2015/07/29 - 16:07~19:30 のログ
ご案内:「図書館」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた袖なしの長衣、ロンググローブ、ハイヒールサンダル>
ヨキ > (閲覧席の大きな机の上に、大判の美術画集とノートを広げ、何事か書き物をしている。左手でシャープペンを走らせ、右手はさらに別の書籍のページを繰っている。
 『色見本ハンドブック』と書かれた書籍と、目の前に広げた図版とを細やかに見比べながら、ノートに目を落とす)

「………………、」

(聖母像が纏う衣の、なめらかなドレープの模写。
 その輪郭に、表面に、模様に、陰に、ひとつひとつ注釈を入れてゆく。
 赤みの、緑みの、青みのイエロー、オレンジ、カーマイン)

ご案内:「図書館」にイヴェットさんが現れました。<補足:目深に被ったキャスケット帽に腰まであるロングヘア。尖ったエルフ耳にヘリオトロープ色の瞳。>
ヨキ > (図版をじっと見る。深くまばたきする。目を開く。もう一度図版を見る。色見本と見比べる……ごく小さく首を傾げ、唸る)

「…………。やはり」

(血色の桃色を帯びた肌の女性が、褐色を帯びた金髪を豊かに波打たせ、肩口に垂らしている。
 その身に纏った衣は輝くような紅、金色、深い藍)

「同じ色にしか、……見えんのだよなあ」

(通路に広く響くほどのものでもない、ぽつりと呟く声)

イヴェット > (静かな図書館にシャープペンシルが走る音。
 さらさらと流れる其れはまるで時間の流れのように優しく、ひどく穏やかな。
 そんな彼の描く世界を、室内だというのに目深に被ったキャスケット。
 帽子から覗くヘリオトロープの其れを携えて、ぽつり、小声で話し掛ける)

「………ヨキ先生。少し、見ていても構いませんか」

(にこり、とぎこちないながらも幾分か自然な笑みを小さく浮かべて、ひとつ)

ヨキ > (ふっと顔を上げる)

「君か――イヴェット君」

(見知った顔。目を細め、微笑み、どうぞ、と相席を勧める。
 目を伏せてはにかむが、作業を止す素振りはない)

「構わんよ。こんな地味なものでよければ……、」

(何の変哲もない大学ノートの見開き、その一面に、いま目の前に開かれた聖母像が、神経質なまでに分析され、記述され、模写されている。
 人物の大まかな形をとった構図、画面の全体を淡く覆う陰影の調子、衣服のドレープが作り出すゆるやかな流れ、現代と異なる眼差しで掬い取られた色調の移り変わり……)

「練習だよ」

イヴェット > (どうぞ、と返答があればキャスケットを脱ぎ、小さくひとつ礼を)

「はい、イヴです。──あ、お邪魔にはならないようにするので。
 あまり気にしないでください」

(勧められれば、ヨキの目前の席にちょこん、と座る。
 笑顔を向けられれば、興味深そうにヨキの手元をじいと注視した)

「……、やっぱり先生でも練習とかするんですね。
 イヴは余り絵が上手くないので、その、憧れちゃいます」

(緻密に描き出された聖母像を目を細めて見遣る。
 ドレープの流線形、光が当たれば生まれる自然な影。
 絵具の色をぼんやりと想起させる並んだ色の数々────)

(絵画に精通している訳でないイヴェットでも、此れが「美しいもの」と云うことを理解するには十分だった)

ヨキ > (イヴェットのお辞儀に、頷くような礼を返す。
 向かい側へ腰掛けた相手に、大らかに首を振って)

「いいや、邪魔なものか。ヨキを見て声を掛けてもらえるのは、いつだって嬉しいものだ」

(色見本のページの上を滑る指先が、数多く並んだ青色をひとつひとつ比べてゆく)

「ああ。人を教えるに、教師も常に学んでいなければならないからな。
 絵が苦手としても……他に、好きなものはあるだろう?
 君は構わず、そちらを伸ばせばよい」

(微笑みながら、指が二つの青を比べている。
 僅かに暗みの異なる二色――聖母像の衣と、見比べているらしい。
 数秒のあいだ、ヨキには珍しく迷うような様子を見せたのち、ひとつの色名を書き出す。
 やおら声を潜め、)

「………………。ヨキは、元が犬だからな。
 人と同じようには、色が見えていなくて」

(秘密を打ち明けるように、目を伏せ、小さく笑った)

イヴェット > 「それなら、よかったです。
 ヨキ先生の言葉、とっても勉強になるし──なによりイヴも頑張ろう、って。
 思えますから」

(照れくさそうに小さく笑って、頬杖をつきながら捲られるページを眺める)

「えっと、はい。今も丁度、練習してきた帰りです。
 イヴのお母さん、とっても歌が上手だったから──イヴも同じくらい、上手になりたくて」

(おずおずとしながらも、何処か自慢げにぼうと窓の外を見遣りながら言葉を落とす。
 窓の外は雲一つない晴天。実に夏らしく、グラデーションの掛かった青が目に入る。
 ヨキの手元の青色と比べながら、また楽しげに口元を緩めた)

「……──あぁ」

(暫し逡巡するように口を閉ざした。
 小さく笑うヨキをちらと視界に戻し、また手元の青2色を自身も眺めた。
 イヴェット自身にもぱっと見では同じに見えた青は、微少に異なっていた)

「………、其れなのに、こうやって頑張れるヨキ先生はすごいと。イヴは思います。
 イヴは出来ない、ってわかってたら自分で頑張ろうなんて、そうそう思いませんし」

(言葉を選ぶように、ゆっくりと間を置いて)

「でも、イヴはヨキ先生の出来ないことを知れてよかったです。
 イヴ、勝手にヨキ先生はなんでもできるんだろうなって、余り悩んだりしないのかなって。
 ───勝手に思っていたので」

(にこり、と。
 横髪を一房手に取り、ぴんと尖った耳に掛けた)

ヨキ > (図書館という場所柄、慎ましやかに抑えられた声が低く紡がれる。
 笑み交じりの息遣い、ノートに走らせる鉛筆、紙を柔く擦る指先)

「歌か。確か君には、人魚の血が入っているのだったな。
 人魚の歌は、人を魅了して止まないと聞く。イヴェット君の歌も、聴いてみたいものだ」

(世辞でなく、心から望む声。夏の茹だるような熱と蝉の賑やかさは、窓の外に遠く隔てられている。
 ゆっくりと口を開くイヴェットの言葉に、安心したように頷いて)

「……ありがとう。色や形の見えていない美術教師が人を教えるなど、嘘にならぬかいつも不安でな」

(黒一色の画面の上。無数の色の名前が並んでいる。
 記された中には、難解な色名も少なくないが、傍から見ればそれらの色合いを想起することは容易い)

「……日の入りのあとの僅かな時間に、街が金色に染まることも。
 青々とした緑に覆われた山々が、遠くの大気に青白く霞むことも。
 それらの仕組みをみな本で読み、話に聞いたし、実際にこの目で見もした。
 それでも恐らくは……イヴェット君に比べてこのヨキの目は、見えている色があまりにも少ない」

(詮無い話だがね、と笑って)

「人の視界ほど、共有出来ぬものもないからな。
 そうでなくとも、ヨキには出来ないことばかりだ。
 ……買い被りすぎだよ。悩むことが少ないのは、単にヨキの無神経から来るものだ」

イヴェット > (顰められた声にしっかりと耳を澄ませて。
 自己主張をする耳をしっかりとヨキの紡ぐ言葉に集中させる)

「はい、半分だけ、ですが。
 ただ、イヴはあんまり魅了、だとかが好きじゃないんです。
 其れで歌を好きって言ってもらっても、あんまり嬉しくないじゃないですか。
 だって、イヴの歌じゃなくて──」

(其処まで言い切って、声が段々と大きくなっていたことに気付く。
 恥ずかしそうに背中を丸めた。
 ヨキの言葉に嬉しさもあったものの、自分の歌に少しの苛立ちが混じった)

(「あ」、と小さく言葉を溢して)

「嘘も信じ続ければ本当になると思うんです。
 だって、人魚姫も、マッチ売りの少女も。
 嘘だってずっと前はこの世界で言われてたって聞きました。

 でも、現実にはこうやって───お姫様じゃあないけれど」

(はにかむように笑って、「此処に居ます」、と)

「だから、嘘だなんて思わなくてもいいと思います。
 ヨキ先生の言葉は、屹度本当だと思います。だって、こんなにヨキ先生」

(何処か恥ずかしそうに、ただ逡巡することはなく、彼女にしては堂々と)

「こんなに勉強していて、──色のこと、大好きなんだなあって。
 見えなくても、イヴにとってヨキ先生の言葉はとっても色鮮やかですから。
 ───……すみません、知ったようなことを言ってしまって」

(耳まで朱くして、小さく頭を掻く。嘘になってしまうのでは、と。
 目前の大柄な、頼りになる異邦人の教師の言葉を、ただイヴェットは否定した)

(ふう、とひと呼吸置いて)

「ええ、誰かの見ている世界とイヴの見ている世界は、たぶん、違いますから。
 だから、其の世界を伝えられるヨキ先生は、やっぱりすごいです。
 買い被り、とかじゃないですよ。
 無神経になれるのも、少し、羨ましかったりします」

(小さく首を傾けて、「すみません、さっきから」、と。 
 きわめて恥ずかしそうに、青い空とは対照的に。顔を赤く染めて笑った)

ヨキ > 「……人魚の魔力によるもの、か。
 そうだな、それはフェアではないと思えてしまうものなのだろう。

 だがね、……ヨキも元から、歌や音楽には弱いんだ。
 人の歌声には、どうしたって心を奪われて、掛け値なしに褒めてしまう。
 人魚の歌声が、人を魅了する魔力を持つように……ヨキもまた、音楽に魅了される性質から離れがたい」

(穏やかと見えた彼女の声に、感情が滲む。
 制するでもなく、イヴェットが萎縮するのを見ていた。
 意志を以って語られるイヴェットの言葉に、相槌は打たない。
 真っ直ぐにその瞳を見据えて、静かに聞いていた。

 ――聞き終えると、鉛筆を持ったまま丸めた指で、鼻先を小さく掻いて)

「ああ、……ああ。ありがとう。いいんだ、……嬉しいよ。
 実際にこのヨキもずっと、好きで学んできた。人の見るものすべてが羨ましくてな。
 そう言ってくれるだけ、君はヨキにとって十分『おひめさま』だとも。

 …………。だが、童話が嘘でなく、そして君が人魚姫でないのなら。
 君がいつか、泡と消えてしまうこともないのだな」

(小声で、冗談めかして、しかし軽んじる様子はなく『ほっとした』と笑う)

「自分の好きなものは、人に教えたくなる。
 ……それでいて、人の持つ『好き』を侵してはならないと、そう思っているよ。

 人には誰しも、自分の世界があるから。
 誰かが好きだと思う事柄の中には、ヨキにとっても何かしらの引力を持つに違いないと――そう思っている」

(照れくさそうな様子のイヴェットに、つられてくすくすと笑う)

「……なあ、イヴェット君」

(言って、鉛筆を置き、開いていた色見本の書籍を相手へ差し出す。
 笑顔に細められるイヴェットの瞳を、密やかに覗き込むように)

「――君の『瞳の色』を、教えてくれるか」

(ページの中に、四角く区切られた無数の色が、いくつも並んでいる。
 大抵の色ならば、そこに名を見つけることが出来るだろう)

イヴェット > (ヨキが笑うのを見遣れば、また安心したように笑顔を浮かべる。
 照れくさそうに、其れで居て嬉しそうに)

「──たぶん。在り来たりな話にしたくはないんです。
 だって、イヴが生まれて、イヴが此処で息をしてイヴがヨキ先生とこうして話しているのは。

 ………、童話の中には書かれていないことですから。
 悲しい物語じゃなくて、イヴが書いて、綴っていく物語ですから。
 イヴは消えたりなんかしません。────絶対に」

(ふう、と云い切れば、ゆっくりと瞑目する。
 ヨキの口から紡がれる言葉をしっかりと受け止めて、しっかりと抱いて。
 引力を持つに違いない、と云われれば、こくりと小さく。2度、3度頷いた)

(差し出された色見本の書籍をずい、と覗き込む。
 ぱらぱらとページを捲って、紫色が並んだページで手を止める。
 暫くしっかりと眺め、一か所で「あ」、と小さく声を漏らして顔を上げた)

「イヴの色は───」

(笑顔でひとつ、四角を指差す。
 紫よりは随分と明るく、また青にも程遠い。ムラサキ科の小低木の花のように、明るい紫。
 もとは太陽に向かって伸びる、向日性の意味も孕んだ明るい、鮮やかな青紫を指して────)

「『ヘリオトロープ』、ですよ」

(にこりと。また柔和な、嬉しそうな笑みを浮かべた)

ヨキ > (イヴェットの言葉に、深く目を閉じる。心地好さに浸る犬のような、人間と似て非なる瞼の動き)

「――やはり、ヨキはイヴェット君の、……君の歌が聴きたいね。
 例えその声に、人魚の魔力が介在したとて……君の喉から発せられるものには変わらんのだから。
 それらはヨキにとって、恐らく好ましいものだ。だから、その魔力に逆らう真似はせん。
 それでも――魔力の奥にある、君の本当の声を聴き取りたいと……そう思う」

(芯の通った言葉に、満足げに微笑む。
 イヴェットが真剣な顔で本を覗き込むのを、穏やかに見ている。

 そうして返ってきた返答に、イヴェットの指先が示した四角のひとつに目を奪われる。
 小さく開いた唇が、何らかの言葉を発しようとして、言いあぐねる。

 ――やがてゆるゆると、柔く唇を食み、充足したように、深く笑う)

「……『ヘリオトロープ』」

(ページの色と、目の前の相手が持つ色とを見比べる。
 人工の照明に、瞼が落とす影に刻々と色を変える瞳のその色が、確かな彩りを得たかのように。
 イヴェットに比べて無骨な獣の指先が、色に添えられた無機質な数字のキャプションをなぞる)

「……明るく、鮮やかで、それでいて悪戯に目を刺激することもない。
 紫よりも親しげで、赤より深く、青より眩い。
 ヘーリオス。太陽を――指向する色、」

(マンセル値、RGB値、16進数。
 黒字で印刷されたごく小さな文字から、イヴェットの持つ色の手掛かりを拾い上げるように、ぽつぽつと言葉を発する)

「…………。うつくしい、色だ」

(最後に一言、笑んだままそう零す。
 その語が真には空虚さを孕みながらも、それでも言わずにはおれないとばかりに)

「このヨキが……本当のことを言っているように、見えるか」

イヴェット > (その言葉をしっかりと聞き終えれば、またゆっくりと口を開く。
 満足そうな、其れで居て安心したような、そんな笑みを浮かべ乍ら、傍らに置いていたキャスケットを抱いた)

「……、そう云って貰えるなら、今度。是非聞いてください。
 あんまり上手ではないかもしれないですが、イヴは、歌うのが何よりも好きなので。

 其れに──ヨキ先生なら、聴いてくれると、思いますから」

(ヨキが言葉を落とすのと同時に、しっかりとヨキの双眸を見つめる。
 眼鏡の奥に覗く金色を、鮮やかな青紫が捉えた。

 切れ長の金、目尻の赤。そしてイヴェットの真直ぐ落ちる金糸とは対照的に緩く波打つ黒。
 深く、深くゆるゆらりと。まるで深海のような落ち着きを魅せる黒)

「ありがとうございます、ヨキ先生」

(イヴェットにはマンセル値もRGB値も16進数も解らない。
 其れでも目の前の彼が自分の持つ、自分の大好きな色を識ろうとしてくれているのは解った。
 其の文字列が紛れもなく、自分の色を表して、彼に伝えてくれているのだと思えば。
 内心で小さく「ありがとう」、と独り言ちる)

「………、はい。本当だと、思います」

(笑顔を浮かべたまま、満足そうに)

「だって。イヴのこの色は──イヴは、世界で一番好きな色ですから」

(イヴェットにしては珍しく、また堂々と。丸めた背はいつの間にやらぴんと伸びて)

「───っと、もうこんな時間ですね。練習の邪魔、しちゃってごめんなさい。
 イヴ、補講に来ていたんでした!」

(ひとつ、謝りはするものの申し訳ない、という気持ちは前に出ることはない。
 自信満々に笑って、目前のヨキに満面の笑みを向けた。
 ちらりと壁に掛かった時計を確認する)

(また図書館に踏み入れたときと同じように一礼して出口へと駆けだしていく。
 一礼を終え、上げた表情は踏み入れたときのような笑みではなく、何処か強気な笑みであった)

ご案内:「図書館」からイヴェットさんが去りました。<補足:目深に被ったキャスケット帽に腰まであるロングヘア。尖ったエルフ耳にヘリオトロープ色の瞳。>
ヨキ > (イヴェットの了承に、蕩けるように笑う。
 あるいはそれもまた、音に魅入られる魔性が発露したものなのかも知れなかった)

「……ありがとう。君の好きな歌は、きっとヨキも好きになれる。
 このヨキの耳に、イヴェット君の声をもっと聴かせてくれ」

(髪の下で影を落とす金が、紅が、笑みに明るむ。
 イヴェットを形づくる色のすべてを、ひとつひとつ見分するように見据えながら)

「好きな色――そうか。君が世界一、好きな色か」

(心に刻み、覚え込んで、頷く)

「覚えておこう」

(やがて立ち上がるイヴェットに、朗らかな笑い声を上げる)

「……補講?ああ、もうすっかり話し込んでしまったな。
 いいや、最初から最後まで、ちっとも邪魔だとは思わなかったとも。
 気をつけて行きたまえよ」

(館内を駆けるイヴェットの背を、あちゃあ、という顔で見送る。
 けれど止めはしない。姿が書架の向こうに見えなくなるまで見届けていた)

「………………、」

(しんとした静寂が戻る頃、ふ、と笑う。
 鉛筆を取り、ノートの隅に何事かを書き付けて――また、鉛筆を置く。
 書き物から手を離し、椅子に深く背を預ける。
 しばらくの間、そのままの姿勢で、残された余韻に身を浸すように)

“Yvette ― HELIOTROPE.”

ご案内:「図書館」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた袖なしの長衣、ロンググローブ、ハイヒールサンダル>