2015/08/28 - 23:45~00:51 のログ
ご案内:「保健室」に畝傍さんが現れました。<補足:短いブロンドの髪と赤い瞳、オレンジ色のボディスーツ姿。巨乳。狙撃銃を携帯>
畝傍 > 橙色に身を包んだ少女が、保健室の天井を見上げている。
畝傍が考えているのは、先日、異邦人街のとある教会跡で再会した、畝傍にとっては恩義のある人物――薄野廿楽のこと。
彼女に異能がない――失われている――ことを知らず、無意識下の異能の発現と自らの言葉によって、彼女を傷つけてしまったことへの罪悪感。
同居人であり親友である石蒜/サヤにもそれを打ち明けていないまま、未だそれを引き摺っている。
思い悩むあまり授業にも集中できず、体調不良を口実に授業を抜け、一人、保健室のベッドに仰向けになって寝ていた。
その脳内に、氷のように冷たく、囁くような高い声が響く。
「≪まだあの女の言葉を気に病んでいるのですか?愚かですわね。実に愚かですわ、畝傍≫」
声の主は、畝傍が異能を行使する代償として『正気』を支払ったことで生じた別人格――"千代田"である。
その冷たい声は畝傍の抱く暗い感情に呼応するかのように表れ、彼女を嘲笑していた。
眼帯で覆われた畝傍の左目からは、薄野廿楽を恐怖"させてしまった"モノ――冷気を纏う灰色の炎が溢れる。
千代田は畝傍のかつての親友、石蒜のように、長期間主人格に成り代わって凄惨な悪事を働くことはないにせよ、
その本質は嗜虐的であり、畝傍の精神に負の影響を及ぼすものであった。
「≪あのような言葉、所詮は力なき者の戯言ですわ。そんなものに、貴女が心を痛める必要などなくてよ≫」
「……だまっててよ。あのとき……チヨダがでてこなかったら、こんなことにならなかったのに」
他に誰もいない保健室の中で、畝傍は自らの別人格へと言い聞かせるように、呟く。
いくら後悔すれど、起こってしまった事象は覆せず、言葉は戻らない。
畝傍 > 「≪では、千代田に『混沌』の気配を見過ごせと?それはできない相談ですわね。貴女とて、かつて『混沌』の化身を焼き滅ぼしたではありませんか。今更何を躊躇う理由があるのでして?≫」
いわば『生きている炎』の力の一部そのものである千代田は、『混沌』の力には人一倍敏感である。
もし千代田が肉体の主導権を完全に掌握してしまえば、『混沌』の力を持つ者と出会い次第否応なしに邪悪存在と見做し、
その力を以て焼き滅ぼそうとするだろう。――だが、畝傍はそれを許さない。
畝傍は狂っている。その精神には破綻をきたし、言動は実年齢よりも幼い。
しかし、正常な倫理観は、彼女の中で破綻することなく保たれている。それが時折、自身を苦しめることがあれど。
「ヒシナカさんだって……たぶん、わるいヒトじゃないよ。それに、ボクは……メイメイさんが『混沌』だからたたかったんじゃなくて……トモダチを、シーシュアンをゆがめて、くるしめてたから、たたかったんだ」
畝傍は、かつて自身が焼き滅ぼした黒き童女――邪仙・鳴鳴と、彼女が『混沌』だから滅ぼす、という単純な理由で戦ったのではない。
『混沌』の力を感じたという理由だけで、彼女のように、先日出会ったばかりの包帯男――否支中活路のことも、焼き滅ぼしてよい理由にはならない。
畝傍の主観において、明らかな悪事を働いていない、また自身がその場面を直に目撃していない者を、悪人と断定することはできない。
また、例え悪人であったとしても、それを知った時点で即座に切り捨てることは不可能であろう。
歪められ狂った人斬りであったかつての石蒜は、法という観点からすれば明確な『悪』であった。
されど、一度お互いを親友と見做し、約束を交わした相手であったが故に、
畝傍は自身の身を犠牲にしてでも彼女を助けようという決意の下に行動し、実際助け出すことに成功したのだ。
畝傍 > ――しかし、千代田もまた、畝傍の言葉を拒絶する。
「≪『混沌』の力を持つ者が、必ずしも悪ではない……と?はっ、何を言うかと思えばそんな寝言を!『混沌』は万物を嘲笑する邪神……その力を持つ者もまた邪悪でない訳が≫」
「だまれ!」
千代田のその言葉に対してひときわ大きな声を上げ、強い口調で抵抗する畝傍。
これ以上千代田に喋らせておくことは良くない――そう判断していた。
その勢いに気圧されたのか、それ以上畝傍の左目から灰色の炎が溢れ出すことはなかった。
まだ他に誰もいない、保健室の中。しばし静寂が漂う。
「…………ボクは。ボクは……」
千代田の声が止んだ後。畝傍は一人、寝返りを打って。
「どうしたらいいんだろう。どうしたら……わかんない……」
その瞳に、涙を浮かべていた。
畝傍 > 自分一人ではどうしようもない、悔恨の渦。
畝傍の瞳に浮かんだ涙は、少しずつ、少しずつ溢れ出し、枕を濡らしてゆく。
「(あのとき……ボクがなんていったらいいか……わかんなかった)」
異能を無くし、自身も精神的に不安定になっていた廿楽に、
よりによって自身の異能について事細かな説明をしてしまったのは、明らかな悪手だ。
しかし、あの場面でどのような言葉をかければいいか思い浮かばなかったのも、
それが言い訳にはなり得ないとはいえ、また事実である。
異能が無くたってなんとかなる。大丈夫。
仮にそのような言葉をかけていたとして、気休めにさえならないだろう。
そして、何よりも畝傍の心を抉っていたのは。
「(カミサマなんていない……か)」
薄野廿楽が去り際に残した、その言葉。
それは確かに畝傍の正気を焼いた『炎』の存在のみならず。
破綻した精神を崩壊から守るために畝傍自身が作り上げた『女神さま』への信仰をも、否定しかねないものだった。
この常世島に現れる魔物を、畝傍が狩り続ける理由。
それは魔物を自らの狙撃行為によって滅ぼし続けることが『女神さま』から自身に課せられた使命であり、
いつか『女神さま』に認められた時、自身の罪は赦され、救済される――という、彼女なりの信仰があるためだ。
「カミサマは……いるよ。女神さまはボクをまもって、みちびいてくれてる……」
レプリカの狙撃銃を強く握りしめ、すすり泣きながら漏らす。
畝傍 > 「『生きている炎』は……ボクを……こんなふうに、して。ボクに、こんなちからを」
――あの日、畝傍に発現した異能。
かつては『九死一生』<デッド・ノット>、今では『炎鬼変化』<ファイアヴァンパイア>と呼ばれるモノ。
伝説上に伝えられる『生きている炎』と呼ばれる神性の力そのものを発揮する代わり、
行使するたびに代償として自らの正気を蝕む、呪われた力。
「……ボクだって。すきで、こんなふうになったんじゃ……ない」
そんな言葉で――否。どのような言葉でも。彼女を納得させられるはずがない。
薄野廿楽という少女は、恐らく畝傍とはどうしようもないほど相性が悪いのだろうことに、
畝傍自身もうっすらと気付き始めていた。
「……こんな、ちからなんて」
この力がなければ、石蒜を救うことができなかったのは承知の上だ。
――それでも。恩人を悲しませてしまうような『力』なんて。
自分には、要らなかった。
「女神さま。ボクは……ボクは……」
涙は、なおも流れ続ける。
畝傍 > 声も上げることもできずに泣き続け、やがて涙も枯れた頃。
橙色の少女は瞳を閉じ、ゆっくりと意識を手放してゆく――
ご案内:「保健室」から畝傍さんが去りました。<補足:短いブロンドの髪と赤い瞳、オレンジ色のボディスーツ姿。巨乳。狙撃銃を携帯(乱入可)>