2015/08/31 - 21:00~03:37 のログ
ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。<補足:【乱入不可】人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、鋼の首輪、拘束衣めいた黒ローブ、ベルト付の黒ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (夜。切り立った岩山の上に座る、一頭の巨大な獣の姿がある。
 黒い毛並みに金色の瞳を持つ、大きな犬だ。
 そのぎょろりと剥いた眼差しに金色の焔を湛えている。
 脇腹を大きく裂いた、塞がることのない切り傷もまた同じように陽炎を噴き上げている。

 じろり、じろりと西へ東へ。

 夜空の下、ただ広いばかりの荒野を悠然と――その目は何かを確信したように、『何か』を捜している)

ご案内:「転移荒野」にシインさんが現れました。<補足:黒衣を纏っており、頭には二本の白い角。背には一対の白い翼。尾てい骨からは白い尾を生やしている。>
シイン > 荒野。そこは見渡す限り荒野が広がる場所。
夜の闇の中を一人歩むのは龍人の唯一人。
悪環境下の中で関係がないと言わんばかりか、ハイヒールを履いて進み。
地面に一つの点を残しながら進んでいく。

龍に成り代わってから異常に発達した機能の一つ。
それは嗅覚。生物の匂いを嗅ぎ分けて、特定して判断する。
昨日にあそこまで間近で散々呼吸をしている間に"覚えてしまった"

匂いは彼が路地裏を去ってからも残り、何処までも何処までも。
真っ直ぐに前を向いて追い続けた。

そして見付けたのだ。

切り立った岩山の上に獣の姿を。
足は止まった。そして見上げて彼に向け、笑みを漏らす。

ヨキ > (幽鬼の放つ光が、灯篭のように茫洋として光る。
 居場所を隠すでもなく知らせながら、伏せた地が、纏った空気が熱を孕む。

 やがて荒野を歩む、ひとつの影。

 眼下にその姿を認め、目を細める。笑ったらしい。
 巨躯を揺らして立ち上がり、乾いた咆哮が張り裂ける――

 瘟、という音が、細く長く宙に消える)

「――――、」

(四足が地を蹴る。
 巨獣が、人の視界よりもずっと高い岩山から飛び降りた。

 その重たげと見えた巨躯が、空中でぐるりと軽やかに身を捻る。

 金色の焔の棚引く残像を残して――)


(――次の瞬間にはもう、獣は人の姿を取っていた。
 膝を曲げて着地する。服の袖や裾を彩る金が、しゃらりと涼やかな音を立てた)

「…………。やあ、こんばんは。
 見つけてくれて嬉しいよ、バロム・シイン」

(ひとりの『美術教師』が、ひどく穏やかな調子でにこりと笑う。
 緩やかに背筋を伸ばして、立ち上がる)

シイン > その金色の瞳には見覚えがある。
昨晩に出会った彼の瞳。岩山の上で巨獣となってもそれは変わらず。
そして"匂い"も変わらない。
巨獣が細めた瞳を見せた、どうやら此方に気付いたらしい。

翼を羽撃かせ、空へ上がれば岩山の頂上に上がれるが降りてくるのを待つ。
そう考えている間に彼は岩山を駆けていた。
獣らしく俊敏な動きを見せながら、瞳を瞬かせれば瞬間に彼は人の姿に変わり。

「――ほう。」

と、言葉を漏らした。
一瞬にして変化を可能にしている事に対してだ。

「こんばんは、ヨキ先生。
えぇ、見つけてしまったのですよ。匂いが残ってたのでね。」

自身の鼻をとんとんと叩きつつ指して。
挨拶を交わす。

ヨキ > (棚引いた焔は、幽霊画に似てか細く空へ消える。
 しなを作るような動きで首をひと回しして、シインの元へ歩み寄る。
 薄らと笑って、四本指の足を覆うハイヒールがゆっくりと地を踏む)

「――ありがとう。
 追われるほどには、ヨキを好いてくれたらしい」

(口はぎざぎざとした牙を覗かせながら笑っている。
 目だけは胡乱な光を帯びたまま、じっとシインを見ている。
 その鼻先を、真っ直ぐに)

「機械が――獣の角や皮膚のみならず、生身の器官をも得たか。
 如何なものだね、身体が細胞と神経とに満たされる心地は?」

シイン > 「好くというよりは、問いの答えを言いに来たと。
昨日は暫しの長考で帰らせてしまったから、それも詫びよう。」

すまない、と。
頭は下げずだが、確かに謝罪の言葉は送った。
地面に擦り付いてた尾を浮かせ、背後で静かに揺らし。

「――昨日の問いの一つ目を答えよう。
『違う生き物』とヨキ先生は言ったがそうだ。
私は龍となった。漫画や書物などに出て来る"あの龍"だ。
最も私は、書物上で畫かれてる龍のように巨大ではなく、火は"吐けず"半端者だがな。」

「そしてもう一つの問いに答える。
細胞に神経な――可笑しな話だと思うかもしれないが聞いてくれ。
私の中身は炎だ。白い白い炎。肉体は持たないのだよ。」

彼は証明しようと黒衣の懐から一本のナイフを取り出す。
それを徐ろに自分の頬にあてがい横に大きく切り裂いた。
血は飛び散らず、悲鳴となる声も聞こえず
そこに映し出され聞こえたの、切り裂かれた頬から血液の代わりに溢れ出た白い炎。
くわえて燃え盛る火炎の音だ。

頬を包むようにソレは燃えている。
よく見れば肉などと生物が従来であれば持つ組織も無いと分かるだろう。

ヨキ > 「案ずるな。このヨキに、空費する時間などない。
 詫びる必要もないさ」

(薄く笑みながら、シインが語る『答え』に耳を傾ける。
 言葉とともに取り出されたナイフ、その刃先が頬を裂くのを、かぼちゃか何かが割られるかのような無感動さで見る)

「空っぽの龍……ふ、山車燈籠のようなものか。
 この国の本土の夜祭りを駆ける、美しい光のことさ。
 龍といえば……学園の教師に、巨大な赤龍が居ることくらいしか知らないが」

(徐に左手を伸ばす。
 シインの頬を包む火に手を翳し、その熱を確かめようと)

「……見事なものだな。
 テセウスの船のごとくに機械と化す生きものあらば、
 君のように、生きものを通り越して超常の龍と化す機械も居る訳だ」

シイン > 詫びる必要がないという言葉にありがたい。そう呟いて。


「――中身が灯籠で照らされて、模る形は様々であり。
人であれ、化物であれ、鬼であれ、そして龍であれと種類は豊富。
そんな祭だったかな。
龍は他にも居ますよ、結構身近にね。」

実際に見たことはないが、人伝から聞いたこと程度はある。
空っぽという表現は、灯りのだけしか中身を持たずの意なのだろう。

龍としてこの島で有名なのは巨大な赤龍だが、他にも居るのだ。
"彼女"などが特にそれに該当するが、今は何をしてるのか。

白き炎に包まれた頬は、確かにそれは炎なのだが熱を確かめようとも熱を感じないだろう。
彼の火は燃やす火ではないのだから当然でもある。

「好きでなった訳ではないが、今では感謝もしてる。
なんせ人としての機能を得られたのだから、中身が身体が不思議なものだよ。」

言葉を交わす内に斬り裂かれた頬は修復され、傷一つない状態へと戻った。
戻ると同時に、燃え盛っていた炎も鎮まり、体内へと消えていく。

ヨキ > 「いつか……行かねばならぬと思うよ。外に。
 芸術を人へ説くに、この島は狭すぎる。
 幸いと、ヨキはいかなる罪にも縛られず自由だからな」

(唇を小さく舐める。今日は血の汚れもなく、蒼褪めた肉の色をしている。
 犬のように、ざらついて薄い舌)

「……ヨキもまた、元はただの獣であったよ。
 犬の骨格がねじくれて、人の形を取ったのだ。
 ものを考えるにも、思考は文字で浮かぶようになった。

 人らしい、獣らしい、機械らしいと。
 この姿で生きてきて、ヨキはいずれのようにも評された」

(すいと手を引く。
 その指先が焦げることも、熱されることもないことを確かめて、下ろす)

「だが実際は、そのいずれでもないと――ヨキは思っている。
 機械に生まれ、人を通り越し、紛いものの龍と化した君。

 君がなりたいものは、何だ?」

シイン > 「行けばいいと思いますよ。
なんせ罪に縛られてない者だ。自由に歩めばいい。
芸術に関しては専門外だが、それだけは言えよう。」

自分のように罪に縛られている者でないのだ。
自由の権利は個人個人に所有されている。
なら自由にすればいい、それだけの話。

「ただの獣が…それはまた。
まぁ…私のように機械が龍へと変貌する者が居るのだ。
犬が人になったとしても不思議ではない。」

なんら不思議ではないのだ。
この世界では、何が起きても。

そして彼は語る。
いくつかの生物に評されたこと。
機械らしいとのことは昨日の私が言ったことだろうと推測できる。

ふと、瞳を横へと、手が添えられた方へと映す。
引かれるその手をじっと見据えて。

「私がなりたいもの、そうだな。
その問は昔から、ずっと昔から決まっていてな。

私は"人間"になりたい。ふふっ、可笑しな話かな?笑える話かな?
それでも私は言おう。人間になりたいと。
紛いものの龍であろうとも、私の目指す位置は人間だ。」

ヨキ > (目を伏せる。
 その些細な動きに合わせて、ヨキの匂いが零れる。
 獣の雄と、人間の男と、異国の風合いの香水と。

 先の晩にヨキを印象付けたそれらの匂いに重ねて、今日は新たな気配がある。
 旧い鉄の臭い――それから風化した血、乾き切った錆の臭い。
 まるでこのヨキという男が、丸ごと鉄で拵えられているかのような)

「――人間か。
 いいや。何ら可笑しなことはあるまい。
 人が人でないものに変じることを夢想するように、
 人ならざる者たちが人間を夢見ることも、また。

 人間は魅力的か?バロム・シイン。
 バイナリの律に生き、人殺しの法に携わり、その術を教えてきた君が……
 幻影に惑わされ、罰されて龍と化してなお、憧れを保っていられるほどに?

 人間を、どのような生き物と見るね?
 何が君をそれほどまでに焦がれさせる?
 君が人間に辿り着いたときに、果たしたいことは?」

(目を細めて、晴れやかな笑み。
 人間という語を舌へ上らせるに、その言葉はいよいよ饒舌になった)

シイン > 血。血。血。
この場を充満する匂いだ。
それは自分も持つ匂いではある、幾度の戦場を渡り歩き。
人を異型を殺しに殺して殺し回った。
自らの身に降り掛かった血は、洗い落としても、いくら綺麗に清潔にしても落ちない。
染み付いてるのだ、芯の底まで。

彼もまた同じだ。
血。血。――血で染まっている。
笑みが浮かんだ。
"彼と同じ所を見つけたから"

「あぁ、魅力的だとも。
私は人間をこの世で最も優れて、そして劣っている生き物と見ている。
人間は無力だ。とても弱く脆く儚く。
だが同時に力を持っている。誰よりも強く強大で恐ろしい力を。
矛盾してるかね?いいや違う。

集団で集うことで強く強大になるという話ではない。
各々個人の人間の力のことを言っている。
ヨキ、私はな。
人間の潜在能力に憧れ、そして時に見せる想いの強さに焦がれてるのだ。
例えどんな絶望的な状態だろうと、諦めずに前を向いて立ち向かう人間。
そんな人間が好きで好きで好きで、たまらなく愛おしく憧れる。

こんなにも弱いのに。こんなにも脆いのに、こんなにも儚いのに。
なんて力強いことか。なんて強大なのか。なんて恐ろしいのか。

私は人になり、人の力の境地に辿り着きたい。
何処まで到れるのか。何処まで進めるのか。」

それが私が人間になりたい理由だと、説明したのだ。

ヨキ > (それは外から付着したものでなく――内から自ずと沸き上がる臭いだ。
 その夜は一人も手に掛けていないというのに、ヨキの肌は随分と血腥さが濃かった。

 身じろいだ衣擦れが、そのまま香りを持ちえたかのように。
 微かな布の音の隙間に、あえかに漂う)

「そうか。
 それが君の……人間に憧れる理由か」

(笑う。笑んだ瞼の形に合わせて、目尻に引いた紅が細められる。
 潤んだ唇を開く。微笑みに歪められる肉の音。
 小さな牙が、嘲笑うように)

「残念だったな。
 それじゃあ君は……『本当の人間』へ至る道を、自ら閉ざしてしまった訳だ。

 個の人間は強い。強い人間は集団を作る。
 君の憧れた人間らは、果たして各々が孤独であったか?

 個にして全。それが真なる人間の在りようだ。

 人に紛れずして、いかに人間へ辿り着くつもりだね。
 罪が漱がれるのを待つか?
 惑わされずして潜んでおれば、全く楽に人間を学べたろうに。

 そうして影に身を潜める日々を過ごして――
 君は人間のすべてを見聞きすることが出来るか?」

シイン > 「そうだ。」

短い返事。
憧れる理由について。
非情に短い返事だが、十分な言葉。

「とても残念に思うよ、自ら閉ざしてしまったと同時に。
人になりたいという夢を諦めなければならなくなった。

否、個にして強い人間が集団を作ることになんら問題はない。
個であろうとも強大と言いたいのだ。
個が集団を、集団が次世代に託し、更に強さを磨く。
それもまた一つの人間の強さの境地に至る道。

私を龍にした張本人は言った。
私の時は悠久の時だと。
時間はあるのだ…例え夢を諦めようとも、求めることは許されよう。
全てを見聞きできるかは、はて、ハッキリとはいえないがしてみせよう。」

ヨキ > 「あはッ、」

(両手を広げる。笑いながら、ゆっくりと後ずさる。
 ブーツの底が足を踏むたび、眩い金色の――真鍮の草花が、足元から芽吹いては消える。
 まるでそこかしこ、春に満たされているかのように。
 感情の昂ぶりが、熱を孕んで若葉を芽吹かせるかのように)

「前向きだな、シイン。
 生徒を襲い、病院を襲い……それでいて夢を語るか。

 君が夢を求める先はどこだ。この常世島か?
 君が闇が深すぎると称したこの島で……
 『人間』を見てゆくつもりか?

 ここは未だ産まれ得ぬ島さ。
 闇の深いのは胎の底。

 産まれ出でた暁には、君の求めた人間は輪郭を失っているよ。
 人間もまれびとの境もなく――ただ坩堝の渦巻くままに。
 それがこの島だ。

 ――それで?
 ヨキは金を稼ぎ人間と交わり人間と遊び人間の飯を食って人間を見る。

 悠久のときに任せるにしたって、君のプランは随分と空疎だ。
 何か具体的な計画は立てているのか?『人間を求める』ことの」

シイン > ヨキの動きと光景にを見て。
小さく鼻を鳴らして笑い、懐にしまってた葉巻を取り出す。
滅多に吸わないが、今は吸いたい気分になった。
未だに手に持ってたナイフで、切断面が葉巻に対し垂直となるように切り落とす。
吸うための作業行程を行いながら言葉を紡いでいき。

「それは前向きだとも、私はな。
後ろをもう向かないと決めたのだから、夢を語ることは誰にだって許されるはずだ。」

ナイフは懐へと収納して、ガスライターを手に持ち、葉巻を斜めに持って
ライターから火は付けられ、葉巻は徐々に煙を産む。

「闇が深いこの場所でも、輝きを見せる人は少なくはない。
今暫くは、この場所で見るのも悪くはない。そう私は判断する。」

葉巻の煙は濃く重く、白い煙は夜の闇を塗り潰すかのように。
一度に吸う煙の量は極少量。吐かれる煙もまた然り。

「計画か、最初は考えてたがな、そうだな。
ヨキ。君のように人間を見るのも悪くはないが、私は私のやり方で人間を求めてみよう。」

それは当初の自分が創られた内容とその意味のままに。

「私は人を育てる。人の成長を助けよう。
だが常に手を伸ばすわけではない。時々に手を差し伸べる。
最終的には自力で成長を遂げた人間にするために。

その成長過程から私は人間を求めて、見ていこう。
成長とは人の証。成長とは強さの証にして弱さの証。」

なるべくヨキには煙が掛からぬように配慮をしつつ、煙の味を堪能する。

「ここで昨晩の問いを答えようか。
ヨキ。貴方は落第街の秩序を守れと言った。
あの闇に塗れた世界で、闇の中のルールで守れと。

私はそれを拒否しよう、だが同時に肯定しよう。
私は正義の味方とは程遠いが、私は私なりの手で、秩序を守るとしよう。
一度普通の人生の歩みをやめて、後ろを歩いた者達に手を伸ばして。救いの成長を与えよう。」

ヨキ > (真鍮の花々はすぐに溶けて崩れ、その輪郭を失う。
 ある花は土に消え、ある蔦はヨキの足に絡んで同化し、ある草は血溜まりに変じて大地を塗らす。
 その雫もまた、乾いた大地に呑まれてすぐに見えなくなる)

「人を育てる。
 ふふ、火器の扱いを教えてきた君が?
 何を教えるつもりだね。龍に変じて、龍の叡智でも得たか?

 ……救うがいい、掬い取るがいい。
 それこそ常世に根ざした我らの使命よ。
 教師として、教師から外れたものとして、蒙きを啓くがいい。

 そうして巣食われてしまうがいい、この島に。

 ――道を誤るなよ、バロム・シイン。

 君の与える成長が畸形を生じ、島に在る秩序のそれぞれを侵すときには、
 ヨキは君とこの刃を交えなければならなくなる。……」

(目を細める。まるで文字どおりの、『山車燈篭』を透かし見るように)

「……君がナイフで裂いたその身体。どうなってる。
 皮膚の裏側。そうして骨組み……ただの張り子でもあるまい?
 ヨキはうつくしく形作られたものにこそ興味がある」

シイン > トンっと、まとめて葉巻の灰を地面に落として。
煙を吸いこみ、吐いてと繰り返す。ヨキの足元へと視線を配れば、不可思議な現象を目にしつつ。
特に突っ込むこともせずに、光景を眺めては煙を味わう。


「殺す術だけを、殺す為の道具の扱い方を、殺す為の動き方だけを。
それだけを教えてきたが、なに、それは過去の話。
叡智など関係ない。龍になり得たものなど少ない。

あぁ、救うさ。私のやり方で。
既に存在する秩序にルールに縛られずに。
元教師が教えていこう、その道は険しいがな。

――誤りなどしないさ、何故なら約束をしたからな。」

約束は守られてこそ約束となり、結ばれる。
葉巻を吸いながらも、細められた目を見つめて返し。

「……中身を知りたいか、ヨキ。
ならば既に秩序を変えようと、秩序を犯そうとしている。
眼の前のものに刃を向けるといい。
知りたければ、自らの刃で斬り付けて知るといい。」

ヨキ > 「君の未練は……よほどこの地に根深いらしいな。
 罪を犯した者こそ、犯した地から離れるものかと思っていたが。
 それもまた、常世島が君に植え付けた情か」

(肩を竦める動きで、水平に滑らせた左手に真鍮の葉が芽吹く。
 血管めいた葉脈がどくりと震えて、苔のように手首を覆う。
 身体じゅうに巣食った金気が、皮膚の外側へ染み出しているかのように)

「……さあ、」

(知りたいか、と問われて、小首を傾げて笑ってみせる)

「知りたいと思うが、知ろうとは思わないな。
 ヨキの間合いへ入り込むことのなかった君の――
 中身を切り開いてまで知ろうとは、思わない。
 このヨキが求めるのは……ひたすらに、切り結び交わるような関わりさ。

 芸術が横っ面を叩くみたいに。
 諸刃のつるぎが我々を諸共裂くように。
 清廉な無遠慮を以てして、間合いを詰めるかのような。

 ――人間を知るとは、そういうことさ。

 ヨキと鍔迫り合いを交わさぬ者に、ヨキの刃は閃かない」

シイン > 「コレも全て過去の行いと未練の所為。
未練がましいと言われるのは承知だが、そうさな。
縛られてしまったというべきか、この島に。」

その不可思議な現象は未だに続き、異能の一種かと。
それとは別のナニかだろうか。わからない、この世は未知で満ちている。
葉巻を手から具現化させた白き炎で"呑み込み"
灰以外にはこの場を汚さずぬようにして。

「――なるほどな。」

納得した表情を見せる。最初から刃を向けずに対等に打ち合わない者とは交じらないと。

「それなら機会はまた別の時に。
――僕は貴方の事をまだ知りたい。
知らないことが多すぎるから。
知って知って知り得ることが出来たら、その時は…ふふっ。」

不敵に笑みを見せた。
一人称は代わり、本来のモノへと変わって。

ヨキ > (『縛られた』。その語に深く、にんまりと笑う。
 下卑て見えるほどの喜色を露わにして、同類を見つけたと言わんばかりに)

「そうだ――それでいい。
 人の子が産まれて増えるように、常世の子も縛られ絡め取られてまた増える。
 産めよ、増えよ、地に増えよ。この我が母なる暗黒の奥底に」

(躍るように身を翻し、踵を返す。
 掛け替えのない友を得たと、今にも叫び出すかのように)

「ふふ。そうだ。そうしてヨキの元へ来い。
 ヨキを愛するがいい……バロム・ベルフォーゼ・シイン。
 このはらわたのうちに眠る甘美を、君にも分けてやろう。
 生きものが孕む熱よりなお熱く――君を捕えてみせよう!」

(諸手を広げる。
 その左手の先から、するすると鋼の蔦が伸びる。
 真鍮の金ではなく、冷たい鋼の銀色。

 ――伸びゆく蔦はやがて、一振りの剣の形を取る。

 ヨキの身の丈ほども巨大な、すらりとした片刃の太刀だ。

 日本古来の武具のようなフォルムをして、しかしその柄は異国の剣の護拳に似ていた。
 切っ先が、剣舞のように、指揮棒のように風を切る――)


(刀身が、月の光を捉えて光る)


(――その刃が閃いた次の瞬間にはもう、巨大な太刀は露と消え失せていて。
 この場で会ったときと同じ、巨大な黒い獣が、四足で大地を踏み締めてシインを見ていた。
 襲い掛かるような殺気はなく、夜風の中に、ぐふる、と濁った音の息を吐く)

シイン > 「――これもまた"龍の呪い"というのならば、なんと因果なことか。」

一人静かに呟く言葉。笑みを浮かばせた相手に対して掛けた言葉ではない。
"呪いは最初から" "貴方に引き寄せられた"
言葉を思い出していく。結果として龍となり縛られた事を考えれば、コレもまた一つの呪いなのだろう、と。

何を分けるというのか、何をどうして捕えるというのか。
無言のままに、その場から決して動こうともせずに。結果を見届けるが為に。
強大な太刀を振るうヨキを、瞳に映させた。
手先から伸びた鋼と思わしきモノにより作成された得物。

来るかどうか、思考の矢先には既に太刀は消えていた。
目の前に居たのは、太刀を手に持ち振るうヨキの姿ではなく。
獣としてのヨキの姿。

「――てっきり襲い掛かって来るかと思ったが。」

どうやらその気はないようだ。殺気も感じ取れない。
単に隠してるだけかも知れないが。真相はいかに。

ヨキ > (――その巨躯の黒犬は、ひどく傷付いていた。
 脇腹の傷から、粘り気のある血をばたばたと絶えず流している。
 その赤茶色の血溜まりは、生きものの血液というよりも、錆を溶かし込んだ泥濘のように見える。

 旧い錆の臭いが、一段と濃くなった。

 金色の焔が、渦巻いて脇腹の傷から燃え上がる。
 その傷口から垣間見える骨格は、黒色を帯びていた。
 それは鉄の骨――まさしく金属で出来た肋骨が、鳥籠のように身体を組み立てているのだ。

 シインの頬から噴き上げた火とは違って、その金色は炉のように熱く空気を灼いている。
 毛皮と、獣の皮膚の焦げる臭い。

 しかして流れ落ちる血は乾かず、燃える火は獣を焼き尽くすこともない。

 傷付き続け、灼かれ続ける獣の姿が、そこに在る)

「(――バロム・シイン、)」

(犬の息遣いが、低く響く。
 その喉から発されたものでない、ヨキの声が空気を伝ってシインの耳へ届く)

「(これがヨキだ。
  この姿、君に晒してくれてやる。

  ……覚えていろ。この犬が、君の喉笛を常に狙っていることを)」

(犬の大きな口元が、歪んで嗤ったように見えた)

(――ぐるりと身を返す。
 地を蹴り、荒野の向こうへ風のように消える。
 金色の残像だけを残して、あとは気配さえも残さない)

ご案内:「転移荒野」からヨキさんが去りました。<補足:【乱入不可】人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、鋼の首輪、拘束衣めいた黒ローブ、ベルト付の黒ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
シイン > (……傷)

一目見ただけでもハッキリと分かる。
犬となったヨキはワキ腹に傷を負ってると。
そしてこの鼻に付く錆の臭い。

先までの血の臭いはコレだったのだ。

血とは言えない、鉄その物の臭いに近しいか。
コレが彼の本当の姿か。
金色の焔は熱を帯びており、離れている位置からでも熱さを感じ取れる。
自分とはまた違う、否、自分が異質なだけなのだが。

声が、ヨキの声がハッキリと耳に伝わる。
それは警告にして忠告か。

「覚えていようとも、忘れないさ。」

この"臭い"がヨキを忘れようとしないだろう。
拭えぬ臭いなのだから。

完全にヨキの気配が消えてから、彼は翼を羽撃かせる。
空へと浮かび上がり、空き家へと。

「――有意義な時間だった。」

暇を潰すどころではなかった。とても、とても有意義な時間を過ごせたことに感謝をしながら。
間もなくして、夜の闇へと消えて行った。

ご案内:「転移荒野」からシインさんが去りました。<補足:黒衣を纏っており、頭には二本の白い角。背には一対の白い翼。尾てい骨からは白い尾を生やしている。>