ご案内:「歓楽街街頭」に
ビアトリクスさんが現れました。<補足:ヴィクトリアンメイド スケッチブック [乱入歓迎]>
ビアトリクス >
歓楽街街頭。
スタンドに吊るされた色々なタッチの似顔絵サンプル。
折り畳みの机の前にメイドの扮装をしたビアトリクスが、不機嫌そうに座っている。
小遣い稼ぎがてら、学生通りや歓楽街などでたまにこうして
モンマルトルの貧乏画家よろしく似顔絵描きをしているのだ。
以前のメイド衣装はもっとあざとく丈が短かったのだが、
ビアトリクスの抗議によってロングスカートのヴィクトリアンスタイルに差し替わった。
どのみちこの衣装にはレンタル料が発生するので、それぐらいは稼がないといけない。
「…………」
今のところ客入りはない。
ご案内:「歓楽街街頭」に
鈴成静佳さんが現れました。<補足:160cm、黒髪ショートの少女、前髪を上げてポンパドールヘア/ハーフパンツ+なんかダサい柄のTシャツ>
鈴成静佳 >
(静佳が前髪を上げて頭頂で留めているとき、それは彼女の夜の顔といえる。とはいえ、「歓楽街の仕事」は夜とは限らず、一種の比喩表現だ)
(前髪を上げたところで印象が大きく変わるわけでもなく、変装というよりは心理的スイッチの切り替えに近い)
(そんなわけで「仕事」をしに歓楽街までやってきた静佳。短い夏休みはしっかりと有益に使い潰さねばならない)
(刻限まではまだ余裕がある。店内なり喫茶店なりゲーセンなりで時間を潰そうという目論見であったが……)
(街頭に、見知った顔を見つける。メイド服だが)
(静佳はしばし逡巡する仕草をし、意を決して歩み近づく)
……こ、こんにちわ、ビアトリクスくん。お仕事……?
(笑みを浮かべるが、その様子はややぎこちない)
ビアトリクス >
「あ、どうも……。まあ、仕事というかなんというか……」
机に肘を付いて、仏頂面を鈴成に向ける。
露骨に機嫌が悪そうだが、別に鈴成のせいで悪いというわけでもない。
手でスタンドに吊るされている画用紙のひとつを指し示す。『似顔絵描きます』。
「そう言う鈴成は遊びに? ゲーセンにテトリスでもしに来た?」
大して興味もなさそうなおざなりな声。
鈴成静佳 >
んー、アタシは…(しばし口どもり)…いや、アタシも仕事。夏休みだから、歓楽街でバイト。
仕送りもあるけど、お金はあるに越したことはないからね。フフッ。
……似顔絵かぁ。そういえば、ビアトリクスくんは、絵が……。
(そこまでで言葉は止まり、スタンドに吊るされたいくつもの似顔絵サンプルを無言でまじまじと観察する)
(静佳には芸術的センスはない。サンプルについても、それが上手いのかどうかさえピンとは来ない)
(とはいえ、ビアトリクスさんの描く絵というのを見るのは始めてだ)
(仏頂面で頬をつくビアトリクスさんのほうに向き直り、澄ました笑顔を浮かべながら)
……ねぇ、ビアトリクスくん。アタシの似顔絵、お願いしても、大丈夫かな。
嫌だったらやめとくけど……。
(普段の静佳らしくない、いやに消極的な態度の依頼だ)
ビアトリクス >
仕事、という返事にはふうん、と頷いて、
エプロンからキャラメルを一つ取り出して包装を取り、口に放り込む。
吊るされた似顔絵のサンプルのタッチは様々。
写実的な均整のとれたものから、歪にデフォルメされた抽象的なものまで。
似顔絵料金は、昼食が一回食べられる程度。
「……? 妙に慎ましい態度だな。
お代さえいただけるなら別に構わないよ」
言って、首を傾げながらも机の上にスケッチブックと色鉛筆を出して広げる。
そうして、じっと鈴成の顔を睨みつけるように観察しはじめた……。
鈴成静佳 >
えへへ、そ、そうかな……?
(態度について言及されれば、バツが悪そうに頭を掻き……そのまま、小さな髪留めを外して前髪を下ろし、手櫛で軽く整える)
似顔絵描いてもらえるなら、いつもの髪型のほうがいいな。フフッ。ちょっとした差だけどね。はい、お金。
(サンプルに混じって書かれている金額を財布から取り出し、机の上に優しく置く)
………。
(スケッチ道具を広げる様子を見て、静佳は机の前の折りたたみ椅子に腰を下ろし、ビアトリクスさんに真向かう形で背筋を伸ばす)
(うっすら化粧の乗った静佳の顔を睨みつけてくるビアトリクスさんの一挙手一投足を、静佳も澄まし顔で観察し返す)
(彼の絵を描く姿を、一度見てみたかったのだ)
……ねぇ、ビアトリクスくん。
この前の男子寮でのこと、ごめんね。なんか、すごく気分を害しちゃったみたいで……。
(やや沈んだ声で言う。表情を変えることはないが、視線が少し泳いでいる)
ビアトリクス >
「どうも」
差し出された金を巾着袋を出してその中に収める。
観察しながら、迷い箸をするように開かれた色鉛筆セットの上を手がさまよい、
やがて、いぐさのような淡い緑とトマトのような明るい赤の二本が取られる。
その二本の色鉛筆を一度に両方とも右手に握る。
「……ああ、何かと思えばそんなことか。
別に気にしちゃいないよ。慣れてるし。むしろこっちが言い過ぎたな」
本当になんの気にした様子もなく、冷静に言う。
実際、あの程度のことは“よくある”ことだった。
鈴成との一件は、怒りが過ぎ去ってしまえば、日常の一部として埋没してしまっていた。
鈴成静佳 >
そう? ……うん、気にしてなかったなら、よかったけど……。フフッ。
(表情がほころぶ。しかし、「言い過ぎた」という言葉には首をかしげそうになる……筆が走る最中なので動かさないが)
……でもね。「良い奴だよ」って言われたのは、正直嬉しかったッスよ。
(あのときのビアトリクスさんは、言い過ぎたというより、本心を言わなかったというか……)
(口に出さなかっただけで、心のなかではありったけの怨嗟を吠えていたのかもしれない。そのことを詫びたのかもしれない)
(至極大人な態度と言えただろう。しかしそれゆえに、ビアトリクスさんがなぜあの時怒ったのか、静佳にはまだ計りかねていた)
(気にしているのは静佳のほうなのだ。あの時から、今も)
(色鉛筆を二本同時に持つ見慣れぬスタイルに口を尖らせながらも、静佳はまじまじとビアトリクスさんの表情と右手を交互に見やる)
……ビアトリクスくんは、絵を描き始めてどのくらいになるんスか?
ビアトリクス >
観察を終えて、折りたたみ椅子に座ったまま身体を横に向ける。
普段持ち歩いているものより二回り小さいF2号のスケッチブックを、抱えるようにして持つ。
すると、机の前に立つ鈴成にも紙面の様子がよく見える。
そして、なんのアタリも取らずに鉛筆を素早く走らせ始める。
二本の色鉛筆を、手の中で器用にくるくると持ち替えながら。
淡い緑を明るい部分に、赤を暗い部分に使う。
次第に鈴成という少女の輪郭が浮かび上がってくる。
「いつから? うーん、忘れたな。
小学校に上がった頃にはもう描き始めていたはずだから……最低でも九年か?」
鈴成静佳 >
ふえっ、もう見なくていいの? 描けるの?
(横を向くビアトリクスさんに、感嘆の声を上げる。そして躊躇なく紙の上でペンを走らせる姿に、思わず尻を浮かせて机の向こうを覗きこむ)
……すごい。たったの2色なのに、あっという間に立体感が出てきてるというか……よくわかんないけど。
(人の顔を描くのにどう緑を使うのかと最初は疑問であったが、紙面に人の顔が形作られていくうちにその疑問も霧散していく)
(サンプルと、今のビアトリクスさんの筆致を交互に見比べる。自分の顔は、彼からみてどう描かれるのか。楽しみであり、ちょっとだけ怖くもあり)
……9年、ッスか。長いね。上手いわけだ。
ビアトリクスくんは、絵を描くのが好き……なんだよね?
(至極当然とも思えることを訊く。普段から油絵の具の匂いを纏い、こうやって似顔絵屋をも開いている少年。嫌いなはずはないのだが)
(それでも、知りたい。本当のところを。好きなら、その思いの丈を)
ビアトリクス >
「見過ぎるのもよくない」
簡潔に答える。
あまり重要な話ではないが、ビアトリクスは、生きた人間の顔の認識が常人とは少し違う。
観察は途中で遮断し、要素を要素として捉え、自分の中で分解再構築を行ったほうが、写実的表現にはうまく作用する。
揮発した短期記憶で脳内のギアを回し、裁断機械のように鉛筆を動かす。
F2の画用紙いっぱいに満ちていく、燃えるように快活に笑む、躍動感に富んだ鈴成静佳の肖像。
まもなく完成に至るそれは似顔絵というよりも、鈴成という人物情報から想像された場面のイラストと言ったほうが近い。
問いには少しの間が置かれる。
「……好き、好きかはどうかわからないな」
かち、と二本の色鉛筆を手の中で鳴らす。
「ぼくにとって、絵を描く、というのは生き方であり、理想だ。
用意された道を歩くぐらいに、自然なことだから」
淀みなく告げた。
鈴成静佳 >
アハハー、あまり女子の顔じろじろ見過ぎると惚れちゃうかもしれないしねー……なんちゃって……。
(曲解して軽口をたたくが、すぐにその口調は萎む)
(しかし、紙の上で踊る2つの色鉛筆によって徐々に紡がれていく絵画の様に、静佳の顔はほころぶ)
(なんていい笑顔なのだろう。なんていい笑顔を見せる少女なのだろう)
(数日前に喧嘩したビアトリクスさんと対峙して、正直萎縮していた今の自分は、少なくともこんな顔はしていなかったはずだ)
(今しがた軽口を叩いたが、そんな自分が今、この似顔絵の少女に惚れてしまいそうな気分にさえなってくる)
(でも、感想は完成の時まで待とう)
……生き方、かぁ。いいね。
(ビアトリクスさんの言葉を反芻する)
確かに9年もやってきたら、それは生き様だよね。好き嫌いを問うのは野暮になっちゃうのかも。
あるいは……分からなくなっちゃう、のかな。好きなのかどうかさえ。
(自分にはそこまで入れ込んだ趣味はない。多芸多趣味、浅く広く、楽しみながら。楽しくなくなったら身を離す)
(そんな静佳では、ビアトリクスさんの芸術に対する境地を深くは理解できない。そしてまた、憧れるものでもある)
……でも、スケッチブックに向かって集中してるビアトリクスくんは、カッコ良いッスよ。うん。
ビアトリクス >
軽く細部を整えて、瞳を最後に描き込む。完成だ。
丁寧にスケッチブックから用紙を切り離し、鈴成へと差し出す。
「出来た。……知ってる人間の似顔絵はうまく描けないな。
赤は情熱を、緑は調和や良識を象徴する色だ。
鈴成にはふさわしい色の選択だと思うけど、どうかな」
聴きようによっては恥ずかしくも取れるそのセリフを、当然であるかのように舌に乗せた。
色鉛筆を机の上に離し、指の汗を前掛けで拭う。
「いいも悪いもないよ、こんなの。今出せる答えはそうってだけで、
明日になったらまた言うことは変わっているかもしれない」
どこか憧憬の念の混ざる鈴成の声に、ビアトリクスの返事はあくまでも冷ややかだ。
実際、絵が好きか、という幾度も投げかけられた問いに対して、
ビアトリクスはその都度違う答えを返した。
フレーバーティーのペットボトルの蓋を回し、口をつける。
キャラメルはいつのまにか飲み込んでいた。
「ぼくはまだ迷ってる。おまえだってそうなんだろ、鈴成」
鈴成静佳 >
情熱と良識かぁ……良識のほうはちょーっと自信ないかな。アハハー……。
(頭を掻きながら照れくさそうに言う。なんせ、この後に歓楽街の奥地へと向かう、彼女の「仕事」は……)
でも、この色合い、夏っぽくて好きッスよ。まるで野菜畑のような。フフッ。
(紙を受け取る。今にも飛び出してきそうな、笑顔の自分。ビアトリクスさんの見た自分。あるべき姿……)
(知ってる人間だから描けない? 静佳はそうは思わない。見ず知らずの人間であればここまで躍動感のある「似顔絵」は描けないのではなかろうか)
(とはいえ気を使うところもあるのだろう。正直、払った金額が足りないような気さえする)
……ありがとう、ビアトリクスくん。大事にするよ、これ。
アタシ芸術に疎いから教えて欲しいんだけど、こういうのを保存しておくにはどうしたらいいのかな。
額縁に入れるだけでいい? 何か特別な処理とか必要? 仕事前に画材屋さんに寄っていこうかなって。フフッ。
(淡々と絵に対するスタンスを語るビアトリクスさんを、静佳もバッグから飲み物を取り出し啜りながら見つめる)
(迷っていることに対してさえ淡々としている。きっと、好きだろうと嫌いだろうと、もう絵からは離れられないのだろう)
(それが彼にとって幸せなのかどうかは、自分には想像がつかない。口出ししていいものでもない。生き様というのはきっと、そういうものだ)
……うん、迷ってるといえば迷ってるね。どういう職について、どう生きていくか。それを学ぶ、見つけるためにこの学園に来たんだしね。
でもね。
(再び、笑顔の躍るF2の紙に目をやり)
……生き方については、アタシは迷わないよ。毎日を楽しく、気持ちよく、清々しく生きる。この絵みたいな笑顔をいつだって浮かべてね。
そして、アタシの周りの人もこんな笑顔でニコニコ過ごせるような奴になりたい。
ビアトリクスくんには年数で負けるけど、アタシだってこの事は6年前に決めた「生き方」だからさ。そこは絶対にブレさせたくないんだ。
(ニッ、と歯を見せて笑い、再びビアトリクスさんに視線を向ける静佳)
ビアトリクス >
「ぼくはお前ほど良識のあるやつはいないと思っているけど」
本気か冗談か判別のつかない調子で淡々と。
「適当でいいよ。大きめのクリアファイルとか収納用のボックスにしまうとか。
額縁……は高いからジグソーパズルのパネルでも」
保存方法を訊かれればそう答える。
前にある女子生徒にちょっとした落書きをあげたら、額縁に飾るなどと言われてしまったことを思い出して苦笑を浮かべた。
「そんなに気に入ってくれたならサービスしとくよ」
鞄から定着液のスプレーを取り出し、用紙に吹きつけた。
「なるほどな。ぼくも今更絵をやめるという選択肢はないし……
そういうものなんだろうな」
納得したように一度頷く。その笑顔にはまっすぐ目を合わせない。
「ぼくは笑うのが苦手だから、こんな仏頂面でも許されるような奴のほうがスキだけど……」
先ほど一度苦笑を浮かべたことを除いて、ビアトリクスは終始面白くもなさそうな無表情だった。
鈴成静佳と話している時も、絵を描いている時も。
鈴成静佳 >
えっ……?
(自分が良識派であると言われ、一瞬真顔に戻ってキョトンとする静佳)
(冗談にしたってあまりにも意外な意見だ。男子寮の風呂にまで忍び込んだ女子に、良識とは……)
……アハハー、冗談うまいッスね、ビアトリクス君は!
お、ありがと。そのスプレーで色鉛筆を固めるんスねー……臭ッ!!
(フィキサチフの揮発性の臭いに、静佳は笑いながら顔をしかめる)
……笑うのが苦手かぁ。フフッ、確かに、最初会った時からそんな気はしてたよ。
でも、だからこそ、この絵を見た時は驚いたというか、安心したというか。
(カサカサに乾いた画用紙の端を撫でる。汗でしっとり濡れた指先でも、色鉛筆は滲む様子を見せない)
こんないい笑顔を描いてくれるんだから、ビアトリクスくんは良い人だよ。素敵な人。
顔で笑えなくても、絵で笑えるなら、アタシはそれで十分だと思うッスよ。できればずっと、そんな感じでいて欲しいな。
(視線を他所へやるビアトリクスさんを、あくまでもまっすぐ、太陽のような笑顔で見つめ続ける静佳)
……さてと。重ね重ね、似顔絵ありがとね。ビアトリクスくん。
まだ仕事までは時間あるから、今のうちに画材屋行って、家に帰って置いてこようかな。仕事場湿気あるからね~。
似顔絵描き、がんばってね、ビアトリクスくん!
(荷物をまとめ、髪を上げ直す静佳。机に身を寄せてビアトリクスさんの肩に軽く手を添え、活を入れる)
ビアトリクス >
「おまえは絵描きに幻想を持ちすぎだよ……」
鈴成の好意的な言葉を呆れ気味に蹴っ飛ばした。
この程度の蹴手繰りでどうこうなるような人物ではないのはわかった上で。
「はいはい」
荷物をまとめる鈴成に、おざなりに返事をする。
鬱陶しいやつではあるが、イヤなやつではない。距離感さえ保ってくれれば。
軽く身体を伸ばす。もうひとりぐらい客が入ればいいかな、とか思いながら。
やっぱりこの似顔絵描きという仕事は、修業にしても小遣い稼ぎにしても割に合わない……そんな気がした。
「冗談じゃなかったんだけどな」
小さく呟いた。
鈴成静佳 >
幻想? そうかな?
(澄ました笑顔で、首を軽くかしげる)
ま、いいッスけどね。良い幻想なら、それはそのままでいいじゃん? フフッ。
(あくまで前向きな静佳であった)
……っと、商店街と寮に行って戻るのはちょっと厳しいかも? 飛ばしていかなきゃ。じゃねー!
(最後のつぶやきを訊くことなく、静佳はフッと姿を消した。瞬間移動術だ。雑居ビルの屋上に一瞬Tシャツ姿が現れ、すぐに消えた)
ご案内:「歓楽街街頭」から
鈴成静佳さんが去りました。<補足:160cm、黒髪ショートの少女/ハーフパンツ+なんかダサい柄のTシャツ>
ご案内:「歓楽街街頭」から
ビアトリクスさんが去りました。<補足:ヴィクトリアンメイド スケッチブック [乱入歓迎]>