2015/08/02 - 13:06~22:25 のログ
ご案内:「美術部部室」にビアトリクスさんが現れました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 シャツ スカート [乱入歓迎]>
ビアトリクス > 普段の鞄と、それに加えて大きい紙袋を手に美術部部室の鍵を開け、入る。
今日はまだ誰もいない。

「客入りとかそういう以前にこの季節にヴィクトリアンメイドは暑すぎて無理」
一人ぼやいて紙袋――メイド衣装が入ってるやつ――を机の上に置いた。
置いておけばあとで勝手に回収されるだろう。

新聞紙を敷いてその上に乾かしてあった小さい動物の粘土細工を確認する。
しっかりと乾いていた。
「今度ちはやに会ったときにあげるか……」
へたくそだのなんだの言われたが、時間を置いて見ればそう悪くない出来だ。
贈られたちはやの顔を想像してちょっと顔がほころんだ。

ビアトリクス > 棚から、使われていない小さな箱を一つ取り出して、緩衝材を詰め、
そこにつやつやの粘土細工を入れる。

粘土細工は慣れていないぶん無難な愛らしいデザインになったが、
自分が動物を絵にしようとすると傷ついていたり溺れていたり
頭が骸骨になっていたりと妙に悪意を込めがちになってしまう。

人間の肖像に悪意を込めるとモデルから文句が出るが、
動物はそうはしないからかもしれない。

ご案内:「美術部部室」に惨月白露さんが現れました。<補足:銀髪に黒メッシュ、空色のウルフアイ。>
惨月白露 > 美術部部室の戸から、コンコン、と控えめな音がする。
その音の後を追う様に、その戸を叩いた主の声が美術部の部室に響く。

「ビー君、ここに居るって先生から聞いたんだけど…。
 ―――入っても、いいかな。」

響くのは、彼にとっては聞き覚えのある声だろう。

ビアトリクス > 「…………」

それは確かに知っている人物の声。
しかしここにわざわざ足を運ぶ、とは意外だった。
手にしていた箱にパタン、と蓋を閉めた。

「別に構わないけど。……見学、じゃなさそうだな」
平静な声で、ノックにそう返事する。

惨月白露 > 「しつれいしまーす。」

そんな軽快な声を出しながら、
ゆっくりと扉を開ける。
中に入ると、扉をぴたりと閉めた。

「久しぶり、興味が無いわけじゃないから見学してもいいんだけど、
 ちょっとだけ、ビー君に用があったからさ。」

美術室に置かれた絵を身を屈めて見ながら、
左右にフラフラとビアトリクスに歩み寄ると、
最後に絵を見るのと同じように身を屈めて、
ビアトリクスの瞳を見てにっこりと笑う。

「で、先生に聞いたらここに居るって言うから、来たってわけ。」

ビアトリクス > つい後退りしそうになる。
自分が背の高いほうでないことを差し置いても、こいつは大きい。
二メートル超の陽子の前では霞むが、あの規格外と比べてはいけない。
シロの容姿や体格に関してビアトリクスが思わないことはないでもないが、
あまり関わったことのない人間がどうこう触れるものでもない。
おそらくは異邦人だろうし。

「用、ね……ナンパならお断りだけど。何?」

狼の目から視線をそらさず、軽口で返す。
自分に用、と言われても思い当たりがない。
あるとすればちはやについてのことだろうか?
しかしそうであれば、余計向こうから切り出すのを待ったほうが良いだろう、と判断した。

惨月白露 > 「はは、つれないなー、
 でも、今日はナンパじゃないよ、
 ちはやさん一筋だからね、ビー君は。」

そう言って笑いつつ、頬を掻く。

「で、そのちはやさんに謝りたい事があってさ、
 居場所とか知らないかなーって。
 
 多分、話くらいは聞いてると思うんだけど、
 ちはやさんとちょっと喧嘩しちゃって。」

困ったように笑いながら、話を続ける。

「私、夏休み中に転校する事になっちゃってさ、
 喧嘩別れになっちゃうのは、ちょっと嫌じゃない?
 ………だから今のうちに、謝りたいなって。」

『その準備でばたばたしてるから、あんまり時間はないんだけど。』と、
苦笑いと共に耳がたらんと垂れる。

ビアトリクス > ちはや一筋と言われて目をそらす。
どうも見ぬかれているらしい。ごまかせないと悟った。

『喧嘩』については、ビアトリクスも聞き及んでいるところだった。
「彼もきみとは話したがってたよ。
 どこに、か……ふつうに考えれば、男子寮か、教室棟かな。
 式典委員として浜辺にいるかもしれないけど」
チャコールグレイのスマートフォンを取り出して、ちはや宛に簡潔なメールを出した。

続いた言葉に、目を丸くする。
「転校……? 急な話だな。常世島の外に? なんでまた」
垂れた耳に視線を向けながら、思わずそう尋ねてしまう。
別に常世学園しか異邦人を受け入れる地がないわけではないが。
あえて常世を去るということは、それなりの理由があるはずだ。

惨月白露 > 「……そっか。」

そう、少し安堵するように笑う。

「もう二度と会いたくないって言われてなくて良かったよ。
 結構酷い事しちゃったからさ。
 
 あ、メールしてくれたの?ありがと。」

『男子寮か教室かぁ、と呟きながら』
彼がスマートフォンを操作するのを見れば、
にっこりと笑ってお礼を言う。

「ちょっと色々あってね。
 もうここには居れなくなっちゃったー……なんてね。」

そんな風に苦笑いを浮かべつつ、近くの椅子に腰掛ける。

「ビー君も、私に何か言いたい事とかないの?
 ……ほら、ちはや君の友達としてさ。」

瞳を細め、彼の顔を見る。
友人から喧嘩について聞いているのなら、
何か言いたい事の一つや二つないのか、と。

ビアトリクス > 虚を突かれたような表情。

「言いたいこと、か……ないわけではないけど」

もしシロの前に立つことがあったら、それはちはやの付き添いとしてだと思っていた。
自分の刺々しい部分について、ビアトリクスは重々承知していた。
だから個人の意見はできるだけしまっておいたほうが、余計な面倒事を起こさない、と考えている。
丸くなったといえば、丸くなったのだろう。

しかし現実にはここにちはやはおらず、問われているのはビアトリクス個人の感情だった。

「……」

立ったまま作業机に手をついて、自意識を探る。
ちはやがシロについて相談する時の、その顔を見た時にざわついた胸中。

「……余計なことをしてくれたな、って思ったよ」
沈黙の後、そう口にする。叱責や糾弾というよりは……痛みを堪えるような表情で。

惨月白露 > 痛みを堪えるような表情に怪訝な顔を向けながら、
首を傾げ、彼に問いかける。

「―――余計な事?なんで?」

確かに傷つけるような事はしたが、
それで何かビアトリクスがそのような表情で、
そのような事をいう理由は分らなかった。

飛んでくるとしたら、
叱責の言葉か、糾弾の言葉だろうと思っていたからだ。
『友人をよくも傷つけてくれたな。』というような。

それで彼の気がすこしでも済むなら、と問いかけたのに、
そのような事を、そのような表情で言われるのは、完全に予想外だった。

ビアトリクス > 「……」

もちろん、シロを責めたい気持ちがないわけではない。しかしそれよりも。

「こう言うと、きみは腹立つかもしれないが。
 ……ちはやはさ。優しいから、きみみたいなやつを見ると……なんというか、
 助けたくなっちゃうんだよ。
 きっと、ぼくのことも、そう見えていたのだろうし」
口火を切った言葉の端から、押さえつけていた、
割り切れず処理できていない感情が少しずつ血のように零れていく。

「……いやなんだよ。
 ぼく以外を見るちはやを見るのが。
 そしてそんなことがいやになる、自分自身が」
シロの方を向かず、机に向かって俯いたまま、疲れた相貌で。
絞りだすようにして、言葉を吐いた。

惨月白露 > 「私みたいな……って、
 ビー君、私について何か知ってるの?
 ―――私は握ってきたちはやさんの手を振り払っただけで、
 それで傷つけたんだと思ってたんだけど。」

困惑するような、狼狽するような声を漏らす。

「―――しかも、ちはやさんが私を助けるって?なんで?」

ちはやの事は、理由も何も言わずにただ傷つけただけのはずだ。
それなのに、助ける?なぜ?とただ困惑する。

ビアトリクス > シロの困惑した様子に、多少冷静さを取り戻したのか、姿勢を正す。
身をシロに対し、横に向けて立つ。

「いや、全然知らない。でも、きみがちはやに言ってたことを伝え聞いて、
 知らないなりに推し量ることはできるよ。
 たとえば、きみのやっていた仕事とか」

――『私は好きじゃない相手ともする』。
――『自分にはそんな大切なもの勿体無い』。
――『自分は羊の皮をかぶった狼だから』。

「助ける、なんてのは確かに大げさな言い方だったかもしれないな。
 本人はそんなつもりなんてなかっただろうし。
 でもさ、自分という存在がどうしようもなく汚らしく感じるとき――
 きれいな存在に撫でてもらったりだとか、手を握ってもらったりだとか……
 たったそれだけのことで、救われたような気持ちに、なることもあるんだよ」

「……たぶん、ぼくはそのときに彼をすきになってしまったのだと思う」
小さくぽつりと付け足す。

惨月白露 > 「――――そっか、ビー君はそういうの詳しいんだ。」

仕事とか、と言われれば、
一瞬ビクりと身体を震わせる。
そして自嘲するように笑うと、腰掛ける。

「……ビー君が思ってる通り、私は身体を売ってる。
 それも一人二人じゃなくて、何十人単位で。

 だから、自分の事をどうしようもなく汚いとも思ってる。
 
 でも、ビー君がいう事はわからないな。」

再び体を立ち上がらせると、ビアトリクスに近寄る。

「『そんな綺麗な手で触ってくれるなんて、自分は案外綺麗なんじゃないか』とか、
 『こんな奴に手を差し伸べてくれるなんて、なんていい人なんだ』とか、
 そんな都合のいい事さ、考えれるわけないじゃん。

 綺麗なものに触れれば、余計に自分の汚さが際立つだけだよ。
 綺麗なものについた汚れは、汚れたものについている汚れよりも目立つ。」

横を向くビアトリクスの顔を、再び下から見上げる。

「いくら綺麗なもの憧れても、触れちゃいけないんだよ。
 綺麗なものは、1点も曇ってないから綺麗でいれる。
 一度汚れたものは、二度と元の真っ白には戻らない。
 ……キャンバスと一緒でね。

 そんな自分勝手な救いなんて、求める権利は無い。
 ―――私は、そう思ってる。

 『罪人』に触れるべきなのは、そんな優しく伸ばされる救いの手じゃなくて、
 激しく振り下ろされる罰の鞭だってね。」

寂しくにっこりと笑って、瞳を細める。

「ビー君は違ったんだね、その綺麗な手を伸ばされれば、
 それに触れられれば、それを『救い』って思うんだ。
 
 そんな都合のいい存在を『好き』って言うんだ、自分にとって、都合がいいから。」

ビアトリクス > 「…………」

見上げる顔から逃れるようにして、散らばる椅子の一つに、自分も腰掛ける。

「きみの考えるほどにぼくは無邪気ではないよ。
 今はただちはやの純真さにつけ込めているだけで、
 いつか裁きの下ることがあるかもしれない――
 そんな懸念は常に抱えている」

「だけどさ……人間ってのは、罰されるのを待つためだけに生きることなんてできないよ。
 どんな悪人だって、救いを求めてしまうし、逆に意に反して誰かを傷つけてしまう。
 だからぼくはきみを責める気にはなれない」

椅子を回して、シロのほうをいまいちど向く。

「きれいさ、というのは……
 きっと何かをきれいだと思う心のうちに生まれるんだよ。
 本当に醜さに染まりきっていたら、それを惜しむことすらできない」

目を伏せて。

「だから、またちはやがきみに触れようとすることがあったなら。
 それを拒まないでほしい。
 きみは充分にきれいなのだから」

冷徹とも言える口調で、告げる。

惨月白露 > 「『都合がいい』所に付け込んでるだけでも、
 一緒に居られればそれでいい、か。

 ―――いいんじゃないかな、私は、そういう人は嫌いじゃないよ。
 
 私と同じ、腐りきった海の臭いがする。」

『思った以上に、ビー君とは仲良くできそうだよ。』
と、クックと小さく笑みを零す。

「でもね、私は『罰』だけを待って生きてるんだ。
 救いなんて、求めてないし、求める気もない。

 もし求めるとしたら、ちゃーんと贖罪を終えて、
 本当の意味で『人』になれてからだよ。

 私はまだ、人ですらない。『羊の皮を被った狼』だから。」

そう言って笑うと、再び、近くの椅子に腰掛ける。

「で、ビー君はそれでいいの?
 私がそれを拒まないって事は、私もビー君と同じように、
 ちはやさんの純真さに付け込むって事になるけど。

 ちはやさんが、ビー君以外を見るのは嫌なんじゃないの?
 
 それなら、そんな風に「綺麗」だから大丈夫とか言わないで、
 口汚く罵って、絶対に触れるなって言えばよかったのにさ。」

にっこりと笑って、首を傾げる。

「―――なんで、そうしなかったの?」

ビアトリクス > 「……きみの罪とやらはどうやれば贖われるんだい。
 並大抵のことじゃ納得行きそうにないが、その様子は」

皮肉げに、薄い笑いを零す。

「……ちはやに相談された時。きみから遠ざかれ、と一度説得しようとした。
 その成果について言及する必要があるかな? 愚かな試みだったよ」

石のように動かず、じっくりと言葉を重ねる。

「ぼくはきみと傷の舐め合いも、深め合いもする気はない。
 そんなことをしても淀みが深まるだけだ。
 ちはやならきみのことをきっときれいだと言うだろう。
 ぼくの企みが潰えた以上、その願いと、価値観に殉ずるまでだ」

一度言葉を切る。

「まあ、安心してくれよ。
 きみがもし万が一、致命的にちはやを穢すことになったら」

腰を浮かせ、身を近づける。無表情のままに。

「ぼくがきみを罰してやるから」

ご案内:「美術部部室」に神宮司ちはやさんが現れました。<補足:巫女舞の少年。式典委員会の腕章に学生服姿>
神宮司ちはや > バタバタと慌てて廊下を走ってくる音がする。
息を切らせて走ってくるその姿はビアトリクスからのメールを受け取ったちはやだ。
部室棟の慣れぬ配置に迷いながら一生懸命美術部部室の前に現れると、勢い込んで飛び込んできた。

「と、トリクシーくん……!シロさんが来てるって……!まだいる……?!」

ぜえぜえと苦しそうにあえぎ、汗を流して室内を見回す。
果たして目当ての人物はまだ室内に居た。

惨月白露 > 「さぁね、それは今探してる所だよ。」

そう、肩を竦める。

「こうして生きているだけで罪が増えていくなら、
 それを全部償える時は一生来ないのかもしれないけど。」

小さく笑いながら、そっか、と頷く。
近寄る彼の顔に臆する事もなく、その瞳を覗き込む。

「私も、ちはやさんの事は好きだよ。
 でも、好きだからこそ、私は彼には絶対に触れない。

 ―――だから、安心して? ビー君。」

近寄ってくる足音を聞くと、
ビアトリクスのの腕をつかんで、ぐいと引き寄せる。

「それでも、私がちはやさんを汚すことがあるのなら、
 その時は、素敵な『罰』を期待してるよ、ビー君。」

ただにっこりと笑って、そう言った。

ビアトリクス > 「誰だってそうさ。人は身に余る悲しみを抱えるから、
 芸術に癒やしを求めるのさ」
受け売りだがね、と付け足して。

「……。やれやれ、強情なやつだな。
 最近は頑固な連中とばかり話している気がするよ」

腕を取られ、体勢が崩れる。足音が迫ってきている。
静かな決意を湛えた瞳を伏せる。
もうこれ以上、自分の費やせる言葉はない。

引き寄せられたまま、飛び込んできたちはやに片腕を挙げて応じる。
どこまで見られていただろうか……。

神宮司ちはや > 焦って入ってきたものだから、二人の会話を聞き取る余裕はなかった。
ただ白露がビアトリクスの腕を掴んで何事か起こっている様子にただならぬ気配を感じる。
おずおずと、今まずい所で入ってきてしまったのを悟り気まずそうに二人を見つめる。

「ご、ごめん……お話中だったよね……?
 あ、あの、シロさんまだ居てよかった……」

ちらりと、問題の相手へ視線を向ける。

惨月白露 > ちらりと、視線を向けるちはやのほうを見て、
近寄ってきた足跡の主が誰であるかを確認すると
申し訳なさそうに頬を掻いた。

「……ちはやさん。」

そう呟き、ビアトリクスから離れると、頭を下げた。

「この間は、ごめんなさい。」

ただ短く、それだけ告げる。

ビアトリクス > 「大丈夫だよ」

シロの身体が離れると、安心させるように薄い笑みを浮かべた。
じゃまにならないように、二人から距離を取って、部室の窓際に立った。

神宮司ちはや > 二人が離れたことを見て、そろそろと近づいていく。
白露に謝られたてびっくりしたように両手を、首を振った。

「い、いえ……あのぼくこそ、この間はごめんなさい。
 あれから、シロさんの言葉とかそれの意味とかすごく考えてたんですけど
 やっぱりぼく、よくわかってなかったなって思って……。
 
 ……シロさんはまだぼくのこと、きれいとか触りたくないとか……思っていますか?」

言葉を途切れさせながらそう尋ねてみる。

惨月白露 > 手を振られても、あるいは首を振られても頭を下げたままだったが、
彼の問いかけにゆっくりと頭をあげる。

「触りたくないとは思ってないけれど、触らせたくないとは思ってるよ。
 もちろん、ちはやさんは綺麗だとも。
 ………私には、ちはやさんも、ビー君も、どっちも眩しすぎる。」

『触らせたくないというよりは、触るのが申し訳ないって感じだけど』
―――ただ、そう、瞳を伏せて首を振る。

神宮司ちはや > 白露の言葉にゆっくり、両の手を下ろす。
うつむき、少し悲しげに表情を歪めた。

「ぼくは…ぼくは、シロさんが思っているよりずっと汚いです。
 トリクシーくんに相談して、あなたの言葉の意味を一つ一つ理解したんです。
 それで、シロさんがどうしてああしたのか、理解してきたつもりです。
 ……あなたの汚さとか、ぼくの知らなかった世界でのあなたがしてきたこととか
 そういうのはまだわかっていないかもしれないし、本当のあなたの悲しみを理解してあげることができないかもしれないけど」

でも、と区切ると顔を上げて白露を見つめる。

「あなたがどんなに汚くても、それでもぼくは友達になりたいし、何度でも手を伸ばすとおもいます。」

ビアトリクス > 「…………」
ちはやの言葉を背に、黒いカーテンを手で握る。

ちはやはただ純真なだけではない。
単に幼く愚かで、都合のいい存在というわけではない。
彼もまた、どこか自分の知り得ぬところで悩んでいる。
そうして出した結論として、彼の行動があるのだ。
だから自分は、それを信じ、見守る。

それがいま出来る、ちはやという人間の尊重のしかたである――きっと。

惨月白露 > 「……そんな事は無い。」

彼のずっと汚いという言葉を否定して、
自分の手をちはやの目の前に出す。

「ちはやさんがこの前握ったこの手は、人を殺した事がある。
 首を絞めたこともあるし、刺して、その返り血に染まった事も、
 引き金を引いて、その火薬の臭いに染まった事もある。
 
 殺した人には、男も、女も、子供も居た。」

ちはやの瞳を虚ろな瞳で覗き込みながら、さらに続ける。

「この手は、金を握るってだけの為に好きでもない人の手を握って、触れた事がある。
 好きでもない男のアレを握った事もあるし、
 好きでもない女のアレに突っ込んだ事もあるし、後ろに突っ込んだ事もある。」

絞り出すように、懺悔するように、
身体を震えさせて、話を続ける。

「他にも、人を浚ったり、人生を狂わせるような薬を注射したり、
 売る為の臓器を取り出したり、嘘の書類を書いたり、盗んだり、脅したり。
 ……大体、なんでもやったよ。」

瞳を伏せ、首を振る。

「この手は、色んなモノで汚れてる。
 だから、ちはやさんは握っちゃいけない。

 謝りたかったのは、そんなモノを、
 何も知らずに握らせた事と、ちはやさんは何も知らないのに、
 ただ、自分の勝手でそれを振り払った事だけだよ。
 
 納得が行くまで罵ったら、
 もう『私』には、いや、『俺』には関わらないで欲しい。」

鞄から学生証を取り出すと、地面に放り投げる。

「―――偽造なんだよ、ソレ。
 最初から『白露小百合』なんて生徒は『存在しない』。
 
 俺は、最初からお前ら二人を騙してたんだ。」

ギリッと歯を噛みあわせて、彼から投げかけられるであろう、
叱責の声を、侮辱の声を、あるいは、断罪の声を待つ。

神宮司ちはや > 「シロさん……――」

彼の口から出てくる数々の罪の告白に息を呑む。
それは確かにビアトリクスが濁すように説明したものをはるかに超える内容で
言葉の意味がわからぬものも多々あったが、それでもその口ぶりと態度から
この世の暗部を煮詰めてどろどろに溶かしたような出来事であったことは理解できた。

わずかに震えて口元を押さえる。
床にたたきつけられた偽造の学生証を見つめながら、しかしゆっくりと両の手を下ろして
一歩白露に歩み寄った。

「……それでも、それでもぼくは自分が触れたいものを自分で決める。
 あなたがどんなに嫌っても、汚くてもそうするって決めたから。
 それはぼくのわがままで、それがぼくの汚さだから。

 今、あなたがなぜ罪の意識を感じて、罰を受けたがっているかようやくわかりました。

 きっとあなたは自分を汚してくるものに罰を受けさせたかったんだ。
 誰も止めないことに絶望して、罰がくだれとおもっていたんだ。
 でも、その怒りの矛先は誰にも向けられなかった。
 あなたは優しいから、自分を罰してしまったんだ。自分の怒りを自分に向けたんだ。」

 透明な眼差し。たたきつけられた学生証を拾い上げ両の手で大事にそれを握る。

「でも『白露小百合』さんはいなくても、今、あなたはここにいる。

 だからぼくは『本当のあなた』と友達になりたい。もう一度、ちゃんと真正面からあなたを見据えて。
 ぼくはあなたに汚されない。汚されたとしても、それは必要なことだ。
 あなたと友だちになれるなら、いくらだって汚れてもいい。」

ビアトリクス > 「…………」

腹の底を突き上げるような懺悔に、驚きはしないが、慄く。
ちはやの口から語られた断片的な言葉で、彼の背負う罪は暴力か性、あるいは両方とは予想できていた。
しかし実際にそれを直に聞くと、それは頭で考えていたよりも重く響く。

気遣うようにちはやに視線を向けた。

「…………」

そして、シロに歩み寄るちはやの、明朗で堂々とした宣言に。
遠く、顔を引き裂かれるように歪ませて――それを手で覆った。

惨月白露 > 歩み寄られると、
怯えるように一歩、また一歩と後ずさる。

透明な瞳は、自分の心の底を見透かしてくるようで。
―――だから、視線を逸らした。

「自分の怒りを、自分に向けたとか、そんな事、無ぇよ。
 そんな都合のいい解釈、お前が俺を綺麗だって思い込みたいだけだろ。」

震える声で、絞り出すように答えると、
スカートの裾に隠し持っていた短剣を握りしめ、ちはやに突きつける。

「まだわかんねぇのかよ、
 俺とお前はな、生きてる世界が違ぇんだよ。」

くるりと短剣を回すと、
彼の目の前の床に突き刺した。
ビィンと音を立てて、短剣は床に突き立つ。

「そんなに汚れてもいいって言うなら、その短剣誰でもいい。刺してみろよ。
 それか、俺とヤってもいい。キスでも、それ以上でもなんでもいいぜ。
 まぁ、ヤるっつってもお前にはわからねぇかもしれねぇけどな。」

ガリガリと頭を掻くと、激しく、怒鳴りつけるように。
怯えて、ただ吠える狗のように、吠える。

「関わるなっつってんだよ、このお人好し。
 偽善で関わっていいようなやつらならいいけどさ、
 
 俺みたいなヤツは、本物のクズは、本当に……やめとけよ。」

瞳に涙を浮かべながら、その場に崩れ、座り込む。

神宮司ちはや > 白露の背後、顔を覆っていくビアトリクスを見て心の底から謝罪した。
ごめんなさい、トリクシー君。

それでも白露に近寄るのを止めない。
彼が床に突き立てたナイフにも怯むことはなく、一瞥しただけで通り過ぎた。

「シロさんこそ、それでぼくを刺してもいい。
 でもぼくはそんなことはあなたにさせない。絶対に、止めてみせる。
 もうあなたには絶対に、傷つけさせたりしない。他の人も、貴方自身も」

そしてまた一歩、怯える彼に近寄る。
躊躇いもなく、そうして座り込んだ白露の前に立つと、同じように屈みこんで
その体を、苦しむ相手を包み込むように腕で抱きしめようとする。

「シロさん、もしもまだぼくのキスに価値があるというのなら




 シロさんの友達になる対価に、ぼくのキスを買ってください。」

それがちはやの出した答え、汚れ方だった。
ビアトリクスから教えてもらった、自分の身を売る方法があるということ。
彼と同じ所に降りる方法、考えが浅かったかもしれないが考えぬいた末の答えが、これしか出なかった。

惨月白露 > 崩れ落ち、床を見る自分の身体に伸ばされる両腕。
それに抗う事無く抱きしめられた身体は、小さく震える。

彼の提案を聞けば、
戸惑うように振り向いて、ビアトリクスを見る。

『こいつらは、いや、ちはやは、
 ―――本当にもう、何考えてるんだろうな。』

そう考えると、視線をちはやのほうへ戻す。

「あんまり自分の身体を安売りすると、
 次の時にもまた安く買われちまうぞ。
 
 ………分かったよ、買ってやる。その唇。」

そう、飽きれたようにため息をついて、
自分自身も腕を相手に絡めるようにして、


ちはやを抱き寄せように、ゆっくりと唇を寄せ―――。

ビアトリクス >  
作業机の端、ビアトリクスの置いたスケッチブックが、
風も無いのにバタバタと音を立ててめくれ始めた。

ビアトリクスが音無く崩折れる寸前、煉獄の焔のように揺らめく瞳が、
二人のうちいずれか、あるいは両方を視た。

手で覆った顔を始点として、ビアトリクスの全身が
まっくろく塗りつぶされていった。

ごく緩やかな速度でそれは床に広まっていき――留まる。

ページも止まる。

そうして、彼自身も動かなくなった。

神宮司ちはや > 「ま、待って!!」

慌てて白露の唇を指で押しとどめ、代わりにそっと自分から白露の顔へ口を寄せる。
ぎゅっと目をつぶって、押し付けた唇は彼の頬にそれた。
押し付けただけですぐに離れる。

「……と、友達だからここ。ゆうじょうの、あかし」

それだけ言うと頬を染め、しばらく気まずそうにうつむく。
白露の体からそっと腕を離し、ビアトリクスへ目を向ける。

「とりくし、くん?」

ぎくりと、まっくろく塗りつぶされた彼を見て青ざめる。

惨月白露 > 自分に近寄るちはやの顔を見て、ぎょっとしたように目を見開く。

「ちょっ!!おい、お前っ!!!待てッ!!!!
 俺は本気でやる気はッ!!!あーあ……。」

彼の唇が頬に振れた部分を指先で摩りながら、
ある意味では予想通りに漂う異様な気配に、やれやれとため息をつく。

「―――あのさぁ、前に俺に言ったな、お前。
 
 お前こそ、自分を大事にしろよ。
 安易に自分を売るなんて二度と言うな。」

真っ黒になったビアトリクスを親指で指差し。

「見ろよ、お前が体ってのを安売りした結果がコレだ。
 
 そういう事をするとな、お前を大事に大事に思ってる。
 大切な人を傷つけるんだよ。
 
 ま、俺にはそういう奴はいねぇから、いくら売っても平気だけどさ。」

早く行ってやれと、ちはやから離れると、手をシッシッと動かす。

ビアトリクス > 黒い塊は沈黙を続けている……
神宮司ちはや > 「……じゃ、じゃあ今からぼくが傷つく。あとトリクシーくんも、たぶん」

それだけ口早に言い残すと追い払われるようにしてビアトリクスの元へ駆け寄る。

「トリクシーくん……ごめん。全部終わったから……。
 ごめんなさい。一番、辛かったのトリクシーくんだよね……。
 ぼくのこと、信じてくれて、見守っててくれてありがとう。
 許してくれないかもしれないけど、トリクシーくんが居たからいつもなら回らない口も、回った気がする。

 本当に、ごめんなさい。ありがとう。」

そっと黒い塊に手を伸ばす。

ビアトリクス > 黒い塊がうごめいて、手を伸ばし――ちはやの手をそっと取った。
その手に篭もる仄かな体熱、生きた人間のものであることを教えた。
呼吸もしている。脈拍もある。生命に別状はない。
ビアトリクスの“憎しみ”を象徴する漆黒は、ちはやまで拡がることはなかったが、
しかし彼から抜け落ちる気配もなかった。

相反する感情に秩序を与えることに失敗したビアトリクスは、
言葉で思考することを放棄していた。

惨月白露 > 追い払った背中から、ちはやに声をかける。

「『Sleeping Beauty』、眠ったお姫様を起こすのは王子様のキスって相場が決まってるだろ。
 ―――俺に安売りしたくらいなんだ、してやれよ。」

クックと笑みを漏らすと、ゆっくりと立ち上がる。

神宮司ちはや > 「トリクシーくん……」

そっと取られた手に彼が無事であることを理解して安堵するも
その黒い感情が彼から抜け落ちることがないことに悲しげに目を伏せる。

しかしこの漆黒もまた彼のうちの感情の一つ、美しさを際立たせる物の一つだと思うと
無碍に扱うことも出来なかった。ただ、黒曜石のような鋭さと虚無の色に見とれそうになる。

背中からかけられた白露の声に頷き、

「あんまり、じろじろみちゃだめですからね」

そう言い置いてからそっとビアトリクスの顔へ、口元へ唇を寄せる。

「魔法をといて、”ビアトリクス”」

そのくちづけがかわされる前にそう囁いた。

惨月白露 >  
「みねーよ。さっきまで自分を口説いてたやつが
 他のヤツとキスしてるの見て何が楽しいんだ。」

やれやれと首を振ると、
近くの机に寄りかかるように腰掛けて、
瞳を伏せ、終わるのを待つ。

ビアトリクス >  
(これが)
(これこそが『罰』なんだよ)
(こうやって生きていくことが、罰なんだ)

くちづけが交わされて、ゆっくり、じわりじわりと、夜が明けるように暗黒が薄れていく。
身を起こす。呆けたような表情で、唇を撫でた。

「………………」

顔をしかめて立ち上がる。
ちはやに背を向けて靴を鳴らして遠ざかる。
棚の一つにある、小さな箱を手に取る。

「ふんっ!」

それを投げた。ちはやの頭めがけて。

惨月白露 >  
黒い闇が溶けて消えていくと、小さく安堵の息を漏らす。

『……ま、もう大丈夫そうだな。』

はぁ、とため息をつくと、荷物を纏めて静かに教室を出る。
ちゃんと謝れたし、許しても貰えた。
これ以上『恋人』同士の邪魔は出来ない。

「―――じゃあな、また、夏休み明けに会おうぜ。」

小さい声で呟いて、ゆっくりと歩き出した。

神宮司ちはや > 「トリクシーくん……良かった、魔法とけ……

 と、トリクシーくん?」

黒の塊からトリクシーが現れるとぱっと顔をほころばせた。
が、顔をしかめて立ち上がり、トリクシーが小さな箱を自分にめがけて投げつければ

「にゃごっ!!!!!」

その箱は見事にちはやの額に命中してどしんと後ろに転んだ。
起き上がって、涙目とぽかんとした顔でビアトリクスを見つめる。

「と、とりくしーくん……???」

ご案内:「美術部部室」から惨月白露さんが去りました。<補足:銀髪に黒メッシュ、空色のウルフアイ。>
ビアトリクス > 「…………」
去るシロを横目で見送る。
夏休み明けに、という言葉。『転校』するらしいこと。叩きつけられたニセの学生証。
それらを線で繋ぎ合わせれば……何をするつもりなのか、察しはついた。
また会えるだろう。


「あのなあちはや?
 なんでもかんでもキスで問題が片付くと思ったら大間違いだからなこのたらし野郎。
 ぼくだって怒るときは怒るんだぞ」
我慢ならないといった、明白な怒気を孕む言葉。憤然とした面持ち。
右手を握り親指を下に向けた。
ちらかしていた荷物を片付け始める。

「あ、それやるから」
それ、とはさっき投げつけた箱のことだろうか。
蓋を開けてみれば、緩衝材の中に丸っこい猫や犬、うさぎといった動物の粘土細工が
ぴかぴかと光っているだろう。

神宮司ちはや > 去っていく白露にビアトリクスと同じように黙って見送った。
『また』というならばきっとまた会える。
その確信はビアトリクスと同じく得られた。
ほっとして、ようやく彼と本当の友だちになれたことを感じ、少しだけ口元をほころばせる。

つきつけられたとても良くない親指下向けサインに
額を押さえながらおののいた。
顔を真っ青にし、その瞳をうるませる。

「うぇ、ご、ごめ……ごめな、ぼく……ぼくそれしか
 おおおもいつかな……うえええええええぇえええ」

どうしようこれは本当に嫌われてしまったかもしれない。
ぎゅっと顔を歪めてぼろぼろ泣き出すと床に転がった箱の中身に気づく。
ぴかぴかの粘土細工、可愛らしい動物たち。一目見てビアトリクスの作品だとわかった。
やる、と言われて両手で恐る恐る動物たちを拾い上げるとぱちぱちと目を瞬かせる。

「うぇえええええええええええええええええええええええん!!!
 とりくし、くん!ありがとぉ~~~~~~~~」

びゃああああと鼻水やら涙やらで顔を汚しながらぎゅっと動物を胸に抱きしめる。
嬉しさと悲しみがごちゃまぜになってどうしていいか分からずめそめそと情けなく声を上げた。

ビアトリクス > 「うわっ」

盛大に泣かれてしまった。ここまで激烈な反応をされるとは思わず、狼狽える。
子供かこいつは。……子供だった。十三歳といえば小学校を出たばかりじゃないか。
頭を抱える。

いや、子供とはいえさんざん心労をかけさせられてきたんだ。
一度はビシッと……ここで甘やかしては……本人のために……

「あー悪かった悪かった。そんなに怒ってないから。
 大丈夫大丈夫……」
目の前に歩み寄って、屈み込み、困ったように笑う。
頭を撫でながらハンドタオルで涙やら鼻水やらを拭ってやった。

(甘やかしてしまった……)

神宮司ちはや > ごしごしと顔を拭われるも後から後から涙が出てくる。

「ご、ごめんなざい……っひぐ、ほん、ほんとは、じろざんと、はなしでるときもっ……う、ぐ……
 ナイフとか、でて、ぎて……ごわかったし……ちゅーとか、また、さけられちゃ、たら……ど、しよっとか、おも、おもって……

 とりぐじくん、が……まっくろ、なっちゃっだときも、
 もしこれで、にどとおしゃべりでぎなぐなっちゃったら、ど、しよとか……かんがえ、うぃ、て……っ」

肩を震わせ過呼吸気味に訴える。
ちはやだってこの謝罪と話し合いが相手にうまく通じるとは確信してやってきたわけではなかった。
そのうえ、ビアトリクスを怒らせてしまったしさんざん迷惑をかけてしまった。
いっぱいっぱいだったのをなんとかごまかして、やっとここまで保つことが出来た。

ひとえにごまかしきれたのはビアトリクスが居てくれたおかげだ。
ひとりきりだったらまた怯えて、ことばをつぐんでいたかもしれない。

顔をべちゃべちゃに汚しながら、それでも拭われればだいぶ落ち着いてくる。

「とりくし、くん、ありがと、ごめんね……。
 こ、これ、だいじ、する……」

動物たちをもう一度大事に抱え直す。宝物がまたひとつ増えた。

ビアトリクス > 「まったく…………」
本当は自分がいるから、ちはやは本来被らなくてもいい恐怖や汚れを引き受けているのではないか。
そんな考えが脳裏をよぎる。いいや。今更だ。それは覚悟を決めたはずだ。
ビアトリクスだってギリギリだった。
ちはやの傍に立つのにふさわしい人物として振る舞うという自負がなければ
シロの言葉にグチャグチャに心を乱されていただろう。
すんでのところで、自分の覚悟を、ちはやの覚悟を、ウソにしないで済んだ。

むせび泣くちはやを、そっと抱きしめる。背中をぽんぽんとあやすように叩く。
「……そうだね、怖かったよね。よくがんばったよ。
 えらいな、ちはや。それでこそ、ぼくが最もうつくしいと思うひとだよ」
そうだ、本来ならこれを一番に言うべきだった。手前勝手な怒りをぶつける前に。

神宮司ちはや > 抱きしめられると同じように体を寄せ、腕を回してビアトリクスの肩口へ自分の顔をぐりぐりと埋める。
しばらくしくしくと泣き続けていたが、背を叩かれあやされようやく落ち着くと、そっと顔を上げた。
ビアトリクスの衣服に鼻をべちゃっとつけたまま、糸を引いている。

「ありがと、とりくしーくん、だいすき」

涙の跡と泣き過ぎで目が腫れ、声がからからだったがそれだけそっと告げる。

「いっしょに、かえろ、つかれた……」

極度の緊張と疲労でもうぐたぐたになっていたが、なんとかその場で立ち上がると黙々と後片付けを始めた。
ビアトリクスの動物たちと箱、シロの偽造学生証と、それらを大事にかばんに仕舞いこむと、無言で右手をビアトリクスに突き出す。

ビアトリクス > 「ぼくも好きだよ、ちはや」

差し出された右手を、左手で握る。

「……唇へのキスは、もっとムードのあるときによろしくね」

まとめた荷物を背負い込む。
手を引いて、美術部部室の外へと向かう……

神宮司ちはや > 当たり前のように繋がれた手にホッと安堵する。
ビアトリクスの繊細な手、この手が美しいものをこの世にあらわすのだ。
その暖かさにやすらぎを覚える。

ムードのことをたしなめられると、真っ赤になって頷きはするものの
ムードのあるときとは一体どんな時だろうと考えこむ。
それを聞いたらまた怒られそうだから黙って自分の宿題にした。

手を引かれて、ややぼんやりとしたまま二人して美術部部室を後にした。
今夜は、ビアトリクスと一緒に寝よう。そんなことを考えながら。

ご案内:「美術部部室」から神宮司ちはやさんが去りました。<補足:巫女舞の少年。式典委員会の腕章に学生服姿>
ご案内:「美術部部室」からビアトリクスさんが去りました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 シャツ スカート [乱入歓迎]>