2015/08/13 - 00:35~02:45 のログ
ご案内:「◇悪魔の岩礁跡(期間限定)」に蘆 迅鯨さんが現れました。<補足:ルー・シュンジン。緑がかった銀髪、緑色の瞳に白い肌、巨乳。黒いフードで顔を覆う(乱入可)>
蘆 迅鯨 > 深夜、悪魔の岩礁跡――その洞窟の前に立つ、黒いフードで顔を覆った一人の少女。
彼女、蘆迅鯨には確かめたいことがあった。そのため、元来海が苦手な彼女であるにも関わらず、モーターボートを手配しこの場所へ来たのだ。
夏季休暇が終われば、この場所に通じるボートも通わなくなってしまうことだろう。
その前にここを訪れておかねばならない、そう感じさせる『何か』の存在を、彼女自身の見ていた『夢』が伝えていたのである。
蘆 迅鯨 > 「(ここだな……?夜な夜な俺ちゃんを呼んでた野郎がいるってのはヨ)」
その心の声は、周囲に人がいれば、その人物の脳内に直接テレパシーとして届くだろう。
しかし、ここまでの道中で迅鯨が人らしき姿を見た記憶はない。
尤も、既にどこかに潜んでいる可能性も十分あり得るのだが。
「さて……と」
右手に愛用のナイフをしっかりと握り、左手で持った懐中電灯の電源を入れ、洞窟の中を照らす。
さらに、歓楽街や落第街で事前に調達していたナイフ、ヌンチャク、手裏剣その他諸々を、コートの内外にみっしりと収納している。
迅鯨は護身魔術も保有しているが、特殊な発動条件のために、それを使う機会は滅多に訪れまい。
忌まわしき己が異能も、万が一の事態において役には立たないだろう。
まずは一歩、洞窟の中へと足を踏み入れ。
「……邪魔するぜェ!」
広がる暗闇、そしてその奥に待っているであろう『何者か』へと――少女は、叫ぶ。
蘆 迅鯨 > 視界の先に懐中電灯の光を向けながら、歩を進めてゆく。
自然の洞窟は切り立った地形も多く危険性が高い。
しかし、何故か洞窟の中を歩む迅鯨の心に恐れは無かった。
それは彼女の愚かさゆえか、あるいは――既に正気ではないためか。
途中、鋭い岩などで若干肌を傷つけるも、全く意に介する様子なく、どんどん洞窟の奥へと降り進んでいった。
蘆 迅鯨 > やがて迅鯨は、遺跡のような場所へと辿り着く。
そこは先程までの自然洞窟の風景とは異なり、人――または人ならざる何かか――の手が加わり、しっかりと整備がなされたように見える。
壁面には何かしらの文字が書き込まれ、蛸の頭部や蝙蝠の翼を模した彫像の一部が転がっている。
それらを見て、迅鯨は確信する。
「(…………ビンゴだな)」
蘆 迅鯨 > 確信を得た迅鯨は一切の躊躇なく、さらに歩を進める。眼前の景色が歪みだす。
周囲に立ち並ぶ奇怪な角度の柱と、非ユークリッド幾何学的な建造物の群れ。
恐らくは古代都市とでもいうべきものなのであろうが、それら建造物は相当に歪んでおり、都市の機能をなしていたのかに関しては疑問符が生じる。
そして、先程も目撃した蛸頭の神像が、今度は完全な形で至る所に再現されていた。
「(成程。ここがあの野郎の根城ってわけか。上等だぜ)」
常人ならば、斯様な光景を目にした時点でとうに発狂しているか、運よくそれを免れたとしても精神に深刻な影響を受けていることだろう。
しかし、狂人ならば?――その答えが、ここにあった。
蘆 迅鯨 > 歪んだ古代都市の中は、仄かに青白い明かりがある。それが天然のものか、人工のものかまでは、迅鯨に推し量ることは難しいが。
帰りに備えて一旦懐中電灯の電源を切り、そのまま何かに導かれるようにして、歪んだ古代都市の探索を進めてゆくも。
「(しっかし……だーれも居ねェなー。俺ちゃんのテレパシーだってダダ漏れだろうに、まるでヒトの出てくる様子がねェ。普通こんなとこまで来りゃ、第一村人発見!なんてことになりそうなもんじゃね?ゴーストタウンかここは?)」
心中で呟くも、そのテレパシーを受け取り何かが姿を現すことはない。
迅鯨はひと月ほど前、この歪んだ都市の住人に起きた出来事を知らない。しかし、彼女の推察は正しいともいえる。
今や、かつて栄華を極めたであろうこの歪みきった古代都市に、住人といえる住人はもはや居ないのだ。
蘆 迅鯨 > 「(んだよ……じゃァ結局俺ちゃんの勘違いで骨折り損ってワケ?ココに来りゃ絶対何かあると思ったンだけどなァ……)」
心中でそうぼやき、少しばかり不機嫌な表情を見せつつも、すぐさま引き返そうとはせず奥へ奥へと歩んでゆく。
それは純粋な好奇心か、それとも狂気の一環か、
あるいは異能が目覚めた『あの日』以来、迅鯨が抱え続けている破滅願望か――
そして、迅鯨は誰もいない都市の最奥――損壊した神殿へと行きついた。
そこに祀られているのもまた、古代都市のあらゆる場所で見かけたものと同じ蛸頭の神像。
ただし、迅鯨の眼前に佇んでいるそれは、都市の中で見たどの神像よりもひときわ大きかった。
神像の瞳はさながら『父』のように迅鯨を見下ろし、迅鯨もまた、しばしの間、すでに崇めるヒトも崇められる神もそこに居ない、虚ろな神像を見上げていた。
蘆 迅鯨 > 「……見つけたぜ」
しばしの沈黙ののち、襲撃者の可能性に備えて握り続けていたナイフを仕舞い、右手を石像の台座に当てて口を開く。
「なあ。結局……俺ちゃんを呼んでたのはあんたなのかよ。つっても答えちゃくれねえだろうけどな。……俺ちゃんもこのまま帰るわけにも、いかねえんだ」
殴り込みでもかけにゆくかのような先程の心の声とは裏腹な口調と声。
すでに誰もいない歪んだ古代都市を歩いてゆく中で、迅鯨には自身もすぐには気づかなかった心情の変化が、確かにあった。
黒いフードの少女は、物言わぬ蛸頭の神像に向け、ただ語りかける。
「俺ちゃん、今日は寝床もなくてさ。……タハハー。あんたにこんな話すんのも何だよなァ」
いつも通りの笑いで誤魔化そうとしてはいるが、その瞳にはなぜか、涙が浮かんでいた。
周囲の人々の脳内へ、無差別かつ一方的にテレパシーを送り込む彼女の異能――『夢見るままに待ちいたり』<ウェイツ・ドリーミング>。
その異能は、睡眠中には完全に迅鯨の意思を離れてしまう。
ゆえに、迅鯨は人のいる中で眠ることができなかった。
さらに悪い事に、この問題を解決できる唯一の手段を持った彼女の友人は、今日も今日とて女子寮に居ない。故に、今の迅鯨には寝床が無かった。
「いや……寝床だけじゃねえんだ。俺はさ……人間の中で生きるには、向いてないんじゃないかって……思うよ。だから……それに気付いてたから、こんな所まで俺を呼んだんじゃねえのか、あんたは」
問いかける。答えなど返ってくるはずもなかった。
蘆 迅鯨 > 「……わかってたよ。どうせ答えなんか返ってこねえってな。あんたはただの石像だ。ただの石像が喋るわきゃねぇ。そういうことにしといてやるよ」
と告げ、ゆっくりと神像の台座から手を離し。
「タハハー。やっぱとんだ骨折り損だったわなー」
涙を拭きながら、一人笑う。それは自嘲か、あるいは。
そして、神像の台座の根元にゆっくりと腰を下ろし、
神殿の外、青白い光に照らされた誰も居ない町の風景を遠くから眺めると。
「……ここで寝るってのも、悪くねェかもな。どうせ、だーれも居ねェし(帰んのは面倒だろうけど……なんなら、しばらくここに居たっていいんだ。つっても食いモンのアテがねェな。タハハー、失敗失敗)」
いくら寝床がないとはいえ、このような場所で睡眠を取ろうとは、狂気の沙汰だろうか?
そう、彼女――蘆迅鯨は狂人である。だからこそ、このような行動にも出られるのだ。
蘆 迅鯨 > 「(にしても……いい眺めだ。こんなにも滅茶苦茶で、ところどころズタボロでねぇ……まるで俺ちゃんの"中身"がはっきりした形になったような……)」
常人には耐えられないであろう歪な古代都市の風景を眺めながら、
狂った黒フード少女はそんなことを思っていると、あることを閃く。
「……そうだ。ここをシニスターランド(邪悪なる地)と名付けよう。まさに俺ちゃんの安息の地ってワケだ。そして今日見たことも、この場所の存在自体も……誰にも言わない。そうしよう」
立ち入った場所が、すでに住人も、崇められていた神さえも居ない正真正銘のゴーストタウンと知るや、
勝手に名付けて自らの心の聖地としてしまう図太さ。迅鯨の欠落した倫理観の表れであろう。
見知らぬ土地に勝手に命名し満足したのか、迅鯨は神殿の床に座ったまま瞼を閉じ、徐々に舟を漕ぎ出す。
やがて一人の少女は、誰もいない町で深い眠りに落ちるだろう。
さながら、古き館にて夢見るままに待ちいたる、死せる神のように――
ご案内:「◇悪魔の岩礁跡(期間限定)」から蘆 迅鯨さんが去りました。<補足:ルー・シュンジン。緑がかった銀髪、緑色の瞳に白い肌、巨乳。黒いフードで顔を覆う(乱入可)>