2015/08/19 - 22:01~01:52 のログ
ご案内:「◆速度Free(合法)3」に秋尾 鬨堂さんが現れました。<補足:悪魔のLと呼ばれたマシンを操るドライバー。踏んでいける男。>
秋尾 鬨堂 > 歓楽区――
物部レーシングサーキット。

ここは、島内A級レースの開催地としての設備を備えつつも、
手続きさえ取れば一般学生にも広く開放されたサーキットである。

秋尾 鬨堂 > 本日はAUTOガレージTOKI主催の走行会。
一口ランチ二食分程度の参加費で、サーキットを走れるお得なプランである。

見れば、カートから競技専用車両、もちろん公道走行可能なクルマも多数。
それぞれ走行可能ゾーンと時間帯などで区切られ、和やかに時速200km/hを超えた草レースが開催されている。

秋尾 鬨堂 > サーキットには、大まかに分けて外回りをぐるっと一周するトラックと、その内側に備えられた分岐路/カーブが続くエリアがある。
マフラーからの大音量を響かせて飛ばしまくる競技車たちは、今日は外回りだ。
内側のテクニカルコースでは、レーシングカートが走る。
簡易かつ軽量、操作の覚えやすいカートは子供にも大人気。

秋尾は…そこにいた。
カートに乗って。
「そうそう、上手いネ 曲がる時は荷重、そうかかる力。自分の体の向きとか、タイヤにかかる力とか。意識するとイイ」
運転のレクチャーをしている。

ご案内:「◆速度Free(合法)3」に奥野清明 銀貨さんが現れました。<補足:《軍勢》を操る物憂げな少年。夏の制服姿>
奥野清明 銀貨 > そうここは歓楽区、レーシングサーキット。
趣向を凝らし、整備されたコースを数々のマシンが唸りを上げて走り出す。
はずなのだが……。

外側のトラックに何故か馬が群れていた。四頭の黒い馬。
毛並みはつややかなベルベットにも似て、どの馬も精悍な肢体を持つ。
なぜ馬が?コンクリで固められたこのワイディングロードにおいて走ったら馬のひづめやばいのでは?
そんな疑問をよそに、そのうちの一頭に乗った少年が悠然とレーシングカートたちを眺める。
鞍も馬具も着けずに堂々とした姿勢で乗るその学生こそ銀貨だった。

サーキットの整備員たちもこれには苦笑い。

秋尾 鬨堂 > 「王子様、かな…?」
カートの運転席。視点は地の底のように低く、その低さゆえ感じるスピードは時速の二倍。
見上げるには、少々馬上は高すぎる。
だから。
「ドゥーイッ」
過剰なアクション!ハンドルを片手に、一瞬の逆立ち!
そして、倒立前転じみた動きの後。
カートゆえパイプフレームしかないボンネットに…膝立ち!

「真似しちゃあ、いけないヨ」
唖然とする周囲のちびっこドライバーたちをよそに、馬上の少年へにこやかに手を振った。

奥野清明 銀貨 > 馬たちはマシンから響く大音量にも、傍らを走りぬける際に響くタイヤと地面がこすれる音にも動じずただ鼻息を荒くたてて足踏みするだけである。
不思議とそのひづめはコンクリートにも負けず、傷つかない。
その理由は銀貨が異能で呼び出した四頭の《軍勢》だからである。
ある種の魔法生物と同じ馬たちは同じく異能をもってしか傷つけられない。

秋尾の、掛け声と共に走るカートの上で見せたパフォーマンス。
当然銀貨もそれを眺めていた。無表情に近い整ったその相貌が、秋尾の行いによって一瞬目を見開かせる。
本当にごくごく親しいものだけが分かる表情の差異。

それも1秒に満たない間だけ、すぐにくすりと目を細めた。
その笑顔さえも彼を知る人には珍しいと思えるものだ。

両足でまたがった馬の腹を軽く蹴ると、四頭の馬たちはするすると走り出す。
秋尾たちが走るコースに悠然と混じると、なんと同じ速度を維持し始めた。
どういう仕掛けか分からないが、馬に乗る銀貨には負担も加速による疲労も見られない。実に涼しげな態度で馬たちを操っている。

振られた手に応えるように徐々に秋尾の乗るカートに近づくと
マシンの唸りに負けぬようなしっかりとした声で挨拶をした。

「こんにちは、秋尾先生。今日は子供たちへの免許指導ですか?」

秋尾 鬨堂 > カートはだいたい15馬力程度。
車重の違い、馬力≠馬が走る際の最大出力という点はあれど。
馬の走りではない。
その様子は、彼の力によるものだろう。
周囲のカートは、新たなチャレンジャーに奮起して、競り合うもの。
優雅な馬に心奪われ、後ろからついていく子供。
反応は様々だが、良い刺激であることは見て取れる。

「正解。レーシングライセンスさえあれば、あの子たちはここ以外のサーキットでも走れるからネ」
依然、後ろ手でハンドルを操作しながら、ボンネット上で答える。
ハンドル備え付けのレバーでアクセル/ブレーキが行える仕様とはいえ、曲芸であることには変わりない。
「キミは?王子様。」
誰か、という問いかけではない。
そもそも、王子様という呼び方がなんだか恣意的で、
有り体に言えば面白がっている。
機械工学の講義では、馬に乗るタイミングはない。

「カートの運転、というわけでは―なさそうだ、ネ」
その四頭は、どこまでも加速していけそうな余裕で。
対して、カートも徐々に―ドライバー講習の速度を超え始めている。

奥野清明 銀貨 > 「その『王子様』という呼ばれ方、少し気恥ずかしいですね」

そう苦笑して返すものの気分を害した様子は無く、依然として涼しげな顔で並走する。
ミルクティー色の短い髪が風になぶられるも、それすら様になるような馬上の姿である。
追いつき追い抜こうとする、あまたのチャレンジャーたちを気にする様子も無く
抜かれようと追いつかれようとただ秋尾との並びを維持するだけ。

「あの子たちも走り方を知るのは貴重な体験でしょう。きっと良い思い出になります。

 僕ですか……、なんとなく『風』を感じたくなって。
 ただ吹かれるようなそんな生易しいものではなく、自分から向かっていくようなそんな風が知りたかった。

 ここに来ればなんとなく、あなたがいてその『風』を教えてくださるんじゃないかな、と思いまして」

後ろからついてくる子供たちのカートに気を遣いながらそれでもスピードは落とさない。
秋尾の曲芸運転に対抗するならこちらは曲芸乗馬もさながらの姿。
それでも四頭の黒い馬たちはひるむことなくその逞しい足でサーキットを駆ける。
どこまでも秋尾の速さに乗るように――。

秋尾 鬨堂 > 「そう言うなよ。ボクだって昔は『王子様』だったんだぜ」
冗談めかした言葉は、しかし真実味がある。
王子様ではなくなったから、馬を降りてクルマに乗ったのか?
もし聞かれれば、そうだよと真顔で言いかねない。

「風を追い越して、その向こう側へ…駆け抜けたいと思うのは、皆同じサ」
だから、少年のその思いは、漠然とした言葉越しにも伝わる。
返答の合間を縫い、グングンと『踏まれる』アクセル。
4頭と一台が、サーキットの中で他の車輌を置き去りにしていく。


『ドーソン!今回は俺の勝ちだ…』
外周トラックを走る、BM・Z4が、ライバルをインベタで抜き去った瞬間。
『何ぃ?!』
更にその内側に、信じられない速度で飛ばす…馬!
そして、カート!

「見せてやろうじゃないか。今日、この場を吹き千切る…風を!」
それは、外周のドライバーにも。
カートの子供たちにも。
サーキットの外では決して見ることはないであろう…
カートと、馬の限界を超えた速度域でのレース!
合法かつ奇想!
速度FREE!

奥野清明 銀貨 > 「今だって先生は『王子様』で通じますよ。色男に立派な『馬』にも乗っていらっしゃる」
皮肉ではなく、素直な賞賛である。秋尾のそのミステリアスな言動、全てを吹き飛ばすような人を魅了する走り。
どんな美女だって、彼に口説かれればきっとその気になる。
自分のような優男の王子ではなく、彼のような明け方にひと時の夢を魅せるような王子の方が女性は好むような気がした。

曖昧な答えにいぶかしげな顔でもされるかと思ったが、この男には通じた。
『踏まれる』アクセル、その速度に合わせて彼が駆け抜ける周囲の『風』が変わる。
そう、自分は待っていたのだ。この『風』を、それを吹かせてくれる走りを――!

ドドッドドッと四頭が固いコンクリートをひづめで削り、片やその隣で秋尾のカートが尾を引くような美しい走りを見せる。
コーナー内側をすべる様に四頭とカートがすり抜けて行く。まるで夢のような出来事。
それでも互いのスピードは落ちない。まるでかみ合った歯車のような、あるいはダンスを踊るペアのような動き。

さすが【悪魔のL】――。
声には出さず、銀貨は胸中でつぶやく。この走り、伝説と呼ばれた彼にしか出来ぬ『風』。
吹き散らかされたそれに、少年は何かを見る。
いつもは平静な自分も秋尾の走りにつられるようにこの『風』に感情を揺さぶられ始めた。
秋尾がアクセルを『踏めば』それに応えるように馬上の上で前傾姿勢をとる。本気の走り。まるで名ジョッキーのような風貌。

秋尾 鬨堂 > 「嬉しいネ…じゃあ、少し胸を借りるつもりで」
直列2気筒エンジンが、信じられないパワーを絞り出す。
一切の無駄を取り払った、骨と心臓、そして脚だけの軽いボディに伝わるそれは、何よりもダイレクト。
このサーキットの中で、遠慮なく踏める最高のライトウェイトスポーツカー。
男の愛馬とは色々違うけれど、確かにそれは評価に値する競走馬。
優美な走りの中に、凶暴なエンジンの鼓動を秘めた走るためのマシーン。

バンクを超えて、ホームストレートへ。
その頃には、外周コースだけでなく。サーキット上の皆、異変に気づく。
『競馬か?!』『違う、4頭立てだ!大昔の騎馬兵みたいに』『どんな名ジョッキーでも出来るこっちゃねえ…それをあの速度でかよ…』
ギャラリーのどよめきは、だが見世物ではないことを感じ取りすぐに歓声へと変わる。
内側リンク三周、誰が決めるでもなく互いに理解する『ルール』。
エキゾーストと嘶きが交錯する!



無茶な加速に、タイヤを限界まですり減らしながらも、
ここまでの二周は互角。
インとアウトを熾烈に取り合い、しかしその綾模様は舞踏会を思わせて。
「さあ…ラストステップだ、お手を拝借!」
最後のコーナーをドリフト気味に抜ける!
悲鳴を上げるタイヤ。
刺さる横風を更に突き抜けるような、ラストストレート!

奥野清明 銀貨 > ぐん、と再び秋尾のカートが加速を始める。先ほど『踏んだ』ばかりなのにまだスピードの先へと進むというのか。
それでいて彼のハンドリングはまったくブレがない。ただただ最適なコース取りを美しく走り抜ける。
だがその中に確かにマシンの唸り声、その凶悪なエンジンの鼓動を聞く。風切り音の中に混じる確かな響き。

四頭の馬も彼の走りに食らいつく。これで中世の馬車さえついていればまるで本当の御伽噺のようなものだ。
周囲の歓声が遠い。もはや二人の走りには音さえ遅い。ただただ彼の走りが渦巻く『風』の音だけが銀貨の耳を打つ。

ラストストレート、その残りの直線での事だった。
熾烈な争いの中で、ふいに一瞬世界がスローモーションのようにゆっくりと流れるのを銀貨は視た。
ふたりの周囲の空気の流れ、風の形すらまるで水あめのようにゆがみ、流れてゆく。ただただ世界は無音だ。
美しい、限界の走りをせねばここまでの境地には到底たどり着けなかった。
その光景を二つの眼でしっかりと焼付ける。



だが、銀貨が出来る走りはここまでだ。
所詮自分の異能は《軍勢》を操る事。四頭の馬の能力を限界まで引き出す事は出来る。
学校の科目ですら成績は常に上位を修めてきた。努力と才能によって。

ただ、きっと秋尾 鬨堂――この男こそ『走り』の才能と努力を積み重ねた天才だから
所詮その分野では秀才どまりの自分では、ここまでなのだ。

けれどすがすがしい気分だ。彼は自分に『風』の向こう側を見せてくれた。
勝負によってもたらされるその至高の境地、走り屋がみな目指すスピードの向こう側。
そこに自分も至れたという事。それがひどく心地よかった。


ゴールを通過するその一瞬、ほぼ同時にたどり着くかと思われたその刹那。
銀貨の操る黒馬たちよりもほんのわずか、秋尾のカートがリードした。

逆巻く風を吹き散らかしながら、ゴールフラッグが派手に振られた――。

秋尾 鬨堂 > ゴールラインを超えて、数メートルも行かないうちにタイヤがバーストする。
加熱限界を超えたタイヤは、最期の仕事を終え、破裂したのだ。
グリップを失い急激にスピンする車体を片腕と荷重移動で操り、どうにか制動…減速をかけ。
コース壁際、タイヤが積まれたクッションに軽くめり込む程度で止まる。

「ドゥーェッ」再び、今度はハンドルから手を離した空中後転。
明らかに過剰なアクション!
役目を終えたマシンに労いの一瞥をくれると、
パドック―コース脇。レースを終えたマシンとドライバーが、通常通される―
へと歩く。

「やあ。やっちゃったヨ、『王子様』。やっぱり、現役じゃないとしまらないな」
タイヤを潰して、自走は不可…まあ、やっちゃっている。

暴風はもう、おさまっていた。
わずか一瞬、ゴールラインを割ったその瞬間には。
馬上の彼も、見えたものは同じはず。そう問いかける

奥野清明 銀貨 > あわや直撃かと思いかけた秋尾のカートは秋尾自身の見事な判断とマシン裁きで事故を防いだ。
一方、黒馬たちは速度を緩めるためにコースをオーバーラン、結構な距離を稼いでからだんだんとその走りが緩やかなものへと落ち、
ならすように四頭が過ぎたゴール地点へとゆっくり戻ってくる。
馬上の銀貨の姿勢も前傾から元のまたがり方へ。

カッポカッポとそのひづめを鳴らしながら四頭は一糸乱れぬ動きでコース脇へと歩み、秋尾の傍へとやってきた。
するりと銀貨がその背を降りる。四頭は全力の走りの興奮をいまだ抑えきれぬ様子で荒々しげにいななく。
その首筋を片手で叩いてなだめながら秋尾を、カートをみた。
派手なバースト、あの走りだ。仕方ない、マシンも限界だったのだろう。

「やっちゃいましたね。でも一瞬あなたが現役の頃に戻ったような気がしました」

ふ、と銀貨の口元がゆるく笑む。創ったような笑いではない、心の底からの微笑。
彼が暴風のさなか、ゴールの瞬間に見せてくれたものへの返答はそれで充分だった。
この秋尾 鬨堂という男は、3度も奥野清明 銀貨という少年の表情を、感情を動かしたのだ。
それだけでこの男と、最高の走りが出来た事が喜ばしかった。

秋尾 鬨堂 > 「ううん…君は年上をノセるのが上手いネ」
ちょーいちょーいと馬たちの鼻先を右手であやしながら、苦笑気味に照れる。
馬たちの興奮もまた、伝わる。
知っているのだ、走ることの意味を。

人馬一体、彼の心は、確かに彼らとともにあった。
勝ち負けとは違う、到達すべき領域をともに見た。
敬意を持って接するべきものたち。

「彼らに労いを」
ぱちん。大げさに指を鳴らさずとも、整備員も作業員も理解する。
大急ぎで水と飼葉、ついでに少しの生野菜。
あくまで休憩、帰りの途も走れる程度に。

「君とは、語らいを」
パドックの向こう、本来であればレーサー、チーム関係者、その他VIPなどの特別席。
今日は、このサーキットでの走行会に集まった人々がくつろげるカフェへと装いを変えたそこに誘う。

「単位は出ないが、女の子は結構いるヨ」
恭しく頭を垂れて、それこそ女の子の下馬を助けるように。
冗談めいてはいるが、茶化しはしない。
敬意を持って、手を出した。

奥野清明 銀貨 > 鼻先に差し出された手に馬たちはそれぞれ秋尾をとりかこんで検分する。
共に走ったこの男を傍で感じ、異能で作られた生命だというのにそれらは親しげに鼻先を秋尾にすりつけ、その髪をやわく噛んだ。

大急ぎで用意された水と飼葉、生野菜に馬たちがいななき作業員たちに促されるように歩いてゆく。
まるで整備されるマシンのように、優美に……。

「素敵なお誘いですね。僕こそ『王子様』に語らいのひと時を誘われた娘のようです」

カフェと秋尾を見て、笑みを濃くする。このサーキットにおいて真の意味で『王子』なのは彼であろう。
その差し出された手を恭しくとると、リードを任せるように秋尾に歩調を合わせる。
男とも女ともつかぬその容貌が今だけ、女性としての面を強くするようにしなやかに。

「単位はまた、改めて先生の授業できっと取りますよ」

くすりと笑って、その導きに任せるままにカフェへと歩んでゆく。
馬たちがのんびりとふたりの背中を見送った。

そして、そのカフェでの語らい、ひと時は銀貨にとって走りと同じく実に有意義な時間となったのだ――。

ご案内:「◆速度Free(合法)3」から奥野清明 銀貨さんが去りました。<補足:《軍勢》を操る物憂げな少年。夏の制服姿>
ご案内:「◆速度Free(合法)3」から秋尾 鬨堂さんが去りました。<補足:悪魔のLと呼ばれたマシンを操るドライバー。踏んでいける男。>