2015/08/28 - 21:49~04:25 のログ
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた七分袖の白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (夜の屋上。巡回を行った者の特権という訳で、公園の方角で行われている花火を見ていた。
見ればフェンス越しの景色にスマートフォンを翳している。
どうやらビデオ通話を使って、通話相手に花火を見せているらしい)
「ほう、けっこうでか……うん?
でかいな。あれは本当に花火か?
またどこかの委員会で襲撃でもされているのではあるまいか」
(ひとつは龍と、もうひとつは太陽と。
打ち上がった光がいやに大きく見えて、首を傾げた)
ヨキ > 「まあいい。見えたか?」
(スマートフォンに向き合う。
画面に映っているのは、本土であれば就学して間もない頃であろう、幼い顔立ちの少年だった。
ベッドに寝かしつけられた彼の、体調のよいときにはヨキが絵画教室で面倒を見ている。
その子もまた普通学級と特別支援学級――『たちばな学級』への編入を案じられているひとりだ。
大きな音が苦手で、花火を見たことがないと聞いていた。緊張が高まると、異能が暴走しやすいとも。
柔和な顔がけたけたと笑っているのを見て、つられてヨキも笑う)
「そうか。そうかあ。楽しかったか。うん。ヨキも楽しい。
ほれ、今日はもう寝るがいいぞ……うん?
はは。だめ。起きてていいのは今日だけだ。
また学校でな。うん。うん……わかった。おやすみ」
(まるで自分の子のように笑い掛ける。指先で小さく手を振って挨拶とし、通話を切る)
「………………、」
(息をつく)
ヨキ > (ぽりぽりと頭を掻く)
「……風紀委員はまたも襲われたというし。
バロム・シインの出所も早まったというし。
全く、みな何を考えておるのだ……安寧はないのかこの島は」
(現に先ほどの花火を上げたのは他ならぬバロム・ベルフォーゼ・シインで、図書館の禁書庫では今しがた破壊が行われたところだった。
それらの顛末を今は知ることもなく、難しい顔でぶつくさと文句を垂れながらスマートフォンを弄っている)
ご案内:「屋上」に梧桐律さんが現れました。<補足:古色蒼然たるヴァイオリンを持つ赤髪の少年。その瞳は焔のように蒼く燃えて。>
梧桐律 > 祝祭の夜だった。
夏もしだいに終わりへと近づきつつある。
夜天には大輪の花が咲いて、誰もが空を見上げていた。
だからと言ってサボっていい理由はどこにもない。
静かな場所を探し、教室棟のあたりをあてどなく彷徨っていた。
屋上へ続く扉を開け放つ。
「―――ん」
先客がいた。見覚えのある顔だった。
ヨキ > (もう一度頭を掻く)
「まあ、よい。襲撃など風邪のようなものだ。
風紀や公安がきちんと仕事をこなす限り、ヨキの関知するところではない……」
(スマートフォンの画面を閉じる。懐に仕舞い込む。
振り返って、手近なベンチに向かおうとして――)
(少年と目が合う。絵に描いたような真紅の髪。
眼鏡を押し上げる。その顔を見定めようと目を凝らして、声を掛ける)
「……やあ、こんばんは。楽器の練習かね?」
梧桐律 > 見られて困る顔でもないが、この教師だけは別だ。
劇団との縁が深すぎる。
何より死人が化けて出たんだ。
俺なら白目を向いて仰け反ってるところだが。
「ああ、こんばんは。余所に行った方がいいだろうか」
長身の教師を見上げて、眼鏡の奥の瞳を目にして思い出す。
「そうだ、譜面台―――」
依頼してしばらく経ってる。もうとっくに出来ているはずだ。
悪いことをしたな。
何かと立てこんでいたとはいえ、それはこちらの事情だ。
第一、このことを「俺」は知らないはず。
どう言い繕ったものか。
ヨキ > (何気ない足取り。悠々とした足取りで歩み寄る。
いつもの通りに、生徒と歓談を交わす心算で)
「いや。どうせヨキも暇をして――」
(びく、と肩が強張って足が止まる。
少年が何者であるか、気付いた表情だ。
無理もない。脳裏に焼き付いた『劇団』のカーテンコール。
その『伴奏者』として現れた彼。故人として知られた――
梧桐律。
けれどもこの男の困惑は、少年の言葉によってすぐに払われたものらしい)
「……『譜面台』。
ちょうど連絡を入れようと思っていた。
それを知っているということは――
君、……『本物』か?」
(少女にして少年のような物言いの奇神萱。
彼女に襲われたことで知られる梧桐律。
偽者の『伴奏者』とは遊んでやれ、と言われていたヨキ。
自分に譜面台を頼んだのは奇神萱――
すべては憶測に過ぎない。
それでいて何らか確信を得たように、にやりと尋ねる)
梧桐律 > 「しばらく前の話になる」
『橘』で会って以来だ。死ぬほど暑い日だったのを憶えている。
『バスク奇想曲』。『ジャマイカン・ルンバ』。
それから、『ただ憧れを知るものだけが』。あの日は三曲演った。
「似たような道具を抱えた女に頼まれたものがあったはずだ」
「俺でよければ代わりに受け取っておく」
「あいつはもうここにはいない。始末がついたんだ」
「……取りにいけなくなってすまないと言っていたよ」
にやりと笑うと猟犬めいた精悍さが増して見える。
「本物も偽物もないさ」
「鳥たちは飛び立っていった。もう二度と戻らない」
「俺は梧桐律。ただの梧桐律だ。地獄めぐりを終えてきた」
軽口を叩いて笑い返す。
あの日、劇場跡で見たものの答えを俺はまだ知らない。
問いかけるなら今しかなさそうだ。
「『脚本家』に会ったな。どうしてた?」
ヨキ > 「……『俺でよければ』。さあ、どうしたものかな。
『伴奏者』をどこかで見かけたら、そいつは偽者――
遊んでやってくれ、と言われていたよ。
『奇神君』からな」
(奇神萱と当然ながら異なる声をして、しかして同じ語り口。
視線の動き。身振り手振りに小さな身じろぎ。
そのひとつひとつを『記憶の中の奇神萱』と重ねるように、じっと見る)
「譜面台はこのすぐ真下……準備室に置いてある。
悪いがこちらも職人の端くれだ。
事情を曖昧にしたまま『受取人』を変える訳にはいかない。
詳しく教えてもらおうか。
君と奇神君は、互いに何者だったかを。
どちらが誰で――誰が誰を装っていたのかを」
(『脚本家』の名前を聞くと、小さく笑って)
「…………。彼女から、ヨキのことを聞きでもしたか?
劇場跡で、一条君に会ったよ。真面目な娘だと思った。
彼女とまた会うことを楽しみにしているのだが……一向に姿を見んでな」
梧桐律 > 「何も。材料はあったが、確証は無かった」
「バカとナントカは紙一重だ。あいつはそういう奴だった。ロマンチストの夢想家だ」
「その後のことは知らないのか? あいにく俺も会ってないんだが」
断片的に聞こえてくる情報もあるにはある。与太話の類だ。
判断を保留している話を持ち出すのは軽率に過ぎると俺は思う。
「はは、一本とられたな。知りたがりは相変わらずか」
「俺には関係のないことだ。『伴奏者』はもう二度と現れない」
梧桐律と奇神萱の関係性。
演じたものと演じられたものの間柄とは。
この教師、一体どこまで察しているのだろう。
「ここから先はたとえ話だ」
「俺はあいつに殺された。被害者と加害者だ。その関係は変わらない」
「地獄は現世とそっくりな場所だった」
「ただひとつ違うのは、俺にはもう自前の身体が無かったってことだけだ」
「だから、空いてる身体を借りた。そいつの魂は空っぽだったのさ」
「一方、そいつは別の身体を使ってた。過保護な親父が大枚はたいて用意した特注品だ」
「娘の人生の汚点を塗り潰すためなら何でもやる勢いだった」
「今のご時勢、カネさえ積めば喜んで人格転写をやるやつもいる」
「その手の摘出処置を施された人体は、傍目には廃人と変わらなくなる」
「別の身体に乗り換えて、ほとぼりが冷めるまで待てば罪を免れるはずだった」
ヨキ > 「このヨキは何かと目立つでな。
それに相手がフェニーチェの『脚本家』とくれば、知られていてもおかしくはない。
……その後は、いいや。次は彼女に『授業』でもしてやろうかと思っていてな。
だが彼女は言っていた、『会うのが遅すぎた』と。まるで死出の門出だったよ」
(律の言葉に、ふっと笑って)
「犬が人間の仕事をしてるんだ。
融通が利かないのは当たり前だろう?」
(続く語りを聞きながら、手近なベンチに腰掛ける。
その隣へ相手を招きながら、ふむ、と黙して思案する)
「君……梧桐律は本当に死んだ。冥府を経て――別人の身体を借りて、現世に舞い戻った。
人を殺した奇神萱は……また別の第三者、別人になりすまして罪が薄れるのを待とうとしていた、と。
ふむ。胸糞悪い話だな」
(『胸糞悪い』と評しつつ、話を止めることはしなかった。『続けてくれ』と顎で促す)
梧桐律 > 「お互い気があっただろうな。はは。そんなこと言ってたか。残念だ」
犬。何の話だ?
問い返す前に隣に招かれて、とりあえず腰かける。
「親父の意志だ。たぶん、それだけじゃない」
「あいつは……俺が舞台に立ってるところを眺めるのが好きだったのさ」
「パトロンの中でも特に熱をあげてた。あいつは不死鳥の劇団が終わることを、断じて認めなかった」
「俺がいなければ最終公演も始まらない。不死鳥は終わらない」
「だから刺したんだとさ。人殺しに理屈なんて無い。だが、ことの成り行きは知っての通りだ」
知っての通り。最終公演は止まらなかった。
「劇団はあいつの妄想に付き合わなかった。俺が行方知れずでも、音楽が無くたって平気で演った」
「昔の録音の中にも使えそうな奴はいくらかあったからな」
「団長は死に、最終公演は滞りなく終わった。不死鳥は予定通り、その夜に死んだ」
続きはここからだ。頷いて、本人の話から言葉を順序だてて並べなおす。
「当てが外れたわけだ。言っちゃ何だが、俺はまるっきり無駄死にだった」
「取り返しのつかないことをした。俺の音楽と全存在は、この世から永遠に失われた」
「それで狂ったのさ。あいつは俺がいない事も認めようとしなかった」
「予備の身体には俺の遺伝情報が使われた。強烈な暗示と機械式自動学習の組み合わせ付きだ」
「コピーキャットは自分が『伴奏者』だと思い込んでた。で、元の自分の身体が勝手に目覚めたらどうなる?」
ヨキ > (腰掛け、近くなった律の顔を振り返る。
髪の下で垂れて揺れる犬の耳。
自分の記憶の中に埋もれたフェニーチェの面影を遠く見透かしながら、話に耳を傾ける)
「奇神君……彼女は、遺伝情報、とやらによって君の語り口と立ち居振る舞いを用いていた訳か。
ではヨキが会話を交わしていたのは――“予備の身体に心を移され、『伴奏者』のように振舞っていた”奇神君だったと。
ヨキは自分が二人に増えた経験はないがね……『この目で見て、よく知っている』。
『自己同一性を保ちながらに、目の前で自分と同じ顔をした人物が動き出したら』。
――全く蒼褪めていたな」
(まるで梧桐の目の前に立つヨキ自身が、『誰かの生き写し』であるかのように。
何気ない与太話のように語りながら、梧桐へ向き直る)
「……奇神君が、どれほど心の強い女性であったかは判らないが。
さぞ恐ろしく、肝を冷やしたのではないかね」
梧桐律 > 「ん? 話がこんがらがってきたな」
どう説明したものかと思案しなおす。
当事者でさえよくわかっていないものを伝えることがこんなに難しいとは。
「あいつは『伴奏者』がいない現実も、自分の手で殺した事実も受け入れられなかった」
「父親の提案は渡りに船だったんだ。別人になりきっていれば、目を背けたい現実からも逃げ切れる」
「あいつの選んだ「別人」は、よりにもよって俺だった。現実を真っ向から否定することにしたんだ」
「奴は梧桐律のクローン体を使って、自分が考える『伴奏者』を演じることにした」
「自己暗示で固められた、偽りの『伴奏者』の誕生だ」
「その瞬間には、墓場に埋もれて死んでる梧桐律と、梧桐律のクローンに入った奇神萱。それと奇神萱の抜け殻がいたわけだ」
「抜け殻は抜け殻のままで良かった。心神喪失ってことで無罪放免になれば万々歳だからな」
「だが、話は予想だにしない方向にこじれていく。俺が化けて出て、あいつの抜け殻を拝借したのさ」
「早い話が、外見と中身があべこべに入れ替わっただけだ」
「『崑崙』で死にそうな顔してたのも、『橘』で会ったのも俺だ」
「俺はあいつを演じなかった。奇神萱を名乗りはしたが、それは名前にこだわりがなかったからだ」
「誰の顔でも名前でもいい。とにかく音楽が続けられるなら何でもよかった」
さぞ恐ろしかっただろうな。その通りだ。にべも無く首肯する。
「そういう俺は、あいつから見れば矛盾に満ちた存在だった」
「偽りの『伴奏者』として、あいつが出した結論はこうだ。奇神萱は罪の意識に耐えられず妄想の人格を作り出した」
「そして、梧桐律を継ぐもののように振る舞い、『伴奏者』の全てを奪おうとしているのだ―――と」
「一方的に襲われて、楽器を奪われたことにも説明がつく。あいつは俺の欺瞞を責めてるつもりでいただけだ」
「ずいぶん苦労させられたが、暗示は解けた。あいつは元の身体に戻されて、俺はこの身体をもらった」
「死んだはずの人間がここにいる理由。説明になってるかどうかわからないが、そんなところだ」
ヨキ > 「……悪夢のような話だな。地獄が地獄と恐れられる理由がよく判る」
(手を広げ、肩を竦めてみせる)
「ようやく得心が行ったよ。
君から『遊んでやれ』と言われていた『偽者』は、本当の本当に偽者だった。
……少なくとも遊び方を選ぶのはこのヨキ自身だが、遊び相手を誤りたくはなかったからな」
(梧桐の、少年らしいつくりの肩をぽんと叩く)
「……お帰り、『梧桐君』。
今日こそ本物の君にお目に掛かれたこと、ヨキは嬉しく思う。
『劇団』での君の演奏……素敵だった」
(笑う。ベンチから立ち上がり、少し待っていろ、と相手を制する)
「――譜面台。持ってこよう」
(屋上を後にする。
校舎の構造で言えば、ちょうど自分たちが会話を交わしている真下ほどの部屋)
(言うとおりに、五分と経たずヨキが戻ってくる――
生成のリネンで覆われた品物を手に。
何かの拍子に中身から、かん、と金属の甲高い音が響いたが、それほど重量はないらしい)
梧桐律 > 「返答次第じゃ噛みつかれるところだったわけだ。命拾いしたな」
納得した様子の反応に安堵して、真紅の髪を掻く。
「悪夢の怪物も、もとは普通の人間だ。どこにでもいる引っ込み思案の女子だった」
「あいつ、とことん思いつめるタイプだったからな。俺に恨まれてると思い込んでたんだ」
「元をたどれば劇団の影響だ。違うとは言い切れないだろ? だったらこれは身から出た錆だ」
「過ぎたことはもうどうでもいい。ただ練習の時間が取れることが嬉しい」
賞賛の言葉に笑みを返し、階下に下りていく教師を見送る。
それからしばらくのこと。
かすかな金属音がして、夜空から視線を戻すとヨキ先生が包みを抱えて戻ってきていた。
「―――見てみても?」
ヨキ > 「ヨキの顎は強いぞ。
歳若い少年少女の喉笛など一発だ。
……行き過ぎた岡惚れも考え物だな。
だが奇神君の姿と声、ヨキはそう嫌いじゃなかった。
罪を犯しさえしていなければ、あと十年は待てた」
(これまで律と交わした会話からは予想だにしないような軽口を、平然と口にする。
それもまた、事態が収束したことの証左)
(――やがて品物を手に屋上へ戻り、元のベンチの前まで歩いてくる。
折り畳まれていた金属の猫足がしかと床面に立ち、覆った布に手を掛ける)
「君と――『劇団フェニーチェ』に」
(するりと軽い音を立てて、布を取り払う)
(――銀の支柱に、金色のフレーム)
(まるで額縁のように、フレームの周囲をロカイユめいた曲線の装飾が伝っている。
支柱もまた銀でできた木の枝めいて、無機的な曲面や直線はほとんど見られない。
それでいて全体に傾斜は見られず、真っ直ぐに自立し、開いた楽譜をなだらかに支える平面)
(依頼人曰く、『軽くて小さく畳めて持ち運びに便利なやつ』。
それでいて、晩夏の夜風にはぴくりとも揺れる気配がない)
「……普段は、作品を仕上げるに異能は使わんのだが。
『フェニーチェ』という才能の集まりに敬意を表するに、使わずにはおれなかった」
梧桐律 > 「無理もない。あれで容姿にはずいぶん気を使ったからな。昔の奇神萱とは別人だ」
「奏者の務めとはいえ、髪の手入れには骨が折れた。解放されてほっとしてるところだ」
「これは―――」
尋常の細工ではない。金工の妙などと、一口で言い表すにはあまりにも精緻だった。
さながら生けるが如き装飾の技芸はベルエポックよりもさらに古の華美なる時代を思い起こさせる。
神は細部に宿りたもうと言うが、引いて見ても全体の調和は崩れる様子がない。
「畳めばケースの隅にでも入りそうだ。異能にはこんな使い方もあるのか」
「あんな大ざっぱな頼み方でこれが出てくるとは…ありがたく使わせてもらおう」
「さて、返礼って訳でもないが、何か演ってみるかね」
無銘の楽器を肩にあて、幻の譜面を思い描いて譜面台に向き合う。
「元はアルゼンチンの作曲家フリアン・アギーレのピアノ曲だ」
「ハイフェッツがヴァイオリンとピアノのための譜面に落とした」
「タイトルはHuella。「轍」を意味している。副題は『アルゼンチンの歌』」
過去と未来を貫く、対の轍がどこまでも続いてゆくさまを思う。
弓を、落とす―――。
ヨキ > 「あの見目麗しさは、君の努力の賜物か。
なるほど君は君で、なかなか細やかに気を使っているらしい」
(風に揺れる律の髪を見遣る。
光に乏しい夜空のうちで、なお鮮やかな色。
自作の譜面台への評に、に、と笑う)
「ふふ。君は誰に制作を頼んだと思っているね?
――この常世学園のヨキ、手抜かりは一切罷り成らん。
……もしも使い込んで壊れたならば、いつでも美術室を尋ねるがいい。
手入れはサービスしてやろう」
(不敵な笑み。
少年が流れるように取る弓に、再びベンチへ腰を下ろす。
その腕前は既に疑うべくもなく、よく知っている。
その手さばきが、立ち姿が、身の裏側を引っ掻いて撫で上げ、粟立たせる)
「………………、」
(かつて劇場で幾度となく目の当たりにした、演奏の妙。
もはや煌びやかな猥雑も、胡乱に輝いた才能の主たちの姿も遠く過ぎ去って久しい。
けれど判る。
不死鳥の焔が瞼の裏に遺した残像は、目を開いて今一たび――此処に)
ご案内:「屋上」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた七分袖の白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ご案内:「屋上」から梧桐律さんが去りました。<補足:古色蒼然たるヴァイオリンを持つ赤髪の少年。その瞳は焔のように蒼く燃えて。>