2015/08/15 - 23:59~03:48 のログ
ご案内:「ヨキの美術準備室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた袖なしの長衣、ロンググローブ、ハイヒールサンダル>
ヨキ > (午後。
校庭の焼け付くような陽射しとは対照的に、部屋の照明は消されたまま日陰の暗さを保っている。
奥行きのある細長い部屋の奥、ヨキは教員用の事務机で午睡に耽っていた。
部屋は一見して静かだ。
開け放されて風通しのよい扉と窓だけが、室内に人気のあることを伝えている)
ヨキ > (机上には携帯電話と、書類やメモの束。
夏休みの前後というこの時期、やるべきことは沢山あった。
ヨキ自身の整った筆跡であれやこれやと書き殴られた帳面を前に、椅子に深く腰掛け、目を瞑る顔はどうにも眠りが深そうだ。
ちょっとした居眠り、というよりは、寝不足から来るものであるらしい)
ヨキ > (不意に眉間を押さえ、ううん、と眠たげな声を発する。
眠りの底に縛られているかのような、重たげな呻き声。
風が吹く。
メモ帳をはらはらとめくり上げる。
垣間見えるのは生徒たちの名前、名前、名前。
近況を聞きたい者が沢山いた。
報告せねばならない相手も。
それら一人一人にメールを送ったり、言伝を記したりと、連絡をまとめている最中であったらしい)
ヨキ > (隣の美術室には、たちばな学級の生徒がひとり居るはずだ。
彼にはひとりで部屋を使ってよい、入室も退室も自由だ、と許可を出してある。
自由、とは言え、もちろん自分の管理下にある限りの、ではあったが。
たちばな学級とて、この学園の生徒であることには変わりない。
意欲さえあるならば、多少なりとも一般の生徒と同じように使わせてやりたいと思っていた)
ヨキ > (やがて目を開く。
醒めたばかりの金色の瞳が、ぼんやりと机上に視線を落とす。
小さくふっと息をついて、目頭を軽く擦る)
「…………。二学期、か」
(何度目とも知れず季節は巡る。
夏休みと言えば、内面に大きな変革を迎える生徒も少なくない。
良くも悪くも)
ご案内:「ヨキの美術準備室」に織一さんが現れました。<補足:常世学園制服>
ヨキ > (再び机に向かい、ペンを取る。黒く艶めく万年筆。
ブルーブラックのインクが、老成して尾を引くような筆跡を生み出してゆく。
さらさらと、紙を擦る音)
織一 > (こんこん、と、準備室の扉を小さく叩く)
「ヨキ先生」
(限りなく無感動な、感情を殺しきったような声で言う)
「鍵を返しにきた」
ヨキ > (顔を上げて振り向く。
開け放された扉の向こうに、ひとりの少年の姿。
花枝織一。たちばな学級所属。出席日数にやや難あり。
恐らくは、常のヒトならざるもの……それ以上のことは知らない。未だ、何も)
「やあ、花枝君。お疲れ様。
いかがだったね、美術室は?」
(にこりと笑いかける。
見るからに獣と人間の半ばたる様相をして、人間そのものの文法で)
織一 > (すたすたと近寄り、机の上に鍵を置く、
花枝、という信用できない何かと同じ名字は好きじゃないけど、訂正する気はない)
「よく分からなかった」
(感想を聞かれれば、いつも通りの無表情でそう答える、
飾られている作品の美醜や好みはよく分からなかった、織一には絵も彫り物も「ただそういうもの」としか思えない、
目の前の教師のように、美術への情動は湧かなかった)
ヨキ > (少年が机の上に手放した鍵をじゃらりと取る。
情動を感じさせない織一の返答に、しかし気にした風もなく、軽く笑って)
「……ふはッ。よく分からなかった、か。
素直でよろしい。無理をして繕われるより、よほど好ましい。
こう見えて、ヨキもはじめは理解の及ばなかったものだ」
(書き物の書類をぱたりと閉じる。
予備の椅子を出してきて、良ければ座りたまえ、と)
「何をすればいいのか……いや。
何が楽しいのか分からない、……といったところかな」
織一 > (椅子を勧められれば素直に座る、これが別の教師なら警戒して少し立ち止まっていたが、この教師にはそれがない、
彼から僅かに漂う獣の臭いで、安心しているのかもしれない)
「……ヨキ先生も、最初はそうだったのか」
(目の前の教師の言葉に、小さく呟く)
(その言葉は織一が現在”芸術”に抱いている感想と同じで、彼にもそういう時期があったのかと意外に思う、
けれど、今は違う)
ヨキ > 「もちろんだ」
(言って、自らの耳を軽く持ち上げてみせる。
犬の形の、ひらひらとした肌色の薄い耳朶)
「犬が一朝一夕で芸術を理解できると思うかね?
そりゃあ分からなかったさ。なぜ芸術などというものが存在するのか。
……そして実際のところ、今もまだ。
芸術。
金が掛かり、時間が掛かり、得られるものは少なく、腹も満たせない。
生きる上でこんなに無駄なことはないと、そう思っている」
(美術教師として不穏当とすら響く言葉を、いともあっさりと口にする)
織一 > 「そうだな」
(おおよそ美術教師らしくない言葉にも一切動じず、無表情で肯定する、
確かに獣に、生きることにおいて美術というものは無価値だ、
獣に必要なのは効率化、どうすれば世界に効率良く生きて子孫を残せるかを模索する、それが織一の生き方、
しかし、人間はそれを良しとせず、非効率な生き方をする、
きっとこの教師にもそれが理解できなくて、なんとか理解しようとしているところなのだろう)
「……それを聞いて、少し安心した」
「そう思うのなら、ヨキ先生は獣だ、人間ではない……それがわかったから、安心した」
ヨキ > (目を伏せる。
低い声でいて、まるで山師のようにぺらぺらと、はじめから人間であったかのような流暢さで話す)
「安心か。……ふふ。
この島には、聞こえのよいことを言って君を教化させようとする、悪い大人も少なくない。
疑っていたまえ。
君が心から信用出来るようになるまで、ヨキを含めたすべてを。
芸術に触れることは、二の次三の次、それからだって遅くはない」
(腕を組む。織一を見やって、小さく笑う)
「美術は退屈だった。
では、『次にしてみたいこと』は何かあるかね?」
織一 > 「……ああ」
(__確かに、自分の人外性を押さえつけて、人間性を植え込んで飼おうという意思を向けられたことはある、
今でこそ研究所から直接的な束縛こと受けていないが__獣を飼い殺そうという考えは、まだ残っているのだろう、
飼い殺されないために、疑う、
それはいままでずっとやってきたこと、きっとこれからも続けること)
「次にしてみたいこと」
(言葉をオウム返しに言いながら、「次にしてみたいこと」を考える、
次にしてみたいこと、それは何か)
「……退屈だったけれど、興味はある、今日は粘土を触ったから、次は絵を描いてみたい」
(言葉にすることで自分の思考を、意思を固めるように、たどたどしく)
ヨキ > 「絵か」
(穏やかに笑う。
事務机の上、無数に収められた筆の一本を取る。
大きな手のひらに、短い四本指の生えたいびつな手が筆の柄を握る。
自分の持ち方を確かめるように、表裏と手をひっくり返す)
「絵もいいぞ。
自分の爪や牙を振るうよりもずっと、紙の上に明確に絵具や鉛筆の跡が残る。
肩や肘、手首だけでなく、指先で筆や鉛筆の筆跡をコントロールするのはなかなか大変なことだ。
……苦労の多い代わり、うまくいったときの喜びは計り知れない」
(先に「芸術ほど無駄なことはない」と口にしたのが嘘のような朗らかさ。
筆をくるりと返し、その握りを織一へ差し出す。持ってみるかね、と)
「もし描けたときには、家の人たちにも見せてやるといい。きっと喜ぶ」
織一 > (差し出された絵筆を受け取り、持ってみる、
どう握ればいいのか解らず、鉛筆のように持ったり書道の筆のように持ったりといろいろな持ち方を試す)
「……そう言われると、更に興味が沸いてくる」
(口調は淡々としているが、僅かながら感情のこもった声、
絵筆や鉛筆で何かを描くというのは、獲物を狩るよりも神経が必要で難しいことなのだろうか、
だからこそ__望み通りの絵を描くために、芸術家は努力するのか、
そう考えながら手に持った絵筆を眺めていたが、”家の人”という言葉に僅かに動きを止める)
「……そうだな」
(答える声は感情を殺しきったつもりで、動揺を感じさせない手で絵筆を返す)
ヨキ > (織一が筆の持ち方をあれこれ試すのを、ゆったりと微笑んで眺めている。
やがて彼の隣へ歩み寄り、その手に自らの手を添え、柔く包み込むように腕を握らせる)
「興味が沸くのは、いいことだ。
試してみて、やっぱり合わなかった、でも構わない。
そうしてひとつずつ……君にとって、『好きなこと』『嫌いなこと』を見つけていけば、それでいい」
(手が僅かな一瞬動きを止めたこと、それ自体に言及はしない。
返された筆を受け取りながら、ただ言葉を続ける)
「描き慣れない絵を前に、君はきっと戸惑ってしまうことが多いだろう。
それと同じように、家族も『君の描いた絵をはじめて観る』んだ。
そうしたささやかな……『うまく言えない』心の動きにこそ、芸術に触れる切っ掛けが隠れているのさ」
織一 > (目を伏せ、されるがままに手に触れる、四本指の人ならざるものの手、
振りほどくようなことはせず、ただ黙って言葉を聞く、
好きなこと、嫌いなこと、”河伯”であった頃は考えたこともなかったけど、”織一”には考えられること)
「……ヨキ先生にも、そういう「うまく言えない」ことがあったから、芸術を続けているのか」
(目を開き、ヨキの目を見つめる)
(なんとなく、彼が美術を志す理由がわかった気がする、
そういう「なんとなく」や「うまく言えない」何かに惹かれて、美術を続けているのか、
言語にするのは難しいけど、そういうものなのだろう)
ヨキ > (織一と目が合う。
見つめられて、尋ねられて、大らかに笑う。
それしか答えがないとでもいうように)
「そうだ」
(人の子どもがそうするように、ペン回しの要領でくるりと筆を回し、机上へ戻す)
「鳥肌が立った。身体じゅうが震えた。嗚咽が止まらなくなる。
心の中では『それ』をどんな風に感じたか、何も言葉には出来なかったのに……
身体にぜんぶ、出た。
それは絵だった。音楽もそうだった。劇や映画に、漫画に、写真に。
芸術が心を動かすというのは、そういうことだ。
何よりも人間的な活動でありながら……言葉にならず、獣性さえ呼び起こす。
突き動かされさえするならば、その芸術には力があり、受け取った君の心にも、また力がある」
織一 > 「__そうか」
(大地に雨粒が沁みて木を潤すように、水滴が長い時をかけて石を穿つように、
いつか理解できるように、彼の言葉を心へと染み込ませる、
__今の織一は獣に寄っていて、人間性が掛けている、しかし人の要素が確かに有るのなら__きっとこれから理解できる、
時間なら悠久にある、今は理解できずとも、まだまだこれからなのだから)
(なんとなく窓の景色が目に入って気づいたが、そろそろ下校時間のようだ、
自分のような子供はそろそろ帰らないと怒られそうだ)
「……ヨキ先生、そろそろ下校時間だから、私は帰る」
(そう言って立ち上がり、廊下側のドアへと向かう、
ドアを開けて立ち去ろうとして__振り返る)
「今日は、ありがとうございました」
(それだけ言うと、足早に準備室を去った)
ご案内:「ヨキの美術準備室」から織一さんが去りました。<補足:常世学園制服>
ヨキ > (返事は待たない。促しもしない。
自分の子のように、ひいては自分自身を見るような眼差しを織一へ向けていた。
立ち上がる織一のあとに、ゆっくりと頷いて椅子の背凭れを掴む)
「ああ、またおいで。
ヨキはいつでも君を歓迎するよ。
……こちらこそ有難う、花枝君。
ヨキにとってもまた、自分を見つめ直す切っ掛けになる」
(さようなら、気をつけて、と。
一端の人間らしく、教師の語調で相手を見送る)
ヨキ > (椅子を片付ける。
薄暗さを増した部屋に、灯りを点ける。
獣の嗅覚は、彼が去ったあとに薄らぐ臭いを察していた。
鉄に似た、生き物の体液。その色濃い残り香)
「…………。『家の人』、か」
(微笑んで、目を伏せる)
「獣の子が、どこまで学生で居られるかな……」
(机上に広げた『人としての営み』を前に、しばし佇む。
聞く者のない呟きの余韻を残して、それきり独り)
ご案内:「ヨキの美術準備室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた袖なしの長衣、ロンググローブ、ハイヒールサンダル>