2015/08/05 - 16:07~16:50 のログ
ご案内:「◇入り江(期間限定)」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。<補足:《軍勢》を操る物憂げな少年。夏の制服姿>
奥野晴明 銀貨 > 青い空をバックに白い夏の雲が綺麗なコントラストを描いて浮かんでいる。
海水浴客で賑わう浜辺を避け、銀貨は一人入江にて岩に腰を下ろしながら
ぼんやりと波間に漂う人々やヨットなどを眺めていた。

1年他国へ留学をしてから戻ってきた学園は夏休みの最中だった。
海外の学校の多くは9月ごろからが開始であるから、学期のズレはどうしようもない。
自分が居ない間にこの常世の島はどう変わってしまったのだろうか。
噂を聞くに多くの事件や出来事があったらしいことはわかるが、出来ればその話を誰かに聞いてみたい。
この常世という箱庭が今後どうなっていくのかという行く末に、日常の出来事は深く関わってくるからだ。

奥野晴明 銀貨 > 銀貨が無理を言って留学していた先も、常世学園を真似た海外の学園都市だ。
他国もまた、世界の大変容の後自分たちの在り方を試行錯誤している。
国民に対する教育は多くの国にとって義務だ。
特に異能や魔術など新たに世界にもたらされた異質な存在をどう扱うかという価値観の付与。
その教育が等しく行き届くことは、その国を支える国民の生活水準、文化水準、学力、ひいては国力の増強に当たる。

けして常世島だけがモデルケースとなっているわけではないことを銀貨は留学した先で学んだ。

だがやはりよそはよそだ。ここを出身とする銀貨にはやはり常世の空気が合う。
そんなことを考えながら海を眺める。穏やかなかもめの鳴き声に耳を澄ませた。

奥野晴明 銀貨 > たとえここを創りだした常世財団の思惑がどうであろうと、
はたまたそれに携わる企業や研究者たち、あるいは政治家などの団体の考えがいかなものであっても
結局その先の未来は今現在ここで学び生きている生徒たちが個々に探し当て考えて決めることだ。
銀貨自身はそう信じている。

自分の異能《軍勢》(レギオン)は強力すぎる。
異能を持たない相手ならば簡単に制圧できるほどの力を持ってしまった。
それ故に銀貨はこの島の大勢に深く関わってはいけないと自身を戒めている。
自分がそこに参加することで他の生徒達が地道に作り上げた流れを邪魔してはいけない。
常に徹底した傍観者であり続けるのが正しいはずだと、自分では考えている。

ふと、遠くの波間で遊んでいた子どもたちの動きがおかしい。
何やら様子がおかしいことに気づくと岩から立ち上がり、遠くへ目を凝らす。
最初はふざけあっていたのかと思っていたが、どうやらそうではない。
ばちゃばちゃと波を両手で叩きながら一人の子供の頭が浮いたり沈んだりしている。

奥野晴明 銀貨 > 溺れかけているのだ。そう気づくとあたりへ首を巡らせる。
一緒に居た子どもたちはまだその子がふざけているのかと思っていて手を出さない。
浜辺の大人たちも他のことに気を取られて気づく様子がない。

まずい。そう思った時には体が動いていた。
岩場からおり、砂浜から海へと走り寄る。自身の衣服がぬれることも構わず、海の中へとかき分け入って行くと足が着くぎりぎりの場所に立った。

今急いで泳いでも多分間に合わない。
子供の頭がついに水の中へ沈みかけたその時、銀貨は異能を発動した。
《軍勢》は群れをなす生き物を呼び出し操る力だ。
海の生き物、人を支え、助けられるイメージ。
それらはイルカとなって結びつき、銀貨の体から影のように溢れだしたものが一斉に群れをなして水中へと泳ぎだした。

彼らの群れと知覚を共有する。
沈んだ子供の居場所を探ると、まだかろうじて1mほどの所に沈んでいた。
間に合え、そう念じながらイルカの群れを子どもたちの中に差し向ける。

奥野晴明 銀貨 > イルカたちが小さな子供の体を背に救い上げ、海面へと浮かばせる。
急に現れたイルカの群れに周囲に居た人々が驚きの声を上げた。
それに構わず、急いで自身の元へ溺れた子供を運ばせるよう命じるとイルカたちはとても器用に運んでくる。

海面からその小さな体を引き上げ、砂浜に横たえる。
イルカたちをしまうことも後にして、青白い顔をした意識のない子供に応急処置を施し始める。
赤いワンピース水着の女の子だ。呼吸はない。
顎をあげさせ気道を確保させると、必死に心臓マッサージを始める。
絶え間なく、強く胸部を圧迫する。30回の圧迫の後、2回の人工呼吸。
自身の疲労をいとうこと無く、必死に呼びかける。
息をして、頼む息をしてくれと。

もう一度呼吸を吹き込もうとした時、少女の体がびくりとはねて口からげほげほと水と息を吹き出した。

「しっかり、もう大丈夫だ」

そう声をかけ、彼女の背中や額を撫でる。海水で、喉がつまらぬように横に向ける。

奥野晴明 銀貨 > ようやく彼女の胸が上下し、呼吸も安定したところで
先ほど呼び出したイルカたちを戻す。
戻すと言っても放たれた軍勢は元から銀貨の一部ではない。
彼らを異能の力から開放すれば、すぐさま海水に溶けて消えてしまった。

騒ぎを聞きつけて、保健課の生徒やライフセーバーなどが駆けつけてくる。
ホッとしながら額の汗を腕で拭い、彼らに事情を説明して女の子を引き渡す。
まだ事情を把握しきれていない様子の彼女にそっと微笑み、

「気をつけて」

それだけ告げると、手を振った。
運び込まれた担架へ毛布にくるまれ、野次馬とともに彼女が手当を受けるために搬送されるのを見送る。

奥野晴明 銀貨 > 保健課の一人がもっと詳しい事情を聞こうと銀貨を探し始めた時には人だかりがわんさと出来ていた。
あたりを見回してもそれらしい人影が見つけられないことを悟ると、諦めて踵を返す。

その頃には銀貨は群衆から離れ、一人海水を滴らせたまま道路を歩いていた。
ただ彼の足跡と水の跡が転々と砂浜に刻まれていた。

ご案内:「◇入り江(期間限定)」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。<補足:《軍勢》を操る物憂げな少年。夏の制服姿>