2015/08/22 - 23:30~05:07 のログ
ご案内:「路地裏」に薄野ツヅラさんが現れました。<補足:【乱入歓迎】赤いジャージにヘッドフォン。右手に金属製の前腕部支持型杖。>
薄野ツヅラ > ───、息を切らす。
深夜の落第街の裏路地を、動かない右脚を引きずって速く、早く。

錯乱と困惑に包まれたまま、ただひたすらに迫る重い足音に怯えてより暗い路地へ路地へと逃げていく。
襲い来る現実から目を背けるように。ただひたすらに目を逸らして。
見なかった振りをするために。悪い夢が早く醒めるように。

「──……お願いだからッ、来ないでよう………ッ」

路地の青いポリバケツにの影に隠れて座り込む。
小柄な体躯を普段以上に、小さく小さく丸めて、頭を抱えて。
手には落第街の橙の灯りを反射して照り返す濁って淀んだ銀のリボルバー。

薄野ツヅラ > 時は遡っておおよそ日付が変わる少し前。
いつも通り、とくに何もイレギュラーなく落第街の大通りに存在するコンビニに足を運んだその帰り。
ただ缶コーヒーが切れたから。
普段飲んでいるメーカーの新商品が発表されたから。
そんなどうでもない理由でコンビニに足を運んだその帰り道で。

日常は非日常へと変化する。
レギュラーはイレギュラーへと変貌した。

公安委員会の仕事で"上司"と共に落第街に足を運ぶことは最近、
────二級学生の一斉引上げの後処理以降、そこそこに増えていた。
男の影に身を隠して安全だ、なんて思っていたのは全く以て見当違いで。
落第街で赤ジャージなんてクソほど目立つ服装の自分が気付かれていない筈もなくて。
喧嘩っ早い"彼"の傍をちょろちょろしているのを見られていない訳なんてなくて。

───、落第街においては当然且つ当たり前の事象が今自分に振りかかることなんて。
これっぽっちも想定していなくて。

薄野ツヅラ >  

───、人の恨みを買うのがこんなに簡単だなんて、これっぽっちも思っていなくて。


異能に自分が頼りきりだったことも露呈してしまって。
その異能が、自分自身を定義する何よりも大きな存在だ、ということも。


……気が付いてしまって。


 

 

薄野ツヅラ > 何が切っ掛けだったのかも解らない。
何時の間にこんなことになっていたのかも解らない。

されど、いつも通り。
ポシェットからチュッパチャップスを引き抜いて奥歯で噛み砕いて。
それから指揮棒のように異能を振るうだけ。

そんないつも通りが、既にいつも通りじゃなくなっていた。
"普段のように"異能を使えていたとしたら暴漢の一人や二人。
相手が人間であるなら何人だって銃を抜かずに対処が出来る自信はあった。

「………ッ」

嗚咽が零れた。
震える両の手で何時振りだか───二級生徒の篩分けの時ぶりに抜いたリボルバーを握り締めた。

ご案内:「路地裏」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、鋼の首輪、黒Tシャツ、モスグリーンのカーゴパンツ、革の突っ掛けサンダル、シルバーネックレスとバングルとリング>
ご案内:「路地裏」に久藤 嵯督さんが現れました。<補足:【乱入歓迎】表情を一切崩さない白髪の男。刃のような目付き。中肉中背。学園の制服に、風紀委員の腕章を付けている。>
ヨキ > (淀んで滞留した喧騒が、剣呑な色を帯びた。
 空気が肌を刺すような棘を孕んだように感じて、視線を走らせる。

 獣の目は、動くものにこそ聡い――横切る赤色。

 裸眼ならば尚更だった。サイドの髪を留めていたヘアピンを外して、首を振る。
 髪が散る。もう装う必要はない)

(足を踏み出す。夜気の中を滑るように、影が這い寄るように)

(少女が身を隠したポリバケツの更に上から、押し殺して低い声が降るだろう。
 相手の顔を確かめるような、真っ直ぐな視線。照り返しに淡く輝く瞳の金色)

「――こんばんは。どうかしたかね?」

薄野ツヅラ > (上から降って落ちた言葉に怯えたように肩を揺らす。
 ただ自分の明るかった視界が遮られて男の影が落ちれば、当然のように)

(何が敵で何が味方なのかも解らない。
 ただ出来る最適解。男に向けて勢いよく濁ったリボルバーが向いた)

「………ッ、来ないで、お願いだから、来ないでッ……」

(ただひたすらに零れ落ちるのは懇願。
 男の陰に怯える一人の少女のただそれだけの懇願)

(淡い金色に反して、血のように赤々と燃える緋色がじわり、潤んだ)

久藤 嵯督 > ああ、また何処かの誰かが騒ぎ立てていらっしゃる。
先日の件もあって調査のために落第街近辺を回っていたのだが、
それだけでもこういった小さな案件には何度もぶち当たる。

建物の合間から聞こえてきた小さく喧しい足音を聞けば、うんざりしたように足を運ぶ。
面倒だが風紀委員の立場上、放ってもおけまい。
重い足音に迫るように、幽鬼は音も無く忍び寄る。

ヨキ > (素早く向けられる銃口。震える少女の声。
 向き合った顔は怯むことなく、銃口越しの少女を見ている)

「………………、」

(目を逸らさず、笑いもせず、いたずらに手を伸ばしもしない。
 安っぽい灯りに照らされた少女の顔立ちを、しばし見つめていた。
 やがて口を開く、)

「君……公安の。
 ――『すどうくん』の、いつも隣に居る子かね?」

(『朱堂君』。
 その名が相手の敵でないと示す手掛かりであるかのよう、小さくもはっきりと響かせる。
 公安委員会。その唯一の縁。自然と目が向くようになった彼の隣――
 杖を突く少女の姿があることを、いつしか意識するでもなく見知っていた)

(通りの向こう、もう一人こちらへ歩む人影があることには、まだ気付かない)

薄野ツヅラ > (まるで落ちた街からも切り取られたような路地裏にどくんと。
 ただひたすらに鼓動を刻む心の臓。
 騒ぎ立てる鼓動すらも聞こえそうな静謐の中、ただ男の言葉だけが落ちる)

(鼓膜を、揺らす)

「ッ、あ、ええと──……」

(数回の深呼吸。うまく回らない舌も、頭も落ち着けるように)

「………公安の、人かしらあ。
 生憎ボクは、………えっと、──ッと。
 あのザンバラの知りあい、かしらあ。落第街に知り合いがいるなんて、きいて、ないけど」

(当然、ゆらりと歩む人影と足音に気を配る余裕など微塵もない)

久藤 嵯督 > 足音を辿れば何かを探している男……見るからに暴漢なのだろうが
ソレが見えたのは追跡を始めて間も無くしてのこと。

ああいった様子を見せる相手は、あえて泳がせて対象が探しているモノを明らかにするか
あるいは尋問して目的を聞き出すかすべきなのだが……

どう考えても後者の方が話が早い。それに、対象が"人"であれば保護を急がされる。

ぶん、と一回、人差し指を振る。
雨上がりの蜘蛛の巣に見紛うような、銀色の放物線が暴漢の首に巻きつかんとする。

ヨキ > 「……ほう。部下からはザンバラ呼ばわりされているのか」

(少女と向かい合って、初めて笑う。
 壁に手を突き、ポリバケツ越しに相手を見下ろす格好のまま、路地の向こうへ素早く目を配る。
 たどたどしい言葉に、薄らと笑って答える。
 あの室長補佐代理とは趣を異にする――それでいて劣らず揺るぎのない、不遜な笑み)

「教師だ」

(その浮ついた様相は、見るからに教師のそれではない。
 通りのどこかに、ならず者の気配。
 張り詰めた警戒を滲ませながら、淀みなく言葉を続ける)

「ヨキという。何があった?
 君が『ザンバラ』なしに危ない目に遭っているなら、このヨキが力になってやろう」

(言いながら、じゃらりと腕や首元を飾るアクセサリを外す。
 素行不良の落第街へ入るための、所詮はカムフラージュ。
 手のひらの上で氷が溶けるように、するりと縮んで消える銀。
 異能や魔術の類で現出した代物であることが察せられる、瞬く間の消失だった)

薄野ツヅラ > (男は蜘蛛の糸に気付かない。その蜘蛛の意図にも、迫る影にも。
 故に放られたそれは容赦なく男に絡まる。
 静謐に満ちた湖面に投げ込まれた石に、思わず大声をあげた)

「ッ、誰だ手前オイコラ!!!粋がってんじゃねェぞ!」


(──場所は変わって路地裏。
 不遜な、不敵なその滲むような笑みを間違いなく少女は捉えた。
 続いた教師という言葉に、何処か不審がるような。
 其れで居て頭はやっと回りはじめたらしい。手元の銃火器をさっと背に隠した)

「………、ヨキ、さん。あァ、ヨキ先生」

(其れは幼子が言葉を練習するように、ただ辿るように言葉を繰り返す)

「───ないの」

(涙で潤んだ両の眼で獣の金色を、見上げる)

「ボクの、異能が。使えないの。使えなくて。
 なんでかは解らなくて、それで、ええと──……」

(紡ぐ言葉は要領を得ない。ただひたすらに繰り返す言葉。
 ただ、何処か上司の姿と男の姿が重なった。不遜で、其れで居て何処か安心する、笑み)

「どうすればいいの、ボクは、どうすればいいの………?」

(伸ばされた手に、ただただ縋った)

久藤 嵯督 >  
―――バチリ

迸る電撃。テーザー銃……よりはまだ小さな音。
それは傍から聞いても、男を気絶させるためのものでないということを知らしめている。
それでも電撃の訴える痛覚は、サーカスの猛獣に鞭を打った程度の効果は期待できる。

「ああ、すまんな。随分と楽しそうに運動していたのを見かけたもんだから
 俺も混ぜて貰いたくって、つい手が滑ってな」

手の甲のグローブに備えられた中継モーターがきゅるきゅると音を立てて糸を巻き、
風紀委員を象徴する赤い制服に白金の髪を被せた男が歩み寄る。

「見ての通り、『赤鬼』さ。
 それで何して遊んでた? 宝探しか? それともかくれんぼ?
 ああ、立ち話がイヤなら『部屋』に招待してやってもいいぞ。どうしたい?」

ヨキ > (獣の耳が、暴漢の怒号を捉える。
 その意を聴き取ることまでは出来なかったが、見つかれば彼女が追われることは必至。
 長身が光を遮り、少女を包むほどの暗がりを作り出す。
 けれどもその闇の主は、まるで子どもにタオルケットでも被せるかのようにただ笑う)

「異能が……使えない。
 『使えていたが、使えなくなった』と――そういうことか」

(あくまで推察に過ぎない。
 どうすればいいの、と、泥濘を足掻くような声。

 伸ばした手。それは単なる比喩には留まらない。

 ――徐に、四本指の手を伸ばす。大きな手のひら。獣の爪。
 リボルバーを握り締めたツヅラの手の甲を、柔く包み込んで握らんとする)

「……簡単な話だ。

 『人間の大多数は、異能など使えん』。

 異能などなくとも、人は在れるのだ。
 人とともに在ること。そのための異邦人、異能者だ。

 不安ならば――このヨキを頼れ。
 このヨキの実力は、君の『ザンバラ』が保証してくれようぞ」

(謳うように、ひどく傲慢に。笑って、眩い光のうちへ誘うように)

(そうしているうち、久藤の放った電流が乾いた音を立てるのを、垂れた耳が小さく聞きつける。
 それが何の音であるかは判然としないが――少なくとも、怒声が怯んだのは確かだ。
 通りの向こうで、何かが起きている。不穏の種が増えたか、あるいは助け舟か)

(――ツヅラへ向き直る。
 手を差し出した格好のまま、僅かに身を乗り出す)

「この手を握っていろ。
 ……万が一のことあらば、ヨキが出る。君を決して、危険には晒さん」

薄野ツヅラ > (ぐわん。ぐわんぐわん。
 男の視界はゆらり揺らめく。
 まるで陽炎。歪む世界に、ただのプライドだけで意識だけは保つことが出来た)

「何が楽しそうにだよ!証拠はあんのかよ!
 俺が誰かを殴ったのを見たか?ただ走ってるところを見ただけじゃねえのか!
 ただ走ってる生徒を『疑わしいから』でフーキイインは攻撃すんのかよ!
 
 ただのランニングだよ、飯が終わってランニングだ!
 ンだよ、手前───……正規学生に対して暴力沙汰って、ゲッハハハハハハハハ!」

(下卑た笑い声の反響残響。其れは路地裏まで間違いなく響いていて)

「フーキイインの本部に通報すればいいのか?あァ!?
 フーキイインさんに襲われてます、ってなァ!」

(威勢は中々なものだが、見て呉れは随分情けなかった)


(───、一方路地裏)

(闇の中に男の声が響く。それと同時に頭上から降る教師の声。
 その表情を、暗がりでよく見えない表情を見上げ、二、三度頷いた。
 握られた手は人間の其れとは違って。当然ではあったものの、一瞬驚いた表情を浮かべた)

「でも、あれがないと。
 あれがないと要らないって言われたらどうすればいいの………?
 公安にだって、弾かれるかもしれないし、それに」

(より一層、声を潜めて)

「トバリに、あ、ええと。好きな人に、要らないって言われたら、ボク」

(紡ぐ言葉は細く、か細く)

「ヨキさ──、センセイが頼らせてくれても。
 好きな人に要らない、って。公安にもいられなくなったら、ボクは。

 …………、生きていけないと、思うから」

(首を横に振った。
 彼の言葉は何一つ間違ってはいなかった。
 されど彼女の世界では、彼女の凝り固まった価値観では簡単に頷くことはできなかった)

(ばぢり、鳴いた音に目を背ける。
 今の自分ではあの音に対して何も為す術がないのを再度痛感する。
 恐怖でも不安でもない。ただただ───自分が無力なのを、思い知らされた)

「あ、ええと、ごめん、なさい。迷惑かけちゃって」

(厚い毛皮を纏った口調も今や見る影もない。
 ただただ無力で、非力なオオカミ少女が一匹。
 嘘の毛皮で身を包んでいた筈の捻くれ者の本性だけが其処にはあった)

(ひとつ、頷く)

久藤 嵯督 > 声高々に笑いながらあからさまな言い訳をするチンピラに対して、うんうんと適当に頷いた。

「ほうほう、ランニング。そりゃ健康的な事で。
 ま、日常的にやってなきゃ大して意味はないケドな」

ふぅ、と短く溜め息を零す。
存外強情な男だが、まぁそれぐらい手応えがあった方がいい。
出来る事なら糸をぶち破って戦闘態勢を取る位は抵抗して欲しいものであるが
自分は出来る限りそれを阻止するのでまぁ頑張れとしか。

「―――他のがどうか知らんし大して興味も無いが、生憎俺はドラッグ中毒で、この微睡むような感覚に酔ってるのさ」

劇場の役者の如く少しオーバーに、空いてる右腕を広げて掌を天に向ける。
別に『魔力薬』に対する中毒症状に陥ってはいないが、遠回りに回ればあながち間違いでもないといえる。
戦闘中毒が戦闘の際に薬を使っているのだから、そうと言えなくも無いのかもしれない。

「だから……いくらお前らのようなクズが取り繕ったところで、俺はそんなモノ関係ナシに問い詰める。
 幾らお上手にウソをついたって、どの道お前はこうなっているって寸法よ。
 大体その『疑わしい』行動に無垢善良な一般生徒が震え上がっているってんだから、これもまあ"仕事の内"ってコトでいいだろ。

 そもそも事のシロクロなんてのは所詮、少し調べりゃすぐわかる事なんだ。
 俺が間違っていれば俺が格下げ、あるいは辞職。お前が間違っていればお前がブタ箱行き。結果はもう明白だろ?」

目の前の男が別に何を言おうが構わない。
結果さえ出せば、大抵の事は流される。
それが最悪審査を免れない場合もあるだろうが、それもリスクと言うもの。
事が起ってからではもう遅い。治安維持のための必要経費というヤツだ。

「今ウソをついて罪を重くするよりは、今ここで反省のポーズだけでも取っておいた方がいいと、俺は思うがね……」

極限まで研ぎ澄まされた刃のような視線で、相手の眼を撫で斬りにするかのよう。
もう何人の血を啜ったのかもわからない、二振りの妖刀。
その眼はお前の血を寄越せと、黒の深淵から語り掛ける。

ヨキ > 「――全く、下品な声だ。
 朱堂君の『笑い方』を言葉に表したら、ああにでもなるかね?
 あれでいて彼は、随分としっかりした話し方をしていたがなあ」

(遠い喧騒を聞きながら、冗談めかす。ツヅラを掴んだ手の肉は薄く、硬い。
 彼女を励ますためでなく、自分が彼女の支えとして、今はここに在らんことを示す錨のように力強い)

「『要らないって言われたら』?
 ふうん……君の彼氏、なかなか苛烈なタイプか。

 そのときは仕方がない」

(あっけらかんと口にする)

「ヨキは君ではないし、ヨキは君の彼氏でない。
 君らの世界に、ヨキは立ち入れはせんよ。

 『どうすればいいの』、とは、君が自分で『トバリ君』に尋ねるべきだ。
 『僕は君がすきでスキで好きなのに君の好きな異能を失くしてしまいましたこんな僕は嫌いですか』。

 あるいは……
 『君の好きな異能を失くしてしまいました僕と一緒に捜してくれませんか』。

 ……『トバリ君』がどう答えるかまでは保証せん。天が落ちれば、そのときはそのとき。
 このヨキとて、割れた地を直すまでは罷り成らん」

(じ、とツヅラを見る。赤い瞳を覗き込む。
 彼女の世界、自分の言葉では揺らがないであろうことは判っていた。
 それでも唱える。呪文のように、低く囁く)

「……もしも君が本当の本当に生きていけないような目に陥ったら、自ら命を絶てばいい。

 だがその代わり……
 本当の本当に心から死にたくてどうしようもないのに死ねないときは、ヨキのところへ来い。

 ヨキは生きた者を殺す真似はせんが、死んだように生きる者を置いておくほどの部屋と金ならある。
 それだけだ」

(ふざけたような言葉の選びでいて、しかしその笑みは穏やかにして磐石だ。
 ゆっくりと、目を伏せる。首を振って、柔らかく笑い直す)

「ヨキは、溺れかけている君の求めに従っているに過ぎん。
 迷惑に思うことなど、何もない」

薄野ツヅラ > (ニイ。男の口元が吊り上がるのが果たして見えるか、見えないか)

「ああ、構わねえぜ。トーゼン何を調べても俺は何も"未だ"しちゃいねえ。
 愚策極まりないんじゃねェのかフーキイインさんよう。
 ドラッグ中毒ゥ? ………、ゲッハハ!フーキイインはオクスリキメててもなれるンだなァ!
 
 まだ何もしてないっつーのは明確な事実だ。
 なのに見てくれだけでクズたあ、中々にオモシロオカシいフーキイインじゃねェの!
 ヤってたら間違いなくこんな大言吐けねえし尚且つ情状酌量の為に反省した素振り見せるっつーの!
 こンなツマンネーことまで落第街の不良に説明されなきゃワカンネーとはこりゃあヒデエ話だ」

(げはは、と下卑た笑い声は未だ響く。
 ただ、彼が未だ何もしていないのは紛れもない事実であることだけは間違いがない)

(嘲笑が響いた)


(───路地裏)

(口元に指を宛てがい、思案するように。
 ぱちぱちと幾度か瞬きをしながらぽつり、洩らす)

「………、あのひとは。どっちらかっていうなら余り言葉に出さない、気がする」

(ようやく頭が回り始めた。他者考察をする余裕もやっとのことで。
 それから苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、顔を引き攣らせて)

「──……、トバリは彼氏、とかじゃなくて。
 幼馴染、っていう訳でもなくて、腐れ縁でもなくて。
 ただボクが大好きで、一緒にいたくて、使ってほしくて、褒めてほしくて。

 その辺のヤツらに比べたらとっても頭が良いの、ボクなんかよりもずっと。
 お前は。よく切れるハサミだ、って言われた」

(思わず零れて落ちた言葉は止まらない。ただ、)

「切れないハサミと切れるハサミなら誰だって切れるハサミの方が好きだろう、って。
 だから、異能がなかったら。公安にいれなかったら。
 切れないハサミになっちゃうから、それがいやで、こわくて、いやで」

(ツウ、と水滴が頬を伝った。
 握られた手を握り返す力はどんどんと強くなって)

「聞くのが、こわいの。
 まず切れないハサミなんか、砥ぐより新しいのを買った方がいいもの。
 ………、代わりは、いくらでもいるから」

(低い声が鼓膜を揺らす。
 否、直接頭に響くような錯覚まで引き起こす)

「しぬのは、無理。
 目の前で死ぬほど生きたくて、死ぬほど世界を変えたかった人が死ぬのを見たから。
 ………、やり方は間違っていたけれど。

 ちがうの、そうじゃないの───……」

(嗚咽)

「すきなひとと一緒にいたいの」

(笑顔を向ける彼とは対照的に、普段は不敵な表情をぐちゃぐちゃに歪めて。
 ただ、ある意味信仰にも似た依存心は彼女自身の想像以上に強固なものだったようで)

「………、ごめんなさい。あ、と。ありがとう」

(ぐしゃぐしゃの笑顔を浮かべた)

久藤 嵯督 > 口元が釣り上がる様を見れば、苦笑いを返す。

「ああ、説明どうも。お陰様で、お前が自分の置かれた状況について全然理解してないって事が解ったよ。
 『やってなければ』『大丈夫』、心の底からそう信じて疑ってないってんだからな。
 お前も大概、愉快な性格してるじゃあないか。

 小さい頃"交通安全教室"とかやらなかったのか? まともに聞いてそうにも見えないがね。それとも昔は大人しかった?
 こちとら被害が出る前に行動を起こしてんだから当然、そうなる前にこうする。
 だから、何を"しようとしていた"のかを知ればいい。
 モノか、ヒトか、あるいはコトか。その行動に至る因果を余すところ無く洗い出せばいい。
 他のがどうか知らんが、『俺には』可能だ。
 そうすれば、例え走ってるだけでも『未遂行為』だ。動かしたのが"手"か"足"かの違いでしか無い。
 わかるか? お前の気付かないトコで、お前はもう"ヤ"っちまってるのさ」

依然としてその目の矛先は変わらず、黒く曇ってはいるが、黒々としていて逆に淀みが無い。

ヨキ > (自分の与り知らない『トバリ』。
 そして『死ぬほど生きたくて、死ぬほど世界を変えたかった人』。
 暴力的なまでに直截な言葉で引き出したツヅラの心情を、脳裏に一糸ずつ織り上げてゆく。
 現れたタペストリはぞんざいで、粗雑だ。
 その文様に込められた意味をひとつずつ読み解かんとするように、ぽつぽつと言葉を零す)

「…………、そうか。有難う。
 君はさぞかし素敵なひとを好きになったのだな」

(――そうして、一瞥。
 相手へ向けているものとは異なる、冷たい眼差しが路地を見遣る。
 相変わらずやり取りは続いているが――こちらへ近付いてくる気配はない)

(すかさずツヅラの手を掴んだまま、彼女の前へ出る。
 向かい合って、しゃがみ込む。同じ視線の高さで)

「……『よく切れるハサミ』、というのは。
 それは『君自身のすべてを』評してのことか?それとも……『君の異能を』そう呼んだのか。

 もしも異能のみをハサミと評したのならば……力が戻らぬ限り、君はたちまち鈍らとなってしまうだろう。
 けれどももし、……もし、『君自身が』ハサミなのだったとしたら?

 異能が損なわれただけでは君の切れ味が鈍らんことを、誰より彼が知っていてくれたのならば。
 『馬鹿とハサミは使いよう』だ。頭のいい『トバリ君』ならばきっと、……」

(ツヅラの泣き笑い。
 眉を下げて小さく笑う。空いている方の指先で、額を掻く)

「――止そう。
 君のこころの前に、ヨキの言葉はひどく虚ろだ。

 君は素敵だよ。
 君ほどの娘に、強く愛されてみたかった。
 ……君のように、素敵なひとを強く強く愛してみたかった」

(相手の前に跪く。
 額を掻いた方の手がゆるりと伸ばされる。涙に濡れた、ツヅラの目元)

「君の好きな『トバリ君』から答えを聞かん限り、君の苦しみを本当に和らげる薬は、ない。
 ヨキにはその痛みを誤魔化してやることさえ……何も。

 ヨキは、君の砥ぎ石にすらなれん。
 この旧く質の悪い紙に、ただ試し切りを続けるがよい。

 ――紙はハサミに負けるもの、と相場が決まっているでな」

(人差し指が、ツヅラの涙を掬い取って拭う)

薄野ツヅラ > (路地裏の真正面、その大通りは)

「げはは!これ以上ないほどにオメデてェ奴だな!
 何処まででも引っ張ってけよ。ブタ箱?それとも風紀委員会の本部様?
 こンなところでクダンネー話をしてるよりはよっぽど建設的だろうよ!
 
 難儀なこったなあ、フーキイインもこんな奴を纏めなきゃいけないなんてなァ!
 落第街よりシンジンキョーイクに力を入れるべきだねこりゃア!
 フーキイインさんは新人サンかどうかもしらねェけど大変そうだァ」

(下卑た笑い声とともに。
 首に巻かれた蜘蛛の糸は未だ掛かったまま。困ったように首を横に振った)


(そして、───路地裏)

(目の前に唐突に浮かんだ金色に緋色の両の目を大きく開く。
 彼の言葉を聞けば、自信満々に「ボクが好きになったんだもの」、と笑み)

「………、それは、聞いてなかった、かも。
 其の時はハサミでも好きって言ってもらえたのがうれしくて、その」

「でも、異能が便利なのも間違いなくて、トバリが欲しがったものそのもので」

(未練か。それとも後悔か。未だ失った異能に、嘗ての栄光に縋るように)

「好きじゃなくても。そばに、置いてくれるだけでいいから。
 ……、聞いてみても、いいかも、しれない」

(降る彼の言葉にまた目を見開いて、困ったように笑った)

「ボクは素敵なんかじゃない。
 この手だってさっきの銃で人を撃ったし、何人もの人間を貶めた。
 それに、誰かに依存しないと生きていけない、から。
 誰かに其処に居てもいい、って言われないとダメ、だから。
 自分で自分の場所を作るのはだれよりも、だれよりも下手くそだから。
 ステキなんて言葉、いわないでよ」

「もっといいひと、たくさんいるだろうから」

(薄く、曖昧に笑った)

「………、ありがとう、センセ。
 初対面のボクに、そんな言葉を掛けてくれるセンセイの方が。
 よーっぽど素敵だと思うわぁ」

(涙を拭われれば、何処か気恥ずかしそうに顔を背けた)

久藤 嵯督 > 「フン……珍しく良い事ことを言ったな。ともあれそれなら話が早い、来な。
 お前にはまず、最寄の留置所に入って貰おうか」

それから糸は解かぬまま、目的の場所へ向かって消えていく。
宣言通りの留置所へ彼を送る事となるだろう。

ヨキ > 「……だろう?
 落ち着いてみれば、思いも寄らぬ道が見えてくるものさ。
 そのやり方はヨキが授けるものでなく、君が見つけるものであるから。
 ――やって御覧、としか、言えんのさ」

(自分を卑下するような、ツヅラの言葉。
 止め処なく溢れる彼女の台詞を、今はまだ否定する根拠を持っていない。
 笑うことでしか、制止の意を示すことが出来ない)

「下を見ていると、キリがないものだ。
 ヨキはまだ、君のことをよくは知らん。
 ……それでもたった今、ひとたび垣間見た君の姿が素敵であったからだ。
 いつ誰が欠けるとも知れない我々のうちで、言わずに悔いることはしたくない。

 その時どきで君より魅力的に映る女性は、溢るるほどに居るだろう。
 だが今だけは、他の誰より君が好いと思った」

(顔を背けられると、小さく喉を鳴らして笑う)

「ヨキはこの島の人間で、教師だ。
 君がヨキにとって、そして誰より『トバリ君』にとっても、掛け替えのないひとりであることを信じていたい。

 ……君の名前を、教えてくれるか。
 『朱堂君の隣』でも、『トバリ君の後ろ』でもない――『ヨキの目の前』に居る君の名を。

 どうやら……騒々しさからも、うまく逃げ果せたようであるから。
 今の隙に、ヨキが君を連れ出そう」

薄野ツヅラ > 「………あッは」

(特徴的な笑い声が零れて落ちた。
 それは普段通りの自分に無理矢理戻すように、スイッチを深く押し込むように。
 オオカミ少女は、天邪鬼な彼女はまた嘘の毛皮を着こむのだ)

「──、努力しないこともないわあ。
 仕方ない、じゃないけれど。それでボクが得をするならやらないのは損だから」

(笑うヨキを見遣る。緋色は真っ直ぐに金色を捉え、前よりもずっと赤赤と燃やして)

「こんな落ちた街で好んで生活してるのよぉ?
 低いところしか見てないわあ、ずっとずっと下に誰かがいるのはそれはもう安心するもの。
 そう言って貰えるならよかったわあ。

 ───……、すきなひとからいわれたいことばではあるけども。
 嬉しくない、って言ったらうそになる」

(名を問われれば。ぼんやりゆらりと視線を這わせて)

「肩書は公安委員会第二特別教室調査部別室所属。
 それ以外なら、────」

(暫しの逡巡を挟んで、思い悩んだ末に)

「薄野廿楽。学籍は2年、にあった筈。
 落第スレスレのこの街にピッタリな一般生徒よぉ」

(かつり、音を立てて杖に体重を掛け乍ら立ち上がる。
 夜色の天蓋に瞬く星をちらり見上げ、また視線を落ちた街と彼に戻して)

「ドーモ。
 ありがとう、とだけは言っておくわあ」

(真っ赤に泣き腫らした両目を見なかった振りをして。
 ただ、皮肉気に。不敵に、不遜に笑った)

ご案内:「路地裏」から久藤 嵯督さんが去りました。<補足:【乱入歓迎】表情を一切崩さない白髪の男。刃のような目付き。中肉中背。学園の制服に、風紀委員の腕章を付けている。>
ヨキ > (相手を柔らかく見つめる眼差しの奥。
 見定めるかのような視線が、『薄野廿楽』の繕われてゆく様子を見ていた。
 澄んだ紅玉に火が点る――例えその火が、さめざめと虚ろでも)

「…………、判るだろう。このヨキが誰しもに平等であり、誰もの深みには嵌まらぬことが。
 こうして誰もに甘え、甘えさせ、懐き、噛み付くほかには生き方を知らん」

(跪いたまま、立ち上がるツヅラを見上げる。
 遅れて自分も立ち、さながら公安委員会のためにこそ存在し得るような、不敵な笑みを見る)

「どう致しまして、薄野君。
 ――朱堂君にも、よろしく伝えておいてくれたまえ。
 『君の部下を、ヨキが大層気に入った』……とな」

(そこまで言うと、楽しげにくつくつと笑い出す)

「好かれなくとも、ヨキは君の味方だ。
 便利な犬が居ることを、心の隅に留めておくがいい」

(やがて路地の中を歩き出し、分かれ道まで共に。
 去り際に『ではな』と一言だけ手を掲げ――

 あとは落第街の一日らしく、振り返りもせずに帰路へ着く)

ご案内:「路地裏」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、鋼の首輪、黒Tシャツ、モスグリーンのカーゴパンツ、革の突っ掛けサンダル、シルバーネックレスとバングルとリング>
薄野ツヅラ > 「……、そういう意味では似た者同士なのかも───。
 いや、其れはない、か。ボクよりよっぽど自分があるし尚且つ居場所を作ってやれる」

(先刻言われた言葉を反芻して、ただ)

「あの人には先生の方から言ってほしいのだけれどぉ、
 どう考えたってボクが言うのはお門違い、ってヤツじゃあないかしらあ」

(憎まれ口を叩きながら、「考えとくわあ」と。実に楽しげに笑った)



(────、)

(別れた道を少し行った先にあるのは大きなホテル。
 落第街に存在するには中々に高級感の漂う西洋風の建物の生活感漂う最上階で)

「でも。なくしたものはもとにはもどらないから。
 だから、どうしようもないのはわかってるけど」

「ひとの気持ちが、解らないのは────」

(ダブルサイズのベッドにぽふり、顔を埋めて)


「こわい」


(ぽつり、零れて落ちた)

ご案内:「路地裏」から薄野ツヅラさんが去りました。<補足:【乱入歓迎】赤いジャージにヘッドフォン。右手に金属製の前腕部支持型杖。>