には行かないわけよ。
きみは『そいつ』を傷つけることばかりを心配してるようだが
きみが傷つくことに関してはどうなんだい。
一方的に、自分の世界観を、暴力的に書き換えられる……
そういう可能性だってある。それは恐ろしくないのか?」
ふう、と息を吐き、一度言葉を区切る。
「ちょっと話は変わるけどさ。
斬っても刺しても燃やしても倒せない、不死の《怪物》を……
殺すためには、どんな手段を使えばいいと思う?」
朽木 次善 > 「……そう、ですね……。
痛みを伴うっていうのは、俺も、良く分かります……」
熊を射殺するにせよ。その射殺には痛みが伴う。
撃つ方も撃たれる方も、だ。だからこそ、それには慎重になるべきだと、自分も思う。
確かに。これは、当事者間の問題だ。
何より、社会通念を差し置いて自分の意思を通そうとしている我儘なのだから、
その問題を他者に波及させるわけにもいかない。
特に、こうやって親身に相談に乗ってくれる教諭なんかを安易に巻き込んでいい問題ではない……。
「俺、すか」
それは、意外な言葉ではなかったが、少しだけ意識の外側にある言葉だった。
確かに、それは他者から見たら当然の心象であり、慮りであることは理解出来ていたが。
「俺は……まあ、そう、ですね。
客観的に見たら……生活委員っていう建前で、そういうのに好き好んで首を突っ込んだ方なので。
……自業自得なのかもしれない、です」
それで、蓋盛が納得するとも、到底思えないが。
「斬っても、刺しても、燃やしても……ですか。
不死の、<<怪物>>……。殺す方法……。
む、難しいすね。死なないんじゃ、何をしてもどうしようもないんじゃないかって、思えて……。
これって、意地悪問題か何か、ですか……? あ、いえ、蓋盛先生が意地悪とかそういうのじゃなくて、ですね。
謎かけ、みたいな……」
蓋盛の唐突な問いに、混乱したように首を捻る。
蓋盛 椎月 > 「意地悪か……まあ、そうかもしれない。
いちおう、あたしなりの解答は用意してあるけど」
苦笑い。どこか呆れたように、
「きみはさぁ。
『夢見がちな若者』って言葉で表現するには、現実が見えている。
その上で、自分のやりたいことに忠実である……
あたしは、そう評価している」
「自分が冒しているリスクを理解していて。
なおもその個人のためにそれをしよう、と言う。
そこには、過剰な愛着か――あるいは、憎しみがある」
アイスカフェオレを一気にストローで吸う。
透明な容器の中身は、氷だけになった。
顔を上げた朽木に、輝きの褪せた茶の瞳で、まっすぐな視線を合わせる。
「さっきの謎掛けの答えはね。
……“愛する”ことだよ。
愛は、不死者を殺す、唯一の毒だ」
「命を持たない相手を、傷つけるにはね、
まず、命を与えなくてはならないんだ」
「……きみがしたいのは、ひょっとしたらそういうことじゃないかと思って。
勘違いだったら、すまないね」
朽木 次善 > 「……"愛する"……ですか?」
それは、心の底から意外な回答であり、解答だった。
不死者を殺すのが、愛であり、それが唯一の毒になる。
あまりにも自分の認識の中にはなく、それをどうにか頭で理解しようと首を捻る。
命を持たない相手を傷つけるためには、命を与える。
認識を持たない相手に自覚を与えるには、認識を与える。
「じゃあ、俺の、やることって。
『傷つけるため』に、『愛さないといけない』っていうことに、なるんですかね。
それが……俺が、現実を見てるっていう、ことになるんです、かね」
自分のやっている行為が、社会的通念と相反するものであることは自覚があった。
だが、良く考えれば、じゃあその社会的通念に逆らってでも、
彼女――『脚本家』に伝えたい、知ってもらいたいことがあるということなのかもしれない。
それを、蓋盛は過剰な愛着と表現した。
それはなんとなく、自分の本質を突いているような気さえした。
「俺に。
不死者を、愛せます、かね……」
命ある者ですら、愛せるかどうか微妙だというのに。
親身になり、共に傷つきながら、それを理解しようとしろという、彼女の激励のようにも思えた。
……勝手に。
蓋盛 椎月 > 理解とは暴力で、理解とは愛だ。
愛すればそれは救いとなるし、愛して裏切れば、それは死を齎す。
朽木が手にしようとしているのは、救済の杖か、はたまた死神の鎌か。
「うーん、しくじるんじゃない?
だからあたし個人としてはやめてくれないかな~って思ってるんだけど」
気の抜けた口調で、あっさりと突き放した。
「割に合わない行為なんだよ。
誰かを救うことも、滅ぼすことも。
人一人の身にはとても余る。そうは思わないか」
「でもさあ、きみはそれをするんでしょ。何を言われても。
じゃああたしができることって言ったらさ、
きみがやろうとしていることはどういうことかっていうのを
懇切丁寧に噛んで含めて聞かせてやるぐらいだ。
そうすればきみが、自分が次に何をすればいいか……
見えてくるかもしれないし、見えてこないかもしれない」
身を横に向ける。
溶けた氷をストローでズズズと音を立てて啜る。行儀が悪い。
「あたしにとってはさ、朽木くん、きみも、
社会通念を守らない、強固な独自の世界観を持った《怪物》ってわけ」
椅子を引いて立ち上がる。
あまり人前で見せることのない、うんざりしたような表情。
「でも、あたしがこの学園の教師できみが生徒であるうちは。
応援してあげようって思っているよ。
そうして再び傷ついたら、あたしのところに来なさい。
そのときは、力となってやろう」
朽木 次善 > 「ええ!?
あ、いや、まあ、そんな、気もしますけど……! 容赦ねえ……!!」
あっさりと突き放されてガクンと身体から力が抜ける。
自分でもなんとなくそんな自分の限界を感じていたので、指摘が入るとその現実味に
余りにも簡単に足を取られてすっ転んだ。
割にあわないといえばそうだし、身の丈に合わないといえばそうだ。
指摘されれば、どんどん問題が溢れる。
そもそもが風紀委員会、公安委員会という組織が取り扱うべきことを、
勝手に横取りして受動的に共謀しているに等しいのだから、指摘が順当なものなのが理解出来た。
肯定でも否定でもなく、ただ後ろから見守るその形は、
道筋が違うが自分という一点においてはヨキ教諭と交わるような物を感じた。
そのまま進んでいくと、どんどん道が分かれていくようにも感じたが。
「俺が……<<怪物>>、ですか」
それは、どうにも。二回目の指摘のように思えた。
ファミレスで遭遇した彼も、似たようなことを、直接ではないが自分に向かって言ってきた。
自分には力はない。だから、怪物とは一番程遠い生き物だと思っているのだが。
立ち上がる蓋盛に頭を下げる。
「ありがとう、ございます。
多分……そんな血なまぐさい事にはならないと思いますし……大丈夫だと思いますけど。
業務の中で怪我があれば、是非頼らせてもらいたいと思います」
どうにも。血なまぐさいことになれば、蓋盛を頼れる状態にあると思えないが。
「蓋盛先生。でも。
俺は<<怪物>>じゃないです。さっきの問いなんですけど。
本当に、俺が何でも出来る<<怪物>>で、何でもしていいというのであれば。
もう一つだけ、<<不死者>>を殺す方法、あると思うんです。
ああでも、意地悪問題だとするなら、ですよ……?
真面目な回答じゃないので、もしかしたら先生怒るかもしれないですけど……!」
じゃあ言うなよ、と自分で思いながらも。
どうにも自分が怪物と言われたことを飲み込みきれずに、言い訳のように既に席を立っている蓋盛に告げた。
蓋盛 椎月 > 希望的観測でもって激励するぐらいのことは蓋盛にもできる。
しかしそれはしない。
妙に希望を持たせて、転んだ時の怪我を深くすることを望まないからだ。
「『力なき人間』が、怪物に立ち向かおうとする時。
手にできる武器はたった一つ――『魂』だ。
抜身のそれを振りかざして果敢に戦う姿は……
時にどんな怪物よりも恐ろしく見えることもあるのさ。
自分の内臓で作った武器を振り回す奴を想像してみろよ。
めちゃくちゃ怖いだろ」
朽木の内心の疑問に答えるように、補足した。
「……へえ? 興味深いな。
言ってみろよ」
立ち上がり、椅子の背もたれに手をついたまま、
挑戦的に、歯を剥いた笑みを浮かべる。
朽木 次善 > その蓋盛の剣呑な表情に(言わなきゃ良かった)という微妙な汗まみれの表情で、
苦々しい笑いと、四角になった口で照れくさそうに言う。
「いや、本当に屁理屈ですよ?
状況として何でもしていいっていう仮定での、意地悪問題に対しての意地悪な回答っていうか……。
ほんと、なんか言われた瞬間パッと思いついたっていうか……」
はぁ、と嘆息する。
どうにも、真面目に考えろと、、蓋盛先生を怒らせるような気がしてならない。
「――<<不死者>>が。
<<不死者>>であるのは、<<死なない>>からですよね。
だったら、その不死が特別なものでなくなればいいんじゃないですか……?
死なないことに言及されなくなれば。
不死すらも差異として許容するような環境や、
不死という特別性がそのパーソナリティに深く影響をしないような状況を、
作り、創る事ができれば……<<不死者>>が、不死者と呼ばれることはなくなる。
そうすれば。
その不死者は、少なくとも不死者としては死を迎えるんじゃないかって、思うんですけど――……」
異能にしろ。差異にしろ。違いにしろ。
それを許容し、それすらも普通の中に取り込んでしまえば。
『生活』の一部に、組み込んでしまえば――それそのものが持つ逸脱部分まで、含みこんでしまえば。
この世に。その対象は――<<逸脱>>として存在できなくなり、命を持ったまま死を迎――。
思考の海に沈みかけている事に気づき、
相手の顔色を伺い、ハッとした顔で手を顔の前で振る。
「ああっ、いや、でも、これ、
絶対蓋盛先生の言った愛するって方法の方が簡単だし、
それに比べたら余りにも荒唐無稽で、テストだったら点貰えませんよねきっと!
いや、ほんと、俺怪物でもなんでもないんで!
本当の怪物ってそういうのを簡単にやってのけるような奴のことじゃないかなって!
……い、いや、なんか変な話でしたね、すいません」
どうにも、思考問題となると、考えすぎてしまう。
考えすぎて、変な回答に辿り着いてしまうのは自分の悪い癖だ。
首の後を掻きながら、青年はスコーンに口をつけた。
「まあ、だから。
一人の人間として、出来る範囲のことをやって……。
お、俺の魂なんて大したものじゃないですから、内蔵で作った武器もたかが知れてると思いますし……!
先生の言う通りしくじったら、まあ……しくじった形で、自分なりに、どうにかしてみようと、思います。
すいません……少し、楽になりました」
出来る限りのことを、やってみようと思います、と蓋盛教諭に告げた。
蓋盛 椎月 > 「……」
最後まで沈黙して聴いて。
「ふ」
短く息を吐いて。
「……ふふ、く、くっくっくっくっ!」
身体を折り曲げて、けたけたと笑い始める。
目尻に涙が浮かび、歪んだ口元から、隙間風のような笑い声が漏れる。
テーブルをバンバンと叩く。
「くくく、くくっ――ひぃーひひひ!
…………っと、笑ってしまったな。
すまない、バカにしているわけではないよ。
でも二度目ともなると耐えられなかったよ。傑作すぎて」
いつも笑ってばかりの蓋盛ですら、これは狂態と言って差し支えない。
しかしそれは――そのビジョンの荒唐無稽さ、あり得なさを笑ったわけでは、けして、ない。
朽木の目にどう映ったかはわからない、が。
口元を三日月にする。悪魔めいた相貌。もはや取り繕うのも面倒になった。
「朽木さあ……やっぱ面白いわ。
オマエと話してると……ずっと忘れてたことを思い出す」
ぐるり、踵で床を削るようにして背を向ける。
「ワタシはオマエをとても高く評価しているよ。
――だから、傷ついて、血を流せ」
意味の図りかねることを最後に言い残し、養護教諭を名乗る女はカフェテラスを去る。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から蓋盛 椎月さんが去りました。<補足:養護教諭。亜麻色の髪 茶の瞳 白衣 蜥蜴のヘアピン>
朽木 次善 > ええええ。と。
それこそ蓋盛に限らず全力で笑う相手を見る機会など滅多になく、
自分がそれほど滅茶苦茶に面白いことを言ったつもりもなかったので、
顔面に汗をダクダク流して異常事態に硬直した。世に言うドン引きである。
「あ、えと、どうも。
お、面白いなら、何より、ですけど……」
そんなに激烈に面白いことを口にしたか……!?と眉根が寄る。
だが、少なくとも自分の目には上機嫌に見えた。
だから、いつも通りそれは愛想笑いで返すしかなかった。
「そ、それは、どうも。
傷っ、あっ、はい……ですね……そ、それくらいはしないと、ですし。
血も、まあ……はい……」
冗談とも本気とも取れない、受け取り方が分からない言葉を受け取って呆然としながら、
どうにも褒められたのかどうなのか分からない感覚だけを残して、その女教諭は去っていった。
その後姿を呆然と見送ったまま、
能見や鈴成がある意味女性はそういう話が好きですよ(好意的解釈)と言っていたのを思い出す。
でも。
それを考慮したって。
「……女性って分からない……」
スコーンだけがわかりやすく甘かった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から朽木 次善さんが去りました。<補足:生活委員会。私服。軽食代わりのスコーンを前に。>