2015/07/28 - 12:52~17:08 のログ
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に神宮司ちはやさんが現れました。<補足:巫女舞の少年。ジャージ姿>
ご案内:「浜辺(海開き状態)」にビアトリクスさんが現れました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 ジャージ>
神宮司ちはや > 公園での一件以降、なんとなくそのまま真っすぐ寮へ帰るのもためらわれて足の向くままに浜辺へ来てしまった。
途中買った瓶ラムネを二本ビニール袋に下げて、ずっとビアトリクスの手をとったまま無言で歩き続ける。

波間を遠目に眺めると水面がキラキラと輝いている。
やはりまだ熱い、ビーチパラソルの空いた所を探しながらさくさくと砂浜に足跡をつけた。

ビアトリクス > 「…………」
落ち着かない様子で、額に浮かんだ汗をタオルで拭う。
ちはやに引っ張られる形で半歩後を歩んでいるので、彼の表情は伺えない。
寮へ向かうのにここを通る必要などないことはわかっているが、ただ黙って追従する……。

神宮司ちはや > 「ごめんね、暑いよね……。あ、あそこ空いてるからちょっと休もうか」

ようやく振り返って口を開くと、斜めに砂浜へ刺さったパラソルをさして日陰に入るよう勧める。
先にビアトリクスが入ったのを確かめたなら、袋からラムネを一本出して相手の手に握らせるように渡す。
ガラスの容器はきんきんに冷えていて汗をかいているだろう。
もう一本はまだ取り出さず、日陰のしたへ置いておく。

ビアトリクス > 「……あ、うん」
ラムネを、まるで貴重品のように慎重な手つきで受け取る。
パラソルで隔絶された空間の下、
あんなことがあったばかりで、気の利いた言葉のひとつも浮かばない。
ちはやを直視できずに、罪人の表情で目をそらして沈黙を続けた。
潮騒の音、人の賑わいが、遠い。

神宮司ちはや > ビアトリクスがラムネを受け取ったならにこりと笑う。
それから立ったまま、パラソルの外側で水平線をじっと眺めていたが、
突然海へとかけ出すと波間ギリギリまで寄って大きく息を吸い込んだ。

神宮司ちはや > 「湖城先輩のバカー!!えっちっち侍!鈍感せんぱーーーーーい!!!
 シロちゃんさんのえっちっち意地悪!!わんわん耳!!内緒まーん!!!」

神宮司ちはや > 両手をメガホンのように口元に当てるとそう海へと向かって叫んだ。
周囲が何事かと目を見張る。その視線を集めたことに普段なら怯えるはずのちはやがくるりと海からビアトリクスへ身体を向けて
いたずらっぽく笑った。

「ごめんね、なんか言わなきゃすっきりしない感じがして。

 ……こういうの嫌だった?」

ビアトリクス > 「?」
唐突に走り出したちはやの、意図がつかめず、数秒呆けた後、
ちはや同様に日陰にラムネを残し、とろい足取りで数歩パラソルの影の下からはみ出す。

そしてその後、響いた叫びに。

「は」

笑うちはやの前に、殉教者のように膝を折る。

「はは、なんだそりゃ」

鼻の奥が、しびれるように熱い。
顔がくしゃくしゃに歪む。
灼熱の液体が、ひとりでに両目からこぼれ落ちていく。
止めどなく流れ、ぼたり、ぼたりと、落ちる。
張り詰めていた様々なものが、軛を脱した。

「ぜんぜん、ぜんぜんいやじゃないよ」

ビアトリクスは無様に、泣きながら笑っていた。

神宮司ちはや > 「トリクシーくん」

ぽろぽろと涙をこぼして泣きだしたビアトリクスを見て、
笑顔が急速にほどけ、じっと彼を見つめる。

さくさくとゆっくり砂を踏んでビアトリクスへ近づくと、
身長差のある身体をそっと抱きしめようとした。
相手の肩へ頭を寄せて、静かにその背をさする。

「あのね、トリクシーくん」

そっと囁く。大事なことを教えるように。

「ぼくのことを、価値を本当に大切に思ってくれてありがとう。
 トリクシーくんが僕のことを見ていてくれるから、ぼくは自分に何か大切なモノが眠っているような気になれる。
 君の眼差しが美しいから、ぼくも美しくなれた気がする。

 あのね、だからね

 トリクシーくんの美しさをぼくも知っているからね。」

あえて湖城や白露とのことには口を出さない。出せない。
あの一瞬の会合ではビアトリクスの複雑な思いをわずかしか理解できないから。
だから自分がわかることだけ伝える。
正直下手くそな慰めだとは思うが、今の自分にはこれが精一杯だ。

ビアトリクス > その時。
潮騒も。
浜辺に集う人々の声も。
海鳥の鳴き声も。
海の青も、雲の白も。太陽も。気温も。
すべては消え失せていた。

そこに在ったのは、感じたのは、
ある芸術家に語った圧倒的な『現実』。
大鋸屑で出来た心臓が、熱を持って脈打ちはじめる。

震えながら腕が動く。
瀕死の白蛇のような細い指が動き、ちはやの頬をそっと撫でる。

「きみは」

「きみはだれよりもうつくしい」

――こんな崇拝のような感情は、
神宮司ちはやという一個人に向けるものとしては、ふさわしくないのかもしれない。
しかしビアトリクスは芸術家で、美の奴隷で、
美しいものにはこうべを垂れて、従うほかにやり方が見つからなかった。

「ねえ、ちはや」

「きみのことを、もっと教えて」

「きみを構成する、キラキラと輝くものを、ひとつひとつ、
 拾い上げて、名前をつけてあげよう……」

滂沱の涙を流しながら。
破壊的で暴力的な、欲望の一端を、口にする。

神宮司ちはや > そろそろと伸ばされた相手の白い指に一瞬だけまばたきをする。
それからそっと長いまつげを伏せると、猫が顔をすり寄せるときのように頬を指へすり寄せた。

何度と無く見たことがあるビアトリクスの異能。
今触れたら自分の頬も何色かに染まってしまうのだろうか。
それが彼の言う自分の構成する要素への『名づけ方』かもしれない。
彼の目を通し、そして表現されればなんだって美しくなるのだろう。
自分の未熟な部分も嫌いな部分も、薄汚いギトギトした暗い部分もビアトリクスという芸術家はきっと美しいものに変えてくれる。

その対価として自分が払えるものはなんだろう。
繊細で気難しいビアトリクスの心を守ることではないだろうか。
脆弱な自分にできるかはわからないが、やらないという選択肢はすでにない。
それが正しいかどうかはわからない。
ただ、そうしたいと思った。

「ぼくが美しくあれるのは、トリクシーくんがその目で見て表現してくれるからだね。」

そっと自分もビアトリクスの頬に手を添え彼の涙を拭う。
自分をもっと知りたい、その要素に名前をつけたいと彼は言う。
その言葉に微かな恐ろしさはある。

「ぼくのもっているもののほとんどをトリクシーくんはもう知っているはずだよ」

「それでもまだ、教えて欲しいっていうのなら」


「ぼくは君のように名前をつけてあげることは出来ないし、
 美しく表現するなんて出来ないけれど……


 ぼくもビアトリクスくんのこと、知りたい。もっとよく知りたい。
 だからひとつに対してひとつ、引き換えに教えて。
 幽かなことでも、確かなことでも」

そうして、じっと相手の顔を覗きこめば純粋な眼差しと透明な表情がちはやの顔を覆っていた。

ビアトリクス > 切り取られた宗教画のようだ、と思う。
しかし、生きている。熱を持って、触れている。

異能の力を齎す指先は、確かにちはやの頬に触れていて、
しかし彼の頬を別の何かに染め上げるようなことはしない。
その欲望が承認を得ただけで、ビアトリクスには充分だった。
固く締まっていた結び目のひとつがほどけていくのを感じる。

「ぼくの名前は日恵野ビアトリクス。十五歳。
 性別は男性ではあるが、精神がそれにふさわしいかはわからない。
 母は魔術師『永久イーリス』、父は居ない。
 なにものにもなれない自分に一度は絶望しきって、
 常世学園へとやってきた、魔術師見習いにして、画家志望……
 使命はこの世のうつくしいものを描き留めること。
 いま一番うつくしいと思っているひとは、神宮司ちはや」

一度だけちはやを強く抱きしめて、立ち上がる。
世界に色が戻る。芸術家は盲目であることをやめた。

ゆっくりと立ち上がり、ちはやの手を取る。
いつのまにか涙がやんでいた。穏やかに笑んでいる。

「ゆっくり、少しずつでいい。
 うつくしいもののかけらを一つ一つ集めていけば、
 きっとそれは幸せをかたちづくる、そんな風に信じているよ」

そっと手を引く。パラソルのほう、穏やかな暗がりへと。

「今はつめたいラムネを飲むきみの姿が見たい。
 だから二人で飲もう」

神宮司ちはや > 透明な眼差しは一瞬のまばたきの後、消えていた。
一気に喋るビアトリクスの紹介を遮ること無く聞き終えるとくすくすと笑った。

「ひとつに対してひとつだよ。そんなにいっぺんに返せない」

困ったように笑うとゆっくりと自分も自分の持っているものを、宝物をそっと見せるように語りかける。

「ぼくは神宮司ちはやです神の宮(みや)の司って書いてしんぐうじ。
 ちはやはね、巫女服の上から着る羽織ものみたいなもの。
 歳は十三歳で秋生まれ。
 お父さんとお母さんはいるけれど二人共遠くはなれた所で共働き。
 ぼくは小さい頃からおじいちゃんの山奥の神社で育って、
 お手伝いさんと、神職の修行に来ている人達ばかり見てきた。
 おじいちゃんの神社は本当に、車とかで時間をかけて登らなければいけない所にあって
 小学校の時は送り迎えを車でしていたから、友達の家に遊びに行ったりはしなかったよ。
 好きなものは猫と和菓子。
 怖いものは”よくないもの”。
 常世学園にはおじいちゃんの都合と、自分を鍛えるためにやって来ました。
 いま一番仲がいい友達は日恵野ビアトリクスくんです」

そうやって相手に自分の持っているものを示すと、取られた手を嬉しそうに握り返して、ビアトリクスの言葉に頷く。

「ありがとう。トリクシーくん。
 うん、たくさん喋って叫んだら疲れてのどが渇いちゃった。一緒に飲もう」

そっと二人で日陰に入ると置いていたラムネの瓶を取る。
そもちはやはラムネを飲んだことがあまりないせいか、なかなか栓を開けることが出来ず手間取る。
不器用にビー玉を押し込もうとやっきになる。

ビアトリクス > くすくすと笑うさまと、ちはやの律儀な紹介返しを、
妙なる音楽であるかのように、目を細めて耳を傾けた。

大したプロフィールではない。
さほど特別なドラマも存在しない。
本当に些細なことかもしれない。
けれど自分のことを話したことも、
相手のことを教えてもらったこともほとんどなかった。
いままでは。

「……なんだよ。開けられないのか」
日陰で、苦戦する様子に、弛緩した笑みを向ける。
開けてやろう、とばかりにラムネを取り上げるが、
ビアトリクスだってあんまりラムネを口にした経験がない。
同じように数十秒のあいだ苦戦する。

「ああ、わかった、このキャップを、こう……」
しかし気づいてしまえば簡単だ。
ポン、とビー玉の栓が鮮やかに瓶の中に落ちる。
シュワ、と炭酸水が音を立てた。
「ほらね」
得意気に笑う。同じようにして、自分のも開けた。

神宮司ちはや > そういえば、と相手の顔を見て

「ぼくもトリクシーくんもお互いのこと、あんまり知らなかったね。
 変なの、結構長く一緒に居る気がしたのに。」

ビアトリクスが苦戦の末見事にラムネの栓を開けるとわっと喜んで拍手した。

「すごいね、ありがとう!トリクシーくんはなんでもできちゃうね」

満面の笑みを浮かべながら瓶を受け取って振る。
シュワシュワと炭酸の気泡がはじけてビー玉が涼やかな音を立てた。
一口、両手で大事そうに飲むと喉を清涼感のある水分が通って行く。
ほうっと口元から瓶を離し、満足そうに微笑んだ。

「おいしい、夏の味がするね」

ビアトリクス > 「知らなくたって、お喋りはできるからね。
 ……ちなみに、ビアトリクスというのは女性の名前なんだ。
 むかし、うさぎを描くことが得意な、女魔術師がいた。それがビアトリクス。
 ……変な名前だと、思うかい」
ちはやに優しげに視線を返して。

「夏の味……」
よくわからない言い回しだ、と思う。
そう舌が肥えているつもりもないが、チープな味である。
けれどそうではないのだな、と思う。
目と鼻と口が寄り集まって顔となり意味を成すのと、おそらくは同じで。
「おいしいね」
同じように、満足気に微笑む。
美しい、かけがえのない一瞬が、ラムネというかたちをとって、喉を通り抜けていった。

からりからり、とからの瓶にビー玉が鳴る。
「……そろそろ、行くかい」
ちはやが同じように飲み干したあたりで、そう提案する。

神宮司ちはや > 「そうだね、でもちょっとでも知るといろいろもっと深く知りたくなるね。不思議。
 ビアトリクスって女の人の名前だったんだ。
 トリクシーくんもうさぎを描くのが得意?ねこよりもうさぎのほうが好き?
 うさぎの絵を描いてってねだったら描いてもらえる?」

うさぎ、学校の飼育小屋ぐらいでしか見たことがない生き物。
遠目から見た時にふわふわの柔らかい毛玉の生き物に見えた。
それをたくさん描く魔術師ってどんな人だったんだろうか。

「ううん、変だとは思わない。だってそれがトリクシーくんの名前になったのだから」

お互いに同じものを味わって笑い合えることに喜びと幸せを感じる。
なんでもないことが尊く眩しいし、楽しい。
黙って静かにラムネを味わいながら時々ビアトリクスの顔を見て微笑んだ。

移動を促されると頷いて、ビニール袋に空になった瓶を2つ詰め込む。
片方に袋を、もう片方の手を当たり前のようにビアトリクスへ差し出した。

ビアトリクス > 「うさぎも好きだが、ねこもそれなりだね。
 いくらだって描いてあげるさ」
否定されれば、ありがとう、と頷く。
「ビアトリクスは偉大な魔術師だった。
 ぼくはこの名前に見合う人物になりたいと思う……」

手を絡める。
今この瞬間に世界が切り取られ、時計の針が走ることをやめればいい、と思った。
その思いこそが、芸術家たちが最初に持った願いなのかもしれない。

二人分の足跡はされど途中で止まることはなく、
砂浜の外へと向かって伸びていく……

神宮司ちはや > 「なれるよ、トリクシーくんだけの”ビアトリクス”に」

すでにちはやの中ではビアトリクスが偉大な魔術師に見えている。
ただ、彼が研鑽する姿ももっとずっと見ていたくもある。
彼の言う、偉大な魔術師の姿を思い描きながらそこに描かれた愛らしいうさぎとねこの絵を想像する。
きっとみんな二足歩行で歩き、魔術師に頭を垂れて使い魔として讃え、踊るのだ。

そうしてゆっくりと、今度こそ寮へと戻る道を帰ってゆく。
波の音も喧騒も次第に遠くなっていった。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」から神宮司ちはやさんが去りました。<補足:巫女舞の少年。ジャージ姿>
ご案内:「浜辺(海開き状態)」からビアトリクスさんが去りました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 ジャージ>
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に正親町三条楓さんが現れました。<補足:式典委員。黒髪姫カット。巨乳。>
正親町三条楓 > イベント浜辺から海を眺めていた彼女は。
二人の少年の去った先を見つめていた。

その視線は、かつてない程に鋭い。

「――――」

あの目。
まるで崇拝するような、縋るような。
その目を知っている。

恋する目だ。

正親町三条楓 > つまり、あの少年はちはやの親友などではなく。
『敵』だったわけだ。

「――ふふ」

楓がちろりと舌で唇をなめる。
それはまるで、蛇が舌なめずりをするようでもあった。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」から正親町三条楓さんが去りました。<補足:式典委員。黒髪姫カット。巨乳。>