2015/08/27 - 21:59~01:54 のログ
ご案内:「部室棟屋上」にビアトリクスさんが現れました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 シャツ スカート [乱入歓迎]>
ビアトリクス > 部室棟、屋上。夕暮れ時。
天文系の部などに専ら使われているその場所に、折りたたみ椅子とスケッチブックを抱えて訪れる。
今日は涼しくて外のほうがむしろ過ごしやすい。
夏も終わりが近づいているということだろうか。
ビアトリクス > 最近、絵が描けていない。
日課の静物デッサンですらサボりがちになってきた。
『絵が順調ではない』――と、イーリスに指摘されたのは正しい。
広げた椅子に座り、スケッチブックを広げ、鉛筆を手にして、
適当に画用紙の上を走らせる――数分そうして、ページを破く。破棄。
「…………」
別に初めての不調ではない。よくあることだ。焦ったりはしない。
そのうち勝手によくなっている。そういうものだ。
ただ、調子が悪い時でも筆を動かせるようにならなくてはいけない。
本気で芸術を志すなら、不調という言葉で逃げてはいけないのだ。
ビアトリクス > 漫画的デフォルメ表現で蝶々を何匹か描く。
これはただの落描きだ。
何も考えていなくても描ける。
ふと思いついて、ハサミを鞄から取り出し、ちょきちょきと切り取る。
ぱ、と手から放ると、ふよふよと紙の蝶は羽ばたいて、ビアトリクスの頭上を周るように飛ぶ。
数分の間そうした後、ぺしゃりと落ちる。
それをぼけーっと眺めていた。
(ん? 今何をしたんだ? ぼくは)
ビアトリクス > (……まあいいか)
深く考えず、落ちた紙片の蝶を拾い上げてスケッチブックに挟み込んでしまう。
ごろ、と屋上の床の上に身体を横にする。折りたたみ椅子はまくら代わりに。
ぼーっとしていたら眠くなってきてしまった。
『夜の部室棟にはゾンビが徘徊していて夜更かししている生徒を食ってしまう』
なんてあまりにも雑な噂が部室棟で立っていたのを思い出す。
信じてはいないが、少しぐらい微睡む程度なら大丈夫だろう。
ご案内:「部室棟屋上」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた七分袖の白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (珍しく、美術部の様子を見に来ていた。
顧問でもないからには、特に訪れる必要もなかったのだが。
硬質な靴音を立てて、ビアトリクスを見下ろす。
本人はその噂を知らなかったが――少し身奇麗なだけの、ゾンビも同然だ)
「冷えるぞ」
(一言告げて、持っていた膝掛けをビアトリクスの上へ放る。
美術室の備品であることが、タグに小さく描かれている)
ビアトリクス > 「…………あ、どうも」
身を起こし、ひざ掛けを手にして広げる。眠たげに瞬きを幾度か。
部室棟に現れたことには少し驚きはしたが、
ヨキという人物自体には慣れていた。
「……こんにちは、ヨキ先生。
こんなとこで会うとは。見回りか何かですか?」
寝転がったままというのも非礼に思ったのか、
折りたたみ椅子に座り直して、ヨキを見上げてそう尋ねた。
ヨキ > 「やあ、日恵野君。
……そう、見回り。そんなようなものだ」
(ビアトリクスの隣に立ち、フェンス越しに広がる遠景を見遣る。
衣服の長い裾を揺らす風が、どことなく秋めいている)
「先日は邪魔をして済まなかった。
あれから、君のことが気になっていた」
(ビアトリクスを見下ろす。
設えられた灯りが照り返すでもなく、金の瞳が内側から蝋燭に、薄らと光っているように見える)
ビアトリクス > 「いえ。お気になさらず……」
少しの間を置き。
「あれから、ですか……。
……。特に進展はありませんよ」
手持ち無沙汰にスケッチブックをパラパラと捲る。
新しくおろしたばかりなのか、まだ白紙のページが多い。
「いいなりになるつもりもないけど……
どうあの人に向き合っていいものか、わかりかねてて」
フェンスの隙間から、遠く学園地区の景色を眺める。
そよ風に、褪せた金色の髪が揺れる。
ヨキ > (『先日』――日恵野ビアトリクスと永久イーリスの『家族会議』のことだ。
じっとビアトリクスを見下ろしていたのが、やおら地面へ腰を下ろす。
仕立てのよいローブの裾がふわりと広がる。
獣が眠るときのように、足を横へ緩く曲げて投げ出す)
「……君の母親は、魔術師だったな。
君をどこへでも逃がしてやりたいが、どこへでも辿り着きそうな女性だと思った」
(泥濘のようなやり取りを思い出す)
「言いなりにはならないが、どうすればよいか判らない、と。
…………。君、父君はご健在かね?他に親類は」
ビアトリクス > 「父……」
膝掛けを両手の指先でつまむ。
「父はいません、他の親類も。永久イーリスだけがぼくの親族です」
「どこまで本当かわかりませんが……
あの人は次元を自在に渡り歩く魔術師だと聞いています。
おそらくこの世界が出身ではないのでしょう」
ため息。
「できれば相手なんてしたくないし、
逃げられれば逃げたいんですけど――
そうもいかないらしい。やれやれ」
視線は地面へと落とされる。
ヨキ > (親類はいない、という言葉に、そうか、とだけ短く答える)
「次元を、渡り歩く……」
(一瞬の沈黙、)
「逃げられない以上は、従うか、打ち克つかの二択か。
……あるいはこんな会話だって、盗み聞くのも容易かったりするのだろうな。
…………。
決断するのは君ひとりかも知れんが、何もひとりで立ち向かう必要はないだろう?
例えば神宮司君……いや。君の性格からして、巻き込むのは好かなさそうだ」
(傍らの、スケッチブックを一瞥する)
「……絵のほかに、気晴らしの方法はあるのか?」
ビアトリクス > 「監視していない……とは言い切れませんね。
まあ……逐一盗み聞きするほど、暇ではない……と、思いたいところですが」
鉛筆をくるくると指で回す。
「ちはやですか……。
彼にもその提案はされましたが――
ちはやとあの人を対面させたくない、というのが正直なところです」
こうべを横に振った。
「でも、そんなに悲観することばかりではなくて。
常世学園で過ごして、いろいろ学んで……
少しは自分のことも客観的に見れるようになりました。
だから――少しは、あの人のことがわかるような気がします。
どうしてぼくにこんな仕打ちをするのか――というのが。
わかったからといって、何ができる、というわけでもないんですけど」
横顔で、かすかな笑みを浮かべて見せる。
気晴らしについての問に、ヨキのほうを向いて両腕を広げる。
「この通り――女性の格好をすることでしょうか。
あんまり、普通の人のするような、楽しみ方というのは知らなくて。
そういえば、ヨキ先生のその服装も――趣味ですか?」
ヨキ > 「……賢明だな。
神宮司君のことをそれほど深くは知らないが……彼はきっと、一生懸命に過ぎるから」
(ビアトリクスの言葉に、ゆったりとした微笑みを向けて耳を傾ける。
両手を後ろに突いて上体を弛緩させ、折り畳み椅子に腰掛けたビアトリクスを見上げる)
「少しは……判ってきたか。母親というものが。
……閉ざされた世界、というものは、毒だ。
二人きりであるならば、余計に。
視野を広げるがいい。アンテナを高く立てて……外を見るがいい。
たとえ解決しなくとも、打ち克てなくとも、どうにもならない物事をやり過ごす方法は、ある。
……こんな後ろ向きの『進み方』も、人間ならではと思っている」
(異性の服装を纏うことについて、向ける目には特に奇異は含まれない。
ごく自然に答えながら、尋ねられて片足を持ち上げる。
男にしては細く、女にしては骨太の、獣の後肢)
「君のその服装、よく似合うものだと思っていたよ。
ヨキのこうした服装も……まあ、趣味だ。
異邦人街に、腕のよい仕立屋が居てな」
(腕を持ち上げる。布地に覆われた手を、表裏と引っ繰り返す)
「……一昔も前には、ヨキは人間の姿をしていなかった。
永いこと、衣服など身に着けたことがなかったからな。
毛皮がなくなった所為か……落ち着くんだ。こうして身体を締め付けることがね」
ビアトリクス > 「打ち克てなくても、いい――」
漠たる表情で呟くように言う。
「……そうか、勝てなくてもいい、のか」
破壊の術――《色葬環》。
それは《トロンプ・ルイユ》を打ち砕くために修練された万能の攻撃だった。
しかし、きっとこれも、イーリスには通用しないだろう。
だから克つことはできない、何も出来ない――そう諦めていた。
「最初は、似合うからとかじゃなくて……
もう少し消極的な理由から始めたのですけど。
今は案外似合うことがわかってきて、楽しくなってきたところです。
……ああ、違うな。楽しんでもいいんだな、ってわかったんです」
並の人間からはズレた、その肢を穏やかな目つきで観察する。
「抱きしめられることも、締め付けられることも……
程度がちょうどよければ、心地いいものですね。
あの人は、肌が青くなるまで縛り付けることしかできないらしいけど」
スケッチブックを開き、鉛筆を走らせて、アタリを取る。
おそらくは――この屋上の風景を描こうとしている。
ヨキ > 「――どうにもならないことは、どうにかせずともよい。
もうどうしようもない、と思ったときには、大体その判断は正しい」
(ビアトリクスの言葉を、スケッチブックに向かう手を邪魔せぬように、穏やかな声をぽつぽつと響かせる)
「逃げるがいい。母親から。その束縛から。逃げることは敗北ではない。
そして――逃げる、ということは、ただ物理的な場所や距離を引き離すだけではない。
……君の心が逃げ込める場所を作っておけ。ヒトでも、モノでも、趣味でもいい……
次元を渡る魔法使いも、遠く逃げ去った心には追い付けない」
(『楽しんでもいいんだ』、と。その言葉に、目を伏せて笑う)
「……そうだ。楽しんでしまうがいい。母親以外の、何もかもを。
母親をよそに、君の心がはるか明るい場所に在るとき……君はひたすらに、自由だ。
どこまでも暗く深い淀みは、眩さに紛らせてしまえ。
覗き込めなくとも……本当の意味で、蓋など出来なくとも」
(ビアトリクスが鉛筆を動かすのを、幸せそうに見る。
まるで自分までもが、その紙の上に絵を描いているように)
「――かつてヨキは、そうして助けられた。人間に。芸術に」
ビアトリクス > 「…………」
ヨキ教諭の言葉を聴きながら、鉛筆を動かしながら――
唐突に理解する。飛躍の踏み台に、足がかかる。
(そうか――)
(キャンバスや画用紙に描くのは、目にうつったモチーフや風景だけではない)
(“それを見る自分自身”も――絵のなかにあるんだ)
画用紙に屋上の風景が姿を現し――
さらにその上に書込みを加えた。
コツ、コツ、タン!
革靴のかかととつま先で、硬い地面を叩いた。
アスファルトがやわらかい土に変わる。
青々とした草がその上を覆う。地面の隙間から、色とりどりの花が芽吹く。
薔薇の蔦が、柵を這って天を目指した。
そのいずれにも鉛筆の描きむらが見える。
スケッチブックのページの隙間から紙の蝶が逃げ出して、庭園に舞った。
日の落ちた部室棟で、そこだけが明るい。
「……こんな感じですか?」
屈みこんで、咲く幻の白い花――月見草を一輪摘んで、立ち上がる。
それを、口元に持って微笑む。
幻の草花の庭に――悠然と佇んでいる。
ヨキ > (――不意に、髪が夜気とは異なる風に揺れる。
眼前を掠めてゆく蝶に顔を上げて、目を瞠る。
瑞々しい花々。土の柔らかさ。明るみを帯びた空。
ビアトリクス自身の垣根を飛び越え、そこから大きく開けたような――)
(光がそこに)
「………………、」
(驚きに開かれていた唇が、やがて笑みに変わる。
その両手がゆっくりと持ち上がり――ビアトリクスへ、自然と拍手を向けた。
手袋に包まれた手の、くぐもって、それでいて確かな賛辞の音)
「よろしい、日恵野君。
よくぞ理解した」
(ビアトリクスの後から立ち上がり、土を踏み締める。
向かい合い、冗談めかして小首を傾げる)
「……『9点』だ。
最後の1点は、自分で見つけたまえ」
(風が吹く。緩やかに広がるローブの袖口を揺らして、両手を広げる)
「君が――これだけのものを描き上げた。
十分すぎるほど、評価に値する」
(それは、日恵野ビアトリクスに与える『二回目』の講評だった。
向かい合った顔は、ただ優しい)
ビアトリクス > 花を、ぱっと手放す。
一陣の強い風とともに、月見草は空へと舞い上がり、
それとともにイメージは揮発し、瞬きする間に幻の庭園は掻き消えて、もとの屋上の夕闇を取り戻す。
ぱたぱたとスケッチブックのページが風でめくられ、紙の蝶はそれに吸い込まれるようにして収まった。
楽しむということ。絵を描くということ。
自分の望みが、ようやく形を得ることをはじめた。
強固な石の檻の隙間から、草花の芽吹くように。
「……ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げる。
膝掛けを返却し、椅子を折りたたみ、抱える。
「残りの一点は――ゆっくり探すことにしますよ。
すぐ見つけてしまっては、面白くもありませんからね」
不敵にそう言って、それではまた、と、屋上を後にする。
ご案内:「部室棟屋上」からビアトリクスさんが去りました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 女子制服 [乱入歓迎]>
ヨキ > (明るい風景が消えてゆく。視界が薄暗い屋上に立ち戻る――
が、未だあの明るみが瞼の裏に焼き付いているかのように、深く瞬く)
「……どう致しまして。
最後の一点ほど、大きなものはないぞ。それだけに……
見つけたときの喜びは元より、それも探す日々もまた、君にとってはきっと尊い」
(ビアトリクスに笑い返す。
去ってゆく小柄な背を、柔らかな眼差しで見つめる)
(――そうして、ひとり屋上に佇む。
唇を結んで、目を伏せる)
「………………、それでよい。
みな飛び立ってゆく――
この地の底から」
ご案内:「部室棟屋上」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた七分袖の白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>