2015/09/01 - 22:01~06:02 のログ
ご案内:「中央駅」に日下部 理沙さんが現れました。<補足:指定の制服を着た茶髪の男子。背中に真っ白な翼が生えている。>
日下部 理沙 > 昼下がりの中央駅。空港からの直通線を経由して、駅に降り立つ数多の人影。
その人影の中に、その少年はいた。
指定の制服を着た、茶髪の少年。
平均的な体躯を持ったその少年……日下部理沙は、服装も含めて、この常世島では珍しくもない外見をしていた。
背中から生えた純白の翼も、この常世島ではそう珍しいものでもない。
列車の昇降口から降りる際、翼をひっかけてすっ転びそうになりながら、理沙は駅のホームに降り立つ。
「ここが常世学園、ですか。なるほど。思ったより人が一杯いますね」
荷物を抱え、御上りさん丸出しといった様子で周囲をきょろきょろ見回しながら、ホームを歩く。
日下部 理沙 > 日下部理沙は新入生である。
書類手続きを済ませ、制服を受け取り、受け取った直後に羽根を伸ばすための穴をあけた。
今までは全部の服にそんなことをしていたが、この常世島は翼が生えている人用の服なども一応あるらしい。
なら、今後は新品の服にいきなり穴をあける必要もなくなるのかもしれないと思うと、自然と足取りも軽くなる。
理沙にとってはそれは喜ばしいことであった。
日下部 理沙 > 翼を出来るだけ縮こませながら、人混みの中を往く。
人混みとは基本的に無縁の暮らしをしていた理沙にとっては歩くことも困難ではあったが、壁伝いにどうにか改札を出ることに成功した。
そのまま、改札前にある案内板を見上げて、ぽつりとつぶやく。
「なるほど」
さっぱりわからなかった。
知らない場所で知らない地名ばかりである。
ご案内:「中央駅」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (島中を巡る鉄道網の、乗り換えの末に中央駅へ降り立つ。
いかにも地元民然とした、迷いのない足取りで改札口を出る。
そのまま自分の目指す先へ、足を向けようとして――
案内板の前に佇む少年の姿に、何となしに目を留めた。
ぴかぴかの制服。
少年の真横から、君、と声を掛ける。
こちらはと言えば、長身に犬の耳、いかにも異邦の服装。
根っからの獣人といった様相をしている)
「もしかして……学園の新入生かね?
どこか行きたいところがあれば、案内するよ」
日下部 理沙 > 声を掛けられて、理沙はようやくそちらを向いた。
目を向けた先にいたのは獣の耳を持った異邦風の男。
心配そうに声をかけてくれるその男に対して、理沙はぺこりと頭を下げる。
「御明察。まさにその通りです、私、新入生の日下部理沙と申します。
よろしければ、学生街とやらにまで案内してはもらえないでしょうか?」
そう、真面目な顔で告げた。
ヨキ > 「ああ、やっぱり。新入生は、後ろから見るとすぐに判るんだ。
ブレザーの尻の辺りが、椅子でスレてテカテカしていないから」
(軽い調子で笑いながら、それじゃあ、と学生街らしい方角を指差す。
その左手にはありふれたスーパーのビニル袋を提げていたが、印刷されたロゴはおよそ地球上のいずれの文字でもなかった)
「日下部君。
常世学園で、美術を教えているヨキと言うよ。どうぞよろしく。
――学生街か。よし、お安い御用だ」
(理沙を先導して、広く整備された街並みをゆったりとした足取りで歩き出す)
「しかし君、見るほど立派な翼をしているな。
海の向こうの……本土から来たのかい。それとも『異界』から?」
日下部 理沙 > 「おお、そんな見分け方が……しかも、美術教諭さんでしたか。なるほど。
改めてよろしくお願いします、ヨキ先生」
ヨキと名乗る教師の見事な観察眼に感嘆の声をあげながら自分の尻をみようと身を理沙は捩る。
しかし、理沙の表情がかわることはない。
かわりに、背中の翼がひょこひょこと動いた。
さりげなくヨキの掲げた異界の文字が印刷されたビニル袋や、街並みに時折現れる見慣れない文字にこれまた視線を奪われながら、ヨキの後をついていく。
整備の行き届いた街並みだが、どれもこれもが外のそれとは似かよりながらも異なっている。
そう、これまた御上りさん丸出しといった様子で街並みをながめていたが、ヨキに尋ねられれば、すぐにそちらをむいて返答した。
「はい、本土の方からきました。関東の北の方です。先生は、どちらから?」
ヨキ > 「ああ。ヨキはこう見えて、いろいろな生徒を迎えては送り出してきたからな。
四年経って、卒業する頃にまた自分の制服を見てごらん。
今日の『パリッと感』が信じられないくらい、クタクタになっているだろうから」
(それもまた楽しみのひとつだ、と笑う。
理沙が街並みを物珍しげに見渡すのに、水を差さぬように口を開く)
「そうかあ、関東の北の方……ところによっては、雪深い土地もあると聞くよ。
ヨキの出は、全くの異世界でな。この日本と似ているようで、少し違うような……そんな山里さ。
けれど、向こうとこちらで気候が似ていたのは助かったな。
……それでは、海に浮かぶ島で暮らすのは初めてかね?
惜しかったな。つい先日、海水浴のシーズンは終わってしまったから……来年を楽しみにするといい」
日下部 理沙 > 「四年後、ですか……なるほど。
私もそうなると、いつかはベテランのヨキ先生に送り出して貰えるのですね」
ヨキに言われて理沙は四年後を想像してみる。
すっかり制服を着こなし、クタクタになったそれを身に着けている自分。
現状では全く想像できない。
せいぜい、背中の穴がちょっと大きくなってボロになった制服の経過が想像できる程度だ。
そう、また想像の世界に沈みそうになったところで、タイミングよくヨキに声を掛けられて、理沙はまたそちらを向く。
「あ、はい。そうです。私も山里出身でして、まさに先生がおっしゃる通りの場所です。
先生とは異世界同士でも、故郷は似た所なのかもしれませんね」
そういいながら、早速またヨキが暮らしていたであろう山里の様子を想像していたが、海の話題を振られればすぐにそちらに切り替わる。
「海。確かに海に四方囲まれているのですからそういった楽しみもありそうですね。
私、泳げませんから基本は眺めることになりそうですけれど、面白そうです」
そして今度はまた、海について思いを馳せる。
山里出身の理沙にとって、海はまさに想像以上の事はあまり出来ない場所だ。
いったことがないわけではないが、馴染みは殆どない。
「先生は海、お好きなんですか?」
ヨキ > 「そうだよ。君も四年後と言わず、来年の今頃には誰かの道案内をしているやも。
今日の日下部君が、ヨキに案内されているようにね」
(感受性の豊からしい少年の様子に、くすくすと楽しげな笑みを零す)
「泳げないというのは……その翼の所為か?
鳥のすべてが、水鳥という訳にも行かんしな。
偶然にも君と同じで、ヨキも泳げなくてな。
そのときには泳げない者同士、海の家でかき氷でも食べよう」
(駅前に長く延びる商店街の交差点も、行き交う車も、風景は日本の本土とさほど変わらない。
地球人も異邦人も、揃って広い交差点の赤信号に立ち止まる)
「海は好きだが……ヨキの異能は、金属を操るものでね。
潮風や海水に、あまり長く身を晒して居られないんだ。
異能と共に暮らすのも、一長一短さ」
日下部 理沙 > 「またしても御明察です、ヨキ先生。その通りです。
この翼のせいで、おおよそ学校で教えてくれる泳ぎ方という奴は全滅でして」
そういって、少し気恥ずかしそうに理沙は頭を掻く。
またこの翼が微妙に水を吸うせいで、浮かぶことも難しいのだ。
大きなスクランブル交差点の前で、ヨキと一緒に立ち止まりながら、ヨキの話を聞く。
道行く人々の中には自分と同じように翼を備えたものもいれば、リザードマンの類もいる。
中にはイカのような面相や、樹木がそのまま歩き出したようなものまでいるが、誰も気に留めることはない。
ここでは、恐らくこれが日常なのだろう。
あまりじろじろ見るのも失礼だと理沙にも流石にわかるが、それでも好奇心が視線を泳がせる。
しかし、だからといってヨキの話を聞いていないわけでもない。
「なるほど、確かに金属と潮風は相性が悪いですものね。
そういうことなら、泳げない同士、海ではカキ氷や焼きそばでも食べながら、ほどほどのところで切り上げてえーと。
山? いやでも……山あるのかなここ」
海がダメなら山というのも大分安直ではある。
ヨキ > 「あは、やっぱりか。したらばかくなる上は、魔術にでも頼るべきだろうかな。
水を避ける方法などがあればよいが……それでも、着衣水泳より難易度が高そうだな。
そう、白くて綺麗だと思っていたんだ。
もしかすると、生えたばかりではなかろうかと思ってな。
身体のパーツが増えたために、この島へやってくる者も居るだろうから」
(理沙が目を留めていたイカ頭が、ヨキの姿を認めて手を振る。
『よーっす、先生』などと軽い口調に、ヨキもまたやあやあと手を振って答える。
かと思えば、本土の人間と変わらぬ風体の少女が、こんにちはあ、と明るく駆けていった。
大きな通りの信号待ちが長いのも、また商業地の宿命だ)
「そうなんだ。その異能がなくとも、ヨキは永く山暮らしだったから……
どちらにせよ、泳げなかったろうがな。ふふ。
ああ、山ももちろん沢山あるとも。
島の南のほうに、『農業区』という広いところがあってなあ。
作物を育ててるだけあって、景観が綺麗なんだ。
島の西側にも、『青垣山』というところがあるが……
そちらはあまり、オススメしないな。拓けていなくて、危険も多いから」
日下部 理沙 > そう指摘されて、理沙はつい驚きで目を見開き、暫く押し黙ってしまった。
その括目以外、表情には相変わらず変化はないが、翼がびくっと大袈裟に動いたほどだ。
理沙からすれば、その指摘はそれほどまでの驚愕に値することだった。
「そこまで……わかるんですか。流石、ベテランですね……ヨキ先生。
これまた、御明察って奴です。私のこれは、生来のものではなく、異能で生えたものなのです。
やっぱり、わかっちゃうものなんですかね」
一瞬でそこまで見抜く教師の慧眼にそう簡単の声を漏らす。
いや、この常世島ではそれこそ、それすらも『珍しくない』のかもしれない。
ようやく青になったスクランブル交差点を進みながら、時折自分にも挨拶してくれるヨキの生徒たちに理沙も頭を下げる。
その度に、翼も合わせてひょこひょこ揺れた。
「もしかして、先生も私みたいに異能で変化したんですか?」
好奇心から、そう問い掛ける。
ヨキ > 「ヨキは異邦人だからな。有翼の知り合いも多いんだ。
生徒らの制服が、長く着られて次第にくたびれてゆくように……
空気に晒され続けた羽毛もまた、何かと塵や埃を含んでゆくものさ。
君の翼は、よほど綺麗だったからな。
たとえば『天使』のような聖なるものであったり……そうでなければ、『生えたて』なのではないかと思ったんだ。
君が何故その翼を持ちえたかまでは、想像する他になかったがね。
大したことじゃあない。
テレビでいろいろな芸能人を観て、カツラや整形を見破れるようになるのと同じさ」
(随分と俗っぽい喩えをしながら、明るく笑う。
この惣菜屋が夕方から安いんだ、とか、ここのCD屋は品揃えがいい、などと、時おりささやかな道案内を挟みながら)
「うん。ヨキも元々は、ただの犬であったからな。
犬といっても、地球の犬とは生態が異なるところも多かったがね。
……ほら、犬や猫やその他の動物というのは、金属とは縁遠いものだろう?
金属に近しくなる、というのは、人間やその文明に近付いてしまうことなんだ。
理屈はどうあれ……ヨキもまた、異能を得たことによって、ここで暮らしている。
君とおんなじさ」
日下部 理沙 > またしても、理沙は感嘆の吐息を漏らしながら、話に聞き入る。
そのヨキの話は、理沙にとってはとても衝撃的な話だった。
自分のそれがそうであると、分かる者には一目で分かる。
それは理沙にとっては喜ばしい事であり、同時に恐ろしい事でもあった。
そう、自分は当たり前のように翼がある者たちからみれば、一目で見破られるということ。
それは、自分を理解して貰うことが容易いことではある。
だが同時に、ここでも……「外」のような扱いを受ける可能性の示唆でもあった。
道案内に簡単に相槌を打ちながらも、理沙の思考はそれで埋め尽くされていた。
だが、まさにそれに答えるかのように……ヨキは自分の素性を話してくれた。
まるで、先回りされているかのようだ。
だからこそ、確かに彼は間違いなくベテランで、間違いなく、教師なのだろう。
そう思えば、理沙もいくらか心のつかえが取れた気がした。
「先生も……異能で、元々の場所を離れたってことなんですね。
ここで暮らすのは、楽しいですか?」
不安を吐露するように、理沙はそう呟いた。
ヨキ > (横目で理沙の顔を見る。そうして、振り返る。
『ここで暮らすのは楽しいか』と。大らかに微笑んで、頷く)
「――もちろん。
この島には、異能や魔術を持つ者も、持たない者も、大勢暮らしている。
望んで島にやって来た者も居れば……意図しない異能の開花に、『望まずと』学園へ入った者も少なくない。
……ここへ来た頃のヨキは、何しろ人間になりたての常識知らずで、異能持ちで、異形の獣人だった。
そんな自分と、似たような境遇の者が少なからず居る、という事実は、大きな支えになったよ。
やはり不安は尽きぬかね、日下部君?」
(そうして、見上げた道路標識に『学生街↑』の表示が現れるころ。
店舗沿いの自動販売機の前に立ち止まり、何か飲むかい、と首を傾げる。
本土と変わらぬ緑茶やコーヒーなどの品揃えから、異邦の発祥と思しき見慣れぬ名前のフルーツジュースまで。
話の合間に、喉を潤そうと。笑って、『どれがいい?』と訪ねる)
日下部 理沙 > 微笑み、そう促してくれるヨキに対して、理沙は、笑わなかった。
表情は、変わらない。
だが瞳だけは微かに揺らして、目を細めて、翼を微かに揺らした。
理沙はあまり彼にあれこれと話してはいない。
ただ黙って、聞いていただけだ。
それでも、ヨキは察してくれた。
まるで若者の懊悩を先読みするかのように、不安の先を想像して、口にしてくれた。
それは、理沙にとって……とても、ありがたいことだった。
かつては、自分もそうであったと。何も憚る事なく言葉にする彼は、確かに教師だった。
「不安は……あります。でも、それはきっと、どこに行っても最初は同じことだと思いますから、大丈夫です。
それに、私は学生ですから。
学生には、頼りになる先生がいますから、大丈夫です」
少しだけ先ほどよりトーンの高い声でそういって、隣に並んでジュースを指差す。
異邦発祥と思しき、読めない字で書かれたジュース。
「私の故郷では、郷に入らば郷に従えという言葉があります。
折角ごちそうになるなら、今は、それにならってみようかと」
ヨキ > (理沙の言葉に、に、と笑う)
「そうそう。それくらいの気楽さで居ればよい。
何しろヨキはお喋りで……学生らの味方であるから。
真面目な相談をしたいなあ、と思ったときや、なんか疲れちゃったなあ、というときにも、
尋ねる候補のひとり、程度にヨキを覚えておいてもらえれば、それで。
静かなカフェも、安いファミレスも、みーんな頭に入っておる」
(可笑しげに笑いながら、自販機に硬貨を入れる。
自分は『国産茶葉使用』と描かれた――どこの国だろう?――緑茶を。
続いて理沙には、彼が示したジュースを。それぞれ買って、相手に手渡す。
海に浮かぶ島となれば、未だ残暑も残るころ。
ひんやりと冷えた缶の蓋を開けて、中身を煽った。
理沙のジュースと言えば、柑橘やトロピカルフルーツのさまざま交じったような……甘酸っぱい、南国の果物の味がする)
「――さて、そこの交差点を過ぎれば、そろそろ学生街だ。
ヨキは日中だいたい職員室か美術室か、あとは教室のいずれかか……
とにかく校舎のどこかに居る。いつでも尋ねてくれたまえよ」
(なあ、と小首を傾げて、また歩き出す。
理沙の目指す目的地、その分かれ道までは同伴するつもりで)
日下部 理沙 > 「ありがとう、ございます」
受け取ったジュースを一口飲む。
刺激的で、少し酸味が強いけれど、嫌ではない。
独特な甘みが丁度良くて、喉越しも爽やかで気持ちいい。
ここに来なければ、これも飲めなかった。
なら、既にそれは最初に一歩としては、上等なのかもしれない。
翼を少し揺らしながら、ヨキの隣から一歩前に踏み出して、理沙は顔を向けた。
「そうさせてもらいます。今日は、ありがとうございました。ヨキ先生。
私の家は、このあたりなので。先生も気軽に遊びにきてください」
そういって、若干ぎこちなく口元を緩めて、分かれ道で手を振る。
早速出会えた、素敵な先生に、まずは感謝と敬意をこめて。
ヨキ > 「どう致しまして。こちらこそ、話に付き合ってくれて有難う。
ヨキもまた、君と知り合えてよかった。
話し相手の増えることは、ヨキにとっても喜ばしいことだから」
(向かい合った相手の顔を見遣り、朗らかに笑い掛ける)
「それじゃあヨキからも、ぜひ邪魔をさせて貰うとしようか。
ではね、日下部君。迷ったら、そこいらの誰かに尋ねるといい――
ここに住む教え子らの、『ほとんど』素直で親切なのが、このヨキの自慢さ」
(中には捻くれ者も居るがね、などと冗談めかす。
それでもその顔は、理沙にとってはまだ見ぬ学生たちに対する信頼が強く表れていた。
振り返したヨキの手には、はじめから指が四本きり。
異形の手が、人間と何ら変わらない仕草で別れを告げる)
ご案内:「中央駅」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
日下部 理沙 > 数時間後。
日下部 理沙 > 手を振って、ヨキと別れた後。
理沙は借りたばかりの下宿に荷物を置いて、ベッドの上に寝転がっていた。
着の身着のまま。制服も脱がず、翼もだらしなく広げて、ぼさっと寝転がっていた。
帰ってから、ずっとこのままだ。
日下部 理沙 > 四本指を振って別れた教師の横顔と、言葉が何度も繰り返される。
『ほとんど』素直で親切。
その言葉が、繰り返される。
『ほとんど』という言葉。
それは当然、『全部』じゃない。
この島にきても、『ほとんど』にしか、なることはない。
日下部 理沙 > 「……外もここも、同じなのかな」
カチカチと時計の秒針だけが規則的に鳴る部屋で、一人呟く。
答えが返る事はなく、それ以上、理沙が何を考えることもない。
ただ、そのまま瞼が落ちるに任せて、最初の夜を過ごす。
枕も匂いも違う部屋でも、眠りに落ちることはできた。
外と、同じように。
ご案内:「中央駅」から日下部 理沙さんが去りました。<補足:指定の制服を着た茶髪の男子。背中に真っ白な翼が生えている。>