2015/09/02 - 22:01~02:32 のログ
ご案内:「浜辺」に倉光はたたさんが現れました。<補足:『策士』Tシャツ 翼状突起 [乱入可]>
倉光はたた > 九月ともなれば海水浴シーズンも終わりである。
夕暮れの浜辺にははたたの他に人の姿もない。
特にあてのあるわけでもない、いつもの探索の果てに辿り着いた。

「うみ……」

ぼーっと水平線の向こうを眺める。
多分来るのは初めてだ。
砂浜に足を踏み出して、

「ぐえっ」

べしゃっと派手に尻餅をついて転んだ。

ご案内:「浜辺」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (波音の合間に、砂を踏む重い足音。気紛れの散歩。
 脱いだブーツを、片方ずつ両手に持った裸足の格好。
 ブーツの中には、畳んだストッキングが押し込められている。
 潮風に衣服の長い布地を躍らせながら、一歩ずつ歩む)

「……――む」

(視界の向こう、白い髪の少女が尻餅を突いたところ。
 会話を交わすには些か遠い距離から、様子を見ながら歩み寄る)

倉光はたた > 靴と足の間に砂が入った。
だいぶ人間としての歩き方に慣れたはたたではあったが、
どうもこの砂浜というのは難しい。
へろへろと立ち上がる。

「うぉーたー……」

Water。
後ろから近づく誰かには気づかず、海へと向けて前進する。
靴に波が被る。

「んっ…………!」
数歩歩いたところで、やわらかい泥がはたたの左足を取る。
はたたは失敗から学ぶこともできる。今度は絶対尻餅をつかない!
ばたばたと腕を動かし、右足を前に出し――
結果として前のめりに海面へと水音を立てて勢い良く着水した。

ヨキ > (少女が起き上がる。
 その動作に、ようやく少女が『他と違うらしい』ことに気付く。
 年の頃にしては、子どものように覚束ない足取り……)

(水音。)

「!」

(ぎゅむ、と砂を踏み、早足でははたに近付く。
 とは言え常に爪先立ちをしているような獣人のこと、その歩調もたかが知れたものだったが)

「大丈夫かね――君?」

(身体を金気に蝕まれ、金属を操るヨキは、もともと海がそれほど得意でない。
 それでも構わず、はたたに向けて手を伸べる。
 足元の砂を、寄せては返す波が浚ってゆく)

倉光はたた > がぼごぼ。息が苦しい。
「…………」
でたらめに手を振り回すと、たまたまヨキの差し伸べた手にぶつかる。
それをつかみ、引っ張り……なんとか起き上がる。
上半身はずぶ濡れになっていた。髪や服から滴り落ちる海水。

「……だいじょうぶ」
無表情にそう応える。開いた口からもだばーと海水が落ちた。
そして首をかしげる。
「どちらさま?」

ヨキ > (はたたの掴んだヨキの腕は、体重を掛けられてもびくともしなかった。
 ずぶ濡れのはたたに問われると、穏やかに笑って口を開く)

「ヨキだ。学園のせんせいをやっている。
 怪我がなくてよかったよ。――君の名前は?」

(はたたとは逆の方向へ、小首を傾げてみせた)

倉光はたた > 「ヨキ」
つかんでいない方の手でヨキを指差す。ついで自分を。
「くらみつ……はたた」
倉光はたた、そう名乗る時――わずかに釈然としない表情を浮かべた。

「がくえん…………せんせい……」
ヨキの発した単語を拾い、噛み含めるように復唱する。
そして、すぐに慌てたようにぱっと手を離してしまう。
べしゃ。
再びの尻餅。
背中で翼状突起が広がる。
ほんの少しだけ警戒を視線に混ぜ、ヨキを見上げる。

ヨキ > 「はたた、」

(瞬く。目の前の顔を、僅かばかり不思議そうに)

「――『倉光はたた』?」

(その発音は、名を知っている者のそれだった)
(かみなり、らいさま、はたたがみ――落雷事故で死んだ女生徒の、皮肉な名)

(逡巡は一瞬。
 ブーツをまとめて小脇に挟んだ格好で、再び転んだはたたへ今一度手を伸ばす)

「……そうだ。ヨキだ。
 何もしやしない。濡れていると風邪を引くぞ。

 『先生』は嫌いか?」

倉光はたた > 名前を復唱されて――さながら教師に責められた生徒のように目を伏せた。
ぷるぷる、と濡れた獣よろしく顔を振って髪についた水滴を払う。

「きらい、ちがう……」

そろそろと手を伸ばし、つかみ……もう一度立ち上がる。
ややおぼつかない足取り。唇をかたく結んでいる。

「わからない……わからないは、こわい」

ヨキ > (たどたどしいはたたの言葉を、余さず拾い上げるように聞く。
 掴まれたはたたの手を柔く握り返して支えながら、笑って頷く)

「わからない。
 そうか。そうだな。判らないものは、こわい」

(中腰になって、はたたの顔を覗き込む)

「ヨキも、倉光君のことは何も判らないよ。
 でもヨキは、君のことを怖いとは思わないな。

 ヨキについて判らないことは、何でも教えてあげる。
 それじゃあダメかい?」

(ヨキからは、はたたを問うことはしなかった。
 低くゆっくりとした声で、穏やかに話す)

倉光はたた > 「こわい、じゃない……」
漠とした表情でヨキの言葉に耳を傾ける。
こわい、そういうふうに思われる可能性がある、という考えが、はたたにはそもそもなかった。

「だめ、じゃない。だいじょうぶ」

問いに応え――背で広がっていた翼状突起が、へにゃりとしおれる。
ついで、じっとヨキを上から下まで観察する。
がくえん。きょうし。ヨキ。いずれもわからない。
なにがわからないか、なにをきいていいかも、わからない。

はたたの視線がある一点で止まる。

「……みみ」
垂れ下がった耳朶がどうにも気になって仕方なかったらしい。
それに触れようと背伸びして手を伸ばした。

ヨキ > 「大丈夫?よかった。
 倉光君にダメって言われたら、ヨキはきっとさみしかったから」

(自分の耳をじっと見る視線に気付く。
 微笑んで、波打ち際から少し離れた砂の上でしゃがみ込む。
 視線の高さが、はたたのそれよりも低くなる)

「耳。
 こういう耳、見たことある?犬の耳だよ。
 何でもよく聞こえるんだ」

(はたたの手が触れるままに、顔を傾けて耳元を相手に向ける。
 ヨキの耳介には、柔らかなヒトの皮膚の感触があり、それでいてハウンド犬の形をしている。
 垂れ下がった耳介の下には、人間の耳と同じ溝や窪みが隠れている)

「倉光君は、犬は好きかね?」

倉光はたた > 「いぬ……」
抱きつくように身を寄せて、
くぼみの形を指でなぞったり、つまんだりこねまわしたりして
無心でヨキの耳に触れる。

「すき……?」
好きか? と、問われ、目をぱちくり。
すき。多分はたたが知っている言葉だ。ぐるぐる、と髪を振り乱す。
焼き切れた脳に検索をかけた。
イノセントな眼を向ける。

「……ん、ん……
 いぬ、おいしい?」
出てきた検索結果がそれ。

ヨキ > (はたたの背をゆったりと抱き止めて、ただじっと触られるままにしている。
 くすぐったい、と小さくくすくす笑う)

「うーん。ヨキが食べた犬は、あんまりおいしくなかったなあ。
 中にはおいしいやつも居るんじゃないかな」

(好き、の語意が判然としないらしい様子に、はたたの澄んだ目を見つめ返す)

「『すき』――そう、好き。
 うれしくて、ふわふわして、気持ちのいいことだ。
 君がそうなっちゃうもの、何かある?」

倉光はたた > 「おいしくない……おいしい……」
よくわからなかった。
少なくともそういう意味できいたわけではない、らしい。

うれしくて、ふわふわして……
「……うう」

少し唸って、やがて言葉を紡ぐ。
「きもちいい……ふわふわ……わからない」
首を振る。顔に浮かぶ感情は薄いが、残念そうにも見えた。

「でも……しらない、こわい、が、なくなる……ことは、……
 良い」
ヨキの耳から手を離して、慌てたようにそう付け足す。

ヨキ > (はたたの反応に、うん、と何事か納得したように微笑む。
 ――次ぐ声が、柔らかみを増す)

「そっか。
 うん。ちょっとずつでいいよ」

(はたたの手が離れると、垂れた耳はへにゃり、ふらふら、と揺れた。
 その先を自分でつまみ上げ、ひらひらと揺らす。
 それじゃあ、と、言葉を変えて、)

「倉光君が、わかる、知ってる、怖くない。そういうひとや、もの。
 何かある?」

倉光はたた > 「…………」

ヨキの横を砂浜を踏みしめて数歩離れる。
再びヨキへと向き、切りそろえられた白い髪の両端をつまみ、
ツーサイドアップの形にした。真剣な表情。

「……ユキヱ。
 さいしょに、しらないを、知ってるにした。すごい」

その名前を出した時は、誇らしさすら見えたが――
言い終えて無表情に俯いてしまう。

「めいわく、だった……たぶん」

ヨキ > 「ゆきえ……」

(特徴的な髪型。
 そのヘアスタイルの『ユキヱ』を、ヨキ自身ひとりだけ知っている)

「……平岡、ユキエ君のことかな」

(衣服の裾をしゅるりと鳴らして、乾いた砂の上に腰を下ろす)

「その『ゆきえ君』がめいわくに思うようなこと……何か、しちゃった?」

(詰問になることを避けて、ぽつぽつと言葉を零す)

倉光はたた > 「……ん」
がくりと頷く。

「…………う」
ユキヱが謹慎処分になった経緯を、はたたは細かく知っているわけではない。
けれどなんとなくは、察していた。

そして、はたたの“家族”が自分に向けた、
怯えるような、恨むような視線。

自分は、いるだけで人になにか害をなすのではないか、と、
そこまで具体的な考えができたわけではない。
ただ、漠然と、言葉にできぬ考えが――自分を、ユキヱから遠ざけていた。

「なにも、してない。
 わからない。わからない。こわい。……」
首をぶるぶると振りながら、弱々しい声で。

ヨキ > 「うん。
 ――『何もしてない』、か」

(はたたの、自らの心情を十分に表すことのできない言葉に目を伏せる)

「『ユキヱ君』は、そうそう君を怖がりはしないと思うけどな……」

(己の強い眼差しを、砂の上に落としたまま、暫しの間言葉を切る。
 沈黙がふっと重みを増す前に――やわらかな眼差しで顔を上げ、左手を持ち上げる。
 手のひらを上に向けて動かさず、はたたを招くように)

「……でも君は、ヨキにも何もしていないよ。
 何もされてないから、ヨキは君が怖くない」

倉光はたた > ちょこちょこと、ヨキへと小さな歩幅で歩み寄る。

「こわく……ない」
繰り返す。
何もされてないから、こわくない。
ヨキの言葉は、複雑なことを理解できないはたたの脳にも染みわたる。
道理であるようにも思えた。

では、なぜ、それでもおそろしい?

「でも、
 はたたは、わたしは……」
ためらうように一度言葉を止める。

「“わたし”が、こわい。
 “わたし”が、わからない……」

両手で顔を覆う。
目を見開いて、即席でできた小さな暗闇を覗きこむ。
そこに“わたし”がいるかのように。

ヨキ > (近くなったはたたの顔を、地面の上から見上げる。
 こわいもの、わからないもの――『わたし』。
 顔を覆うはたたの姿を前に、得心のいった表情を浮かべる……)

(――実際のところ)

(このヨキという男は、『倉光はたた』が死後病院から姿を消した生徒であることを知っていた。
 その姿が、生前のそれと大きく形を違えていることも。
 容姿の変容、ユキヱとの関係。与り知らない事情は別としても――察していた。
 はたたが、そこに在るだけで大きな不自由を抱えていることを)

(立ち上がる。
 はたたの背後から、長い腕を肩に回して包み込まんとする。
 いびつな翼のような、異形の突起ごと)

「そっか。
 君がいちばんわからなくてこわいのは、君のことだったか。
 そうしていると、『君』がどこかに見えるのかな?

 ……でもなあ。
 目を閉じていると、『わたし』は余計にどこかへ行っちゃうんだ。

 ヨキも、それで『こわく』なったことがあるから」

倉光はたた > かすかに身を震わせて、腕に身を委ねる。

「……ヨキも?」
首をかしげて。
覆った手をそろりと除けて、下ろす。
かさかさと、羽根に似た突起が、風に揺れる枯れ枝のように鳴った。

「……ヨキは、どうやって、みつけたの?」
すがるように問うた。

ヨキ > (腕の中のはたたを見下ろす)

「うん。ヨキも。
 自分がわからなくなって、こわくて、ひとりになりたい、って思ってた」

(肩を抱いたまま、思い出すように遠くを見る。
 目を閉じずとも暗闇のような夜が、海に落ちようとしている。
 顔をはたたへ引き戻す)

「『わからなくてもいいよ』、って言ってくれる人が居たからさ。
 ヨキが、自分のことをわかってなくても、それでいいよ、ってね。

 わからなくても、こわくても。
 それでもその人は、ヨキに『いいよ』って言ってくれたんだ」

(小さく、首を傾げる)

「『ユキヱ君』は……、君にそんなようなことを言いはしなかった?」

倉光はたた > 「……、……」
ヨキの言葉をひとつひとつ聞き漏らすまいと、
ゆらゆらと首を揺らしながら、真剣な面持ちで耳を傾ける。

しばらく、波音だけの響く沈黙。
はたたはヨキへと向かいながら、どこか遠く、ここにはいないものを見た。

「わかった」

静かに言う。

「はたたも、ユキヱみたいになる……
 はたたも、いいよ、って言う」

目を瞑る。

「ユキヱは……すごいんだから」

絞りだすように。

意味もわからず、引っ張られるようにして使っていた言葉を――
ほんとうの意味で理解していく。

ヨキ > (はたたの言葉に、静かに耳を傾ける)

「――うん。
 『ユキヱ君』がすごいことを、ヨキはあんまり知らないんだ。

 でもなあ。
 君が『すごい』と思ったことは、多分ずっと『すごい』。

 その『すごい』人と、一緒にいてごらん。
 君の『わからなかったもの』が、きっといっぱい見つかるよ」

(はたたの背後に回り、その両肩に優しく手を置く。
 相手の肩口に顔を寄せて、言葉が組み立てられてゆくのを気長に待つ)

倉光はたた > 「……ん!」
両拳を握る。
肩に置かれた手に、首を倒すようにして首肯。

「はたたは、……わたしは、……きっと……」
その先は、言葉にならず。一度口を閉じて、また開く。

「……おしえてもらう。
 それから、おしえる。
 はたたのことを」

たどたどしい、しかし意思のこもる口調。
とすとすと、ヨキのもとから歩いて離れる。
振り返る。ヨキを凝視して、腰から上を前に曲げた。

「それじゃ!」
そう小さく叫んで、砂浜を駆けて去っていく。
途中で一度べしゃっとまた転んだ。

ご案内:「浜辺」から倉光はたたさんが去りました。<補足:『策士』Tシャツ 翼状突起 [乱入可]>
ヨキ > (頭の零れ落ちそうな首肯の仕草。
 はたたの中で何かが実を結んだらしい様子に、こちらもまた小さく頷く)

「それがいいよ。
 もし……またわからなくなっちゃったときには、ヨキのところへおいで。
 いっしょに考えよう。それが『せんせい』ってやつだから」

(離れゆくはたたを見る。
 短い挨拶の言葉に、空いた手を振り返して答える)

「じゃあな!」

(走ってゆく姿を見届ける。
 その背が見えなくなってから――目を伏せる)

「…………、」

(『それでもいいと言ってくれた人』。
 ヨキにとってのそれは、自分を教師として擁する――

 他ならぬ、常世学園そのものだ)

ご案内:「浜辺」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>